#020
今回からの新キャラ&メカ!!
#020
※これまでのあらすじ※
海を越えて新天地の中央大陸に足を踏み入れるなり、海岸線から一気にその内陸部にあるという、敵基地への進軍と奇襲攻撃、そしてこの地域一帯の占領――。
因縁続きの強敵たちとの海上の攻防戦から立て続けのハードな作戦が、だが意外にも、いともあっさりと遂げられてしまった。
この作戦の先鋒部隊として突入したベアランドたちクマ族のアーマー小隊は、そこでこの大陸「アストリオン」の若手の正規軍兵士、ブタ族のタルクスと出会い、それによって連れられてきたある重要人物、イヌ族のシュルツ博士とも無事に合流。
その後に彼らの母艦であるトライ・アゲインとも合流し、今は完全に廃墟と化した元陸軍基地の滑走路に停泊する母艦の中で、それぞれがひとときの余暇を過ごしていた。
Part1
クマ族たちが属するルマニア軍の中でも、最大規模と性能を誇る、超大型の最新重巡洋艦の、そこは広大なハンガー・デッキ。
その中にいつの間にか見たこともないような巨大な人影があるのを、神妙な顔つきで見上げる、ふたりのクマ族の姿があった。
どちらもクマ族の中ではかなり大柄で、共にしげしげと興味深げに見上げては、その二体の人型戦闘ロボットを観察している。
その中のひとり、濃緑色のアーマー・パイロットスーツにその身を包んだ、若いクマ族が言った。
「ほんとにどこからどう見ても、どこにもさっぱり見覚えがない機体だよな、このどちらとも? 実際、どこの国の軍隊にだってこんなおかしな見てくれのアーマー、ありゃしないよね? てことは完全にオリジナルの機体、なのかな??」
そう心底いぶかしげにこの隣に立つクマ族、じぶんよりもさらに大柄でふとっちょなチーフ・メカニックマンに聞くのだった。
すると聞かれたもう一方、メカニックマンのくせにパイロットスーツみたいな、やけにがっちりとした作業着を着込んだ巨漢のクマ族、年齢的にはもういいおじさんのイージュンは、さも気のない返事で答える。
目の前の巨大な人型戦闘ロボに、果たして興味があるのかないのかわからないようなそぶりだが、本心はどうだかわからない。
「……オレも、こんなのは初めてお目に掛かったよ。できればどっちも全身バラして細かいところまで見てやりたいもんだが、これ以上、仕事を増やされてもたまらない! かと言えあの機械小僧のおチビちゃんも、今はおまえさんのおばけアーマーにかかりっきりで、ろくすっぽ手が回らないんだろう?」
じゃあどうするんだよ? と逆に冷めた目つきで聞かれてしまって、さあ? とばかりに、みずからの大きな肩をすくめさせる若手のエースパイロットの隊長さんだ。
「まあね? でも向こうさん、あの若いネコ族とゴリラ族くんたちも、じぶんたちのアーマーには勝手に触らないで欲しいって話だったから、いいんじゃないのかな? アーマーを収容するデッキさえあれば、後はじぶんたちでやってくれるらしいよ。きっと慣れてるんだね♡」
「そんなもんかね? 言えば流しで戦場を渡り歩いてる傭兵くずれどもなんだろう? こんな見るからに怪しい珍奇なアーマーを道連れにしてちゃ、往生することばかりだろうにな……!」
半ば呆れ混じりの言葉に、内心ですっかりと同意して苦笑気味にうなずくベアランドだ。
「ま、いろいろと訳ありみたいだね。でもどうしてかうちのボス、艦長とも知り合いみたいなカンジだったけど? 違うのかな??」
「ああ、そういや、我らが総大将の艦長さまがわざわざブリッジから降りてきたんだろう? あのならず者達に会うために??」
やけに不可解げなメカニックマンのセリフに、こちらもさも不可思議そうに目をまん丸くして答えてやる。
「まあ、素性のわからない人間をおいそれと旗艦のブリッジに上げるわけにもいかないから、便宜上そうなったんだろうけど、詳しくはわからないな。あのふたりに聞いてみないことには。でもふたりともきょとんとしていたような? あんな大御所のスカンク族さまが、一方的な知り合いってことでもないだろうにさ!」
いいながらこの太い首を傾げて、ちょっと前のことに思いを巡らせるベアランドだ。
そう、このじぶんの立ち会いのもと、デッキのブリーフィングルームで相対した老年のスカンク族の艦長と、若いふたりのアーマー乗りたちは、そこではろくに言葉をかわすこともなかった。
だが、そこでふとしたひょうしに顔色を和ませる艦長どのが、確かにこう言っていたはずなのだ。
『ん、おまえたち、大きくなったな……!』
『??』
それを傍でいぶかしく聞くクマ族なのだが、しかし当のネコ族とゴリラ族も意外げなさまで、この目を互いに見合わせていた。
あまり意思の疎通らしきは感じられない。
