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Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #009

#009

Part1

 ハンガーデッキでのすったもんだから、およそ二時間後――。

 スカンク族のベテラン艦長から、内密の話があると密かに招集をかけられていたアーマー部隊・正隊長のベアランドだ。

 それだから今は艦の艦橋(ブリッジ)もその真下にある、第一ブリーフィングルームで相棒のオオカミ族、メカニックの若いクマ族らと共にこれを待ち受ける。

 軍でも最大規模の新造戦艦だ。

 おまけ艦内でも一番の広さの会議室内には、およそ100人くらいは収容できるだろうテーブルと椅子があったのだが、そこに腰掛けるでもなく三人だけでぽつんとその場に立ち尽くしていた。

 ややもすれば、今は無人の壇上に、小柄な初老の紳士然とした本艦艦長どのが現れるはずだ。

 無機質な灰色の壁に掲げられたデジタルとアナログ式の時計は、どちらも約束の時間を少し過ぎていることを指し示していた。そちらにちらりとだけ視線をやって、ちょっと苦笑い気味に茶化した言葉を発する青年パイロットだ。

「あらら、約束の時間になっちゃったよ。やっぱりこんなでっかい軍艦の艦長さんともなると、いろいろと忙しいもんなんだな? こっちもこんなラフな格好できちゃったけど、別にかまわないよね♡」

 朝の荒くれた現場に顔出しした都合、はじめはしっかりと着込んでいたはずのパイロットスーツを、今は簡易式の状態に軽量化させているのを指しながら、隣でやや仏頂面のオオカミの同僚、ウルフハウンドに問いかける。
 すると朝っぱらのゴタゴタからまだ不機嫌面の灰色オオカミは、そんなしたり顔したクマにどうでもよさげに返した。

「構わねえだろ。俺だっておんなじ格好だし、身軽さにこだわる犬族のワン公どもなんてな、みんなアーマーに乗り込む時だってこのまんまがザラなんだぜ? 言うヤツに言わせれば、このスーツ自体がもう時代遅れのシロモノだなんて言うくらいだしな」

「ああ、よその戦艦じゃ、今時はみんなそれなりこだわって専用のスーツを仕立てているって言うもんね? 艦長さんの趣味嗜好とかでさ?」

 脳天気に笑う隊長に、またこの傍らの若いクマ族が目を丸くして言葉を発する。

「そうなのでありますか? 国や地域によってそれぞれ特色があるのは知っていましたが、おなじルマニアの軍の内部でもそんな違いが? でも自分としては、アーマーに搭乗する時はしっかりとした保護パーツを付けることをおすすめします!」

「ああ、これのいかつい胸当てと肩のパーツがこんな風に外れるなんて、はじめ知らなかったもんね。あ、でもそういうリドルこそ、そんなチャチなノーマルのスーツじゃなくて、ちゃんとしたパイロット向けのやつを仕立ててもらわないと! 補給機とは言え戦場には出るんだから、そこらへんはね?」

「あ、いえ、じぶんはあくまでただのメカニックでありますので、このままで……」

 細身で体力にいささか自信がないからか、途端に遠慮して頭を引っ込めるのに、体力自慢のでかい図体のクマの脇から、痩せたオオカミがのぞき込むようにして大きな口を開く。


「とか言いながら、おまえさん、しっかりとホシを取っているんだろう? 立派なパイロットじゃねえか! だったら身なりもそれなりにしておけよ、そのほうが何かと箔が付くだろう」

「いえっ……」

 すると何やらやけに浮かない顔のメカニックに不可思議そうなオオカミの副隊長だが、あいだに挟まれたクマの隊長はかすかに肩をすくめさせるのみだ。

「ふうむ、ちょっと考えなくちゃいけないんだろうな……! おっと、ようやく艦長どののお出ましだ! てか、ひとりきりなんだね。こんなに見てくれでっかい軍艦なんだから、副官のひとりくらいいてもいいはずなのにさ?」


 ベテランの艦長が無言で会議室の壇上に上がるのを見ながら不思議そうなベアランドのセリフには、この横からオオカミが若干揶揄したような調子で返す。

「ふん、よもや艦長がスカンクじゃ、誰も怖がってこの横に立ちたがるヤツがいないじゃねえのか? 犬族なんてみんな逃げ出すだろう。俺もまっぴらだしな!」

「そんな……! あれって世間でも名の知れた軍人さんじゃないか? 確かに鼻が利く人間はあんまり相性良くなさそうだけど、だからってね。あっ、でも確かここのブリッジのオペレーター、いかつい防毒マスクを身につけていたのがいたけど、あれって犬族だったっけ??」

