カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア戦記 #004

第二話 「クマとオオカミ。真逆のふたり?」

 第二話

『クマとオオカミ。真逆のふたり?』

 #004

※おはなし、挿し絵(イラスト)ともに随時に更新されていきます! 今はやりのいろんな配信アプリを用いて挿し絵やキャラクター、メカニックのデザインなどを動画配信、こちらのホームページと同時進行でやってまいります♥ ちなみにこのお話あたりから主人公のデザインがしれっとモデルチェンジしてたりします(^^) あしからず♪

 某日、未明。

 まだ夜明け前なので外は暗い。

 なのにかまびすしいサイレンがまたしてもオンボロな戦闘ロボの格納庫の中にわんわんと鳴り響く!

 もはやいたって日常の光景だが、ドタドタとした足取りでデッキ内に入ってくるなり大柄のクマのパイロットがひどいうんざり顔で愚痴をわめいた。

「ああっ、うるさいったらありゃしないな! リドル、もういいからこのサイレン切っちまってくれよ? 鼓膜がどうにかなっちまいそうだ!! よっと……!」

 耳を刺す騒音から逃げ込むみたいな感じでみずからのアーマーのコクピットにいそいそと潜り込むでかいクマに、後から駆けつける小柄で華奢な若いクマ族がひどく恐縮したさまで返事をする。


 どこぞかに向かって何事かこちらも喚いていたが、おそらくはデッキのおやっさんにサイレンを切ってくれるように懇願したのだろう。

 目の前のパイロット同様、あちらは雲の上の存在のような大ベテランの上官でおまけ親代わりのお師匠さまだから、きっと板挟みなのに違いない。

「ベアランド少尉どの! サイレンは機体が出撃しなければ止めることが出来ないとのことでありますっ! それとウルフハウンド少尉どのはすでに出撃しておられますっ、こちらもすぐに出られますのでただちにアーマーの立ち上げお願いします! チェック、三十秒で済ませます!!」

「あっそ、いつもながら優秀だね! 相棒のオオカミくんがひとりで突っ走ってるのはやっぱりいつものこととしても、どうして敵さんてのはこう朝が早いのかね? なんかしらの意図があるんじゃないのかと疑っちゃうよ」

「はい? あ、警報止まりました! でも師匠が怒ってるみたいでしたが。ハッチ、さっさと閉じますか?」

「ははっ、あのダミ声でがなられたらサイレン鳴ってるのと変わらないもんな! それよりシーサーのやつは結構先行しちゃってるのかい? アーマーの性能をいいことに脇目も振らずに敵陣めがけて突っ込んでくから、あれじゃいいかげんに包囲網とかをしかれちまうんじゃないのかね??」

 呑気な口ぶりで思ったこと言ったら地べたのあたりから例のだみ声がしてきた。

 その声いわく、そうならねえようにおめえがしっかりサポートしてやるんだろうが、このノロマのクマ助が!! もはやその顔を見るまでも無くしかめっツラのおやじさんはすこぶるおかんむりのようだ。

 ふたりで思わず頭をすくめて、苦い目付きを見合わせてしまう。

「ああっ……! すでにこちらの通信や観測レーダーの範囲を越えた中立線地帯から敵国側に入っておられるようです。よって少尉どのの機体では合流までにかなりの時間が、とにかく出撃準備済ませます!」



「了解! うん、ならこっちも考えがあるよ。リドル伍長、滑走路の誘導は途中まででいいから、中に待機してこっちの軌道演算のサポートしておくれよ。できる範囲で構わないから、いわゆるミサイル発射の要領でさ♡」

「は、はいっ?」

 さっさとみずからの仕事に取りかかるべく一旦は引っ込めかけた頭をまたぴょこんと出してくる弟分のクマに、でかい図体をみずからのシートにくくりつける兄貴分は鷹揚に笑ってウィンクする。

「いいから! 一か八か、大気圏内じゃそうはスピードが出せないコイツでも、やりようによってはかなりのショートカットが効くってことを実証するチャンスだよ。ま、この場合はシーサーが遠くに居てくれることがミソなんだけれどもね♪」

「はあっ……!」

 相手が言ってくれていること、理解しきれてないふうな若手のメカニックに目付きでうながしてグローブをはめたふたつの大きな拳をゴキゴトと鳴らすベアランドだ。

いたずらっぽい笑みで楽しげにハンガーデッキの前方のまだ暗い西の空を見上げる。

「さあて、楽しくなってきたよね♡」

 みずからの乗り込む大型の機体以外は物音を立てない基地の外れで、人知れず戦いの幕は開ける。

 夜明けは近かった。


 すこぶる順調な進撃だった。

 いまだこれと言った敵影との遭遇もないまま、友軍の基地からもうかなりの距離を単独で走破するウルフハウンドの新型アーマーだ。

 不意に耳障りな警告音がなって、それで二つの川に挟まれた緩衝地帯から完全に敵国側のテリトリーに入ったことを知る。

 鋭い目付きで周囲の景色を写した高精細ディスプレイをねめ回して、不機嫌に舌打ちする血気盛んな新人少尉どのだ。

「ケッ、わかってるよ! にしてもここまでずっとろくなお迎えもなしじゃねえか? レーダーのレンジにも入らない遠くからロケット砲やら機銃掃射やらで威嚇にもならねえ腰抜けどもが、まともなアーマーらしきがどこにも見当たらねえ。このままじゃ敵さんの本陣(基地)にまで乗り込んじまうぜ!」

 さすがに単機でそこまでするほど無鉄砲でもないものだが、思わず毒づいてしまうオオカミ族だ。

 見覚えがある長い海外線をまっすぐに縦断していつぞやの廃墟と化した前線基地を横目に見ながら、うっそうと茂る敵国側の森林地帯に突入!


 その先はかつての農耕地帯で、今は拓けた荒れ地と知れていた。

不可思議なアーマーの反応が感知されてからここまでいの一番で乗り付けて、からっきしでは帰るきっかけが掴めない。

 せめて敵のアーマーのひとつかふたつは撃破して星を稼ぎたいところだった。


 相棒のクマ助はいつものんびり太平楽でまるで気にしていないのだから、ここでライバルに差をつければ一足先に昇格、部隊の隊長の座にもめでたくありつけるやも知れない。

 噂では性格剛胆にして冷静沈着、裏表のない性格が人望にも厚いとされる同僚のクマ族がその候補とされているとは耳にしていた。

 だからと言ってこれをただ快くは認めていない彼だ。

 やる気のないヤツに部隊の指揮など執らせてなるものかと殺気を宿して正面のモニターに食らいつく。

「どらっ! これでどうだっ、ここまで来たらさすがに……!!」

 森を抜けたら予想していた通りに拓けた荒野が広がっていた。

 おまけそこには待ってましたとばかりに複数の敵機が待ち構えていたが、それらは何やら拍子抜けするくらいにぽんつぽつんとに散在していた。

 何故だろう。

 いっそ所在なさげなくらいだ。


 かろうじてこの中心に移動型の機動要塞らしきがあったが、丸裸に近いくらいにその大型の機動タンク艦の周囲には護衛のアーマーも弾よけのトーチカらしきも存在しない。

 かくして出くわすなりそれが散漫に砲弾を発砲していたが、射撃精度なんておよそ無いに等しいくらいにひどりありさまだった。

 それらが周囲の土塊(つちくれ)や林の枝葉をむなしく飛び散らすのに、舌打ちしながらアーマーを加速させる。

 あいにくと馬鹿正直に敵陣目がけて直進するほど無策ではない。

 生まれつきに単独行動を好むオオカミは用心深く雑木林と野原の境を縫うように自機を走らせるのだが、これにようやく周囲でぽつぽつとまばらな敵のアーマー群が攻撃をしかけてくる。

 そのちょっと慌てているみたいに息せき切った攻撃には傾げた頭の隅で?マークを灯しながら、負けん気の強い若造は大口開けてうなりを発する。

「へっ、うすのろのロートルアーマーどもめ! そろいもそろってどこ狙ってやがる? もっとマシなのを揃えやがれよ!! そらっ……」

 あんまりひとりで調子に乗っては、しまいには囲まれて袋だたきに遭うだろう? などとひとを揶揄した相棒の言葉が脳裏をよぎったが、その時はまるで気にもせずで右から左へ聞き流した自信家だ。

 前方には直進をはばむように土があからさまに掘り返された跡がいくつも残り、おそらくは地雷が埋設されているのだろうことを目視できた。


 これ見よがしでずさんなトラップをセンサーでも察知したのをアラーム音が告げるが、それにも構わずにコクピットの制御システムであるシステムコアに命令を発する。

「構わねえさ! ギャング、おまえの力を見せてやれ! スタンドアップ! ゆくぜっ、『ラン・モード』!!」

 言うなり出し抜け、みずからのパイロットシートから勢いよく立ち上がるオオカミだ。

 身体をくくりつけるシートベルトはとっくに取っ払っていた。

 これに合わせて周囲を取り巻くコンソールやパネル、背後の座席がバラバラと音を立てて解体され、周りに障害物のないさながらランニングマシーンのような特異なデバイスに置き換えられていく。

 およそ一秒そこそこ、最低限の安全を確保するべくした手すり代わりのロープが張り巡らせるのみのちょっとした空間が出来上がっていた。

 すると当の細身のパイロットはなんのためらいもなし、唯一残ったハンドリングレバーを両手に構えて直立歩行の構えから一気に両脚を回転させる激走の態勢に転じる。

 これにともない彼を乗せたアーマーそれ自体も常識では考えられないようなスピードの走行モードに突入する。

 地雷原とおぼしき穴ぼこだらけの荒野を猪突猛進!