果たしてこの艦長だけが得心したさまで、その場を後にするのだった。このあたり、たぶん当人たちに聞いたところで、わからないのだろうと推測するクマの隊長さんだ。
しきりに正体不明のアーマーを見ているにつけ、不意にこのとなりででかい身体を身じろぎさせるメカニックマンがささやいてきた。
「お、噂をすればなんとやらだ。やっこさんたちが戻ってきたぞ? てか、あいつらっておまえのとこにつくのか? それともあの口やかましいオオカミ野郎か? 面倒だからおまえのとこに入れてほしいな。第二小隊だったらこのオレの受け持ちになっちまうだろ!」
ちょっとイヤそうな口ぶりに、これまた苦笑いでそちら、右手に視線を流すクマ族の第一小隊隊長どのだ。
「ああ、ブリッジから艦長と一緒に降りてきたオペレーターのイヌ族くんに、この艦のおおよそのところを教わってきたんだろ? ちなみにふたりともぼくらとは独立した、別個の部隊編成になるはずだよ。いきなり編入してもうまく部隊として機能するはずがないし、はじめは守備部隊くらいでいいんじゃないのかな?」
「それがいいな。仕事を増やされたくないし、アーマーを独立して運用するんなら、どうかデッキのすみっこでやってもらいたい。いつまでいるかも怪しいんだろ、ぶっちゃけ?」
「どうだか? できたら本人たちといろいろと話したいんだけど、あいにくで今はまた、別のお客さんが来ているから……!」
「ああ、あの例のキチガイ博士さまか、ちんけなイヌ族の! ん、噂をすればこれまたなんとやらだ。お出ましになったぞ?」
この船幅が通常よりも倍くらいもある超大型艦の構造として、大きく左右に分かれたデッキを中央でつなぐセンターブロックにあるエレベーターから姿を現した、二人の新参者たち。
そしてそこにこれまた新たな新参者、こちらはやけに小柄な人影が、おとなりのもうひとつのエレベーターから出現する。
こちらはおまけでお供の若いブタ族を引き連れていたが、それを置き去りに早足で突き進むイヌ族の博士は、脇目も振らずでまっすぐにこちらに向かってくる。
それに後から大慌てでこれに追いすがろうとするブタ族、名前は確かタルクスとか言ったはずの若手のパイロットなのだが、いきなりけつまづいてはそれきりあえなくその場にいたゴリラ族とネコ族にとっ捕まっていた。
なにやら騒動になっている。
もはや独りよがりなイヌ族には、すっかりと見放されていた。
新人同士のブタくんはいっそそちらに任せて、まずはこちらに向かってくる問題児のイヌ族と向き合うベアランドだ。
隣のイージュンは浮かない顔で、ただじっと目配せしてくる。
つまるところでお前に任せると言っているようだ。
確かこのベテランの技術屋の師匠は、こちらのお抱えの若手技術主任とも共通で、おまけに同じイヌ族ながら問題の博士とは、それこそが犬猿の仲で有名だったはずだ。
どうやら弟子の立場からしても苦々しい存在らしい。
混ぜるな危険……!
言われるまでもなくそれと察するクマ族だった。
それだからリドルと博士には互いにこのことは伏せておこうと心に固く誓うベアランドだ。
「ほんとにこれ以上めんどくさくなるのは勘弁願いたいからね! うわ、すんごい真顔だな? 博士、どうも♡ ところで何をそんなに急いでいるんだい?」
適当に当たらず障らずして語りかけてやったところ、すぐにもこの脇を通り過ぎる勢いの白衣の老人は、だがそこでピタリと立ち止まる。挙げ句こちらを見上げたかと思えば、つまらないものを見るようなひたすらな真顔で言ってくれた。
「ふん、おまえこそ何をそんなところでのんびりしているのだ? 時間は有限、一秒たりとも無駄にはできないものを……! ならばさっさとこのわたしをきさまのアーマーのところまで案内しろ。無論、主任のメカニックにも招集をかけてだな! この艦の構造からすればあちらなのだろう? ゆくぞ!!」
「あ、そんな急がなくても……行っちゃった!」
「いいから行ってこいよ、ゴリラと猫と、あとついでにあのぶぅちゃんの相手はオレがしてやるから!」
ベテランのメカニックにそう促されて、やれやれとその場を後にするクマ族のパイロットだ。
見ればイヌ族の博士はシッポを左右に大きく揺らしながら遠くの角をさっさと曲がってこの姿を消す。
いいトシなのに元気だよなあw。
とか言いながら、独りよがりで偏屈な博士が行った先でおかしな問題を起こしていないかを想像したら、自然とじぶんも早足になっていた。
そして案の定、その先でやはりちょっとした騒ぎが巻き起こるのをリアルタイムで目撃することとなる隊長さんは、またしてもやれやれとみずからの肩をすくめてしまうのだった。
Part2
いわく、弱い犬ほどよくわめく……!