 ひそひそ話をしていたのが、どうやらあちらにも聞こえていたらしい。かすかに咳払いして何食わぬ顔のスカンクの艦長どのだ。

「んっ、待たせて済まない。今はなにぶんにひとりだけなので、何かと手間を食ってな。そう、本来は犬族の優秀な副官がいるのだが、今はあいにくとよそでいろいろと調整中なのだ。いろいろと根回しというものをだな。ところできみたち、そんなに距離を取らないで、もっと近くに来たらどうなんだ?」

 暗に言い含めた言葉付きにまたこの肩をすくめる隊長さんだ。
 隣のオオカミが絶対にここから動かないと全身で拒否しているのにまた肩をすくめて、仕方もなしに曖昧な返答を返した。

「ま、どうかこのままで。お気を悪くしたなら謝るから。わざわざぼくらだけ呼んで話すってことは、それなりの機密事項なんだろうけど、なんとなく予想はつくしね? おおざっぱな今後のスケジュール、こんなカンジだから覚悟してくれって??」


 上官に対するにはいささかゆるくておまけ鷹揚な態度をしたでかいクマに、それを気にするでもない小柄なスカンクのおやじさんは背後のひときわおおきなシッポを一振りすると真顔で返す。

「ふむ。察しがいいな? そこまでわかっているなら手間は取らせない。なにかと機密が多い本艦ではあるから、この動向をあまり声高にアナウンスするわけにもいかないのだ。今は最小限度の人間で共有するだけでよしとして。だがベアランド隊長、私が招いたのはきみとウルフハウンド副隊長のみで、そこの若いクマ族くんまでは呼んだ覚えはないものだが……」

「ああ、この子は多めに見てあげてよ。こう見えてぼくらとおんなじ戦場に立つパイロットでもあるし! メカニックの頭を張る都合、今後のことは極力知っておいたほうがいいはずだから。大丈夫、信用できるのはこちらできちんと保障するから」

 でかい隊長の隣で身を小さくするクマのメカニックマンだが、もう片方のオオカミの副隊長は無言でうなずいてくれる。
 これに初老の艦長どのもまた無言でうなずいた。

「良かろう。では手短に話す。説明は一度しかしないので心して聞いてくれ。まず本艦の今後の予定、この進路についてなのだが……」

 言いながらスカンク族が背後に視線を巡らせるのに、自然とそちらに視線をうながされる三人だ。背後にはおおきなスクリーンがあって、真っ白だったそこに見慣れた大陸のある一部地域の拡大マップらしきが映し出される。

「今わたしたちがいるのが、このルマニア大陸西岸の第三軍港なのだが、本日中にここから南へと艦を発進させる。本格的な作戦行動に移るためにな」

「この艦が建造されていたのが、第七軍港だよね、おなじく西岸の? もろもろの都合で一度は北上したわけだけど、目的地はまったくの反対方向だったんだ。てことは……!」

 納得したさまのクマ族がくれる意味深な目付きに、真顔でうなずく艦長はさらに重々しげにこの言葉をつなぐ。


「大陸外での特務作戦だ。本艦、トライ・アゲインは中央大海、セントラル・オーシャンを南西寄りに南下、その先の第三大陸・アストリオンへと向かう。作戦の詳細は後日改めて通達するが、心しておいて欲しい。だがその前に、やるべきことがある」

「? アストリオンか、いわゆる『南の大陸』ってやつだよね? 本格的な軍事作戦をよそでまで展開するのはあまり乗り気になれないけど、直接『西の大陸』に行かないのだけはホッとしたよ。でも南に下るのには、それってちょっとした関門があるよね」


 相手の言わんとすることおおよそで了解した顔でも顔つきどこかビミョーなさまのベアランドに、隣からウルフハウンドがこちらもおおよそ納得したさまで言ってくれる。

「海上の拡大領地、『ギガ・フロンティア』ってヤツか? 海の上に無断でやたらでかいフロートベースをいくつも建造したのはいいもの、返ってごちゃついて今では敵さんのいい隠れ蓑になっちまってるっていう、あれだろ?」 

「過去の苦い経験から、軍事施設を人里離れた海上に建設したまではいいものの、四方を海に囲まれた要塞はデメリットばかりが目立つのだろう。かなりの苦戦を強いられているらしい」

