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ルマニア○記/Lumania W○× Record #021

 リドルの補給機をタルクスが引き継いで出撃!

※今回から新しく第一小隊のメンバーになった、ブタ族のタルクスくんの乗るアーマーのデザインが決まりました(^^)

 メインキャラなのに見た目が雑なモブキャラだった、メカニックマンの「リドル」くんのデザインを全身刷新しました!!

第二小隊のギガ・アーマー、ビーグルⅥのデザイン完成!

遅ればせながら、イヌ族の若手パイロットキャラ、コルクとケンスの搭乗する新型(?)の戦闘ロボのイメージ決定!ただしこちらは飛行型で、#021以降の陸戦型仕様とはちょっと異なりますw


 #021


  Part1


 超弩級の大型軍用艦の広い艦内に、それはけたたましい音量のサイレンが鳴り響いた……!

 耳をつんざき腹に響くような重厚な音圧は、それが現在、艦内全域が戦闘態勢に突入したことを知らしめるものだ。

 それだから音の大小はあれ、今やブリッジから機関室まで、ところ構わず鳴り響いているのに違いない。

 そしてそれはまたもちろん、このパイロットたちが出撃を待つアーマーデッキにまでガンガンと轟いていた。

「いくら臨戦態勢とは言っても、今回はぼくらアーマー隊の出撃だけで、このトライ・アゲイン自体は動かないんだから、こんなに盛大に鳴らさなくてもいいもんなのにね……!」

 みずからの大型アーマーのコクピットの中にその身をあずける第一小隊の隊長であるクマ族のパイロットが、そんな自嘲気味に言っては周囲のモニターに視線を送る。

 分厚い何重もの装甲に閉ざされたコクピットの内部には本来、外部からの騒音など聞こえないものなのだが、スピーカー越しにははっきりと聞き取れるのだった。

 そのほかの異音も、この耳には届いていたが。

 正面の大型モニターの真ん中のあたりを四角く切り取ったウィンドウの中で、その真ん中に映っていた若いクマ族のチーフメカニックが、こちらもやや苦笑い気味に応じてくれる。

 前面の天井に埋め込まれたスピーカーからそちらの音声が聞こえてくるが、この彼の声以外にも、サイレンやら怒鳴り声やらがやかましくまとわりつくのに、これを聞かされるエースパイロットどのもやや苦笑いだ。

「はい。ですがこの警報はじきに止むものと思われます。とりあえず今回の作戦のメインとなります、第二小隊のアーマーが各機出撃しましたら……!」

 そう言いながら何かしら含むところがあるような表情のチーフメカニックのリドルに、したり顔したニヤニヤが止まらないクマ族の若いパイロット、ベアランドは言ってやる。

「そちらさんは、いざ出撃するにもてんてこまいみたいだね? さっきからそっちでやかましくギャアギャアとわめいているの、イージュンだろ? さては第二小隊の隊長のシーサーと揉めているんだw ま、いつものことだよね?」

 ちょっと困り顔ではぁとうなずくリドルは、みずからの背後、コントロール・ルームの二番滑走路の管制ブースを巨体で占拠してコンソールに食らいついては、今も怒鳴り散らしているベテランのメカニックマンに、ちらりと困った視線を投げかける。

 やがて仕方もなしに真顔で返すのだった。

「……はい。じぶんはこちらの管制に専念します! はじめの予定の通り、そちらのセンターデッキからベアランド少尉どのが出撃、その後に一番滑走路から今回はタルクス准尉どのが、じぶんのビーグルⅣでの出撃となります! それではどちらも準備よろしいでしょうか?」

「もちろん! てか、今回は、じゃなくてこれからずっとだろ? リドルのビーグルは戦場での補給担当としてこれをタルクスがまんま引き継いだんだから。ちゃんと引き継ぎはふたりで済ませたんだよね?」

 ただちにはい!とうなずくリドルの声に、右手のスピーカーからは新しく小隊に編入された、こちらはブタ族の若いパイロットの声が重なる。

「こっちも準備OKなんだぶう! いつでもオーライなんだぶう!! ちなみにこれがオレの初陣なんだぶうっ!!」

 とっても陽気で元気一杯の返事に、対してこちらはちょっと意外げに聞き返すベアランドだ。

「へえ、初陣って、戦場にアーマーで繰り出すのはこれが初めてなのかい? 大丈夫かな……リドル、ちゃんとレクチャーは済ませてあるんだよね、その機体、とにかくいじくり回して機体制御がめんどくさくなってるんだろ? いかに補給機とは言え!」

 正面のモニターに問いかけるのに、かしこまった若いメカニックマンはやや戸惑いながらの返答だ。

「は、はい! ひととおりは……ですが自分は本来のパイロットではありませんので、補給機としての機動所作だけであります。だからそれ以上のことは……」

「それで十分だよ。あとはタルクスがどうかにしてくれるだろ? 仮にもこのアストリオンの正規兵のパイロットなんだから」

「もちろんなんだぶー! バッチコイなんだぶうっ!!」

 ちょっとおっちょこちょいな感じのノリの返事に、右手のモニターに映ったブタ族くんをちらりと見てしまう隊長さんだ。

 モニターに映ったその顔を見るには、初陣とは言いながらどこにも余計な力が入っていない慣れたそぶりで余裕綽々の表情のブタだ。ちょっとだけ肩をすくめて小声で独り言を漏らす。

「ま、基本は補給活動だもんね。そっち向きの訓練はきっちり受けてるわけで、無茶するわけじゃないから。あれ、本来のタルクスのアーマーって、いつ頃届くのかな? あと他にも援軍が来るってはなしだったけど……」

 ちょっと考え込んでいたら、サイレンや怒号の中に混じって、何やら気の抜けたようなおじさんの声までも入って来た。

 正面のスピーカーからだ。

 四角いウィンドウの真ん中に腰を据えるリドルの両脇に、いつからか半分だけ見切れたふたりぶんのパイロットスーツ姿があって、おそらくはこの白地に赤のラインの入ったクマ族のベテランパイロットのなまり混じりのセリフであった。