 鋼鉄の両脚を交互に繰り出して爆走する巨人、ギガアーマーなどおよそこれまで誰も見たことがなかっただろう。

 本来、通常の歩行動作だけではどんなにいっても早足止まりの大型ロボット兵器だ。

 従ってそれ向けに設定された地雷はどれも影が走り去った後にきっちり二拍遅れで空しく爆発、コクピット内で疾走するオオカミ族の機体にかすり傷ひとつとつけることはできないのだった。

 何を意図したものか、広い野原の中心の移動要塞を大きく取り囲むように敵は陣形を組んでいる。


 ならばこのまま大回りに荒野を一週してあらかたケリをつけてやろうと目論むウルフハウンドだが、駆け抜けてやるべくした前方の地雷原が一斉に爆破、大きな土煙を上げて前方の視界をふさがれる。

「チッ……! めんどくせえな、だったらお望み通りに出て行ってやるよっ! ただしノロマなおまえらじゃこの俺さまのギャングは捕まえられないぜ!?」

※まだ執筆途中です! 随時に更新してまいります(^^)
もろもろの都合で次回のお話が先行公開されますが、こちらもヒマあらばきちんと更新してまいります(^^;)

 →次回、#005へのリンクが以下になります(^^)/

 Copyright ©oonukitatsuya, All rights reserved.

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 スピンオフ ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア戦記 スピンオフ No.01

閑話休題・スピンオフシリーズ・第一話♡

「少尉どのたちの休日(プライベート)」 その1 とある居酒屋にて♪

※向かって右手の主人公のクマキャラ、ベアランドのキャラデザインが途中でリニューアルされます!(オオカミキャラのウルフハウンドはそのまま♥)いきなり挿し絵に知らないキャラが紛れてきたら、それが新デザインの主人公となりますので、こちらの旧デザインともどもよろしくお願いしま~すm(_ _)m


 夕刻――。
 夕暮れも間際の西の空がひときわに明るく輝く。
 言えばまだ宵の口だが、田舎の山間にあるとある街中の軽食堂はもうそれなりのにぎわいを見せていた。
 そんな中に、ガラリ……!
 挨拶もなしに扉を開けて訪ねてきたふたりの訪問者の姿に、ピタリ、と一瞬だけ店の中が静まりかえる。
 だがそれもほんの一時だけで、すぐにそれまでの喧噪が場を満たした。
 これにふたりの客も気にした風も無く何気ない顔つきで空いた席を物色、左手のすぐ間近にあった二人掛けのテーブルへと歩み寄った。
 もとい正確にはひとりだけで、もうひとりのは宙にぶらんと両足が浮いたままだったが……。
 ただでさえ普通とは違った見てくれしたからだ付きだ。
 なのにこれがより一層に違和感を増していたのだが、まるで手荷物のバッグを置くみたいなかんじでこの首根っこ掴んでいた同僚のオオカミ男をそうれと下ろして、みずからはその向かいの席によいしょと座り込むそれは人並み外れてどでかいクマ男だった。
 片田舎の地元の人間向けの大衆居酒屋だ。
 よって周りは至って普通の農民や猟師など、平和な生産業者ばかり。
 そんな中でバリバリ軍人さんのオーラを醸しながら、簡素な造りのテーブルと椅子にどかりと腰を下ろして、ひどく物言いたげな相棒のオオカミ族のしかめっツラをこちらはさも楽しげに見返す。
 挙げ句は舌打ち混じりに相手が何か言うよりも早くに手元のメニューを見ながら乱れ打ちみたいな注文を繰り返す大食漢だった。
 なおさら不機嫌面したオオカミが渋い文句を発するのもお構いなし。

「たくっ……! いきなりこんなしけた居酒屋に連れ込みやがって、ひとを手提げバッグみたいに片手で持ち運ぶんじゃねえよ! こんなふざけたプライバシーの侵害行為、たとえ上官さまでもまっぴらごめんだぜっ……て、おいおいっ、いったいどんだけ注文する気なんだよっ!! バケモンじゃねえかっ!?」

 大口開けてついにはツバを飛ばす若い同僚の新人士官に、おなじく未来を嘱望される新型機のエースパイロット候補はこちらも負けずにでかい口を開けて屈託も無く笑った。

「え? だってせっかくのお祝いじゃないか? 待ちに待った新型実験機での祝勝会! 試験運転がまさかの実戦兼ねちゃったけど、お互いめでたく勝ち星上げたんだから、ここは盛大に祝おうよ♡ えーと、ああ、もう面倒くさいからこのメニューにのっかってるの全部持ってきてよ、店員さ~ん!! あとおいしいお酒もありったけよろしく~♪」

「おいおい、マジでどんだけ食う気なんだよ? ありったけってほどがあるだろう?? まったく生まれつき図体でかくてデリカシーのねえクマ族はこれだから! ……おまえのおごりなんだよな?」

 これからこのテーブルの上を占拠するであろう大量の料理を考えただけでも胸焼けがしてくる。
 見かけ細身の現役パイロットは醒めた目つきでのんびり屋の同僚を見上げた。
 するとこちらは二回りはでかくて筋骨隆々としたのが傍目にもまるわかりのラフな私服姿の青年クマだ。
 おおらかに笑って、うん!とうなずく。

「もちろん♡ でなきゃ着いてきてくれやしないだろ、キミってばとってもシャイなんだから! 世間じゃ孤高の一匹オオカミとは言うけど、やっぱりチームワークは大事だよ。だからそこらへんの親睦っヤツを深めるためにもね?」

 そんないつもながらのしたり顔で馴れ馴れしいさまにこちらも仏頂面を隠しもしないオオカミだ。
 おまけ心底嫌気がさしたさまでぷいと鼻っ面を背ける。

「ケッ、この俺さまはてっきりメカニックのオヤジどもが俺たちのアーマーのパーツをどこぞの闇市で買い付けるってんで、その護衛として車に同乗したんだぜ? それがどうして途中であんな野っ原に放り出されて、おまけおまえみたいなむさいクマ公なんぞとディナーを共にしなけりゃならないんだよ!」

「ああ、はじめはその予定だったんだけどもね? せっかくの申し出をあちらから丁重にお断りされたんだよ。おやじさんいわく、ぼくらみたいなよそ者丸出しの軍人さんにいられてもむしろ目立って仕方ないから、どこかよそでもほっつき歩いててくれってさ? 良かったじゃないか、気晴らしのお休みがてらにこうしてふたりで楽しく夕食会ってのも。非合法なブラックマーケットてのはどこも信用こそが第一で、おやじさんくらいに名の知れた機械工ならどこでもウェルカムのVIP待遇なんだって♡」

「はあん、あんなブサイクなブルドックのジジイがVIPとはな……だからってこのザマはなんなんだよ? 俺はちっとも納得行ってねえぞ?」

「まあまあ! まずは腹ごしらえしようよ。広く海に面したこの国の首都部は漁港からの魚介類ばかりで、山国育ちのぼくらにはなじみのない生の食材や食べづらい魚料理ばかりじゃないか? その点、ずっと田舎で山間のここならうまい肉料理にありつけるってもんでさ、ルマニア本国でもお目にかかれないようなグルメもあるかも知れないよ。ほんとに楽しみだなあ♡」

「たくっ……」

 ふてくされたツラでそっぽを向くオオカミに、どこまでも鈍感マイペースなクマはまるで素知らぬそぶりだ。

「んっ! それにほら、ぼくらチームメイトなのにお互いのことなんにも知らないじゃないか? 思えば士官学校時代からの顔見知りなのに、キミってばいっつも一匹オオカミでひととはろくに交わらなかっただろう?」

 どこかおっかなびっくりなさまで店員が持ってきたグラスの水を一息にあおって、継ぎ足しようのピッチャーごと取り上げる大男の軍人さん、ベアランドに同僚のウルフハウンドはひどく醒めた目付きで鼻先の突き出た口元を歪める。

