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ルマニア戦記/Lumania War Record #010

#010

「寄せキャラ」登場!

 ※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

 「新メカ」も登場!

Part1

 空はどこまでも澄んで、穏やかだった。

 眼下に広がる海も、見渡す限りが青く穏やかに見える。

 その最果ての水平線が、空と交わる先でゆるいカーブを描いているのをそれと実感。ここがおよそ戦場とは思えないほどに、今は全てが静かに落ち着き払っていた。

 かくしてそんなのんびりとした雰囲気に釣られて、軽い鼻歌交じりに周囲の景色、ぐるりとみずからを取りまく大小のモニターを見回す犬族のパイロットだ。
 それはご機嫌なノリで意味も無く手元のコンソールパネルのスイッチをガチャガチャといじくり回す。

「ふーん、ふっふ、ふんふん、ふんのふんのふんっと…!」

 まったく意味のない動作の連続で、無意味な操作音がピッピとコクピット内に鳴り響く。シートベルトでがっちりと固定されたシートの背後から、細長いシッポの先がブンブンと振れていた。

 本当にご機嫌なさまだ。

 あんまり調子に乗って機体の推進制御レバーにも手が触れたらしい。微速前進で空中に安定していたはずの機体が突如、ビクッと姿勢を崩すのに、ちょっと慌てたさまで両手をレバーに戻して機体の水平を保つ。

 苦笑いでぺろりと赤い舌を出すビーグル種の犬族だ。

「おっと、あかんあかん! 調子に乗ってもうた。これからガチの戦闘やのに!!」

 ピッと不意に短い電子音が鳴って、同僚の機体からの通信、茶々が入った。すぐ斜め後ろをおなじく微速前進で追従する相棒の犬族のパイロットの、これまた調子のいいツッコミだ。

「どしたん? ずいぶんとご機嫌やけど、なんかええことあったんか? これからバトルやのに?? 浮かれとる場合ちゃうやろ」

「ああっ、せや、せやけどいいカンジやろ? これのどこが戦争なんだかわからへんぐらいに平和になっとるやん! ほな鼻歌のひとつも出てまうわ」

「今だけやろ? よそのエリアじゃもうバリバリ戦闘に入っとるらしいで。なんや新型の空飛ぶ戦艦が入ってきもうて、ごっついアーマーも投入されとるらしいやん!」

「せやな。この万年戦闘水域の中心、本島のロックスランドをあっさり一日で落としたんやったっけ? あないに苦労して占領したのにムカつくわあ! ほんまにどついたろか」

 苦笑いがさらに強くなる犬族、モーリィは正面のモニターの中で小さく区切られた窓の中の相棒に、皮肉っぽくみずからの右のほほのキバをニィッとむいてみせる。

 おなじく苦笑いの相棒、こちらもまだ若いのだろう毛足の長い特徴的な顔つきをした犬族のリーンは、茶目っ気のある笑みで返す。

「好きにしたらええやろ! それよかそろそろみたいやんな? 早速レーダーにひとつそれっぽい反応が入ってきとるやろ?」

「さよか! ほな、ぼちぼちいったろか!」
 

 ビピッ、ピッピッピッピ!

 正面から右手のモニターにバストアップの映像が移った相棒が言った通り、自機のアーマーのレーダーサイトに反応がひとつ引っかかったことが、今しもアラームの警告音(ビープ)で知らされる。

 こちらよりまたさらに上空の空におかしな反応がひとつ。

 正面のモニターに映し出されたその映像にみずからの突き出た鼻先をひくひくとひくつかせる犬族だ。はてと小首を傾げながら、怪訝なさまで独り言めいた言葉をつぶやく。

「あれぇ、なんやようわからんヤツがおるわあ? なんやあれ、やけにいかつい見てくれしとるけど、あんなんこっちのデータベースに載っておらへんやん? アンノウンやて!」

「みたいやんなあ? こっちもおんなじ、ノーデータや! 現在、諸元とこの想定される性能を解析中……あ、そやから詳しう解析するためにようモニターしてくれっちゅうとるぞ?」

「知らんわ! そんなのこっちの知ったこっちゃあらへん。なんで命がけの戦闘しとる最中にそないなことせなあかんねん! わしらまだ予備軍扱いで、正規には採用されとらへんのやさかい」

「そやんなあ、それがいきなりあないな新型の敵さんと会敵なんて、しんどいわあ! どないする? ま、アーマーがピッカピカの新型なんはこっちも一緒なんやがのう」

「はん、新型っちゅうてもこないなもんは実験段階の開発途上機やん。そやからわしらみたいなペーペーでも任されとるんやし、それやのにあっちはやけにいかつない? もうちょいズームで、うお、でかっ! めっちゃごっついやん!! なにあれぇ?」

「うわ、なんかきしょない? なんであないなでかいもんが平気で空飛んでんねん? わいらのアーマーのサイズの優に倍はありよるで? ほんまに何で飛んでんのや、ローターエンジン付いとるか? ジェットドライブやったら燃費悪すぎやろ!」

「なんか、飛んでるゆうよりも空に浮いてるカンジせえへん? マジできしょいわ、わけわからへん。マジでどないしょ」

「逃げるわけにもいかへんもんなあ? 仮にも新型機で出撃しといて。この「ドラゴンフライ」の性能も見とかなあかんやろ? なんか大人とこどもくらいも機体に体格差あるんやけど」

「ドラゴンフライて、トンボやったっけ? あっちからしたらこないなチャチな機体、まさしく「かとんぼ」にしか見えへんのちゃうか、まともな足もついとらへん中途半端なもんは? 足っちゅうか、こんなんただのほっそいほっそい棒やん!!」

「空飛ぶんには足なんてあっても邪魔なだけなんやろ? 空中じゃ歩かれへんのやさかい、そやったらそないなもんは、ないほうが身軽になって飛びやすいっちゅうわけで!」

「言いようやんな! まあええわ、よっしゃ、それじゃその身軽なん使こうてふたりで一発かましたろか! あっちはあんなんやから素早くなんか動かれへんのやろ? 見てくれおっかないだけで図体でかいだけのでくの坊や。ははん、だったら楽勝やん!」

 息の合った掛け合いで漫才みたいなやり取りを一息に決めて、モニターの中の敵影にこれと視線を定める犬族のモーリーだ。
 自分がリーダーだとばかりに盛んに意気を吐くが、これにちゃっかりしたお調子者らしい相方が、それはそれは好き勝手な言いようほざいてくれる。

「ふたりっちゅうか、まずはひとりでいっときぃ、じぶんが! そのあいだにこっちでしっかりモニターしとるさかい、存分にその新型の力を試してみぃ! そしたらついでにそれもモニターしたるから、なんや、これってまさに一挙両得やんな?」

「は? いやいやいや! 何を勝手を言うとんねん?」

 まるでひとを使いっ走りみたいにそそのかしてくれるのに慌てて抗議するのだが、相手はまるで聞く耳を持たない。

「ないないっ、あんないかついもんに単機で突っ込むなんて自殺行為やろ! ふたりで挟み撃ちするくらいでないと無理やて、わしひとりでまんまと返り討ちにあったらどないすんねん?」

「そん時はさっさとトンボ帰りやわ! ほなさいなら!!って、ドラゴンフライなだけに? うまいこと言うたやろ? ほな、まずはひとりでいっときぃ、遠慮せんでええから、ほら、あちらさんもあないに手持ち無沙汰なままでじぶんのこと待っとるでえ? せやから今がチャンスやて!!」

「なんのチャンスやねん? あほちゃうか?? むりむり、あかんあかん! 死んでまうて、見れば見るほど、まともちゃうやんか! あないなグロいバケモン……あ!」

「あ、感づかれたんちゃうんか? じぶんがさっさと行かへんさかい、とうとうあちらからご指名がかかったんやな。ほな、ひとりでいっときぃ」


「なんでやねん!! おおい、マジで来よったで! 完全にロックオンされとるがな! あほなこと言うとらんでさっさと応戦や! 漫才ちゃうんやからつまらんボケは通用せんで、うお、マジでごっついやん!! シャレにならんて!!」

「しんどいわあ~、じぶんほんまに手の掛かる子やんなぁ? しゃあない、後ろから援護したるさかい、前衛はまかせたで!」

「なんでやねん!!」

 コクピット内にやかましい警告音が鳴り響く。
 それを戦いのゴングと了解して、ただちみにみずからの正面の操縦桿を握りしめるビーグルだ。モニターの向こうの相棒に目配せして、ガチの戦闘に入ることを互いに確認!

 二機の新型機がおのおの左右に分かれて旋回上昇軌道に入る。

 未知の敵との遭遇。

 かくして息つくヒマもない銃弾とビームの応酬が前衛芸術さながら、青一色の空のキャンバスにくっきりと描き出される。

 「戦争」がはじまった。


Part2
 主人公登場!!

 主役のクマキャラ、若いクマ族のパイロットのベアランドです。初代から数えてこれでテイク4くらいですね!

若いメカニックマンの男の子、リドルははじめの見てくれがかなり雑だったので、下のキャラに顔だけリテイクしています。
 作者的にはそれなりにお気に入りです♡

 Part2

 今はまだ、静かな世界だ。

 空も、海も、果てしなく青く、ひたすらに広がるばかり。

 ここは大陸からはかなり離れた沖合の海洋だ。
 本来ならどこの国にも属さない中立の公海水域なのだが、今やそこは広範囲にわたって敵味方が入り乱れる戦場と化していた。

 元は岩山ばかりが目立つ小さな小島と、その周りをぐるりと取り囲む形で配置された、人工の島々、ギガ・フロート・プラットフォームで形成された、世に言うルマニアの『拡大領域』だ。

 端的に言ってしまえば、海に浮かべた正方形や長方形の巨大なプラットホーム、ギガ・フロート上にそれぞれ任意の構造物を建造した前線基地とその周辺施設群なのだが、今やこの半分が敵方の手に落ちているというのがその実のところである。

 いざ無理矢理に領有権を主張したところで、本国から遠く離れた離れ小島は、地続きでないだけに援護や補給がままならない。

 大陸西岸の属州の港湾で補給を終えて、すぐさまこの混乱した戦線に加勢した巨大な空飛ぶ船艦のはたらきで、この中枢の小島の要塞は見事に奪還したものの、これを中心に西と東で支配権が分かれるフロートの各施設をただちに攻略および守護!

 そこかしこに潜伏する敵を掃討するのがみずからの役目である若きクマ族のエースパイロットは、周囲の青一色の景色ばかりを映し出すモニターに視線を流しながら、何気なくしたひとりごとを口にする。


「う~ん、こうして見てみるに、どこにもこれと言った戦艦らしき影が見当たらないなあ……! でっかいのがこれっぽっちも。友軍もそうだし、敵軍の戦艦、潜水艦なのかな、どこにもそれらしい気配がないんだよねぇ。頼みのレーダーはどれもさっぱり無反応だし。どうしたもんだか……」

「はい? 戦艦、でありますか? 友軍となると、ジーロ・ザットン将軍のものでありましょうか? 確かどちらかのフロートに付けているらしいとは聞いておりますが? それと少尉どの、こちらのトライ・アゲインとおなじで、最新鋭の航空型巡洋艦だったと記憶しておりますが……」

 今は離れた母艦からの応答、通信機越しの見知ったメカニックマンからの返事に、ちょっと小首をかしげてまたこれに応じる。

「まあね? この戦域の指揮を任されてるトップの指揮官なんだから、もっと目立つところに陣取っていてほしいんだけど、切れ者で何考えてるかわからないところがあるからさ、あのおじさん♡ ぶっちゃけ悪いウワサもバンバン飛び交ってるからね! いざとなったら手段を選ばない、冷血艦長の悪党ジーロって!!」

「あはは、そうなのでありますか? 恐れ多くてじぶんの口からは何とも。ですがあちらも目立つ最新の大型戦艦なのですから、よほど高空を飛んでいない限りは目で視認ができないだなんてこともないものだと思われます。かろうじてレーダーの目はごまかせたとしても?」


「うん、ぼくもそんなにお間抜けさんではないからね? まさか海の中に潜っているだなんてことはないはずだから、やっぱり巧妙に隠れているんだよね。となると、あやしいのはいっそあの本島のロックスランドの入り組んだ岩礁地帯か、もしくは……!」

 やや考えあぐねるクマの少尉どのがそう言いかけたさなか、不意にピピピッ!と甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く。

 レーダーに反応あり! つまりは敵と遭遇したことを示すものだった。これに通信機の向こうで息をのんだ気配があり、ちょっと緊張したさまの若いクマ族のメカニックマンの声がする。

 今現在、自機がいるのがわりかし高空なのと、周囲に敵影がなかったので妨害電波らしきもないらしく、遠くの母艦で留守番している若いクマ族のハイトーンな声色がきれいに聞こえていた。

「反応、ありましたか? はい、こちらでも確認しました! ギガ・アーマー、二機の模様です。状況からして少尉どのとおなじ飛行型タイプでありますね。あれ、でもこれって……」

 まだ実験開発段階の都合、こちらの機体状況をつぶさにリアルタイムでモニターしている機械小僧のちょっと戸惑ったさまに、釣られて苦笑いのベアランドも太い首をうなずかせてまた言う。

「うん。ノーデータ。『アンノウン』だって! いきなり未確認の機体と遭遇しちゃったよ! いわゆる新型機ってヤツだよね。まいったな、てか、新型で正体不明なのはこっちもおんなじなのかな? あれって見たところどちらも同型の機体だよね、なんかえらい見てくれしてるけど……!」

「えらい見てくれ、でありますか? こちらでは画像の解析がまだできていないのでわかりませんが、飛行タイプのアーマーならば比較的小型、軽量級なのでありましょうか??」

 メカニックマンの推測に小首をかしげて目の前のモニターをのぞき込むクマのパイロットは、何やらあいまいな返答だ。

「う~ん、そのどちらもだね! なんか中途半端な見てくれしてるよ。やけに? なんなんだろ、ボディと飛行ユニット、あれってロータードライブなのかな、今流行(はやり)のさ? そこだけそれなりしっかりしているんだけど、それ以外の手足がオマケみたいな感じでくっついてるよ。脚なんかあれってばただの『棒』なんじゃないのかな??」

「はい? 棒、でありますか?? いやはや、まったくわかりません。少尉どのっ、新型機ならばなるべくこの性能と仕様をモニターするべきなのでしょうが、随伴するサポートの機体がいない今の状況ではいささか難しいものがあります。こちらでなるべく解析トレースしますので、無理のない機体運用をお願いします。そのバンブギン、いえ、ランタンもこの性能試験の真っ最中でありますので!」

「わかってるよ! とにかくいざ会敵したからには真っ向からやり合わなけりゃならないんだから、おのずとデータも入ってくるさ! 相手がひ弱な見た目だからって、遠目からビームの一発で終わらせようだなんて横着はしないから。それじゃこの子の運用データもろくすっぽ取れないしね?」


「了解! 敵影、どちらも動きに変化ありませんが、こちらには気づいているものと思われます。いかがいたしますか?」

「どうするって、こちらから仕掛けるしかないんだろう、この場合は? さいわいあちらさんの頭上を押さえているからやりやすいよ♡ それじゃあ行ってみようか、そうれっ……!!」

 言うなり躊躇なく手元の操縦桿を思い切りに押し倒す少尉どのだ。それによりアーマーとしてはかなり大型なみずからの機体が頭から前のめりに空中をダイブ! こちらよりは低空を飛んでいる二機の敵機めがけて一気に突撃する体勢に入る。

 戦いがはじまった。

 さすがに空中での格闘戦はまだ慣れていないので、機体に装備されたビームカノンを相手めがけて一斉射!!