「つまりはいざ考えなしの拡大路線がまんまと破綻しちゃってるいい例なんだろう? 放棄しちゃったら敵の前線基地にされちゃうし、いっそ海の底に沈めちゃえばいいんじゃないのかな?」

 歯に衣着せぬ言いようには、少しだけ眉をひそめる艦長だ。
 これにでかいクマの隊長が野放図な放言かましてくれる。
 いよいよスカンクの顔色が曇った。

「気安く言ってくれるな。そんなに簡単に沈められるような規模ではないのだぞ? それがいくつも海上に点在する、ある意味で本格的な戦闘行動向けの大規模演習地域だ」

「演習、じゃなくて、実戦だろ? なるほど、つまりはそこでこの艦のならし運転も兼ねての実戦行動をやらかすんだ。いざ南の大陸に向かうまでの演習を兼ねて? ぼくらパイロットやクルーの練度を上げるにはさも打って付けなのかね♡」

「うむ。ちなみにそちらでは人員の補充、アーマーの補強も予定している。次期主力機と目される汎用型の新型機種だ。パイロットの詳細はじきに隊長であるベアランドくんらのもとに届くだろう。目にしておいてほしい」

「期待できるのかね? 実戦での運用実績がおぼつかない新型機ばかりになっちまうんじゃねえのか、この艦のアーマーってヤツは??」

 いぶかしげに首をひねるオオカミ族に、ふたりのクマ族がのほほんとしたさまで応じる。

「さあ、これとセットでやって来る、パイロットくんたちの腕に期待ってところかな?」


「じぶんとしてもとても興味があります! 次期主力機は、確か完全飛行型の機体とのことですので。現行主力機のビーグル・ファイブの後継機だとかで?」

「ああ、そんな話だったっけ? いや、そっちはもっぱらビーガルのおじちゃんたちだとかが受け持つことになるんだろうけど。リドルはこっちのお世話で手一杯だろう?」

「とりあえずはここまでだが、質問があるなら答えよう。ないなら、解散だ。全員、ご苦労だった」

 かいつまんだ説明だけで終わった極秘のミーティングだ。
 しごくあっさりと会の閉幕を告げる艦長どのに、三人のクルーたちは無言で敬礼を返す。

 その日の夕刻、軍港を出発した巡洋艦は、沖合で大空へと浮上。夕闇の中を悠然と南へと向けて旅立つのだった。


 次回、#010へ続く…!

※まだ執筆途上です。随時に更新されます。(予定)


プロット
 ブリーフィングルーム ベアランド ウルフハウンド リドル       → ンクス艦長 今後の予定~ 
 ギガフロート フロンティア ロックランド
 アストリオン(南の大陸)

 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #008

#008

 「寄せキャラ」登場!

Part1

 大陸西岸の某地方国家の港に立ち寄った新造戦艦は、そこで別行動を取っていた仲間と合流、これを迎え入れることになる。

 無事に戦友との再会を果たすベアランドたちとウルフハウンドだが、その喜びもつかの間、喜ばしくない現実とも向き合わなければならなかった。地方の前線基地を共に旅立った僚機がいずれもこの途上で脱落、どうにか母艦へとたどり着いたのは新型機の副隊長ただひとりだけであったのだ。

 国境のギリギリを、相当に険しい道のりだったのだろう。

 半ば予想はできていたことだとクールな口ぶりで言うオオカミ族に、あまり深くは聞かないまま、内心では仲間達の無事を願うクマの小隊長だ。命があればまた巡り会うこともあるだろう。

 何はともあれ、まともなアーマーが若いメカニックのクマ族の旧型機を含めて、たった三機しかないのはいかにも致命的だ。

 パイロットも含めて早急な増強を申し出るも、あまりかんばしい顔はしてくれないスカンク族の有名ベテラン艦長である。
 このあたり、オオカミの相棒に説明するのも気が引ける隊長だ。犬族の上位種とも言うべきオオカミに取って、やはりスカンクは身近にいてほしくはない厄介な性質と習性の種族だろう。
 ブリッジクルーの犬族がしっかりと首に防毒マスクを付けていたのを今さらながらに思い出して苦笑いするベアランドだ。

 そして問題は、まだほかにもあった。


 巨大な戦艦の内部で、多種多様な種族が一同に介する社会では多種多様なあつれきやものの考え方の相違が発生する。
 軍隊のような複雑な階級制度と職種が交わる場ではなおさら。
 かくしてそれが、この翌日にははっきりとしたカタチで勃発することになる。