「隊長、今回はぼくらはお留守番でええんですかあ? なんやヒマで死にそうなんですけどぉ……」

 そんなどこかおとぼけたザニー中尉の言葉に、半ば呆れ顔で返す隊長の少尉どのだ。

「死ぬことはないだろう? せっかくなんだから楽しんでおきなよ。あいにくで遊べるようなレジャーはないけど」

 適当にうっちゃってやったセリフに、もう片方の白地に青のラインが入ったパイロットスーツ姿が、ダッツ中尉が答える。

 やっぱり独特ななまり混じりでだ。

「はいはーい、ほなら、ヒマつぶしにおれらでぶうちゃんの監督をやっときますよって、隊長はこころおきなくじぶんのお仕事に専念しはってください! ひゃは、なんやごっつおもろいことになりそうやんけ、ぶうちゃん、ビシバシいくでえ!!」

「あ、それじゃよろしく頼むよ。そのタルクスは主にふたりの補給役になるんだものね! とりあえず第二小隊が出てから出たいんだけど、まだかかるのかな? えらい手こずってる??」

 ちょっと不審げに聞くベアランドに、正面で問われた若いクマ族は苦笑いでまたちらりとだけこの背後に視線を向ける。

 結果、何を言うでもなく肩をすくめさせるのに、それと了解する隊長だ。

 代わりにまたこの場で気になっていたことを聞いてやった。

「ああ、そう言えば、シーサーたちとは別働隊で出撃することになってた、あのゴリラくんとネコちゃんのコンビはどうしているのかな? ひょっとしてもう出撃していたりするのかい、あのどっちも正体不明の謎のアーマーで? こっちのシーサーたちがもたもたしているあいだにさっさとさ?」

 これにまたしても困惑顔する若いメカニックマンは、本来のアーマー部隊を統括指揮するクマ族の隊長を前にやや言いづらそうに言ってくれた。

 ちょっと目をまん丸くして聞くベアランドだ。

「ああ、はい。そちらのおふたりでしたら、もう既に甲板後部のリフターデッキを使用して艦外に出られております! 加えておふたりいわく、第二小隊とは連携を取らない完全に独立した部隊として行動するとのことで、こちらからの管制もあまり聞き入れてはもらえませんでした……!」

「あ、そ、みんな勝手だなあ! あれ、でも艦の守備隊や飛行部隊が使うようなあの射出型のリフターじゃ、せいぜいこの甲板の上の屋根に登るってだけのことじゃないのかな? どうやってそこから目的地に向かうんだい??」

「はい。もともとどちらも本艦デッキのカタパルトを使用できるような機体ではありませんので、本来なら緊急発着用のアンダーデッキから地上に降りるのが相当なのでしょうが、なんでもその、ショートカットをするとのことでして……」

 自分で言いながらもなおさら困惑顔するリドルに、なおさらきょとんとした顔で聞き返すベアランドだ。

「ショートカット? え、何を言っているんだい??」

 心底不可解げな隊長に、ひたすら困惑するばかりのメカニックだが、この横からベテランのパイロットが助け船を出す。

「ほえ、ほれ、小僧くん、説明するのはしんどいから、むしろ見てもろうたほうが早いんちゃう?? それしかないやろ、今ちょうど、その最中なんやし……!」

 ザニーにそう促されて、仕方も無しに手元のコンソールを操作する若いクマ族だ。微妙な顔つきで言いながら、四角くくりぬかれたウィンドウの画像が、がらりと別のものに切り替わる。

「そちらは本艦ブリッジからの映像になります……! ええ、見ての通りで、二機のアーマー、艦の甲板の屋根から崖に飛びついて、そちらからさらにこの西側の断崖と山を超えてゆくものだと思われます。むちゃくちゃですね……」

「あらら、素直に地面のルートを伝っていくんじゃなくて、山越えで文字通りのショートカットをしようってのかい? あんな切り立った断崖、アーマーで越えるのはムリってものだけど、実はその先にいい抜け道があったりするのかな? 山岳や丘陵地帯を大回りしないで平野まで突っ切れるのならば、それは確かに近道ではあるのだけど……?」

「じぶんにはわかりかねます……」

 若いメカニックが困惑して返すさなかにも、二対の戦闘ロボは器用に断崖を登って、その先の林の中へと姿をくらましてゆく。 

 この一部始終をのんびり眺めながら、とりあえずで了解するベアランドだ。

「ブリッジの艦長はどんな顔してこの映像を見ているのかね? まあいいや、現場で合流すればいいことだし、上空から見ていればちゃんとモニターできるよね! 今回はこのふたりのお目付役で、この実力のほどをそれとはかるのがぼくらの役目だし。リドルもこちらからの映像を見て確かめておいておくれよ? あとついでに、ザニーとダッツも!」

「了解!」

 正面の映像がふたたび切り替わって、元に戻ったコントロールルームの中でピシリと敬礼するメカニックマンだ。

 なんならあのイヌ族の博士さんにも見てもらいたいくらいだが、あいにくと当人はみずからの研究室にこもっているらしい。

 さてはじぶんの研究対象以外にはまったく興味はないらしく。

 そうこうしているうちに、あんなにかまびすしく鳴り響いていた警報が、今やぱったりと途絶えていた。

 どうやら第二小隊のオオカミとイヌ族コンビがようやく出撃を済ませたものらしい。

 お次はじぶんの番だと了解するクマ族の隊長は周りのモニターから余計な情報を削除して、前面のメインモニター一杯に大写しで映っていた正面のアーマー射出口が開いていくのを視認する。

 先に見えるのは乾燥地帯の枯れ果てた大地と、青い空だ。

 空飛ぶ軍艦は今は陸地に停泊しているから、いつもと比べたらずっと低い位置からの出撃となった。

 画面から消え失せて、今や声だけとなったメカニックが天井のスピーカーからはきはきと指示を飛ばしてくる。

「それでは今回はミッションの性質上、少尉どのはアーマーの強制射出システムを使用しないでの、自力での発進となります! ゲート、フルオープン確認、アーマーの各部ロック解除、各種システム、機体ともにオールグリーン、いつでもどうぞ!!」

