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DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア○記/Lumania W○× Record #024

新キャラ登場!

新メカも登場!!



 #024

  Part1


 朝から快晴。

 打ち寄せる波もいたって穏やか。

 言うなれば比較的大型の軍用艦だから揺れなどさして気になることはないが、たまには外に出て日光浴くらいしたいものだ。

 なのに周りを金属の分厚い装甲板で囲まれた薄暗いアーマー格納庫の中で、息をつまらせながら待機しているのに若干の嫌気がさす若いネコ族の女子パイロットだった。

 油臭く湿った空気は肺に取り入れるのも億劫だ。

 どうせならもうみずからのアーマーに乗り込んでしまおうかと待機所からデッキに顔を出す。

 外に出るとなおさらに油と金属の匂いが色濃くなるのに眉をしかめながら、細くて長いキャットウォークを早足で音も立てずにするすると渡っていく。

「……!」

 見渡す道の途中で見知ったでかい影が立ちはだかるのが薄暗闇にもわかるが、邪魔だなと思いながらそのすぐ手前までつけた。

 ビクともしない影はこちらに見向きもしない。

 これをじっとその横顔を見上げてしばし無言でみつめるネコ族の女子だ。

 あいにくであちらは微動だにしないのだが……。

 相手はクマ族のこちらもまだ若い男で、それがのんきなさまでいつまでも突っ立ているのにやがてかすかなため息を漏らす。

 大抵が性格のおおざっぱなクマ族だからなのか、生まれつき鈍感なのか、仕方もなしにこちらから声をかけた。

 欲を言えばさっさと気が付いて道を開けてほしかったのだが。

 もはやいつものことながら。

「カノンさん。道、開けてくれない? こんな細い通路でそんなとこに突っ立ってられたら、邪魔でどうにもならんのよ。ね?」

 問うてもまるで無関心なさまに、相手がうすらとぼけているわけではなくてご機嫌に音楽か何かを聴いているのだと気づく。

 良く耳を澄ましてみればその口元からいささか調子っぱずれな鼻歌が聞こえるし、左右の耳もイヤホンで塞がれていた。

 こいつなめとんのか?

 内心でイラッとしながら、ちょんちょんと相手の肘のあたりを指先で小突く女の子だ。

 これにようやく相手に気が付いたらしい大柄なクマ族、それもかなりの肥満の部類に入るだろう太っちょのアーマーパイロットの青年は、そこではじめてちょっと意外そうな顔でこのネコ族のパイロットスーツを見下ろす。

 それでどうやらやっと認識してくれたものらしい。

 やっぱなめとるやん!

 見上げるネコ族の目つきが険しくなる。

「……おお、イワック、いたのか? 背が小さいし普段から気配がないからわからんかったのじゃ。で、なにをしておるんじゃ? そんなところにぼさっと突っ立って??」

 でかい大男が男にしてはちょっとクセのある高めの声でかなりのんきなさまでぬかしてくれたセリフに、またため息ついてだらだらと文句を垂れるネコ族のイワックだ。

「はあ、それはこっちのセリフなんよね! もう準待機から戦闘待機に変わっているんだから、わたしらパイロットはさっさと持ち場につかなきゃならんのよ。そもそもカノンさんのアーマーはこの下の一番デッキにあるんだから、そっちの通路を使えばいいってわたしいつも言ってるはずよね? あっちのほうが道幅も広いし!」

 責めるような目つきと言葉つきできつめに言ってやるが、相手の神経ことさら鈍感なクマ族はまるでひとごとみたいにえへらとかわしてくれる。まるで気にしたふうがないのが丸わかりだ。

 ネコ族のイライラゲージがまた一つ上がった。

「おお、悪いがこの下の通路はメンテのキョカスが使うからほぼ一方通行なんじゃ。あいつはおれよりもでかくて太っちょるから、これと鉢合わせたら引き返す意外に道がないんじゃ。ちょっと遠回りだけど確実なルートだから、それにこの高いところからの景色がおれはとっても好きなんじゃあ!」