「はん、おまえらみたいな図体でかくてそのくせデリカシーのないクマどもとつるんでたら、身体がいくつあったって足りやしないだろう! かと言えその他大勢のどん臭いイヌっころどもじゃお話にならねえから、ひとりで好きにやってただけってことよ……」

「ふ~ん、でもその『ウルフハウンド』ってのは、これってばどこかで聞いた風な響きだよな? ならひょっとして高貴なお家柄の出だったりするの、キミってば??」

 それは何の気もなさげに発した言葉つきに、だがこちらはひどくかんに障ったふうなオオカミは尖った耳を片方だけ上下に振って舌打ちなんかする。
 相手の言葉をはねつけたみたいなさまだった。

「……チッ、まったくどの口が言いやがるんだよ? とぼけやがって! だったら聞くが、てめえのその『ベアランド』ってのも、クマ族界隈じゃごくごく当たり前のポピュラーなファミリーネームだってのか? 事情が取り込んでるのはお互いさまってもんだろうよっ……!」

「あっはは! まあ、確かにね? 今時は貴族出身だなんて言っても周りからうとまがられるだけだし、それほどの特権や権威なんてものもありやしないし♡ ぼくらただの下っ端軍人さんだしね!」

 鷹揚に腕組みして笑う茶色のクマにしかめツラの灰色オオカミが毒づく。

「ルマニア八大貴族、もとい、今は七大貴族、だったか? どこもとっくの昔に廃れちまって人の口にも上らねえだろう? 俺は生まれた時から景気のいい話を聞いたことがないぜ、その手のことじゃ」

「はは、何かしらの不祥事でお取りつぶしになったのって、10年くらい前のことだっけ? ライオネイルとか言ってたような……確かに今じゃ聞かないよな! あと他には、ワイルドホルスに、キャトレインだっけ? そこに加えてうちとキミとであとみっつ? ええっと……」

「ンクスに、ピコークだろう! あとひとつは俺も思い出せねえが、そんなもん関係がありゃしねえっ」

※ノベルとテキストは随時に更新されます♡

 うんざり顔でかぶりを振る同僚のパイロットに、同じくクマ族の新人パイロットはしたり顔してその言葉付きをひそめさせる。

「う~ん、ま、全く関係なくはないんじゃないかな? このぼくらが任された新型の実験開発機の製造元だとかを考えたら?? そうとも、あれってのは設計段階から特殊なコンセプトと特別な製造ラインで組み上げられたまさしく一品物で、その昔の貴族専用の特注機さながらなんだから! ルマニア本国のアーマー工廠じゃなくて、まんまそっちで一から開発されたって話じゃないか。この本社やその工場がどこにあるのか誰も知らないっていう、あの謎多きアリストクラッツ社のさ!」

「はん、アリストクラッツ、ねぇ……だがそんなご大層な刻印、おれのギャングのどこにもありやしなかったぜ? なのにそのおかげでわざわざ正規のルートじゃない闇でパーツを仕入れなけりゃならないなんてな、本末転倒なんじゃねえのか?」

「確かにね! いずれ赴任することになる新型の大型戦艦にはそれ用のアーマードックがあるっていうから、今の事態はきっと想定外なんだろ? おっと来た来た!!」

 やがてワゴンに山盛り載せられてきた料理の数々に、喜色満面でみずからの太い喉を鳴らすクマに、げんなり顔で舌を出すオオカミだ。
 おまけこの鼻先をひくひくさせてウルフハウンドが言った。

「ん、くせえな! おい、しっかりと生の魚料理があるじゃねえか、てめえの苦手な? あ、てめっ、どうしてこっちに差し出してくるんだよ!!」

「いいからいいから、遠慮しないで♡ たっぷりとスタミナつけなきゃいけない軍人さんがそんな好き嫌いはいけないよ! それじゃぼくはこっちのおいしそうな手羽からいただこうかな♪」

「ほんとにてめえのおごりなんだろうな?」

「あはっ、うんまーい! 店員さん、こっちにビールじゃんじゃん持ってきてぇー!!」

「まったく……!」

 うんざり顔でため息が尽きないオオカミだ。
 素手で鳥の揚げ物を掴み上げるがさつな相棒に対して、こちらは遠くの本国で使い慣れたフォークやナイフではなく、二本の箸を利き手で持って器用に皿から青魚とおぼしき刺身をつまみ上げる。
 きちんと下処理がされた鮮魚は匂いがやや鼻につくが味や食感自体は新鮮で嫌いではなかった。
 呑気な学生みたいなノリで肉料理を次から次へとほおばるでかいクマ助にじぶんの分も残しておけよと内心で毒づきながら、白けた眼差しで見ていたやせオオカミの顔つきにいくらかの陰りが走った。
 無防備な短パンランニング姿の相棒のさまを見ているにつけ、そこに何かしらの違和感を感じたのだ。
 顔つきが怪訝なウルフハウンドはこの違和感の元凶がおそらくは相手の剥き出しの首元、やけにくっきりとしたいかついデコルテラインにあることを突き止めながらにベアランドに問う。

「……おい、てめえ、首の輪っかはどうしたんだよ? 新型機のテストパイロットとして誓約を交わした時からその代償としてはめられたあの邪魔っけなお飾りがどこにも見当たらねえじゃねえか?? こんなゴツイもの、いくら毛むくじゃらでもそうそう見失ったりはしねえはずだ!」

 みずからのシャツの首元からのぞく太い首輪を不快げに指さしながらのそれに、当の問われたお気楽なクマは何食わぬさまでしれっと言ってのける。
 オオカミは大きく目を見張らせた。
 ピンと尖った二つの耳が大きく震える。

「え? どうって、とっくの昔にむしり取っちゃったよ、あんなの! あの太い金属のワッカだろ? だってあっても機能的にまるで意味ないし、邪魔なだけじゃないか? キミこそまだ律儀に付けてたんだ、そんな無意味なお飾り!」

「む、むしり取った!? ちょい待て、コイツは捕虜や重罪人がはめられるそれこそが拘束用の首輪で、内部にゃ逃走防止のための爆薬が仕込まれてるはずだろうが!! もともと頑丈なのにひとたび外したら首から上がきれいに吹き飛ぶってシロモノをどうやって、まさか持ち前の馬鹿力でむりやりに引っぺがしたって言いやがるのか!?」

「うん。そうだよ♡ それに爆薬だなんてそんなのブラフに決まってるじゃないか? 実際にそうだとしたら周りが危なくて近寄れないし、逆に自殺やテロ目的に使われたり、いざ管理するのも一苦労じゃないか?? 心理的な負荷をかける目的以外の何物でもありやしないよ、素手ではほぼ外せないくらいに頑丈に造られてるってあたりからしても、せいぜいGPSが仕込まれてるくらいなものじゃないのかなぁ? あいにくとぼくは素手で外しちゃったけど! 外したブツはもうどっかにいっちゃったなあ」

「おいおいっ……!」

 あまりにもお気楽さまなクマの言いようにもはや目を白黒させて言葉を失うオオカミだ。
 運ばれてくる料理を次ぎから次へと平らげる大食漢はなおさら太平楽なさまでやがては油まみれの手をこちらに向けてきた。
 まだ刺身を二切れ、三切れしか食べていない細身のパイロットは箸を握ったままに総毛立つ。

「ある程度役割こなしたら専用の解除キーが送られてくるなんて言うけど、期待薄だしな? 元から存在意義がないようなシロモノ、どうせあっちも存在自体忘れてるさ。あ、なんなら取って上げようか? その邪魔なワッカ! しょせんオオカミにはこんな首輪なんて似合わないもんな♡」

「あ? おい待てっ、いきなり何しやがっ……!?」


 ※こちらのエピソードはまだ執筆途中です♡

次回、第二話、#004へ→

 Copyright ©oonukitatsuya, All rights reserved.