「了解!」

 コンソール手前で赤く灯っていたパイロットランプが、管制からのゴーサインと同時に緑色に切り替わる。

 こちらもきっぱり応じてから、みずからの握る操縦桿を手元に引き寄せるクマ族の隊長だ。

 それまで機体を固定されていたデッキからその巨体を持ち上げるアーマーが、そのまま微速前進、ゆっくりと正面口からこの外部へとせり出してゆく。

 完全に艦の外へと離脱してから、特殊な飛行システムを搭載した大型の機体がさらにゆっくりと大空をめざして上昇してゆく。

 一番最後に戦場に駆けつけるくらいでいい今回のような作戦なら、このくらいゆっくりとした立ち上がりでも問題はなかった。

 背後から後続のブタ族くんの機体も無事に発艦したのを見届けて、目的のポイントへと向けて機体を回頭、そこまでまっすぐに突っ切るコースでアーマーを前進させるベアランドだった。

 はるか足下に見える地面の荒野では、先行したウルフハウンドたちの第二小隊が丘陵地帯から早くも平野へと突入するのを確認もする。はじめのもたつきを完全に挽回する急ピッチだ。

 何かと性急で強引なオオカミ族の隊長どのに、あの気弱な若いイヌ族くんたちが泣かされていなければいいなとやや苦笑いで思いながら、それ以外の周囲に視線を向ける。

 肝心のふたりの傭兵部隊の姿を見失っていたが、それもこの先で見つけられるだろうと、意識をはるか平野の先でポツポツと見渡せる街らしきに向けた。

 中でもこの一番手前に見えるものが、今回の作戦域となる予定のポイントであった。

 通称・ポイントX……!

 戦場まではそう遠くはない。


  Part2


 時刻はおよそ正午過ぎ。

 コクピット前面の視界モニター一杯に雲一つとなく晴れ渡った青空が広がる。

 空高くから広く平野を見渡せる高度にまで機体を上昇させて、この眼下に広がる乾ききった茶色一色の砂漠地帯の景色を眺めるクマ族のパイロットだ。
 
 母艦の周囲を取り巻いていた切り立った山岳や丘陵地帯から抜け出して、今は緑のまばらな荒野に一本だけ長く走る灰色の直線、あまり整備の行き届いていない国道らしきを注目――。

 やがてそこにふたつばかりの違和感を見つけることとなる。

 広角のロングで捉えた画像の中ではただの小さな黒い点であったものだが、これをいざ望遠でズームアップすると、例のあの黒い不格好な二体のアーマーであることがはっきりとわかる。

 道なりに荒野を西へとひた走る二機のアーマーの後ろ姿をしげしげと眺めながら、ちょっと感心した口ぶりの隊長さんだ。

「あらら、もうあんなところにいるよ、あのおふたりさん! 本当に基地の周りの山岳地帯をまっすぐ突っ切って平野に出てきたんだ。まいったね……!」

 誰にともなし言ってやったセリフに、右手のスピーカーからただちに明るい返事が返ってくる。

「おれたちみたいな空を飛べる飛行型ユニットでもないのに山越えだなんてすごいんだぶう!  おまけに今は陸地をすごいスピードで走っているんだぶう!!」

 後続の僚機から発信されるごくごくのんきで陽気なブタ族の返答に、こちらもしごく素直にうなずくベアランドだ。

「ほんどだな。あんな見るからに特徴的なスタイルのアーマーで長い距離を移動できるのか不思議でならなかったんだけど、ちゃんとどっちも脚部に高速機動用のモジュールが仕込んであったんだ? でも見たところはやりのホバーなんかじゃなくて、いわゆる単純な車輪(ホイール)式の走行タイプみたいだね?」

 正面モニターの画像からそうじぶんなりに推測してやるに、すると今度はこの背後につけた機体よりか、ずっと後方に控えている母艦のデッキから返事が返ってきた。

 チーフメカニックの若いクマ族、リドルのものだ。

 こちらでモニターしている画像やデータをまんまあちらでも共有しているので、同時におなじものを見ながらそれぞれに考察や解析ができるのだった。一緒にいるはずの居残り組のダッツやザニーはだんまりだったが、ひょっとしたら別の管制ブースで後ろのタルクスに絡んでいるのかもしれない。

「はい。じぶんにもそのように思われます! ですがその場合、タイヤの構成素材がなんであるのかが気になりますが? とりあえず舗装路だから可能なことなのかもしれません……!」

「つまりはあくまで市街地用の装備ってことか……う~ん、さすがにそこまではここからじゃ見分けがつかないな? あんまり近づいたら気になるだろうし、敵に居場所を教えちゃうようなものだからね? 実際に戦闘に入らなければ、おちおち近づいてモニターもできないよ。でもネコちゃんの機体はスムーズに走ってるけど、でっかいゴリラくんの機体は、なんか大変そうだな? ずっと上体よれながら必死に食らいついているような??」

 ちょっと首を傾げながらの感想に、するとまたよそからこちらはおじさんの声で補足が入る。

 あの二体の謎のアーマーに興味があるのは彼らだけではなかったようで、みずからが担当する第二小隊の出撃を無事に見送って、今やすっかり手ぶらになった中年クマ族のチーフ・メカニックマンだ。

 それが何やら少し冷めた調子で言ってくれる。

「走行用の内部機構(モジュール)とは言っても、おかざりみたいなもんだろう。おれが見たところじゃ、どっちもガチガチの格闘戦を主眼に置いた機体だ。よってちゃちなお飾り程度のカッチカチのタイヤがせり出してるくらいなもんだな! 乗り心地は最悪だろうよ? 酔い止めは飲んでるのかね?」

 冷めた視線でかなりの皮肉交じりの文句に、あいまいにうなずいて了解するベアランドだ。無言でも苦笑しているのが気配でわかる若手のメカニックも、おおよそで同意見なのだろう。

「まあ、なんでも機能を詰め込むのは限界があるからね? ムリでもなんでもあのくらいのスピードで長いこと航行ができるのなら、及第点なんじゃないのかな。今のところは?」

 そうしたり顔して言ってやるのに、左のスピーカーからはやはり皮肉めいたおじさんのだみ声である。

「ああ。ただしメカニックの立場からしたら、あまりおすすめできたもんじゃありゃしないな。特にあのでかいゴリラくんの機体、あんなの無理矢理すぎて居住性が最悪だろ! およそタイヤの大きさが釣り合ってないんだよ、ケツが痛くて仕方ない」

「あはは……!」

 反対側のスピーカーからリドルのお追従笑いみたいなものが聞こえるが、たぶんその通りなのだろう。

 内心で思わず、お気の毒さま……!とそのモニターの中の二機のアーマーの後ろ姿を眺めるクマ族だった。

 一方、その当のふたりのアーマー乗りたちといえば――。


 激しく小刻みに揺れるアーマーのコクピット内で、大きな身体を前のめりの姿勢で正面のモニターに食らいつくゴリラ族のパイロットだ。

 太い手足をシートやペダル周りに踏ん張らせて、身体の姿勢を保ちながら、ひたすらに目の前のモニターをガン見していた。

 地図の上では主要な国道ルートとは言っても、実際はおよそでこぼこで道としての役目を果たしてもいない道なき道だ。

 あいにく荒れ地を走るようには作られていないみずからのアーマーのちゃちな三輪型車輪機構では、ちょっと油断したらすぐにでもバランスを崩して転倒しかねない……!

