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ルマニア戦記/Lumania War Record #013

#013

Part


 遙かな水平線はどこまでも穏やかに澄み渡っていた。

 空も見渡す限りが雲ひとつもなくした、まるきりの快晴だ。

 いっそここが血なまぐさい〝戦場〟だということを忘れてしまうくらいに平和なありさまに、巨大な空飛ぶ戦闘ロボットのコクピットで、その様子を今やぼんやりと眺めるばかりの若いクマ族のパイロットである。

 やがてちょっとだけ気の抜けたような言葉を発するのだった。

「はあん。いざ目標の当該戦域に着いたのはいいものの、人っ子ひとりいやしないなあ? ほんとに気配すらないよ。なのにどうしてここが戦場だって言えるんだか……!」

 目の前のメインモニターのすべてが青一色で、さっきから代わり映えしないのんびりした景色と、手元の各種レーダーの画面を交互に見比べながら、やはりこのどこにも敵影らしきがないのを認めてどうしたものかと考えあぐねる。

 後続の犬族の新人パイロットたちが追いつくのはまだ少し先のことだろう。

 最新鋭の大型巡洋艦が擁するハイパワーのマスドライバーをまんま流用した、アーマーの強制射出発進システムは先手を打つには打って付けだが、単機で先行しすぎるあまり後続機の援軍がすぐには望めないのが玉に瑕(キズ)だ。

 どの場面においてもまずはひとりで強襲急撃、その後も孤軍奮闘しなければならない。

 果たしてその覚悟を持って出撃したはずが、いざ来てみればそこはひたすら何もないただの公海のど真ん中だ。

 本来の戦闘域となるはず海上の孤島、ロックスランドからもかなり西にポイントを移したここでは、ただ広い海原が続くばかりで何をどうすればいいのかさっぱり見当がつかない。

「あれ、場所、間違っちゃったかなあ? さてはリドルのやつ、慌てて射出のポイントをミスってたりして??」

 ありもなさそうなことをつぶやいて、みずからの太い首をしきりと傾げてしまうベアランドだ。

 おのれの周囲を囲むように配置されたモニター群をぐるりと左から右へと眺め回しては、どこかしらに何らかの変化がないかと目を懲らす。

 左右の耳を澄ましてもアラームなどの警報は響かない。

 ただ右側のサブモニターの一角だけ、海面にある種の異物があるのが視認できたが、それをちょっとだけ拡大して、またすぐに視線を逸らすクマ族だった。

「なんか一個だけでっかいフロートが浮かんでいるけど、あれってロックスランドのヤツがここまで漂流してきちゃったんだよね? 完全に破壊されてすっかり廃墟みたいになっちゃってるけど、あのフロート自体がただ浮かんでいるだけで、まるで意味がないものなんだからさ……!」

 そこにあるのが不自然なこと極まりもなくした巨大な灰色の人工物らしきを、しかしさして気にすることもなくスルーする、性格とてもおおざっぱなエースパイロットさまだ。

 少しは気に掛けても良さそうなものをあえて放置していると、そこに折しもどこからかアラームと共に、誰かしら年配の男性らしき声が響いてくる。

「……おい、聞こえるか? でかグマ?」

 突如として聞こえてきた聞き覚えのある声とその言い回わしに、おっ!と頭の上のふたつの耳をピクつかせるベアランドだ。

「お、その声は、ジーロ艦長だよね? この現場の指揮権を持った最高責任者の! どこにいるんだい? ま、なんとなくで想像がつかなくはないけれども♡」

 右手のモニターの一角を今一度、軽く一瞥しながらの言葉に、頭上のスピーカーからは小さな舌打ちがして、ちょっとトーンを落とした返事が返ってくる。

「じゃあ、そういことなんだろう? それよりも、ちょっと耳を貸せよ。大事なお話がある……!」

 ピピッ!

 不意にまた軽いアラームが鳴って、正面のモニターの中に短いメッセージのウィンドウが浮かび上がってきた。

 それを見るなりクックとおかしげにこの喉を鳴らすクマ族だ。

「あ。これって、上級士官用の秘匿回線の通信コードだよね? わざわざこんなの使わなくたっていいものを、ほんとに用心深い艦長さんだよな! 返って怪しいったらありゃしないよ♡」

 苦笑いで思ったままを口にするのに、スピーカーからはまた舌打ち混じりの文句が返ってきた。

「いいから、とっとと開けよ。肝心なことをまだ何も知らされていないお前さんに、親切に教えてやるんだ。ありがたく思え!」

「はいはい! と、それじゃ、どうぞ?」

 言われた通りに複雑なパスコードでブロックされた軍用の特殊回線をつなぐと、スピーカーからはまた同一人物による、こちらはややくぐもった感じの音声が響いてくる。

 さては手のひらサイズの小型の通信機を使って小声で通信しているのだろうと察するクマ族だ。

 よってそのひそひそ話にこの耳を傾けた。

 すると相手の犬族のベテラン軍人の大佐どのは、何やら一度、もっともらしげに咳払いしてから続けてくれる。

「んんっ! まあ、知っての通りで、ここに来るように指示したのは何を隠そうこのオレなんだが、その場所だけでさっぱり後のことは伝わっていないだろう? 説明してやるから良く聞け。で、言うとおりにしろよ? それにつき余計な質問はなしだ。お前は黙って言われたことだけをやればいい……!」

 かなり上から目線のパワハラめいた口ぶりになおのこと苦笑いが強くなるベアランドだが、とりあえずは了解してうなずいた。

「ははん、相変わらず自分勝手な言いぐさだよな! まあいいや、ここはおとなしく艦長の指示に従うよ。さっぱり何が何だかわからないし、意味もなくここに導いたわけじゃないんだろ?」

 相手からの返事がないのにしたり顔したクマ族は明るい口調でまた言ってやる。

「さうさ、なんたって知るひとぞ知る、いかなる劣勢もものともしない先読みと知略に長けたキレ者ぶりで有名な、ジーロ・ザットン大佐だものね! あるいは勝つためには手段を選ばない冷血の極悪人、悪党ジーロ、だったっけ?」

 ちょっとどころかかなり冷やかしめいた口ぶりになるのに自分でもペロリと舌を出してしまうが、これに相手はまるで気にしたふうでもなくて冷めた口調で返した。

 モニターに相手の顔が映らないから実際のところはどうだかわからないが、このくらいで機嫌を損ねるような底の浅い人物でもないと理解はしているクマ族の青年だ。 

「お前に言われたくはないね。あいにくとこっちはわけあってこの姿を見せてはやれないんだが、いざとなったら多少の手助けはしてやるから、覚悟してかかれよ。言うまでもないが、そこはもうれっきとした〝戦場〟だ。で、見たところおまえひとりだけのようだが、後の僚機の部下どもはどうしたんだ? 確かふたり、新人のパイロットと新型機がいたはずだろう? どっちもまだ若い犬族の??」

「よくご存知で! なに、もうちょっとしたら追いつくよ、今しゃかりきになって追っかけてきてるはずだから♡ たぶんね?」

 いたずらっぽく余裕しゃくしゃくの返答を返してやったら、ちょっとだけ間を開けて、どこか呆れたような返事の艦長どのだ。

「まったく、そんなのろくさそうなでかい図体の機体でどうしてここに一番乗りしてやがるんだよ、おまえは? 相変わらずやることが人並み外れていやがるな、このバケモノめ! まあいい、どっちかと言ったら新型機とこのおまけの新人くんに興味があるんだが、お前のそのご自慢のアーマー、ルマニア軍が最新兵器の実力とやらもとくと見させてもらおうか、その……」

 またちょっとだけ間を開けて、そこから何かしら含んだようなものの言いをしてくれる犬族のおやじさんだった。

「いわゆるそうだな、その『王陣の番兵』シリーズってヤツのちからをだな……! ああ、軍がかねてより秘密裏に開発してる、巨大な能力を秘めた最終兵器のひとつなんだろう、そいつは?」

「あはは、ほんとによくご存知で! まったくどこから聞き付けてくるんだか? ぶっちゃけまだ開発途上の機体ではあるから、いざぶっつけ本番で実戦でテストしてるみたいな? あんまり参考になるかはわからないけどさ!」

「ほんとにふざけていやがるな……! ん、いいよ、そんなに静まり返ってくれなくとも! おい、全員聞き耳立てているのがまるわかりだぞ? どいつもこいつも、みんな仕事しろ!!」

 呆れかえったセリフの後に続いた、ひどくうざったげな文句が回線越しのこちらではなくて、実はむしろおのれの周りに向けてのものだと察するベアランドは、思わず吹き出してしまう。

「ふふっ、てっきり艦長室でコソコソやってるのかと思ったら、しっかりとブリッジのシートにふんぞり返っていたんだ! だったらこんな秘匿回線なんかわざわざ使う必要ないのにさ?」

「うるさい。余計なお世話だ! おっと、失敬。いいから、良く聞けよ。立場的に公言しにくいこともいろいろあるんだ。現実と建前ってのはとかく乖離(かいり)しているもんでな?」

「了解♡ で、ぼくは一体どうすればいいんだい? 見渡す限りが海ばかりでこれと何も見当たらないんだけど、この下に敵の潜水艦でもいるのかい? それってあんまり相性良くないなあ」

 ぐるりと周りのモニターに映る景色を見回すクマ族のパイロットに、ちょっとだけ苛立たしげな声色の犬族の艦長が続ける。

「だから、それを今から教えてやるって言っているんだよ! 良く聞け、もう肝心なポイントは過ぎ去ってしまっているんだ。放っておいても感づくかと思ったら、こういうところは至って鈍感なんだよな、おまえらクマ族ってのは? 世話が焼けるよ」

「へ? もう過ぎてるって、まだ何もありゃしないじゃないか?? そっちに見える怪しいフロートの漂流物以外は、なんにもありゃしないよ。あ、ひょっとしてその廃墟に向けてビームをぶちかませばいいのかい?」

 ちょっととぼけた返事を返すのに、あちらからはただちにかぶせ気味のがなり声が聞こえてくる。

 ひそひそ話はどこへやら?

「間違ってもやるなよ! いいから、黙って言った通りにしろ。まずは転進、北に向いてる機体の方向を南西に向けろ。取り舵一杯! ほら、お前から見たら20時の方角だよ、わかるだろ?」

 相手からの言いようにちょっと戸惑い気味のベアランドだ。

 太い首を傾げながら、低速で前進していた機体を停止させる。

 言われた通りにおのれの左後ろへとモニターの景色を回転させて、ついぞ代わり映えしない青一色の世界を微速前進するよう大型なアーマーの機体をコントロールする。

 やはりその首を傾げながらにだ。

「ふーん、て、やっぱり何もありゃしないけどな? ねえ、これでいいんだよね、ジーロ艦長? 聞いているかい?」

「ああ、いいんだよ。そのまま微速前進で、すぐにわかるだろ。あ、だからそこでストップだ! 止まれって、また過ぎちまうぞ? おいこのでかグマ!!」

 途端に声を荒げる相手の言葉をまずはきょとんとした目つきで聞いてしまうクマ族だ。

 果たしてモニターの中にはそれらしきものはいっかな見当たらないのだが……?

「え、ここで止まるのかい? でも何もないけど? なんか海面一帯に白いもやか霧みたいなのがぼんやりとかかってるくらいで、なんにも怪しいものは見当たらないんだけど……」

「それが目標なんだよ! ちゃんと見えてるじゃないか? さてはさっきもそうやって見て見ぬフリして見過ごしたのか? このとんちきクマ助め! いいか、その海面を覆った白い濃霧こそが今回の目標を差し示す確たる証拠であり目印だ」

 これをはなはだ意外に聞くアーマーのパイロットはあまり納得のいかないさまで聞き返した。

「え、でもこれって、この下の海底火山か何かの影響による自然現象だよね? そういうポイントがあるってあらかじめ聞いてたし! 視界不良で戦闘するには不向きだからみんな避ける場所じゃないのかな?? 身を隠すには打って付けかも知れないけど、こんなところに潜んでもまるきり意味がないし!」

 もっともらしい意見を述べてやるのに、頭上のスピーカーからはため息交じりの返事が返った。

「その自然現象と、人工によるカモフラージュのスモークとをおまえはどうやって見分けるんだよ? 現実問題、その下には海底火山なんてものは存在しない! わかるか? だとしたら……」

「何かしらが潜んでいるのかい? でもそんなのむしろここに居るって言っているようなもんだよね? 常に一定のポイントで盛大に煙を吐き出しているのなら? どうして……」

 言いながらこれと怪しい動きは見当たらない濃霧に満たされた海域をいっそ怪しく見てしまうクマ族だ。

 これに犬族のベテランはあっけらかんと返した。

「人工による目隠しのスモークごときなら、いっそまとめて取っ払っちまえばいいだけのことだろ? おまえさんのそのバカみたいに出力のでかい機体なら造作もないはずだ。とりあえず周りの海面に向かって一斉射撃してみろよ? 海面の温度が上昇して気流が生じれば、周りのもやもいっぺんに消し去れるはずだ! ただしくれぐれも目標のブツには当てるなよ?」

 わかったふうなことを言ってくれる上官どのに、だが当のパイロットの若いクマ族はいぶかしげなさまで考えあぐねる。

「そんなこと言っても……! それじゃ適当にぶっぱなしちゃっていいのかい??」

 目標をこれと定めないままに射撃することに戸惑いを隠せないでいると、スピーカーからはぴしゃりと警告がなされる。

「あ、ただし中心は避けろよ? 今のおまえから見てそのまっすぐ先に問題の目標物はある。よってあくまでその周囲の海面に向けてだ。当てたら後悔するぞ? 必ずや!!」

「……何があるんだい? まあいいや、それじゃ、ランタン、とりあえずは手前の海面に向かって、軽く一斉射だ! そうれっと!!」

 こうなれば仕方もない。

 言われるがままにこの機体の各所、両腕や頭部から腹部にかけて搭載されたエネルギーブラスターをありったけ足下の海面に向かって撃ち込んでくれる。

 直後、至る所で大きな水柱が立ち上り、灼熱のビームが海面を激しく波立たせた余波でそこから熱波までが一気に立ち上る。

 それがあたりの白い霧を巻き込んでただちに上空へと走り抜けていく。機体にかすかな揺れを感じるほどの、激しい乱気流があたりをごうごうと震わせた。


 その場に居合わせたらきっと大やけどだ。

「あ、ほんとだ、霧の中からなんか出て来たよ! おまけにえらい大きいなっ、て、えっ……」

 かくして白いスモークが跡形も無く消え去った後には、青一色の海面と、その真ん中に思いも寄らぬそれは巨大な物陰が姿を現すことになる。

 かくしてそれをはっきりと目の前のモニターで視認して、思わず大きく目を見張らせるベアランドだった。

 その特殊で特異な形状をした人工の造形物に、はっと息を飲んでしまうアーマー部隊の隊長さんだ。

「こいつは、まさか……!」

Part2


 突如として海面に現れたのは、それは複雑でいびつな見てくれをした人工の建造物で、かつかなりの大規模なものであった。

 よってモニター越しのただの一瞥でそれが何であるのかを識別する、クマ族のアーマーパイロットだ。

 さらにその建物の全容を見定めるべく、みずからが搭乗する戦闘ロボット、でっぷりと大型でブサイクな人型をしたギガ・アーマーを上空へと遠ざけてこれと距離を置く。

 その全体のありさまを見て、はっきりとすべてを理解した。

「あらら、こんな人気のない公海上に、よもやこんな大げさな施設があるだなんてビックリだな? だってこれって最新型のエネルギープラントだろ? 艦長!」

 あいにくと目の前のモニターにはこれと映像がなかったから、あえて天井のスピーカーに向けて問うてやるに、するとそちらからはとかくしれっとした感じの返答が返ってきた。

「ああ、見ての通りだ。あとこんな誰もいない公海上だからこそだろ? こんな厄介でかさばる施設、よっぽど僻地の山奥かこんなところじゃなきゃおちおち建てられやしない……!」

「まあ、それはそうかも知れないけど、でもここって本来はどこの国にも属さない、いわゆる〝公海〟だろ? さすがにマズイんじゃないのかな、せめて自国の領海にでも置かないことにはさ、あとあと揉めるのが見え見えなんだけど……!」

 ちょっと困惑気味に頭を傾げるベアランドだが、どこぞの戦艦のブリッジにいるのだろうジーロは平然たる口ぶりだ。

「どこの国にも属さない特殊な企業体が運営してるとなれば話は別だろ? 何しろ電力エネルギーをまんま高濃度圧縮して固体化したエナジーブロック、いわゆる〝プラズマ・ペレット〟を産出するハイパワー・ブラストエンジン・プラントだ。おまえさんたちの乗ってるアーマーの高出力エンジンにも欠かせない? ま、裏には特定の国や利権が絡んでいるんだが、位置的にはどこが手ぐすね引いてるかおおよそで想像がつくだろ、それに我らが本国もまんまと乗っかってるってわけで……」

「タチが悪いな? ロックスランドのいざこざは実はこっちがメインの縄張り争いだったりするのかい? つまるとこでこのぼくらルマニアと、西の大陸のアゼルタ、あとすぐ南にある中央大陸のアストリオンと、まさしく三つどもえの??」


 少なからず嫌気がさした感じのアーマーパイロットに、新型巡洋艦の艦長どのはなおも平然たる口ぶりだ。

「安心しろ、アストリオンとこっちは今のところ共闘関係だ。よって敵はアゼルタの侵攻軍だな。南の大陸の西海岸側をほぼ占拠してふんぞり返ってる? 目の前のプラントも今はそっちに占拠されてるんだよな。ちなみに敵さんの目的は、そのプラントばかりでなくて、実はこの下にもある」

「は? 下ってなんだい? それってこの海面のそのまた下の海の中か、あるいはいっそのこともっと下の海底ってこと??」

「ご名答! この海底には貴重な資源がわんさと埋まっているんだと! これまたアーマーや戦艦の建造に必要なヘビーレアメタルやらオイルやらが? それを掘り出すための上物がそのプラントで、いわばそれ自体が目隠しの隠蔽工作みたいなもんだ。どうだ、一粒で二度おいしいとは、まさにこのことだろう?」

 思いも寄らないぶっちゃけ発言の連発に、聞いていて心底嫌気がさすベアランドだ。

「ほんとにタチが悪いな!! 占拠されてたロックスランドがあんなあっさりと取り返せたのはつまりはこっちが主戦場で、あっちはどうでもよかったってことなのか!? ほんとに!!」

ああ、そうだよ。だから気を付けろよ? そうやって隠していた姿を現してしまった都合、奥に潜んでいた敵さんがたが蜂の巣をつついたみたいにわらわらと飛び出してくるから、な?」

「ちょっと! そういうことはもっと早く言っておくれよ!! いくら新型だからって限度はあるんだからさっ、て、うわわっ! ほんとに一杯出て来たぞ!!」

 目の前のモニターがいきなりこの状況の急激な変化を映し出すのに、慌てて前のめりに機体の操作パネルに食らいつく。

 身体中に緊張が走るクマ族の頭上で相変わらずのんびりした犬族のおやじの声がだだ漏れてきた。

 現場の最高指揮官が、まるで他人事みたいにぬかしてくれる。

「もうじき後続の援軍が来るんだろ? それまでひとりでテキトーにしのいでおけよ。おまえの機体じゃパワーがありすぎてかすめただけでも大惨事だ。間違ってもプラントには当てるなよ? ただし敵さんはそれを見越してプラントを盾にして仕掛けてくるんだが、そんなに必死には攻めてきやしないだろ」

「何で? まあ、確かに数だけはわんさといるけど、だからってあんまり統制が取れてない感じだなあ? あまり攻め気を感じないような、前の敵さんの新型機の時もそうだったけど……」

「あちらもあちらでいろいろとあるんだよ。なんせ本拠地であるアストリオンの占領地、今はレジスタンス活動が活発化してそっちの沈静化に手一杯らしい。こっちにはろくな補給もできないってくらいにな? 補給と退路を断たれた状態じゃ、あとはずっと西に海を渡った本国に逃げ戻るしかありやしないわな? だがそれもここで手傷を負ってはままならないってわけで……」


 顔の見えない艦長のどこか気の抜けた説明に、怪訝な表情で考えあぐねるベアランドである。

「まさかここをさっさと放棄して逃げ出す算段してるってわけかい? そんなあっさりと……! でもだったら、とっととトンズラしてしまえばいいじゃないか?」

「おいおい、仮にも一国の正規軍だぞ? ろくな理由もなしに敵前逃亡なんてできるわけないだろ。で、その理由を今まさに作ってやっているんだよ、このオレたちで。ルマニア軍の最新鋭の大型巡洋艦と、おまえの最新型アーマーでな! せいぜい派手にかましてやれ、プラントは傷つけないように、あと無理して敵さんを撃墜しなくてもいいから、のらりくらりとだな。とどめのだめ押しは援軍が到着してらからだ。このオレの言うとおりにしておけば、誰も損をしないでこの場をきれいに納められる」

 相手はどこまでも好き勝手なことをぬけぬけと言ってくれるのに、半ばやけっぱちでがなる隊長さんだった。


「ちょっと! なんかさっきからいいようにばかり言ってくれてるけど、やるのはこっちなんだからね? 見渡す限りが敵だらけじゃないか!! えいくそっ、ランタン、蹴散らすぞ、パワーは抑えめでいいから派手にビームを光らせてくれっ!!」

「おお、さすがに飲み込みが早いな! その調子で場をつないでくれよ。それにしてもまだ追いつかないのか、後続の部隊は? でかグマ、おまえどんだけ無茶して飛び込んできたんだよ?」

「知らないよ! てか、このことを前もって知ってたらみんなでお手々つないでのんびりと来たさ!! ジーロ艦長、いざとなったら助けてくれるんだよね? そっちにも当然、艦載機のアーマーはあるんだから!!」

 アーマーのコクピットでがなり散らすばかりのパイロットに、どこぞでふんぞり返った艦長は何食わぬさまで返すばかりだ。

 その最中に不意に甲高い電子音が鳴り響く。

「悪いな。今はそっちはどうにも動かせない状態だ。理由はあえて言わんが。聞いたらがっかりするぞ? それだからこそこうして身を隠しているわけで……!」

「……おっと! このコールは!!」

 はっと息を飲むクマ族に、スピーカー越しの犬族がこちらもさも了解したふうに言ってくれる。

「来たようだな? ようやくのご到着か。どれ、どんなものだかじっくりと見させてもらうか……!」

 再び通信のコールが鳴ると、シートの右側あたりのスピーカーから聞き覚えのあるこちらはまだ若い犬族の声が響いてくる。

「た、隊長! 少尉どのっ、ただいま到着しました! オレです、コルクです! ケンスもいます!!」


「はいっ、遅ればせながらこれより両機とも参戦します! てか、すんごい状況ではありませんか? 見渡す限りが敵ばかりだ!! なんかでっかい海上ベースみたいなのもあるし!?」

 到着するなり内心の困惑したありさまがありありとわかる若手のアーマーパイロットたちに、どうしたものかとこちらも困惑してしまう若いクマ族の隊長さんだが、スピーカー越しの傍観者がいらぬ横槍を入れてくれる。

「おう、期待してるぞ! せいぜい気張って戦功を立ててくれたまえ。新型機なんだからわけないだろ。混乱したこの場をどうにか立て直すにはそこのでかいクマ助のお化けアーマーよりもおまえたちのまともな機体のほうが打って付けだ。それにつきちゃんとやり方は教えてやるから、言われたとおりにやれよ」

「また勝手なことを……!」

 内心で舌打ちしてしまうが、途端に動揺した声がまた左右から響いて本当に舌打ちしてしまうベアランド
だ。

「だっ、誰? 少尉どのの声じゃなかった??」

「ああ、他に誰かいるのか? だが友軍の識別信号はあの隊長の機体のしかないよな??」

「いや、気にしなくていいよ! ちょっとしたおっ節介なギャラリーがいるだけのことだから! 今は目の前に集中だ。ちなみにこの近くにいるらしいんだけど、ふたりとも知ってるだろ? いろいろと有名な犬族のベテラン艦長さん!!」

 冗談めかした隊長の言いようにスピーカーからは緊張感みたいなものがまたしてもありありと伝わって来た。

「そ、それって……!」

「ジーロ・ザットン……!?」

 まだ若い新兵の間でもその名は響き渡っているらしい。

 ただしそれが果たしてどのようなものかはかなりビミョーな気がしないでもないクマ族の隊長は、あたりに群がる敵のアーマーに威嚇射撃をしながら犬族たちのアーマーに向けて言い放った。

「どうやら敵さんはあんまり乗り気じゃないらしい! 理由はいろいとあるんだが、目の前の海上プラントには発砲しないように気を付けながら各個に敵を迎撃、できるものなら撃破して構わないから!! ただし深追いはするなよ? ぼくのランタンの射線上に出ないようにしながら左右から援護してくれ!!」