 この頭上からの不意の攻撃にあって、相手機はどちらも泡を食った感じでひょろひょろっとそれぞれが回避機動に入る。
 ほんとうにひ弱なカトンボみたいなありさまだった。
 ちょっと拍子抜けしたクマのパイロットは、目をまん丸くしてそんな相手のありさまをしげしげと見入る。


「なんだい、あんまり統制が取れてない感じだな、どっちも? ひょっとしてまだペーペーの新人くんだったりして?? あんまり攻め気を感じないんだけど、ちょっとおどしたらあっさりと逃げ出したりするのかな……? まあいいや、とにかくやることやるだけだよね!」

 そんな考えているさなかにも、頭上のスピーカーからはすかさずに若いメカニックマンによるのサポートが入る。

「少尉どのっ、敵機、二手に分かれました! さては挟み撃ちするつもりなのでしょうか? ですがそのランタンに装備されたカノンはほぼ全ての方位に向けて射撃が可能なので、どうか落ち着いて対処願います!!」


「はいはいっ、わかってるよ! 誰に言っているんだい? 余計な茶々は入れないでいいから、黙って相手のモニターに専念しておいでよ。こっちは心配ご無用! ぼくとこのランタンにお任せだね!! とにかく慣れるだけ慣れないと、相手がガンガン攻め込むタイプじゃないみたいだから、まずは距離を取っての打ち合いに専念するよ。両手のハンドカノンの威力をできるだけ発揮させるから、そっちもちゃんとモニターしておいておくれよ!」

「了解!!」

 自機の周りをぐるりと取り囲んで、互いに一定の距離を置いたまま時計回りに旋回する二機のアーマーに、対して機体の両腕に装備されたハンドカノンをぬかりなく構えて冷静に狙いを定めるベアランドだ。

 相手はやはり警戒しているものらしく、あちらからはいまだ仕掛けてくる様子がない。通常のそれよりも大型で、異様な見てくれしたこちらのさまに多少なりとも動揺しているのかもしれないと思うクマの少尉どのだ。さてはまんまと萎縮している感じか。

「ああん、やっぱりやる気が感じられないなあ? そうかい、だったらこっちからガンガン攻めさせてもらうよっ!!」

 2対1と数では劣勢だが、決してこの分は悪くないとみずからの腕前と機体の性能にそれなりの自負がある大柄なクマ族は、ペロリと舌なめずりして自分から見て右手にあるモニターの中の機体にこの意識を集中する。

 まずは一機ずつ、着実に対処するつもりで利き手のレバーのトリガーをゆっくりと引き絞った。
 直後、赤い複数の閃光弾が青空にまっすぐの軌跡を描いて走り抜ける! その先には標的となった見慣れない灰色のアーマーが、複雑な軌道を描いてこちらもただちに回避機動に転じる。
 ひとの手に追い立てられる、それこそ虫の蚊もさながらにだ。

 全弾回避! ハズレだった。

 それなりに狙いを定めたつもりのクマの少尉は、チッと小さな舌打ちして見かけ通りの身軽な機体を恨めしげに見やる。
 運動性能はかなりのものらしい。やはりそんなに簡単にはいかないかと、どこか余裕ぶっていた気持ちをグッと引き締めた。

※以下、挿絵の作製の段階ごとに更新したものをのっけていきます(^^) これまでは随時に画像を差し替えていたのですが、試しにですね♡

 もとの雑な構図の下書きに、もうちょっと具体的なイメージを書き込みました。でもまだまだざっくりしてますね!

 さらに描き込み♡ ちょっとわかるようになってきたでしょうか? これをさらに具体的に描き込みできればいいのですが、最終的な着地点は決まっていまいちびみょーなところに収まるのがシロートの悲しい性です(^_^;)

 とりあえず下絵は完了? 色まで付けられるかはビミョーです。べた塗りくらいはできるのか?? 色つけの課程も随時に公開していく予定です。ちなみに作画の課程はツイキャスとかで無音で公開していたりするので、興味がありましたら♡

 主役のクマキャラ、ベアランドだけベタ塗りで色を付けてみました(^^) 余裕があったらもうちょっと加工してそれっぽくしてみたいのですが、かなりビミョー、たぶん単純なベタ塗りでおわってしまいそうです。ちなみにインスタライブでやりました♡

 全体べた塗りしました(^^) これで合っているのかどうか作者ながらにビミョーです(^_^;) これより先に加工するかはまだ未定ですね…!


 他方、ベアランドからの猛攻に追い立てられる哀れなカトンボの立場のアーマーパイロット、見た目はとかくメジャーな犬種の犬族のモーリィは、悲鳴を上げてジタバタわめきまくる。
 狭いコクピット内に警告音と鳴き声がやかましく交錯する。
 端から見たらばまったく訳がわからないありさまだった。

「おわわわわっ、あかんあかんあかんあかん! なんでそないにぎょうさんビームばっか撃ちまくってくんねん!? しかもこのわしにだけ!! 不公平やろっ、あほんだら! あっちの相方のほうにも何発か見舞ったれや!!」

「なんでやねんっ! そっちでなんとかしいや!!」

 モニターの真ん中にでんと居座るでかい機体に向けて思わず口走ったがなり文句に、相棒の犬族からすかさず苦笑い気味のガヤが入る。
 現在、大型の敵のアーマーを挟んで対極に位置するこちらと同型のアーマーは、ひとりだけ我関せずのひょうひょうとしたありさまでのんきに空を飛んでいるのを苦々しげににらみつけるビーグルだ。ひん曲がった口元からうなり声がもれた。

「うぬうううっ、そやったらちょっとはじぶんも援護しいや! なんでわしだけこんないにガンガン派手にビーム当てられやならへんのや!? まだ当たってへんけど!! でもこないにきつうやられたら反撃もままならへんやろ!! おわあっ!?」

 言っているさなかにも、相手からは盛大なビームのシャワーがひっきりなしにこれでもかと送られてくる。とんでもない大出力のハイパワーエンジンを搭載していることをまざまざと見せつけられる思いの犬族だった。

 通信機越しの相棒がまたもや驚きのガヤを発する。
 いたってのんきな言いようがこれまたしゃくに障るビーグルだ。

「あちゃちゃ、マジでシャレにならへんのちゃう? こっちの射程圏内の外からでも余裕のパワーがありそうやん! おまけに三発四発、同時に見舞ってきよるもんなあ!? あんなんじぶんようよけきれとるわ!!」

「感心しとる場合ちゃう! マジで蜂の巣にされてまうやん!! どないしょっ、ちゅうか、じぶんも相手の背後(バック)取ってるんやから反撃せいや!! なんでわしだけひとりでこないないかついバケモンの相手をさせられにゃならんねん!!?」

 もっともな訴えに、仲間の犬族はやはりしれっとしたさまで応じてくれる。もはやかなりすっとぼけたものの言いようでだ。

「無理やろ。あいにくこっちの射程圏内の外っかわに敵さんおるんやから? 撃っても届かへんて。危なくて近寄れへんやろ。新品のアーマーを傷だらけにしてもうたら怒られそうやしなあ!」

「何言うとんねん! 戦争やぞ、ガチの!! ちゅうても確かにあぶのうて近寄れへんか! このアーマーの装備じゃミドルレンジのハンドガンがせいぜいやけど、あっちはバリバリ、ロングレンジのキャノンの威力かましてるやん! マジ反則やて!!」

 今や逃げ惑うばかりのまさしくカトンボのアーマーだ。
 味方からのまともな援護も望めないままに、絶望的な逃避行を続けている。敗色は濃厚だ。それを見て全てを悟ったかのごとく、相棒の犬族がしれっと問うてくる。

「どないする? さっさとシッポ巻いて逃げてまうか? 敵さんどんくさい見た目しとるし、スピードやったらこっちが上みたいやんか、そやったらいくらか援護したるで??」

「マジか!? じぶんすごいな!! そういうところ、ほんまに尊敬してまうわ!! でも一発も見舞わないまんまに逃げ出すんいうんはあかんやろ? 取り上げられてまうで、この新品の新型アーマー! どれだけ使いもんになるかわからへんのやけど?」

「じゃあ、やれるだけやってもうて、さっさとバックれんのがええんちゃうか? 射程圏外からでも無駄ダマ、バリバリ撃ってまうノリで? あちらさんはそれほど本気な感じがせえへんから、いざ背中見せて逃げ出しても追っかけてこうへんのちゃう??」

 もはや身もフタもない言いようにしまいにはうんざりするモーリィだが、内心ではそれが正解かと判じてもいるらしい。

「納得いかへんわあ、理不尽ここにきわまれりっちゅう感じやん? いざ新型で出撃したら、あないにわけのわからへん新型に鉢合わせするなんちゅうんは! なんかわしだけ目の敵にしとるし!!」


 完全にさじを投げた調子の相棒の意見にいやいやで同調する、こちらもまだ新人のパイロットだ。機転と経験で現状を打開するよりも逃げるが勝ちと相手機との距離を取ることに専念する。

 攻撃はもはや二の次だ。

 かろうじて敵の背後を取っている相棒の機体が形ばかりの援護射撃をくれたらば、それを合図に即座にこの場をとんずらするべく、前屈みでモニターの中の大型の緑色した機体を注視する。

 対してこれを迎え撃つクマ族の若いエースパイロットは、数で勝るはずの相手がそのくせ逃げ腰なのをはっきりと見て取って、とうとう呆れたさまの物言いだ。

「あらら、これじゃ勝負にならないね? 相手さん、完全にやる気がありゃしないよ、逃げてばっかりでろくすっぽ撃ってこないもん! こんなんじゃ敵のアーマーのモニターどころかこっちの性能試験もままならないや。どうしたもんだか……」

 乗り気がしないさまではたと考えあぐねるのに、こちらも若いクマ族のメカニックがスピーカー越しにもそれとわかる、いささか戸惑い加減で言ってくれる。

「少尉どの! あまり戦いを長引かせればこちらの機体の機密を敵軍に無駄にさらすことにもなりかねません。距離を置いての戦いはこちらも得意とするところではありますが、できるなら一気に間を詰めての早期の決着を考えたほうがよいのでは? 片方が墜ちればもう片方には逃げられる可能性が高いのですが…!」

「ああ、まあそれは仕方がないよ。ぼくもホシを稼ぐばかりが能ではないからね! この機体は確かに万能で性能が高いけど、だからって殺戮兵器じゃないんだから…!! これってただのきれい事かな? ま、それじゃ、見ててごらん!」

 どうやら何事か決意したさまで左手のモニターの中のメカニックマンにチラリとだけ目配せすると、いざ正面に向き直って高く意気を発するクマ族だ。

「さあてお立ち会いっ、初見の相手はみんなこぞって度肝を抜かれること受け合いだよ! このランタンの攻撃パターンの多彩さをぞんぶんに思い知らせてやるさ、それじゃ狙いをしっかりと定めまして……ん、いくぞ!!」

 モニターのど真ん中に捉えたくだんの敵アーマーにしっかりとロックオンしたことを確認するなり、そこにまっすぐに突き出したみずからのアーマーの右手と、すかさず怒号を発して利き手のトリガーを思いっ切りに引き絞る!!

「食らえっ、ロケットパアアアアアアアアーーーンチ!!!」


 かくして戦場は大混乱の様相を呈するのだった。

 相手のひっきりなしのビーム攻撃からほうほうの体で逃げ回る犬族だが、不意に何かしらの嫌な気配を察するなり、コクピット内に鳴り響く警告音にびっくりしてこの背後を振り返る。

 バックに配置された中型のモニターには少し距離を置いてこちらを追いかける大型の飛行アーマーが、そこでなにやらしでかしているのを激しいライトの明滅とともに知らせてくれる。

 ビームではない、何かが急接近しているのがわかった。

 かくしてそれが相手の腕から繰り出された、それはそれはどでかいゲンコツのグーパンチ、まさしく『ロケット・パンチ』だと見て取るや、この全身がひいいっと総毛立つビーグルだ。

「ななななっ、なんそれ!? うそやろっ、あかんやつやん!! マンガちゃうんやから、ロケット・パンチなんて反則過ぎるやろ!!」


 まっすぐにこちらめがけて飛んでくるでかい右手首、巨大な鋼鉄のカタマリに恐れおののくモーリィは、必死にペダルを踏み込んで機体を急旋回させる。追尾式だったらアウトだが、そこまでマンガではないことを心の底から願った。スピーカーからさすがにこちらもちょっと慌てたさまの相棒の声がする。

「なんや、そないなビックリ機能があったんかいな! ドッキリやん! 離れてて正解やったわ!! でもうまいことよけられたみたいやで? あっさり通り過ぎてるやんか、おまけにカウンターのチャンスやったりして!!」

「簡単にいうなや! でもそやったらこのスキに一発食らわしたるわ! じぶんもよう援護せいよっ、ん、なんやっ、あわわわわわわわわわわわっ!?」

 ぐるりと機体を旋回させてどうにか立て直した視界の先に浮かぶ謎のアーマーめがけて、すかさず手持ちのハンドガンを狙おうとしたところ、またしても激しいビープ音に見舞われる!

 なにもないはずの背後からの不意の警告に、ギョッとして振り返るビーグルの顔に絶望の影が走る。


 どうにかやり過ごしたと思ったはずの巨大なグーパンチからのしつこいビームの一斉射撃だ。完全に裏をかかれていた。

 これをよける間もなく機体に激しい振動を感じて肝が冷える。

 機体を襲う激しい揺れに背後に備えたフライトユニットが一部被弾したこと、画面に激しいノイズが走るのに頭部のカメラも被弾したことを一瞬にして理解すると、右手に装備したハンドガンを宙に投げ出して機体を急降下、海に墜ちるくらいの覚悟でその場からの緊急離脱をはかる!!

 命よりも大事なものはないとそれだけが頭の中にあった。

「ひいっ、そんなん反則やんか! よけたパンチから攻撃しよるなんて、卑怯すぎるやろこのあかんたれ!! 助けてくれっ!」

「おう、そやったら多少は稼いでやるからさっさと機体を立て直しい! まだキズは浅いやろ!! 基地までならギリギリ帰れるはずやっ、相手の注意を引いてやるさかい、ん、こっちに来よったで、ホシには興味がないんちゅうんかい、ええ根性やの!!」

「おおきにっ、おいっ、死ぬんやないぞ! 枕元に立たれてもしんどいわっ!! おわっ、また行きよったで、今度は左手のロケット・パンチやん!!」

 意気が合った犬族のコンビは口やかましい掛け合いがますますヒートアップする。いつもひょうひょうとしていたはずの相棒がいつになく熱いさまで口からツバ飛ばしていた。

「そないにワンパターンな攻撃を何度も食らうかいっ、追尾式でないならそないに出所がはっきりしとるテレフォンパンチなんて当たらへんてっ! よいしっょ、よけたで!! 背後から食らわされる前に一発見舞ったる!! そうれや!!」

「おうっ、やったやん! て、まるで効いてへんやん!! 当たってるよな、今のそのハンドガンの弾? あ、ちゅうかまさかあの敵さん、バリアっちゅうやつまで備えとるんか!?」

 意気盛んに食らいつく相棒の奮闘ぶりを目を丸くして見つめるビーグルの目つきが途端に怪しげな半眼のそれになる。
 旗色が悪いのはどう見ても変わらないようだ。

「くうっ、まだまだあるで! 胸のキャノンはハンドガンと威力がよう変わらへんから、この頭のレーザー食らわしたる!!」

「そないなもん効果あるんか??」

 他方、終始距離を置いてまるでやる気がなかったはずの敵のアーマーが俄然やる気を出して食らいついてくるさまに、ここに来てちょっとだけ感心するベアランドだが、いかんせんこの戦力差はどうにもならないなと内心で肩をすくめていた。 

「ああん、これはいよいよもって弱いモノいじめになってきちゃったね? モチベーションが下がることおびただしいよ! ん、てかあのアーマーの頭で赤くピカピカ光ってるのって、いわゆるレーザーなのかな??」


 やる気だけはあるようで、そのクセさっぱり空回りしている相手の機体のさまを不可思議に見やるが、それならばとこちらも手元の操縦桿を引き寄せてモニターの中のターゲット・スコープに狙いを付ける。

「なんか弱々しいけど、実は対人用だなんて言いやしないよね? 対アーマーだったらこのくらいの威力はないと! それ!!」

 いかつい大型アーマーのクマの頭部を模したような不細工なヘッドの左右の耳、もとい近接射撃用のビームカノンが激しく火を噴く!
 これには大慌てで機体を急降下させる敵の飛行型アーマーだ。

「あかんわ! まるでお話にならへんっ、こんなん大人と子供の力比べやんかっ、まるっきり!!」

「おうっ、もうええで! ええからさっさと逃げてまえっ、こないな化け物とやりあう義理なんてわしらみたいな安月給の非正規雇用にはあらへんわっ! バリバリ給料もろてる正規軍のひとらにやってもらお!!」

「ほんまやんなあ! あやうく死んでまうところやったわ、ちゅうか、シッポ巻いて逃げるっちゅうんわこういうことを言うんやんな! ほな、さいなら!!」

「おう、もう二度と会わへんで!!」

 ふたりの犬族は捨て台詞を吐くなりに最大戦速で戦域からの離脱、脇目も振らずに空の彼方へと消えていく。ものの10分にも満たない戦いは呆気のない幕切れを迎えた。

「あらら、逃げられちゃったよ! なんかすばしっこさだけは人並み以上だったね? 火力はそうでもないけど、このランタンでなければちょっと手こずるのかな? ま、何はともあれどっちもいいパイロットだよ、このぼくの見立てによるならば♡」

 逃げ去る敵のアーマーたちを見送りながら苦笑交じりにホッと息をつくクマ族の青年パイロットだ。これにはきはきとした口調のメカニックマンが通信機越しにねぎらいの言葉をかけてくれる。