 強敵ひしめく激しい戦の最前線のさなか、まだ若きパイロットたちの前途は実に多難なのであった。


Part2

 巨大な空飛ぶ戦艦、空母級の船底に位置するアーマーの整備区画(デッキ)は、生まれつきに大柄なクマ族の男をもってしても、天井を見上げるのも辺りを見渡すのもホネなくらいに広大であり、そこはいつでもやかましい騒音で満たされている。

 最後尾のエンジン区画とも隣り合わせなのも手伝ってか、重たくて低い震動がひっきりなしに足下を伝わるような中を、今はそれにも負けない怒号がガンガンと響き渡っていた。
 それはまたあたりの喧噪にも伝わって異様な熱気のごときものを空気にはらませた。

 せっかくいい気持ちで寝ていたところを血相を変えた若い整備士にせき立てられて、のんびりした大股で現場に顔を出したクマのパイロットは、ちょっと困り顔でこの一角にできたひとだかりを眺める。

 ケンカがおっぱじまっているのかと思いきや、殺気立つ気配と周りの好奇心旺盛なギャラリーの顔つきや雰囲気から察するに、まだどちらも手を出すまでには至っていないらしい。

 どうせなら終わらせてくれてたらよかったのに……!

 辺りがうるさいからとそんな内心の思いをため息交じりに吐露してしまう茶色いクマの隊長さんだ。
 そんな良からぬ独り言を知ってか知らずか、この背後で慌てふためくリドルが、ベアランドの背中を無理矢理でも押して進ませる。華奢な身体つきでけなげなさまに苦笑いがより強くなる。

 正直、面倒くさかったが、チームメイトと世話になるメカニックマンのいざこざともなると隊長としてほっておく訳にはいかないものだ。またため息ついてみずから一歩を進ませた。

「あ~らら、もうはじまっちゃったのね! まったくうちのオオカミくんたら何かって言うとケンカっぱやいんだから。ぼくたちみたいなギガ・アーマーのパイロットが、自分がのっかるアーマーの整備をしてくれるメカニックマンともめたって、いいことなんて何もありゃしないのに……!」

「しょっ、少尉どのっ、早く! 相手はこの艦で一番のベテランで実力のあるメカニックどのであります!! おまけに見上げるくらいに大きなクマ族で腕力もありそうだし!?」

「はいはい。てか、この艦で一番のメカニックは現状、このぼくのランタンを任されてるきみだろ? 泣く子も黙る名メカニック、かのブルースのおやっさんの最後の愛弟子でもあるんだから♡ だったらここはきみが仲裁するのがスジってもんだよ」

「むむっ、無理であります!! ウルフハウンド少尉どのはめちゃくちゃ殺気だってるし、殺されてしまうであります!!」

「はは、かもね? うわ、ギャラリーがすごいや、どれどれ、ちょっとごめんよ、どいたどいた、さっさと通して……邪魔だな! もうっ、いいからみんなあっちに行っておいでよ! 巻き込まれたらぜったいケガするんだからさ?」

 かねてよりエースの呼び声高いオオカミのパイロットと、実質この場を取り仕切るベテランのクマのメカニックの一騎打ちだ。
 このまたとない見世物を見逃すまいとぎゅうぎゅうにひしめく有象無象たちのスクラムを、力ずくで無理矢理にでもひっぺがしてズカズカと輪の中に入り込む。


 すると衆人環視の人垣の真ん中には、元から見知った人影とつい最近に知り合った顔がお互いにひどく苦み走った表情でにらみ合っているのがわかる。
 どちらも視線を外さないが、殺人光線みたいなのがバチバチと空気中でショートしているのが目に見えるような険悪さだった。

「あ~らら、こいつはまた、えらい剣幕でにらみ合っちゃってるね! 朝っぱらから何をそんなに怒ることがあるんだか??」

「そ、それが、その……!」

 あわわと困惑する若いクマ族を振り返るに、その視線の先にあったものを見て、ただちにそれと理解する隊長さんだ。

「ああ、なるほど、そういうことね! シーサーのアーマー、ギャングだったけ? 見たところボディの一部がカスタムされちやってるけど、さてはそれで機嫌をそこねちゃったんだ♡ まあ、この先を考えたら仕方ないっちゃあ、仕方ないんだけど……!」