「了解!!」


 海洋上に広く散開する敵影はどれもがみな距離を取っていて、激しいドッグファイトを仕掛けてくるような動きもない。

 相手は持久戦に持ち込む腹づもりが見え見えなのに、さてどうしたものかと目の前のモニターに見入るベアランドだ。

 でかい海上プラントを背後にした飛行型のアーマーやジェットフライヤーは散発的な発砲をするばかりで、その他の敵影は海上でちらほらと様子見してるのが丸わかりだ。

 まるでやる気がないのにいっそじらされてしまうやる気も体力も旺盛なクマ族だった。我慢比べの持久戦ならこちらも自信はなくはないが、この燃費がバカにならない仲間の飛行型アーマーはそうも言ってはいられないのが実情である。

「あちゃ~、膠着状態になっちゃったな? ふたりとも頑張って機体を制御してくれよ? 小回りが利くロータードライブじゃないからしんどいだろうけど、こっちはバリア全開で敵の弾を片っ端からはじいてやるから、この後ろにいればいいよ!」

「りょっ、了解! え、でもっ……あ、あの、あの!」

「このままお互いにだんまりしてにらめっこですか? あとあの目の前にあるバカでかいプラントは実際に稼働しているものなんですか? なんだってこんなところに??」

「説明は後にしてくれ! 悪いけど今はそれどころじゃ、あと作戦はこの海域のどこかに雲隠れしてる犬族の名将どのが立ててくれるらしいから? ん、コルク、何か言いたいのかい?」

 右手の方から過呼吸なのがまるわかりなど緊張した息づかいが聞こえてきて、思わずそっちを見てしまうベアランドだ。

 実際に右手のモニターの中にワイプで犬族の新人パイロットの画像を映し出してやるに、完全に狼狽しきった毛むくじゃらのワンちゃんが大汗かいて干上がった声を発する。

 いくらなんでも緊張しすぎだろうと心配に見てしまう隊長のクマ族をよそに、うわずった声を上げる犬族の准尉は言いたかったことを一気にはき出してくれた。

「あの、そのっ、あの! ううううっ、うるふ、ウルフハウンド少尉どのも後から合流予定でありますっ! 第二部隊もこちらにっ、海を渡って、ですからその、あのそのあのっ……!!」

「え、ああ、そう! シーサーの第二小隊も来てくれるんだ? そいつはまた……そっちが合流してくれたらしょせんは多勢に無勢のこの戦況もどうにか巻き返せるかな? シーサー、問答無用で一撃見舞ったりなんかしないよね?? 大丈夫かな……」

 ちょっと驚きながらもそれはそれでやや考え込んでしまうのに、天井のスピーカーからうざったげな声が降ってくる。

「よせやい。これ以上味方が増えたら敵さんがたがいよいよテンパっちまうだろう? あのやせオオカミが来る前に終わらせちまうのが無難だな。どれ、こうして見たところじゃ新人くんどもはそれなりに使えそうだから、そいつらに一働きしてもらおうか」

「ああん、さっきからほんとに言いたい放題だよね! 新人のアーマー乗りに何をやらせるつもりなんだい? おまけにこんなとっちらかった状況で!!」

 しまいにはちょっと忌々しげにのど仏をうならせるクマ族に、犬族の艦長さんはすました声であくまでとぼけた返事だ。

「そんなやたらに目立つまっちろいアーマーで、はじめどうしたもんかと思ったが、どっちもちゃんとおまえに言われた通りに動いてるだろ? 飛行型と言ってもしょせん問題だらけで初期のテストパターンしか出回ってないレアな機体をだな。挙げ句にゃ開発途上で放棄されてまだ未塗装なんじゃないのか? 仮にも旗艦に配備された機体なんだから、色ぐらいちゃんと塗ってやったらどうなんだよ……!」

 おまけ呆れたふうな感想を長々と述べるのに、これを聞かされるクマの隊長は目をまん丸くしてむしろこの左右の隊員たちに聞いてしまう。

「え、きみたちのその銀色の機体って、実はまだ未塗装のヤツだったのかい? てっきりそういう派手なカラーリングなんだと思ってたんだけど??」

「えっ、いや、おれたちも何にも聞いて……そうだったのか?」

「え、え、え? いや、そう、なの??」

 左右で困惑した声が応じるのに、肩をすくめるベアランドだ。

 これにまたしても上から響いてくる犬族の声もやや困ったような心底呆れた響きがあった。

「おいおい、そろいもそろってなにをとぼけていやがるんだよ? オレたちルマニア軍のアーミーカラーは昔から渋いモスグリーンに決まっているだろう? 自由にこの色を決められるのはよほどの戦功を立てた歴戦のエースパイロットさまだ。そんなヤツがどこにいる? でかグマ、おまえはまた別だぞ? もともとの規格がイカレてやがるんだから!」

「ひどいな! まあいいけど、だったらどうすればいいんだい? 早くしないと第二小隊が追いついちゃうし、シーサーが黙っちゃいないよ。海上作戦仕様の機体じゃプラントを器用に避けて戦うのもしんどいだろうし、無傷では済まないんじゃないのかな?」

「そいつはごめんこうむる! おい、新人ども、それじゃはじめにここに来たヤツでいいや、機体に積んだ装備が軽いからより早く飛べたんだろ? 火力は低いほうがいい、この場合は。その手持ちのハンドカノンで構わないから、オレが言ったものをただちにしっかりと狙い撃て。いいな?」

「コルクのことだよね! 聞いてるかい? ケンスは強力なロングのキャノンを装備してるだろ? わかるよね!」

「コルク、艦長どのの命令だ! しくじるなよっ?」

「え、え、え、あの、あの、え? おれ??」

 一連のやかましくしたやりとりの最後に面食らった感じの声があぶなっかしくこだまする。ベアランドは天を仰いでしまうが、犬の艦長さんがぴしゃりと言い放った。

「お前しかいないだろ? おまえだよ。いいな、それじゃ良く聞けよ。やることはいたって簡単だ。それじゃその目の前のプラントを良く見て……」

 この後に下された命令に、その場の空気がただちに凍り付くこととなる。

 はじめ怪訝に耳をピクつかせるベアランドの右手で、思い切りに息を吸い込んでそれきり反応に窮する若い犬族の沈黙がもはや痛いくらいに伝わった。

 ヤバイな……!

 百戦錬磨の犬族の艦長が言うほどにはすんなりとは行かないだろうことがはっきりと予想されるクマ族の隊長さんは、かくなる上はじぶんでどうにかするしかないかなとギュッと両手の操縦桿を握り締める。

 皮肉なほどに晴れ渡った青空に、しかし確実に暗雲が立ちこめつつあるのをこの場のどのくらいが予期していただろう。

 直後には、怒号と悲鳴が交錯するそこはまさしくもっての戦場なのであった……!

                次回に続く……!!

イラスト・ギャラリー

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 ↑二枚目のイラストの線画版です。OpenSeaにてNFTアートとして販売中!!




 


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「オフィシャル・ゾンビ」15

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 15

※↓鬼沢や日下部たちが突入したビルのフロアマップです。
  オフィスビル「ベンチャーズ・ヒルズ」フロアマップ

※「ニコニコ生放送」で創作ライブやってま~す♡

オフィシャル・ゾンビ 15


 かつての世間においては、あくまで空想上の存在としての正体もなく動き回る死体のことを〝ゾンビ〟と称したのだろう。

 しかしながら昨今では、これがおよそ現実のものとして実在し、かつまたいくつもの異なる視点と違った意味合いが重なるものとして認識されつつあるのだった。

 端的に言ってしまうのならば、それは怪物、バケモノなのか?

 いつからか、人間でありながら、ひとならざるちから(能力)を持つものすべてをそれと称するようになったこの世界である。

 だからこそ、それはただの絵空事ではなくて厳然たる事実として、今この時もいくつかの人間ならざるもの、〝亜人種〟たちの目の前に立ちはだかるのだ。

 そして真実、図らずもその渦中にその身を置くことととなったお笑い芸人たちが、ここにいた――。




  有無もなく開け放たれた鉄製の扉の奥には、そこにはおよそ思いも寄らないような現実が待ち構えていた。

 そこにみずからの足を踏み入れるタヌキ――世間的には人気お笑いタレントとして知られる鬼沢は、まずギョッとして目にしたその部屋のそれはただごとではないありさまにひたすら唖然となる。

 先頭に立つ見てくれクマの日下部は、だがこれにいささかも動ずることなく冷静に辺りを見回すのだが、この背中であわあわとしたセリフをぶちまける、それは動揺すること著しいタヌキだ。

「あれ、なんだ、ここは明かりが付いているんだな? でもなんか暗くないか? 前来た時はもっと明るかったはずだぞ、この部屋! それになんか雰囲気もやけに怪しい、てか、あからさまにおかしなことになってないか?? ぜったいヤバイだろう!!」

 ドアをくぐってまずでかいクマの背中越しに辺りをきょろきょろと見回して、次にこの隣にまで進み出るタヌキは、やがて照明が灯る天井を見上げると、いぶかしげにこの表情を曇らせる。

 険しい顔の鼻先をヒクヒクとひくつかせながら、身体中の毛が逆立っているのを自分でもそれと意識していた。

「ん、なんだ、あれ? 天井のあたりに黒いモヤモヤみたいなのが掛かっているじゃん! しかも全体にびっしりと! もやなのか、かすみなのか、怪しすぎるぞ、絶対におかしい!! なんか吸ったらやばい毒ガスとかじゃないのか!?」

 だから部屋が暗いのかと納得してまたあたりにこわごわとした視線を向ける鬼沢に、対するでかいクマ、もとい日下部がしれっとしたさまで応じる。

「はい。邪気がいよいよ濃くなって、この肉眼でもはっきりと確認できるくらいになってきたんですね……! 確かに普通の人間が吸ったら何かしらの実害があるんでしょうか。これは部屋の扉をきっちりと閉めておかないといけませんね?」

「あんなの絶対にヤバイだろ! 俺も吸いたくないもんっ、なんか雰囲気悪すぎて息苦しくなってきたよ、こんなの見るのはじめてだ! 前はとっても活気があったのに、今はひとが死んだみたいに静かだし、誰もいないのか? そうだ、こんな悪い空気の場所にひとなんかいられないだろ??」

 戦々恐々として身体を震わせる鬼沢に、だがオフィシャルのゾンビのアンバサダーとしての経験が長い日下部は、あくまで平然たるさまだ。

 おまけなにほどでもないとうそぶいてくれる。

「でも本当に濃い瘴気は、もっと真っ黒くて、むしろ天井ではなくてこの床に落ちてたまるんですよ? 知りませんでしたか?」

「知らない!! 知るわけないじゃんっ、瘴気ってなんだよ!? ほんとにおかしなことに巻き込まれちゃってるじゃん、俺!! この先どうなるんだよ? まさか本気でここの社長さんとバトルなんかするわけ? このカッコで!?」

 しまいには頭を抱えて身もだえるタヌキに、隣でひどく白けたさまのクマだったが、そこにやがてまた背後からのっそりと出てくる気配が、場にそぐわないようなのんびりした言葉を発した。

 ちなみに気配はふたつあった。

「なんや、今さら? 鬼沢くん、そないなさまじゃこの先やっていけへんで? もう戦いの最中やさかい、ちゃんと集中せな!」

 出てくるなりにそう関西弁で注意されて、自然とそちらに顔を向けるタヌキの表情がただちにぴきりと固まった。

「えっ、誰? なんかヘンなのがいるっ!? コワイコワイっ、日下部、なんか見るからに怪しいヤツがいるぞ!! いつの間にどこから出て来たんだよ、こんなブサイクなバケモノ!?」

 相手の姿を見るなり飛び上がって驚く鬼沢に、当の本人、バケモノ呼ばわりされた何者かがただちに不機嫌にこの声を荒げる。

「誰がバケモノやっ!! 見てわかるやろ、バイソンの東田や! ちょっと見てくれが変わったからゆうてそないにビビることあらへんやろ、そこに相方もおるんやで? あとそないなふざけた見てくれしてるきみに言われたないて!!」

「あ、バイソンさん? わ、もう1匹いる! おんなじようなヤツが!? て、こっちが東田さんなら、そっちのは相方の津川さん?? これってあのバイソンさんたちが変身した姿なの? マジで? なんか思ってたのと全然違うんですけど!!」


 もともとの身体つきの違いか?

 ゾンビと化してもあちらのほうがやはり背丈が低く、おまけじぶんたちとは似ても似つかない種類のいかついお化けと化したベテラン漫才コンビを、心底、おっかなびっくりに見つめるタヌキだった。

 およそ想定外もはなはだしいその見てくれに、内心どころか思い切り面食らってしまう。ブルブル震える太いシッポが背後でピンと立ち上がっていた。

 かくして鬼沢のようなタヌキやクマのような哺乳類系のケモノのたぐいとは、まったく別のカテゴリーに族する動物の特徴があらわな正体をさらすおじさん芸人たちだ。

 それだからかこの後輩芸人の露骨なまでの驚きようにあって、ややむくれたさまでモノを申すのだった。

「まったく、失礼な子やな! こないにキュートな見てくれのゾンビさん、他にはそうそうおらへんやろ? かと言うてこのほっこりほのぼのとした見た目にダマされると痛い目みるで?」

「ほんまやんな! あのコバヤの兄さんあたりと比べたら天と地ほども見てくれちゃうやんけ? こないに控え目でかつ重厚感がありながら、そこはかとないかわいげがあっておまけおとなしい見てくれのゾンビなんちゅうもん、わいら以外にはどこにもいてへんて!!」

「うう、確かに、いないような、いるような、どうにもコメントしがたい姿だけど、ゾンビってのは何でもありなのか??」

 そんな左右から詰められてうっとたじろぐ鬼沢に、横で冷めたまなざしで両者を見つめていた日下部だが、それからやはり落ち着きはらった声音で言うにはだ。

「さあ……? 確かに驚きですけど、これはこれでありなんじゃゃないですか? それに良くよく見たら、なんか愛嬌あるし」

「どこが! 気持ち悪いだけだろ? あ、じゃなくて、独特なんだよなあ……! なんかどこかで見たことあるような気もするし? そうだよ、昔から有名な、これって、つまりはアレなのか??」

 ベテランの先輩芸人コンビが化けたゾンビ、得体の知れない見てくれした存在を上から下までねめ回して、はじめなんか言いづらそうに言いよどむタヌキだが、意を決してズバリと言うのだ。

「カッパ! そうだ、あの河童なんだよな? 見た目の特徴からしたらば! ふたりしてこんなどでかい甲羅までご丁寧に背負っちゃって、ほんとにいたんだなあ、カッパって……!!」

 ひとりで納得する後輩芸人にベテランが一斉に食らいついた。

「どこがカッパやねん! おいこのくされダヌキ、よう見てみい、こないに立派な見てくれのカッパがどこの世界におる?」

「堪忍してえや! オニちゃん、わしら頭に皿なんて載っけておらへんやんけ? せやのうてもあんなひょろっひょろの貧弱なもんと一緒にされたないわ! 川にもおらへんし、この手に水かきなんちゅうもんもあらへんのやでぇ?」

「え、ちがうの?? でもそれ以外で言ったら……!」

 ひどく困惑した顔を日下部に向けるのに、だがしかし日頃からテンションが低いクマときたらば、きょとんとしたさまでこの太い首を傾げさせるばかりだ。

 なおさら困惑したさまのタヌキがまた仕方もなしに、目の前のなんだか良くわからないおかしなキャラ感が満載の先輩ゾンビたちを怪しげに見つめながらに言った。

「仮にカッパでないとしても、どっかよその国の版権キャラで、もうとっくにいたよな? こんなヤツ?? カメと何かが無理矢理に合体しちゃったみたいな、ヘンテコな生き物!! 確か、ニンジャ、ナンタラーズみたいな?? カメのくせに人間の言葉をしゃべって、やたらに素早くて、おまけに格闘技が得意なんだっけ??」

 何やらひどいぶっちゃけ発言だ。

 するとこれには言われた当のカメもどきたちが、ただちに聞き捨てがならないと全力でそれを否定する。

「ちゃうちゃう! そないなもんと一緒にせんといてや! あっちは忍者とカメ、せやけどこっちはカメはカメでも、リクガメとウミガメ! おまけに力士、由緒正しいお相撲さんとのコラボやさかい!! その証拠にこないにぶっといまわしをはいとるんやで、そやったらまったくの別もんやろ?」

「コラボっちゅうか、じぶんでもわけがわからへんのやけどな? でも手裏剣やら武器やらをつこうたりはせえへんで? そこはあくまで男らしゅうした素手の突っ張りとこの身体を張った体当たり、ぶちかましっちゅうんかの? まさしく力とちからのぶつかり合いや!!」

「ほんとにただの相撲取りじゃん! いや、でもいいのかな? なんだかんだ言い分けしてても、発想自体は完全にまるパクリじゃんこんなの!! 後で訴えらたりしない??」

「まあ、あほらしすぎて誰も相手にしてくれないんじゃないんですか? そもそもが? もっと言ってしまえば、おれたち普通のひとたちからは見えないんだから……」

 すぐ横を見ればこれまたひどいぶっちゃけ発言にあって、タヌキがひたすら目をまん丸くする。

「著作権とか完全無視なんだな! そんなのがまかり通っちゃうんだ、は~ん。でも俺、油断してたらちょっと笑っちゃうかも、こんなの、だってバイソンとか言ってるのに……!!」

 若干吹き出し加減にそれとなくふたりのゾンビ、カメの化身みたいなのを見る鬼沢は、目が合うなりにさっとこの顔を逸らす。

 憮然とした表情の先輩方を置いておいて、そこで改めてあたりの様子をうかがった。

「はあ、なんかここってすごい雰囲気が悪いのに、そのクセ何も起きないんだよな? 誰もいないのかな? さっきから何かしらちょろちょろと視界の端に見切れてはいるんだけど……?」

 ここはこの会社の社員専用のトレーニングルームであり、それ用のごついトレーニングマシーンがところ狭しとたくさん並んでいるのだが、なのにこれと言ってひとの姿が見当たらない。

 おかしな気配みたいなものはそれとなく感じてはいるのだが?

 首を傾げるタヌキに、クマがそれとなく耳打ちする。

「良く周りを見てください。ちゃんといるでしょう? これと言った敵意は感じないでしょうけど、油断はしないでくださいね」

「えっ……? ああ、やっぱりいるのか? て、なんだ??」

 視界を塞ぐいかついトレーニングマシーン越しにちらほらと見え隠れするのが、やはり人影なのだと理解する鬼沢だが、それをよくよく見てみるにつけ、またしてもぶったまげてしまう。

「なんだよっ、あれ! マジでゾンビみたいなのがいるぞ? てか、ゾンビじゃん!! 死人みたいな顔つきしたヤツが前のめりにおかしな動き方して、しかもあっちにもこっちにもたくさんいるっ!!!」

 うわっと全身総毛立つタヌキに、パッと見は全身オレンジがかった黄色の体色のリクガメ、もとい、バイソンの東田らしきが真顔で言ってくれる。

「ゾンビちゃうやろ。格好からするにはここの社員さんやないんか? みんなここの悪い空気に当てられて正気をなくしてもうて、あないなことになっとるんやろ。近づかなければこれと害はないんやが、感づかれたら確実に襲われるっちゅう、なるほど、見ようによってはゾンビやんな?」

「噛みつかれたりするんかの? ちゅうてもゾンビになるわけやないから、ただの正体をなくしてもうた人間、いわゆる狂人やな! どないする? けっこうおるで??」

 全身が真緑をしたこちらはウミガメがひと、さながら力士に取り憑いたみたいないかれた見てくれのバイソンの津川らしきが、こちらもひょうひょうと言ってのける。

 対してゾンビのアンバサダー経験の浅い鬼沢、タヌキは困惑もここにきわまったさまで声を震わせるばかりだ。

「どうすんのっ? こんなのどうにも収集がつかないじゃん! 確かにあの格好はここの保障会社の社員さんたちだれけど、ガタイがいいし、見た顔がいくつかあるし!! でもっ……」

 知人とまではいかないまでも、見知った顔の人間があんなひどいありさまになっているのと、これと己が正面切って相対しなければならない異常事態……!

 普段は平和なテレビタレントとして生活している身には、どうにも心の平静が保てない小心者だった。

 日下部、現在はでかい図体のクマが平然と言ってのける。

「障害になるのならば排除しなければなりません。相手が誰であれ、致し方がないことですから。多少のケガはやむを得ないとして、意図的に殺したりしなければとりあえずOKです」

「そういうこっちゃ! 鬼沢くんのはなしじゃ相手さんはプロのガードマンっちゅうから、ちから加減を誤ったりしなければ死んだりはせえへんのやろ? 気配を感知したものには自動的に襲いかかる、言い変えればあちらは対して思考能力がないんやから、簡単なもんや」

「えっ、でもそんな、ただの人間をこの姿でやっちゃうの? いいや、ダメだろ、テレビタレントがそんなことしちゃ!?」

 全身でのけぞるタヌキに、二本足で立つミドリガメ、もといウミガメもどきの津川が言った。

「今はタレントちゃうやんけ? そうやったとしても、あちらさんがほっといてくれへんで、話が通じへんし、もうこっちに気づいておるようやし? せや、オニちゃんがわあわあ盛んにわめきよるからまんまとひとりこっちに来ておるやん、どないする?」

「どうって、わわ、ほんとにこっちに来た! マジでゾンビみたいでおっかないんだけど、どうするの? あ、完全にイッちゃってるよ、顔つきが!! あんなの人殺しの顔だ!!」

 半ばパニックになってその場から思わず一歩後ずさる鬼沢の横から、逆に前へと一歩大きく踏み出す影があった。

 リクガメもどきの東田だ。

「しゃあないのう。せやったらここはこのぼくらの出番やろ。鬼沢くんにはいいところを残しておいてやるよって、よう見とき、見本を見せたるさかい、ほれ、こうやるんや!!」

 すぐそこまでおぼつかない足取りで近づくゾンビ、もとい生気がない糸の切れた操り人形みたいなさまの保障会社のガードマンに向けて、言うなり右のストレートを容赦なくお見舞いするリクガメと相撲取りの掛け合わせの亜人種だ。

 これをまともに真正面で食らった相手は、言葉もなく背後へと吹き飛ぶ! そうしてあわや壁に激突するかと思いきや、この手前のトレーニングマシーンの一台に背中から叩きつけられて、そこであえなくがっくりとうなだれるのだ。

 完全に行動不能に陥ったさまを見届けて、一丁上がりと利き手でガッツポーズする東田だ。

 これに泡を食った鬼沢がまたしても裏返ったわめき声を発してしまう。それがゾンビと化した周囲の人間たちを呼び寄せることになるのはすっかり失念している芸人さんだ。

「わあっ、ほんとにやっちゃった!! 死んでない? こんなのいいのか?? 俺たちタレントだぞ!? 日下部っ……!」

「いいんですよ。これが今のおれたちのお仕事ですから。問題ありません。多少は乱暴なことをしてもこの場は許されます。よっぽど現状回復が難しいようなことにでもならない限りは……」

 言いながらそれとなく先輩芸人のバイソンたちを見るクマのアンバサダーだが、あいにくと当のカメのゾンビたちはやる気も満々だった。

 凜々しい横顔を見せて、ふたりの後輩芸人たちに言ってくれる東田だ。その見た目はリクガメの甲羅を背負った相撲取りだが。

「せやからここはぼくらに任せて先に行きいや、後から必ず追いつくさかいに! こういうゴミゴミした障害物だらけの場所でも、ぼくらやったら関係ないさかいに。ほな、行こうか……!」

「おう、アレやるんか? 早速やな! ちょいと目が回ってあれなんやけど、アレやったら一網打尽にしてやれるさかい」

「えっ、何? なんか勝ってに盛り上がってるけど、なんかやるの? あと俺たちどうしたらいいの?? わけがわからないよ!!」

 慌てふためくタヌキの前で息の合った掛け合いを見せるカメたちはなにやら示し合わせてさらなる意気込みを全身にまとわせる。ほんとに意味がわからなかった。

 

ノベルとイラストは随時に更新されます!

プロット①
 ドラゴン警備保障、入り口~
 クマとタヌキにゾンビ化した日下部と鬼沢がバイソンと合流の後、目的の警備会社に乗り込む。
 暗くて人気が無い状態。受付、受付嬢が邪気にやられて倒れているのに慌てる鬼沢だが、あとの三人は知らん顔。
 営業の接客室も同様でみんな倒れているが、そこには触れずに先へと進む。

→トレーニングルーム~バトル開始!
 トレーニングルームには警備員たちが邪気に毒されて正体をなくした状態で待ち構える。これにいつの間にか変身、ゾンビ化していたバイソンの津川と東田が立ち向かう。その正体に鬼沢はビックリ仰天していろいろと騒ぎになる。
 ひどい荒技を繰り出すバイソンのコンビにまたしてもびっくりする鬼沢だが、修羅場を抜けられる裏の近道があるのを思い出し日下部と直接事務室へ。事務室では特に屈強な社員の二人組が待ち構える。さながらゴリラみたいな見てくれに驚く鬼沢だが、すんなりとこれを捕らえることに成功。技の名前でもめる。バイソンはバリケードをこさえて合流。鬼沢がそれなりにやることを知ると、その場に残ってゾンビ社員を止めることを申し出る。
 鬼沢と日下部が社長室へ突入!