「おつとめ、ご苦労さまでした! 少尉どの。被弾は確認しておりませんが、どうぞお気を付けてお帰りください。星は取れませんでしたがとてもいいデータが取れたものと思われます。おいしいお飲み物を用意しておきますので、寄り道などはなさいませんように」

「うん、ありがとう。とびっきりに冷えたおいしいカフェオレでも用意しておくれよ。たっぷりとしたとっても甘いヤツをね! それじゃ、これよりベアランド機、母艦のトライアゲインに向けて無事に帰還しますっと! めでたしめでたしだね♡」

 広く晴れ渡る青空のした、全身緑色のでっぷりと不細工な見てくれした大型アーマーが悠然とその帰路につく。

 それまで戦いがあったのが嘘のような穏やかなさまでだ。

 果たしてそれはほんのつかの間、嵐の前の静けさのごとくしたかりそめの平穏であったか。

 Part3

 母艦であるトライ・アゲインに帰還したクマ族の少尉、ベアランドを待ち受けていたのはくだんの同じクマ族の青年メカニックマンのリドル伍長であった。

 アーマーのコクピットハッチを開けるなり、そこにすかさず明るい笑顔で出迎えてくれる若い専属チーフメカニックに、こちらも明るい笑顔で応じるエースパイロットだ。

 ハッチから半身を乗り出した顔の前にスッと突き出された飲み物入りのボトルを反射的に利き手で受け取って、コクピットから全身を抜き出すとそれをそのままグビグビと一息に飲み干すでかいクマさんである。

「おっ、ありがとさん! んっ、んっ、んんっ、ん! ぷはあ、おいしいね! リドルの煎れるカフェオレは絶品だよ♡ お砂糖の加減も実にいいあんばいだしね!」

「はっ、ありがとうございます! 任務、ご苦労様でありました。あとはこちらですべて引き継ぎますので、何かこれと気になった点はありましたでしょうか? あとンクス艦長より、後でブリッジに上がってくるようにとの要請がありました。今後のことについてのお知らせがあるとのことで?」


「ありがとう! そうかい、おおよそはこれから合流する予定の増援部隊についてなんだろうけど、楽しみだね♡ それじゃ早速顔を出してこようかな? ん、まだシーサーの機体は戻ってないんだ? あの勝手にリニューアルされちゃったヤツ??」

 飲み干したボトルをまた受け取り直すクマの青年機械工は、見上げる大柄なクマのパイロットにまたはきはきとした返答を返す。

「はい! ウルフハウンド少尉どのは本艦の周囲を索敵警戒中、ついでに機体の稼働性能実験も兼ねたモニターの真っ最中だと思われます。あいにくこの担当はじぶんではなくビーガル副主任なので、詳しくはわからないのですが……!」

 了解するクマの隊長さんは苦笑い気味にうなずく。

「ああ、あのでかいクマのおやじさんね! シーサーとはそりが合わないみたいだけど、じきに仲良くなれるんじゃないのかな。なんたってリドルとおんなじ、あのブルースのおやっさんのお弟子さんだったて話だから、腕は確かなんだしね♡ シーサーもそんなに分からず屋じゃありやしないさ!」 

「はい! じぶんもそのように思います。それではこの場はこのじぶんが引き継ぎますので、ベアランド少尉どのはメディカルルームでお休みになってください。チェックは必ず受けるようにとのこちらは軍医どのの要請でありすので。じぶんが怒られてしまいます」

「ああ、あの陽気なおデブのおじちゃん先生か! おんなじクマ族相手だと力の加減がまるでやってもらないでちょっと痛かったりするんだよな。ま、そっちには後で行くって言っておいてよ、先に肝心のブリッジ、あの強面のスカンクの艦長さまのほうを済ませてくるからさ! それじゃあとはよろしくね♡」

「了解!!」

  最新鋭の大型戦艦の船底に位置するアーマーのハンガーデッキから、この最上階に相当するブリッジ、本船を指揮する責任者である艦長がいる第一艦橋まで歩いてたどり着くのはかなりの骨だ。階段なら優に数百段とあり、タラップなら気が遠くなるような頭上を見上げてこれをひたすらよじのぼらねばならない。

 よってショートカットとなるこのデッキ部から艦橋まで直通の専用エレベーターでそこに向かうクマ族のパイロットだった。
 これを使えるのはごく限られた一部のクルーのみだ。
 パイロットなら正、副隊長以上、メンテナンスの人員では艦橋から許可が降りねば原則利用禁止。

 高速エレベーターはものの十秒足らずでおよそ100メートルの高低差を駆け抜けてくれる。

 音もなく開いた扉の先には、広い通路ごしの真正面に艦橋への大きな専用気密シールド隔壁、大きく「01」と数字の描かれた両開きのスライドドアがあった。

 人気のない通路を大股の三歩で横断。


 するとあらかじめ登録してあった本人の生体認証でその到着を感知したドアが耳障りでない程度のおごそかな音を立てて左右へと開かれていく…!
 わざわざこんな音がするのは振り返らずとも艦橋への出入りがあったことを察知させるための措置なのだろうと思いながら、ずかずかとこれまた大股で中へと踏み込むクマ族の隊長さんだ。

 戦闘態勢の解かれた平時のブリッジ内は明るくて平穏な空気に満たされていたが、いつもなら入るなりに方々から掛けられてくるクルーたちの挨拶がないのにふと首をかしげるベアランドだ。
 みんな息を潜めているのか、誰もこちらを振り返らずにみずからの職務に専念、しているように見せかけてその実、この注意はどこかあさってのほうに向いているようにも見える…??

 なおさら首を傾げさせるクマ族だが、あたりを一度見渡してそこでまっすぐ正面に捉えたものにしごく納得がいく。


「ああ、なるほどね…! うちのボスが例のワケあり艦長さんと通信中なのか。なんか不穏な空気かもしてるけど、さては何を話してるのかね?」

 その場でぴたりと足を止めて頭の上のふたつの耳をそばだてるベアランドだ。不用意に話しかけて会話を中断させるより、盗み聞きしてやろうとにんまり顔で気配を押し殺す。

 艦長席にどっかりと陣取った椅子からはみ出した大きなシッポが特徴的なスカンク族の老年のベテラン艦長は、ついぞこちらを振り返ることはなかったが、それが見上げる正面の大型スクリーンの中で大写しとなる相手の艦長職らしき中年の犬族は、こちらをちらとだけ一瞥してくれたようだ。


 さては感づいているものか?

 相変わらず抜け目がなくていやらしいおじさんだな!と内心で舌を巻く。

 自然と苦笑いでしばしの沈黙からやがてスカンクの艦長がもの申すのに周りのクルー同様、黙ってこれにじっと耳を傾けた。

「……しかしだな、当該戦域の指揮を任されている責任者がいまだ雲隠れしたままと言うのは、現場の指揮にも関わるものだろう? 新型の戦艦戦力を温存したいのはわからないでもないが、指揮官としてはその姿を示してしかるべきものだよ……!」

 どこか浮かないさまの口ぶりしたベテランだ。
 そうたしなめるようにして頭上のモニターへと問いかける。
 そこに顔面度アップで大写しの白い毛並みの犬族は、こちらもいささか暗い顔つきして視線をどこかあさってへと向けて返すのだった。

「いやあ、こちらもいろいろと理由(わけ)ありでして……! 姿を見せたいのはやまやまなのですが、肝心のアーマー部隊がろくすっぽ稼働できないありさまで。面目ない。先生、もとい、ンクス艦長の応援をいただいてまことに感謝することしきりです。ついでに優秀なアーマー部隊も少し分けていただけたらば、感謝感激雨あられなのでありますが……?」

 ひょうひょうとした口ぶりでおまけのらりくらりとした言い訳をモニターのスピーカー越しに垂れ流してくれる犬族だ。
 言葉ほどには申し訳なくも感謝しているようにも思われない。
 それを察しているらしいこちらのスカンク族も冷めた調子でまた返す。背後で聞くクマ族、ベアランドは思わず吹き出しそうになるが、どうにかこらえて艦長席の影ごしに正面モニターの切れ者艦長のしれっとした顔つきをのぞいていた。


「パイロットを選り好みしすぎなのだろう、しょせんキミは? みずからができるからと言って、それを他者にまで求めてばかりいては誰もついては来られまい。加えてそう、己の本心をこれと明かさないとなればなおさらだ……」

「いやあ、なんでもお見通しなんですなあ、こいつはまいった! 確かに返す言葉もありません。艦はこれを本拠地としているから隠していたのですが、心強い援軍があるならば今後は堂々と顔を出せるでしょう。話じゃ、ほかにも援軍はあるようだし?」

「うむ。キミの古くからの戦友であったよな? ならばアーマーの補充はそちらに頼めばよいのではないか? あいにくこちらにはその余力がない」


「はあ、しかしながら同輩には極力、借りをつくりたくないのでありますが。あいつはがめつい。食欲から性欲から、何かと欲張りなのはよくご存知でしょう? そのせいもあってかこのクルーもクセが強いヤツらばかりだし」

 淡々とした会話の中にどこかピリピリとした空気が漂う……。

「ふうーん、あのおじさんもこっちに出張って来るんだ? なんだか騒がしくなりそうだな♡」

 話の流れから誰のことなのかおおよそで想像がつくクマ族の隊長さんは、したり顔してこのまあるい頭をうなずかせる。
 そろそろ出てもいいもんかなとタイミングを見計らった。

「腕のいいパイロットといいアーマーはできればセットで保持したいものです。戦場では何かと不足しがちなものではありますが。わたしは部下が無駄に命を落とすことがないようにこのあたりには特段に気を遣っておりまして、そのせいで今回のような不足の事態を招いたのはまことに遺憾であります。そのあたり、折り入って頼みがあったのですが、今はとどめておきます。いらんクレームを付けて来そうなくせ者がいるようなので……!」

 あ、やっぱりバレてる……!

 モニターの中の犬族の艦長さんが何食わぬさまして、そのクセしっかりとこちらに視線を向けているのに苦笑いが一層濃くなる大型クマ族だ。するとやっぱりこれを察知していたらしいスカンクがこちらを見もせずに言ってくれる。

「出てきたまえ、ベアランド君。この彼はキミも旧知の仲だろう? そちらに増援として行く必要もあるかもしれない、今のうちに顔合わせをしておいたほうが話がスムーズにゆくだろう」

「おっ、さすがはせんせい! よくわかってらっしゃる。おい、出てこいよでかグマ! じゃなくてベアランド、だったか?」

 でかグマ……!

 ひさしぶりに耳にする呼び名だった。
 これを口にするのは頭上の有名軍人さま以外にはいない。
 かくてふたりに促されて仕方なしに顔を出すそれは大柄な熊族の隊長さんだ。苦笑いして真っ向からモニターの中の艦長職と向き合った。



「あはは♡ こいつはまいったな、ぼくのこと覚えててくれたんだ、教官どの? 悪漢ジーロ、もとい、ジーロ・ザットン大佐どの? 性格ぐれてる鬼教官どのが、現場に復帰されたとは聞いてはいたんだけど。まあ、あんまりいいウワサは聞かないよね!」

「おかげさんでな? 生意気な生徒に好き勝手言われて、そのままおめおめと引き下がるほどにはひとができていないんだ、このぼくは。言うだけのことがあるものか、きちんとこの目で拝ませてもらいたいもんだし。そちらさまはとっても優秀な戦績を納めているらしいな?」

 最後のは皮肉なんだろうと受け流しながら、苦笑いで応じる。

「それはどうだか? ご想像にお任せするよ。だからってまさかこのぼくをトレードしようだなんて言いやしないよね、腹の内がさっぱり読めないこのやり手の艦長さんときたら?」

「ふん、それほどとぼけてもいないさ。どうせならもっと従順で扱いやすいヤツのほうがいい。おまえさんのようなやることなすことおおざっぱで力任せなクマ族よりは、そうさな、慎重でありながら機敏でかつ鼻の効く、ま、このおれのような犬族あたりがベストなんだろうな」

「?」


 何か含むところがありそうな言いように、隣の艦長席のスカンクとちょっとだけ目を見合わせるクマ族だ。
 小首をかしげながらにぼそりと小声で隣に声を掛ける。

「犬族? ああ、そういやそんな新人くんたちがじきにこっちに来るんだっけ? このぼくの部隊に配属される予定の??」

「うむ。今日中に合流の予定だが。まったく抜け目がないことだ。機密情報をどこで聞きつけてくるものやら…!」

「フフ、まんまと横取りされないよに気をつけないとね! まずは新人くんたちをしっかりと歓迎してあげないと」

「そのあたりはキミに一任する


「了解♡」

 そんなしてふたりでごにょごにょとやっていたら、モニターの向こうの犬族が何やら浮かない顔してしれっと言ってくれる。

「ああ、まあそのあたりのことは後々に。その前にそちらの隊長どのには新人くんたちを引き連れて、一度こちらに顔を出してもらいたいもんだ。よろしいですよね、先生? こちらも丸裸でこの艦を敵にさらすわけにもいかない都合……」

「丸裸?」

 どういうことなんだと右手の艦長席のンクスに改めて目を向けるが、大ベテランの艦長はさてと肩をすくめさせるのみだった。
 そこにフッと鼻先で笑うみたいなノイズを残して白い犬族がおもむろに敬礼してくれる。

「では! 久しぶりの再会、まことにうれしく感慨深く思います。とりあえずそっちのパイロットも含めて。互いの健闘と勝利を祈りまして、今回の通信を終わらせていただきます。あと、アーマー部隊はすぐにでも遣わせていただきたいものであります。でないとこちらの身動きがとれませんので……では」

 何やら好き勝手なことをひとしきりほざいて相手の犬族の艦長からの通信は一方的に閉ざされることとなる。
 しばしの沈黙の後、クマ族の隊長はおおきく左右の肩をすくめさせる。

「まったく相変わらずだよね、あのおじさん! いいトシなんだからもうちょっと丸くなってもいいもんなのに」

「キミのひとのことは言えないのではないか? まあ、ある意味打って付けなのかもしれないが……」

 こちらも多分に含むところがありそうな物言いのキャプテンに、当のチーフパイロットはあっけらんかと応じてくれる。

「何が? そう言えば艦長はあのおじさんの直属の上官だったりするんだよね、その昔は? だったらぼくって孫弟子あたりにあたるんだ? あんまり自覚がないんだけど」

「なくてよろしい。今の話の流れでもう伝えるべきことは伝わったはずだ。それにつき何か質問はあるかね?」

 真顔で問うてくるンクスに、のんびりしたクマの隊長さんはさあと頭を傾げさせる。

「まあ、例の新人くんたちはこっちで引き受けちゃっていいんだよね? ブリッジにもしょっ引いて来いって言うんなら、連れてくるけど、いざ現場方の最高責任者さまがお相手とあっては、きっと震え上がっちゃうんじゃないのかな♡」


「その必要はない。すべてキミに一任する。言ったとおりだ」

 まったくしゃれっ気のない冷めた顔の艦長に内心で肩をすくめるクマさんだが、折しもそこで静まり返っていた周りのオペレーター陣にちょっとした動きがあったようだ。

 不意の電子音とともにいくらかの応答を交えて、中でも特に見覚えのある犬族の男がすぐさまこちらに振り返って報告を入れる。

「艦長、増援部隊、ビーグルの新型が二機、まもなく艦に合流するとのことであります! 受け入れは二番デッキでよろしいでしょうか?」

「うむ。両機とも、大いに歓迎すると伝えてくれ」


「お、新型のビーグルか! それって例のアレだよね? 何かと問題ありってうわさの♡ ちょっと見るのが楽しみだな、もちろん新人のパイロットくんたちもだけど! それじゃ早速、ハンガーにとんぼ返りして出迎えに行ってくるとするよ」

「ああ、アーマー単体の長旅だったのだからまずは休ませてやるといい。部屋は用意してあるはずだ。あとキミも、ちゃんと休養を取ることだ。パイロットとしてはこれもまた重要な責務ではあるのだからな?」

「了解♡」

 くるりときびすを返してブリッジを後にするアーマー部隊隊長だった。艦長からの忠告に軽く右手を挙げて答えながら、さてこれから忙しくなるぞっ!と舌なめずりしてズカズカと来た道を戻っていく。
 やがて艦に合流することになる増援部隊のありさまに想定以上の驚きがあることをまだ知らない彼だったが、波乱に満ちた戦いの予感は心のどこかにはもうすでにあったのかもしれない。


 以下、#011へ続く…!