まさしくその通りで、角を曲がった先でそれはキャンキャンとやかましくわめき立てる、小柄な白衣姿のイヌ族の老人だ。
これに内心でいささかげんなりとなるベアランドだった。
そこにはまたおなじくげんなりしたさまのおじさんのクマ族たちがふたり、より近くにいるものだからなおさらに耳が痛そうな顔して、この老博士を眺めていた。
またおなじくクマ族でこちらはずっと若いクマ族のメカニックスーツの青年も、かなり困惑したさまで小柄な毛むくじゃらの犬族にいいようにギャンギャンと噛みつかれている。
いっそ本当に噛みつきそうな剣幕に、やれやれと苦笑いして仲裁に入る隊長さんだ。
「やれやれ、穏やかじゃないな? どうしたんだい、リドル、そちらの博士さまになにか失礼なことでもやらかしたのかい?」
そうあっけらかんしとた軽口みたいにいいながら、実際にはそんなはずはないだろうことは重々承知している。
そんな苦笑いの小隊リーダーどのに、対して小隊のアーマーを一手に引き受ける天才的メカニックの青年、もっと言ってしまえば少年のクマ族は、慌てて敬礼して返してくれるのだ。
陰険にして口さがない博士とは打って変わったとっても律儀で礼儀正しいさまに、またしても、あはは! と苦笑いしてしまうベアランドだった。
「はっ、少尉どの! ああ、いえ、その、じぶんは何も失礼なことなどはっ、て、博士どの? なのでありますか、こちらが?? それは失礼いたしましたっ……ですがいきなりどこからか現れて、このじぶんのことを見るなりに大きくわめかれて……!」
若いクマ族がかなり困惑したさまでおろおろするのをはじめどうにもおかしく眺めてしまうが、それをやはり傍でながめているおじさんのクマ族たちのうんざりした顔つきを見ているにつけ、状況をそれと把握する若いクマ族の隊長さんだ。
「そうか。二人とも今日が初対面だったよね? もっと早くに引き合わせておくべきだったかな。確かにどちらもびっくりだ。こんな小柄なおじいちゃんの博士と、こんなやたらに若くしたチーフメカニックくんじゃ!!」
そう笑い飛ばしてやるのに、当の博士はあからさまに不機嫌なさまでにらみ付けてくる。加えてまたキャンキャンとやかましくのたまうのだった。
それだから広いアーマーのハンガー・デッキの中をキンキンとこだまする老人の癇癪を、右から左に聞き流してはただ鷹揚にうなずくパイロットだ。
「フン、誰がおじいちゃんだ、失敬な! それよりもなんだこの貧相な小僧は? よもやこんな青二才がチーフメカニックだなどとほざくのではあるまいな? まったく飛んだ茶番だ。艦長を呼べ! わざわざこのわたしが出向いてやったのに、みずからの持ち場を留守にしておったあのうつけものをだな!!」
「ひどいな? ああ、そうか、ンクス艦長とは入れ違いになっちゃったんだ。ならもう今頃はブリッジに戻っているはずだけど? でも呼んだところで来てはくれないんじゃないのかな。それにそっちこそ失礼なんじゃないのかい、うちの自慢の天才メカニックさまをただの小僧呼ばわりだなんて! ね?」
そう言って傍で傍観者を決め込んでいる、ふたりのベテランパイロットに同意を求めてやるに、当のおじさんのクマ族たちは、ちょっと慌てて互いの目を見合わせる。
「はぇ? ああ、確かに、見た目はめっさ若いんやけど腕は立派なもんちゃいますか? ぼくらのアーマーを見た時も、機体の特徴や整備のクセを、一発でそれと見抜いてくれはりましたから」
「せやんな! わざわざ言わんでもかゆいところに手が届きよるし、何より、アレなんやろ? この子の師匠はん、めっちゃ有名なブルドックのおじいやんな? なんちゅうたっけ、確かドルスとか、ブルースとか……?」
ザニーのセリフに相づち打つかたちでダッツもうまいこと同調してくれるのだが、あまり触れては欲しくないところまにで突っ込んでくれるのには、顔つきが微妙なものになるベアランドだ。
相棒のザニーもちょっと微妙な面持ちでもってダッツに返す。
ただしそれがだめ押しの決定打となった。