 額にイヤな汗を浮かべながら、必死に前を走る相棒のアーマーの後ろ姿を追いかけるが、ちょっと弱音を吐きそうだった。

 だがそんなもの言ったところで、前の機体は振り向きもせずにさっさと行ってしまうのだろう。

 長年の付き合いで、相手の性格は熟知していた。

 ちょっとそっちに気を取られていたら、ガクンと大きく機体が揺れて、ただでさえ前のめりだった頭が思わず正面のモニターに突撃しそうになる。さてはくたびれてひからびた舗装路に大きめの亀裂(クラック)が走っていたのだろう。

 思わず舌打ちして、ちょっと距離の空いた相棒の背中に向けて文句をたれていた。

「うわっと! なんだよ……うほ、あのさぁ、イッキャ、道にクラック走ってるんなら、教えてくんない? こっちはただでさえこんなバランス悪いのにムリしてるんだから、転倒しちゃうじゃないか。この速度だったら最悪、大破とかもありえるよ?」

 なるべく内心のイライラを声に出さないようにお願いしたはずなのだが、前の機体からはかすかな舌打ちめいたものがして、その後につっけんどな返答が返ってきた。

 おもわず眉間にシワが寄って、げんなりするゴリラだ。

「それはおまえが間抜けなだけなんだにゃ! 四の五の言わずにさっさとついてくるにゃ! 気付いていると思うが、背後で上からあのクマの隊長が見ているにゃ! 間抜けなさまは見せられない。できたらもっとスピードをあげて、あいつらを巻いてやりたいくらいなんだにゃ!!」

「それじゃこっちが置いていかれちゃうよ! まったく、山を越えたらショートカットだとか言っておいて、目的地まではさして変わらないじゃないか? ぶっちゃけあのオオカミさんの部隊のほうが早く着いているかもよ?」

「それはむしろこちらの思惑どおりなんだにゃ!」

 ちっとも悪びれるでもないネコ族の返事に、ちょっと怪訝に口をとがらせて聞き返すゴリラ族のベリラだ。

「え? なんで??」

 ふたりきりの部隊の中ではリーダー格となる小柄なネコ族、イッキャはニヤリとしてみずからのコクピットの前面モニターの中で太い首を傾げるゴリラ、もといベリラに返した。

「まずはじめはあのオオカミとイヌ族のコンビたちに戦わせておいて、敵の意識がそちらに向いている隙に、おれたちはこの背後から忍び寄って奇襲攻撃をかけるにゃ! まんまと挟み撃ちにしてやるのだにゃw 慌てたやつらは総崩れになるのにちがいがないのだにゃ! 楽勝なのだにゃ!」

「はあ~……! 相変わらずそういう悪知恵が働くよね? まともにやってもおれたちならそう苦労はしないはずなのに、あの上で見張っているクマの隊長さんはどう思うのかな? もはやコソコソしながらなのは性分なのかな、このおれたちの……!」

 何やら自嘲気味な相棒のセリフに、まるで気にするでもないネコ族はしれっとした口ぶりで言ってくれた。

「要は勝てばいいのだにゃ! 相手は手負いの敗残兵なのだから、オオカミたちが正面で戦っている間に、裏からさっさとケリをつけてやるにゃ! このおれとおまえのアーマーの力を持ってすれば、簡単なのだにゃ!」

「だったらこんなこそ泥みたいなやり口でなくてもいいんじゃない? 前の陸軍基地を襲った時もそうだったけど、いちいちめんどくさいんだよなあ、イッキャのやってることって……!」

 思わず思ったまんまを口にしたら、不意に前を走るアーマーがさらにスピードを上げはじめた。おまけに捨て台詞みたいな言葉を発して、通信を閉ざすリーダーのネコ族だ。

「おまえが何も考えないから、このおれが作戦を立てているのだにゃ! 文句は一切、受け付けないのだにゃ、おまえは黙ってこのおれについてくればいいのだにゃ!」

「あ、ちょっと、待ってって! そんなに急いだらせっかくのズボラ奇襲大作戦がうまくいかないんじゃない? てか、あの上で見ているクマさんたちのアーマーが目立って、はなっからそんなの成立してないような……? あ、だから待ってってば! 置いてかないでよ、イッキャ!!」

 荒野をひたすらに走る二機のアーマーは、そのはるか先に目的地となる街、通称ポイントXがあるのをこの機体の頭部のカメラの視界に捉えつつあった。


 Part3

 今回のアーマー部隊出撃の目的、その目標は、近隣のオアシス都市に反政府ゲリラのアーマーが複数出現したことにより、この討伐と街からの撃退を要請されたことによるものだった。

 この中央大陸「アストリオン」の友邦国の軍艦として今はこの大陸連邦の領空領土に無条件でお邪魔させてもらっている都合、無下にはできないとのンクス艦長の判断であった。

 ちなみにもっと厳密に言うのであれば、ゲリラのアーマーとはそもそもは彼らが占領しようとしていた、今は完全に廃墟と化している元陸軍基地の守備隊たちであり、その敗残兵が野党と化して近隣の街の脅威となっていると言うのがより正確なところだ。

 ただしこの基地の占領(破壊?)に関してはもろもろ他の要素も強く関わっているのだが、傍から見れば彼ら、ベアランドたちの行いによるものと思われるのは致し方がないところではある。

 それによる後始末という側面も強くあったが、そのあたりについては今さら言っても仕方が無いし、その当事者と思われるアーマー乗りたちも、今回の作戦にはしっかりと参加しているのだから、どうこう言うつもりはないクマ族の隊長だった。

 それはある意味、本人がきちんと責任をもってその責務を果たすということでもあっただろう。


 ひたすらに続く悪路の果てがついに見えてきた……!