 


Part3の流れ、プロット
ベアランド、母艦トライアゲインに帰還。
リドルの出迎え。
ウルフハウンドはまだ出撃中。くだり~
ベアランド、ブリッジに上がる。
艦長、ンクス、戦域統括官のジーロと通信中。
ベアランド、艦長と会話。
援軍の説明。
#011へ~…


 





 ドラゴンフライの兵装
 ミドルレンジのハンドガン
 ショートブレード
 胸部装備 実弾カノン
 頭部装備 レーザーカノン



状況
 ベアランド ランタンのコクピット内から
 リドルと交信
 ジーロ・ザットン ダッツとザニー
 モーリィ、リーンと交戦この

記事は随時に更新されます(^o^) 応援よろしく!

プロット

モーリー リーン 登場
ベアランド隊と会敵



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Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #009

#009

Part1

 ハンガーデッキでのすったもんだから、およそ二時間後――。

 スカンク族のベテラン艦長から、内密の話があると密かに招集をかけられていたアーマー部隊・正隊長のベアランドだ。

 それだから今は艦の艦橋(ブリッジ)もその真下にある、第一ブリーフィングルームで相棒のオオカミ族、メカニックの若いクマ族らと共にこれを待ち受ける。

 軍でも最大規模の新造戦艦だ。

 おまけ艦内でも一番の広さの会議室内には、およそ100人くらいは収容できるだろうテーブルと椅子があったのだが、そこに腰掛けるでもなく三人だけでぽつんとその場に立ち尽くしていた。

 ややもすれば、今は無人の壇上に、小柄な初老の紳士然とした本艦艦長どのが現れるはずだ。

 無機質な灰色の壁に掲げられたデジタルとアナログ式の時計は、どちらも約束の時間を少し過ぎていることを指し示していた。そちらにちらりとだけ視線をやって、ちょっと苦笑い気味に茶化した言葉を発する青年パイロットだ。

「あらら、約束の時間になっちゃったよ。やっぱりこんなでっかい軍艦の艦長さんともなると、いろいろと忙しいもんなんだな? こっちもこんなラフな格好できちゃったけど、別にかまわないよね♡」

 朝の荒くれた現場に顔出しした都合、はじめはしっかりと着込んでいたはずのパイロットスーツを、今は簡易式の状態に軽量化させているのを指しながら、隣でやや仏頂面のオオカミの同僚、ウルフハウンドに問いかける。
 すると朝っぱらのゴタゴタからまだ不機嫌面の灰色オオカミは、そんなしたり顔したクマにどうでもよさげに返した。

「構わねえだろ。俺だっておんなじ格好だし、身軽さにこだわる犬族のワン公どもなんてな、みんなアーマーに乗り込む時だってこのまんまがザラなんだぜ? 言うヤツに言わせれば、このスーツ自体がもう時代遅れのシロモノだなんて言うくらいだしな」

「ああ、よその戦艦じゃ、今時はみんなそれなりこだわって専用のスーツを仕立てているって言うもんね? 艦長さんの趣味嗜好とかでさ?」

 脳天気に笑う隊長に、またこの傍らの若いクマ族が目を丸くして言葉を発する。

「そうなのでありますか? 国や地域によってそれぞれ特色があるのは知っていましたが、おなじルマニアの軍の内部でもそんな違いが? でも自分としては、アーマーに搭乗する時はしっかりとした保護パーツを付けることをおすすめします!」

「ああ、これのいかつい胸当てと肩のパーツがこんな風に外れるなんて、はじめ知らなかったもんね。あ、でもそういうリドルこそ、そんなチャチなノーマルのスーツじゃなくて、ちゃんとしたパイロット向けのやつを仕立ててもらわないと! 補給機とは言え戦場には出るんだから、そこらへんはね?」

「あ、いえ、じぶんはあくまでただのメカニックでありますので、このままで……」

 細身で体力にいささか自信がないからか、途端に遠慮して頭を引っ込めるのに、体力自慢のでかい図体のクマの脇から、痩せたオオカミがのぞき込むようにして大きな口を開く。


「とか言いながら、おまえさん、しっかりとホシを取っているんだろう? 立派なパイロットじゃねえか! だったら身なりもそれなりにしておけよ、そのほうが何かと箔が付くだろう」

「いえっ……」

 すると何やらやけに浮かない顔のメカニックに不可思議そうなオオカミの副隊長だが、あいだに挟まれたクマの隊長はかすかに肩をすくめさせるのみだ。

「ふうむ、ちょっと考えなくちゃいけないんだろうな……! おっと、ようやく艦長どののお出ましだ! てか、ひとりきりなんだね。こんなに見てくれでっかい軍艦なんだから、副官のひとりくらいいてもいいはずなのにさ?」


 ベテランの艦長が無言で会議室の壇上に上がるのを見ながら不思議そうなベアランドのセリフには、この横からオオカミが若干揶揄したような調子で返す。

「ふん、よもや艦長がスカンクじゃ、誰も怖がってこの横に立ちたがるヤツがいないじゃねえのか? 犬族なんてみんな逃げ出すだろう。俺もまっぴらだしな!」

「そんな……! あれって世間でも名の知れた軍人さんじゃないか? 確かに鼻が利く人間はあんまり相性良くなさそうだけど、だからってね。あっ、でも確かここのブリッジのオペレーター、いかつい防毒マスクを身につけていたのがいたけど、あれって犬族だったっけ??」

 ひそひそ話をしていたのが、どうやらあちらにも聞こえていたらしい。かすかに咳払いして何食わぬ顔のスカンクの艦長どのだ。

「んっ、待たせて済まない。今はなにぶんにひとりだけなので、何かと手間を食ってな。そう、本来は犬族の優秀な副官がいるのだが、今はあいにくとよそでいろいろと調整中なのだ。いろいろと根回しというものをだな。ところできみたち、そんなに距離を取らないで、もっと近くに来たらどうなんだ?」

 暗に言い含めた言葉付きにまたこの肩をすくめる隊長さんだ。
 隣のオオカミが絶対にここから動かないと全身で拒否しているのにまた肩をすくめて、仕方もなしに曖昧な返答を返した。

「ま、どうかこのままで。お気を悪くしたなら謝るから。わざわざぼくらだけ呼んで話すってことは、それなりの機密事項なんだろうけど、なんとなく予想はつくしね? おおざっぱな今後のスケジュール、こんなカンジだから覚悟してくれって??」


 上官に対するにはいささかゆるくておまけ鷹揚な態度をしたでかいクマに、それを気にするでもない小柄なスカンクのおやじさんは背後のひときわおおきなシッポを一振りすると真顔で返す。

「ふむ。察しがいいな? そこまでわかっているなら手間は取らせない。なにかと機密が多い本艦ではあるから、この動向をあまり声高にアナウンスするわけにもいかないのだ。今は最小限度の人間で共有するだけでよしとして。だがベアランド隊長、私が招いたのはきみとウルフハウンド副隊長のみで、そこの若いクマ族くんまでは呼んだ覚えはないものだが……」

「ああ、この子は多めに見てあげてよ。こう見えてぼくらとおんなじ戦場に立つパイロットでもあるし! メカニックの頭を張る都合、今後のことは極力知っておいたほうがいいはずだから。大丈夫、信用できるのはこちらできちんと保障するから」

 でかい隊長の隣で身を小さくするクマのメカニックマンだが、もう片方のオオカミの副隊長は無言でうなずいてくれる。
 これに初老の艦長どのもまた無言でうなずいた。

「良かろう。では手短に話す。説明は一度しかしないので心して聞いてくれ。まず本艦の今後の予定、この進路についてなのだが……」

 言いながらスカンク族が背後に視線を巡らせるのに、自然とそちらに視線をうながされる三人だ。背後にはおおきなスクリーンがあって、真っ白だったそこに見慣れた大陸のある一部地域の拡大マップらしきが映し出される。

「今わたしたちがいるのが、このルマニア大陸西岸の第三軍港なのだが、本日中にここから南へと艦を発進させる。本格的な作戦行動に移るためにな」

「この艦が建造されていたのが、第七軍港だよね、おなじく西岸の? もろもろの都合で一度は北上したわけだけど、目的地はまったくの反対方向だったんだ。てことは……!」

 納得したさまのクマ族がくれる意味深な目付きに、真顔でうなずく艦長はさらに重々しげにこの言葉をつなぐ。


「大陸外での特務作戦だ。本艦、トライ・アゲインは中央大海、セントラル・オーシャンを南西寄りに南下、その先の第三大陸・アストリオンへと向かう。作戦の詳細は後日改めて通達するが、心しておいて欲しい。だがその前に、やるべきことがある」

「? アストリオンか、いわゆる『南の大陸』ってやつだよね? 本格的な軍事作戦をよそでまで展開するのはあまり乗り気になれないけど、直接『西の大陸』に行かないのだけはホッとしたよ。でも南に下るのには、それってちょっとした関門があるよね」


 相手の言わんとすることおおよそで了解した顔でも顔つきどこかビミョーなさまのベアランドに、隣からウルフハウンドがこちらもおおよそ納得したさまで言ってくれる。

「海上の拡大領地、『ギガ・フロンティア』ってヤツか? 海の上に無断でやたらでかいフロートベースをいくつも建造したのはいいもの、返ってごちゃついて今では敵さんのいい隠れ蓑になっちまってるっていう、あれだろ?」 

「過去の苦い経験から、軍事施設を人里離れた海上に建設したまではいいものの、四方を海に囲まれた要塞はデメリットばかりが目立つのだろう。かなりの苦戦を強いられているらしい」

「つまりはいざ考えなしの拡大路線がまんまと破綻しちゃってるいい例なんだろう? 放棄しちゃったら敵の前線基地にされちゃうし、いっそ海の底に沈めちゃえばいいんじゃないのかな?」

 歯に衣着せぬ言いようには、少しだけ眉をひそめる艦長だ。
 これにでかいクマの隊長が野放図な放言かましてくれる。
 いよいよスカンクの顔色が曇った。

「気安く言ってくれるな。そんなに簡単に沈められるような規模ではないのだぞ? それがいくつも海上に点在する、ある意味で本格的な戦闘行動向けの大規模演習地域だ」

「演習、じゃなくて、実戦だろ? なるほど、つまりはそこでこの艦のならし運転も兼ねての実戦行動をやらかすんだ。いざ南の大陸に向かうまでの演習を兼ねて? ぼくらパイロットやクルーの練度を上げるにはさも打って付けなのかね♡」

「うむ。ちなみにそちらでは人員の補充、アーマーの補強も予定している。次期主力機と目される汎用型の新型機種だ。パイロットの詳細はじきに隊長であるベアランドくんらのもとに届くだろう。目にしておいてほしい」

「期待できるのかね? 実戦での運用実績がおぼつかない新型機ばかりになっちまうんじゃねえのか、この艦のアーマーってヤツは??」

 いぶかしげに首をひねるオオカミ族に、ふたりのクマ族がのほほんとしたさまで応じる。

「さあ、これとセットでやって来る、パイロットくんたちの腕に期待ってところかな?」


「じぶんとしてもとても興味があります! 次期主力機は、確か完全飛行型の機体とのことですので。現行主力機のビーグル・ファイブの後継機だとかで?」

「ああ、そんな話だったっけ? いや、そっちはもっぱらビーガルのおじちゃんたちだとかが受け持つことになるんだろうけど。リドルはこっちのお世話で手一杯だろう?」

「とりあえずはここまでだが、質問があるなら答えよう。ないなら、解散だ。全員、ご苦労だった」

 かいつまんだ説明だけで終わった極秘のミーティングだ。
 しごくあっさりと会の閉幕を告げる艦長どのに、三人のクルーたちは無言で敬礼を返す。

 その日の夕刻、軍港を出発した巡洋艦は、沖合で大空へと浮上。夕闇の中を悠然と南へと向けて旅立つのだった。


 次回、#010へ続く…!

※まだ執筆途上です。随時に更新されます。(予定)


プロット
 ブリーフィングルーム ベアランド ウルフハウンド リドル       → ンクス艦長 今後の予定~ 
 ギガフロート フロンティア ロックランド
 アストリオン(南の大陸)

 

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル メカニックデザイン ライブ配信アプリ ルマニア戦記

オリジナルノベルのメカキャラデザイン! 敵のロボキャラ、その①

主人公たちと敵対する勢力側のメカ、戦闘ロボのデザインをやっていきます(^^)/

 ノベルを進めているつれ、これから主人公たちが対戦するはずの相手側のキャラや敵メカがまだデザインできていないこと(!)に気が付いて、今さらながらにやっていきます(^^;)

 [データ・スペック]

#006の中盤以降から登場予定。

 海上戦対応型ギガ・アーマー
機体名称
 イルカ…標準型アーマー。両脚のホバー(マリンジェット)で高速機動。飛行能力はない。標準型の兵装装備。  

 シャチ…大型アーマー、指揮官機。標準型の兵装の他に、専用の高火力装備を備える。 

 サーペント…新型機

これまでの敵メカのデザイン

 主人公のライバルとなるキャラたちやメカのデザインです。
 フルカラー版は下記にあるリンクから(^^)/

実際にデザインしてみよう(^^)

 ギガ・アーマー「イルカ」
 海洋戦対応型アーマー。海中潜行可能。
 通常型。一般兵(パイロット)向け。

 おおよそのアタリです。

 なんか失敗気味?

アタリを元にもうちょっと描き込んでみました♪

 なんかイマイチですね(^^;)

記事は随時に更新されます♡

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ルマニア戦記/Lumnia War Record #005

#005


 現地時間、AM3:30 


 作戦開始の時刻になった。

 まだ東の地平から朝日の気配も感じられぬ夜更けに、田舎の前線基地の外れにある見るからにオンボロなアーマーの格納庫には勇ましいロボット兵器のエンジン音がかまびすしく鳴り響く。

 まだ世間的には公表すらされていない二機の新型開発機と一機の旧型機種が、今しもスタートを切るべく横並びの直立不動で起立する。
 
 あいにく部隊にはまだ隊長格らしきが不在なもので、このデッキの主たるベテランメカニックのブルドックの親父の声を待つのだった。


 それだから最新鋭機のよりいかつい見てくれした機体の中でその身を落ち着ける若手のでかいクマのパイロットも、陽気な鼻歌交じりで例の味のあるしわがれ声が景気のいい号砲を放つのを今か今かと待ち受ける。

「ふっふふ~ん♪ さてはて、これでこの問題だらけのオンボロデッキともめでたくお別れだな! 配備先の新造戦艦にはそれ専用のハンガーデッキがあるっていうから、ずいぶんと気が楽になるよ。ただし頼りになるブルースのおやっさんはいないんだけど……」

 これを最後にしばらく世話になったこの基地とは永遠におさらばなのだが、となればベテランのメカニックとも長いお別れ、それなりに礼を言いたいところだ。

 だがあいにくと耳に入ってきたのは同僚の何かとつっけんどんなオオカミのものだった。

「おう、そろそろいいよな? つーか、そっちの合図がなけりゃこっちの出るタイミングがわからねえだろ。いいからぼけっとしてないでよろしく頼むぜ、ベアランドの隊長さんよ!」

「え、ああっ、そうだな……! て、隊長? あれ、シーサー、今なんて??」

 出し抜けのセリフにぽかんと口を開けてしまう。

 部隊を仕切る立場となる辞令などまだどこからも出されていないはずだ。


 ただの噂ぐらいでは聞いたことがあったが、実感が持てないところに無愛想な相棒から言われてひたすら目がキョトンとなる。

「隊長だよ! 何度も言わせやがるなっ!! はん、しっかりしやがれ、体力バカの野放図なクマと張り合っても疲れるだけだし、こちとら見てのとおりで生まれつき一匹オオカミな性分だから、隊長さんだなんて性に合いやしない。納得の上で譲ってやるんだぜ? だから今日から名実ともにあんたがこの部隊の大将だ!! そら、それじゃ先に行ってるぜっ!」

 一方的に言いたいことだけぶちまけると全身が銀灰色のスマートな機体がただちに前のめりにヒビだらけの滑走路を駆けっていく。

 通常のギガアーマーにはありえない身のこなしと駆け足のアーマーは、それこそあっという間に夜の暗闇にその姿を消し去ってしまった。

 それを半ばあっけにとられて見送るベアランドだ。

「あっ、シーサー! それじゃこの先の中継地点で無事に会おう! ……て、いいのかね? このぼくなんかで??」

 あいにくとこの己自身が部隊を仕切るのに適しているとも自覚していない呑気な若造だ。

 そう自分に問いかけてしまうのに、残る一機のアーマーからはまたなおさらに若い青年の言葉が掛けられてくる。

「はっ! いいのではありませんか? 自分もウルフハウンド少尉どのがおっしゃっていた通り、ベアランド少尉どのがきっと適任なのだと思われますので。どうかこの即席部隊を無事に目的地まで導いてください。それでは自分もウルフハウンド少尉を追って発進します。こちらはかろうじて空を飛べますが、巡航速度はどちらにも負けてしまいますので……では!」