「ブルース・ドルツちゃう? 名機の影にこのひとありと歌われた、泣く子も黙る鬼の整備士(メカニック)! ちゅうか、それってゆうてええんか? そのひと、この博士さんとは犬猿の仲やったんちゃうん?」
「あ、せやった! 有名やんな、めっちゃ! あれ、マズイことゆうてもうたか、おれ??」
「あらら……!」
慌てた調子で見返されても、返事に困る隊長さんだ。
リドルだけがきょとんとしたさまで周りのクマ族の反応を見つめている。ある地方のひなびた陸軍基地で身寄りの無いのを拾って育ててくれた犬族の老人は、まだ現役の凄腕メカニックであれども、みずからの過去の偉業は語ることがなかったらしい。
この目の前の性格冷血にして冷徹な博士と、とかく人情家の機械屋とでは、たとえ同じイヌ族であれど、火と油で交わることがないのは考えなくともわかるだろう。
おかげで微妙な空気がその場を支配するが、仏頂面した博士がやがて目の前の若い整備士に鋭い視線を投げかける。
余計にカンに障ってしまったものかと内心でヒヤヒヤするクマ族のパイロットたちが見守る中で、だがイヌ族の老博士は何食わぬさまで言うのだった。
「ブルース、だと……? ふん、あのくだらないおよそ数値にもならぬ感情やら感覚ばかりをほざくブルドックの機械屋めか? ならばまったく愚にも付かぬ世迷い言ばかりでこのわたしにことごとく楯突いた、あのおおたわけめの教え子だと言うのだな? 貴様は??」
「は、はい? ああ、ブルースは確かにこのぼくの育ての親であり師でもありますが、その父と何か関係がおありなのですか? でもあんまり良好な関係ではなさそうな……!」
ひどく怪訝な青年に、思わずうんうんと頷いてしまう隊長さんだが、この後に続いた博士の言葉には目をまん丸くしていた。
「ふん。いいだろう……! いささか性格に難ありではあったが、整備士としての腕は確かに一流ではあった。それだけは認めてやれる。それ以外はもはや全否定だが、それの弟子であるのならば、それなりのものは期待ができると推測はできるのだろう? ならばこのわたしが直々に見定めてやろう、貴様の価値、ちゃんと数値化したまごうことなきその真価をだな!!」
「は、はい??」
おじいちゃんの博士から真顔で言い放たれたセリフにすっかり面食らって、もはやちんぷんかんぷんのリドルだが、それをおなじく意外に聞くベアランドは、そのくちもとにこれまでとはまた違った苦笑いを浮かべていた。
「へえ、おやおや……!」
意外と気に入ってくれたものらしいとリドルにウィンクしてやる。やっぱりぽかんとしたさまの整備士だ。
「おじい、気に入ってるやん? おれらのチーフのこと!」
「ほえ、それはそれで微妙ちゃう? 正直めんどいでぇ、こないないらちなひと! ぼくやったらパスやわ、パス」
ダッツとザニーが小声で皮肉めいたことをぼそぼそ言っているが、そんなもの一切聞く耳持たない博士はさらに鋭く言い放つ。
「まずはアレの戦術解析データを見せてもらおうか。これまでのものをすべてだな? メインのコントロール・ルームに案内しろ。わたしのラボのメインコンピューターとただちにシステムを同期させ、以後はすべてこちらの指示に従ってもらう……!!」
「ラボ、でありますか?」
まったく話の流れについて行けてない整備士くんに、隊長さんがしたり顔して大きくうなずく。
「ああ、特別に博士専用の研究室を割り当ててもらったんだよね? みずからの個室(セル)じゃなくて、ちゃんとした作業場ってヤツをさ? でも場所がみんなの居住区じゃなくて、ひとりだけ機関室、つまりはこの艦のメイン・エンジンのすぐ隣りの、言ったらデッドスペースの倉庫だったけ??」
「倉庫ではない。ラボだ。ちゃんと資材や装置は運び込まれている。十分なスペースを確保するのにそこしかなかっだけの話」
「は、機関室のおとなりって、ひとが住めるようなとこやないんちゃうか? めっさ揺れるし、音もおっきいやろ??」
「ほえ、あとおまけに暑いんちゃう? そないなとこでアーマーの研究とか落ち着いてできへんのちゃうんけ??」