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「オフィシャル・ゾンビ」14

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 14

※↓鬼沢や日下部たちが突入したビルのフロアマップです。
  オフィスビル「ベンチャーズ・ヒルズ」フロアマップ

※「ニコニコ生放送」で創作ライブやってま~す♡

オフィシャル・ゾンビ 14


 まだ見習いではあるが、鬼沢にとってはじめてのオフィシャル・ゾンビのアンバサダーとしての仕事は、かつて番組収録のロケで訪れた個人経営の警備会社に取り憑く〝害悪〟の実態調査、ないしこの正常(清浄)化のミッションであった。

 テレビ局で落ち合った同じ顔なじみの芸人にしてアンバサダーの面々と即席のチームを組んで徒歩での移動、つつがなくこの目的地に到着。

 本人がいまだ納得がいかないままに、作戦自体はあれよあれよと実行に移されていく……!

 まさかのロッククライミングよろしくで五階建ての建物の壁を生身でよじ登って、この目標となる最上階にアプローチすると言う、ベテランのおじさん漫才師コンビと二手に分かれて、こちらはビルの正面玄関から臆面もなく堂々と内部に侵入!

 かくして一気にこの階段を目的地の五階まで駆け上がったクマとタヌキ、もとい、日下部と鬼沢だった。

 普通の人間からはその姿形が見えないのをいいことに何食わぬさまで階段からフロアに顔を出すと、そこは何故かもう真っ暗闇な状態だ。

 本来ならばまだ営業中の時間のはずなのだが……?

 階段の踊り場から一本まっすぐに続く廊下は明かりがすべて消されてしまっている。外からの夕焼けは北向きの窓からは入って来なかった。
 
 どうやら窓枠全体にそれ用のシールドが施されているらしい。

 ゾンビ化したケモノ、ないしバケモノの状態だからこの視界にさして不都合はないのだが。

 それでお互いに微妙な顔を見合わせる芸人さんたちだった。

「目的地に到着しました……! 気を引き締めていきましょう。ここからはちょっと不穏な気配を感じますので……」

「なんか真っ暗だなあ? ひょっとして、定休日だったりしてやしないか? だとしたらすごい間抜けなんだけど! わざわざ階段上ってきたからちょっと身体が熱くなってきちゃったよ、全身こんな毛だらけだから!! 誰もいないなら普通にエレベーターで来れば良かったんじゃないか??」

 鬼沢のいかにも平和ボケしたタレントさんらしいのんびりしたものの言いに、対してこちらは白けた顔で応じる日下部だ。

「いわゆるセオリーですね。エレベーターなんてヘタに使って、閉じ込められたらそれこそ目も当てられないじゃないですか? 見ての通りで、あちらはもうおれたちの存在に気づいていますから。明かりを消して気配を殺して、もう臨戦態勢ですよ……!」

「なんでわかるの? ただのお休みかもしれないじゃん??」

 あんまりピンと来ていないらしい気の抜けたタヌキに、はじめ小さなため息つくクマが、仕方もなさげに本音をぶっちゃける。

「まずはじめにここに突入したって時に、強めの〝ゴースト〟が二体いたじゃないですか? ここの玄関から入って正面のエレベーターホールのあたりに? あれです。アレが実は……」

「俺があっさりと片付けてやったけどな! 必殺のグーパンチと新技のハリセンで!! すごかったろ? あれから自分なりに特訓して、ちゃんと武器になるまで鍛え上げたんだから!! あんなのもとはただのハンカチだぞ?」

「まあ、それは認めますけど。あれから鬼沢さんなりに努力していたんですね? あとあのハリセンってのははじめて見ました」

 日下部のあまり気持ちのこもっていないようなセリフにひとりだけ得意顔して、えっへん!と胸を張るタヌキのゾンビにして先輩芸人だ。

「へっへ、コバヤさんと戦った時に偶然出したアレを改良したんだ! でもあのままだと危なすぎるだろ? いろいろ考え合わせた結果、ああなった。ハリセンなんていかにも芸人さんらしくてカッコイイじゃん! あれなら致命打になんかならないし」

「でもいざとなったら切れ味鋭いカタナのようにもできるんですよね? 弱いゴーストが相手なら、あれで十分だとしても」

「やりたくない! 俺は殺し屋じゃないんだから。それにまだアンバサダーになるだなんて言ってないし。そうだぞ、おまえが勝手に話を進めているんだからな?」

「でも結果的にそうなっていますよね? いい加減に覚悟を決めてください。さっきのゴーストを退治したのも立派なアンバサダーのお仕事なんだし。でも結果から言ってしまえば、失敗でしたね?」

「は、何が?? ちゃんとどっちも一発できれいに跡形もなくやっつけたじゃん!!」

 すっかりいい気になっていたのが思いも寄らぬ指摘をされて、不服気に反論する鬼沢に、すると日下部は真顔でこれまた思わぬ事実を言ってのける。

「だからそれが問題なんです。あれはいわゆる見張り役の囮で、敵が侵入してきたことを感知するためのトラップみたいなものだったんですよ。だから本来は触れずにスルーしてしまうのがベストでした。やっつけちゃったらおれたちの存在がバレバレですからね?」

「なんだよそれ! だったらはじめからそう言ってよ!! あんなに張り切って俺、バカみたいじゃんか!? それじゃバレちゃったからこんな真っ暗にして、むしろ待ち構えているのか、この俺たちのこと?」

 おそらくはそうです、と涼しい顔で答える日下部が化けたクマは、階段からまっすぐに続く廊下の先をじっと見やる。

 これに気まずげな顔でそちらを見やるタヌキだったが、おまけテンションがだだ下がりでブチブチと文句をたれはじめるのだ。

「ああ、あの廊下の突き当たりがこの会社の入り口なんだよな。確かこの五階のフロアをそこだけで占拠してるはずだから、いかにも羽振りがよさそうだけど、まさかこんな裏があるだなんて考えもしなかった……! それにあの社長さん、そんなひとにはちっとも見えなかったんだけどなー??」

 二手に分かれて向かっているもう一方のバイソンさんたちは大丈夫かな?と心配そうな文句もこぼす先輩のタヌキに、後輩のクマはまるで気に掛けた風もなく、さっさと暗い廊下を突き進む。

「大丈夫でしょう。おれたちよりもベテランの芸人であると同時に、手練れのゾンビのひとたちですから? この先で合流できるはずです。お互いに目的地は同じな都合? この先が入り口で、その手前にひとつ脇道がありますね?」

 この中規模なオフィス・ビルの単純な構造を考えたらば、もうおおよその想像はついているのだろうが、とりあえず後ろを振り返る日下部に、しょんぼりした浮かない面を上げる鬼沢は、それからやはり想像通りの返事を返した。

「ああ、さっきのエレベーターの入り口だろ。前のロケの時はみんなでそっちからここまで上がって来たから。でもそれ以外はそっちには何もないはずだぞ? て、あれ??」

 実際に道の半ばにあった脇道をのぞき込んで、その奥にあったエレベーターの扉を確認するふたりのゾンビたちだが、このエレベーターが何故だか起動していて、今しもその扉が開かれそうになるのに、ちょっと息を飲む……!

 ピーン……!

 到着を告げる電子音と共にその扉が左右に開かれる。

 するとそこだけが光りに満たされた内部には、どうやらふたりほどの人影らしきがあるようだった。

 それがものも言わずに外へと歩き出して迷うことも無くこちらに近づいてくるのには、ひたすらに目をまん丸くしてそのさまを見つめる鬼沢だった。ちょっと腰が引けてしまう。

「えっ、誰だ? エレベーターからこっちに来るぞ??」

 余計に緊張するが、隣の日下部が不意にふっとその緊張を緩めるのに、みずからも落ち着いて見直すことでそのふたりの人影の正体をそれと悟る。

 何のことはない。

 この建物の前で別行動を取っていたバイソンのふたりだった。

 そのおじさん芸人たちがしれっとしたさまで、今やゾンビとなったクマとタヌキの後輩芸人たちの前に再び現れる。

 思ったよりも早い再会で、おまけに意外なかたちだった。

 それだからコンビの中ではボケでネタを作る担当だと言う東田が、臆面もなくしてこちらに話しかけてくる。

「ほえ、ふたりともここにいたんかい? 先回りするつもりで、すっかり先を越されてもうたんやなあ? しかもどっちも立派なゾンビさんになってもうて、なんや見違えるわあ!」

「ほんまや! でっかいクマさんとタヌキさん! ええコンビやんけ? うらやましいわあ、見た感じごっつかわいげがあって、そのまんまテレビに出てもうても人気が出そうやもんなあ!!」

 いつもの関西弁でまくしたてる二人ともが背丈的にはそう高くないので、ゾンビになった後輩芸人たちをすっかり見上げるかたちとなる。

 そう実に大人と子供ほどの違いがあった。

 逆にこれを見下ろすかたちになる現状タヌキのバケモノの鬼沢が、ちょっと呆気に取られたかんじでものを言う。

「あれ、バイソンさんたち、確かこの建物の外から侵入するって言ってませんでしたっけ? なんで中から、しかもエレベーターから出てくるの??」

 そう言って心底不可思議そうに隣の日下部に視線を移すのに、当のクマ自身はそ知らぬそぶりで気のない返事だ。

「さあ、おれに聞かれても? 本人たちに聞いてくださいよ。ちなみにエレベーターを使っているのは、おれもビックリです」

 何やらどっちらけた表情で目の前のおじさんたちに視線を落とすクマに、つられてまた関西出身の芸人さんたちをマジマジと見下ろしてしまうタヌキだった。

 そんな微妙な空気を感じたらしい東田なのだが、そのクセまた無表情にぬかしてくれたりもする。

「あいにくと壁からは侵入できへんかった。屋上はこれと言って何ものうて、仕方も無しに非常口の階段から入ろうかと思ったら、なんやおかしな気配があったもんでのう? あえてエレベーターを使ってもうたんや。ちゅうか、むしろ意外な奇襲戦法やろ?」

「わいはやめとけっちゅうたんやけどな? 使えるんやし、めんどいゆうてうちの相方が? 結果オーライやったけど、中から攻めたオニちゃんたちのほうが早かったんやな!!」

「ああ、まあ……! でもバイソンさんたちはまだ変身してないんですね? 俺ちょっと興味があったんだけど、日下部は見たことあるのか、ひょっとして?」

 またお隣のクマに向かうタヌキに、だが問われたクマ自身は、はてとその太い首を傾げるばかりだ。

「いえ、おれも詳しくは知りません。ただどちらもかなりの使い手とだけは聞いていますが? それはさておき、今は本来の任務の遂行に集中しましょう。せっかく合流したんですから、ここからは一致団結したチームワークでですね?」

 見上げる小柄なおじさんたちもこれにうんうんと同調する。

「せや、みんなで変身してもうても、ごっついのばかりじゃこんな狭い建物の中では自由がきかへんやろう。せやからぼくらは必要に応じてやらせてもらうわ。ちゅうても、きみらみたいないかにもな見てくれしたゾンビさんとはちょっと毛色が違うから、いざとなったら笑わへんでくれよ?」

「ほんまやわ! はずいししんどいわ。後輩のおまけになりたてのゾンビさんに笑われるんはの! ちゅうてもそないに捨てたもんでもないとは思うんやけどな?」

「なんか気になるな? そもそも笑えるような見てくれなのかがちょっと怪しいんだけど、前のコバヤさんみたいなえげつないものでないことを願ってやまないよ……てか、日下部、ひとりでそんなさっさと行くなよ! チームワークなんだろっ!!」

 困惑顔で考え込む鬼沢だが、そんなことはまるでお構いなしにまたずんずんとでかい図体を大股で進ませる日下部だ。
 
 また慌ててこれに追いすがる鬼沢に、その後から関西出身の芸人さんたちもぞろぞろとくっついていく。

 めでたく全員集合。

 果たしてリーダーのアンバサダーに無理矢理に引っ張られる形で、目的地の入り口へと無事、到着する一行だった。

 いざ決戦の時は、近い……!

◇         ◇


 今回のターゲットがいると目される警備保障会社の入り口は、人気がなくやはり真っ暗なのが遠目にも見てわかった。

 それでも全面ガラス張りのエントランスの自動扉はしっかりと電源が入っていたものらしく、本来ひとからは見えないゾンビの鬼沢たちにも反応して、すんなりとこの道を開けてくれた。

 とりあえず敵地のこともあり、みなが息を殺してこの中へと入っていく。

 内部はどこも照明が落とされていて、真っ暗闇だった。

 この頃には闇に目がすっかりと慣れてきていた鬼沢は、慎重にあたりの様子を見回しながら、思ったことを小声で言葉にする。

「誰もいないのかな? やっぱり定休日だったんじゃないのか? なんかお化け屋敷みたいで落ち着かないよ。この先の受付のカウンターに美人の受付嬢がいたはずなんだけど、どこにもいないじゃないか? なんか拍子抜けしちゃうし、どっちらけだな……」

 口を開くなりしょうもないことをブチブチとこぼす先輩芸人のタヌキに、先頭に立つクマの後輩がやはりいつもの真顔で冷静に返してくれる。

「そうなんですか? それは残念でしたね、というか、その受付嬢さんならちゃんとそこにいるでしょう? 見えませんか??」

 言われて途端に、へ?と目をまん丸くする鬼沢に、背後からこの様子を眺めていたベテラン芸人コンビのボケ担当の東田が、それと指を差して指摘してくれた。

「ほれ、あのカウンターの奥の方、ひとが倒れておるやろ? 足だけこっちに見切れておるがな。おそらくはこのフロア中に満ち満ちておる邪気に当てられて、気絶してもうたんやないのか?」

「おお、せやな、確かにここに来てからまたえらいこと空気がよどんでおったから、もはや普通の人間には耐えられないのちゃうん? それが若い女の人じゃなおさらやんな!!」

 驚いたことをさも当たり前みたいにほざく関西出身の漫才師コンビたちに、生まれも育ちもバリバリ関東の鬼沢は、それこそがびっくり仰天してわめいてしまう。

「ちょっ、ちょっと! ダメだろそんなの!! 助けなきゃ!? カウンターの奥だな? あ、確かにいるっ……!」

 反射的にそちらに歩み出そうとする大柄なタヌキの肩を、だががっしりと掴んだクマがあくまで冷静なままでその真顔を左右に振った。

 その彼はおまけ落とした抑揚で言ってくれるのだ。

「ダメです。そのままにしておいてあげてください。この状況では介抱したところでどうにもなりやしません。返って目を覚まされでもしたら、鬼沢さん、一体この場をどうやって説明するんですか? あと、そもそもが今のこのおれたちの姿、あのひとには見えませんよ??」

「えっ、でも……!?」

 言われてハッとする鬼沢だが、背後の太いシッポをピンと立てて、それをブルブルと激しく震わせる。

 内心の動揺ぶりがはっきりと目に取れたが、それに東田もごく当たり前な体で言ってくれる。

「せやな? 日下部くんの言う通りや。どうにもならへん。それよりもこの邪気の源たる、悪玉のグールをどうにかせにゃ……! ここの社長さんなんやったけ? 思うたよりも手強いかもしれへんで??」

 ※お笑い漫才コンビ、バイソンのツッコミ担当、津川のイメージです(^^) やっぱりビミョーなのですが、挿し絵を描いているうちにそれなりにまとまってくるのでしょうか??

「そんな……! あの社長さんとほんとに戦わなきゃならないの? なんか気が引けちゃうよ。あと受付の女の子を見捨てるのも、テレビで名の知れたタレントとしてやっぱりどうかと思うし……あとで訴えられたりしない??」

 困惑すること著しい人気タレントのぼやきに、言えばまだ若手の芸人テレビタレントの日下部、今はクマのバケモノが言った。

「今はゾンビのアンバサダーなんですから、そんなの気にしないでいいですよ。それよりも先を急ぎましょう。この先にターゲットがいると目される、〝社長室〟があるはずですから……!」

 さっさと突き当たりを左に向かう日下部に、後からいやいやでこれにくっついていく鬼沢は浮かない顔だ。

 果ては何の気無しに見回した周囲の暗がりのさまに、ひいっと悲鳴をあげてしまう。

 暗がりのせいではじめまるでわからなかったのだが、受付を左に曲がった先の接客用の応接間にも、バタバタと倒れている人影らしきがあるのに気が付いたのだ。

 まるで死んだかのように動かないそれらにどうしたものかと浮き足立ってしまう小心者の芸人だ。

 本来ならすぐさま掛けよって介抱すべきところなのだが、他のゾンビたちはまるで我関せずでそちらを見ようともしない。

 それだからまた東田が狼狽する後輩に言ってくれる。

「せやから、そないに気にしてもしゃあないわ、鬼沢くん。この場合、ほっておくのが一番で、目を覚まされてもパニックになるだけやろ?」

「え、でも、せめて救急車くらいは呼んだほうが……!」

 視線をうろうろとさせてシッポがしゅんと垂れ下がるタヌキに、もうひとりの先輩おじさん芸人もあっけらかんとぬかした。

「ええて! それで救急隊員がのこのこやってきてもうてもみんなでバタンキューやで? 被害者が増えるだけやろ。まずはこのごっつ悪い空気をどうにかせにゃ! 大本を絶たないとどうにもならへんのや、倒れてもうてるひとらには申し訳あらへんけど、それはわいらの仕事やない」

「その通りです……!」

 後輩のクセにどこまでも冷静な日下部、クマがうなずく。

「そうなのか? ほんとにいいの?? けっこう倒れてるけど、みんな死んではいないんだな? う~ん……! まあ仕方がないのか、でもこうして見てみるに、この会社ってけっこう流行ってるんだ?」

 いよいよ頭の中が混乱してなんだかおかしな感心の仕方をするタヌキに、白けた視線でこれを見上げる東田だ。

「今触れるとこちゃうやろ? それよかここの社員さん、警備会社のわりにはみんなスラッとしたスーツ姿でおって、そないにいかついこともあらへんのやな? ぶっちゃけもっと筋肉もりもりの暑苦しい制服姿の野郎を思い描いておったんやが……」

「ほんまやの! むしろ華奢で弱っちい感じやんか?」

 床に倒れている客と社員のありさまをじろじろと見ながら後に続くおじさんたちに、そこは鬼沢が説明する。

「ああ、そっちのひとたちは接客のセールスマンさんたちですよ、実際の現場で稼働するボディガードのひとたちとは違います。俺が前に来た時は、もっとマッチョなひとたちばっかりだったから。この先が社員専用のトレーニングルームになってて、そこに絵に描いたような筋肉マンたちがひたすら汗を流していたから……! ちょっと引いちゃうくらいな」

「この先ですね?」

 商談室の突き当たりにあった、スタッフ・オンリーの注意書きが掛けられたドアのノブを、しっかりと右手で持ちながら聞く日下部だが、その答えを確認するまでもなくしてあっさりとこれを押し開けるのだった。

「……!? うわっ、なんだ……!!」

 開け放たれた扉の向こうの景色、かつて見た時とはまるで違うそのありさまに、ぎょっと目を見開くタヌキの鬼沢だった。

 その先にあったものとは……!? 

               ※次回に続く……! 

 

ノベルとイラストは随時に更新されます!

プロット②
 ドラゴン警備保障、入り口~
 クマとタヌキにゾンビ化した日下部と鬼沢がバイソンと合流の後、目的の警備会社に乗り込む。
 暗くて人気が無い状態。受付、受付嬢が邪気にやられて倒れているのに慌てる鬼沢だが、あとの三人は知らん顔。
 営業の接客室も同様でみんな倒れているが、そこには触れずに先へと進む。
 トレーニングルーム~バトル開始!
 トレーニングルームには警備員たちが邪気に毒されて正体をなくした状態で待ち構える。これにいつの間にか変身、ゾンビ化していたバイソンの津川と東田が立ち向かう。その正体に鬼沢はビックリ仰天していろいろと騒ぎになる。
 ひどい荒技を繰り出すバイソンのコンビにまたしてもびっくりする鬼沢だが、修羅場を抜けられる裏の近道があるのを思い出し日下部と直接事務室へ。事務室では特に屈強な社員の二人組が待ち構える。さながらゴリラみたいな見てくれに驚く鬼沢だが、すんなりとこれを捕らえることに成功。技の名前でもめる。バイソンはバリケードをこさえて合流。鬼沢がそれなりにやることを知ると、その場に残ってゾンビ社員を止めることを申し出る。
 鬼沢と日下部が社長室へ突入!

プロット①
 ※侵入する建物・オフィスビルの名称
  「ベンチャーズ・ヒルズ」

 クマとタヌキにゾンビ(亜人)化した日下部と鬼沢が、ビルの入り口から正面突破で内部に侵入。
入り口にいた強めの邪気を放つゴーストを鬼沢がグーパンチとハリセンで退治。後に五階の階段を上がりきったところで余計なことだったと日下部に突っ込まれる。
 建物の奥にあるエレベーターホールのエレベーターではなく、あえて手前の階段を使って、一気に五階まで駆け上がる。
 五階は真っ暗な状態。
 ゾンビ化しているのでそんなには不自由しないが、相手にも警戒されていることを自覚する。
 標的に向けて進行、途中、エレベーターを使って屋上から五階に降りてきたバイソンの東田と津川と合流。
 屋上は何もないことを聞かされる。堂々とエレベーターを使ったことに、鬼沢は内心あきれたさま。

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「オフィシャル・ゾンビ」13

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 13

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※「ニコニコ生放送」で創作ライブやってま~す♡

オフィシャル・ゾンビ 13


 夕方、日暮れ前――。

 くだんの目的地へと到着した。

 そこでただちに今回のミッションのおおよその目的と目標など、手短なブリーフィングがあり、それを淡々とした口調で説明する日下部だ。

 みんなで楽屋に集まっていざ放送局を後にしてから、この芸人ばかりの即席チームのリーダーとしての役割をやはり淡々とこなしていた。

 そしてそのすぐ隣では、何故だかちょっとびっくりした表情でぽかんと目の前の建物を見上げる鬼沢だった。

 そう、そこはこの彼にとっては、もはやはっきりとその見覚えがある、都心の五階建てのごく中規模なオフィス・ビルだ。

 まださほど年数は経っていないだろう無骨で頑丈な鉄筋コンクリの建物に、大小合わせて10社ほどの新興企業やら何やらが入っているはずの、いわゆる雑居ビルだった。

 その内のひとつの会社の取材が目的で、複数の収録スタッフと共に番組のロケで訪れたのは、あれは果たしていつのことだったか?


 当人しごく有名なテレビタレントでいろんなところに引っ張りだこだから、正直、そう詳しく中身までは覚えていないのだが、それでもまだ半年も過ぎていないはずだ。

「はあ~……! え、まさかここが目的地だったの? しかもこの五階って、まんまじゃん! でもいったい……なんで??」

 以前、この自分が訪れた時はそんなに怪しいような雰囲気はどこにもなかったはずだと、かつての記憶をうんうんと絞り出す。

 だがやはりこれと言ったものは脳裏には浮かんでこなかった。

 そんなほけっとして気の抜けたさまを、すぐ間近から怪訝に見る日下部が問うてくる。

「……おはなし、聞いてくれていますか、鬼沢さん? さっきから心ここにあらずってさまで、ねぇ、なんだかぼうっとしていますけど……?」


 これからアンバサダーとして肝心の作戦行動に入るのだから、しっかり聞いてくださいと念を押されるのだが、そんな忠告もてんで上の空の中堅芸人だ。

 それだからひどく困惑した顔をこの隣に向けると、やむなく困惑しきったその胸の内を吐露する。

 ここでのロケのことを内緒にしておく必要はないはずだから、覚えている限りのことをありのままにぶっちゃけた。

 すると日下部ばかりか、周りの関西弁のおじさんたちまでもが、驚いたさまで鬼沢の顔を見返してくるのだった。

「はえ、鬼沢くん、ここに来たことあったんかい? 偶然ちゅうか、えらいイタズラやの。運命なのか、悪運なのかしらんけど」

「偶然にしてはできすぎやない? ようわからんけど、呼ばれて来たみたいで気持ちが悪いわ! オニちゃん、なんか恨まれるようなひどいことしたんちゃうんか? ここのオーナーさんか誰かに??」


 関西弁でまくし立てられるのに、やはり困惑することしきりの関東芸人だった。おかげでちょっと腰が引けていたりする。

「まさか、そんなこと……! それにこのビルのオーナーさんには会ってなんかいないはずだし?」

 ひたすら首を傾げる鬼沢に、日下部もやや不審げなさまでものを言う。

「きっとただの偶然……なんですかね? でもどうあれやることはひとつで、変わりませんから。さっきも言ったとおり、ここのビルの最上階にいると思われるグールの討伐、ないし無害化、ただそれだけです」

「ああ、そうなんだ……! 最上階って、ほんとに俺がロケをしたところなんだよな? まさかあそこにこんなかたちで舞い戻ることになるなんて……それに討伐って、なんかな……!」

 そんな内心の複雑な思いが自然とこの口をついて出てくる。

 改めてその地上五階建ての建物の最上階を見つめる鬼沢だ。

 確か記憶では、建物のそれぞれのフロアに別々の企業が入っていて、五階はちょっと特殊な職種の個人経営の会社があり、そこの名物社長を取材する目的で来たのだった。

 屋上に大きな看板がでかでかとその企業名を宣伝していて、その目立つことおびただしいさまを目を細くして凝視してしまう。

 するとそんな自分の代わりに、この横に立つ先輩芸人の東田がこれをそのまま読み上げてくれた。

「えっと、五階っちゅうことは、あれやの? 『ドラゴン警備保障』、なんやありがちなような、ないような、ようわからんところやのう?」

「要は個人経営の警備会社っちゅうことやろ? でもいまどき流行らんのちゃうん? ふつうは大手の警備会社にお任せっちゅうもんで?? そっちのほうがお得やろうし!」

 なにやらとてもうさんくさげにそれを見上げるおじさんたちに、内心では同調する鬼沢も、しれっと本音を言ってのけた。

「まあそっか、てかうちもここらへんは大手のお世話になってるんだよなぁ? あの社長さんの前ではちょっと言えなかったけど! でもあっちは専属のガードマンみたいな、危険でより硬派なことを売りにしているところらしいんだけれども?」

「それはちょっと厄介かも知れませんね? いざゾンビになってしまえば、ただの人間相手に遅れを取ることはないでしょうけど、相手がプロの軍人みたいなことになると、手加減するのがしんどいですから。いたずらに殺すわけにも行かない手前……」


 おなじく頭上の看板を一瞥しながら、真顔の日下部が大まじめに言う言葉に、鬼沢は険しかったその表情がちょっとだけ緩む。

「殺したりはしないんだ? なんかホッとした。それにあの社長さん、そんなに悪いひとには見えなかったんだよな? とっても気さくでユーモアがあってさ、ちょっと体育会系でオラオラなカンジが正直、俺は引いちゃったりもしたんだけど、あとめちゃくちゃ日に焼けてた! いかにもやんちゃなケンカ商売してるみたいな??」

 昔の記憶がどんどんと呼び覚まされる売れっ子芸人さんの回想に、どこまでもこの真顔を崩さない日下部が、およそ面白みもない無味無臭な感想を述べてくれる。

「でもあいにくとその社長さんが今回のターゲットである確率が高いです……! これはかなり確かな情報源からもたさられたものなので、たぶんドンピシャですね? ですからいざこれと鉢合わせした時に、動揺したりするのはなしでお願いします」

「そうなんだ……!! てか、なんであの社長がターゲットだなんて断定ができるんだ? 確かな情報源って、そんなの世間一般の週刊誌では一番当てにならないヤツらの代名詞じゃん??」

 はじめ目を丸くして、またすぐにひどく疑わしげに眉をひそめたりもする鬼沢に、これには横合いから世話焼きおじさんの東田がもう何度目かの説明をしてくれた。

 ※お笑い漫才コンビ、バイソンのボケ担当、東田イメージです(^^) なかなかビミョーなのですが、ひょっとしたらモデルの芸人さんよりもいいおとこだったりして??