「あっ、みんな気が早いな! でもリドル、おまえはあくまで補給機のパイロットなんだからムリなんかするんじゃないよ! 戦いはシーサーと基地の外で合流する第三部隊のみんなに任せてさ! あー、なんか緊張してきちゃったな? 責任重大だっ……」

 唯一空を飛んでの戦闘が可能な機体として、今回の作戦では部隊から独立した行動をする都合、ひとりだけ取り残されて居心地が悪くなる。

 ドックに残っているのはあとはじぶんとここのメカニックマンの親父さんだけだ。

 それとなんと別れを惜しんだものか考える間もなく当の野太くしわがれた声が二つの鼓膜をビン!と震わせる。

「ふん、今さら何を力んでいやがる? いつだって太平楽なクマ助が、柄にもねえこと言うんじゃねえや。いいか、こっちは可愛い弟子を預けてやるんだ、もっと堂々と構えてくれねえとおちおち昼寝もできやしねえだろうが! やっと御役御免で悠々自適な老後を過ごそうってのによ」

「ははっ! まいったな? まだそんな落ちぶれてもいないくせに! いずれまた可愛い息子さんには会わせてあげるから、それまでボケずに頑張っててくれよ、おやっさん? 危ない橋を渡るのはリドルじゃなくてぼくらパイロットの仕事なんだからさ! あいつは腕がべらぼうに立つスーパーメカニックってことで♡」

「フッ、そう願う。だがシビアな戦場はそんな建前ばかりじゃ通用しねえだろ? あいつだってそれなりには覚悟を決めているはずだ。何はともあれよろしく頼むぜ、クマ助、ベアランドよ」

「約束するよ……! それじゃ、ベアランド小隊、新たなる戦地を目指してこれより出陣、互いの幸運と再会を祈る!」

 物言いが達観した声の主はその姿こそ見えなかったが、きっとどこかで見守ってくれているのだとわかっていた。

 ブルドック族特有のしわくちゃな顔がなおさらしわくちゃになるのを見せまいとして、どこか物陰にひそんでいるのだと。

 まだ未明の暗い空に、最後の新型アーマーもゆっくりと滑走路を滑空してはやがて暗い空へと飛び立っていく。

 目指すは大陸西岸の僻地の属領。

 新たなる戦いが幕を開けようとしていた


「えっと、ぼくらがこれから乗り込む予定の最新鋭の新造戦艦、いわゆる旗艦、フラッグシップって言うのかな? ずいぶとん大きくて見栄えがいいけど、ほんとにこの設計モデルの図面のとおりにできてるのかね? あとこの船の名前の『T・A』って、なんの略だったっけ??」

 正面のディスプレイに大写しに映し出されたうわさの戦艦の模型図を半分がた猜疑の眼差しで見上げながら、う~んと腕組みするクマ族のパイロットだ。

 俗にルマニアと称される東大陸の西岸に位置する属領で秘密裏に建造されている新型の大規模航空巡洋艦は、そこにみずからが乗るこの新型機のアーマーの専用ドックが配備され、これまでより充実した整備と補給が可能となる。


 一緒に田舎の前線基地を出発したじぶんよりも若いクマ族のメカニックの受け売りだが、母国の首都とは比べものにもならないひなびた地方のそれよりは格段に環境が良くなることは間違いがないのだろう。

 見渡す限りを自然に囲まれてしばらくはご無沙汰していた無機質でメカニカルな空間が待ち遠しいクマの若きエースは自然と鼻歌まじりで操縦桿を握っていた。

 大陸北西の辺境国家からは、目的地まではおおよそ三日ほどかかるだろう。


 もとい厳密には一日とちょっとなのだが、二手に分かれて出発したウルフハウンドたちの別働隊が陸路であることから必然的にそのようになる。

 こちらは機体の性能で単身空路なのだが、直線で突っ切れるところをわざわざ回り道しての航路、ずっと北側よりのコース取りとなった。

 しばらくは敵国との国境ギリギリを進む陸路部隊の隠密行動を支援すべく、みずからが囮となってより目立つ高空をのんびりと巡航、なるたけ敵の注意を引きつけつつ、のらりくらりと立ち回ってからただちに戦域を離脱、南下した先の砂漠のオアシス都市国家群の中立地帯で仲間と合流、後に目的地までの道のりを無事に踏破する……!


 言えばなるほど単純だが、やるのは至難の離れ業だ。

 いかにアーマーの性能が良くとも限度はある。

 致命打を食らえば、はい、それまで。

 そこまで行かなくとも自身が巡洋艦までたどり着くのが困難となり、最悪どことも知れぬ山奥や砂漠でひとりぼっちで遭難だなんてことにもなりかねないのだから。

「ふっふ~ん♪ ん……っ」


 風に吹かれようがビクともしない鋼鉄の巨大兵器の体内でうずくまるクマはいかにも呑気なさまだが、これがやがて何かを予期したかのごとく正面のディスプレイの図面を消してその先に見えた青い空に目を凝らす。

 基地をたってからおよそ三時間ほど。

 それまで静かだったコクピット内にけたたましい警報が鳴り響いたのは、その直後の事だ。

 ※ストーリーと挿し絵は随時に更新されていきます!

「おっと、ようやくおいでなすったか……! 反応が三つ! やっぱりあの厄介なのとその取り巻き連中さんたちかい、ん、でもあっちのあの赤いおデブさんのヤツって、確かこの前シーサーとやり合って……?」

 やがてモニターに最大望遠で映し出された、色からカタチからそれぞれに特徴がある見慣れない機体に合点がいったり首を傾げたりのベアランドだ。

 したり顔して舌なめずりしていた。

「そのそろいもそろってカテゴリー識別不明の機体ってばさ、つまりはきみらも新型機の運用実験ってヤツをしてるんだろ? ははん、お互い大変だよな! でも機体性能ではあいにく負けてないんだ、このぼくのランタンは! さあ、この前の続き、楽しい一騎打ちをしようか? そうとも銀色のやたら速いきみは、もうはなからそのつもりなんだろ??」

 これまでの相手の戦いぶりからあちらは機体の性能を試すのが最大の目的なのだと知れていた。

 万一にも手傷を負えば、あっさりときびすを返す。

 ただし中でも一機だけ。

 そう、おそらくはリーダー格にあたるのだろう隊長機らしきは執拗にこちらとの正面切っての戦いを挑みかけてきた。

 まるで強い敵との戦いを望むかのごとく、ライバルを求めるがごとくにだ。

 そのかたくなな相手の胸の内があまり理解しかねる陽気なクマさんは苦笑いで応じてやるのだ。

「ほんとにしつこいよな! だったらこっちも本気にならざるおえないよ、後悔しても恨みっこなしだからね!!」


 コクピットの中でひとり意気を上げるクマに対し、こちらはもう一方の敵方、三機のアーマー追撃部隊。

 中でもレーダーに捉えた標的をモニターの正面に睨み据える、眼光鋭いひとりの男がいた。

 その顔つきを見ればまだ若いのだろうが、一分のスキもない堂々たるさまで深くシートにその身を落ち着ける。

 それがやがては独り言かのように静かに言葉を発した。

「……ふむ。このようなわかりやすい場所で、加えて単機で、ずいぶんと呑気なありさまだな。相変わらずひょうひょうとしたやつばらよ。見つけて下さいと言わんばかりの不用心ぶり。セオリーは一切無視、か……」

 冷静なさまで互いの射程距離まであとギリギリに迫る大型の敵アーマーを見つめる、若いキツネ族のパイロットだ。

 かくて相手の意図するところをこれと真顔で推測している内に、それを脇から渋い声音が茶化すように言い当ててくれる。

「はあ、やっぱり囮(おとり)ってヤツですかね? ありゃあ??はなしじゃあいつ以外の別動部隊が海岸線沿いに先行してるらしいんですが、えらい勢いで追尾しきれないらしいですぜ! 国境の守備隊はあっさりとまかれちまって、今はもう隣国の山岳地帯をひたすら爆走中だとか。相手になるのは目下、こうしてお空を飛べるこの俺達くらいなんですが……」

「あいにくこっちにヤマを張っちまってそっちはすっかりノーマーク! いいや、もとよりそんなもん相手にする気なんてありやしないんでしょう、我らが隊長殿は? なんせ出会ってからこれまであっちのデカブツくんにゾッコンなんだから!!」

 左に続いて右からも含んだような低めの声音が届いて、口元をかすかにゆがめるキツネのパイロットは鼻先から軽く息を吐く。

「いかにも。興味はない。わたしの狙う獲物は目下、あれのみだ。それ以外は捨て置いてかまわぬ。どれ、ここからは手はずどおりだ。貴様らは一切、あれに手出しをするな」

 鋭い視線を左右に流して、また正面に向き直る隊長どのだ。

 するとこれに少しだけ不服なさまでまただみ声がぼやく。

 正面のモニターの左右に四角い小窓が現れて、左側に映った見るからにタヌキ面したタヌキ族のベテランパイロットが大柄な身体を露骨にすくませる。


 これにまた右側の小窓に映ったこちらは小柄なイタチ族でやはりベテランとおぼしきパイロットが応じた。

 間髪入れぬテンポの良さだ。

 さてはいいコンビなのらしかった。

「了解! ですがいざって時は、旦那、俺等はただのお飾りじゃねえんだ、必要と見たらすかさず横ヤリ入れますぜ? うまそうなごちそうにさっきから武者震いが、腕が鳴ってしょうがねえ! ま、万が一にもそんなことはないんだろうが……」

「たりめーよ! やいブンの字っ、おれらの旦那を誰だと思ってやがる? なにを隠そうこのお方こそが東の空に敵なしの『神速の雷刃(らいじん)』、二の太刀(たち)いらずのキュウビ カタナ様だろうが!!」

「ふっ、いかにも無用の心配だ。だがブンブ中尉、貴様の機体は前回の戦いにおいて少なからぬダメージを受けているのだろう。あれとの戦いにいかようにして割って入るつもりなのだ? おまえたちは見届け人であればいい。結果は知れているのだから」

 キツネ族の隊長はおよそ自分よりも一回り以上は年上のベテランたちを部下に従えているのだとわかる。

 気勢をあげる左右からの文句をしれっと聞き流してひらりとやり返す。

「うっ、そこを突かれたらもはやぐうの音も出ませんぜ! ちきしょー、俺もアイツと遊びたかったぜー、こちとら試したいことが山とあるのに!!」

「諦めろよ、旦那がいる以上、しょせんおれらには出る幕なんてありやしないんだ。せいぜい敵のアーマーのモニターに徹して本部にゴマを擦ってやるくらいだろ、ま、大事な新品の機体を損傷させちまったその修理の代金くらいにはなるだろうさ?」

「ううっ、おめーもいちいちチクチクきやがるよな! このすかしっぺめ! せいぜい蚊蜻蛉(かとんぼ)よろしく鳴いてろよ、間違っても巻き添えくらって地べたにたたき落とされねえようにな!!」

 左右の耳で威勢のいい掛け合いをやはり涼しい顔で聞き流すキツネの隊長だ。

 これが足下のアクセルペダルをゆっくりと踏み込む。

「双方、このわたしの『ゼロシキ』の射程はわかっているな? こちらから良いと言うまでは間違っても入ってくるな。ゴッペ中尉も機体の身軽なのをいいことに目障りな動きは無用、この場にとどまるのが無難だ。巻き添えを食いたくないのなら?」

「へいっ、こいつは参った、おれまで一発入れられちまった! 了解、おおせのままに。旦那のお楽しみの邪魔は間違ってもしやしませんぜ」

「あ~あ、たく、俺等、完全に三下扱いだな? こんなことなら別動隊の追撃にでも向かってれば良かったぜ!」

「笑止。その機体では前回の二の舞がせいぜいだろう? ならば次に取っておけ。あの二番手のアーマーもその実力はただならぬ物がある。万全でなければ貴様らでも手に余るほどにな」

「ぐぬぬっ……!」

「どの局面においても油断は大敵よ。それが故にわたしはすでに認めている。見てくれいっかな正体の知れぬあれこそが、その実この生涯においても真のライバル、それたりえることを……!」

「へぇ、そこまでですかい?」

「いざ、参る!」 

 全身を渋いシルバーにまとった鋭角のシルエットの機体がうなりを上げて前方、全身緑に塗りたくられた見た目ブサイクなロボットへと挑みかかる。


 ビッ、ビピッ、ピーーー!

 耳に障る鋭いビープ音!

 警報とほぼ同時のタイミングでメインモニターの奥に控える銀色の機体が突如、真正面から急接近してくる!!

「おいでなすった! やっぱりキミかい!!」

 三機捉えた敵影の中で、やはりはじめに動いたのは一番見慣れた渋い銀灰色の機影だ。


 その見かけ大型の戦闘機が、爆音もろともしたギリギリの過ぎ去り際に直立反転、いきなり右手に構えた銃口を突きつけてくる……!!

 いやはや見てくれただの戦闘機、ジェットフライヤーだったはずだろう。

 それが手品のような抜く手も見せぬ素早さで人型のロボット、ギガ・アーマーへと変身変型していることに内心で舌を巻くベアランドだ。

「ほんとに器用だよな! 狙いも正確だし! あんな傍から見てビックリするくらいに単純な変型機構しといて、でもそれだけにまったくスキを見せずにバンバン早変わりしてるもんな!!」


 大型ロボット用にあつらわれたこれまた大型のハンドガンの銃弾を機体を背後にのけ反らせてギリギリでかわす。

 機体の前面に常時、不可視の電磁シールドを展開していても、至近距離で実体弾を食らってはおよそ無傷では済まされない。

 装備自体がまだ調整中の実験開発段階であり、熱粒子の半実体弾、いわゆるビームやレーザーのような光学兵器ならかなりの相殺効果を期待できるものが、旧来の武装にはこれまでの経験上ほぼフルパワーでオンにしなければしのぎきれないことがわかっていた。

 基本、火器管制と機体制御をひとりでこなさなければならないこの機体ではスイッチの切り返しはなかなかにホネだ。


「守りにばっかりちからを割いていたら、いざ攻撃や高速機動しようって時にパワー不足になっちゃうもんね? しっかしほんとにしつこいよな!!」

 続けて二撃、三撃と機銃掃射をぶちかましてくる相手に舌打ちして応戦、こちらも至近距離から相手目掛けて腹部のカノンをお見舞いする。

 複数ある中から一番火力のでかい正面の左右一門ずつのメインを発砲!

 この際、右手で引き金を引く寸前に左手でシールド制御のスイッチをoffにする。

 正面に強固な干渉フィールドを張ったままではビームの威力や精度射程を狂わせかねない。


 基本は一つの高出力エンジンで機体の全てを切り盛りしている都合、このほうがより攻撃系の兵装の威力を発揮できた。

 相手はシールドらしきを装備していないようだから当たればそれなり期待できたが、あいにくあっさりとこれを回避、またしても戦闘機形態となって上空へと逃げられてしまう。

「ああっ、もう、ほんとにめんどくさいな! キミってば!!」

 対してこれを背後、眼下の緑の海の中に見据えるキツネの隊長どのはかすかに喉を震わせてしごく納得した物の言い様だ。

「ふっ、かくも鈍重な見てくれの機体でよくもこのゼロシキの動きに付いてくる……! ならば貴様はよほど名のあるパイロットなのだろうな!?」


 相手の顔を見てみたいものだと内心で感心しながら、手元のスロットルレバーを一気に己側へと傾けた。

 機首を真下へと反転させた戦闘機が重力に飲まれるままに急降下、ブサイクな大型ロボめがけてダイブする!

「あっぶないな! でもそれでいきなり変型だなんてできやしないんだろっ? 激しいGがかかった状態でそんなことしたら自殺行為だもんなっ!! くうっ……!」

 目を見開いて迎え撃つベアランドは冷静にターゲットスコープの狙いを絞るが、あっという間に過ぎ去っていく敵影にまたしても舌を巻く。


 地面目掛けて突撃するくらいの勢いで飛び去った銀色の怪鳥は眼下に広がる緑の絨毯をギリギリにかすめながら旋回上昇、おまけにこちらへと機銃を掃射してきた。

 ぬかりがないこと戦闘機からロボットへ切り替えのタイミングが絶妙らしく、一秒とかからないように見える。

 機体にかかる重力や大気との摩擦、気流なども読んだ上での手品じみた機体さばきだと理解するクマはこれがゲームだったら白旗上げてやりたい気分だ。

「凄いプレッシャーだよ! キミってば正真正銘のエースパイロットだ!! あえて一騎打ちを挑んでくるのもそうだけど、お仲間さんもまるで動じていないもんな? ちょっと視界にチラチラするのが気になるけど、ん、待てよ……?」

 所詮は多勢に無勢だろう。


 強敵相手に無理に応戦するよりもどうにかお茶を濁してこの場を立ち去れないかと頭を巡らして、さっきからモニターの端っこに消えたり映ったりしている残りの二機に意識が向く。

 あちらは参戦するつもりはまるでないものらしいが、これをあえて巻き込むのもひとつの手かと頭の中の計算機がはじきだす。

 悪知恵ひらめいた悪童みたいな目付きで舌を見せるクマは操縦桿に全身の力を込めた。

「シーサーに感謝してやらないといけないね♡ ようし、そうと決まれば! 見てなよ、みんなビックリさせてやるぞ!!」
 
 真っ直ぐに向かってくる隊長機とおぼしき相手の機体と残りの二機との距離を測りながら、わざとうろたえたかに機体を後退させる。


 相手の機銃掃射をギリギリで交わしながら、接近戦を挑むアーマーにビームを見舞った。

「さすがに当たりやしないか! でもあいにくと狙いはそっちじゃないんだっ、本当の狙いってヤツは、そうらっ、食らえ!!」

 素早い動きに必死に食らいつくかに機体を旋回させて、また発射したメインのビームカノンの射線上にあったものは……!!