「まあね……!」
若干引き気味のおじさんたちにはこちらも疲れた苦笑いして、いやはやと肩をすくめる隊長だ。
だが何事でもなさげな博士は、周囲からのつまらない指摘をことごとく聞き流す。おまけしれっと言ってのけた。
「騒音や振動ごときは気にしなければいいだけの話だろう? よもや心頭滅却すれば火もまた涼し、という言葉を知らんのか?」
完全にどん引きするクマ族パイロットたちを尻目に若いクマ族の整備士にくってかかる博士は、しまいには付いてこいとばかりにシッポを一振りして、いずこかへと足早に突き進んでいく。
ただの当てずっぽうでだ。
さっき案内しろとか言っておいて身勝手な振る舞いにびっくりする整備士くんだが、慌ててこの後に追いすがる。
「あ、待ってくださいっ、博士! そちらはただの資材倉庫ですから、コントロール・ルームはあちらになります!!」
「早く言え! この役立たずめが!!」
クマ族のパイロットたちだけが取り残された場には、それきり嵐が過ぎ去ったような静けさがわだかまる。
やがて中でもベテランの赤毛のクマ族が言った。
「ええんですか? 大事な大事なぼくらのメカニックくんを、あないなしょうもないイヌ族のおじいに預けてもうて??」
「……ああ、いいんじゃないのかな? 意外と相性が良さそうな気がしてきたし。あのリドルをキライになる人間なんてそうそういはしないよ。あとあの子の腕の確かさを見れば、博士は決して邪険にはしないさ。そういう人間だよ」
「なんかビミョーやな……?」
あんまり納得がいかないような浮かない顔つきで目を見合わせるクマ族のおじさんたちには、やはり仕方がないよと肩をすくめるしかない、おなじくクマ族の若い隊長さんだった。
Part3
終始マイペースでなおかつキャンキャンとやかましいイヌ族の老博士と、これに慌てて追従するまだ若い青年クマ族の整備班長の気配は、まだしばらくはそこかしこに感じられた。
そこにかすかな反響音(エコー)を伴って。
だがさすがにこの視界からすっかりと消え失せたらば、それきり辺りはシンとした静けさに見舞われる。
おそらくはこの真上の上層階にあたる、目的のコントロール・ルームへと入ったのだろう。そこはハンガーデッキからの出撃射出時のカタパルトの集中制御と、収容された各アーマーのデータが集積される、戦闘を担う現場方の頭脳とも呼べる場所だ。
関係者以外は立ち入り禁止で、立ち入ることができるのはデッキクルーの中でもごく一部に限られる。そこになにかとやかましい博士のわめき声も厳重に密閉されたのだろう。
かくしてかすかにため息ついてその場に取り残された者同士、お互いの目を見合わせるクマ族のパイロットたちだ。
ちょっと疲れた感じで微妙な表情のベテランたちには、ま、仕方が無いよ……! と肩をすくめるばかりの隊長のベアランドだが、折しも背後からはまた新たなる気配がするのにそちらを振り返る。
軍用艦としても縦にも横にも馬鹿げた大きさでひたすらに広い艦内、必要がないところは極力照明が落とされた暗がりの中に、やがて大小さまざまな人影が浮かび上がるのをじっと見つめる。
おおよそでこの予測はついていたが。
よって、今度は博士以外の新人さんたちがこぞってこの場に顔を出してくるのを、まずはただ黙って迎え入れてやった。
背後で低いしゃがれ声が上がるのがわかったが、そう、本国ではなかなか見かけることがない、だが今となってはすっかり見慣れた若いブタ族以外にも、かなりレアな種族がまじっているのにおかしな感慨じみた感想をくちぐちに漏らすおじさんたちだ。
三人いる人影の中でも一番最後につけている、ひときわ大柄な真っ黒い毛だるま、もとい毛むくじゃらでおまけ筋骨隆々としたのは、これが遠目にもひと目でそれとわかる、ゴリラ族である。
言うなればこのクマ族たちの出身地である東の大陸でもそうはお目にはかかれないレア種であり、見たところまだ若いのだろうに、何やら言いしれぬ迫力みたいなものがあった。
まずこの顔だけ見たら、やたらにコワイ……!