「ああ、確かな情報源ちゅうのはそやな、おそらくは〝パパラッチ〟や〝シーカー〟ちゅうヤツらからの情報なんやろ? 世の中にはそうヤツらがおるんよ。その手の情報を収集することに長けた、ぼくらゾンビほどではないにせよ、そっち向きの力を持った特殊な人間たちやな……!」

「せやな、わいらみたいに変身まではせんでも、特殊なちからを持った人間は他にもおるんやな! なんちゅうか、半分ゾンビみたいな? ハーフゾンビっちゅうのか……?」

 うんうんとひとり納得顔してうなずく津川に、対して間近で白けた視線を送る東田が、呆れ顔してこれを受け流す。

「ちゃうやろ! 鬼沢くんが混乱しよるから、あんまり適当なことをゆうてやるなよ? ぼくらとちごうて分類、カテゴリーはあくまでれっきとした人間扱いなんやから、ぼくらゾンビさんとはベツモノなんや、しょせんは……」

 かなり含むところがある言いようには、日下部も真顔でこれに同意するのだった。

 だがその一方で、ぎょっとしたさまでまた目をまん丸くする鬼沢だ。

「時には二類とか三類とか言われたりもしますよね? あえてゾンビの名称は伏せて……! 確かにおれたちとは別種のひとたちです。見えている世界が一緒なだけで。シーカーやパパラッチはおれたち同様、ゾンビやそのたぐいが肉眼で確認できるんです」

「え、そうなの? そんなひとたちがいるんだ?? てか、それってやばくないか? そうとは知らずに出くわしたら最悪見破られて、こっちの正体がバレバレになっちゃうじゃん!!」

 にわかに慌てふためく関東芸人にしかしながら関西出身のベテラン勢がでんと大きく構えたさまでなにほどでもないと応じる。

「だとしても問題ないやろ? 見えてるのはあくまでそいつだけで、他の大部分はさっぱりわからへんのやさかい。そないなもんはただの狂人のたわごとや。せやからそれを吹聴するよりも、むしろそれが専門のゾンビの管理機構にたれ込むほうが銭にもなるし、いい副業になるんやから、むしろ役得っちゅうもんやろ?」

「せやから〝パパラッチ〟や〝シーカー〟なんてケチ臭い名前で呼ばれてるんやもんなぁ? ほんまにうまいことやっとるんやで、入手した情報をしかるべきところに高値で売り渡しての! 他に競合する相手がそうそうおらへんさかい、こんなに安定した稼ぎどころは他にありやせんて。噂じゃそれが専業の芸人もおったはずやし、あとそれ自体がゾンビの正体を隠すうまい隠れ蓑になってもうたり……」

「…………」 

 微妙な会話の空白に怪訝な視線を関西弁の漫才コンビに向けるのに、東田が相方の言い渋ったことを露骨に言い直してくれる。

「あえてみずからをゾンビと名乗らんでも、むしろそっちの名目でうまいこと正体を隠し通しよるっちゅう利口な輩もおるんや。まずは正体を見せなそれとわからんもんやさかいに。この世の中、基本は自己申告やろ、何事も?」

「へー……! そんな意外な抜け道があるんだ? いわゆる例外規定的な?? なるほど、だったらこの俺もいっそのこと、そういうことにしちゃって……!!」


 おかしな知恵を付けてあげくは下手な算段までおっぱじめるそれはそれは浅はかな先輩芸人に、芸人としてはずっと後輩の日下部が、ちょっと顔色曇らせてすかさずこれをたしなめる。

「今さら無理ですよ。すっかりタヌキの正体さらしちゃってるじゃないですか? しかもよりにもよってこの公式アンバサダーである、おれの前で??」

「ああ、まあ、そうか……!」

 さすがにそれはないかとペロリと舌を出す坊主頭の芸人さんに、ボサ髪の若手くんは、だがそこで何やら驚いたことを抜かしてくれたりもするのだが……!

「あ、でもあのコバヤさんは、いまだにみずからを二類や三類と自称して、おのれがゾンビであること自体を公式には認めていないんですよね? びっくりしちゃうんですが……」

「は、無理だろ? 俺たちの目の前であんなにはっきりと変身しちゃってたじゃん!? あんな人間どこにもいないって!!」

 それこそがびっくり仰天してとっさに突っ込む本職はツッコミ芸人の鬼沢に、関西芸人たちまでもがやかましいガヤを発する。

「あほちゃう? 無理やて、あの兄さん、それはどうかとぼくらも思うわ。あないに気色の悪いおっかない見てくれで、往生際が悪すぎるて!! 人間があないに臭い屁なんかこくかいっ」

「ないの。ありえへんわ、あのコバヤの兄さんがゾンビでないやなんて! わけわからへん。正気の沙汰やないやろっ……」

 三人の芸人にして現役バリバリのゾンビたちに食いつかれて、肩をすくめるばかりの日下部だ。

 ちょっとだけ天を仰いでしまう。

 目の端に例の看板がまたチラついて、それをきっかけとして気を取り直すと、とりもなおさず作戦開始のゴーサインを出した。

「ああ、とにかく作戦に入ります。早くしないと日が完全に落ちて、いよいよあちらに有利な状況になりますから。地の利は元からあちら側にあるのだし。それではこれから突入しますが、ここはあえて二手に分かれての行動が得策と考えます。狭い建物の中に固まって突っ込むよりも、つまりはバイソンさんたちと、おれと鬼沢さんのペアでですね?」

「え、分かれちゃうの? 敵の本拠地に殴り込みかけるのに?? みんなで行ったほうが良くない? 日下部とふたりきりはなんか不安なんだよなあ、後輩の芸人だし、愛想が悪いし……」

 顔色があまりよろしくない鬼沢をよそに、こちらはしごく平然としたさまの東田がこくりとうなずく。

 了解するなりこの隣の相方に目配せもした。

「ええよ。そのほうがやりやすいやろ。コンビでの行動は漫才同様、慣れとるさかい。ぼくらはぼくらでやらせてもらうわ。ちゅうか、はなからそのつもりやったし……!」

「そやの、スマホのアプリ開いてよう見てみ! ちゃんと今回の案件の概要が出とるわ。日下部くんが執行者として確定されておるやろ。せやからギャラ狙いで他に寄ってくるアホももうおらんのやさかい。ここから先は早い者勝ちの実力勝負や! 負けへんで、ターゲットにかかる賞金、ギャラもけっこうな額やさかいに……!!」

 自身のケータイの画面を見ながらの津川のセリフには、目を白黒させるばかりの新人のアンバサダー見習いだ。

「賞金? ギャラってなんなの??」

「誰だってただ働きはまっぴらやろ? 命を賭けとるんやさかい、当然の報酬や。でなければ誰もアンバサダーなんてやりよるはずがあらへん。ただし今回は鬼沢くんがメインで活躍せなならん『訓練』の意味合いもあるんやから、ギャラは独り占めやなしにみんなで折半ちゅうのがいいんやろ。後後で揉めたりせんように?」

 落ち着いた口調の東田の言い分には、こちらも澄ました顔の日下部がどうでもよさげにみずからの言い分を重ねる。

「おれはどうでも構いません。まずはこのタスクをクリアしてしまうのが先決ですかね。あくまで情報の通りでグールが一体なら、さほど難しくはないでしょうから」

「なんか勝手に話しが進んでない?」

「さよか。それじゃぼくらは別ルートで潜入するから、ここでいったんお別れしよか。おい、いくで……!」

「お、そやな、それじゃオニちゃん、バイバイや! どっちが先にターゲットにたどり着くか、お互い競争やの!!」

「ほんとに勝手に進んでるよ! チームワークとかないんだ!?一切(いっさい)!! てか、何してるの、バイソンさんたち、なんかふたりして建物の壁にぴたっと取りついて……あれ? どうなってるの??」

 はじめは水平だった視線の向きが、どんどん上向きに変わって見上げるような角度でふたりのおじさんたちを見ている鬼沢は、内心の困惑がもはや隠せない。

 平気な顔でこれを見上げる日下部がなんでもなさげに言った。

「まあ、バイソンさんたちの能力なんですかね。ああやって壁伝いにはい上って、目的地に潜入するつもりなんでしょう」

「え、いやいや! どういう仕組みであんなことになるんだよ? てか、こんなまだ日も暮れない内からあんなパフォーマンス目立って仕方ないじゃんか、あ、ひとには見えないんだっけ? でもそれにしたって、意味がわからないよ、もうあんなに高くに張り付いてるし!!」

 あやしい手品かいっそ雑なドッキリを見ている心持ちの鬼沢はリアクションがはばかりない。

 これにあくまで冷静な日下部がぽつりと言った。

「バイソンさんたちは何に変わるんですかね? きっとそれの能力や性質によるところが大きいのでしょうから。ああやって垂直の絶壁を上れるってあたり、だいぶ限られますよね、動物にたとえのだとしたら……??」

「なにも動物とは限らないんじゃないのか? 案外と虫だったりしてさ? いっそのこと害虫のゴキブリとかナメクジとか……うわ、見たくないな!」

 じぶんで言っておきながらおえっと顔をしかめる鬼沢だ。

 これにただちに壁の中腹のあたりからやかましい関西弁のガヤが返ってくる。

「そないなはずがあるかい! イヤなこといいなや、テンション下がるわ、きみらもぼうっとしとらんで早うせいよ!!」

「とっととせな先にステージクリアしてまうで! そしたら当然ギャラはわいらの独り占めや!!」


 そのさまを半ば呆然と見上げる鬼沢が、またビミョーな顔つきで言う。

「あんなこと言ってるけど、ちゃんと中に入れるのかな? そもそもそこに非常口がないと入れないし、いざたどり着いた屋上に何かがいないとも限らないんじゃない??」

「いえ、待ち伏せされている可能性は低いと思いますよ。だとしてもベテランのアンバサダーコンビですから。コロナの都合で換気のために窓が開け放たれていることは多々あるし、非常口があればそれをこじ開けて入れます。原則として、原状回復が可能なちょっとやそっとの破壊工作なら認められているし、壁を思い切りぶち破ったりしなければ大丈夫です」

 見上げる目つきが段々と細くなる鬼沢に、みじんも動揺することのない日下部の返答だ。

 視線をすぐ隣に戻してあらためて聞いてやるに、あちらからはやはりあっけらかんとした回答が返ってきた。

「はーん、それじゃ、俺たちはどうするんだ? まさか建物の玄関から、真正面から強行突破だなんていいやしないよな??」

「いえ、そのまさかです……! 鬼沢さん、頭のキンコンカンを返してください。ここからはもうさっさと変身して、お互いにゾンビの状態で挑みます」

「へ? 変身しちゃうの? もうここで?? まだ五階の目的地にも着いてないのに、どうして?? セオリーって言っちゃなんだけど、このまま見えない状態で抜き足差し足して、ターゲットまで迫るんだろ?」

「いえ、それではらちがあきませんから。ゾンビのちから全開で一気に五階まで走っちゃいましょう! もうそれが一番手っ取り早いです」

 結構なぶっちゃけ発言に、目を白黒させるばかりの鬼沢だ。

「そんな雑でいいんだ? バイソンさんたち、立場ないよなあ」


 言ってるそばからさっさとひとの頭からこの金のワッカを回収すると、みずからの身体をいびつにふくれあがらせる日下部だ。

 これにみずからも意識を集中して、ひとならざる姿へと変化するお笑いタレントだった。

 十秒も経たずに、そこには2匹の大きな獣と人間の特徴を併せ持った、それは得体の知れない存在が仁王立ちすることになる。

 涼しい風がまた吹き抜けて、ちまたでは〝ゾンビ〟と呼ばれる獣たちを目的のビルへと誘った――。

 入り口付近からやけにイヤな感じの気配が漂うが、これに臆することもなく先をゆくクマに、おそるおそるでビクビクしながらこの後に続くタヌキだ。

 かくして戦いの幕は切って落とされた。

 果たしてその顛末やいかに?


              次回に続く……!



 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #011

#011

「寄せキャラ」登場!!

※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

  新メカ登場!!

Part1


「あ~ぁ、まいったなあ! あのクマのおじさんったら、やたらに話が長いんだから、余計なお説教くらっちゃったよ…!」

 ブリッジから直接また元のデッキに戻るはずが、艦橋を出た途端に出くわしたクマ族の軍医どのにがっちりと行く道を阻まれて、そこから思いの外に時間を取られてしまった。
 いざ艦の船底に位置するアーマーの格納されたハンガーデッキに出ると、そこはもうすでに一仕事終わったかのような落ち着きがあるありさまなのに、ぺろりと赤い舌を出してしまう。

「うへぇ、新しい航空タイプのアーマーが空から着艦するところをこの目で見てみたかったんだけど、間に合わなかったか…! ちゃんと無事に着いたんだよね、どっちも?」

 目ではそれと確認ができないが、この足下では何やらやたらにガタガタした物音や複数の気配があるのに、着艦したアーマーが既に専用のハンガーに格納されていることを察するクマの隊長さんだ。
 ならばこれとセットであるはず新人の隊員たちの姿を探すが、この視界にまずとまったのは新顔の犬族ではなく、日頃から良く見知ったオオカミ族の同僚のウルフハウンドであった。
 血気盛んな副隊長はみずからの一仕事を終えて今はしごくまったりとくつろいださまだ。
 そこに迷わず大股で歩み寄るベアランドはただちに明るく語りかける。

「あ、シーサー! もう戻ってたんだ? 無事で何より! それでどうだい、足回りを一新したきみの海洋戦仕様のおニューの機体は?」


 するとデッキの手すりにもたれ掛かってどこかよそを眺めていたオオカミ族は、金属の床を大きく踏みならして近づいてくるずぼらで大柄なクマ族に済まし顔して答えた。

「…ん、ああ、悪くないぜ? あの態度のでかくていけ好かないデカブツのメカニックめ、言うだけのことはあっていい腕をしてやがる。ただ元のノーマルとの換装に丸一日かかるとか言うのがいささか難ありなんだが…」

「ああ、そのくらいはいいじゃない♡ こっちも仕上がりは上々だったよ、偶然出会った敵の新型も軽くひねってやれたしね!」

「ほう? そいつは興味深いな、つまりはそっちのとおんなじ飛行型だろ? てか、どこも新型だらけだな、この艦の増援も新型機だろう? 俺が戻るのとほぼ一緒に入ってきたヤツら!」

「ああ、そうなんだ。でもそれ、あいにくとぼくはまだ拝めてないんだけど、それにつき新人のパイロットくんたちを知らないかい? どっちも若い犬族くんだって言う?? あ、そういやさっきここでは初めて見る顔の士官さんとすれちがったっけ? やっぱり犬族の???」

 のほほんとした隊長の問いに、それにはさして興味がなさげな副隊長の灰色オオカミはやや首を傾げて応える。

「ん、ああ、そういやいたな? マリウスとかっていう、この艦の副官さんなんだとよ。さっき合流したばっかの新型に便乗して今さらのご登場だ。つうかこれまで何してたんだか…」

「へえ、そうなんだ? 確かぼくらより一個上の階級の中尉さんだったよね? えらく深刻な顔してたけど、さては上司がスカンク族の艦長の部下じゃ犬族としてはそりゃ気が重いのかな。ブリッジじゃガスマスク首から下げてるオペレーターもいるし!」

「ふざけた話だな? だがあっちのはそういうわけじゃないんだろ。およそシャレが通じねえって顔してたからな。あと中尉じゃなくて、大尉だったはずだぜ、やっこさん? つうか階級章の見分けくらいひと目でつくようにしとけよ、大将!!」

「あはは! そうだったっけ? ちっちゃいのにやたらゴチャゴチャしてるからわかりづらいんだよ、あれってば。それはさておき、新顔のアーマーのパイロットくんたち見てないかい? ぼくの部隊に編入だから、さっさと顔合わせしとかないとさ♡」

「ああ…まあ、それっぽいの見たには見たが、なんだかな…」

「?」


 かくして何やらやけに白けたさまで視線をよそへと流す相棒に妙な違和感を感じながら、ふたりのパイロットたちが向かった先を言われたとおりにたどる隊長だ。
 相棒の証言のとおり、ちょっと意外な場所にいた2人組の犬族たちへとゆっくりと近づいていく。

 そこでほけっと立ち尽くす2人の新人パイロットたちは、見ればこの隊長であるじぶんの大型アーマーを格納した特大サイズのハンガーデッキを見上げてひたすらに驚いているようだ。
 ふたりとも目がまん丸で口が半開きだった。
 体型やや太めでやたらにふさふさした長毛の犬族に、もうひとりはすらりとした長身でこざっぱりした短毛の犬族である。

 何事か小声でぼそぼそと言い合っているのに、苦笑いで頭のまあるい耳を澄ます隊長だ。
 するとぼさ髪の犬族がおっかなびっくりに軍の秘密兵器たるギガ・アーマーを見ながら言う。

「す、すごいな、こんなの見たことない…! すっごく大きくて、なんかとってもおっかない…!! おれ、おれこんなの動かす自信ない。まるでそんなイメージが湧かないっ…!」

「ああ、確かにな? つうか、なんでこんなにでかくてグロテスクなんだ? こんなんで空なんか飛べるのか? 俺たち飛行編隊に編入されるんだろ。いったいどんな隊長なんだろうな…??」

「あっ、お、おっかないクマ族なのかな、やだなっ…!!」

 ひどくビクついたさまで身を縮こめる毛むくじゃらに、ちょっと冷めた調子で肩をすくめる相棒だ。
 赴任したてで場慣れしていないのが傍目にもそれとわかる。
 見るからにそわそわしたさまの新人たちは、しまいにはこれって何人乗りなんだろうな?なんて頭をひねり始めるのだった。  

 おやおや…!

 およそ軍人らしからぬ世間知らずな学生さんみたいなありさまにはじめ苦笑いがやまない隊長だ。

 言葉の通りで異様な見てくれをしたまさしく怪物アーマーをおっかなびっくりに見上げたまま、こちらにはまるで気付かないのがおかしくもありどこか心配でもあり…。
 それだからせいぜい当人たちを驚かさないよう穏やかな口調で語りかけてやった。

「ふふん、ひとりだよ♡ 通常サイズの汎用型アーマーと一緒で、きみらのとおんなじだよね! と言うか、ふたりともこんなところで何をしているんだい?」

 不意の登場だ。

 これにふたりの犬族たちはハッとこちらを振り返るなりにすぐさま敬礼!

「え、あ、うわっ、じょ、上官どのに、けっ、敬礼!」

「わわわわわっ!!」

 およそこれが軍属とは思えない大した慌てっぷりに、本当に吹き出してしまうベアランドだ。
 じぶんは軽くだけ敬礼を返して楽にしなよと態度でうながす。

「ふははっ! いやいや、そんなに偉くはありゃしないよ♡ ぼくだって言ったらまだ新人さんなんだから! にしてもきみら、ほんとに若いよな?」

 学生にしか見えないよと冗談まじりで言ってやったら、当人たちは思いの外に神妙な顔で黙り込んでしまう。
 あれ、ひょっとして図星を突いてしまったのか…?とやや複雑な心境になる隊長は、あえてそれ以上は触れないで話を戻した。

「…ん、まあ、みんないろいろあるよね! ところで、このぼくのランタン、もとい、ギガ・アーマーがそんなに珍しいのかい? 見てたらさっきからずっと眺めてるけど??」

「あっ、は、はい! て、た、たたっ、隊長どのでありますか!? うわっ…」

「あ、え、わわわわわっ、ごごご、ごめんなさいっ!!」

 それはそれはひどい慌てっぷりにいっそこっちが恐縮してしまうクマの隊長だ。

「あらら、まいったな。何をそんなにあやまることがあるんだい? ま、確かにこんな見てくれではあるけれど、それでもそっちのアーマーほどじゃありゃしないだろう? ブサイクででかくて強面で! さすがは軍部肝入りの新兵器ってカンジだよね♡」

 いまだおっかなびっくりの新人たちだが、それでも長身の方はまだ性格がしっかりしているらしい。ただちに気を取り直してじぶんよりもずっと背の高い大柄なクマ族に向き合う。
 となりのボサボサはごくりと生唾飲み込んだきりだ。

「失礼しました! えっと、その、ひとりで、でありますか? こんなデカブツ、じゃなくて、大型のアーマー! この機体制御ならびに火器管制その他もろもろを、たったのひとりで…!?」

「ぜっ、絶対に、ムリ…!!」

 騒然となる新人たちにでっかいクマの隊長さんはいやいや!とへっちゃらな顔でのほほんと応える。

「もちろん! ま、確かにこのクラスならメインとサブの副座式、いわゆるタンデム型のコクピットシステムってやつが言わばお決まりのイメージなんだろうけど、それはそれでコンビの熟練度ってものが問われるだろ? あとこのぼくに合わせろってのもなかなかにしんどいみたいだしね、あはは♡」

「はあ…!」

「ひ、ひとりでなんてムリだよ! でもこんなおっかないクマ族の隊長さんと2人乗りなんて、おれ、できる気がしない…」

 絶句したり震え上がったりと見ていて飽きない新人たちだ。  
 おかげで強面のクマさんが思わず破顔してしまう。

「おっかなくなんかないよ、いやだな!」

 こう見えて人懐っこい性格なんだから!とウィンクしてやるに、言われたワンちゃんたちはびっくりしたさまで互いの目を見合わせる。
 どうやらこの見てくれも性格もこれまでには会ったことがないタイプの上官であるらしい。おそらくは群を抜いて。
 よって種族や階級の違いなどおよそお構いなしのクマの少尉どのは、鷹揚なさまでまた続けるのだった。

「ま、ぶっちゃけまだ開発途上の機体だから、これってば。それでもうまいことひとりでやれるようにはなっているんだよ? オートパイロットシステムって擬人化AIやら何やら…ま、きみたちにはわかんないよね!」

 屈託の無い笑みでさも頼れる兄貴然とした隊長に、固かった表情が次第にほぐれてくる新人たちだ。
 ベアランドはよしよしとしたり顔してうなずいてやる。

「まあ、要は慣れだよね! こんなブサイクでいかつい見てくれしてるけど、実に頼れる相棒なんだよ。どのくらい頼れるかは、実際に見てのお楽しみとして♡ それじゃ、次はきみたちのも見せてほしいな、期待の次期主力量産機ってヤツをさ?」

 意味深な目付きをくれてやるに、当のふたりはまた神妙な顔つきして互いの目を見合わせる。
 それきり無言だ。
 その微妙な雰囲気をそれと理解する隊長だった。


「ああ、ま、とにかくよろしくね! ぼくらこれからひとつのチームになるんだから。ん、てことで、隊長のベアランドだよ。きみらのことはすでに戦績表(スコア)をもらってるからある程度は把握してるんだけど…えっと」

 ふたりの犬族たちの顔を見比べるクマ族の隊長は大きくうなずいてしごく納得したさまで続ける。

「そうだな、そっちのモジャモジャくんがコルクで、そっちのノッポくんがケンスだろ! 階級はとりあえず准尉で、実はまだアーマーのパイロットになってから一年も経たないんだっけ? なのに新型機のパイロットだなんてふたりともすごいよなあ!!」

 あっけらかんと言い放ったセリフにしかしながら言われた当人たちはただちに恐縮してすくみ上がる。

「い、いえっ、飛んでもありません! 俺たちそんなに大したもんじゃあ、前の隊長からはお互いに貧乏くじを引かされたって笑われてましたから。こんなアーマーをひとりで任されている少尉どのとは比べるべくもありませんっ…!」

「よ、よろしくお願いします! あの、その、ベア……ド、隊長っ…おれ、一生懸命がんばりますっ、まだ知らないことばかりですけど、ケンスと、一緒にっ…」

 よほどのあがり症なのかぎこちない挨拶をする毛むくじゃらの犬族に、こざっぱりした短毛種の犬族があいづち打ってあらためて自己紹介してくれる。

「今日付でこちらに赴任してまいりしまた、ケンス・ミーヤン准尉であります! あとこっちが…」

「あ、こ、ここ、コルク・ナギであります! あ、あと、じゅっ、准尉でありますっ!!」

「うん、知ってるよ。よろしくね♡ さてと、新型兵器の見学会はもう終わりでいいかい? 今度はそっちの新型くんの紹介をしてほしいんだけど、あいにく長旅で疲れてるだろうから休ませてやれってここの艦長からは言われているんだ。てことで、ここは一時解散かな?」

「は、はいっ…!」


 まだ力が抜けていないふたりを楽しく見てしまうベアランドだが、脳裏にふとある人物の顔がよぎってまた口を開く。

「そうだ、あとでこの艦の中をざっと見て回ろうよ、探検がてら! ぼくもここに来て日が浅かったりするんもだからさ…あ、そっか!」


 何かしら思い出したふうな隊長に、目をぱちくりと見合わせる隊員たちだ。
 新隊長のベアランドはペロリと舌を出して見上げてくる犬族たちにいたずらっぽい笑みで言う。

「そうだった、まずは軍医のおじさん先生に、メディカル・ルームに連れてくるように言われていたんだった! そうさぼくらメンタルやフィジカルのケアも大事な任務の一環だろ? ちょっと口うるさくて力加減のわからないおじちゃんなんだけど、性格は温厚で優しいクマ族の大ベテランだから♡」

「は、はあ…」

「また、クマ族…!」

 さては大柄で屈強な輩が多いクマ族に苦手意識でもあるのか、ボサ髪の犬族が青い顔色でうつむく。
 まるでお構いなしのベアランドは笑ってさっさとこのきびすを返した。

「へーきへーき! 見たカンジはとってもチャーミングなドクターだから♡ 案内してあげるよ。ひょっとしたら二番隊の隊長のシーサーもいるかもしれないし! そこで解散だね」

 それきりさっさと大股で歩き出すマイペースな隊長に緊張でシッポが下がり気味の犬族たちがとぼとぼとくっついていく…!