 #006へ続く……!

ライバルキャラの解説ページ↓

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ルマニア戦記 #004

第二話 「クマとオオカミ。真逆のふたり?」

 第二話

『クマとオオカミ。真逆のふたり?』

 #004

※おはなし、挿し絵(イラスト)ともに随時に更新されていきます! 今はやりのいろんな配信アプリを用いて挿し絵やキャラクター、メカニックのデザインなどを動画配信、こちらのホームページと同時進行でやってまいります♥ ちなみにこのお話あたりから主人公のデザインがしれっとモデルチェンジしてたりします(^^) あしからず♪

 某日、未明。

 まだ夜明け前なので外は暗い。

 なのにかまびすしいサイレンがまたしてもオンボロな戦闘ロボの格納庫の中にわんわんと鳴り響く!

 もはやいたって日常の光景だが、ドタドタとした足取りでデッキ内に入ってくるなり大柄のクマのパイロットがひどいうんざり顔で愚痴をわめいた。

「ああっ、うるさいったらありゃしないな! リドル、もういいからこのサイレン切っちまってくれよ? 鼓膜がどうにかなっちまいそうだ!! よっと……!」

 耳を刺す騒音から逃げ込むみたいな感じでみずからのアーマーのコクピットにいそいそと潜り込むでかいクマに、後から駆けつける小柄で華奢な若いクマ族がひどく恐縮したさまで返事をする。


 どこぞかに向かって何事かこちらも喚いていたが、おそらくはデッキのおやっさんにサイレンを切ってくれるように懇願したのだろう。

 目の前のパイロット同様、あちらは雲の上の存在のような大ベテランの上官でおまけ親代わりのお師匠さまだから、きっと板挟みなのに違いない。

「ベアランド少尉どの! サイレンは機体が出撃しなければ止めることが出来ないとのことでありますっ! それとウルフハウンド少尉どのはすでに出撃しておられますっ、こちらもすぐに出られますのでただちにアーマーの立ち上げお願いします! チェック、三十秒で済ませます!!」

「あっそ、いつもながら優秀だね! 相棒のオオカミくんがひとりで突っ走ってるのはやっぱりいつものこととしても、どうして敵さんてのはこう朝が早いのかね? なんかしらの意図があるんじゃないのかと疑っちゃうよ」

「はい? あ、警報止まりました! でも師匠が怒ってるみたいでしたが。ハッチ、さっさと閉じますか?」

「ははっ、あのダミ声でがなられたらサイレン鳴ってるのと変わらないもんな! それよりシーサーのやつは結構先行しちゃってるのかい? アーマーの性能をいいことに脇目も振らずに敵陣めがけて突っ込んでくから、あれじゃいいかげんに包囲網とかをしかれちまうんじゃないのかね??」

 呑気な口ぶりで思ったこと言ったら地べたのあたりから例のだみ声がしてきた。

 その声いわく、そうならねえようにおめえがしっかりサポートしてやるんだろうが、このノロマのクマ助が!! もはやその顔を見るまでも無くしかめっツラのおやじさんはすこぶるおかんむりのようだ。

 ふたりで思わず頭をすくめて、苦い目付きを見合わせてしまう。

「ああっ……! すでにこちらの通信や観測レーダーの範囲を越えた中立線地帯から敵国側に入っておられるようです。よって少尉どのの機体では合流までにかなりの時間が、とにかく出撃準備済ませます!」



「了解! うん、ならこっちも考えがあるよ。リドル伍長、滑走路の誘導は途中まででいいから、中に待機してこっちの軌道演算のサポートしておくれよ。できる範囲で構わないから、いわゆるミサイル発射の要領でさ♡」

「は、はいっ?」

 さっさとみずからの仕事に取りかかるべく一旦は引っ込めかけた頭をまたぴょこんと出してくる弟分のクマに、でかい図体をみずからのシートにくくりつける兄貴分は鷹揚に笑ってウィンクする。

「いいから! 一か八か、大気圏内じゃそうはスピードが出せないコイツでも、やりようによってはかなりのショートカットが効くってことを実証するチャンスだよ。ま、この場合はシーサーが遠くに居てくれることがミソなんだけれどもね♪」

「はあっ……!」

 相手が言ってくれていること、理解しきれてないふうな若手のメカニックに目付きでうながしてグローブをはめたふたつの大きな拳をゴキゴトと鳴らすベアランドだ。

いたずらっぽい笑みで楽しげにハンガーデッキの前方のまだ暗い西の空を見上げる。

「さあて、楽しくなってきたよね♡」

 みずからの乗り込む大型の機体以外は物音を立てない基地の外れで、人知れず戦いの幕は開ける。

 夜明けは近かった。


 すこぶる順調な進撃だった。

 いまだこれと言った敵影との遭遇もないまま、友軍の基地からもうかなりの距離を単独で走破するウルフハウンドの新型アーマーだ。

 不意に耳障りな警告音がなって、それで二つの川に挟まれた緩衝地帯から完全に敵国側のテリトリーに入ったことを知る。

 鋭い目付きで周囲の景色を写した高精細ディスプレイをねめ回して、不機嫌に舌打ちする血気盛んな新人少尉どのだ。

「ケッ、わかってるよ! にしてもここまでずっとろくなお迎えもなしじゃねえか? レーダーのレンジにも入らない遠くからロケット砲やら機銃掃射やらで威嚇にもならねえ腰抜けどもが、まともなアーマーらしきがどこにも見当たらねえ。このままじゃ敵さんの本陣(基地)にまで乗り込んじまうぜ!」

 さすがに単機でそこまでするほど無鉄砲でもないものだが、思わず毒づいてしまうオオカミ族だ。

 見覚えがある長い海外線をまっすぐに縦断していつぞやの廃墟と化した前線基地を横目に見ながら、うっそうと茂る敵国側の森林地帯に突入!


 その先はかつての農耕地帯で、今は拓けた荒れ地と知れていた。

不可思議なアーマーの反応が感知されてからここまでいの一番で乗り付けて、からっきしでは帰るきっかけが掴めない。

 せめて敵のアーマーのひとつかふたつは撃破して星を稼ぎたいところだった。


 相棒のクマ助はいつものんびり太平楽でまるで気にしていないのだから、ここでライバルに差をつければ一足先に昇格、部隊の隊長の座にもめでたくありつけるやも知れない。

 噂では性格剛胆にして冷静沈着、裏表のない性格が人望にも厚いとされる同僚のクマ族がその候補とされているとは耳にしていた。

 だからと言ってこれをただ快くは認めていない彼だ。

 やる気のないヤツに部隊の指揮など執らせてなるものかと殺気を宿して正面のモニターに食らいつく。

「どらっ! これでどうだっ、ここまで来たらさすがに……!!」

 森を抜けたら予想していた通りに拓けた荒野が広がっていた。

 おまけそこには待ってましたとばかりに複数の敵機が待ち構えていたが、それらは何やら拍子抜けするくらいにぽんつぽつんとに散在していた。

 何故だろう。

 いっそ所在なさげなくらいだ。


 かろうじてこの中心に移動型の機動要塞らしきがあったが、丸裸に近いくらいにその大型の機動タンク艦の周囲には護衛のアーマーも弾よけのトーチカらしきも存在しない。

 かくして出くわすなりそれが散漫に砲弾を発砲していたが、射撃精度なんておよそ無いに等しいくらいにひどりありさまだった。

 それらが周囲の土塊(つちくれ)や林の枝葉をむなしく飛び散らすのに、舌打ちしながらアーマーを加速させる。

 あいにくと馬鹿正直に敵陣目がけて直進するほど無策ではない。

 生まれつきに単独行動を好むオオカミは用心深く雑木林と野原の境を縫うように自機を走らせるのだが、これにようやく周囲でぽつぽつとまばらな敵のアーマー群が攻撃をしかけてくる。

 そのちょっと慌てているみたいに息せき切った攻撃には傾げた頭の隅で?マークを灯しながら、負けん気の強い若造は大口開けてうなりを発する。

「へっ、うすのろのロートルアーマーどもめ! そろいもそろってどこ狙ってやがる? もっとマシなのを揃えやがれよ!! そらっ……」

 あんまりひとりで調子に乗っては、しまいには囲まれて袋だたきに遭うだろう? などとひとを揶揄した相棒の言葉が脳裏をよぎったが、その時はまるで気にもせずで右から左へ聞き流した自信家だ。

 前方には直進をはばむように土があからさまに掘り返された跡がいくつも残り、おそらくは地雷が埋設されているのだろうことを目視できた。


 これ見よがしでずさんなトラップをセンサーでも察知したのをアラーム音が告げるが、それにも構わずにコクピットの制御システムであるシステムコアに命令を発する。

「構わねえさ! ギャング、おまえの力を見せてやれ! スタンドアップ! ゆくぜっ、『ラン・モード』!!」

 言うなり出し抜け、みずからのパイロットシートから勢いよく立ち上がるオオカミだ。

 身体をくくりつけるシートベルトはとっくに取っ払っていた。

 これに合わせて周囲を取り巻くコンソールやパネル、背後の座席がバラバラと音を立てて解体され、周りに障害物のないさながらランニングマシーンのような特異なデバイスに置き換えられていく。

 およそ一秒そこそこ、最低限の安全を確保するべくした手すり代わりのロープが張り巡らせるのみのちょっとした空間が出来上がっていた。

 すると当の細身のパイロットはなんのためらいもなし、唯一残ったハンドリングレバーを両手に構えて直立歩行の構えから一気に両脚を回転させる激走の態勢に転じる。

 これにともない彼を乗せたアーマーそれ自体も常識では考えられないようなスピードの走行モードに突入する。

 地雷原とおぼしき穴ぼこだらけの荒野を猪突猛進!

 鋼鉄の両脚を交互に繰り出して爆走する巨人、ギガアーマーなどおよそこれまで誰も見たことがなかっただろう。

 本来、通常の歩行動作だけではどんなにいっても早足止まりの大型ロボット兵器だ。

 従ってそれ向けに設定された地雷はどれも影が走り去った後にきっちり二拍遅れで空しく爆発、コクピット内で疾走するオオカミ族の機体にかすり傷ひとつとつけることはできないのだった。

 何を意図したものか、広い野原の中心の移動要塞を大きく取り囲むように敵は陣形を組んでいる。


 ならばこのまま大回りに荒野を一週してあらかたケリをつけてやろうと目論むウルフハウンドだが、駆け抜けてやるべくした前方の地雷原が一斉に爆破、大きな土煙を上げて前方の視界をふさがれる。

「チッ……! めんどくせえな、だったらお望み通りに出て行ってやるよっ! ただしノロマなおまえらじゃこの俺さまのギャングは捕まえられないぜ!?」

※まだ執筆途中です! 随時に更新してまいります(^^)
もろもろの都合で次回のお話が先行公開されますが、こちらもヒマあらばきちんと更新してまいります(^^;)

 →次回、#005へのリンクが以下になります(^^)/

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DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 スピンオフ ファンタジーノベル ルマニア戦記

ルマニア戦記 スピンオフ No.01

閑話休題・スピンオフシリーズ・第一話♡

「少尉どのたちの休日(プライベート)」 その1 とある居酒屋にて♪

※向かって右手の主人公のクマキャラ、ベアランドのキャラデザインが途中でリニューアルされます!(オオカミキャラのウルフハウンドはそのまま♥)いきなり挿し絵に知らないキャラが紛れてきたら、それが新デザインの主人公となりますので、こちらの旧デザインともどもよろしくお願いしま~すm(_ _)m


 夕刻――。
 夕暮れも間際の西の空がひときわに明るく輝く。
 言えばまだ宵の口だが、田舎の山間にあるとある街中の軽食堂はもうそれなりのにぎわいを見せていた。
 そんな中に、ガラリ……!
 挨拶もなしに扉を開けて訪ねてきたふたりの訪問者の姿に、ピタリ、と一瞬だけ店の中が静まりかえる。
 だがそれもほんの一時だけで、すぐにそれまでの喧噪が場を満たした。
 これにふたりの客も気にした風も無く何気ない顔つきで空いた席を物色、左手のすぐ間近にあった二人掛けのテーブルへと歩み寄った。
 もとい正確にはひとりだけで、もうひとりのは宙にぶらんと両足が浮いたままだったが……。
 ただでさえ普通とは違った見てくれしたからだ付きだ。
 なのにこれがより一層に違和感を増していたのだが、まるで手荷物のバッグを置くみたいなかんじでこの首根っこ掴んでいた同僚のオオカミ男をそうれと下ろして、みずからはその向かいの席によいしょと座り込むそれは人並み外れてどでかいクマ男だった。
 片田舎の地元の人間向けの大衆居酒屋だ。
 よって周りは至って普通の農民や猟師など、平和な生産業者ばかり。
 そんな中でバリバリ軍人さんのオーラを醸しながら、簡素な造りのテーブルと椅子にどかりと腰を下ろして、ひどく物言いたげな相棒のオオカミ族のしかめっツラをこちらはさも楽しげに見返す。
 挙げ句は舌打ち混じりに相手が何か言うよりも早くに手元のメニューを見ながら乱れ打ちみたいな注文を繰り返す大食漢だった。
 なおさら不機嫌面したオオカミが渋い文句を発するのもお構いなし。

「たくっ……! いきなりこんなしけた居酒屋に連れ込みやがって、ひとを手提げバッグみたいに片手で持ち運ぶんじゃねえよ! こんなふざけたプライバシーの侵害行為、たとえ上官さまでもまっぴらごめんだぜっ……て、おいおいっ、いったいどんだけ注文する気なんだよっ!! バケモンじゃねえかっ!?」

 大口開けてついにはツバを飛ばす若い同僚の新人士官に、おなじく未来を嘱望される新型機のエースパイロット候補はこちらも負けずにでかい口を開けて屈託も無く笑った。

「え? だってせっかくのお祝いじゃないか? 待ちに待った新型実験機での祝勝会! 試験運転がまさかの実戦兼ねちゃったけど、お互いめでたく勝ち星上げたんだから、ここは盛大に祝おうよ♡ えーと、ああ、もう面倒くさいからこのメニューにのっかってるの全部持ってきてよ、店員さ~ん!! あとおいしいお酒もありったけよろしく~♪」

「おいおい、マジでどんだけ食う気なんだよ? ありったけってほどがあるだろう?? まったく生まれつき図体でかくてデリカシーのねえクマ族はこれだから! ……おまえのおごりなんだよな?」

 これからこのテーブルの上を占拠するであろう大量の料理を考えただけでも胸焼けがしてくる。
 見かけ細身の現役パイロットは醒めた目つきでのんびり屋の同僚を見上げた。
 するとこちらは二回りはでかくて筋骨隆々としたのが傍目にもまるわかりのラフな私服姿の青年クマだ。
 おおらかに笑って、うん!とうなずく。

「もちろん♡ でなきゃ着いてきてくれやしないだろ、キミってばとってもシャイなんだから! 世間じゃ孤高の一匹オオカミとは言うけど、やっぱりチームワークは大事だよ。だからそこらへんの親睦っヤツを深めるためにもね?」

 そんないつもながらのしたり顔で馴れ馴れしいさまにこちらも仏頂面を隠しもしないオオカミだ。
 おまけ心底嫌気がさしたさまでぷいと鼻っ面を背ける。

「ケッ、この俺さまはてっきりメカニックのオヤジどもが俺たちのアーマーのパーツをどこぞの闇市で買い付けるってんで、その護衛として車に同乗したんだぜ? それがどうして途中であんな野っ原に放り出されて、おまけおまえみたいなむさいクマ公なんぞとディナーを共にしなけりゃならないんだよ!」