その手前に肥満体型のブタ族のタルクスと、こちらは見てくれシュッとした細身で小柄なネコ族がいたが、いやはや後ろの筋肉だるまに見た目において圧倒されて、まるでこの存在感が目立たない。
ただし良く良く見れば、ネコ族でもこれまたレアな見てくれした、かなりクセのある雰囲気の出で立ちなのだが……。
おじさんたちの目にはまるで入らないようだ。
「ほええ、あのゴリラ族のアーマー乗りの子、思うたよりもほんまにゴリラゴリラしてるんやなあ? ちゅうか、ゴリラ過ぎるんちゃう? あんなのケンカしたら勝たれへんて!」
「しっ、聞こえてまうで! まっぴらやわ、あんなゴリゴリの筋肉ダルマとバチボコやり合うなんて、ロケットランチャー必要やんけ! うちの隊長さんくらいなんちゃうか、あんなんと生身で対決できるんは?」
「ぼくらの隊長さんでもキツいんちゃう? 何より顔がコワすぎるわ、愛されへんて、あの顔でバナナが大好きなんやろ?」
「それはええやんけ! ギャップがカワイイやろ、てか、バナナあげればええんやな? バナナであのガタイもちよるんか??」
そんなベテラン勢のしょうもないひそひそ声に苦笑いしながら、新人のパイロットたちに声をかける第一部隊の隊長さんだ。
「やあ、ふたりともこの艦の内部に少しは慣れたのかい? えっと、後ろのいかついゴリラ族がベリラくんで、前のはネコ族の、イッキャくんだったよね? 歓迎するよ、本艦のアーマー部隊大隊長として! 見ての通りで人手が足りなくて困っていたところだからね? もちろん、タルクスも!」
すっかり意気投合した、と言うよりはやや相手に押され気味で足下がおぼつかないブタ族がブウ!と返事をするが、あいにくとでかいゴリラと小柄なネコの反応は希薄だった。
だがここらへん、元から仲良しこよしをする気もないクマの隊長も、まるで気にせずに相手からの返事を待つ。
するとしばしの間を開けて、真っ黒い山みたいなシルエットのゴリラ族くんが、みずからの眉間を右手でポリポリ掻きながらにのんびりした調子の言葉を返してくれる。
「まあ、こちらこそこうしてお世話になるからには頑張らせてもらって、ここの艦長さんからもついさっき破格の待遇を示してもらってるし……! やけに気前がいいのがなんだかビックリだったけど、ねえ、イッキャ??」
「ああ、それはこっちもおんなじだよ、というかやっぱり、思い当たるところがないって感じなんだな? はて……」
相棒のゴリラの言葉にも、細身のネコは曖昧なさまでかすかにうなずくのみだ。そんな相手の口ぶりからこのふたりよりも、むしろ当艦の艦長どの自身に探りを入れたほうが話が早いようだと考えあぐねる。
やはり少しは気にはなったし、このアーマー乗りたちの乗る妙ちくりんなアーマーもかなりのクセがあって、ならばいっそそこら辺からも多少は手がかりが見いだせるかも知れない。
さっきは興味がないとか言っておきながら、今頃はこっそりとでかい図体をそのあいだに潜り込ませて、見慣れない機体をあれやこれや詮索しているにちがいない。あの機械オタクのクマ族のおじさんメカニックに聞いてみれば、それなりにおもしろい答えが返ってくるかもしれなかった。
だったらちゃんとこの時間を稼いでやらなければね!と内心でペロリと舌なめずりするベアランドに、対して小柄なネコ族めがやや怪訝な目つきで見上げながらに返してきた。
見てくれそぶりがやけにのんびりしたゴリラ族とは違って、こちらはかなりカンが利くほうなのかも知れなかった。
「……そうだニャ。ただしありがたく使わせてもらうが、あくまでやり方はこちらにまかせてもらうのだニャ! 余計な指図はやめてもらって、それでも十分なパフォーマンスを出せるはずなんだニャ、このオレたちにゃら!」
真顔でとかくきっぱりとした言いように、背後からまたおじさんたちの声が上がる。
「ほぇ、聞いたか、やけに小生意気なネコちゃんやな? 顔つきからしてえらいふてぶてしいっちゃうか。相棒のゴリラくんはのんびりしてるけど! さてはバナナ切れてるんか? こないな子らとうまく連携なんて取られへんのちゃう、ぼくら?」
「ちゅうかおれらは関係あらへんのやないか? 空なんて飛ばれへんのやろ、あのアーマーどっちも? むしろ地べたかけずり回ってる第二小隊の、あっこの気むずかしいオオカミさんとビビリのワンちゃんたちなんちゃうん、知らんけど!」