 かくしてこれが何かと問題ありな第一次・ベアランド小隊、人知れずした結成の瞬間であった。

Part2


 翌日、早朝――。

 まだ人気のまばらな艦の船底のハンガーデッキに、全身が濃緑色のパイロットスーツ姿の大柄なクマ族が、ひとり。

 無言で目の前のハンガーに格納される戦闘用の人型アーマーをただじっと見つめていた。
 その全高が10メートルを軽く超えるアーマーは横並びに二体あり、どちらも同じ見てくれと仕様の同型機に見える。
 かねてよりウワサの新型機だ。

 難しい表情で空中機動戦闘特化型の量産汎用機を見上げていたベアランドは、フッと軽いため息みたいなものをついてはどこか冴えない感じの感想を漏らす。

「あ~ん、何だかなあ…! 見たカンジは悪くはないんだけど、どうにも判断てものがしかねるよねぇ? この新型くん♡ 乗ってる子たちに聞いてもあんまりパッとした反応がなかったし…」

 これの専属パイロットである新人の隊員たちは、経験が浅いのも手伝ってまだ新型機の性能を全ては引き出せていないし、満足に把握も出来ていないらしい。

 おのれのと同様に、試験的な運用から実証まですべて現場任せなのかと呆れてしまう隊長に、申し訳なさそうに身を縮こめるばかりの犬族たちだ。

「ふうむ、やっぱり動いてるところを見るのが一番なのかね? 現行の量産型に乗っていた時はふたりともそれなりにいいスコア(戦績)を出してるから、パイロットにはこれと問題がないとして…おっ!」

 ウワサをすれば影で、口に出していた犬族がふたりしてそろってこの顔を出してくる。タイミングばっちりだ。

 どちらも同郷の言えば幼なじみらしいのだが、それが戦闘のコンビネーションを確実なものとする大きな要因であるならば、なんとも皮肉なことだと内心で思う隊長だった。

 背後で気配を感じたままこれと迎えることもなくのんびりと突っ立っていると、ふたりとも今はすっかり落ち着いたさまでこの両脇にそっと寄り添ってくる。
 視線を上に向けたまま、かわいいもんだなとかすかに口の端で苦笑するベアランドだ。

 ほんとに学生さんじゃないか…!

 あえて詳しくは聞かないが、履歴書にある公称の年齢と実際の年齢に少なからぬ誤差があることをあらためて確信していた。

 チラとそちらに視線を向けてやる。

 すると見てくれの暑苦しい毛むくじゃらの犬族は相変わらず冴えない顔つきで、まだどこか眠たそうだ。
 こんなぼんやりしたカンジで個人のスコアで星(ホシ)を少なからず付けているのがにわかに信じがたい思いの隊長だが、それはこれから確かめてやれると密かな楽しみにもしていた。

 他方、相棒とは打って変わってこの性格しっかりとして見てくれもシュッとしたノッポの犬族くんも、短いパイロット歴ながら撃墜マークのホシはしっかりと獲得していた。
 どちらも実際の年齢を考慮したら驚くべきことだと喉の奥でうなるベアランドだ。この現実の言い知れぬ皮肉さ。

 まだ子供なのにね…!

 そんな隊長の複雑な胸の内も知らないノッポくん、しっかり者のケンスがそこで一息つくとハキハキとした言葉を発した。

「おはようございます! 隊長!! ずいぶんとお早いんですね。出撃までまだだいぶ時間がありますが…?」

「お、おはようございますっ、ベア…あ…隊長っ」

 この相棒に続けてどさくさ紛れで声を発したのはいいものの、歯切れが悪くておまけもごもごと尻切れトンボで終わってしまうボサ髪のコルクだ。
 まだ寝ぼけているのか、隣でケンスがあちゃあ!みたいな顔しているのが見なくてもそれと分かった。

 ははん、書類上の経歴でウソはつけても実際は隠しきれないもんなんだよな♡

 内心でまた苦笑いして目線をそちらにくれるベアランドだ。

「ベアランドだよ♡ そっちこそ、早いじゃないか? 実際の出撃命令が出るのはまだ2時間くらい先だろ。とりあえずこの30分くらい前に集合って、そう言っておいたはずなのにさ」

「あ、その、緊張のせいか、目が冴えちゃって、おれたち…! 今さら寝付けないから、いっそスタッフさんたちの邪魔にならない時間にスタンバっておこうかなって…」

 まず臆病者の毛むくじゃらに言ってやるとこれがすぐさま目を逸らされるのを気にしないでもう片方の相棒に向く。
 ケンスはちょっとバツが悪そうな苦笑いで困ったさまだ。
 まさか隊長さんと鉢合わせするとは思っていなかったらしい。

「そっか、ふたりとも相部屋なんだよな。居心地はどうだい?」

 あえてまた右手の太めの毛むくじゃらに向かって言ってやると、言われた当人はビクっと反応しながらしきりとうなずいてつたない返答を吐き出す。

「は、はいっ、と、とっても快適、ですっ、あんなにきちんとした個室は、生まれてはじめてかもっ、べ、ベアランド、隊長…」

 すかさずこの横から個室じゃなくて相部屋だろ!と訂正されるコルクに苦笑いでうなずく隊長のクマ族だ。
 上官の名前がちゃんと言えてるんだから問題はない。

「うん。そっか、そいつは良かった♡ ふたりとも朝食はこれからだろ? 後でみんなでブリーフィングがてらにどうだい。直前じゃゲップが出ちゃうし、みんなで食べたほうがおいしいよ」

「は、はいっ!」

 見てくれのおっかないクマ族の隊長を前にするとどうしても肩から力が抜けない新人くんたちだが、これから実際の出撃を待っているのだから仕方ないと了解する。
 いざひとたびこの船を飛び立てば、そこはまさしく命がけの戦場だ。

「まあ、それはさておき、いい機体、なんだよね…? この面構えはぼくのランタンなんかよりずっと男前だし! まあ、いろいろとビミョーなうわさが飛び交ってる実験機ではあるけれど…次期主力機候補ってのがかなり眉唾(まゆつば)、みたいなさ?」

「…!」

 若くして軍に入隊して(させられて?)まだ右も左もわからないだろう新兵が、それでもうわさばなしくらいはその耳にすることはあるのだろう。
 昨日の少ない会話の中では、ちょっと前まで指揮を執っていた中尉どのはとても部下思いのいいおやじさんだったらしい。
 だったらなおさらだとここはちゅうちょ無くものを言ってやる新隊長だ。

「ちなみに知ってるかい? これって本来はもっとずっと別のところで使うために開発された機体の言わば雛形(ひながた)みたいなもんで、あくまでテストケースに位置づけられるものなんだって? まあ、ホントかどうかはさておいて…」

 振り返って見たふたりの新隊員の内、向かって左のぽっちゃりがうつむくのに対して反対側のほっそりが反射的に何もないはずの天井を見上げたのをそれと確認して、なるほどとうなずく。

 前任者はほんとにいい隊長さんだったんだね♡

「このビーグルⅥ(シックス)は戦場では希な機体でとどまるんだろうけど、だからって見下げたもんじゃありゃしないさ。なんたって軍の技術の粋を集めた機体なんだから! そうだろ?」

「はい…!」

 これにはふたりともしっかりとうなずくのに心配しなくていいよとこちらも力強くうなずく。

「これの本チャンがいわゆるビーグルⅦ(セブン)で、もしそっちに乗る機会があったらむしろラッキーじゃないか。ここでの経験をまんまフィードバックできるし、より負荷がかかる重力大気圏内での運用経験はそれはとんでもないアドバンテージだよ♡ どこでだってきっと互角以上に戦えるから…!」

 言っていること果たして理解できているのかできていないのか、冴えない表情を見合わせる新人たちにともあれで明るく笑うベアランドだ。

「ま、じきにわかるさ! それよりも本来の主力機を手に入れるのが先かな? ちょっと前にそれに近いのと偶然に会敵したんだけど、なかなかいいカンジだったよ。これにはだいぶ手こずったみたいだけど、その分に楽に扱えるよ、きみたちなら…」

 いよいよ顔つきが困り果てるばかりの部下たちに上官のクマ族も思わずこの苦笑いを強める。

「はは、いきなりあれやこれや言われても処理しきれないか! ま、今はとにかく目の前のことに集中すればいいよ。…ん、あっと、またお客さんだね♡」

「…!」

 頭のまん丸い耳を左右ともピクピクさせるベアランドが目でそれと示す先に、犬族たちもそこに新たな気配と足音がするのを察知する。
 また別の方向から軽やかなステップで走り寄ってくる細身のスタッフらしきを怪訝に見つめるのだった。

 その格好からしたら若いメカニックマンらしきは、三人の目の前でぴたりと立ち止まると即座に敬礼する。
 それからハキハキした口調で挨拶を発するのにはビビリの毛むくじゃら、コルクがシッポを立たせて後ずさりした。

「おはようございます! みなさんもうおそろいでしたか、こんなに朝早いのに!」

「ああ、まあね! いざこの船が戦闘空域に突入したらみんなでバタバタするから、落ち着いてやるにはこのくらいからでないとさ。いう言うリドルも早いじゃないか、てか、この新型は受け持ちじゃないよね?」

 事実上、じぶんのアーマーの専属メカニックとしてこの艦に乗り込んでいる若いクマ族に聞くと、それにはまっすぐにまじめな応えを返す根っからの機械小僧だ。

「はい! ですがじぶんもやはり興味がありましたので。スタッフさんが取り付く前にこっそりのぞいてみようと…! あはは、でもまさかこのパイロットの方達に会えるとは思いませんでした! スーツが違うからひと目でわかりますね?」

「ああ、確かにね! ふたりともここじゃ他にいないタイプの新型のパイロットスーツだ。色も全然違うし? でもそれもいろいろと難ありなんだよね?」

 しげしげと頭から足下を見回す隊長に、ふたりのクマ族に見つめられる部下たちはちょっと困惑したさまでうなずく。
 毛むくじゃらはなおのこと深くうつむいてしまった。

「はあ、まあ、おれたちみたいな犬族にはほんとにありがた迷惑な機能ですよね。スーツにトイレの機能を搭載しちまうなんて。みんな嫌がっておれたちみたいな新人に回されてきたようなもんだから、正直、使う気になれないですよ…!」

 げんなりしたケンスの言葉に、おなじくげんなり顔のコルクがひたすらうんうんとうなずく。
 苦笑いでしか答えてやれないベアランドは吹き出し加減だ。

「ふふっ、ニオイの問題は当然クリアしてるんだろ? アーマーにだって簡易式のそれはあるんだから、いらないっちゃあいらないんだけど、さては用を足すヒマも惜しんで戦えってことなのかね? ひどいはなしだよ!」

 冗談ごととじゃないですよとうんざり顔の犬族たちにそのうちに新しいスーツが支給されるよと気休めを言って、ベアランドはリドルを目で示して紹介する。

「丁度よかった、ふたりともこの子、ぼくの専属のメカニックははじめてだろ? リドルだよ。ぼとくおんなじでクマ族の男の子! あと、見ての通りで若いんだけど、たぶんきみらとおんなじくらいじゃないのかな? よろしくしてやってよ♡」

「はいっ、リドル・アーガイル伍長であります! ベアランド隊のチーフメカニックを主たる任務としておりますが、特に新型の少尉どの専用のアーマーを任されております。以後、よろしくお願いします!!」


 言いざままたもやびしっときれいな敬礼するのに、ふたりの若い犬族たちもこれに慌てて敬礼を返す。

「ケンス・ミーヤンであります! どうぞよろしく!」

「ああっ、こ、コルク、ナギであります! じゅ、准尉ですっ」

「あはは、なんだかとっても人柄の良さそうな隊員さんたちですね? 実はもっとおっかないひとたちを想像していたんですけど、良かったです!」

 朗らかな笑みで胸をなでおろすリドルに、ベアランドは肩を揺らして合点する。


「ははは! でもこう見えてもふたりともとっても優秀なんだよ? ちゃんと星も持ってるし、こうして新型機を任されるくらいなんだから! ま、リドルもアーマーの操縦はできるし、ホシだって持ってるんだからどっこいどっこいなんだけど!!」

 豪快に笑ってぬかした隊長のセリフに、だがこれを聞かされる周りの犬族たちがただちに色めき立った。
 ギョッとした顔で目の前に立つ若いメカニックマンをひたすら凝視してしまう。

「は、はいっ? このメカニックマンどの、撃墜マークを獲得しているのでありますか?? おれたちと同じ戦場で!??」

「え、え、ええっ、なんで?? メカニックなのに…???」

 ひどい困惑とともにジロジロと見つめられて、当の細身のクマ族の青年はこちらもひどい当惑顔でこの身をすくませる。

「あ、いえ、その…! ベアランドさん、そのはなしは無しでお願いします。このぼくも欲しくて獲ったものではないので…」

「?????」

 なおさらギョッとなる犬族たちに苦い笑いを向けて曖昧に肩をすくめる隊長だ。あらためて三人に向けて言ってやった。

「はは、まあ、いろいろあるんだよね、人生! それはさておき、朝食にしようか。みんなそろったんだから丁度いいや。リドルはこの機体がお目当てなんだろうけど、パイロットの生の意見や感想を聞くのもきっとためにはなるだろう?」

「あ、はい! それはぜひとも。よろしいでしょうか?」

 いかにもひとのよさげであどけない表情のクマ族のメカニックマンの言葉に、こちらもまだあどけなさが残る犬族の新人パイロットたちが目を見合わせる。頭の中は大パニックだ。
 もはやうなずくより他になかった。

「ようし、それじゃあみんなでレッツ・ゴー!! まだ出撃までには時間があるからたらふく食べようよ、あといろいろと楽しいミーティングもね? 聞きたいこといろいろあるんだ♡」

 これよりおよそ二時間後、ベアランド小隊は初出撃することとなる…! 




記事は随時に更新されます!

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Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 キャラクターデザイン ファンタジーノベル メカニックデザイン ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania War Record #010

#010

「寄せキャラ」登場!

 ※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

 「新メカ」も登場!

Part1

 空はどこまでも澄んで、穏やかだった。

 眼下に広がる海も、見渡す限りが青く穏やかに見える。

 その最果ての水平線が、空と交わる先でゆるいカーブを描いているのをそれと実感。ここがおよそ戦場とは思えないほどに、今は全てが静かに落ち着き払っていた。

 かくしてそんなのんびりとした雰囲気に釣られて、軽い鼻歌交じりに周囲の景色、ぐるりとみずからを取りまく大小のモニターを見回す犬族のパイロットだ。
 それはご機嫌なノリで意味も無く手元のコンソールパネルのスイッチをガチャガチャといじくり回す。

「ふーん、ふっふ、ふんふん、ふんのふんのふんっと…!」

 まったく意味のない動作の連続で、無意味な操作音がピッピとコクピット内に鳴り響く。シートベルトでがっちりと固定されたシートの背後から、細長いシッポの先がブンブンと振れていた。

 本当にご機嫌なさまだ。

 あんまり調子に乗って機体の推進制御レバーにも手が触れたらしい。微速前進で空中に安定していたはずの機体が突如、ビクッと姿勢を崩すのに、ちょっと慌てたさまで両手をレバーに戻して機体の水平を保つ。

 苦笑いでぺろりと赤い舌を出すビーグル種の犬族だ。

「おっと、あかんあかん! 調子に乗ってもうた。これからガチの戦闘やのに!!」

 ピッと不意に短い電子音が鳴って、同僚の機体からの通信、茶々が入った。すぐ斜め後ろをおなじく微速前進で追従する相棒の犬族のパイロットの、これまた調子のいいツッコミだ。

「どしたん? ずいぶんとご機嫌やけど、なんかええことあったんか? これからバトルやのに?? 浮かれとる場合ちゃうやろ」

「ああっ、せや、せやけどいいカンジやろ? これのどこが戦争なんだかわからへんぐらいに平和になっとるやん! ほな鼻歌のひとつも出てまうわ」

「今だけやろ? よそのエリアじゃもうバリバリ戦闘に入っとるらしいで。なんや新型の空飛ぶ戦艦が入ってきもうて、ごっついアーマーも投入されとるらしいやん!」

「せやな。この万年戦闘水域の中心、本島のロックスランドをあっさり一日で落としたんやったっけ? あないに苦労して占領したのにムカつくわあ! ほんまにどついたろか」

 苦笑いがさらに強くなる犬族、モーリィは正面のモニターの中で小さく区切られた窓の中の相棒に、皮肉っぽくみずからの右のほほのキバをニィッとむいてみせる。

 おなじく苦笑いの相棒、こちらもまだ若いのだろう毛足の長い特徴的な顔つきをした犬族のリーンは、茶目っ気のある笑みで返す。

「好きにしたらええやろ! それよかそろそろみたいやんな? 早速レーダーにひとつそれっぽい反応が入ってきとるやろ?」

「さよか! ほな、ぼちぼちいったろか!」
 

 ビピッ、ピッピッピッピ!

 正面から右手のモニターにバストアップの映像が移った相棒が言った通り、自機のアーマーのレーダーサイトに反応がひとつ引っかかったことが、今しもアラームの警告音(ビープ)で知らされる。

 こちらよりまたさらに上空の空におかしな反応がひとつ。

 正面のモニターに映し出されたその映像にみずからの突き出た鼻先をひくひくとひくつかせる犬族だ。はてと小首を傾げながら、怪訝なさまで独り言めいた言葉をつぶやく。

「あれぇ、なんやようわからんヤツがおるわあ? なんやあれ、やけにいかつい見てくれしとるけど、あんなんこっちのデータベースに載っておらへんやん? アンノウンやて!」

「みたいやんなあ? こっちもおんなじ、ノーデータや! 現在、諸元とこの想定される性能を解析中……あ、そやから詳しう解析するためにようモニターしてくれっちゅうとるぞ?」

「知らんわ! そんなのこっちの知ったこっちゃあらへん。なんで命がけの戦闘しとる最中にそないなことせなあかんねん! わしらまだ予備軍扱いで、正規には採用されとらへんのやさかい」

「そやんなあ、それがいきなりあないな新型の敵さんと会敵なんて、しんどいわあ! どないする? ま、アーマーがピッカピカの新型なんはこっちも一緒なんやがのう」

「はん、新型っちゅうてもこないなもんは実験段階の開発途上機やん。そやからわしらみたいなペーペーでも任されとるんやし、それやのにあっちはやけにいかつない? もうちょいズームで、うお、でかっ! めっちゃごっついやん!! なにあれぇ?」

「うわ、なんかきしょない? なんであないなでかいもんが平気で空飛んでんねん? わいらのアーマーのサイズの優に倍はありよるで? ほんまに何で飛んでんのや、ローターエンジン付いとるか? ジェットドライブやったら燃費悪すぎやろ!」

「なんか、飛んでるゆうよりも空に浮いてるカンジせえへん? マジできしょいわ、わけわからへん。マジでどないしょ」

「逃げるわけにもいかへんもんなあ? 仮にも新型機で出撃しといて。この「ドラゴンフライ」の性能も見とかなあかんやろ? なんか大人とこどもくらいも機体に体格差あるんやけど」

「ドラゴンフライて、トンボやったっけ? あっちからしたらこないなチャチな機体、まさしく「かとんぼ」にしか見えへんのちゃうか、まともな足もついとらへん中途半端なもんは? 足っちゅうか、こんなんただのほっそいほっそい棒やん!!」

「空飛ぶんには足なんてあっても邪魔なだけなんやろ? 空中じゃ歩かれへんのやさかい、そやったらそないなもんは、ないほうが身軽になって飛びやすいっちゅうわけで!」

「言いようやんな! まあええわ、よっしゃ、それじゃその身軽なん使こうてふたりで一発かましたろか! あっちはあんなんやから素早くなんか動かれへんのやろ? 見てくれおっかないだけで図体でかいだけのでくの坊や。ははん、だったら楽勝やん!」

 息の合った掛け合いで漫才みたいなやり取りを一息に決めて、モニターの中の敵影にこれと視線を定める犬族のモーリーだ。
 自分がリーダーだとばかりに盛んに意気を吐くが、これにちゃっかりしたお調子者らしい相方が、それはそれは好き勝手な言いようほざいてくれる。

「ふたりっちゅうか、まずはひとりでいっときぃ、じぶんが! そのあいだにこっちでしっかりモニターしとるさかい、存分にその新型の力を試してみぃ! そしたらついでにそれもモニターしたるから、なんや、これってまさに一挙両得やんな?」

「は? いやいやいや! 何を勝手を言うとんねん?」

 まるでひとを使いっ走りみたいにそそのかしてくれるのに慌てて抗議するのだが、相手はまるで聞く耳を持たない。

「ないないっ、あんないかついもんに単機で突っ込むなんて自殺行為やろ! ふたりで挟み撃ちするくらいでないと無理やて、わしひとりでまんまと返り討ちにあったらどないすんねん?」

「そん時はさっさとトンボ帰りやわ! ほなさいなら!!って、ドラゴンフライなだけに? うまいこと言うたやろ? ほな、まずはひとりでいっときぃ、遠慮せんでええから、ほら、あちらさんもあないに手持ち無沙汰なままでじぶんのこと待っとるでえ? せやから今がチャンスやて!!」

「なんのチャンスやねん? あほちゃうか?? むりむり、あかんあかん! 死んでまうて、見れば見るほど、まともちゃうやんか! あないなグロいバケモン……あ!」

「あ、感づかれたんちゃうんか? じぶんがさっさと行かへんさかい、とうとうあちらからご指名がかかったんやな。ほな、ひとりでいっときぃ」


「なんでやねん!! おおい、マジで来よったで! 完全にロックオンされとるがな! あほなこと言うとらんでさっさと応戦や! 漫才ちゃうんやからつまらんボケは通用せんで、うお、マジでごっついやん!! シャレにならんて!!」

「しんどいわあ~、じぶんほんまに手の掛かる子やんなぁ? しゃあない、後ろから援護したるさかい、前衛はまかせたで!」

「なんでやねん!!」

 コクピット内にやかましい警告音が鳴り響く。
 それを戦いのゴングと了解して、ただちみにみずからの正面の操縦桿を握りしめるビーグルだ。モニターの向こうの相棒に目配せして、ガチの戦闘に入ることを互いに確認!