 母艦のトライ・アゲインを飛び出してからこれまでずっと代わり映えしない、干からびた乾燥地帯をひた走ってきた機体のメインモニターが、その中に不意に四角いアラートゾーンを現出!

 自機が目標地点に近づいたことをパイロットに警告する。

 それをチラとだけ一瞥して、コクピットの中で軽快なランニングのステップを踏むオオカミ族の小隊長どのは、ペロリと舌なめずりして鼻息をフンとだけ鳴らす。

 ちょうどウォーミングアップは済んだところであった。

 通常のアーマーのコクピットは真ん中に操縦席があって、そこにパイロットは着座するものなのだが、彼のそれはかなり独特な仕様で、シートから立ち上がった状態でのランニングスタイルの機体操作が可能なものとなっていた。

 それは身体がでかくて鈍重なクマ族などにはおよそ考えられないものだ。

 直感と瞬発力重視のセンスが何より求められる機体の操縦機構は、目下、この彼だけのものである。

 目標が目前に迫ろうともみずからの走りのペースを緩めないオオカミ族の隊長、ウルフハウンドは、後続の二機の僚機、若いイヌ族の隊員たちへと向けて、戦場に到達したことを教えてやる。

「おい、ワンちゃんども、準備は出来ているな? 目標の敵アーマーは街中の至る所に潜んでいると思われるが、構うことはありゃしねえ、見つけ次第にこれを各個に撃破だ! 数は不明だが、中古のビーグルⅤごときはオレらの敵じゃねえ、間違っても反撃なんざくらうんじゃねえぞ? あと今回はよそ者の部隊も参加しちゃいるが、そんなヤツらに遅れを取ることは許されねえ。どっちもしっかりと星を稼げよっ!」

 半ば吐き捨てるように言うことだけ言って、それきり目の前のモニターに映る景色に意識を集中するオオカミだ。

 すると天井のスピーカーからは、ちょっとの間を置いて、かなり困惑したふうな部下の声が響いてきた。

 はじめのひどく動揺した息づかいとその次にやけにおどおどとしたものの言いようが、それだけで全身毛むくじゃらで臆病者のコルクのものだとわかる。

 内心イラッとはするものの、へんにどやしても返ってパニックするだけだろうから、黙って聞き流してやった。

「……えっ、あの、その、ええっと……しょ、少尉どの、それだけでありましょうか? なにか、その、作戦は……?」

 モニターにその表情を映さなくても臆病風に吹かれているのがわかる新米のパイロットに、やはり内心で舌打ちしながら、ぶっきらぼうに返してやる。

「そんなものは必要ありゃしねえだろうが? ただ街の中をしらみつぶしに探索して、敵を見つけたらただちにこれを撃破する! ただそれだけだ。十分だろう?」

「えっと、その、あの、だって、あの……」

 まったく要領を得ないイヌ族の代わりに、これの同僚でこちらはやけにさっぱりとした見てくれの細身のイヌ族のケンスが通信を開いた。普段からの落ち着いた若者は、はっきりとした言葉付きで相棒の言わんとしていたことを端的に申してくれる。

「ウルフハウンド少尉どの! それではこのじぶんたちは、隊長どのを背後からサポートする役割でよろしいのでしょうか?」

 性格が何かととっちらかった毛むくじゃらと比べたらずっと律儀でまともな部下の質問に、だがぞんざいに答えてやる上官だ。

「そんなわけがあるか! おまえらみたいなひよっこにサポートとしてもらうなんざ、どんなシチュエーションなんだ? このオレの足を引っ張らないこと。各自に判断して状況を乗り切ることがおまえらの役目だ! ごたくはいいからとっととやれ!」

「あ、隊長! 行っちゃった……!! いやでも、そんなこといきなり言われたって、おれ、どうしたらいいかわからないよ……」

 目標地点の街、ポイントXに到達するやいなや強引に正面突破をはかるウルフハウンドの銀色の機体は、それきり砂煙と共に街中へと消えて行った。

 後には新米の若手パイロットの新型アーマーが二機とも虚しく取り残される。途方にくれるコルクだったが、どうしたものかと正面モニターの右上に映る、同僚のイヌ族に目線をやった。

 モニター越しにこの目が合うケンスは、ちょっと肩をすくめ加減にして、半ば呆れたような調子で言ってくれた。

「あっと言う間にいっちまったな? 高速機動用のホバージェットもなしに二本の脚で! アーマーをあんな風に走らせることができるヤツなんて、オレはお前以外に見たことがないよ! てか、あれってぶっちゃけお前よりも速いんじゃないのか?」

 皮肉か冗談まじりみたいなセリフに、顔色がいまいち冴えない毛むくじゃらのイヌ族は、うわずった声で応じる。

「ああっ、おれも敵わないと思う……! でも正直、うらやましい。おれもあんな風にアーマーを走らせたい。このホバー、直線的な動きしかできないし、飛んだり跳ねたりしてタマをかわしたりできないんだもの!!」

「それが普通なんだよ! ドタバタ動いたりするのが苦手なアーマーが速く走るためにあるんだから。そもそも飛行型のオレたちのアーマーじゃ、走るどころか歩くのだって一苦労じゃないか」 

 もっともらしい同僚のセリフに、ため息まじりの毛むくじゃらは心底、心もとなげに弱音を吐く。

「これからどうすればいいんだろう……! ウルフハウンド少尉どのとははぐれちゃったし、おれ、自信がないよ。なんで飛行部隊のおれたちが、こんなおかしな陸戦仕様のアーマーで、こんな街中で戦わなくちゃならないんだろ?」

「しっ! 隊長どのに聞かれてるかも知れないぜ? あと他にもベアランド少尉どのたちも上で見張ってるんだろ? こんなサマ見られたら、後で何て言って笑われるか。とにかくオレたちも戦いに参加しよう、オレが先行するから、おまえは後からバックアップをすればいいさ!」