「ほえ、そやったらなおさらムリなんちゃうんけ?? ほんまに相性最悪やで! くわばらくわばらや……」
もはや結構でかめのひそひそ声には若干肩をすくめながら、あくまで鷹揚に応えてやるアーマー部隊の隊長さんだ。
「そうかい。なら楽しみにしてるよ。あとメンテナンスは自分たちでできるってことだけど、まともなメカニックがひとりもいないんじゃさすがにアレだろ? とりあえずとびっきりの腕利きをひとり紹介したいんだけど、本人も興味あるような口ぶりだったから。もちろん、余計なことなんてしやしないからさ!」
いかにも軽いノリで言ったそぶりの提案に、果たしてあちらはやや怪訝な面持ちでこの太い首を傾げるゴリラ族だ。
「え、別にそんな気をつかってもらわなくても……? よっぽど大破とかしちゃったらアレだけど、ここっていわゆる最新式のフルオートのマルチ・メンテナンス・デッキだから、ヘタなメーカーのそれよりかよっぽど設備としては整っているもんね?」
嫌がるほどではないがあまり乗り気でないさまなのに、無理強いしたら勘ぐられるなとそれ以上はしつこく言及しないベアランドだ。当たり障りのないことをうそぶいてやる。
「まあね! オートにしても限度はあるから、最終チェックもかねて要所要所でメカニックがいるんだけど、若い子の勉強がてらになったらいいと思って。ま、トシが近そうだからお互いに気も合うと思うし」
「へぇー……」
あんまりピンと来てないふうなゴリラ族、ベリラと名乗ったアーマー乗りはこの場の話し合いにもさして興味がないらしい。
しまいにはてんで明後日のほうに目線が向くのに、こちらもこれ以上の追撃は諦めて、手前にいるネコちゃんのほうに目線を落とした。見ると何やらもの言いたげなそぶりでこちらを見ていたネコ族のパイロットだ。
あとついでに何やら居心地の悪そうにしているブタ族にもみずからの背後を目線で示してほらと促した。
「タルクスは自前のアーマーがまだないんだから、うちの整備主任の補給機を引き継ぐんだよね。だったらそっちのザニーとダッツに連れていってもらえばいいよ。実戦ではこのふたりのベテランたちとつるむんだから、しっかりと話し合っておかなきゃ♡」
「ぶっ、ブウ! ああ、そう言われてみればそうだったんだぶう、それじゃよろしく頼むんだぶう! 先輩のクマさんたち!」
ベテランのおじさんたちと合流して、そこからがやがや騒ぎながらの気配がやがてこの上階へと流れていくのに、そこであらためてネコ族に向き直るクマ族の隊長だ。
するとネコ族、細身で小柄の簡易的なパイロットスーツに身を包んだイッキャは、鋭いまなざしで意味深な口ぶりだ。ちなみに相棒のゴリラ族とは色違いの同一仕様のラフなスタイルである。
「メンテナンスのはなしは聞くだけ聞いておくニャ! しかしそれならこちらも耳よりな話があるのだニャ。うんっ、そう、それは腕利きのパイロットと強力なアーマーの……! 見たところどうやら人手不足らしいから、こちらも悪い話ではないはずニャ」
「ああ、あいつらのコト? 話しちゃうんだ? 確かにあの女社長、クライアントに飢えてるとか言ってはいたけど……」
「ここなら文句のつけようがないニャ。オレたちのアーマーが引き受けられるなら、当然あいつらのアレもいけるはずニャ」
「?」
出し抜けにした何やら思ってもみない話の向きに、はじめただきょとんとしてふたりを見返すベアランドだが、マイペースなアーマー乗りのコンビはふたりだけで話を進めていく。
「ううっほ、確かにさ、ここって大型機が入るデッキがふたつもあって、その内のひとつは空いてるとか言ってたっけ? あれ、これって誰の話だったけかな? ん~……でもほんとにひとつ空っぽみたいだから、入るちゃっあ、入るのかなあ??」
「しっ、余計なことは言わなくていいんだニャ! だが戦力は少しでも多いに越したことはないはずニャ。あいつらはおいしい仕事にありつけてウハウハ、こちらは腕利きのパイロットが確保できてウハウハ、おれたちはどっちにもいい顔ができておまけに恩まで売れて、これまたウハウハのウィンウィンウィンにゃ!」
「あいつらって腕利きなのかな? そこだけが引っかかるけど」