 二機の新型機がおのおの左右に分かれて旋回上昇軌道に入る。

 未知の敵との遭遇。

 かくして息つくヒマもない銃弾とビームの応酬が前衛芸術さながら、青一色の空のキャンバスにくっきりと描き出される。

 「戦争」がはじまった。


Part2
 主人公登場!!

 主役のクマキャラ、若いクマ族のパイロットのベアランドです。初代から数えてこれでテイク4くらいですね!

若いメカニックマンの男の子、リドルははじめの見てくれがかなり雑だったので、下のキャラに顔だけリテイクしています。
 作者的にはそれなりにお気に入りです♡

 Part2

 今はまだ、静かな世界だ。

 空も、海も、果てしなく青く、ひたすらに広がるばかり。

 ここは大陸からはかなり離れた沖合の海洋だ。
 本来ならどこの国にも属さない中立の公海水域なのだが、今やそこは広範囲にわたって敵味方が入り乱れる戦場と化していた。

 元は岩山ばかりが目立つ小さな小島と、その周りをぐるりと取り囲む形で配置された、人工の島々、ギガ・フロート・プラットフォームで形成された、世に言うルマニアの『拡大領域』だ。

 端的に言ってしまえば、海に浮かべた正方形や長方形の巨大なプラットホーム、ギガ・フロート上にそれぞれ任意の構造物を建造した前線基地とその周辺施設群なのだが、今やこの半分が敵方の手に落ちているというのがその実のところである。

 いざ無理矢理に領有権を主張したところで、本国から遠く離れた離れ小島は、地続きでないだけに援護や補給がままならない。

 大陸西岸の属州の港湾で補給を終えて、すぐさまこの混乱した戦線に加勢した巨大な空飛ぶ船艦のはたらきで、この中枢の小島の要塞は見事に奪還したものの、これを中心に西と東で支配権が分かれるフロートの各施設をただちに攻略および守護!

 そこかしこに潜伏する敵を掃討するのがみずからの役目である若きクマ族のエースパイロットは、周囲の青一色の景色ばかりを映し出すモニターに視線を流しながら、何気なくしたひとりごとを口にする。


「う~ん、こうして見てみるに、どこにもこれと言った戦艦らしき影が見当たらないなあ……! でっかいのがこれっぽっちも。友軍もそうだし、敵軍の戦艦、潜水艦なのかな、どこにもそれらしい気配がないんだよねぇ。頼みのレーダーはどれもさっぱり無反応だし。どうしたもんだか……」

「はい? 戦艦、でありますか? 友軍となると、ジーロ・ザットン将軍のものでありましょうか? 確かどちらかのフロートに付けているらしいとは聞いておりますが? それと少尉どの、こちらのトライ・アゲインとおなじで、最新鋭の航空型巡洋艦だったと記憶しておりますが……」

 今は離れた母艦からの応答、通信機越しの見知ったメカニックマンからの返事に、ちょっと小首をかしげてまたこれに応じる。

「まあね? この戦域の指揮を任されてるトップの指揮官なんだから、もっと目立つところに陣取っていてほしいんだけど、切れ者で何考えてるかわからないところがあるからさ、あのおじさん♡ ぶっちゃけ悪いウワサもバンバン飛び交ってるからね! いざとなったら手段を選ばない、冷血艦長の悪党ジーロって!!」

「あはは、そうなのでありますか? 恐れ多くてじぶんの口からは何とも。ですがあちらも目立つ最新の大型戦艦なのですから、よほど高空を飛んでいない限りは目で視認ができないだなんてこともないものだと思われます。かろうじてレーダーの目はごまかせたとしても?」


「うん、ぼくもそんなにお間抜けさんではないからね? まさか海の中に潜っているだなんてことはないはずだから、やっぱり巧妙に隠れているんだよね。となると、あやしいのはいっそあの本島のロックスランドの入り組んだ岩礁地帯か、もしくは……!」

 やや考えあぐねるクマの少尉どのがそう言いかけたさなか、不意にピピピッ!と甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く。

 レーダーに反応あり! つまりは敵と遭遇したことを示すものだった。これに通信機の向こうで息をのんだ気配があり、ちょっと緊張したさまの若いクマ族のメカニックマンの声がする。

 今現在、自機がいるのがわりかし高空なのと、周囲に敵影がなかったので妨害電波らしきもないらしく、遠くの母艦で留守番している若いクマ族のハイトーンな声色がきれいに聞こえていた。

「反応、ありましたか? はい、こちらでも確認しました! ギガ・アーマー、二機の模様です。状況からして少尉どのとおなじ飛行型タイプでありますね。あれ、でもこれって……」

 まだ実験開発段階の都合、こちらの機体状況をつぶさにリアルタイムでモニターしている機械小僧のちょっと戸惑ったさまに、釣られて苦笑いのベアランドも太い首をうなずかせてまた言う。

「うん。ノーデータ。『アンノウン』だって! いきなり未確認の機体と遭遇しちゃったよ! いわゆる新型機ってヤツだよね。まいったな、てか、新型で正体不明なのはこっちもおんなじなのかな? あれって見たところどちらも同型の機体だよね、なんかえらい見てくれしてるけど……!」

「えらい見てくれ、でありますか? こちらでは画像の解析がまだできていないのでわかりませんが、飛行タイプのアーマーならば比較的小型、軽量級なのでありましょうか??」

 メカニックマンの推測に小首をかしげて目の前のモニターをのぞき込むクマのパイロットは、何やらあいまいな返答だ。

「う~ん、そのどちらもだね! なんか中途半端な見てくれしてるよ。やけに? なんなんだろ、ボディと飛行ユニット、あれってロータードライブなのかな、今流行(はやり)のさ? そこだけそれなりしっかりしているんだけど、それ以外の手足がオマケみたいな感じでくっついてるよ。脚なんかあれってばただの『棒』なんじゃないのかな??」

「はい? 棒、でありますか?? いやはや、まったくわかりません。少尉どのっ、新型機ならばなるべくこの性能と仕様をモニターするべきなのでしょうが、随伴するサポートの機体がいない今の状況ではいささか難しいものがあります。こちらでなるべく解析トレースしますので、無理のない機体運用をお願いします。そのバンブギン、いえ、ランタンもこの性能試験の真っ最中でありますので!」

「わかってるよ! とにかくいざ会敵したからには真っ向からやり合わなけりゃならないんだから、おのずとデータも入ってくるさ! 相手がひ弱な見た目だからって、遠目からビームの一発で終わらせようだなんて横着はしないから。それじゃこの子の運用データもろくすっぽ取れないしね?」


「了解! 敵影、どちらも動きに変化ありませんが、こちらには気づいているものと思われます。いかがいたしますか?」

「どうするって、こちらから仕掛けるしかないんだろう、この場合は? さいわいあちらさんの頭上を押さえているからやりやすいよ♡ それじゃあ行ってみようか、そうれっ……!!」

 言うなり躊躇なく手元の操縦桿を思い切りに押し倒す少尉どのだ。それによりアーマーとしてはかなり大型なみずからの機体が頭から前のめりに空中をダイブ! こちらよりは低空を飛んでいる二機の敵機めがけて一気に突撃する体勢に入る。

 戦いがはじまった。

 さすがに空中での格闘戦はまだ慣れていないので、機体に装備されたビームカノンを相手めがけて一斉射!!

 この頭上からの不意の攻撃にあって、相手機はどちらも泡を食った感じでひょろひょろっとそれぞれが回避機動に入る。
 ほんとうにひ弱なカトンボみたいなありさまだった。
 ちょっと拍子抜けしたクマのパイロットは、目をまん丸くしてそんな相手のありさまをしげしげと見入る。


「なんだい、あんまり統制が取れてない感じだな、どっちも? ひょっとしてまだペーペーの新人くんだったりして?? あんまり攻め気を感じないんだけど、ちょっとおどしたらあっさりと逃げ出したりするのかな……? まあいいや、とにかくやることやるだけだよね!」

 そんな考えているさなかにも、頭上のスピーカーからはすかさずに若いメカニックマンによるのサポートが入る。

「少尉どのっ、敵機、二手に分かれました! さては挟み撃ちするつもりなのでしょうか? ですがそのランタンに装備されたカノンはほぼ全ての方位に向けて射撃が可能なので、どうか落ち着いて対処願います!!」


「はいはいっ、わかってるよ! 誰に言っているんだい? 余計な茶々は入れないでいいから、黙って相手のモニターに専念しておいでよ。こっちは心配ご無用! ぼくとこのランタンにお任せだね!! とにかく慣れるだけ慣れないと、相手がガンガン攻め込むタイプじゃないみたいだから、まずは距離を取っての打ち合いに専念するよ。両手のハンドカノンの威力をできるだけ発揮させるから、そっちもちゃんとモニターしておいておくれよ!」

「了解!!」

 自機の周りをぐるりと取り囲んで、互いに一定の距離を置いたまま時計回りに旋回する二機のアーマーに、対して機体の両腕に装備されたハンドカノンをぬかりなく構えて冷静に狙いを定めるベアランドだ。

 相手はやはり警戒しているものらしく、あちらからはいまだ仕掛けてくる様子がない。通常のそれよりも大型で、異様な見てくれしたこちらのさまに多少なりとも動揺しているのかもしれないと思うクマの少尉どのだ。さてはまんまと萎縮している感じか。

「ああん、やっぱりやる気が感じられないなあ? そうかい、だったらこっちからガンガン攻めさせてもらうよっ!!」

 2対1と数では劣勢だが、決してこの分は悪くないとみずからの腕前と機体の性能にそれなりの自負がある大柄なクマ族は、ペロリと舌なめずりして自分から見て右手にあるモニターの中の機体にこの意識を集中する。

 まずは一機ずつ、着実に対処するつもりで利き手のレバーのトリガーをゆっくりと引き絞った。
 直後、赤い複数の閃光弾が青空にまっすぐの軌跡を描いて走り抜ける! その先には標的となった見慣れない灰色のアーマーが、複雑な軌道を描いてこちらもただちに回避機動に転じる。
 ひとの手に追い立てられる、それこそ虫の蚊もさながらにだ。

 全弾回避! ハズレだった。

 それなりに狙いを定めたつもりのクマの少尉は、チッと小さな舌打ちして見かけ通りの身軽な機体を恨めしげに見やる。
 運動性能はかなりのものらしい。やはりそんなに簡単にはいかないかと、どこか余裕ぶっていた気持ちをグッと引き締めた。

※以下、挿絵の作製の段階ごとに更新したものをのっけていきます(^^) これまでは随時に画像を差し替えていたのですが、試しにですね♡

 もとの雑な構図の下書きに、もうちょっと具体的なイメージを書き込みました。でもまだまだざっくりしてますね!

 さらに描き込み♡ ちょっとわかるようになってきたでしょうか? これをさらに具体的に描き込みできればいいのですが、最終的な着地点は決まっていまいちびみょーなところに収まるのがシロートの悲しい性です(^_^;)

 とりあえず下絵は完了? 色まで付けられるかはビミョーです。べた塗りくらいはできるのか?? 色つけの課程も随時に公開していく予定です。ちなみに作画の課程はツイキャスとかで無音で公開していたりするので、興味がありましたら♡

 主役のクマキャラ、ベアランドだけベタ塗りで色を付けてみました(^^) 余裕があったらもうちょっと加工してそれっぽくしてみたいのですが、かなりビミョー、たぶん単純なベタ塗りでおわってしまいそうです。ちなみにインスタライブでやりました♡

 全体べた塗りしました(^^) これで合っているのかどうか作者ながらにビミョーです(^_^;) これより先に加工するかはまだ未定ですね…!


 他方、ベアランドからの猛攻に追い立てられる哀れなカトンボの立場のアーマーパイロット、見た目はとかくメジャーな犬種の犬族のモーリィは、悲鳴を上げてジタバタわめきまくる。
 狭いコクピット内に警告音と鳴き声がやかましく交錯する。
 端から見たらばまったく訳がわからないありさまだった。

「おわわわわっ、あかんあかんあかんあかん! なんでそないにぎょうさんビームばっか撃ちまくってくんねん!? しかもこのわしにだけ!! 不公平やろっ、あほんだら! あっちの相方のほうにも何発か見舞ったれや!!」

「なんでやねんっ! そっちでなんとかしいや!!」

 モニターの真ん中にでんと居座るでかい機体に向けて思わず口走ったがなり文句に、相棒の犬族からすかさず苦笑い気味のガヤが入る。
 現在、大型の敵のアーマーを挟んで対極に位置するこちらと同型のアーマーは、ひとりだけ我関せずのひょうひょうとしたありさまでのんきに空を飛んでいるのを苦々しげににらみつけるビーグルだ。ひん曲がった口元からうなり声がもれた。

「うぬうううっ、そやったらちょっとはじぶんも援護しいや! なんでわしだけこんないにガンガン派手にビーム当てられやならへんのや!? まだ当たってへんけど!! でもこないにきつうやられたら反撃もままならへんやろ!! おわあっ!?」

 言っているさなかにも、相手からは盛大なビームのシャワーがひっきりなしにこれでもかと送られてくる。とんでもない大出力のハイパワーエンジンを搭載していることをまざまざと見せつけられる思いの犬族だった。

 通信機越しの相棒がまたもや驚きのガヤを発する。
 いたってのんきな言いようがこれまたしゃくに障るビーグルだ。

「あちゃちゃ、マジでシャレにならへんのちゃう? こっちの射程圏内の外からでも余裕のパワーがありそうやん! おまけに三発四発、同時に見舞ってきよるもんなあ!? あんなんじぶんようよけきれとるわ!!」

「感心しとる場合ちゃう! マジで蜂の巣にされてまうやん!! どないしょっ、ちゅうか、じぶんも相手の背後(バック)取ってるんやから反撃せいや!! なんでわしだけひとりでこないないかついバケモンの相手をさせられにゃならんねん!!?」

 もっともな訴えに、仲間の犬族はやはりしれっとしたさまで応じてくれる。もはやかなりすっとぼけたものの言いようでだ。

「無理やろ。あいにくこっちの射程圏内の外っかわに敵さんおるんやから? 撃っても届かへんて。危なくて近寄れへんやろ。新品のアーマーを傷だらけにしてもうたら怒られそうやしなあ!」

「何言うとんねん! 戦争やぞ、ガチの!! ちゅうても確かにあぶのうて近寄れへんか! このアーマーの装備じゃミドルレンジのハンドガンがせいぜいやけど、あっちはバリバリ、ロングレンジのキャノンの威力かましてるやん! マジ反則やて!!」

 今や逃げ惑うばかりのまさしくカトンボのアーマーだ。
 味方からのまともな援護も望めないままに、絶望的な逃避行を続けている。敗色は濃厚だ。それを見て全てを悟ったかのごとく、相棒の犬族がしれっと問うてくる。

「どないする? さっさとシッポ巻いて逃げてまうか? 敵さんどんくさい見た目しとるし、スピードやったらこっちが上みたいやんか、そやったらいくらか援護したるで??」

「マジか!? じぶんすごいな!! そういうところ、ほんまに尊敬してまうわ!! でも一発も見舞わないまんまに逃げ出すんいうんはあかんやろ? 取り上げられてまうで、この新品の新型アーマー! どれだけ使いもんになるかわからへんのやけど?」

「じゃあ、やれるだけやってもうて、さっさとバックれんのがええんちゃうか? 射程圏外からでも無駄ダマ、バリバリ撃ってまうノリで? あちらさんはそれほど本気な感じがせえへんから、いざ背中見せて逃げ出しても追っかけてこうへんのちゃう??」

 もはや身もフタもない言いようにしまいにはうんざりするモーリィだが、内心ではそれが正解かと判じてもいるらしい。

「納得いかへんわあ、理不尽ここにきわまれりっちゅう感じやん? いざ新型で出撃したら、あないにわけのわからへん新型に鉢合わせするなんちゅうんは! なんかわしだけ目の敵にしとるし!!」


 完全にさじを投げた調子の相棒の意見にいやいやで同調する、こちらもまだ新人のパイロットだ。機転と経験で現状を打開するよりも逃げるが勝ちと相手機との距離を取ることに専念する。

 攻撃はもはや二の次だ。

 かろうじて敵の背後を取っている相棒の機体が形ばかりの援護射撃をくれたらば、それを合図に即座にこの場をとんずらするべく、前屈みでモニターの中の大型の緑色した機体を注視する。

 対してこれを迎え撃つクマ族の若いエースパイロットは、数で勝るはずの相手がそのくせ逃げ腰なのをはっきりと見て取って、とうとう呆れたさまの物言いだ。

「あらら、これじゃ勝負にならないね? 相手さん、完全にやる気がありゃしないよ、逃げてばっかりでろくすっぽ撃ってこないもん! こんなんじゃ敵のアーマーのモニターどころかこっちの性能試験もままならないや。どうしたもんだか……」

 乗り気がしないさまではたと考えあぐねるのに、こちらも若いクマ族のメカニックがスピーカー越しにもそれとわかる、いささか戸惑い加減で言ってくれる。

「少尉どの! あまり戦いを長引かせればこちらの機体の機密を敵軍に無駄にさらすことにもなりかねません。距離を置いての戦いはこちらも得意とするところではありますが、できるなら一気に間を詰めての早期の決着を考えたほうがよいのでは? 片方が墜ちればもう片方には逃げられる可能性が高いのですが…!」

「ああ、まあそれは仕方がないよ。ぼくもホシを稼ぐばかりが能ではないからね! この機体は確かに万能で性能が高いけど、だからって殺戮兵器じゃないんだから…!! これってただのきれい事かな? ま、それじゃ、見ててごらん!」

 どうやら何事か決意したさまで左手のモニターの中のメカニックマンにチラリとだけ目配せすると、いざ正面に向き直って高く意気を発するクマ族だ。

「さあてお立ち会いっ、初見の相手はみんなこぞって度肝を抜かれること受け合いだよ! このランタンの攻撃パターンの多彩さをぞんぶんに思い知らせてやるさ、それじゃ狙いをしっかりと定めまして……ん、いくぞ!!」

 モニターのど真ん中に捉えたくだんの敵アーマーにしっかりとロックオンしたことを確認するなり、そこにまっすぐに突き出したみずからのアーマーの右手と、すかさず怒号を発して利き手のトリガーを思いっ切りに引き絞る!!

「食らえっ、ロケットパアアアアアアアアーーーンチ!!!」


 かくして戦場は大混乱の様相を呈するのだった。

 相手のひっきりなしのビーム攻撃からほうほうの体で逃げ回る犬族だが、不意に何かしらの嫌な気配を察するなり、コクピット内に鳴り響く警告音にびっくりしてこの背後を振り返る。

 バックに配置された中型のモニターには少し距離を置いてこちらを追いかける大型の飛行アーマーが、そこでなにやらしでかしているのを激しいライトの明滅とともに知らせてくれる。

 ビームではない、何かが急接近しているのがわかった。

 かくしてそれが相手の腕から繰り出された、それはそれはどでかいゲンコツのグーパンチ、まさしく『ロケット・パンチ』だと見て取るや、この全身がひいいっと総毛立つビーグルだ。

「ななななっ、なんそれ!? うそやろっ、あかんやつやん!! マンガちゃうんやから、ロケット・パンチなんて反則過ぎるやろ!!」


 まっすぐにこちらめがけて飛んでくるでかい右手首、巨大な鋼鉄のカタマリに恐れおののくモーリィは、必死にペダルを踏み込んで機体を急旋回させる。追尾式だったらアウトだが、そこまでマンガではないことを心の底から願った。スピーカーからさすがにこちらもちょっと慌てたさまの相棒の声がする。

「なんや、そないなビックリ機能があったんかいな! ドッキリやん! 離れてて正解やったわ!! でもうまいことよけられたみたいやで? あっさり通り過ぎてるやんか、おまけにカウンターのチャンスやったりして!!」

「簡単にいうなや! でもそやったらこのスキに一発食らわしたるわ! じぶんもよう援護せいよっ、ん、なんやっ、あわわわわわわわわわわわっ!?」

 ぐるりと機体を旋回させてどうにか立て直した視界の先に浮かぶ謎のアーマーめがけて、すかさず手持ちのハンドガンを狙おうとしたところ、またしても激しいビープ音に見舞われる!

 なにもないはずの背後からの不意の警告に、ギョッとして振り返るビーグルの顔に絶望の影が走る。


 どうにかやり過ごしたと思ったはずの巨大なグーパンチからのしつこいビームの一斉射撃だ。完全に裏をかかれていた。

 これをよける間もなく機体に激しい振動を感じて肝が冷える。

 機体を襲う激しい揺れに背後に備えたフライトユニットが一部被弾したこと、画面に激しいノイズが走るのに頭部のカメラも被弾したことを一瞬にして理解すると、右手に装備したハンドガンを宙に投げ出して機体を急降下、海に墜ちるくらいの覚悟でその場からの緊急離脱をはかる!!

 命よりも大事なものはないとそれだけが頭の中にあった。

「ひいっ、そんなん反則やんか! よけたパンチから攻撃しよるなんて、卑怯すぎるやろこのあかんたれ!! 助けてくれっ!」

「おう、そやったら多少は稼いでやるからさっさと機体を立て直しい! まだキズは浅いやろ!! 基地までならギリギリ帰れるはずやっ、相手の注意を引いてやるさかい、ん、こっちに来よったで、ホシには興味がないんちゅうんかい、ええ根性やの!!」

「おおきにっ、おいっ、死ぬんやないぞ! 枕元に立たれてもしんどいわっ!! おわっ、また行きよったで、今度は左手のロケット・パンチやん!!」

 意気が合った犬族のコンビは口やかましい掛け合いがますますヒートアップする。いつもひょうひょうとしていたはずの相棒がいつになく熱いさまで口からツバ飛ばしていた。

「そないにワンパターンな攻撃を何度も食らうかいっ、追尾式でないならそないに出所がはっきりしとるテレフォンパンチなんて当たらへんてっ! よいしっょ、よけたで!! 背後から食らわされる前に一発見舞ったる!! そうれや!!」

「おうっ、やったやん! て、まるで効いてへんやん!! 当たってるよな、今のそのハンドガンの弾? あ、ちゅうかまさかあの敵さん、バリアっちゅうやつまで備えとるんか!?」

 意気盛んに食らいつく相棒の奮闘ぶりを目を丸くして見つめるビーグルの目つきが途端に怪しげな半眼のそれになる。
 旗色が悪いのはどう見ても変わらないようだ。

「くうっ、まだまだあるで! 胸のキャノンはハンドガンと威力がよう変わらへんから、この頭のレーザー食らわしたる!!」

「そないなもん効果あるんか??」

 他方、終始距離を置いてまるでやる気がなかったはずの敵のアーマーが俄然やる気を出して食らいついてくるさまに、ここに来てちょっとだけ感心するベアランドだが、いかんせんこの戦力差はどうにもならないなと内心で肩をすくめていた。 

「ああん、これはいよいよもって弱いモノいじめになってきちゃったね? モチベーションが下がることおびただしいよ! ん、てかあのアーマーの頭で赤くピカピカ光ってるのって、いわゆるレーザーなのかな??」


 やる気だけはあるようで、そのクセさっぱり空回りしている相手の機体のさまを不可思議に見やるが、それならばとこちらも手元の操縦桿を引き寄せてモニターの中のターゲット・スコープに狙いを付ける。

「なんか弱々しいけど、実は対人用だなんて言いやしないよね? 対アーマーだったらこのくらいの威力はないと! それ!!」

 いかつい大型アーマーのクマの頭部を模したような不細工なヘッドの左右の耳、もとい近接射撃用のビームカノンが激しく火を噴く!
 これには大慌てで機体を急降下させる敵の飛行型アーマーだ。

「あかんわ! まるでお話にならへんっ、こんなん大人と子供の力比べやんかっ、まるっきり!!」

「おうっ、もうええで! ええからさっさと逃げてまえっ、こないな化け物とやりあう義理なんてわしらみたいな安月給の非正規雇用にはあらへんわっ! バリバリ給料もろてる正規軍のひとらにやってもらお!!」

「ほんまやんなあ! あやうく死んでまうところやったわ、ちゅうか、シッポ巻いて逃げるっちゅうんわこういうことを言うんやんな! ほな、さいなら!!」

「おう、もう二度と会わへんで!!」

 ふたりの犬族は捨て台詞を吐くなりに最大戦速で戦域からの離脱、脇目も振らずに空の彼方へと消えていく。ものの10分にも満たない戦いは呆気のない幕切れを迎えた。

「あらら、逃げられちゃったよ! なんかすばしっこさだけは人並み以上だったね? 火力はそうでもないけど、このランタンでなければちょっと手こずるのかな? ま、何はともあれどっちもいいパイロットだよ、このぼくの見立てによるならば♡」

 逃げ去る敵のアーマーたちを見送りながら苦笑交じりにホッと息をつくクマ族の青年パイロットだ。これにはきはきとした口調のメカニックマンが通信機越しにねぎらいの言葉をかけてくれる。