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア戦記 #003

第一話 「実験機で初出撃!」

#003

 航空高度、およそ500メートル。
 手元の高度計ではそのように計測される、そこそこの低空飛行で機体が安定するのを確認する。
 頑丈なシートに太いベルトでみずからの身体をくくりつけた大柄なクマ族のパイロットは、しごく納得のいったそぶりでうなずいていた。

「ふうん。まあ、それなりに機体は仕上がっているのかな? 今のとこおかしな機体のブレや無駄なエンジンのうなりもしないし、すこぶる安定してるみたいだ。さすがに本国肝入りの新型実験機なだけのことはあって……! なるほどね、ならいざ本番の実戦って時もかくありたいもんだよな♡」

『……はい! というか、もう既に実戦ではありますが? ベアランド少尉どの! そちらはもうじき通常の通信回線可能域から抜けてしまいますので、非常時の通信は本国の衛星を介した秘匿回線にて願います。敵国側からの妨害電波の余波ですでに雑音、入っておりますか??』

 ただの独り言の感想に、すかさずして打てば響く小気味のいい返答だ。
 そんな回線越しの若い整備士の声には全幅の信頼と共にはっきりと応答するエースパイロットどのだった。

「わかってる! 大丈夫、信頼してるよ、コイツの性能と優秀なメカニックの腕前をね? あんまり無茶しないでくれとは言われてるけど、多少は無理しないと機体性能の試験にはならないから、まあ、そのあたりはさ……! せいぜい腕まくりして無事の帰還を願ってておくれよ♡」

「はっ、それはもちろんであります! ですが何度も申し上げますように、そちらの機体はまだ組み上がったばかりのあくまで実験機ではありますので……」

※↑挿し絵は一代前のデザインの主人公です(^^;)
 この第一話は全編以前のデザインで、第二話以降から最新版の主役のキャラデザインがお目見えします♡ ちなみにこちらもヒマがあれば随時に更新予定です♪

 既に通信回線が限界なのか、あるいはまだあどけなさの残る若いクマくんの言葉尻が濁っているのか、しばしの沈黙が起こる。
 だが普段から慌てず騒がず、何事にも鷹揚な態度と口ぶりのベアランドはまるで気にせずにひとりでしげしげとこの身の回りを見回した。
 全てが新品で鼻孔を刺激するほど真新しい匂いのこもるコクピットは、どこにも染みのひとつとありはしない。

「はあ、ほんとに安定してるよな? これが初めての稼働試験とは思えないくらいにものすごく乗り心地ってものがいいよ。このシートもこのでかい身体に合わせて無理のないサイズだし、あの狭苦しい量産型のコクピットとは打って変わった居住性だよな! ははん、快適快適!!」

 東の地平から顔を出す日の出に背中を照らされる機体は、さながら空中に仁王立ちして静止しているかのように地上からは見えるのだろう。
 実際にはそれなりの速度で西へ進んでいるのだが、背後にジェットの噴煙らしきもたなびかせないロボットは空にぼんやりと浮かぶ雲のようなありさまだ。

「フロート・フライト・システムだったけ? 従来のジェット・フライヤーとは一線を画しているとは聞いていたけど、さっぱりわけがわからないや! 通常のアーマーが標準装備する重力キャンセラーとはまた別ものとは言うけど、これってつまりは完全に機体の重量を相殺しちゃってるんだよね? ひょっとしたらこの質量とかも??」

 しきりと太い首を傾げてひとりごとめいたことを漏らそうとも、あいにくともう整備士からの応答はない。
 思いあまってついには自身も一緒に乗り込もうとしたのを寸前で押しとどめてつまみ出したのを今となっては少し残念に思いながら、いよいよ実戦の時が近いことを意識した。
 折しもそこに聞きなじんだ同僚のなじるような叱咤が飛び込んでくる。

「ごちゃごちゃうっせえよ! こちとらもう戦場なんだから、今はてめえの目の前だけに集中しやがれ!! 薄気味が悪いことそんなのんびりと空に浮かんでるだけじゃ、こけおどしにもなりゃしねえぜ? 後から譲ってくれなんてお願いされても敵機撃墜の星マークはくれてやらねえぞっ、どらっ、それじゃさっさとお先に失礼させてもうぜっ! こちとらノロマなクマ助の援護なんてはなっから期待しちゃいないんだ! あばよっ!!」

 一匹オオカミとは良くも言ったもので、まるで協調性のかけらもない相棒だ。
 この相変わらず口やかましいオオカミのがなりに耳がキンとなるクマだった。
 ひとしきり好き勝手なことをほざいたら地面を駆ける人型のロボット兵器、ギガ・アーマーの速度を前のめりにして上げていくその後ろ姿を高くから見下ろしてはかすかに肩をすくめてしまう。
 あちらの機体の管制アドバイザーとしてコンビを組んでいたはずの前線基地のブルドックは、さてはどんな顔をしていることやらだ。

「あらら、行っちゃった……! まったくせっかちさんなんだから♡ あれじゃ援護なんてできたもんじゃありゃしないよ、でも機体性能と戦況からするには、サポートに徹したほうが合理的なんだよな? この土手カボチャの新型ロボくんは……ん!」

 ……ビッピピ!


 現実に戦場に入ったことを告げる警告音が出し抜けに短く鳴り響く……!
 加えてただちに正面の大型モニターにいくつかのマーキングが赤く灯って、敵軍側の戦闘機がこちらに向かってくることを表示してくれる。
 いわゆるジェットフライヤーと類別される航空機タイプのものだった。
 おおざっぱに言えばロボットと称されるこちらとはまるで別カテゴリーのものなのだが、だからと言ってそうそう油断できたものではない。
 もっぱらのロボット兵器と通常兵器における戦いのセオリー通りならば、地対空で地面を駆ける相棒のギガ・アーマーを空から総攻撃したいところなのだろうが、あいにくとおなじ空中にこんな目立つものがのさばっているあたり、あちらはこの思惑が大いにはずれているのだろうか?
 五個のマーカーが足下の地面には脇目も振らずにまっすぐこちら目がけているのに内心であらら♪と舌なめずりするクマさんだ。


「おやおや、のんびりしてる間もないな。さてはこっちのほうがよっぽど目立つのかね? 今日が初お披露目でみんな物珍しさにびっくりしてるのかも知れないけど、あいにくとびっくりするのはこれからさ……! 悪いが手加減はしてやらないからね!!」

 初めて相対した時のそのあまりの異様さにギョッとした自分だが、それは敵陣営側にしても同様だろう。
 機体の性能面ではあらがいようがない新型のロボット兵器目がけて遠目から先制攻撃しかけてくる!
 対してモニターの中の小さなマーカーを拡大してそれらがどんなタイプの航空兵器か見定めるベアランドは冷静に手元の操縦桿を握りしめた。

「重装型ヘリコが3に、高機動フライヤーが2か! いきなりミサイルはキツイけど、果たしてコイツのコレが実体弾にもれっきとした効果があるか見るにはいい機会だな? どうれっと……!!」

 はじめは小さな点でしかなかった敵影が見る見る内にその色形を高精細モニターの中ではっきりとさせる。
 音速を超えるスピードで迫り来る二機の戦闘機がこちらの左右をかすめるように飛び去って行った!
 これらが伴うソニックブームの爆音はけたたましいはずだが、分厚い何重もの装甲に囲まれたこのコクピットまでは届かない。
 かすかな空気の振動を手元の操縦桿に伝えたくらいだろうか?
 飛び去り際にミサイルを2~3発、激しい機銃掃射と共に見舞ってくれる有人機だが、この機体にまで被害が及ぶことはなかった。
 代わりに周囲にいくつもの爆発を巻き起こす。
 この手前側で距離を取る大型の攻撃ヘリたちは、おなじく機銃とミサイルによる波状攻撃をたたみかけるものの、高速で飛来する鋼鉄の弓矢はだがしかし当ののんびりと空に浮かぶだけの鉄の巨人を撃ち抜くにはいたらず、あえなくどれもがその寸前ではじかれたかのような爆発を繰り返した。
 そのたびにまぶしいフラッシュとかすかな空気の揺れを伝えるが、それらを真顔でただまっすぐに見つめるクマのパイロットは少しもうろたえずに軽く受け流した。
 周囲のモニターは平常通りのオールグリーン。
 やはり機体に被害を受けたアラートも鳴らないのにひとしきり納得する。
 正面のモニターは爆煙越しの敵影をしっかりと捉えたままだ。そこにかすかにノイズが走るのになおさらしたり顔してご機嫌なうなりを発する。

「う~ん、なかなかいいカンジだな! はじめて聞いた時はちょっと眉唾ものだったんだけど、ちゃんと稼働してるよ、このフィールドシェルター、だったけ? 要はこの機体の主動力であるジェネレーターで発生させた強力な電磁フィールド、つまりはバリアってヤツなんだよな??」

 通常よりも一回りは大型の機体の胸部、ここに突き出す形で先端部に据えられた大型の電磁力場発生器による不可視のシールドの効果に満足顔でうなずいては、こうして実弾を防げたんだから最新アーマーのビームカノンもいけるだろうとにんまりとほくそ笑む。

 どうにもお気楽なさまだが、おまけにまったくの受け身で反撃をしない状況で剛毅なことこの上ないクマ助だ。
 おかげで相手との距離が縮まるばかりだが、それもある種の計算だったか?
 飛び去った背後の戦闘機を振り返りながら手元のパネルにすばやくこの利き手を走らせる!