 いがみ合うふたりの男たち越しに見上げた、目の前の巨大なハンガーデッキに格納される、大型ロボット兵器のありさま。
 これを見るなりしきりと納得するベアランドに、その横で所在なげな若いクマのメカニックが声をひそめてまた言う。

「はい! 海上での作戦を考慮して、そちら仕様のパーツに脚部を換装、フルカスタムしたのですが、ウルフハウンド少尉どのはこれを聞いていないとご立腹で……!」

 ひどい困り顔で見上げる青年に、こちらもまだ若いクマのパイロットはひどく白けた表情でこれを見返した。

「だからって腹を立ててもね? というか、リドル、きみは聞いてなかったのかい? ぼくら新型アーマーの専属で、言えばチーフメカニックともなるきみがさ? だとしたら、そっちのほうが問題じゃないかと思うけども……」

「ああっ、それは……!」

 しどろもどろで言葉に詰まるリドルに、さてはここにも問題があるなと内心で考えあぐねるベアランドだ。
 目の前で鼻息荒くしたクマのベテラン整備士は、見た目まだ若く経験の浅いだろうこの同僚のメカニックをそもそもかろんじているような節が見られるのが、傍目にも明らかだった。
 内心で大きなため息ついて、仕方もなしに一触即発の現場に最後の一歩を踏み出す。


「はいはい! やめたやめた、おふたりさん! ギャラリーに囲まれて完全に見世物になっちゃってるじゃないか? シーサー、落ち着きなよ、何も悪いことなんてひとつもありはしないだろう? きみのその、ギャング、だったけ?? 見た感じ前よりも立派になったじゃないか♡」

「ちっ、ギャングスター、略してギャングだよ。いいや、冗談はよしてくれ! こいつのどこが立派っだて言うんだよ、大将? こんな不細工でぶっとい脚を付けられて、走るどころか歩くのだって一苦労だ! おまけにこの俺さまの了解を得ないままに、よくもこんなふざけた改造を、おい機械小僧、おまえは関わっていないんだよな?」

「あっ、はっ、はいっ、少尉どの……!」

 荒くれるオオカミににらまれて生まれつき華奢なクマ族は、とうとう身体のでかいベアランドの背中に隠れてしまう。
 やれやれと肩をすくめる隊長だ。
 そこにベテランの大柄で恰幅のいいクマが食ってかかる。
 内心のため息が尽きない隊長さんだ。

「冗談じゃない! そいつはこっちの台詞だよ。どいつもこいつもふざけやがって、まずそのギャングってのも、紛らわしいったらありゃしないや。いいかい、こいつの正式名称はハウンドだろう。我らがルマニア軍を代表するビーグルシリーズの上位機種が、なんでそんな下品な名前で呼ばれにゃならないんだ? あとぼくがやったことに間違いなんて一つもありゃしない」

「うわ、よく見たらこのぼくよりもデカいんじゃないかい、このクマさん??」


 のしかかってくるような圧迫感と鼻息の荒さにちょっとだけ引いてしまうベアランドだが、まさしく野生の熊さながらの迫力とボリューム感たっぷり! オヤジのメカニックはその見た目にはあまりそぐわない饒舌な口ぶりでここぞと嘆き節をがなり散らしてくれる。

「聞いてくれ、隊長さん、このバカ! もとい、この副隊長のパイロットどのは、アーマーで海の上を走るとか言いやがったんだぜ? よりにもよって海の上をだ! 聞いたことがない、重たくバカでかいギガ・アーマーで大波荒れ狂う海の上をドカスカ走ろうだなんて!? 無理だね! 絶対に! 賭けてもいい!!」

 真っ赤に上気した顔で牙をむくオヤジに、これとおなじクマ族のパイロットもややたじろいでしまうくらいだ。
 そのくらいに怒りと殺気に満ちあふれたメカニックマンだった。ここが戦場の最前線だというのが改めて身にしみる。
 後ろで若いメカニックがひいっと悲鳴を発するが、先が思いやられて自然と天を仰いでしまう。


「ああ、まあ、なるほどね! 言い分はわかるんだけど、じぶんの命を任せた機体を無断でいじられるのは、やっぱり気分がいいものじゃないのはわかるだろう? んん、だからほら、ここはお互い様ってことで、納めてくれないかな? だめならケンカ両成敗ってことでこのぼくがふたりをぶん殴ってもいいんだけど、それだとケガするだけ損だろう? シーサー、そんな顔しない! ほんとに殴るよ? ね、えっと、イー……、ビーガル、曹長?」