「おつとめ、ご苦労さまでした! 少尉どの。被弾は確認しておりませんが、どうぞお気を付けてお帰りください。星は取れませんでしたがとてもいいデータが取れたものと思われます。おいしいお飲み物を用意しておきますので、寄り道などはなさいませんように」

「うん、ありがとう。とびっきりに冷えたおいしいカフェオレでも用意しておくれよ。たっぷりとしたとっても甘いヤツをね! それじゃ、これよりベアランド機、母艦のトライアゲインに向けて無事に帰還しますっと! めでたしめでたしだね♡」

 広く晴れ渡る青空のした、全身緑色のでっぷりと不細工な見てくれした大型アーマーが悠然とその帰路につく。

 それまで戦いがあったのが嘘のような穏やかなさまでだ。

 果たしてそれはほんのつかの間、嵐の前の静けさのごとくしたかりそめの平穏であったか。

 Part3

 母艦であるトライ・アゲインに帰還したクマ族の少尉、ベアランドを待ち受けていたのはくだんの同じクマ族の青年メカニックマンのリドル伍長であった。

 アーマーのコクピットハッチを開けるなり、そこにすかさず明るい笑顔で出迎えてくれる若い専属チーフメカニックに、こちらも明るい笑顔で応じるエースパイロットだ。

 ハッチから半身を乗り出した顔の前にスッと突き出された飲み物入りのボトルを反射的に利き手で受け取って、コクピットから全身を抜き出すとそれをそのままグビグビと一息に飲み干すでかいクマさんである。

「おっ、ありがとさん! んっ、んっ、んんっ、ん! ぷはあ、おいしいね! リドルの煎れるカフェオレは絶品だよ♡ お砂糖の加減も実にいいあんばいだしね!」

「はっ、ありがとうございます! 任務、ご苦労様でありました。あとはこちらですべて引き継ぎますので、何かこれと気になった点はありましたでしょうか? あとンクス艦長より、後でブリッジに上がってくるようにとの要請がありました。今後のことについてのお知らせがあるとのことで?」


「ありがとう! そうかい、おおよそはこれから合流する予定の増援部隊についてなんだろうけど、楽しみだね♡ それじゃ早速顔を出してこようかな? ん、まだシーサーの機体は戻ってないんだ? あの勝手にリニューアルされちゃったヤツ??」

 飲み干したボトルをまた受け取り直すクマの青年機械工は、見上げる大柄なクマのパイロットにまたはきはきとした返答を返す。

「はい! ウルフハウンド少尉どのは本艦の周囲を索敵警戒中、ついでに機体の稼働性能実験も兼ねたモニターの真っ最中だと思われます。あいにくこの担当はじぶんではなくビーガル副主任なので、詳しくはわからないのですが……!」

 了解するクマの隊長さんは苦笑い気味にうなずく。

「ああ、あのでかいクマのおやじさんね! シーサーとはそりが合わないみたいだけど、じきに仲良くなれるんじゃないのかな。なんたってリドルとおんなじ、あのブルースのおやっさんのお弟子さんだったて話だから、腕は確かなんだしね♡ シーサーもそんなに分からず屋じゃありやしないさ!」 

「はい! じぶんもそのように思います。それではこの場はこのじぶんが引き継ぎますので、ベアランド少尉どのはメディカルルームでお休みになってください。チェックは必ず受けるようにとのこちらは軍医どのの要請でありすので。じぶんが怒られてしまいます」

「ああ、あの陽気なおデブのおじちゃん先生か! おんなじクマ族相手だと力の加減がまるでやってもらないでちょっと痛かったりするんだよな。ま、そっちには後で行くって言っておいてよ、先に肝心のブリッジ、あの強面のスカンクの艦長さまのほうを済ませてくるからさ! それじゃあとはよろしくね♡」

「了解!!」

  最新鋭の大型戦艦の船底に位置するアーマーのハンガーデッキから、この最上階に相当するブリッジ、本船を指揮する責任者である艦長がいる第一艦橋まで歩いてたどり着くのはかなりの骨だ。階段なら優に数百段とあり、タラップなら気が遠くなるような頭上を見上げてこれをひたすらよじのぼらねばならない。

 よってショートカットとなるこのデッキ部から艦橋まで直通の専用エレベーターでそこに向かうクマ族のパイロットだった。
 これを使えるのはごく限られた一部のクルーのみだ。
 パイロットなら正、副隊長以上、メンテナンスの人員では艦橋から許可が降りねば原則利用禁止。

 高速エレベーターはものの十秒足らずでおよそ100メートルの高低差を駆け抜けてくれる。

 音もなく開いた扉の先には、広い通路ごしの真正面に艦橋への大きな専用気密シールド隔壁、大きく「01」と数字の描かれた両開きのスライドドアがあった。

 人気のない通路を大股の三歩で横断。


 するとあらかじめ登録してあった本人の生体認証でその到着を感知したドアが耳障りでない程度のおごそかな音を立てて左右へと開かれていく…!
 わざわざこんな音がするのは振り返らずとも艦橋への出入りがあったことを察知させるための措置なのだろうと思いながら、ずかずかとこれまた大股で中へと踏み込むクマ族の隊長さんだ。

 戦闘態勢の解かれた平時のブリッジ内は明るくて平穏な空気に満たされていたが、いつもなら入るなりに方々から掛けられてくるクルーたちの挨拶がないのにふと首をかしげるベアランドだ。
 みんな息を潜めているのか、誰もこちらを振り返らずにみずからの職務に専念、しているように見せかけてその実、この注意はどこかあさってのほうに向いているようにも見える…??

 なおさら首を傾げさせるクマ族だが、あたりを一度見渡してそこでまっすぐ正面に捉えたものにしごく納得がいく。


「ああ、なるほどね…! うちのボスが例のワケあり艦長さんと通信中なのか。なんか不穏な空気かもしてるけど、さては何を話してるのかね?」

 その場でぴたりと足を止めて頭の上のふたつの耳をそばだてるベアランドだ。不用意に話しかけて会話を中断させるより、盗み聞きしてやろうとにんまり顔で気配を押し殺す。

 艦長席にどっかりと陣取った椅子からはみ出した大きなシッポが特徴的なスカンク族の老年のベテラン艦長は、ついぞこちらを振り返ることはなかったが、それが見上げる正面の大型スクリーンの中で大写しとなる相手の艦長職らしき中年の犬族は、こちらをちらとだけ一瞥してくれたようだ。


 さては感づいているものか?

 相変わらず抜け目がなくていやらしいおじさんだな!と内心で舌を巻く。

 自然と苦笑いでしばしの沈黙からやがてスカンクの艦長がもの申すのに周りのクルー同様、黙ってこれにじっと耳を傾けた。

「……しかしだな、当該戦域の指揮を任されている責任者がいまだ雲隠れしたままと言うのは、現場の指揮にも関わるものだろう? 新型の戦艦戦力を温存したいのはわからないでもないが、指揮官としてはその姿を示してしかるべきものだよ……!」

 どこか浮かないさまの口ぶりしたベテランだ。
 そうたしなめるようにして頭上のモニターへと問いかける。
 そこに顔面度アップで大写しの白い毛並みの犬族は、こちらもいささか暗い顔つきして視線をどこかあさってへと向けて返すのだった。

「いやあ、こちらもいろいろと理由(わけ)ありでして……! 姿を見せたいのはやまやまなのですが、肝心のアーマー部隊がろくすっぽ稼働できないありさまで。面目ない。先生、もとい、ンクス艦長の応援をいただいてまことに感謝することしきりです。ついでに優秀なアーマー部隊も少し分けていただけたらば、感謝感激雨あられなのでありますが……?」

 ひょうひょうとした口ぶりでおまけのらりくらりとした言い訳をモニターのスピーカー越しに垂れ流してくれる犬族だ。
 言葉ほどには申し訳なくも感謝しているようにも思われない。
 それを察しているらしいこちらのスカンク族も冷めた調子でまた返す。背後で聞くクマ族、ベアランドは思わず吹き出しそうになるが、どうにかこらえて艦長席の影ごしに正面モニターの切れ者艦長のしれっとした顔つきをのぞいていた。


「パイロットを選り好みしすぎなのだろう、しょせんキミは? みずからができるからと言って、それを他者にまで求めてばかりいては誰もついては来られまい。加えてそう、己の本心をこれと明かさないとなればなおさらだ……」

「いやあ、なんでもお見通しなんですなあ、こいつはまいった! 確かに返す言葉もありません。艦はこれを本拠地としているから隠していたのですが、心強い援軍があるならば今後は堂々と顔を出せるでしょう。話じゃ、ほかにも援軍はあるようだし?」

「うむ。キミの古くからの戦友であったよな? ならばアーマーの補充はそちらに頼めばよいのではないか? あいにくこちらにはその余力がない」


「はあ、しかしながら同輩には極力、借りをつくりたくないのでありますが。あいつはがめつい。食欲から性欲から、何かと欲張りなのはよくご存知でしょう? そのせいもあってかこのクルーもクセが強いヤツらばかりだし」

 淡々とした会話の中にどこかピリピリとした空気が漂う……。

「ふうーん、あのおじさんもこっちに出張って来るんだ? なんだか騒がしくなりそうだな♡」

 話の流れから誰のことなのかおおよそで想像がつくクマ族の隊長さんは、したり顔してこのまあるい頭をうなずかせる。
 そろそろ出てもいいもんかなとタイミングを見計らった。

「腕のいいパイロットといいアーマーはできればセットで保持したいものです。戦場では何かと不足しがちなものではありますが。わたしは部下が無駄に命を落とすことがないようにこのあたりには特段に気を遣っておりまして、そのせいで今回のような不足の事態を招いたのはまことに遺憾であります。そのあたり、折り入って頼みがあったのですが、今はとどめておきます。いらんクレームを付けて来そうなくせ者がいるようなので……!」

 あ、やっぱりバレてる……!

 モニターの中の犬族の艦長さんが何食わぬさまして、そのクセしっかりとこちらに視線を向けているのに苦笑いが一層濃くなる大型クマ族だ。するとやっぱりこれを察知していたらしいスカンクがこちらを見もせずに言ってくれる。

「出てきたまえ、ベアランド君。この彼はキミも旧知の仲だろう? そちらに増援として行く必要もあるかもしれない、今のうちに顔合わせをしておいたほうが話がスムーズにゆくだろう」

「おっ、さすがはせんせい! よくわかってらっしゃる。おい、出てこいよでかグマ! じゃなくてベアランド、だったか?」

 でかグマ……!

 ひさしぶりに耳にする呼び名だった。
 これを口にするのは頭上の有名軍人さま以外にはいない。
 かくてふたりに促されて仕方なしに顔を出すそれは大柄な熊族の隊長さんだ。苦笑いして真っ向からモニターの中の艦長職と向き合った。



「あはは♡ こいつはまいったな、ぼくのこと覚えててくれたんだ、教官どの? 悪漢ジーロ、もとい、ジーロ・ザットン大佐どの? 性格ぐれてる鬼教官どのが、現場に復帰されたとは聞いてはいたんだけど。まあ、あんまりいいウワサは聞かないよね!」

「おかげさんでな? 生意気な生徒に好き勝手言われて、そのままおめおめと引き下がるほどにはひとができていないんだ、このぼくは。言うだけのことがあるものか、きちんとこの目で拝ませてもらいたいもんだし。そちらさまはとっても優秀な戦績を納めているらしいな?」

 最後のは皮肉なんだろうと受け流しながら、苦笑いで応じる。

「それはどうだか? ご想像にお任せするよ。だからってまさかこのぼくをトレードしようだなんて言いやしないよね、腹の内がさっぱり読めないこのやり手の艦長さんときたら?」

「ふん、それほどとぼけてもいないさ。どうせならもっと従順で扱いやすいヤツのほうがいい。おまえさんのようなやることなすことおおざっぱで力任せなクマ族よりは、そうさな、慎重でありながら機敏でかつ鼻の効く、ま、このおれのような犬族あたりがベストなんだろうな」

「?」


 何か含むところがありそうな言いように、隣の艦長席のスカンクとちょっとだけ目を見合わせるクマ族だ。
 小首をかしげながらにぼそりと小声で隣に声を掛ける。

「犬族? ああ、そういやそんな新人くんたちがじきにこっちに来るんだっけ? このぼくの部隊に配属される予定の??」

「うむ。今日中に合流の予定だが。まったく抜け目がないことだ。機密情報をどこで聞きつけてくるものやら…!」

「フフ、まんまと横取りされないよに気をつけないとね! まずは新人くんたちをしっかりと歓迎してあげないと」

「そのあたりはキミに一任する


「了解♡」

 そんなしてふたりでごにょごにょとやっていたら、モニターの向こうの犬族が何やら浮かない顔してしれっと言ってくれる。

「ああ、まあそのあたりのことは後々に。その前にそちらの隊長どのには新人くんたちを引き連れて、一度こちらに顔を出してもらいたいもんだ。よろしいですよね、先生? こちらも丸裸でこの艦を敵にさらすわけにもいかない都合……」

「丸裸?」

 どういうことなんだと右手の艦長席のンクスに改めて目を向けるが、大ベテランの艦長はさてと肩をすくめさせるのみだった。
 そこにフッと鼻先で笑うみたいなノイズを残して白い犬族がおもむろに敬礼してくれる。

「では! 久しぶりの再会、まことにうれしく感慨深く思います。とりあえずそっちのパイロットも含めて。互いの健闘と勝利を祈りまして、今回の通信を終わらせていただきます。あと、アーマー部隊はすぐにでも遣わせていただきたいものであります。でないとこちらの身動きがとれませんので……では」

 何やら好き勝手なことをひとしきりほざいて相手の犬族の艦長からの通信は一方的に閉ざされることとなる。
 しばしの沈黙の後、クマ族の隊長はおおきく左右の肩をすくめさせる。

「まったく相変わらずだよね、あのおじさん! いいトシなんだからもうちょっと丸くなってもいいもんなのに」

「キミのひとのことは言えないのではないか? まあ、ある意味打って付けなのかもしれないが……」

 こちらも多分に含むところがありそうな物言いのキャプテンに、当のチーフパイロットはあっけらんかと応じてくれる。

「何が? そう言えば艦長はあのおじさんの直属の上官だったりするんだよね、その昔は? だったらぼくって孫弟子あたりにあたるんだ? あんまり自覚がないんだけど」

「なくてよろしい。今の話の流れでもう伝えるべきことは伝わったはずだ。それにつき何か質問はあるかね?」

 真顔で問うてくるンクスに、のんびりしたクマの隊長さんはさあと頭を傾げさせる。

「まあ、例の新人くんたちはこっちで引き受けちゃっていいんだよね? ブリッジにもしょっ引いて来いって言うんなら、連れてくるけど、いざ現場方の最高責任者さまがお相手とあっては、きっと震え上がっちゃうんじゃないのかな♡」


「その必要はない。すべてキミに一任する。言ったとおりだ」

 まったくしゃれっ気のない冷めた顔の艦長に内心で肩をすくめるクマさんだが、折しもそこで静まり返っていた周りのオペレーター陣にちょっとした動きがあったようだ。

 不意の電子音とともにいくらかの応答を交えて、中でも特に見覚えのある犬族の男がすぐさまこちらに振り返って報告を入れる。

「艦長、増援部隊、ビーグルの新型が二機、まもなく艦に合流するとのことであります! 受け入れは二番デッキでよろしいでしょうか?」

「うむ。両機とも、大いに歓迎すると伝えてくれ」


「お、新型のビーグルか! それって例のアレだよね? 何かと問題ありってうわさの♡ ちょっと見るのが楽しみだな、もちろん新人のパイロットくんたちもだけど! それじゃ早速、ハンガーにとんぼ返りして出迎えに行ってくるとするよ」

「ああ、アーマー単体の長旅だったのだからまずは休ませてやるといい。部屋は用意してあるはずだ。あとキミも、ちゃんと休養を取ることだ。パイロットとしてはこれもまた重要な責務ではあるのだからな?」

「了解♡」

 くるりときびすを返してブリッジを後にするアーマー部隊隊長だった。艦長からの忠告に軽く右手を挙げて答えながら、さてこれから忙しくなるぞっ!と舌なめずりしてズカズカと来た道を戻っていく。
 やがて艦に合流することになる増援部隊のありさまに想定以上の驚きがあることをまだ知らない彼だったが、波乱に満ちた戦いの予感は心のどこかにはもうすでにあったのかもしれない。


 以下、#011へ続く…!



 


Part3の流れ、プロット
ベアランド、母艦トライアゲインに帰還。
リドルの出迎え。
ウルフハウンドはまだ出撃中。くだり~
ベアランド、ブリッジに上がる。
艦長、ンクス、戦域統括官のジーロと通信中。
ベアランド、艦長と会話。
援軍の説明。
#011へ~…


 





 ドラゴンフライの兵装
 ミドルレンジのハンドガン
 ショートブレード
 胸部装備 実弾カノン
 頭部装備 レーザーカノン



状況
 ベアランド ランタンのコクピット内から
 リドルと交信
 ジーロ・ザットン ダッツとザニー
 モーリィ、リーンと交戦この

記事は随時に更新されます(^o^) 応援よろしく!

プロット

モーリー リーン 登場
ベアランド隊と会敵



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おデブなクマのブゥさん♡ 新規イラスト第二弾!

おデブなクマさんサーファーズ! ブゥとビフのコンビで鮮烈デビュー!! 無料の画像DLデータも公開します(^o^)

 前回の記事で作成したブゥさんのサーファースタイルに、おデブなクマさんシリーズのビフも飛び込み参加させました♡
 デブデブサーファーコンビの爆誕です(^^)/

 ボディやボードのロゴを取っ払った、シンプルバージョンです。イラストソフトがあればお好きなロゴを入れることもできます♡ 塗り絵にも(^^)/ ダウンロードデータは以下より↓

 さらにロゴを入れた完全(?)バージョン! 画像の下から無料の画像データがダウンロードできます(^^)

 とりあえずベタ塗りしました(^o^)

 ベタ塗りパターン① オーソドックスなカラーリングです。

記事は随時に更新されます(^^)

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おデブなクマのブゥさん♥ 新作イラストリリース!

おデブなクマのブゥさんこと、Bear Booのイラストを新しくいたずらにはじめちゃいました(^o^) とりあえず夏っぽいヤツですねw

 とりあえず夏っぽいヤツで、サーファーのスタイルなのですが、いわゆる前回シリーズのLGBTQイメージの展開もするかどうか思案中です(>_<) イラストは無料でDL可能な画像データとして公開予定! ご自身の利用目的の範囲での健全なご利用をお願いします<(_ _)> 当該画像の著作権は譲渡不可です。

サーファースタイル・ブゥさん・線画

サーファースタイル・ブゥさん・ロゴ入り線画 塗り絵にもなります!

サーファースタイル・ブゥさん・ロゴ入りベタ塗り シンプル・カラー①

記事とイラストは随時に更新されます♥ イラリクOK!

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ルマニア戦記/Lumania War Record #006

#006


 Part1

 田舎の前線基地を発ってから、およそ丸二日――。

 その日の朝方には予定にあった合流ポイントである、砂漠の中継地点にまでたどり着いたベアランドだが、そこにはもうすでに仲間たちの姿は無かった。

 そこでただひとりだけ待ち受けていた、若いクマ族の整備士にして補給機のパイロットにおおよそのいきさつを聞いて、それからすぐにじぶんたちも中立地帯のオアシス都市国家を飛び立つこととなる。

 事態はことのほか、急を要していた。


 幸いにも機体にこれと目立った損傷がないことで、移動しながら機体の点検をおざなり完了。とりあえずでオールグリーンだと年少のクマから聞かされるこちらもまだ若い青年のクマ族は、ご機嫌なさまで大きくうなずく。

「はっはん! 傍目には3対1の大ピンチってヤツをさ、頭脳戦でまんまと無傷で勝ち抜いてやったからね♡ そうだ、あとでシーサーにお礼を言わないと。あいつが前の戦いで見事にぶっ壊してくれた赤いふとっちょのアーマー、やっぱり調子が悪かったみたいでさ、土手っ腹に不意打ちでビームをぶちかましたら見事にうろたえまくってくれてたもんね? おかげですんなりとバックれられたし! 広い戦場でいずれまた巡り会うこともあるのかなぁ、そしたら今度はちゃんとお相手してあげないと♪」

「はあ、ほぼ無傷であったのはさすがに驚きました! 自分もちょっとは覚悟をしていましたから。ウルフハウンド少尉どのは無理をしなくていいとおっしゃっていましたが、このタイミングならばひょっとしたら、こちらのほうが早く目的地にたどり着けるのではないでしょうか?」

 いくら有能で腕のいいメンテナンスでも、ろくな設備もない中でただのひとりでは、こんなデカブツのアーマーはどうにも手に余るのだろう。

 そんなちょっとほっとしたさまのリドルの言葉には、したり顔して返すクマの隊長さんだ。

「まあね? とは言ってもあちらさんは予定を早めてさっさと製造港(ドック)を出発しちまうんだろう? 極秘開発があっさりとバレて敵さんにあぶり出されるカンジでさ! 西岸一帯にいくつもダミーの港があるんだから、ただちに袋だたきになんかされないまでも、出来上がったばっかりなのが護衛のアーマーもなしの丸腰じゃしんどいよな。さあて、どうしたもんだか……!」

「はい! 機密を保持する以上、こちらからヘタに通信するのは得策ではないかと。でもそれではあちらの状況がまるで掴めませんし、援軍であるこのぼくらとの連携も取れません!」

「まあね。ごちゃついた状況の把握ってのは、俯瞰で見るのが一番手っ取り早いんだよな? てことはそうだな、一発あれをやるしかないか! 前にもシーサーの時にやったことあるし、距離を稼ぐのには打って付けだもんな、このぼくのランタンが特技、必殺の弾道ミサイルダイブ!!」

 そう言いながらもひとりでしごく合点するのに、はじめモニターの中で不思議そうな顔したクマ族がはたと首を傾げる。

 ※テキストと画像は随時に更新されます(^^)


「はい? 弾道、ミサイル……?? あ! それをやるならもっとちゃんとしたチェックを! 大陸間弾道ミサイルさながらの弾道軌道で大気圏を突っ切るだなんて、普通のアーマーにはできない芸当でありますから!!」

「あっは、まあまあ! そこは細かいこと言いっこなしで♡ この際なんだからさ。リドルはなるたけ急いで追っかけておいで。はじめに見た時より見た目がいかつくなったけど、それってローターエンジンを増設して航行能力をより高めたんだろ? さてはおやっさんの取り計らいで本国からはるばる送ってきたんだ!」

 話をすり替えられて調子が狂う若いクマはこれに戸惑いながらも返した。


「あ、はい。おかげでウルフハウンド少尉どのたちにまんまと置いてけぼりにされました。手伝いが必要なら怪力のベアランド隊長どのがおられるとかで……あはは。でも実際は現地のスタッフさんに助けてもらいましたから。でもそれだから先発の少尉どのたちよりも先に新造戦艦、『トライ・アゲイン』には合流できます!」

「ん、ああ、そっか、トライ・アゲイン……か! そんな名前だったっけ? そうか、なら善は急げだな! 時期を逸してそれこそが名前の通りにまた「再挑戦」だなんてことになったら、笑うに笑えないもんね。ようし、エンジン全開! ぼくらの新しいお家(うち)に向かってはりきってぶっ飛ばすよっっ!!!」


 Part2

 ベアランドたちがバタつきはじめた頃とほぼ同時刻――。

 ところ変わって、こちらは大陸西岸域に位置する某地方国家の大きな港街だ。

 巨大な港湾施設がコンクリで固められた岸壁にそびえる。

 いわゆる大型の大規模造船所施設なのだが、高層ビルが縦にそのまますっぽり入るほどの直径の円筒を横に据えたカタチの建造物は、およそただごとではない異様な見てくれだ。

 事実、それを裏付けるかにしてこの巨大な円筒の暗がりには何やら巨大な物陰がそびえ、無言で鎮座する。

 それが大陸中央に位置する大国により密かに建造されていた最新型の軍艦だとはまだ一般には知る者はいないはずだ。

 そんな静けさに満ちたドックに、突如としてかまびすしい警報がわんわんと鳴り響く。

 半円型の特殊巨大ドーム内の照明が灯され、闇に座していた新造戦艦の巨大な勇姿を浮かび上がらせた。

 ※イラストは随時に更新されます。

 すでに海面からは巨大な船体を浮かせた航空航行をスタンバイさせていた戦艦の最上部、メインブリッジとなる中央戦術作戦指揮所の中に、あるひとりのブリッジクルーの声が響いた。

「艦長! グレッカ港湾行政本部より、本艦のただちの出港、港および都市部より離れた海上への待避要請が入っております!」

 ブリッジ中央に据えられた大型の艦長席に腰を据える人物へ向けて緊迫した物言いに、対するこの艦長とおぼしき男は無言でただアゴをうなずかせる。

 物思いにふけるような厳しい眼差しでただまっすぐ先を見据えるベテランの軍人に、まだ若い見た目の通信士の犬族の男は困惑したさまで続ける。

「たく、これでもう三度目です。こっちはまだ出来たてホヤホヤでろくな試験飛行もしちゃいないのに、冷たいったらありゃしませんぜ! おまけに肝心のアーマー部隊だっていやしないのに、丸裸で戦場に出撃しろだなんてな、あっちの守備隊のアーマーを回すくらいの機転を利かせろってもんでしょうに? そう言ってやりましょうか??」