ここに来てやや目つきが怪しげになるベアランドだ。
「あれ、勝手に話が決まりかけてないかい? さっぱりわからないんだけど。まあ、ならとにかく聞かせてもらって、その上でアーマー隊長として判断してから上の艦長に、ああ、もとい、その前にこのデッキを仕切るチーフメンテや、第二部隊の隊長のシーサーの了解も取り付けないといけないし。本国からの援軍が当分見込めないから傭兵部隊の参加はいつでも大歓迎なんだけど、いきなりの飛び込みはさすがにアレだものねえ?」
やんわりと前置きしてからしっかりと釘も差した。
「あと、それで言ったらきみらの実力もまだわからないままだし……!」
「それはおいおい示してやれるのニャ。この艦は常に戦場の最前線を突き進むと艦長が言っていたはずニャ、それならオレたちアーマー乗りの戦いにも事欠かないはずニャ……」
「うほ、だから破格の報酬を確約してもらえるんだものねぇ? なんかドキドキしてきちゃうな。武者震いっていうのか、あんなコソコソしないで正々堂々と戦場に立てるのって、いつくらいぶりだろ? もしかしたら初めてじゃない??」
「だから余計な話はするなだニャ!」
意味深な口ぶりで目を見合わせるゴリラとネコに、それを傍から見ているクマはしれっとかまをかける。
「ああ、そうだ。そういや、ここの基地を襲撃してまんまと壊滅に追いやったのって、さてはきみらの仕業なんだろ? いわゆる正当派のアストリオンに対立する新興革命派の最前線で、これに反抗する地元の現王権支持のレジスタンス勢力が活発に動いているって話だけど、いっぱしの軍隊相手に素手の野党がかなうはずがない。ましてこの前線基地を墜とすだなんて、腕利きの傭兵を雇わないことには、ね?」
もはや決めつけた言いように、果たしてふたりの傭兵たちは無言で目を見合わせた後に、やはり意味深な笑みを浮かべてこちらを見返してきた。
これと言及はないが、顔にはそれと書いてある。
決まりだな……!
予想していた通りなのをはっきりと確信して、それ以上は何も言わないベアランドだ。よってその実力があるのも了解して、ならばあちらの話の信憑性もそれなりには見込めるのだろうとネコ族の提案を聞いてやることにするのだった。
そうして実際にこのアーマー乗りたちの実力を確かめることになるのは、この数日後のことである。
ベアランドたちクマ族ばかりのアーマー小隊に新しく加わった、ブタ族のタルクスの初陣も含めて。
※次回に続く…!
プロット
ベアランド ダッツ ザニー →博士とリドル、離脱。
←イッキャ、ベリラ、タルクス 合流。
イッキャ ベアランドに話しがある。タルクスはダッツとザニーと打ち合わせの予定。タルクスはリドルのビーグルⅣを引き継ぐ段取り。
プロット
#020 プロット
トライ・アゲインのハンガー・デッキにて……
登場人物 ベアランド、イージュン、イッキャ、ベリラ、博士、タルクス、ザニー、ダッツ、リドル、(ウルフハウンド、コルク、ケンス?)
お話の冒頭で、いきなりベリラとイッキャが登場。このアーマーもおなじく登場。レジスタンスの一味として砂漠の陸軍基地を攻略したものの、後から来たトライ・アゲインに占拠されてしまい、この奪還を試みたものの、あっさりと見つかってしまう。
口からでまかせ?でフリーの戦術アドバイザーを名乗り、人手の足りない主人公たちの戦艦にノリと流れで乗り込んでしまう。
二つ並んでアーマー、リトル・ガンマンとカンフー・キッドを見上げながら、ベアランドとイージュンのだべり。
イッキャとベリラの元に、ブリッジから艦長、ンクスが降りてくる。「大きくなったな……!」謎の言葉を残して。
博士は、艦長と入れ違いでブリッジからデッキに降りてくる。
タルクスも護衛として同伴。タルクスはアーマーがないので、便宜的にリドルの補給機、ビーグルⅣを乗機とする。
ザニーとダッツ、めんどくさい博士を見送ってからイッキャ、ベリラ、タルクス(博士の後をおっかけてずっこけたところをつかまる)と合流。アーマーのお話で盛り上がる。
ベアランド、博士とリドルの引き合わせ。ダッツとザニー
ベアランド、リドル ← ベリラ、イッキャ タルクス
パート②
アーマー部隊出撃。イッキャとベリラも出撃。ベアランドはお目付役として上空から待機。