「はあ? おかげでカノンさんの専用道になっとるがね! わたしが迷惑してるんよ、何度言ったらわかってくれるの? あと景色って、こんな薄暗くて殺風景なアーマーデッキじゃ、見るものなんてなんにもありゃしないがね。ほんとにあきれるくらいにのんきだよね? そんなんでこの先一緒に戦っていけるのか、ほんとに不安になってくるよっ……!」

 思わず嘆いてしまうネコ族の女子に、とことんマイペースのクマ族どんまい男子はどんとみずからの胸を叩いて大口叩く。

「ははん。心配ないんじゃ、イワックは心配性が過ぎる。ネコ族はほんに小心者ばかりじゃの! おれのようにゆったりかまえていないと、何かにつけて神経をすり減らして戦場では生き残っていけないのじゃむしろ。心配せんでもおまえの背中はこのおれがきっちりと守ってやるのじゃあ!」

「口先だけで終わる時があるからこわいんよ。ああもう、後衛よりも前衛のほうがより危険にさらされるし、致命打も受けやすいのもほんとに理解できてるんかね? このわたしが敵にやられて落とされちゃったら、次はカノンさんの番なんだよ?」

「その時はその時じゃあ! 地獄でまた会おうなんじゃ!」

「ああ、もうほんとに……! あのさ、せめてあの世にしてよ。天国とか贅沢言わないから! はあっ、もういいや、さっさと戦闘配置につこうよ。どいて。邪魔だから。はじめに出るのはでかくて足がのろいカノンさんのアーマーでしょ?」

 これ以上やりあったら頭の回路がショートしてしまうと内心のイライラを必死に押さえて不毛な立ち話を終わらせるのに、相手ものんきなさまで鷹揚にうなずいてくれる。

「おう。おまえの出撃ルートはきっちりとこのおれが確保しておいてやるんじゃ。ほんに腕が鳴るのう! バリバリの新型機を拝領して今日がようやくの実戦なんじゃから、このおれたちは? 言ったらコンビでそろって初陣なんじゃな! 記念すべき!!」

「初陣……なのかな? あんまり実感がないけど、慣れない実験機の演習死ぬほどやってきたから! それじゃとにかく頑張ろうね。あたしの背中、カノンさんに任せるよ。間違えて撃ったら許さないからね? 大事な時にいつもテンパるんだからさ」

「おわわ、化け猫のたたりは勘弁ねがうんじゃあ! イワックは本当に化けて出て来そうだからこわいんじゃ。でもその時はおれも死んでる可能性が高いから、やっぱり地獄で会うんじゃな? わざわざ化けて出なくてもばっちし会えるんじゃ!」

「だから地獄はやめようよ。あと縁起でも無いこと言わないで。わたしこんなところでさらさら死ぬ気ないし。もういいからとにかくがんばろ」

 しまいには肩を落として微妙な顔つきの相棒に、片や明るい笑顔でおう!と応ずるクマ族のカノンだ。それがくるりと大きな背中を向けてのっしのっしと通路を揺らして歩いて行く。

 でかい影が隠していたじぶんの機体へのタラップをようやくこの視界の中に取り戻して、そちらに向かいながら相棒のクマ族の背中に言葉をかけるネコ族だった。

「カノンさん! 耳のイヤホンちゃんと取りなよ! それ付けたまんまじゃ艦長に怒られるからね? 軍の規則で私物の持ち込みは禁止になってるでしょうに、アーマーのコクピットにはさ!」

 おう!と片腕上げて気楽に応ずる背中がそのまま暗闇に溶けるのを見送って、タラップをタッタと早足で降りるとその先でキャノピーの大きく開かれたみずからの機体にただちに身を滑り込ませるイワックだ。