「ようし、それじゃ今度はこっちの番だよな! 一度過ぎ去ってからすかさずにターンして背後からのバックアタック、挟み撃ちにしようってんだろうけど、あいにくこっちは後ろもバッチリいけるんだ! そおらっ!!」

 機首を回頭して今しも機体を反転させるべくした態勢の敵機にまばゆいオレンジの光が襲いかかる!
 大型の機体に無数に搭載したカノンが火を噴いたのだ。
 新型のアーマーでもごく希な最新装備をベアランドの機体はこれでもかとその身の内に抱え込んでいる。
 前後左右、異様に膨らんだ下半身の土手カボチャと見まがうスカート状の装甲には大小いくつもの発射口が口を開き、今か今かと眼光鋭く光りを放っていた。
 かくして背後のそれらからふたつずつ走った閃光は狙い違わず敵機を撃墜。
 ただちに爆煙まとわせて地面にたたき伏せることとあいなる。
 直後、空中にばさりとただようパラシュートにはもう目もくれずに正面に向き直る大グマは、残る三機の武装ヘリにもターゲットを定める。
 もはや手元のトリガーを引けばいいだけだった。
 そんな中で機銃掃射がやかましい敵機に向けて言い放つ。

「そっちのヤツらはみんな無人機なんだろ? さっきから攻撃がやたらと単調だもんな! だったらいいや、ちょっとコイツの性能を試させてもらうよ!


 腹部に装備した大型粒子砲を一斉射すれば済むものを、あえてその他の機体装備で迎撃してくれる。
 そのゴツイ腕やブサイクな頭部にもキャノンのたぐいは搭載されていた。
 それらをひととおり試射するべく狙いを定めていく。
 正面にバリアを張ったままでは腹部のメインキャノンは威力を低減されてしまうので、接近戦においては必須の攻撃スキルだ。
 決着が付くまで3分とかからなかった。

「う~ん、両腕のアームカノンは腹部のサブカノンと同等くらいかな? ちょっと狙いを付けるのが難しいけど、慣れればそれなりには……! ああっ、ん、ん、この!!」

 最後の一機を蜂の巣にしてトドメを刺しながら、ちょっとさえない顔つきで愚痴っぽいことを言うエースパイロットだ。

「ああれれっ……なんだい、アタマのビームスプレッダーとレーザーカノンってのは見かけ倒しで実際は威嚇射撃くらいにしかならないんだな? こんなのよっぽど接近戦でもないと致命打になりやしないや!! いやはや、本番の対アーマーの前に試せて良かったよ。それじゃ……」

 いざ友軍の口やかましいオオカミの同僚機の援護に向かおうと視線を向けると、戦況はおおかたで決着がついていることを知る。
 敵軍はすでに撤退を開始、敵影らしきは目で見える範囲にはひとつも残っていなかった。
 戦況を伝える手元のモニターには同僚の戦果、敵軍アーマーの撃破数が3とある。
 それがご丁寧なことに機種類別も表示されているのに舌を巻くクマだった。


「あらら、すっかり先を越されちゃったな……! ま、かまわないんだけど♪ えーと、トカゲが二機に、その上級のオロチがイチか……!! これってどれもロートルの旧型機だよな? こんな場末の戦場だからうなずけなくもないけど、あんまり機体の性能差があったら試験運用にもならないような??」

 通信を開けば血気盛んなオオカミが何事か好き勝手なことをほざきそうだが、あんまり自慢ができたものでもないとどっちらけた顔つきする。
 すっかり静かになったコクピット内でどうしたものかと太い首を傾げるベアランドだが、その丸い耳にピンと短い電子音がまとわりついた。

「んっ……??」

 機体のセンサーが敵影なき空に何事かを捉えたのか、短いアラームが中途半端に鳴り響く。
 すぐに静かになるのだが、背後で白々と夜が明ける中、遠く西の地平はまだ暗い。
 そこにかすかな違和感を感じ取るクマだった。

「へぇ、なんだい、オンボロばっかりと思わせて、ずいぶんと勘のいいヤツがいるみたいだな……!」

 空中の機体を東へと反転させながら、背後の地平線に向けて意味深な目つきと口ぶりをするクマのパイロットだ。
 かくしてベアランド、ウルフハンド両少尉の新型機による初陣はめでたく勝利の内に幕を下ろすのだった。


 無事に前線基地に帰投したのは、それからおよそ一時間後のことであった。
 すっかりと夜が明けてまぶしい朝日に照らされるぼろい格納庫に目立ったキズのひとつとない新品の機体で潜り込む。
 ゆっくりと時間をかけて来たからボディを冷ます必要もないくらいだ。
 そうして既に待ち受けていた整備士の若いクマ族に誘導されるがままに一番デッキのハンガーではなくて、その手前の一段高いベッドに仰向けで機体を寝かしつける。
 コクピットのハッチを開くとそこからのっそりと身体を出して、大きく伸びをしてから機体の上を小走りに地面へと降り立った。
 見かけでかい図体が意外と機敏なさまで、痩せたクマ族の青年の前につける。
 若い整備士、リドルは敬礼してこれを迎えた。
 軽く敬礼して返すベアランドは背後のみずからの相棒に目線を向けながらに言う。

「おやおや、こんなふうにおねんねさせないといけないのかい? このぼくの土手カボチャくんは?」


「ハッ、ああ、あいにくとこちらには専用のハンガーがありませんので、この状態でないとこちらの整備が……! 将来的にこれが正式配属されるという新型戦艦には、それ用の専用デッキがあると思われますので、それまでは。なにはともあれ、無事のご帰還、まことにおめでとうございます!!」

「まあ、相手が相手だったからね? 正直、肩慣らしにもならなかったけど、無理矢理相手をしてもらったよ♡」

「新型機、このバンブギンの乗り心地はどうでありましたか?」

「はは、もちろん、整備士くんの腕がいいから抜群だったよ! 各種の機体装備も問題なく使えたし? すごいよな、特に胸部に搭載した不可視シールド、バリアだっけ?? こんなにデカいだけあって載っけてるエンジンのパワーがハンパじゃないもんな!!」

「あはは、いえ正直、最新型の装備過ぎてこちらでは手に余るくらいなのですが……! 実戦データはこちらで採取してルマニア本国への解析に回します。なにかこれと要望がありましたら……」

「ああ、うん。まあそうだな、装備に実体弾の兵装がないのがちょっと気に掛かるかな~? う~ん、ここで言ってもどうにもしようがないし、お金がかかる装備をてんこ盛りにしてもらってわがままかもしれないけどさ。見た目が派手なビーム兵器はおどしにも使えるけど、それだけだといざそっち向きの対策取られた時に面倒だろう??」

 じぶんよりも一回りも二回りもでかいクマの率直な意見に、これを真顔で聞く若いクマの機械工は難しい顔ではたと思案する。

「はあ、つまりは敵側もこちらと同様のシールドを装備してでありますか? バンブギンと同等のジェネレーターやシールド発生器はそうそう作れそうにありませんが、戦艦クラスならばなくもないんでしょうか? じぶんにはうまくお答えができませんが……」

「いや、いいんだ。いずれ必要に応じてだよな♡ それはそうと、このぼくのもうひとりの相棒、おっかないオオカミくんはどうしてるのかな? ちょっと言いたいことがあるんだけど……」


「はい? ウルフハウンド少尉どのでありますか? それでしたら……」

 メカニックの視線にならって背後を振り返ったその先に、通常のハンガーデッキにしっかりと収まった新型機と、その足下に見慣れたオオカミ族のパイロットの姿を見て取るクマだ。

「ああ、いたいた! なんだいすっかりおとなしくなって、せっかくの初陣で戦果も上げたんだから、もっとご機嫌になっていいんじゃないかい?」

「うるせえな……! やかましいしかめっツラのオヤジのせいでそんな気分すっかり吹き飛んじまったよ。たかが場末の前線基地の整備士のぶんざいでごちゃごちゃ文句垂れてきやがって……」

 渋いツラのオオカミはなおのこと不機嫌面でそっぽを向く。

「あれれ、なんだいもうおやじさんにしぼられちゃったの、こってりと? 旧型とは言え三機もアーマー撃破したのに! でもなるほどね~、みんな思うことはおんなじなんだなあ」

「うるせえよ! てめえはただのんびりと宙に浮いてただけじゃねえか! そんなヤツに言われることなんてこれっぱかしもありやしねえっ」

「ふふん、仕事はちゃんとしたよ♡ あいにくアーマーじゃないけど、フライヤー、五機撃墜♪」

「けっ、敵さんのアーマーを撃破してこそのアーマー乗りだろうが! それで援護しただなんてな口が裂けても言うんじゃねえぞっ、あとくだらねえ文句や冷やかしもだっ!!」

「つまりはひとりで突っ走って先行しすぎってことかい? いやはやほんとうのことだと思うけどもね?? あれじゃ援護のしようもないし、いざ相手に待ち伏せとかされたら……ああ、ちょっとは聞きなよ! 行っちゃった」


 さてはうるさがたのブルドックのオヤジに耳にタコができるほどに言われていたのだろう。
 そっぽを向いたままどこぞかへとさっさと歩いていく相棒に、肩をすくめてこれを見送る同僚のクマだ。
 おなじくどっちらけた表情の若い弟子が声をひそめる。