「ああ、はじめはその予定だったんだけどもね? せっかくの申し出をあちらから丁重にお断りされたんだよ。おやじさんいわく、ぼくらみたいなよそ者丸出しの軍人さんにいられてもむしろ目立って仕方ないから、どこかよそでもほっつき歩いててくれってさ? 良かったじゃないか、気晴らしのお休みがてらにこうしてふたりで楽しく夕食会ってのも。非合法なブラックマーケットてのはどこも信用こそが第一で、おやじさんくらいに名の知れた機械工ならどこでもウェルカムのVIP待遇なんだって♡」

「はあん、あんなブサイクなブルドックのジジイがVIPとはな……だからってこのザマはなんなんだよ? 俺はちっとも納得行ってねえぞ?」

「まあまあ! まずは腹ごしらえしようよ。広く海に面したこの国の首都部は漁港からの魚介類ばかりで、山国育ちのぼくらにはなじみのない生の食材や食べづらい魚料理ばかりじゃないか? その点、ずっと田舎で山間のここならうまい肉料理にありつけるってもんでさ、ルマニア本国でもお目にかかれないようなグルメもあるかも知れないよ。ほんとに楽しみだなあ♡」

「たくっ……」

 ふてくされたツラでそっぽを向くオオカミに、どこまでも鈍感マイペースなクマはまるで素知らぬそぶりだ。

「んっ! それにほら、ぼくらチームメイトなのにお互いのことなんにも知らないじゃないか? 思えば士官学校時代からの顔見知りなのに、キミってばいっつも一匹オオカミでひととはろくに交わらなかっただろう?」

 どこかおっかなびっくりなさまで店員が持ってきたグラスの水を一息にあおって、継ぎ足しようのピッチャーごと取り上げる大男の軍人さん、ベアランドに同僚のウルフハウンドはひどく醒めた目付きで鼻先の突き出た口元を歪める。

「はん、おまえらみたいな図体でかくてそのくせデリカシーのないクマどもとつるんでたら、身体がいくつあったって足りやしないだろう! かと言えその他大勢のどん臭いイヌっころどもじゃお話にならねえから、ひとりで好きにやってただけってことよ……」

「ふ~ん、でもその『ウルフハウンド』ってのは、これってばどこかで聞いた風な響きだよな? ならひょっとして高貴なお家柄の出だったりするの、キミってば??」

 それは何の気もなさげに発した言葉つきに、だがこちらはひどくかんに障ったふうなオオカミは尖った耳を片方だけ上下に振って舌打ちなんかする。
 相手の言葉をはねつけたみたいなさまだった。

「……チッ、まったくどの口が言いやがるんだよ? とぼけやがって! だったら聞くが、てめえのその『ベアランド』ってのも、クマ族界隈じゃごくごく当たり前のポピュラーなファミリーネームだってのか? 事情が取り込んでるのはお互いさまってもんだろうよっ……!」

「あっはは! まあ、確かにね? 今時は貴族出身だなんて言っても周りからうとまがられるだけだし、それほどの特権や権威なんてものもありやしないし♡ ぼくらただの下っ端軍人さんだしね!」

 鷹揚に腕組みして笑う茶色のクマにしかめツラの灰色オオカミが毒づく。

「ルマニア八大貴族、もとい、今は七大貴族、だったか? どこもとっくの昔に廃れちまって人の口にも上らねえだろう? 俺は生まれた時から景気のいい話を聞いたことがないぜ、その手のことじゃ」

「はは、何かしらの不祥事でお取りつぶしになったのって、10年くらい前のことだっけ? ライオネイルとか言ってたような……確かに今じゃ聞かないよな! あと他には、ワイルドホルスに、キャトレインだっけ? そこに加えてうちとキミとであとみっつ? ええっと……」

「ンクスに、ピコークだろう! あとひとつは俺も思い出せねえが、そんなもん関係がありゃしねえっ」

※ノベルとテキストは随時に更新されます♡

 うんざり顔でかぶりを振る同僚のパイロットに、同じくクマ族の新人パイロットはしたり顔してその言葉付きをひそめさせる。

「う~ん、ま、全く関係なくはないんじゃないかな? このぼくらが任された新型の実験開発機の製造元だとかを考えたら?? そうとも、あれってのは設計段階から特殊なコンセプトと特別な製造ラインで組み上げられたまさしく一品物で、その昔の貴族専用の特注機さながらなんだから! ルマニア本国のアーマー工廠じゃなくて、まんまそっちで一から開発されたって話じゃないか。この本社やその工場がどこにあるのか誰も知らないっていう、あの謎多きアリストクラッツ社のさ!」

「はん、アリストクラッツ、ねぇ……だがそんなご大層な刻印、おれのギャングのどこにもありやしなかったぜ? なのにそのおかげでわざわざ正規のルートじゃない闇でパーツを仕入れなけりゃならないなんてな、本末転倒なんじゃねえのか?」

「確かにね! いずれ赴任することになる新型の大型戦艦にはそれ用のアーマードックがあるっていうから、今の事態はきっと想定外なんだろ? おっと来た来た!!」

 やがてワゴンに山盛り載せられてきた料理の数々に、喜色満面でみずからの太い喉を鳴らすクマに、げんなり顔で舌を出すオオカミだ。
 おまけこの鼻先をひくひくさせてウルフハウンドが言った。

「ん、くせえな! おい、しっかりと生の魚料理があるじゃねえか、てめえの苦手な? あ、てめっ、どうしてこっちに差し出してくるんだよ!!」

「いいからいいから、遠慮しないで♡ たっぷりとスタミナつけなきゃいけない軍人さんがそんな好き嫌いはいけないよ! それじゃぼくはこっちのおいしそうな手羽からいただこうかな♪」

「ほんとにてめえのおごりなんだろうな?」

「あはっ、うんまーい! 店員さん、こっちにビールじゃんじゃん持ってきてぇー!!」

「まったく……!」

 うんざり顔でため息が尽きないオオカミだ。
 素手で鳥の揚げ物を掴み上げるがさつな相棒に対して、こちらは遠くの本国で使い慣れたフォークやナイフではなく、二本の箸を利き手で持って器用に皿から青魚とおぼしき刺身をつまみ上げる。
 きちんと下処理がされた鮮魚は匂いがやや鼻につくが味や食感自体は新鮮で嫌いではなかった。
 呑気な学生みたいなノリで肉料理を次から次へとほおばるでかいクマ助にじぶんの分も残しておけよと内心で毒づきながら、白けた眼差しで見ていたやせオオカミの顔つきにいくらかの陰りが走った。
 無防備な短パンランニング姿の相棒のさまを見ているにつけ、そこに何かしらの違和感を感じたのだ。
 顔つきが怪訝なウルフハウンドはこの違和感の元凶がおそらくは相手の剥き出しの首元、やけにくっきりとしたいかついデコルテラインにあることを突き止めながらにベアランドに問う。

「……おい、てめえ、首の輪っかはどうしたんだよ? 新型機のテストパイロットとして誓約を交わした時からその代償としてはめられたあの邪魔っけなお飾りがどこにも見当たらねえじゃねえか?? こんなゴツイもの、いくら毛むくじゃらでもそうそう見失ったりはしねえはずだ!」

 みずからのシャツの首元からのぞく太い首輪を不快げに指さしながらのそれに、当の問われたお気楽なクマは何食わぬさまでしれっと言ってのける。
 オオカミは大きく目を見張らせた。
 ピンと尖った二つの耳が大きく震える。

「え? どうって、とっくの昔にむしり取っちゃったよ、あんなの! あの太い金属のワッカだろ? だってあっても機能的にまるで意味ないし、邪魔なだけじゃないか? キミこそまだ律儀に付けてたんだ、そんな無意味なお飾り!」

「む、むしり取った!? ちょい待て、コイツは捕虜や重罪人がはめられるそれこそが拘束用の首輪で、内部にゃ逃走防止のための爆薬が仕込まれてるはずだろうが!! もともと頑丈なのにひとたび外したら首から上がきれいに吹き飛ぶってシロモノをどうやって、まさか持ち前の馬鹿力でむりやりに引っぺがしたって言いやがるのか!?」

「うん。そうだよ♡ それに爆薬だなんてそんなのブラフに決まってるじゃないか? 実際にそうだとしたら周りが危なくて近寄れないし、逆に自殺やテロ目的に使われたり、いざ管理するのも一苦労じゃないか?? 心理的な負荷をかける目的以外の何物でもありやしないよ、素手ではほぼ外せないくらいに頑丈に造られてるってあたりからしても、せいぜいGPSが仕込まれてるくらいなものじゃないのかなぁ? あいにくとぼくは素手で外しちゃったけど! 外したブツはもうどっかにいっちゃったなあ」

「おいおいっ……!」

 あまりにもお気楽さまなクマの言いようにもはや目を白黒させて言葉を失うオオカミだ。
 運ばれてくる料理を次ぎから次へと平らげる大食漢はなおさら太平楽なさまでやがては油まみれの手をこちらに向けてきた。
 まだ刺身を二切れ、三切れしか食べていない細身のパイロットは箸を握ったままに総毛立つ。

「ある程度役割こなしたら専用の解除キーが送られてくるなんて言うけど、期待薄だしな? 元から存在意義がないようなシロモノ、どうせあっちも存在自体忘れてるさ。あ、なんなら取って上げようか? その邪魔なワッカ! しょせんオオカミにはこんな首輪なんて似合わないもんな♡」

「あ? おい待てっ、いきなり何しやがっ……!?」


 ※こちらのエピソードはまだ執筆途中です♡

次回、第二話、#004へ→

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ルマニア戦記 #002

第一話 「実験機で初出撃!」

#002

 かつての建国からこれまで長い歴史があり、今ではそのほぼ半分を占める国有面積の広さから、一般に『ルマニア』と呼ばれる東の大陸。

 その内陸中央に王都を構える、若いパイロット達が生まれ育った巨大な王権国家からすれば、影では属州とも呼ばれる北西の辺境に位置する小国はかなりの田舎に違いなかった。

 おまけにその最前線の基地の外れも外れに位置するオンボロな予備格納庫はよそから見たらまさしく廃墟も同然だ。


 しかしながら今やもろもろの都合でこの屋上階に寝泊まりしている、すっかりよそ者扱いの士官候補生達は、更衣室を出た廊下の突き当たり、そこから壁伝いに続く長い階段をひたすらまっすぐに降りて行く。

 そうしてまた出くわした突き当たりをいつもなら右手の屋内にあるアーマーのハンガーデッキに向かうはずが、今日ばかりはこの左手、屋外へとつながるドアのノブを掴んでおもむろにこれをひねるのだ。

 ギイィッ……とさび付いたドアがきしむ音を立てて、そこから外界へと一歩踏み出せば、目の前でうっそうとしげる林の向こうに朝日が明るく昇るのが見て取れた。

 森の向こうに拓けた海岸線からかすかに吹き寄せる潮風を鼻の頭に感じて、くすぐったく思う大柄なクマ族のエースパイロットは、その場で大きく深呼吸するといつもの呑気な口ぶりする。


「んんっ……はあ、いい朝だな! いつぞやみたいなおかしな異臭騒ぎももうないし? 新型機で出撃するにはうってつけのお日柄だよ。なんだか今日はいいことありそうだ!」

「ケッ! なにを悠長なことを言ってやがるんだよ? 本来なら夜中にこっそりやってることを白昼堂々やらかそうってんだから、リスクのほうが付きものだろう! おまけにこんな快晴じゃ重要機密満載の新型をわざわざ真っ裸で敵さんにお披露目してやるようなもんだぜっ……ま、悪い気はしねえがよ? たっぷりとわからせてやれるんだ、このオレさまの腕っ節と新型機の実力を!!」

 背後に目をやるとただちに不機嫌面で見上げるオオカミの同僚の毒づきに、もう慣れっこの相棒はしたり顔してうなずく。

「はいはい! それじゃまずはご対面だよな? 長らく待ちわびた我らが愛しの新型機ちゃんたちと♡ 確か格納庫の前に集合だから、あっちに行けばいいのかな? ん、おっと、あそこにいるのって……!」

 たとえ基地の外れでも基本、敵国がある西側向きに発進路が造られるのはどの格納庫でも同じだ。

 南の裏口から出て来た都合、回れ右して大股で高い外壁沿いに進んで行くと、その先のまだ宵の暗さが残る西の空を背景にして忽然とひとりの青年が待ち構えるのがわかる。

 見知った顔でまだ表情に少なからぬ幼さが残る若者は、見るから華奢でやせっぽちでも胸を張ったきりっとした立ち姿の敬礼でみずからの上官である二人のパイロットらを出迎えた。

 きびきびとした歯切れのいい口調で朝の冷えた空気を震わせる。


「ハッ! おはようございますっ、ベアランド准尉どの、ウルフハウンド准尉どの! お待ちしておりました!! おふたりの機体はすでにどちらも準備が整っております、どうぞこちらへ……あっ」

 じぶんと同じ大型のクマ族とは言いながら、ずいぶんと頼りない見てくれの痩せた少年機械工兵を見下ろすマッチョなでかグマのパイロットだ。

 こちらへ赴任してからかれこれ半年あまり、もう慣れ親しんだ仲でもあり、とかく親しげな笑みで返す。

「いいからいいから、そんな固くなりなさんな、リドル! お迎えご苦労さん。昨日は一晩中大変だったんだろう、おやっさんと? だったらもっと楽にしてなよ、ここからはこのぼくたちが気を張る番なんだから! ……あれ、どうしたの?」

「あっ、てなんだよ? 機械小僧?? まさか何かしら気になることがあるってのか、本国から来たオレらのアーマーによ。見た目が頼りなくてもいざ機械のことにかけちゃこっちはとっくに信用してるんだ、今さらヘタな隠し事なんざ言いっこなしだぜ!」

 後ろから長い鼻面の顔を出すオオカミもやや不審げに問うのに、ちょっと慌てたそぶりの男子は改めてふたりのバイロットに対して最敬礼する。

「いえっ、失礼しました! すっかり失念しておりましたっ、申し訳ありません! 本日付けでどちらも一階級昇進されておりますので、正しくは、ベアランド少尉どの、ならびにウルフハウンド少尉どの、でありました!! 昇級、そして新型機の到着と併せてまことにおめでとうございます!」

「……え、そうだったっけ? ふ~ん、まあ別にいいよ、そんなの。あんまり気にしたことないし♡ 今のところ隊員がふたりしかいないへっぽこ部隊で、すっかりお荷物扱いされてるぼくらだもんね!」

「まあな、オレもどうでも構わねえよ、お飾りみたいな形式張った呼び名なんてな。それよか肝心のアーマーはしっかり組み上がっているんだよな?」

 気を張ったセリフをすっかり肩ですかされてしまう。

 思わず苦笑いになるメカニックはみずからも固かった身体の力を抜いて、落ち着いた年相応の口ぶりとなる。


「あははっ、はい、それはもちろん! 最終点検は親方が了解済みでありますので。どちらもすぐに起動できます。早くご覧に入れたいので、どうぞこちらへ!」

 ふたりのパイロットを視線で背後へと招いてみずからは早足で駆けっていくのに、一瞬互いの目を見合わせて建物の真正面へと向き直る新米の士官たちだ。

 荒れ放題の滑走路を大股で踏みならしては西の空をバックに、いつもなら大きく開け放たれた間口が今だけはサビだらけのシャッターで閉ざされたオンボロ格納庫と対峙する。

「う~ん、見れば見るほどオンボロだよな? こんなボロっちい格納庫にピカピカの新型のアーマーが配備されてるだなんて、まさか神様だって思いも寄らないってもんだよ」


「は、どうだかな? わりかし敵さんにも情報は筒抜けだったりすんじゃねえのか?? いつぞやの幽霊騒ぎが収まって、てっきりそれまで無人化してた対岸の前線基地の取り合いになると思いきや、あっちはそんなの目もくれずにこっちに攻め込んできてるんだろ? ろくな補給路の確保もないままによ。こっちのアーマー隊が手薄なのもいいこと、やつら少数部隊をひっきりなしに出したり引っ込めたりして、いざ基地を攻め落とすってほどでもないんだぜっ……やる気があるやらねえのやら!」

 どこかそっぽを向きながらの独り言じみたオオカミ、ウルフハウンドの物言いにちらりと視線を下ろす大柄なクマ、ベアランドは少しだけ思案顔して肩をすくめる。

「つまりはこっちの出方を見ているってのかい? なるほどね♡ わからなくはないけど、あっちにもあちらさんなりの都合があるのかも知れないよな? はっはあ、そうか、だったらなおさらワクワクしてきちゃったよ……!!」