 後からバタバタと忙しい足音が聞こえるのに、今頃になってメカニックたちが駆けつけてきたのかとこれを横目で見ながら、さっさとコクピットのキャノピーを閉じた。

 今の今までのんきにタバコだとかを吸っていたのだろうから、ヤニ臭い匂いをかがされるのはゴメンである。

 どうして男ってこんなんばっかりなんだろうと恨み言こぼしながら、出撃の時を待つネコ族の女子パイロットだった。


 Part2


 耳にガンガンと響くかまびすしいサイレンが、広いデッキ内に延々とこだまする。

 だが外部から分厚い装甲で隔離密閉されたアーマーのコクピットの中は、穏やかな静けさに包まれていた。

 ようやく気を落ち着けてみずからのパイロットシートに身をゆだねるネコ族の女子パイロットだ。

 そのイワックは、今は澄ました顔でただ目の前の大画面のモニターディスプレイを見つめていた。

 よくよく耳を澄ませばこのコクピットのキャノピー越しになにやらガヤガヤとした気配や声らしきも聞こえてきたが、もはや何もないものとして完全に無視する。

 どうせろくなものでもないのだろうから。

 良く見知った間柄のメカニックマンたちが無駄な気勢を吐いているだけに違いない。

 そういわゆる体育会系男子のノリで。

 正直、付き合ってやる気分じゃなかった。

 折しもそこで短い警告音が鳴って、アーマーの出撃シークエンスが開始されたことを知らされる彼女は、しごく落ち着いた心もちでディスプレイに映し出される景色のみを眺める。

 軍用艦としてはとかく特徴的なでっぷりとしたフォルムの中規模航空母艦は、このアーマー射出カタパルトが艦の中央にひとつだけ据えられており、まずはこの遮蔽されたアーマー・デッキの先端部分に大きな口がガポリと開いていくのがわかる。

 暗闇に太い光りの束が差し込み、画像を拡大すればその先に青い空と海がまぶしく広がるのがわかるだろう。

 それがつまりはアーマーの出撃時の発射口で、カタパルトはこの内部から外へとジェットコースターのレールのようにまっすぐ長くせり出すのだった。

 それに機体を預けて果ては強力なGを受けながら一瞬にして青空の彼方へとたたき出されるのだが、大気との摩擦抵抗で激震する機体の安定確保や減速なしでの最大戦速機動などはおよそ一朝一夕にできるものではない。

 新型の機体でようやく満足な出撃アプローチができるようになったイワックは、じぶんよりも大型のアーマーで今しもそれに臨もうとする相棒のクマ族の機体を無言で見つめていた。

 じぶんの乗る機体よりも下側のデッキに固定された全体がやけにゴツゴツとしたいびつなカタチのアーマーは、その機体各部の固定ボルトを外されて、まさしくデッキ中央のカタパルト射出台へとそのでかい身柄を移送されていくところである。

 出撃まではおよそ秒読み段階。

 発進コースクリア、機体、カタパルトともにオールグリーンのパイロットランプが表示されるのも横目で確認。

 まずは先行して出撃する同僚に、行ってらっしゃい!と心の中で激励するネコ族の細めた目元がだがわずかに見開かれる。

 直後、すっかり静けさに満ちていたはずコクピットに、その大型機のコクピットからの通信回線が開かれた。

 出撃間際なのに。

 それだから出し抜け耳朶を打つ甲高いハイトーンボイスに思わず面食らうネコ族の女の子だ。

「ああー、こちら、ガマ・ガーエルのカノン! おい、イワック、聞いておるか? なんだか静か過ぎて息が詰まるんじゃあ! ちょっとはしゃべってくれんかのう? でないと出撃をミスってしまうかもしれん、おれはこう見えて繊細な心の持ち主なんじゃ! とってもとってもデリケートなんじゃあ!!」