「さきほどうちの師匠からこっぴどく言われてひどい言い合いになってましたから。どちらもカンカンでした……!」

「あらら。そりゃこっちまで巻き添え食らわないように気をつけないとね! うん、それじゃひとっ風呂浴びてくるから、コイツのことよろしく頼むよ。ひとりで見るのかい?」

 いたずらっぽく目を見張らせるパイロットの兄貴に、弟分のクマくんははっきりとした物言いで返した。

「おかげさまで目立った外装の破損もありませんので! 何よりこのバンブギンのメンテナンスは自分に一任されております!!」

「さすがは愛弟子♡ でもあんまりムリはするんじゃないよ? バンブギン……か!」

 はじめしたり顔して了解しながら、何事か考え込む大柄なクマ族はやがてまたしきりとしたり顔する。
 その横できょとんとしたさまの整備士には笑って言うのだった。


「?」

「ああ、決めたよ。コイツの呼び方! 悪いけど、もっといい名前を思いついちゃったから」

 なおきょとんとしたさまの若いクマ族の少年に、おなじく若いクマ族の青年はなおさら明るく言い放つ。

「ランタン! そうとも、土手カボチャじゃあんまりだもんな? ね、どうだい、コイツにピッタリの名前だろう??」

「ランタン……提灯(ちょうちん)でありますか? ああ、なるほど」

 言われてすぐさまカボチャの提灯を思い浮かべてまさしくぴったりだと大いに納得する整備士に、パイロットは大きくウィンクしてうなずくのだった。

「じゃ、そういうことで♡ ということでお前もこれからよろしくな! ランタン!!」

 果たして歴史にその名を残すであろうでかグマとお化けカボチャのコンビが、今ここにめでたく誕生したのであった……!!

 ※次回に続く…!

 Copyright ©oonukitatsuya, All rights reserved.

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル キャラクターデザイン ルマニア戦記

ルマニア戦記 #002

第一話 「実験機で初出撃!」

#002

 かつての建国からこれまで長い歴史があり、今ではそのほぼ半分を占める国有面積の広さから、一般に『ルマニア』と呼ばれる東の大陸。

 その内陸中央に王都を構える、若いパイロット達が生まれ育った巨大な王権国家からすれば、影では属州とも呼ばれる北西の辺境に位置する小国はかなりの田舎に違いなかった。

 おまけにその最前線の基地の外れも外れに位置するオンボロな予備格納庫はよそから見たらまさしく廃墟も同然だ。


 しかしながら今やもろもろの都合でこの屋上階に寝泊まりしている、すっかりよそ者扱いの士官候補生達は、更衣室を出た廊下の突き当たり、そこから壁伝いに続く長い階段をひたすらまっすぐに降りて行く。

 そうしてまた出くわした突き当たりをいつもなら右手の屋内にあるアーマーのハンガーデッキに向かうはずが、今日ばかりはこの左手、屋外へとつながるドアのノブを掴んでおもむろにこれをひねるのだ。

 ギイィッ……とさび付いたドアがきしむ音を立てて、そこから外界へと一歩踏み出せば、目の前でうっそうとしげる林の向こうに朝日が明るく昇るのが見て取れた。

 森の向こうに拓けた海岸線からかすかに吹き寄せる潮風を鼻の頭に感じて、くすぐったく思う大柄なクマ族のエースパイロットは、その場で大きく深呼吸するといつもの呑気な口ぶりする。


「んんっ……はあ、いい朝だな! いつぞやみたいなおかしな異臭騒ぎももうないし? 新型機で出撃するにはうってつけのお日柄だよ。なんだか今日はいいことありそうだ!」

「ケッ! なにを悠長なことを言ってやがるんだよ? 本来なら夜中にこっそりやってることを白昼堂々やらかそうってんだから、リスクのほうが付きものだろう! おまけにこんな快晴じゃ重要機密満載の新型をわざわざ真っ裸で敵さんにお披露目してやるようなもんだぜっ……ま、悪い気はしねえがよ? たっぷりとわからせてやれるんだ、このオレさまの腕っ節と新型機の実力を!!」

 背後に目をやるとただちに不機嫌面で見上げるオオカミの同僚の毒づきに、もう慣れっこの相棒はしたり顔してうなずく。

「はいはい! それじゃまずはご対面だよな? 長らく待ちわびた我らが愛しの新型機ちゃんたちと♡ 確か格納庫の前に集合だから、あっちに行けばいいのかな? ん、おっと、あそこにいるのって……!」

 たとえ基地の外れでも基本、敵国がある西側向きに発進路が造られるのはどの格納庫でも同じだ。

 南の裏口から出て来た都合、回れ右して大股で高い外壁沿いに進んで行くと、その先のまだ宵の暗さが残る西の空を背景にして忽然とひとりの青年が待ち構えるのがわかる。

 見知った顔でまだ表情に少なからぬ幼さが残る若者は、見るから華奢でやせっぽちでも胸を張ったきりっとした立ち姿の敬礼でみずからの上官である二人のパイロットらを出迎えた。

 きびきびとした歯切れのいい口調で朝の冷えた空気を震わせる。


「ハッ! おはようございますっ、ベアランド准尉どの、ウルフハウンド准尉どの! お待ちしておりました!! おふたりの機体はすでにどちらも準備が整っております、どうぞこちらへ……あっ」

 じぶんと同じ大型のクマ族とは言いながら、ずいぶんと頼りない見てくれの痩せた少年機械工兵を見下ろすマッチョなでかグマのパイロットだ。

 こちらへ赴任してからかれこれ半年あまり、もう慣れ親しんだ仲でもあり、とかく親しげな笑みで返す。

「いいからいいから、そんな固くなりなさんな、リドル! お迎えご苦労さん。昨日は一晩中大変だったんだろう、おやっさんと? だったらもっと楽にしてなよ、ここからはこのぼくたちが気を張る番なんだから! ……あれ、どうしたの?」

「あっ、てなんだよ? 機械小僧?? まさか何かしら気になることがあるってのか、本国から来たオレらのアーマーによ。見た目が頼りなくてもいざ機械のことにかけちゃこっちはとっくに信用してるんだ、今さらヘタな隠し事なんざ言いっこなしだぜ!」

 後ろから長い鼻面の顔を出すオオカミもやや不審げに問うのに、ちょっと慌てたそぶりの男子は改めてふたりのバイロットに対して最敬礼する。

「いえっ、失礼しました! すっかり失念しておりましたっ、申し訳ありません! 本日付けでどちらも一階級昇進されておりますので、正しくは、ベアランド少尉どの、ならびにウルフハウンド少尉どの、でありました!! 昇級、そして新型機の到着と併せてまことにおめでとうございます!」

「……え、そうだったっけ? ふ~ん、まあ別にいいよ、そんなの。あんまり気にしたことないし♡ 今のところ隊員がふたりしかいないへっぽこ部隊で、すっかりお荷物扱いされてるぼくらだもんね!」

「まあな、オレもどうでも構わねえよ、お飾りみたいな形式張った呼び名なんてな。それよか肝心のアーマーはしっかり組み上がっているんだよな?」

 気を張ったセリフをすっかり肩ですかされてしまう。

 思わず苦笑いになるメカニックはみずからも固かった身体の力を抜いて、落ち着いた年相応の口ぶりとなる。


「あははっ、はい、それはもちろん! 最終点検は親方が了解済みでありますので。どちらもすぐに起動できます。早くご覧に入れたいので、どうぞこちらへ!」

 ふたりのパイロットを視線で背後へと招いてみずからは早足で駆けっていくのに、一瞬互いの目を見合わせて建物の真正面へと向き直る新米の士官たちだ。

 荒れ放題の滑走路を大股で踏みならしては西の空をバックに、いつもなら大きく開け放たれた間口が今だけはサビだらけのシャッターで閉ざされたオンボロ格納庫と対峙する。

「う~ん、見れば見るほどオンボロだよな? こんなボロっちい格納庫にピカピカの新型のアーマーが配備されてるだなんて、まさか神様だって思いも寄らないってもんだよ」


「は、どうだかな? わりかし敵さんにも情報は筒抜けだったりすんじゃねえのか?? いつぞやの幽霊騒ぎが収まって、てっきりそれまで無人化してた対岸の前線基地の取り合いになると思いきや、あっちはそんなの目もくれずにこっちに攻め込んできてるんだろ? ろくな補給路の確保もないままによ。こっちのアーマー隊が手薄なのもいいこと、やつら少数部隊をひっきりなしに出したり引っ込めたりして、いざ基地を攻め落とすってほどでもないんだぜっ……やる気があるやらねえのやら!」