「はっ??」


 怪訝な視線で見上げるしかめ面にまた肩をすくめる脳天気なクマは意味深な笑みを浮かべると、おまけいたずらっぽくパチリと片目をつむったりする。

 そうして視線でみずからの正面、巨大な廃屋と化した予備倉庫を示すのだった。

 若い機械整備士の背中越しに今しも大きな音を立ててシャッターが上がるのをそろって注目する。

 西の空はまだほんのりとしか明るくなかったが、屋内の照明が煌煌とたかれていたから見晴らしは良かった。

 奥に大きな人型をしたシルエットがあるのが気配としてわかるが、その手前、まずはやけに小柄な人影を見つけてそちらに目がいってしまうふたりの新米パイロットだ。

「おっ、おやっさん……! 相変わらずのしかめ面だな! あれが真顔なんだっけ? なんか怒ってるみたいに見えるけど、いやいや、内心は喜んでいるんだよな??」

「オレが知るかよ! 土台、あんなブサイクなむくれっ面じゃ判別するのはハナから無理だろ? とりあえず怒られるような筋合いはないぜ、今んとこはよ」

 すっかりどっちらけたさまで茶化すクマに、白け顔のオオカミも苦い口ぶりで返すばかりだ。

 するとそれを背中で聞いていた若い弟子のメカニックが親方にビシッと敬礼しながらも小声で返してきた。

「もちろん、怒ってません! きっと親方としても感慨がひとしおなんですよ……昨日は徹夜だったし! あと、あらかじめ言っておきますが、壊さないでくださいね? いきなり初陣で無茶とか、おふたりとも??」

 どこかこわごわとした口ぶりで視線をそろりと巡らせてくる、まだ若いながらも有能な整備士に、なおさら白けたさまのふたりのパイロットはどうにも微妙な反応で視線をあちこちにやるばかりだ。

 あんまり思わしくない空とぼけた顔つきそぶりに、付き合いまだ短いながらも相手の性格性質だとかを骨身に染みて思い知らされていたリドルと呼ばれるクマ族は、げんなりしたさまで肩を落とすのだった。

「はあっ、お願いですからね? 今のこちらの整備状況じゃ正直、小破以上の破損はもはや回復不能だと思われますから……! ちなみにそれに関しましてはうちの親方もまったくの同意見です」

「そいつはまた……! ほんと、ワクワクが止まらないよな?」


「たくっ、根性で直せよ! ん、おい、あのおやっさん、よもやこっちの声が聞こえてやがるのか? えらい勢いで睨んでやがるぜ!!」

 あいにくまだシャッターが上がりきらないから内側の全体像がどんなものだかわからない。

 しかしながらガタガタとした騒音混じりの中にもこの真ん中にでんと構えて仁王立ちした小柄な犬族のおやじだ。

 そのもういい年齢をした熟練の機械工がしゃがれた渋い声を張り上げる。

 おっかない顔つきもさることながら、見かけが小さかろうと腹から絞り出した一喝で相手を圧倒するだけの底知れぬ迫力みたいなものがあっただろう。

 この前線基地でも指折りの手練れにして、過去には大陸大海を股に掛けた数々の伝説を誇るという整備士界の巨匠の第一声は、やはり怒っているようなそれはけたたましいだみ声なのだった。

「おおい、やいこらっ、このボンクラども! シャキッとしやがれ!! おめえらが待ちに待った新鋭機のお目見えだろうがっ、そんなふぬけたツラで拝めるようなシロモノじゃありゃしねえぞ!!」


 朝っぱらから耳にキンキンと響くお叱りに思わず苦笑いのクマだ。

 隣のオオカミは小さく舌打ちしている。

「あらら、徹夜していてそのテンションはさすがに……!」

 たとえ相手が基地の最高責任者であってもみずからのとぼけたスタンスを崩すことがない天然キャラのクマ助ながら、その背後にあった巨大な人影が全貌をあらわにするにつれて有無もなくこの視線がそちらへと吸い寄せられる。

 いつもの軽口を叩きかけたはずが、思わずごくりと息ごと飲み込んでしまった。

「こいつはまた、思っていたよりもデカいな! えらい迫力とボリュームがあるように見えるけど、ちゃんと動くのかね? あとそれに……」


 三人そろって頭上を見上げて、いざ目にしたものの異様なまでの出で立ちに言葉を無くしてしまう。

 はじめの想像とは似ても似つかないくらいに既存のアーマーとはまるで別物の見てくれだ。

 左右に二体並んだ大型ロボの、特に右手に立っている物が……!

 ある程度のあらましはあらかじめに聞かされていたから、つまりはこれがじぶんの乗機なのだろうと判断するクマ、ベアランドはちょっと言葉に詰まりながらに思ったことをまんま天然で口走った。

「う~ん、なんかさ、えらくブサイクだよな? もうちょっとこう、カッコ良くは出来なかったのかね? ものすごい悪者みたいな面構えなんだけど、このぼくの新型のアーマーちゃんてば??」

 半分嘆きじみた率直な感想に、すぐ横合いから舌打ち混じりのツッコミが入った。

「ブサイクも何もてめえにそっくりだろうが! いいじゃねえか、あのくらい不気味な面構えのほうが相手に対して威嚇できるし、新開発の新型だって存分にアピールできるぜ? いいか悪いかは別としてよ」

「ははっ、はじめは従来機とおなじ犬型のヘッドだったのらしいのですが、もろもろの都合でクマ型(?)のアタマに設計し直したらしいです。もちろん実験機ですから後後においてはどうなるかわかりませんが……」

 若い整備士の取り繕うような言葉に、おまけ前からはしわがれ声がぶっちゃけた私見を投じてくれた。

※↑挿し絵は一代前のデザインの主人公です(^^;)
 この第一話は以前のデザインで、第二話以降から最新版の主役のキャラデザインがお目見え♡ こちらもヒマがあれば随時に更新予定です♪

「ふん、いっそおめえさんをモデルにしたんじゃねえのか? さほどブサイクってこともあるまいよ、ビーグルのヘッドにゃ乗り切らない機能が満載だから、あんなへちゃむくれたツラになるんだが、むしろ愛着が湧くってもんだろう!」

「んんっ……ぼくってばあんなにブサイクかい??」

「てめえのツラ鏡で見たことねえのかよ? はんっ、それよかこのオレ様のギャングはいい面構えしてるよな! 量産型のビーグルなんぞとは比べものにならないってぐらいにいかしたスタイルしてやがるぜ!!」

 肩を落とすクマにはいっそ冷たい口調で吐き捨てるオオカミの同僚だ。

 そうしてみずからが搭乗するもう一体のロボットをしげしげと見上げながら、いかにも納得したさまで言うのだった。

 するとその横合いからまた若いクマ族の整備士がやや不思議そうな顔つきでウルフハウンドに聞き返す。

「ギャング? この『ハウンド』のことでありますか?? ああはい、確かに現行の主力量産機のビーグルを元に大幅に発展改良させた機体ではありますが……」

「いいんだよ! 猟犬だなんてやぼったい名前で呼ぶにはもったいねえ機体だろ? コイツは今日から晴れてこのオレ様の相棒、その名も『ギャングスター』に決定だ!!」

「は、はあっ……」

 ちょっと戸惑った顔のメカニックに、おんなじクマ族のパイロットが苦めの笑いでウィンクする。

「ま、いいんじゃないのかい? なんかカッコいいし♡ そうか、だったらぼくは何て呼べばいいのかな、このブサイクちゃんのこと……!」

「あん、名前ならちゃんとあるだろう? その、ほれ、なんつったか??」

 小さな歩幅で歩み寄るブルドックのオヤジがいかめしいツラを傾げさせるのに、弟子の痩せっぽちがただちに補足する。

「はっ、こちらの機体の正式名は『バンブギン』であります! まあ、おそらくはこのボディの特殊な形状がいかにもそれらしいところから、なのでしょうか??」


 大柄なボディの特に前にも左右にも突きだしたそれは特徴的な土手っ腹を指しながら言葉には納得顔のでかいクマだ。

「ああ、つまりは〝カボチャのお化け〟なのかい?? なるほどね、要はパンプキンからもじったんだろうけど、確かにそんなふうに見えなくもないし! でもなんかかわいげがないなぁ……」

 やはり冴えない様で見上げていたら、いきなりハンガーの奥のあたりでやかましい警告音が鳴り出した。

 同時に黄色いライトもそこかしこで点滅し出す。

 さっさと出撃しろという本部からの通達なのだと察してそれぞれみずからの足を踏み出すパイロットたちだ。

 かくして感動のご対面はごく短い内に終わり、そこから目の回るようなスピードで出撃となる。

  ※次回に続く…! 

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ルマニア戦記 #001

第一話 「実験機で初出撃!」

 第一話

『実験機で初出撃!』

#001


 朝も早く、まだ薄暗い、更衣室。

 人影は、ぽつり……とひとつだけ。

 シンと静まり返った中で、ひとりの男が、何とも言えない面持ちをして立ち尽くしている。

 ただ無言で、ある種の感慨にふけるかのようなさまで、みずからの更衣室のロッカーボックスと向かい合っていた。

 シャッター式の扉は開け放たれ、その中に吊される、何やらひとがたらしきカタチをした、一揃えの真新しいスーツをまじまじと見つめる……!

 真顔をした、まだ若いのだろう青年パイロットだ。

 その口の端が、かすかにニマリとほころびかけたその瞬間、この背後ではにわかにやかましい気配が巻き起こる。

 大股のドタンドタンとした足音も聞こえてきた。

↑※過去のノベル版の挿し絵です。背後の主人公の見てくれがちょっと違ってますが、なにとぞご容赦くださいm(_ _)m ヒマがあったら描き直します(^^;)

「……!」

 途端にこの鼻先が前へと突き出た大きな口元、ムっとへの字口にして殺気立つオオカミだ。

 おまけに、チッと小さく舌打ちまでして、どこかしらよそへと視線を向ける。

 まるで我関せずの態度で素知らぬそぶりだが、やがて入り口にのっそりと現れたでかい人影はそんなことまるでおかまいなし。
 この中にズカズカと入り込んでは、こちらはでかくて横に平たい大口開けて、それは陽気にのたまうのだった。

「ふっふふ~ん! お、おっはよう、シーサー! なんだい今日はずいぶんと早起きじゃないか? まあぼくもそうなんだけど、やっぱり待ち遠しいもんだよな? ようやく本国から送られて来た、ぼくらの専用実験機がお披露目されるんだからさ! おかげで昨日はなかなか寝付けなかったよ」


「……っ!」

 馴れ馴れしいこと来るなりすぐ真横に付けての挨拶にあっても、明らかに不機嫌面したオオカミ男は舌打ち混じりにそっぽを向いてくれる。

 対してお互いに隣り合わせのロッカーなのだから横に付けるのはもはや当然!


 この相棒のほとほと素っ気がない態度にももはや当たり前で、すっかり慣れきったそれはでかい図体のクマ人間だ。

 構わずに自らのロッカーを開けるとそこでテンションがなおのことぶち上がる。

「わお! これって新品のスーツじゃないか!? 本国からやって来たアーマーと一緒に支給されてたんだ? ちゃんとしたぼくらルマニア軍仕様の正規のパイロットスーツ!!」
 


 また横で低い舌打ちめいたものが聞こえるのもまったく気にならないさまで、太い両腕でむんずとつかみ上げた新品の軍用スーツ、これを鼻先でしげしげと眺めては、喜々としたさまで小躍りするそれはご機嫌なクマ族の青年だった。

「あっはは、コレコレ! 地味でいかつい全身モスグリーン!! やっぱりコレじゃないと立派なルマニアの軍人さんとは言えないもんな? 正直、いつまであんなまっちろくて窮屈なテスパスーツを着させられるのかってうんざりしてたんだけど、汗臭いオンボロともめでたく今日でおさらばだよ!! もうどこにも見当たらないし? ようしそれじゃ早速試着しないと! あ、でも万一にサイズが違ってたら交換とか効くのかな??」

「……たくっ、知らねーよ! つーか、ぶくぶくと太った汗っかきなでかグマなら、何を着たって変わりゃしねーだろうが? くだらねえ文句は本国のヤツらに言いやがれっ……」

↑これまた以前の挿し絵です(^^) 次の挿し絵からきちんと描き直します♡ たぶん(^^;)

 しごく面倒くさげな言いように、ちょっとだけ苦笑いのクマ族の青年だった。顔の真ん中にでんとあぐらをかいた黒くて大きな鼻頭をことさらに膨らませる。おまけ、はいはい!とこのいかつい肩をすくめてもみせる。

 何かと神経が図太くてことさらお気楽な楽観主義者だ。

 他人から何を言われてもめげないのが生まれつきの性分であり、特技でもあった。

「あん、そんなにおデブさんでもありゃしないさ! 汗っかきなのは認めるけど? それより試着、試着っと……!!」


「うぜえなっ、てか、もうちょっと離れてやれよ! でかい図体で肘打ちなんて食らわされたらたまったもんじゃありゃしねえ! ん、良く見りゃそのスーツのサイズもふざけやがって、それって何Lなんだよ?? バケモンめっ……」

 さっさとくたびれたランニングシャツを脱ぎ捨てるなり、まだ新品で全体が固い厚地のスーツと格闘をはじめる相棒だ。これに大口開けて文句をがなるオオカミ族のパイロットも仕方なしにみずからのハンガーに吊されたスーツへと向き直る。

 通気性が絶望的に悪かった以前のテストパイロット用と見比べるに、こちらはそう悪くもないだろうと下着姿のままで着用することにする。

 その間もこのすぐ隣であくせくと悪戦苦闘しているらしいクマを横目で見やるに、あちらはパンツまで脱ぎ捨てた状態に目つきがなおのこと白けたものになるオオカミ族だった。

「あ? おいおいっ、いきなりマッパで着るのかよ? 新品のスーツが台無しになっちまうんじゃねえのか!? 換えなんてそうそう効かないんだから、もっと大事に扱えっての!」

 もはや口からキバがむき出しでクレームがすさまじい相棒に、とことん太平楽なクマさんは親しげなウィンクかまして、それはいたって余裕の口ぶりだ。

「いいんだよ♪ そんなの気にしてる場合じゃないし、そっち向きのスタッフも付いてるしさ♡ そうとも、ぼくら表向きは実験機の試験運用目的だったのが、どさくさで実戦配備に回されて今じゃもうじき正式な配属先が決定するって話じゃないか? ええっと、なんて言ったっけ? こことはまた別の大陸西岸の属州で極秘裏に開発されてるって、もっぱら噂の新造戦艦!!」


「チッ、お気楽なこったな! 組み上がったばかりの実験機でいきなり実戦なんて正気の沙汰じゃありゃしねえだろうが? ま、オレさまとしては手っ取り早くてむしろ望むところだが、スーツと違って一点物の機体は壊しちまったら目も当てられないぜ? あの機械小僧が大泣きするだろ! おまけその極秘裏に開発って巡洋艦もどこまで期待できることやら……そもそもここまで噂が流れてるってあたりで、どこらへんが極秘裏なんだよ??」

「文句が多いな! さっさと着ちゃいなよ、神経質な性格は戦場じゃいざって時の判断を鈍らせるだろ? それよりもとっととぼくらの新しいパートナーに会いに行こう! 夜中に運び込まれた機体の最終点検、おやっさんたちが夜通しやってくれたんだ。その労もねぎらってのお披露目式で、この格納庫の前に集合なんだってさ……あ、ほら、見なよ、ピッタリだ! あっはは!!」

※↑以前の挿し絵です。ここからヒマを見て描き直していきます。たぶん(^^;) 左のクマキャラの主人公を最新の令和版に描き換え(^^)/↓

※ノベルと挿し絵は随時に更新されていきます♡
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 みずからが苦労して着込んだ真新しいパイロットスーツを屈託のない笑みで示すクマに、それを何食わぬさまで一瞥(いちべつ)するオオカミは、手早く着こなしたスーツ姿でこちらも応じる。
心なしかその口元が緩んでいるようだった。

「へっ、オレだってピッタリだよ! それにいざアーマーのお披露目ったってすぐに緊急発進だ! 浮かれてやがるヒマはありゃしないぜ?」

「ああ、ま、サイレンひっきりなしに鳴ってたもんな? 今いるのは遠征から戻ってきた一番隊と補助のヤツらだけで、あとはみんな仲良くオシャカなんだっけ? ならこのぼくらが出るしかないよな♡ ちょっとワクワクしてきたよ!」


「遊びじゃねえだろ! もっとシャキっとしやがれよ!! まだ寝ぼけてるんなら先に行ってるぜ!」

「ああん、待ちなよ! ほとんにせっかちさんだな♡ そんなんで戦場突っ走って結果、迷子になっても知らないよ?」

「やかましいぜっ!!」

 いざ戦支度を整えて、我らが戦場に向かわんとするデコボコの新人パイロットコンビだった。

 かくしてこれより、それは長い戦いの歴史がはじまる……!

    ※次回に続く……


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