「はっ? 知らないよ! めちゃくちゃしゃべっとるじゃん! あのね、そんなんじゃ舌噛むよ? いいからさっさと行ってよ、後がつかえているんだからさ!!」

「そういういらちは戦場では孤立して往生するんじゃが! もっと気を楽にして臨まないと、実力の半分もだせんのじゃろう? 気が強くとも緊張しいなんじゃから、おかげで後ろから見てるおれもガチガチにテンパってしまうんじゃ! 射撃精度がだだ下がりなんじゃあ!! たのむ、おれを安心させてほしいのじゃ!」

「ほんとに知らないよ! そんなのカノンさんの勝手な都合じゃん、わたしにどげんしろっちゅうのよ? ああ、もうっ、ここで言い合っても仕方ないんだからさっさと行ってよ! 行って! でないといつまでたってもこのわたしがっ……!」

 出撃前からしょうもない言い争うになってしまう若気の至りの若者たちだった。

 だがすると不意の短い警告音が鳴って、これを仲裁するべくした第三者が忽然と現れる。

 真正面のディスプレイに四角く開いた窓枠にバストアップの大写しで現れた犬族の士官の姿に、ハッと緊張するイワックだ。

 落ち着いた真顔にかすかな笑みを浮かべるベテランの上官はこの戦艦の艦長で、詰まるとこで場を仕切る最高責任者である。

 これまでのやり取りがダダ漏れで筒抜けだったのがわかって、内心でバツが悪い思いに駆られる根が真面目なネコ族の准尉は、これに反射的に利き手で敬礼をしてしまう。

 空いているほうの手でさりげなくパネルを操作してこの見かけ渋い中年イヌ族の隣に同僚の若手パイロットのクマ族を並べてやるが、すると思ったとおりぼけっとしたさまで口が半開きのでぶちん丸メガネの少尉どのだった。

 おい、ちゃんとしろよ、デブ!

 内心でヤジって表面上は落ち着きはらった体裁を取りなす。

 そんなじぶんの内心を見透かしたかのようなかすかな苦笑いを目元と口元に浮かべる艦長のシブおじは、怒るでもなくむしろおどけたふうなやんわりした口調でスピーカーを震わせてくれた。



「……フフッ、ほんとに元気なぼうやたちねぇ? 失敬、ひとりおじょうちゃんもいたものかしら? で、あなたたち、出撃も何もまずは艦長であるこのわたしに挨拶するのがスジなんじゃないの? ブリッジの出撃命令も聞かずに出ていっちゃうつもりなのかしら? この状況もろくすっぽわからないまんま??」

「あっ、いやあ……!」

「ほうれ、だから言ったんじゃあ! 短気は損気じゃって!!」

「言ってないよ! カノンさんは黙ってて!! 艦長、お言葉ですが敵がこちらに向かってくるとの情報を得ての出撃だと聞いております。ならばなるべく迅速に出撃して、これを速やかに迎撃するのが得策なのではないかと考えられますが……!」

 大まじめに思ったことをまんま率直に言ってやるに、モニターの中の渋い中年士官はちょっと意外そうにこれを聞いてくれる。

「あらま、ほんとにいらちなのね? まあいいわ。あなたの言ってることもちろん間違いではないけど、急いてはことを仕損じるとも言うのよね。ふたりともちょっと深呼吸してお聞きなさい」

「はい……?」

 何やらもったいつけた相手の言葉に、きょとんとした目で見上げるネコ族の女子なのだが、対して相棒のクマ族などはすっとぼけたさまで生まれついての天然ぶりを発揮させる。

 ただちに相棒ににらみ付けられた。

「ならおれはもう出てしまってもいいじゃろうかのう? さっきからカタパルトがゴーサインを出しっぱなしなんじゃが?」

「カノンさん! 空気読んでよ! リスタートすればいいじゃんさっ、艦長の話を聞いてからでいいでしょうがっ!?」

「ふふ、まあそんなに大した話じゃないのだけどね。そう、このわたしからあなたたちに言うべきことは、ベストを尽くすこと、決してあきらめないこと、そしてどんな手を使ってでも生き延びることよ。あなたたちの代わりはどこにもいないんだから、ね? ちゃんとここに生きて戻ってこられたなら、それだけで後はもう何も望むことはないわ」