「やめなさいよ、ビグル軍曹……!」

 おなじく犬族の通信士で若い女性のクルーにたしなめられるが、これと隣り合わせで座る男は嫌気のさした顔を左隣に向けて肩をすくめさせる。

 ブリッジ内は緊迫した空気が漂うが、それまで無言だった初老の艦長は険しい表情でやがては重苦しい言葉を発した。

「……いや、言ったところでおよそ無駄だろう。あちらはあちらで都合がある。大国の横暴で港を長らくいいように占領されて、あげく戦火にまみれるだなどと馬鹿を見るようなことは間違っても避けたい、しごくまっとうな意見だろう。こちらも文句を言えた義理ではないものだしな……!」

 一呼吸置いて、それからまた重たい口調のセリフを続ける艦長だ。

「やむを得まい。港湾には了解の旨を伝えておけ。こちらはただちに発進、街には戦火の及ばない沖合の洋上へと艦を遠ざけると……! メインエンジン、第一、第二、予備運転から戦闘出力運転に切り替え! 副エンジンも順次にフルモードに移行、全力をもって艦の運航に当たれ! これは試験運転ではない!! 全艦に通達、本艦はこれより出航、戦闘状態に突入する!!」

 号令を立て続けにかます壮年のスカンク族にあたりの空気が一変する。

 艦長席の正面に据えられたメインモニターのスピーカー越し、動力機関ブロックやその他の部署からの了解の返答が幾重にもこだました。


 武者震いするみたいに全身を小刻みに揺らす犬族の通信士がそれでもまだどこかおどけたような調子で応答する。

「了解! 後に合流する予定のベアランド隊にも打電を打ちます。貴公らの母艦はこれより戦闘に突入、早いとこ追いつかないと置いてけぼりになるぞっと! てか、ほんとうに間に合うんですかね? 奴さんたち」

「話では大した男なのらしいぞ? ちょっとやそっとの無茶なら平気でこなすような。そのための新型機でもあるのだし、期待だけはしておいてやろう……」

 また肩をすくめさせる通信士から目を離して、正面に向き直る艦長は真顔でさらなる号令を発した。


「本艦艦長、バルゼア・ンクスである。諸君らも知っての通り、ただ今はかなり困難な局面ではあるが、優秀なる諸君らの尽力の下、本艦は無事に危機を乗り越えることを信じて疑わない。この新型艦のちからを存分に見せつけてやろうぞ!!」

 軍では有名なベテランの鼓舞に、ただちに複数のスピーカーから気勢がどっとばかりにあふれ出す。

 これにより艦内の士気が上がるのを確認するスカンク族の艦長、バルゼア・ンクスはうむと小さくうなずいて、最後の号令を発令した。

「これより全艦、第一次戦闘態勢! 微速前進、ドックを離脱の後、面舵一杯! ただちにメインエンジン出力最大のこと!! 総員対ショック用意、公海上まで一気に突っ走れっ! さあ、晴れての初陣だ、思う存分に暴れてやるがいい!!」

 頭上のスピーカーからまた、おおお!と気勢が上がる。

 周りを見回せばそれぞれに緊迫した面持ちのクルーたちが了解して頭をうなずかせる。やはり緊張しているのか言葉が出て来なかったが、まだ若い士官候補たちを鼓舞するべく胸を張って仁王立ちする艦長はひときわに高く喉を震わせる。

「ルマニア軍最新鋭艦、フラッグシップのお披露目だ。今こそ世界にこの勇姿を見せつけてやろうぞ! 航空重巡洋艦『トライ・アゲイン』発進!!」

 ※こちらのセクションはまだ執筆途中です。随時に更新してまいります(^^)

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ルマニア戦記/Lumnia War Record #005

#005


 現地時間、AM3:30 


 作戦開始の時刻になった。

 まだ東の地平から朝日の気配も感じられぬ夜更けに、田舎の前線基地の外れにある見るからにオンボロなアーマーの格納庫には勇ましいロボット兵器のエンジン音がかまびすしく鳴り響く。

 まだ世間的には公表すらされていない二機の新型開発機と一機の旧型機種が、今しもスタートを切るべく横並びの直立不動で起立する。
 
 あいにく部隊にはまだ隊長格らしきが不在なもので、このデッキの主たるベテランメカニックのブルドックの親父の声を待つのだった。


 それだから最新鋭機のよりいかつい見てくれした機体の中でその身を落ち着ける若手のでかいクマのパイロットも、陽気な鼻歌交じりで例の味のあるしわがれ声が景気のいい号砲を放つのを今か今かと待ち受ける。

「ふっふふ~ん♪ さてはて、これでこの問題だらけのオンボロデッキともめでたくお別れだな! 配備先の新造戦艦にはそれ専用のハンガーデッキがあるっていうから、ずいぶんと気が楽になるよ。ただし頼りになるブルースのおやっさんはいないんだけど……」

 これを最後にしばらく世話になったこの基地とは永遠におさらばなのだが、となればベテランのメカニックとも長いお別れ、それなりに礼を言いたいところだ。

 だがあいにくと耳に入ってきたのは同僚の何かとつっけんどんなオオカミのものだった。

「おう、そろそろいいよな? つーか、そっちの合図がなけりゃこっちの出るタイミングがわからねえだろ。いいからぼけっとしてないでよろしく頼むぜ、ベアランドの隊長さんよ!」

「え、ああっ、そうだな……! て、隊長? あれ、シーサー、今なんて??」

 出し抜けのセリフにぽかんと口を開けてしまう。

 部隊を仕切る立場となる辞令などまだどこからも出されていないはずだ。


 ただの噂ぐらいでは聞いたことがあったが、実感が持てないところに無愛想な相棒から言われてひたすら目がキョトンとなる。

「隊長だよ! 何度も言わせやがるなっ!! はん、しっかりしやがれ、体力バカの野放図なクマと張り合っても疲れるだけだし、こちとら見てのとおりで生まれつき一匹オオカミな性分だから、隊長さんだなんて性に合いやしない。納得の上で譲ってやるんだぜ? だから今日から名実ともにあんたがこの部隊の大将だ!! そら、それじゃ先に行ってるぜっ!」

 一方的に言いたいことだけぶちまけると全身が銀灰色のスマートな機体がただちに前のめりにヒビだらけの滑走路を駆けっていく。

 通常のギガアーマーにはありえない身のこなしと駆け足のアーマーは、それこそあっという間に夜の暗闇にその姿を消し去ってしまった。

 それを半ばあっけにとられて見送るベアランドだ。

「あっ、シーサー! それじゃこの先の中継地点で無事に会おう! ……て、いいのかね? このぼくなんかで??」

 あいにくとこの己自身が部隊を仕切るのに適しているとも自覚していない呑気な若造だ。

 そう自分に問いかけてしまうのに、残る一機のアーマーからはまたなおさらに若い青年の言葉が掛けられてくる。

「はっ! いいのではありませんか? 自分もウルフハウンド少尉どのがおっしゃっていた通り、ベアランド少尉どのがきっと適任なのだと思われますので。どうかこの即席部隊を無事に目的地まで導いてください。それでは自分もウルフハウンド少尉を追って発進します。こちらはかろうじて空を飛べますが、巡航速度はどちらにも負けてしまいますので……では!」

「あっ、みんな気が早いな! でもリドル、おまえはあくまで補給機のパイロットなんだからムリなんかするんじゃないよ! 戦いはシーサーと基地の外で合流する第三部隊のみんなに任せてさ! あー、なんか緊張してきちゃったな? 責任重大だっ……」

 唯一空を飛んでの戦闘が可能な機体として、今回の作戦では部隊から独立した行動をする都合、ひとりだけ取り残されて居心地が悪くなる。

 ドックに残っているのはあとはじぶんとここのメカニックマンの親父さんだけだ。

 それとなんと別れを惜しんだものか考える間もなく当の野太くしわがれた声が二つの鼓膜をビン!と震わせる。

「ふん、今さら何を力んでいやがる? いつだって太平楽なクマ助が、柄にもねえこと言うんじゃねえや。いいか、こっちは可愛い弟子を預けてやるんだ、もっと堂々と構えてくれねえとおちおち昼寝もできやしねえだろうが! やっと御役御免で悠々自適な老後を過ごそうってのによ」

「ははっ! まいったな? まだそんな落ちぶれてもいないくせに! いずれまた可愛い息子さんには会わせてあげるから、それまでボケずに頑張っててくれよ、おやっさん? 危ない橋を渡るのはリドルじゃなくてぼくらパイロットの仕事なんだからさ! あいつは腕がべらぼうに立つスーパーメカニックってことで♡」

「フッ、そう願う。だがシビアな戦場はそんな建前ばかりじゃ通用しねえだろ? あいつだってそれなりには覚悟を決めているはずだ。何はともあれよろしく頼むぜ、クマ助、ベアランドよ」

「約束するよ……! それじゃ、ベアランド小隊、新たなる戦地を目指してこれより出陣、互いの幸運と再会を祈る!」

 物言いが達観した声の主はその姿こそ見えなかったが、きっとどこかで見守ってくれているのだとわかっていた。

 ブルドック族特有のしわくちゃな顔がなおさらしわくちゃになるのを見せまいとして、どこか物陰にひそんでいるのだと。

 まだ未明の暗い空に、最後の新型アーマーもゆっくりと滑走路を滑空してはやがて暗い空へと飛び立っていく。

 目指すは大陸西岸の僻地の属領。

 新たなる戦いが幕を開けようとしていた


「えっと、ぼくらがこれから乗り込む予定の最新鋭の新造戦艦、いわゆる旗艦、フラッグシップって言うのかな? ずいぶとん大きくて見栄えがいいけど、ほんとにこの設計モデルの図面のとおりにできてるのかね? あとこの船の名前の『T・A』って、なんの略だったっけ??」

 正面のディスプレイに大写しに映し出されたうわさの戦艦の模型図を半分がた猜疑の眼差しで見上げながら、う~んと腕組みするクマ族のパイロットだ。

 俗にルマニアと称される東大陸の西岸に位置する属領で秘密裏に建造されている新型の大規模航空巡洋艦は、そこにみずからが乗るこの新型機のアーマーの専用ドックが配備され、これまでより充実した整備と補給が可能となる。


 一緒に田舎の前線基地を出発したじぶんよりも若いクマ族のメカニックの受け売りだが、母国の首都とは比べものにもならないひなびた地方のそれよりは格段に環境が良くなることは間違いがないのだろう。

 見渡す限りを自然に囲まれてしばらくはご無沙汰していた無機質でメカニカルな空間が待ち遠しいクマの若きエースは自然と鼻歌まじりで操縦桿を握っていた。

 大陸北西の辺境国家からは、目的地まではおおよそ三日ほどかかるだろう。


 もとい厳密には一日とちょっとなのだが、二手に分かれて出発したウルフハウンドたちの別働隊が陸路であることから必然的にそのようになる。

 こちらは機体の性能で単身空路なのだが、直線で突っ切れるところをわざわざ回り道しての航路、ずっと北側よりのコース取りとなった。

 しばらくは敵国との国境ギリギリを進む陸路部隊の隠密行動を支援すべく、みずからが囮となってより目立つ高空をのんびりと巡航、なるたけ敵の注意を引きつけつつ、のらりくらりと立ち回ってからただちに戦域を離脱、南下した先の砂漠のオアシス都市国家群の中立地帯で仲間と合流、後に目的地までの道のりを無事に踏破する……!


 言えばなるほど単純だが、やるのは至難の離れ業だ。

 いかにアーマーの性能が良くとも限度はある。

 致命打を食らえば、はい、それまで。

 そこまで行かなくとも自身が巡洋艦までたどり着くのが困難となり、最悪どことも知れぬ山奥や砂漠でひとりぼっちで遭難だなんてことにもなりかねないのだから。

「ふっふ~ん♪ ん……っ」


 風に吹かれようがビクともしない鋼鉄の巨大兵器の体内でうずくまるクマはいかにも呑気なさまだが、これがやがて何かを予期したかのごとく正面のディスプレイの図面を消してその先に見えた青い空に目を凝らす。

 基地をたってからおよそ三時間ほど。

 それまで静かだったコクピット内にけたたましい警報が鳴り響いたのは、その直後の事だ。

 ※ストーリーと挿し絵は随時に更新されていきます!

「おっと、ようやくおいでなすったか……! 反応が三つ! やっぱりあの厄介なのとその取り巻き連中さんたちかい、ん、でもあっちのあの赤いおデブさんのヤツって、確かこの前シーサーとやり合って……?」

 やがてモニターに最大望遠で映し出された、色からカタチからそれぞれに特徴がある見慣れない機体に合点がいったり首を傾げたりのベアランドだ。

 したり顔して舌なめずりしていた。

「そのそろいもそろってカテゴリー識別不明の機体ってばさ、つまりはきみらも新型機の運用実験ってヤツをしてるんだろ? ははん、お互い大変だよな! でも機体性能ではあいにく負けてないんだ、このぼくのランタンは! さあ、この前の続き、楽しい一騎打ちをしようか? そうとも銀色のやたら速いきみは、もうはなからそのつもりなんだろ??」

 これまでの相手の戦いぶりからあちらは機体の性能を試すのが最大の目的なのだと知れていた。

 万一にも手傷を負えば、あっさりときびすを返す。

 ただし中でも一機だけ。

 そう、おそらくはリーダー格にあたるのだろう隊長機らしきは執拗にこちらとの正面切っての戦いを挑みかけてきた。

 まるで強い敵との戦いを望むかのごとく、ライバルを求めるがごとくにだ。

 そのかたくなな相手の胸の内があまり理解しかねる陽気なクマさんは苦笑いで応じてやるのだ。

「ほんとにしつこいよな! だったらこっちも本気にならざるおえないよ、後悔しても恨みっこなしだからね!!」


 コクピットの中でひとり意気を上げるクマに対し、こちらはもう一方の敵方、三機のアーマー追撃部隊。

 中でもレーダーに捉えた標的をモニターの正面に睨み据える、眼光鋭いひとりの男がいた。

 その顔つきを見ればまだ若いのだろうが、一分のスキもない堂々たるさまで深くシートにその身を落ち着ける。

 それがやがては独り言かのように静かに言葉を発した。

「……ふむ。このようなわかりやすい場所で、加えて単機で、ずいぶんと呑気なありさまだな。相変わらずひょうひょうとしたやつばらよ。見つけて下さいと言わんばかりの不用心ぶり。セオリーは一切無視、か……」

 冷静なさまで互いの射程距離まであとギリギリに迫る大型の敵アーマーを見つめる、若いキツネ族のパイロットだ。

 かくて相手の意図するところをこれと真顔で推測している内に、それを脇から渋い声音が茶化すように言い当ててくれる。

「はあ、やっぱり囮(おとり)ってヤツですかね? ありゃあ??はなしじゃあいつ以外の別動部隊が海岸線沿いに先行してるらしいんですが、えらい勢いで追尾しきれないらしいですぜ! 国境の守備隊はあっさりとまかれちまって、今はもう隣国の山岳地帯をひたすら爆走中だとか。相手になるのは目下、こうしてお空を飛べるこの俺達くらいなんですが……」

「あいにくこっちにヤマを張っちまってそっちはすっかりノーマーク! いいや、もとよりそんなもん相手にする気なんてありやしないんでしょう、我らが隊長殿は? なんせ出会ってからこれまであっちのデカブツくんにゾッコンなんだから!!」

 左に続いて右からも含んだような低めの声音が届いて、口元をかすかにゆがめるキツネのパイロットは鼻先から軽く息を吐く。

「いかにも。興味はない。わたしの狙う獲物は目下、あれのみだ。それ以外は捨て置いてかまわぬ。どれ、ここからは手はずどおりだ。貴様らは一切、あれに手出しをするな」

 鋭い視線を左右に流して、また正面に向き直る隊長どのだ。

 するとこれに少しだけ不服なさまでまただみ声がぼやく。

 正面のモニターの左右に四角い小窓が現れて、左側に映った見るからにタヌキ面したタヌキ族のベテランパイロットが大柄な身体を露骨にすくませる。


 これにまた右側の小窓に映ったこちらは小柄なイタチ族でやはりベテランとおぼしきパイロットが応じた。

 間髪入れぬテンポの良さだ。

 さてはいいコンビなのらしかった。

「了解! ですがいざって時は、旦那、俺等はただのお飾りじゃねえんだ、必要と見たらすかさず横ヤリ入れますぜ? うまそうなごちそうにさっきから武者震いが、腕が鳴ってしょうがねえ! ま、万が一にもそんなことはないんだろうが……」

「たりめーよ! やいブンの字っ、おれらの旦那を誰だと思ってやがる? なにを隠そうこのお方こそが東の空に敵なしの『神速の雷刃(らいじん)』、二の太刀(たち)いらずのキュウビ カタナ様だろうが!!」

「ふっ、いかにも無用の心配だ。だがブンブ中尉、貴様の機体は前回の戦いにおいて少なからぬダメージを受けているのだろう。あれとの戦いにいかようにして割って入るつもりなのだ? おまえたちは見届け人であればいい。結果は知れているのだから」

 キツネ族の隊長はおよそ自分よりも一回り以上は年上のベテランたちを部下に従えているのだとわかる。

 気勢をあげる左右からの文句をしれっと聞き流してひらりとやり返す。

「うっ、そこを突かれたらもはやぐうの音も出ませんぜ! ちきしょー、俺もアイツと遊びたかったぜー、こちとら試したいことが山とあるのに!!」

「諦めろよ、旦那がいる以上、しょせんおれらには出る幕なんてありやしないんだ。せいぜい敵のアーマーのモニターに徹して本部にゴマを擦ってやるくらいだろ、ま、大事な新品の機体を損傷させちまったその修理の代金くらいにはなるだろうさ?」

「ううっ、おめーもいちいちチクチクきやがるよな! このすかしっぺめ! せいぜい蚊蜻蛉(かとんぼ)よろしく鳴いてろよ、間違っても巻き添えくらって地べたにたたき落とされねえようにな!!」

 左右の耳で威勢のいい掛け合いをやはり涼しい顔で聞き流すキツネの隊長だ。

 これが足下のアクセルペダルをゆっくりと踏み込む。

「双方、このわたしの『ゼロシキ』の射程はわかっているな? こちらから良いと言うまでは間違っても入ってくるな。ゴッペ中尉も機体の身軽なのをいいことに目障りな動きは無用、この場にとどまるのが無難だ。巻き添えを食いたくないのなら?」

「へいっ、こいつは参った、おれまで一発入れられちまった! 了解、おおせのままに。旦那のお楽しみの邪魔は間違ってもしやしませんぜ」

「あ~あ、たく、俺等、完全に三下扱いだな? こんなことなら別動隊の追撃にでも向かってれば良かったぜ!」

「笑止。その機体では前回の二の舞がせいぜいだろう? ならば次に取っておけ。あの二番手のアーマーもその実力はただならぬ物がある。万全でなければ貴様らでも手に余るほどにな」

「ぐぬぬっ……!」

「どの局面においても油断は大敵よ。それが故にわたしはすでに認めている。見てくれいっかな正体の知れぬあれこそが、その実この生涯においても真のライバル、それたりえることを……!」

「へぇ、そこまでですかい?」

「いざ、参る!」 

 全身を渋いシルバーにまとった鋭角のシルエットの機体がうなりを上げて前方、全身緑に塗りたくられた見た目ブサイクなロボットへと挑みかかる。


 ビッ、ビピッ、ピーーー!

 耳に障る鋭いビープ音!

 警報とほぼ同時のタイミングでメインモニターの奥に控える銀色の機体が突如、真正面から急接近してくる!!

「おいでなすった! やっぱりキミかい!!」

 三機捉えた敵影の中で、やはりはじめに動いたのは一番見慣れた渋い銀灰色の機影だ。


 その見かけ大型の戦闘機が、爆音もろともしたギリギリの過ぎ去り際に直立反転、いきなり右手に構えた銃口を突きつけてくる……!!

 いやはや見てくれただの戦闘機、ジェットフライヤーだったはずだろう。

 それが手品のような抜く手も見せぬ素早さで人型のロボット、ギガ・アーマーへと変身変型していることに内心で舌を巻くベアランドだ。

「ほんとに器用だよな! 狙いも正確だし! あんな傍から見てビックリするくらいに単純な変型機構しといて、でもそれだけにまったくスキを見せずにバンバン早変わりしてるもんな!!」


 大型ロボット用にあつらわれたこれまた大型のハンドガンの銃弾を機体を背後にのけ反らせてギリギリでかわす。

 機体の前面に常時、不可視の電磁シールドを展開していても、至近距離で実体弾を食らってはおよそ無傷では済まされない。

 装備自体がまだ調整中の実験開発段階であり、熱粒子の半実体弾、いわゆるビームやレーザーのような光学兵器ならかなりの相殺効果を期待できるものが、旧来の武装にはこれまでの経験上ほぼフルパワーでオンにしなければしのぎきれないことがわかっていた。

 基本、火器管制と機体制御をひとりでこなさなければならないこの機体ではスイッチの切り返しはなかなかにホネだ。


「守りにばっかりちからを割いていたら、いざ攻撃や高速機動しようって時にパワー不足になっちゃうもんね? しっかしほんとにしつこいよな!!」

 続けて二撃、三撃と機銃掃射をぶちかましてくる相手に舌打ちして応戦、こちらも至近距離から相手目掛けて腹部のカノンをお見舞いする。

 複数ある中から一番火力のでかい正面の左右一門ずつのメインを発砲!

 この際、右手で引き金を引く寸前に左手でシールド制御のスイッチをoffにする。

 正面に強固な干渉フィールドを張ったままではビームの威力や精度射程を狂わせかねない。


 基本は一つの高出力エンジンで機体の全てを切り盛りしている都合、このほうがより攻撃系の兵装の威力を発揮できた。

 相手はシールドらしきを装備していないようだから当たればそれなり期待できたが、あいにくあっさりとこれを回避、またしても戦闘機形態となって上空へと逃げられてしまう。

「ああっ、もう、ほんとにめんどくさいな! キミってば!!」

 対してこれを背後、眼下の緑の海の中に見据えるキツネの隊長どのはかすかに喉を震わせてしごく納得した物の言い様だ。

「ふっ、かくも鈍重な見てくれの機体でよくもこのゼロシキの動きに付いてくる……! ならば貴様はよほど名のあるパイロットなのだろうな!?」


 相手の顔を見てみたいものだと内心で感心しながら、手元のスロットルレバーを一気に己側へと傾けた。

 機首を真下へと反転させた戦闘機が重力に飲まれるままに急降下、ブサイクな大型ロボめがけてダイブする!

「あっぶないな! でもそれでいきなり変型だなんてできやしないんだろっ? 激しいGがかかった状態でそんなことしたら自殺行為だもんなっ!! くうっ……!」

 目を見開いて迎え撃つベアランドは冷静にターゲットスコープの狙いを絞るが、あっという間に過ぎ去っていく敵影にまたしても舌を巻く。


 地面目掛けて突撃するくらいの勢いで飛び去った銀色の怪鳥は眼下に広がる緑の絨毯をギリギリにかすめながら旋回上昇、おまけにこちらへと機銃を掃射してきた。

 ぬかりがないこと戦闘機からロボットへ切り替えのタイミングが絶妙らしく、一秒とかからないように見える。

 機体にかかる重力や大気との摩擦、気流なども読んだ上での手品じみた機体さばきだと理解するクマはこれがゲームだったら白旗上げてやりたい気分だ。

「凄いプレッシャーだよ! キミってば正真正銘のエースパイロットだ!! あえて一騎打ちを挑んでくるのもそうだけど、お仲間さんもまるで動じていないもんな? ちょっと視界にチラチラするのが気になるけど、ん、待てよ……?」

 所詮は多勢に無勢だろう。


 強敵相手に無理に応戦するよりもどうにかお茶を濁してこの場を立ち去れないかと頭を巡らして、さっきからモニターの端っこに消えたり映ったりしている残りの二機に意識が向く。

 あちらは参戦するつもりはまるでないものらしいが、これをあえて巻き込むのもひとつの手かと頭の中の計算機がはじきだす。

 悪知恵ひらめいた悪童みたいな目付きで舌を見せるクマは操縦桿に全身の力を込めた。

「シーサーに感謝してやらないといけないね♡ ようし、そうと決まれば! 見てなよ、みんなビックリさせてやるぞ!!」
 
 真っ直ぐに向かってくる隊長機とおぼしき相手の機体と残りの二機との距離を測りながら、わざとうろたえたかに機体を後退させる。


 相手の機銃掃射をギリギリで交わしながら、接近戦を挑むアーマーにビームを見舞った。

「さすがに当たりやしないか! でもあいにくと狙いはそっちじゃないんだっ、本当の狙いってヤツは、そうらっ、食らえ!!」

 素早い動きに必死に食らいつくかに機体を旋回させて、また発射したメインのビームカノンの射線上にあったものは……!!

 #006へ続く……!

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