「い、いや! おれが先に行くよ。後ろが誰もいないとコワイから! ケンスが見張っててよ、ふたりで強力して乗り切ろう!」

「ははっ、おまえほんとに面白いよな! 了解!」

 隊長どのの突入から遅れておよそ2分半後、部下たちのアーマーも散発的な発砲音が鳴り響く乾いた戦場に突入していった。

 
  Part4


 中央大陸の南西部に位置し、アストリオンの現政権中央府とこれに反抗する西岸域一帯の新興都市国家群がにらみ合う緩衝地帯となる地域で、その中でも最大の規模を誇る商業都市が今回の戦場となっていた。

 この大陸出身のブタ族のタルクスから言わせると、アルベラと呼ばれるらしいが、基本よそ者ばかりで地元の地理に長けていない隊員たちからは、便宜上、ポイントXと呼ばれていた。

 街を東西に分ける大通りが南北に長く走り、中央の広場から蜘蛛の巣状に細い路地が走る田舎にありがちなレトロな街並みの中は、突然の野党のアーマーの襲撃にあって、今はどこも人気なく静まり返っていた。

 避難命令が出されているのか戒厳令が敷かれてるのか知らないが、アーマー同士の戦いをする身からすればありがたいことだ。

 およそ人的な被害を出さずに済むあたり。

 物的損害に関しては、無論、出さないように努めるものだが、相手はそうも言ってはくれないのだから、もはや多少の被害は止む無しと諦めてもらうしかない。

 そうすっかりとたかをくくった隊長のオオカミ族、ウルフハウンドはぬかりなく周囲のモニターを睨みながら、スピーカー越しに聞こえる外部からの音にも左右の耳をそばだてる。

 広くて見晴らしのいい大通りには人影どころかアーマーのそれもなくてて、敵はこぞって建物の裏手の影に潜んでいるのがはじめの予測のとおりだった。

 それこそ街中をしらみつぶしに探し出して敵を撃破すると言ったとおりの展開である。

 古い建物に周囲を囲まれた路地裏で、アーマーが一機通るのがせいぜいのところをさしたる足音も立てずにみずからの機体を進ませるウルフハウンドは、この目前、T字路の先に大きな影が揺らぐのを素早く察知する。

 現状、敵は攻める気がまるでなく、逃げに走ってばかりで完全に一方的な追いかけっこになっていた。

 ゆっくりとした抜き足差し足の動作から一気に素早い突撃のモーションに移って、角の突き当たりに飛び出すとほぼ同時に左に機体を回頭させる。

 モニターには慌ててそこから逃げようとする、それは良く見知ったはずアーマーの背中が大写しで映し出されるが、迷うことなくその背中めがけてハンドカノンを斉射していた。

 前のめりにつんのめった敵機が道の真ん中で見事に爆発炎上、この原型もわからないくらいに大破する。

 機体の戦況解析コンピュータが状況から敵機撃破を解析判定するまでもなく、またひとつ星を上げたことを確信する隊長は、ぬかりなく周りを見回しながら軽くガッツポーズを取る。

 調子は上々だ。

「よっしゃ! これで三機目!! ロートルの機体が相手とは言え、まるで歯ごたえがありゃしねえな? よりにもよって友軍のはずのビーグルⅤとは、全部で何機いやがるんだ? おっと、いつものクセで突っ走り気味か。味方のワンちゃんたちは……!」

 手前のモニターの状況表示一覧を一瞥するなり、難しい顔で愚痴をこぼす小隊長どのだ。

「なんだあいつら、どっちもまだ星がついてねえじゃねえか? 仮にも新型の機体で情けがねえ! ん、星がついたか? いや、こいつは……! 傭兵どものうさんくさいアーマーか。どうやらオレたちとは逆の街の北側から入ってきたみたいだが……!」

 ますます険しい顔つきでモニターを睨みつけるウルフハウンドだが、そこによそからの通信を知らせる、短いアラームが鳴る。  

 頭上から聞こえてきたどこか脳天気な声に、どことなしに天井に視線を上向けるオオカミ族だ。

「シーサー、聞こえるかい? ずいぶんと派手にやってるみたいだけど、ちょっとだけいいかな。おりいってお願いがあるんだけど……!」

「あん、なんだよ、大将? 今忙しいんだから、後にしてくれ! こっちは戦いの真っ最中なんだ。のんきに世間話なんかしてるヒマはねえぜっ……」

 露骨にイヤそうな顔で返してやるのに、相手の第一小隊のクマ族の隊長さんときたらば、まるで臆面も無く話を続ける。

「いや、そっちのコルクとケンスのことなんだけど、今は分かれているんだろ。別行動なんだ? それでなんだけど……」

 相手の隊長がしつこく続けようとするのをただちに阻止する気が短いオオカミは、反射的に声を荒げていた。

「悪いがガキのおもりなんかする気はねえよ。足を引っ張られるのもゴメンだ! オレは一匹狼な性分なんだよ。甘ったれたワンちゃんどもなんか引き連れていたくはねえっ」

「ひどいな! そんなに見所なくもないだろう、ふたりとも? いやそうじゃなくて、今回はあのふたりには引っ込んでてもらおうと思ってさ! なんせ状況が状況だから?」

「?」

 意外なことを言い出すクマ族に、灰色オオカミはいぶかしくモニターに映ってもいない相手をじっとにらみ付ける。

 そんな相手の剣幕を雰囲気から感じているのか、ちょっと困ったふうなクマの隊長は苦笑い気味のセリフを続ける。

「今、シーサーたちが戦っているビーグルⅤって、機体のカラーリングがぼくらが見慣れたナショナルカラーのグリーンじゃなくて、茶色、ブラウン主体じゃないか? タルクスに聞いたら、ルマニアから輸入したあれって、いわゆる砂漠仕様であんなカラーリングらしいんだけど、今のコルクやケンスのビーグルⅥのそれとまんまかぶってるじゃないか? 見てわかるとおり?」

「……だからなんだよ?」

 怪訝に聞くオオカミに、心配性なクマはどこかいいずらそうにまた続けた。

「ひょっとしたら、同士討ちとかになっちゃわないかと? 特にコルクがパニックしたりして。とにかくふたりには一度引っ込んでもらって、なんならシーサーにも引っ込んでもらいたいんだよね?」