「はい??」

 てっきり迎撃するにあたっての作戦概要や敵アーマーの諸元などが指示されるのかと思いきや、なんだかやけにおっとりとした言いようでぼんやりしたオーダーである。

 これにはじめ目をパチパチとしばたたかせてしまうイワックだった。

 優しいまなざしのおじさんの隣で、同僚のクマ族もぽかんとしたありさまだ。

 言わんとしていることはわかるのだが、あんまり戦場を陣頭指揮する司令官の口から出たとは思えないゆるいお題目である。

「ま、平たく言っちゃえば、テキトーでいいから死なない程度に頑張って、今をどうにか乗り切りなさいってお話よ。戦場は誰しも命がけだけど、実際に命を落とすのは馬鹿らしいってこと。ね、この意味、あなたたちにもようくわかるでしょ?」

 果ては完全に肩の力の抜けたさまでひょうひょうとぶっちゃけ発言かますそれは大ベテランのイヌ族艦長だ。

 対してちょっと当惑したさまでこの目をひたすら白黒させるネコ族のパイロットだった。

「え? ちょ、なんですかその軍人らしからぬふざけたもの言いは? テキトーって、上官が言ったら一番ダメなワードでしょ! ハザマー艦長はいっつもそうやってちゃらんぽらんだけど、もっとまじめにやってくれないとわたしたちが困りますよっ、遊びで戦争してるわけじゃないがね! だってこどもの遠足とはものがちがうでしょうが!?」

「ま、遠足でひとは殺さないものね? 死ぬこともないし」

 日頃からとかくひょうひょうとしておどけた態度口ぶりがデフォルトの食えないおじさんに思わず噛みつくが、相手はニヒルな笑みで口元をニッとゆがませるばかり。

 カノンが天然発言するのもむなしく響いた。

「いいや、おれはそんなハザマー艦長のゆるいところとっても好きじゃあ、頭ごなしに言われるよりよっぽど腑に落ちるし、元気が湧いてくるんじゃが? 出撃はちゃんと母艦に返ってくるまでが出撃なんじゃ! イワックもそうは思うわんのか?」

「それは遠足のときに校長先生が生徒に向かって言うヤツだよ? ここは戦場なんだから、そんなゆるいノリじゃ乗り越えられるはずないんよ。もういいよ、さっさと行って、カノンさん!」

「おう、いいんじゃが? 何を不機嫌になっとるんじゃ?」

「いいから!」

 プイと横を向いて視線を逸らす同僚の女の子に、きょとんとしたさまでクマ族は艦長のイヌ族と画面越しに目を見合わせる。

 ひどい苦笑いで頭の帽子のツバを目元へと落とす艦長のハザマーは、片方の細めた目だけでふたりを見て意味深な口ぶりだ。

「ほんとにいらちなおじょうちゃんね。でも無理はしないで、欲張らずにやれるだけのことに努めるのよ? 今回はそれで十分。こちらの有効射程ギリギリいっぱいで迎撃機動に専念、決して深追いはしないこと……! ふたりともくれぐれも気をつけてね。それじゃあ、いってらっしゃい!」

「なっ……!?」

 それって、家を出るこどもにオカンがいうことやがね!