 どこかそっぽを向きながらの独り言じみたオオカミ、ウルフハウンドの物言いにちらりと視線を下ろす大柄なクマ、ベアランドは少しだけ思案顔して肩をすくめる。

「つまりはこっちの出方を見ているってのかい? なるほどね♡ わからなくはないけど、あっちにもあちらさんなりの都合があるのかも知れないよな? はっはあ、そうか、だったらなおさらワクワクしてきちゃったよ……!!」

「はっ??」


 怪訝な視線で見上げるしかめ面にまた肩をすくめる脳天気なクマは意味深な笑みを浮かべると、おまけいたずらっぽくパチリと片目をつむったりする。

 そうして視線でみずからの正面、巨大な廃屋と化した予備倉庫を示すのだった。

 若い機械整備士の背中越しに今しも大きな音を立ててシャッターが上がるのをそろって注目する。

 西の空はまだほんのりとしか明るくなかったが、屋内の照明が煌煌とたかれていたから見晴らしは良かった。

 奥に大きな人型をしたシルエットがあるのが気配としてわかるが、その手前、まずはやけに小柄な人影を見つけてそちらに目がいってしまうふたりの新米パイロットだ。

「おっ、おやっさん……! 相変わらずのしかめ面だな! あれが真顔なんだっけ? なんか怒ってるみたいに見えるけど、いやいや、内心は喜んでいるんだよな??」

「オレが知るかよ! 土台、あんなブサイクなむくれっ面じゃ判別するのはハナから無理だろ? とりあえず怒られるような筋合いはないぜ、今んとこはよ」

 すっかりどっちらけたさまで茶化すクマに、白け顔のオオカミも苦い口ぶりで返すばかりだ。

 するとそれを背中で聞いていた若い弟子のメカニックが親方にビシッと敬礼しながらも小声で返してきた。

「もちろん、怒ってません! きっと親方としても感慨がひとしおなんですよ……昨日は徹夜だったし! あと、あらかじめ言っておきますが、壊さないでくださいね? いきなり初陣で無茶とか、おふたりとも??」

 どこかこわごわとした口ぶりで視線をそろりと巡らせてくる、まだ若いながらも有能な整備士に、なおさら白けたさまのふたりのパイロットはどうにも微妙な反応で視線をあちこちにやるばかりだ。

 あんまり思わしくない空とぼけた顔つきそぶりに、付き合いまだ短いながらも相手の性格性質だとかを骨身に染みて思い知らされていたリドルと呼ばれるクマ族は、げんなりしたさまで肩を落とすのだった。

「はあっ、お願いですからね? 今のこちらの整備状況じゃ正直、小破以上の破損はもはや回復不能だと思われますから……! ちなみにそれに関しましてはうちの親方もまったくの同意見です」

「そいつはまた……! ほんと、ワクワクが止まらないよな?」


「たくっ、根性で直せよ! ん、おい、あのおやっさん、よもやこっちの声が聞こえてやがるのか? えらい勢いで睨んでやがるぜ!!」

 あいにくまだシャッターが上がりきらないから内側の全体像がどんなものだかわからない。

 しかしながらガタガタとした騒音混じりの中にもこの真ん中にでんと構えて仁王立ちした小柄な犬族のおやじだ。

 そのもういい年齢をした熟練の機械工がしゃがれた渋い声を張り上げる。

 おっかない顔つきもさることながら、見かけが小さかろうと腹から絞り出した一喝で相手を圧倒するだけの底知れぬ迫力みたいなものがあっただろう。

 この前線基地でも指折りの手練れにして、過去には大陸大海を股に掛けた数々の伝説を誇るという整備士界の巨匠の第一声は、やはり怒っているようなそれはけたたましいだみ声なのだった。

「おおい、やいこらっ、このボンクラども! シャキッとしやがれ!! おめえらが待ちに待った新鋭機のお目見えだろうがっ、そんなふぬけたツラで拝めるようなシロモノじゃありゃしねえぞ!!」


 朝っぱらから耳にキンキンと響くお叱りに思わず苦笑いのクマだ。

 隣のオオカミは小さく舌打ちしている。

「あらら、徹夜していてそのテンションはさすがに……!」

 たとえ相手が基地の最高責任者であってもみずからのとぼけたスタンスを崩すことがない天然キャラのクマ助ながら、その背後にあった巨大な人影が全貌をあらわにするにつれて有無もなくこの視線がそちらへと吸い寄せられる。

 いつもの軽口を叩きかけたはずが、思わずごくりと息ごと飲み込んでしまった。

「こいつはまた、思っていたよりもデカいな! えらい迫力とボリュームがあるように見えるけど、ちゃんと動くのかね? あとそれに……」


 三人そろって頭上を見上げて、いざ目にしたものの異様なまでの出で立ちに言葉を無くしてしまう。

 はじめの想像とは似ても似つかないくらいに既存のアーマーとはまるで別物の見てくれだ。

 左右に二体並んだ大型ロボの、特に右手に立っている物が……!

 ある程度のあらましはあらかじめに聞かされていたから、つまりはこれがじぶんの乗機なのだろうと判断するクマ、ベアランドはちょっと言葉に詰まりながらに思ったことをまんま天然で口走った。

「う~ん、なんかさ、えらくブサイクだよな? もうちょっとこう、カッコ良くは出来なかったのかね? ものすごい悪者みたいな面構えなんだけど、このぼくの新型のアーマーちゃんてば??」

 半分嘆きじみた率直な感想に、すぐ横合いから舌打ち混じりのツッコミが入った。

「ブサイクも何もてめえにそっくりだろうが! いいじゃねえか、あのくらい不気味な面構えのほうが相手に対して威嚇できるし、新開発の新型だって存分にアピールできるぜ? いいか悪いかは別としてよ」

「ははっ、はじめは従来機とおなじ犬型のヘッドだったのらしいのですが、もろもろの都合でクマ型(?)のアタマに設計し直したらしいです。もちろん実験機ですから後後においてはどうなるかわかりませんが……」

 若い整備士の取り繕うような言葉に、おまけ前からはしわがれ声がぶっちゃけた私見を投じてくれた。

※↑挿し絵は一代前のデザインの主人公です(^^;)
 この第一話は以前のデザインで、第二話以降から最新版の主役のキャラデザインがお目見え♡ こちらもヒマがあれば随時に更新予定です♪

「ふん、いっそおめえさんをモデルにしたんじゃねえのか? さほどブサイクってこともあるまいよ、ビーグルのヘッドにゃ乗り切らない機能が満載だから、あんなへちゃむくれたツラになるんだが、むしろ愛着が湧くってもんだろう!」

「んんっ……ぼくってばあんなにブサイクかい??」

「てめえのツラ鏡で見たことねえのかよ? はんっ、それよかこのオレ様のギャングはいい面構えしてるよな! 量産型のビーグルなんぞとは比べものにならないってぐらいにいかしたスタイルしてやがるぜ!!」

 肩を落とすクマにはいっそ冷たい口調で吐き捨てるオオカミの同僚だ。

 そうしてみずからが搭乗するもう一体のロボットをしげしげと見上げながら、いかにも納得したさまで言うのだった。

 するとその横合いからまた若いクマ族の整備士がやや不思議そうな顔つきでウルフハウンドに聞き返す。

「ギャング? この『ハウンド』のことでありますか?? ああはい、確かに現行の主力量産機のビーグルを元に大幅に発展改良させた機体ではありますが……」

「いいんだよ! 猟犬だなんてやぼったい名前で呼ぶにはもったいねえ機体だろ? コイツは今日から晴れてこのオレ様の相棒、その名も『ギャングスター』に決定だ!!」

「は、はあっ……」

 ちょっと戸惑った顔のメカニックに、おんなじクマ族のパイロットが苦めの笑いでウィンクする。

「ま、いいんじゃないのかい? なんかカッコいいし♡ そうか、だったらぼくは何て呼べばいいのかな、このブサイクちゃんのこと……!」

「あん、名前ならちゃんとあるだろう? その、ほれ、なんつったか??」

 小さな歩幅で歩み寄るブルドックのオヤジがいかめしいツラを傾げさせるのに、弟子の痩せっぽちがただちに補足する。

「はっ、こちらの機体の正式名は『バンブギン』であります! まあ、おそらくはこのボディの特殊な形状がいかにもそれらしいところから、なのでしょうか??」


 大柄なボディの特に前にも左右にも突きだしたそれは特徴的な土手っ腹を指しながら言葉には納得顔のでかいクマだ。

「ああ、つまりは〝カボチャのお化け〟なのかい?? なるほどね、要はパンプキンからもじったんだろうけど、確かにそんなふうに見えなくもないし! でもなんかかわいげがないなぁ……」

 やはり冴えない様で見上げていたら、いきなりハンガーの奥のあたりでやかましい警告音が鳴り出した。

 同時に黄色いライトもそこかしこで点滅し出す。

 さっさと出撃しろという本部からの通達なのだと察してそれぞれみずからの足を踏み出すパイロットたちだ。

 かくして感動のご対面はごく短い内に終わり、そこから目の回るようなスピードで出撃となる。

  ※次回に続く…! 