「は? 何を言っているんだよ??」

 ちょっと険悪に聞き返すのに、まるでてらいもなくみずからの都合をぶっちゃけてくれるそれはのんきなクマのリーダーだ。

「今回の作戦の目的は、確かに民間に紛れ込んだ残党のアーマーの撃退だけど、裏テーマとしては、あのネコちゃんとゴリラくんの腕試しってのもあるじゃないか?」

「そんなのこのオレの知ったことじゃありゃしねえよ! あんな得体の知れねえヤツらに任せてたら被害が拡大するだけじゃねえのか? 好き勝手に暴れ回って結果、街が半壊だなんてことになっても責任が取れねえだろうっ」

 いっそ吐き捨ててやるのに、しかしながら天井のスピーカーからはしごく落ち着いた返事が返ってきた。

「……そうは言うけど、シーサー、今、ビーグルⅤを派手に大破させたよね? 街中で大爆発させるみたいな?」

 手痛い指摘にぐっと言葉に詰まるウルフハウンドは、苦々しい顔でこの天井のどこともしれない空をにらみ付ける。

「良く見ていやがるな? いやらしいったらありゃしねえ! そこまで派手じゃなかっただろう? 建物はどこもまだ半壊なんかしちゃいねえぜっ」

「その前の二機も、思いっきり大破させてたじゃないか? もう十分だよ。今回はこの場をあのおふたりさんにゆずって、後は三人で残党のアーマーが逃げられないように包囲網を作っておいてくれないかな。コルクとケンスにはこちらから言っておくから! それじゃ、そういうことでよろしくね♡」

「あっ、何を勝手なこと……切りやがった! たく、しょうがねえな……」

 好き勝手なことを言ってそれきり通信を閉ざす同僚のクマ族だ。これに不満顔で天井を見上げるオオカミ族だが、舌打ちして機体を反転、来た道をゆっくりと引き返していくのだった。


 Part5

 ※主役の乗るメカをリテイクすることになりました!
  理由はブサイクすぎるから(^^;)

 補給機のタルクスを伴ってみずからが街の上空に到達したときには、すでに戦況は刻々と変化していた。

 こちらにおおむね有利に事態が進んでいるのはほぼ想定していた通りだが、街に入るなりに肝心の黒いアーマーを二機とも見失ってしまったのには、内心で少なからず焦るベアランドだ。

 大通りからゴミゴミとした路地裏に入り込まれては、真っ黒い機体は保護色も同然でほとんど見分けが付かない。

 どうにかすべくうんぬんかんぬん頭をひねって、どうにか第二小隊のオオカミ族の了解を取り付けるまでこぎ着けた。

 クマ族の隊長はしたり顔してみずからのアーマーのモニター越しに見下ろした街の様子と、この手元の戦況表示ディスプレイをしげしげと見比べる。

「ああ、早々とシーサーが三機も撃墜しちゃったけど、これでいいんだよね。コルクとケンスは今回は残念だったけど! おかげで肝心のあのコンビさんたちに集中できるよ。なんか気が付いたらもう一機、撃破しちゃってるし?」

 おおよそで十機はいるものと思われた敵の数は、これでほぼ半減したことになる。ネコ族とゴリラ族のアーマーコンビは、第二小隊のウルフハウンドたちとは打って変わって、こちらはとてもしっかりとした連携プレイで敵を追い詰めているようだ。

 ギリギリまで機体の高度を下げてこの様子をうかがうベアランドに、このすぐ後方に控えた補給機のパイロット、ブタ族のタルクスが明るい声音で通信を開いてきた。

「こんなに近づいているのに気付かれていないなんてすごいんだぶう! あの勘の鋭そうなオオカミの隊長さんも気がついていなかったんだぶう! すごいステルス性能なんだぶー!!」

「あ、でも限界はあるよ? 通常の戦闘中なら難しいんじゃ無いかな? 今回みたいに戦わないで傍観しているだけなら、エネルギーのロスを心配しないでフィールド・ジェネレーターをフル稼働できるから、結果としての副産物だよね、これって」

「機体の周囲に張り巡らせたフィールドバリアでステルスまで生み出すだなんて、でかい戦艦のエンジンでも難しいんだぶう? アーマー単体でこれができるだなんて、そんなのうちのボスのイン様のゲシュタルトンくらいしか思いつかないんだぶう! あ、今のはただのひとりごとなんだぶう!」

 ちょっと慌ててすっとぼけるブタ族の若手パイロットに、クマのエースパイロットは苦笑いして受け答えた。

「とにかくなりをひそめていないとバレちゃうから、しっかりこのランタンの後ろに隠れていてくれよ? みんな市街地戦に夢中で空なんか見上げる余裕なんてないから気付かれないのもあるわけだし。あとそっちの国家元首さまが秘密裏に開発してるって言う決戦兵器みたいな大型アーマーは、知識としては入っているからそんな隠さなくともいいしね。みんな噂じゃ知ってるんだろ? ある種の都市伝説か陰謀論的な?」

「失言だったんだぶう~!」

 茶化した言いように、こちらも苦笑いで応じるブタ族だ。

「ははは! とにかくここからは、あのネコちゃんとゴリラくんの戦いに集中しないとね? なんせこれが今回の一番の目的でもあるんだから、て、言ってる間にまた一機撃破されちゃったみたいだよ! おそらくはネコちゃんのアーマーが敵を追い立てて、その先で先回りしてるゴリラくんのあのいかついアーマーが仕留めているのかな? あ、ネコちゃんのアーマー、発見!!」

 言っているさなかにも、眼前のモニター一杯に映し出された入り組んだ街中の裏手の通りの画像の中に、小型の真っ黒いアーマーが軽やかなステップで駆け抜けるのを認めるベアランドだ。

 おまけその先の1ブロックほど離れた場所にある、ちょっとした広場らしきに、この相棒となる大型のこれまた真っ黒いアーマーも補足する。

 それだからなるべくこの絵をズームで拡大して離れた母艦のメカニックたちにもわかるように努めるのだが、標的は結構なスピードで街中を右へ左へと縦横無尽に駆け抜けていく……!