 内心でもやもやがイライラに変わる渋い面のイワックに、今しもカタパルトを大空へと走らせる相棒のカノンが追い打ちする。

「よっし! そいじゃあ、カノン、ガマ・ガーエルで出るのじゃ! 頑張って元気に、行って来まあああ~~~すっ!!」

「ああもうっ、すっかり遠足のノリになっとるがね! こっちはすぐ横でメカニックたちがどんちゃん騒ぎしてるし!! まじめなやつがひとりもいないがね!!」

「ふふふ、あなた、そんないらちだとケガするんじゃないの?」

「しません! それじゃあイワック、アマ・ガーエル、カノン機に引き続いて行ってまいります! とっとと出撃するがね!!」

 いつもより短いスパンで出撃する二機のアーマーコンビ。

 これを今はモニターではなく肉眼でブリッジからこの航跡を見やる艦長のハザマーだ。

 苦い笑いはそのままに、ふと視線を落としてふたりに問いかける。通信はとうに切れたままにだ。

「こんな不甲斐ない艦長さんでごめんなさいね。でもね、あなたたちの悪いようにはしないから。約束する。わたしはね、疲れてしまったのよ。あなたたちのような前途ある若者たちが戦場で力尽きていくのを見続けることに……! だから、そう――」

 手元の小型ディスプレイにいくつかの画像を映し出すイヌ族は、そこに虚無的な目線を投じてひそかな決意を吐露した。

「どんなにわずかな希望でも、それが決して許されないことであっても、それに賭けることにしたのよ。わたしはね? この意味のない長い戦いをここで終わらせるために。だから生き延びてちょうだい、今のこの時を、道は必ず、あるはずだから……!」

 静かに手元のディスプレイを閉じるハザマーは、それまでにない険しい視線で部下たちの消えて行った遠い空を見上げる。

 どこまでも晴れ渡る青い空に、刹那、二つのきら星がかすかなまたたきを見せたか?

 若者たちの戦いが今、はじまった――。

  オマケ

 ※カノンくんのメガネなしバージョンですw


 Part3


 灼熱の大陸のすべてが乾いた内陸平野部から、目指すは、はるかな海岸線のさらにその先、水平線の向こうまで……!

 この機体をひたすらまっすぐに北上させていたクマ族のパイロット、ニッシーは、やがて手元のディスプレイが表示するレーダーサイトに次次と現出する反応をそれと察知!

 海岸線もすぐ間近の高空に、複数のアーマーの機体反応をレーダーが検知したことを短い警告音とともに認識する。

 おのれから見ておおよそ北西、厳密には北北西の方角か?

 その高度にしておよそ1,500から5,000メートルの間で、複数の赤やら青やらの点が、明滅しながら複雑に交錯している。

 青や緑は友軍機、それ以外の赤やオレンジは敵軍のそれだ。

 周囲のモニターがただちにそれら複数のデータを表示するのをマジマジと凝視して、それらがやはり友軍の機体と敵軍のものだとはっきりと識別。

 大空を舞台にすでにそこでは熾烈なアーマー同士の戦いが行われているのを、目の前のメインモニターでも視認する!

 戦いの様子を克明に映し出す映像を食い入るように見ながら、すっとんきょうな声をあげる新人のクマ族パイロットだ。

「わお! 見ろよ社長っ、もうはじまってやがるぜ! すげえ派手にやり合ってんじゃん? おまけにどれも見たことないアーマーばっかじゃね? おっかね、あんな中に混じってやんのかよ、おれたち??」

「バカね! あんな中もこんな中も、やるしかないじゃない? そのためにアーマーに乗ってるんだから、ここ戦場よ? まさか今さら臆病風に吹かれたなんていいやしないわよね?」

 ちょっと面食らったさまでおどけた口ぶりする社員に、だが雇用主の女社長は、その本気なんだか軽口なんだかわからない文句をあっさりとはたき返す。

 若いくせ、静かな口調ながら有無を言わさぬ迫力があった。

 当のクマ族は苦笑いでペロリと赤い舌を出す。

 まだ余裕はあるようだった。

「へへ、さすがにブルっちまうよな? ゲームと違ってやり直しがきかないってあたり! 遊びと実戦は違うって言うけど、やっぱりそうなんだな? ちょっと足下が震えてやがるぜ……!」

「それって武者震いってことでいいのよね? わざわざ高い金かけて高性能なアーマーを一式そろえてやってるんだから、無駄になんてするんじゃないわよ。それに前線に立つのはこのわたしで、あんたは後ろからネチネチとタマ撃ってればいいんだから、ビビることなんてないでしょう!」