 トップページへ戻る↓

 Copyright ©oonukitatsuya, All rights reserved.

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア戦記 #001

第一話 「実験機で初出撃!」

 第一話

『実験機で初出撃!』

#001


 朝も早く、まだ薄暗い、更衣室。

 人影は、ぽつり……とひとつだけ。

 シンと静まり返った中で、ひとりの男が、何とも言えない面持ちをして立ち尽くしている。

 ただ無言で、ある種の感慨にふけるかのようなさまで、みずからの更衣室のロッカーボックスと向かい合っていた。

 シャッター式の扉は開け放たれ、その中に吊される、何やらひとがたらしきカタチをした、一揃えの真新しいスーツをまじまじと見つめる……!

 真顔をした、まだ若いのだろう青年パイロットだ。

 その口の端が、かすかにニマリとほころびかけたその瞬間、この背後ではにわかにやかましい気配が巻き起こる。

 大股のドタンドタンとした足音も聞こえてきた。

↑※過去のノベル版の挿し絵です。背後の主人公の見てくれがちょっと違ってますが、なにとぞご容赦くださいm(_ _)m ヒマがあったら描き直します(^^;)

「……!」

 途端にこの鼻先が前へと突き出た大きな口元、ムっとへの字口にして殺気立つオオカミだ。

 おまけに、チッと小さく舌打ちまでして、どこかしらよそへと視線を向ける。

 まるで我関せずの態度で素知らぬそぶりだが、やがて入り口にのっそりと現れたでかい人影はそんなことまるでおかまいなし。
 この中にズカズカと入り込んでは、こちらはでかくて横に平たい大口開けて、それは陽気にのたまうのだった。

「ふっふふ~ん! お、おっはよう、シーサー! なんだい今日はずいぶんと早起きじゃないか? まあぼくもそうなんだけど、やっぱり待ち遠しいもんだよな? ようやく本国から送られて来た、ぼくらの専用実験機がお披露目されるんだからさ! おかげで昨日はなかなか寝付けなかったよ」


「……っ!」

 馴れ馴れしいこと来るなりすぐ真横に付けての挨拶にあっても、明らかに不機嫌面したオオカミ男は舌打ち混じりにそっぽを向いてくれる。

 対してお互いに隣り合わせのロッカーなのだから横に付けるのはもはや当然!


 この相棒のほとほと素っ気がない態度にももはや当たり前で、すっかり慣れきったそれはでかい図体のクマ人間だ。

 構わずに自らのロッカーを開けるとそこでテンションがなおのことぶち上がる。

「わお! これって新品のスーツじゃないか!? 本国からやって来たアーマーと一緒に支給されてたんだ? ちゃんとしたぼくらルマニア軍仕様の正規のパイロットスーツ!!」
 


 また横で低い舌打ちめいたものが聞こえるのもまったく気にならないさまで、太い両腕でむんずとつかみ上げた新品の軍用スーツ、これを鼻先でしげしげと眺めては、喜々としたさまで小躍りするそれはご機嫌なクマ族の青年だった。

「あっはは、コレコレ! 地味でいかつい全身モスグリーン!! やっぱりコレじゃないと立派なルマニアの軍人さんとは言えないもんな? 正直、いつまであんなまっちろくて窮屈なテスパスーツを着させられるのかってうんざりしてたんだけど、汗臭いオンボロともめでたく今日でおさらばだよ!! もうどこにも見当たらないし? ようしそれじゃ早速試着しないと! あ、でも万一にサイズが違ってたら交換とか効くのかな??」

「……たくっ、知らねーよ! つーか、ぶくぶくと太った汗っかきなでかグマなら、何を着たって変わりゃしねーだろうが? くだらねえ文句は本国のヤツらに言いやがれっ……」

↑これまた以前の挿し絵です(^^) 次の挿し絵からきちんと描き直します♡ たぶん(^^;)

 しごく面倒くさげな言いように、ちょっとだけ苦笑いのクマ族の青年だった。顔の真ん中にでんとあぐらをかいた黒くて大きな鼻頭をことさらに膨らませる。おまけ、はいはい!とこのいかつい肩をすくめてもみせる。

 何かと神経が図太くてことさらお気楽な楽観主義者だ。

 他人から何を言われてもめげないのが生まれつきの性分であり、特技でもあった。

「あん、そんなにおデブさんでもありゃしないさ! 汗っかきなのは認めるけど? それより試着、試着っと……!!」


「うぜえなっ、てか、もうちょっと離れてやれよ! でかい図体で肘打ちなんて食らわされたらたまったもんじゃありゃしねえ! ん、良く見りゃそのスーツのサイズもふざけやがって、それって何Lなんだよ?? バケモンめっ……」

 さっさとくたびれたランニングシャツを脱ぎ捨てるなり、まだ新品で全体が固い厚地のスーツと格闘をはじめる相棒だ。これに大口開けて文句をがなるオオカミ族のパイロットも仕方なしにみずからのハンガーに吊されたスーツへと向き直る。

 通気性が絶望的に悪かった以前のテストパイロット用と見比べるに、こちらはそう悪くもないだろうと下着姿のままで着用することにする。

 その間もこのすぐ隣であくせくと悪戦苦闘しているらしいクマを横目で見やるに、あちらはパンツまで脱ぎ捨てた状態に目つきがなおのこと白けたものになるオオカミ族だった。

「あ? おいおいっ、いきなりマッパで着るのかよ? 新品のスーツが台無しになっちまうんじゃねえのか!? 換えなんてそうそう効かないんだから、もっと大事に扱えっての!」

 もはや口からキバがむき出しでクレームがすさまじい相棒に、とことん太平楽なクマさんは親しげなウィンクかまして、それはいたって余裕の口ぶりだ。

「いいんだよ♪ そんなの気にしてる場合じゃないし、そっち向きのスタッフも付いてるしさ♡ そうとも、ぼくら表向きは実験機の試験運用目的だったのが、どさくさで実戦配備に回されて今じゃもうじき正式な配属先が決定するって話じゃないか? ええっと、なんて言ったっけ? こことはまた別の大陸西岸の属州で極秘裏に開発されてるって、もっぱら噂の新造戦艦!!」


「チッ、お気楽なこったな! 組み上がったばかりの実験機でいきなり実戦なんて正気の沙汰じゃありゃしねえだろうが? ま、オレさまとしては手っ取り早くてむしろ望むところだが、スーツと違って一点物の機体は壊しちまったら目も当てられないぜ? あの機械小僧が大泣きするだろ! おまけその極秘裏に開発って巡洋艦もどこまで期待できることやら……そもそもここまで噂が流れてるってあたりで、どこらへんが極秘裏なんだよ??」

「文句が多いな! さっさと着ちゃいなよ、神経質な性格は戦場じゃいざって時の判断を鈍らせるだろ? それよりもとっととぼくらの新しいパートナーに会いに行こう! 夜中に運び込まれた機体の最終点検、おやっさんたちが夜通しやってくれたんだ。その労もねぎらってのお披露目式で、この格納庫の前に集合なんだってさ……あ、ほら、見なよ、ピッタリだ! あっはは!!」

※↑以前の挿し絵です。ここからヒマを見て描き直していきます。たぶん(^^;) 左のクマキャラの主人公を最新の令和版に描き換え(^^)/↓

※ノベルと挿し絵は随時に更新されていきます♡
 よろしければ応援と感想、できたらご友人への紹介(笑)などお願いします(^o^)

 みずからが苦労して着込んだ真新しいパイロットスーツを屈託のない笑みで示すクマに、それを何食わぬさまで一瞥(いちべつ)するオオカミは、手早く着こなしたスーツ姿でこちらも応じる。
心なしかその口元が緩んでいるようだった。

「へっ、オレだってピッタリだよ! それにいざアーマーのお披露目ったってすぐに緊急発進だ! 浮かれてやがるヒマはありゃしないぜ?」

「ああ、ま、サイレンひっきりなしに鳴ってたもんな? 今いるのは遠征から戻ってきた一番隊と補助のヤツらだけで、あとはみんな仲良くオシャカなんだっけ? ならこのぼくらが出るしかないよな♡ ちょっとワクワクしてきたよ!」


「遊びじゃねえだろ! もっとシャキっとしやがれよ!! まだ寝ぼけてるんなら先に行ってるぜ!」

「ああん、待ちなよ! ほとんにせっかちさんだな♡ そんなんで戦場突っ走って結果、迷子になっても知らないよ?」

「やかましいぜっ!!」

 いざ戦支度を整えて、我らが戦場に向かわんとするデコボコの新人パイロットコンビだった。

 かくしてこれより、それは長い戦いの歴史がはじまる……!

    ※次回に続く……


 Copyright ©oonukitatsuya, All rights reserved.