 そのさなかにもまた一機、見慣れたはずの機影でも茶色なのが違和感だらけのビーグルⅤをいともたやすく撃破するのに内心で舌を巻くクマ族の隊長さんだ。

 戦場の第一線で現役バリバリの量産型アーマーは言うなれば彼らルマニア軍の主力兵器に位置づけられるのだが、まるでいいところなしのやられキャラと化している。

 背後のタルクスはもはや状況がめまぐるしくて目が追いつかないらしい。すっかり黙ったきりだった。

 かくして外野からこれをモニターするのも一苦労だと、額にうっすらと汗を浮かべるクマ族たちの一方で――。

              ☆

 足場の整った市街地に入ったことにより、それまでの荒れ果てた砂地よりも格段に動きが良くなった自慢のアーマーのコクピットの中で、素早い手さばきでレバーとコンソールを巧みに操るネコ族だ。

 目の前の高精細モニターに映し出したターゲットスコープの真ん中で、無様にその背中をさらす敵アーマーに向けてロックオンしたハンドカノンの引き金をただちに引き絞る。

 コンピュータが相手の撃破を解析判定する間もなくその場をダッシュして、身軽なアーマーを暗闇に溶け込ませるのだった。

 まるで人間かのような素早い身のこなしでアーマーを疾駆させるが、次の標的へと意識を向ける目つきの鋭いネコの耳元に、手元のスピーカーからは相棒のゴリラ族の、やけにのんびりとした音声通信が入ってくる。

「……イッキャ? 今どこにいるの? こっちはずっと待ちぼうけしてるんだけど、早いとこ敵さんをこっちに誘い込んでよ。さっきからひとりでずっと楽しんでない? さっき後ろから一機現れてビックリしたんだけど、あれってイッキャは関係ないよね? ま、あっさり片付けてやったから問題なかったけど……」

 なんかやる気なさげなクレームじみた催促に、若干ムッとした表情になるネコ族のイッキャは、通信相手の身体がでかくて何かとマイペースなゴリラ、もといベリラに向けて返した。

「問題ないのならそれでいいのだにゃ! おまえはそこで黙って敵が現れるのを待ち構えておくのだにゃ! このオレが確実に敵どもを追い込んでいるのだから、四の五の言うななのだにゃ」

「その敵が来ないんですけど? こっちはなんか良くわからない広場だか公園だかでずっとひとりきりなんですけど? そんなに広くもないからさ、敵を倒すついでに、なんか子供の遊具みたいなのもペチャンコにしちゃったんですけど? これって後で弁償とか言われないよねぇ?」

「そんなものはこのオレたちには関係がないのだにゃ! 放っておけばいいのだにゃ!」

「もちろん、そのつもりだけど。でもイッキャばっかりずるくない? ひとりで星を稼いでるじゃないか。こっちにも何機かちょうだいよ、あと、こっちのセンサーで見ているに、イッキャ、ひょっとしてダミーを飛ばしてたりしない? すごいやりづらいんだけど、それやられると??」

 ぐちぐちと文句をたれる相棒のゴリラに、額のあたりにうっすらと血管が浮き上がるネコ族は、声にもイライラを出しながらついにはつっけんどんに言い放った。

「何をどうしようがこのオレの自由なのだにゃ! おまえにどうこう言われる筋合いはないのだにゃ! そう言うおまえこそこっちのセンサーではやたらに明るい波形がでているが、エネルギーを無駄にロスしているんじゃないのかにゃ?」

 鋭くツッコんでやるのに、受け答えるゴリラ、もといベリラは慌てるようなこともなく開き直った言いようで返した。

「これがあるからここまでほとんど無傷でこれたんじゃない。おれたち。超高出力のジェネレーターが結界さながらのバリアフィールドを展開、おまけに機体の電磁カモフラージュまでしてくれるだなんてさ……!」

「だが絶対ではないのだにゃ! あと上でオレたちを見張っているクマの隊長も、おんなじようなことをやっているようなのだにゃ? それじゃとっとと片をつけるのだにゃ! 残りを追い立ててまとめて大通りに誘導するから、おまえもそこから通りに出るのだにゃ! ここからは早い者勝ちなのだにゃ!!」

 言うなり通信をブチ切るネコ族は、機体に激しいステップを踏ませつつも空へと向けて何発かの銃弾を見舞う。

 それが号砲だとでも言うかのようにだ。

 これに即座に応じるゴリラが乗っていたいかついアーマーが、前屈みのすさまじい勢いで狭い裏路地を疾駆する。

 そこからわずか数分で、全ての決着はつくこととなるのだ。

 かくして無事、作戦終了……!


                ※次回に続く……!









 ベアランド、タルクス、(リドル、ダッツ、ザニー)

 ベリラ、イッキャ……

 ウルフハウンド小隊、

 ポイントX アルベラ  西 エルスト? 北 カイトス?
 

 

 艦内 サイレン ベアランド タルクス リドル ダッツ ザニー

 21プロット
概要‐ベアランドたちの降り立った基地の周辺の町(仮称Point X)に残存兵のアーマーが襲撃、これを撃退すべく出撃!
 敵アーマー、ルマニアのビーグルⅤ(カラーは緑ではなく、黄土色?)
 メインは第二小隊のウルフハウンド少尉率いる陸戦部隊アーマー。ここに今回から参加した傭兵部隊のイッキャとベリラのアーマーコンビも出撃。ベアランドは今回はこのふたりのお目付役として、上空からアーマーでこの行動、戦いぶりを監視。
 ダッツとザニーは今回はお留守番。補給部隊として出撃したタルクスにリモートでツッコミする。
 敵、アーマー部隊を撃破したところで、終了。
 22 サラとニッシーがいきなり登場?


×ブリッジクルー 今回は特に出番なし。

◎デッキクルー 第二小隊(ウルフハウンド(ギャングスター)、コルク、ケンス(共に、ビーグルⅥ陸戦型仕様機=ホバーユニット装備型))、傭兵部隊(イッキャ(リトル・ガンマン)、ベリラ(カンフー・キッド))がメイン。   
 第一小隊 ベアランド(ランタン)、タルクス(補給機改装型ビーグルⅣ) 

 ベアランド、センタードライバーから、システムを使用しないで自力で発進、タルクス、レフトデッキから出撃~

 ウルフハウンド小隊、ライトデッキから各機出撃

 イッキャとベリラは、アッパーデッキから、基地を囲む断崖を伝って、現場に潜入?









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