 牙をむいてうなる同僚のオオカミ族には、あっちに行ってくれとこちらも牙をむいてしっしと追い散らす隊長だ。
 渋々で踵を返す灰色オオカミは舌打ちしながらギャラリーを掻き分けみずからの機体、銀色の大型ロボットへと歩いていく。
 とどのつまりで機体の状態を確かめるべくだ。
 本心ではわかっているくせに、本当に素直じゃないなとその背中と太くて立派なしっぽを見送るベアランドだが、すぐにも残るクマのオヤジへと向き直った。


 若い隊長の仲裁で修羅場を無事にやり過ごした中年の整備工は、ちょっとどっちらけたさまであさっての方角向くと、改めて正面へと向き直る。気まずげな表情で、大きな頭をぺこっと上下させていくぶんかトーンを落とした口ぶりで言うのだった。

「ああ、ベアランド隊長、すまなかったね。年甲斐もなくついかっとなって、昔よりはだいぶ落ち着いたんだが、若くて威勢のいいやつを前にするとどうしても……! いざケンカになったら勝てやしないのはわかっているんだ。あんたには謝っておくよ。それと名乗るのはこれで二度目だけど、念のために。イージュン・ビーガルだよ。ビーガルと呼んでくれ。あとそっちの小さくなってくる若造君もね!」

「若造、ね! いろいろと楽しくなりそうだ。大丈夫なのかね?」



 





 

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寄せキャラ・スピンオフシリーズNo.1「翼の折れた新型機」③

新米パイロット、コルクとケンスの犬族コンビが実戦でまさかの大失態!? ベテランの関西弁シェパードはカンカンで…!!

 前回、Part2からの続きです!
 関西弁がやかましいベテランパイロットのコッバスと初対面した新人パイロットのコルクとケンス。おっかなびっくりしながらもオヤジキャラの上官どのとミーティング、徐徐に打ち解けていけたはずが、翌日の出撃において大問題がいきなり発生!?

 「翼の折れた新型機」③

〈Part3〉

 明けて、この翌日。

 上官のコッバスの言葉にもあった通り、前日に赴任してきたばかりの新人パイロットたちにも、この日の昼過ぎには早くも初の「出撃命令」が下されることとあいなった。

 ベテランのシェパードを部隊長として、そこにまだ経験の浅い新人がふたり。都合、ギガ・アーマーが三機の小隊編成だ。

 山岳部の地下資源と肥沃な耕作地帯の領有権問題でもめる隣国との紛争は、背後には二つの大陸間で覇を競う大国と大国の影が見え隠れする。旧型のアーマーが複数、国境を越えてこちらの支配地域を侵犯、これをすみやかに迎撃し撃退せよ……!

 この命令の通りに西に拓けた野原で敵を迎え撃つ。 

 あってなきがごときの国境だ。
 絶え間のないいさかいが災いして長らく人気のない緩衝地帯は荒れ野がごときありさまで、どこにも隠れるような場所がない。
 ただしこの条件はどちらも一緒であり、そんな中を昨日今日に結成したばかりの即席部隊にしては、うまい連携で戦闘をこなしていた犬族のパイロットたちだ。

 新人たちの援護の下に果敢な接近戦を挑む隊長が、一機、二機とこれを撃破! ついには劣勢になって逃げていくと思われた敵影を追撃するさなか、しかしながら敵方のトラップの地雷原にまんまと誘導されてしまい、それまでの風向きが一変してしまった。

 敵はこちらの新型機の存在もその性能も知らないのだから本来ならば作戦ミスに違いない。
 それだから部下たちが乗る、高い機動力を誇る飛行型のアーマーに地雷などは一切効かないと大笑いする隊長のコッバスの表情が、この直後にはこの上も無いような驚きにより激変。

 このすぐ側に付けていたコルクは耳をふさぎたくなるような上官の怒号に全身がすくみ上がることになる。背後のケンスは言葉もなかった。

 辛くも乗り切れたのは新型機の持ち前の性能と、上官のコッバスの経験から来る冷静な判断と適切な指示のたまものだった。
 危ういところを三人ともに生き延びることができたのだ。

 さんざんにやり合ってそろそろ日が暮れる頃に基地に無事帰還した三機のアーマー小隊だが、中のパイロットたちにはこれからまた一波乱あるのはもはや必然の流れなのだった。