 それぞれの機体特性から、女社長の高機動型アーマーが前線での攻撃機動全般を担い、平社員の新米くんが間接攻撃を主体とした大型アーマーでの援護射撃と防御機動に専念するユニット運用とは、あらかじめに決められていた。

 目の前のアーマーバトルがあまりに激しいものだから、これに横槍を入れるタイミングが掴みかねたが、意を決して地獄のさなかに突撃しようと操縦桿を倒し込むイヌ族の女戦士サラだ。

 だがその出鼻を部下のクマ族、ニッシーのとぼけた調子でくじかれてしまう。いまいち緊張感のない新米パイロットだった。

「……あ、ちょっと待った! なあ社長、良く見たら反応ほかにもあるけど、これって敵じゃね? レーダーのサイト最大に広げてたからたまたま拾っちまったけど、このふたつ、そうだろ?」

「え? 待って、そんな反応こっちには……!」

 およそ一時くらいの方角とあいまいなことを言われて、はじめ怪訝な顔でそちらに視線を向けるサラだが、すぐにもみずからのレーダー内にもその敵影をキャッチして目つきが鋭くなる。

 新手の出現を確認!

 二つの反応が出て来た方角から、沖合の洋上に母艦があるのだろうことを推測しながら、舌打ち混じりに思案を巡らせる女社長だ。部下の平社員がまたもとぼけたことを言うのに、はっきりとこの寝ぼけた提案を却下する。

「なあ、このままそっちに混ざっていいもんなのか、おれたち? めんどくさいからあっちのはパスってことで??」

「は? ダメに決まってるでしょう! それじゃまんまと敵にこの背中をさらすことになるじゃん! あっちはあっちで盛り上がってるから、こっちはこっちで好きにやっちまえばいいのよ、その場の判断はじぶんでつけるようにいわれてるんだから?」

 いいざま機体を反転させる雇用主の女イヌ族に、これをすんなりと受け入れるクマ族の若手は、手元のディスプレイ表示を見比べながらにげんなりしたさまで応じる。

「おいおい、こっちのも見たことねえ機体だぞ? どっちも機体識別がイエローのアンノウン、ノーデータだってよ! コクピットシステムの予測計算や操作補助があてにならねえじゃねえか? サイアクだぜ!!」

「バカね、それはこっちもおんなじでしょ? 戦場ではじめて確認される機体同士、望むところじゃない! 近くに母艦がいるかもしれないから、そっちも考慮に入れながら先制攻撃でアタックかますわよ! ほら、平社員、さっさとついてきな!!」

「ヒラってなんだよ! 早いって!! 社長っ、こっちはこんなおデブちゃんなんだからちょっと待って!!」

 奇しくも若手パイロットのコンビたちがこの広い戦場で遭遇、激しい戦いの火花を散らせることになるのだった……!


 Part4


 ビーッ、ビーッ、ビッビビーーーーーッッ!!

 アーマーのコクピットにしては比較的広いキャビン内に、けたたましい警告音が立て続けに鳴り響いた!

 断続的かつ、頻繁になされる高音質のアラートに、だがさして慌てるでもなく手元の操縦桿を握って、目の前の大型ディスプレイに冷静な視線を巡らせるパイロットのベアランドだ。

 てっきりこの中央大陸北岸の海岸線を真下に見下ろしながら、敵アーマー部隊とは真正面から会敵するものと思っていたのが、まさかの背後からの急襲を受けてしまう。

 これにいささか面食らいながらもバカ笑いしてみずからの身体をくくりつけたシートをギシギシと揺らすクマ族の隊長だった。 


 すさまじいスピードで目の前の広いモニターの視界を左から右へと彗星のごとくに駆け抜ける、ひとすじの真っ白い軌跡……!

 その先にかすかにきらめくのは、それは見慣れた敵の機影だ。

 果たしてこれが何度目の邂逅か?

 みずからの出身である東の大陸を出てこれまですっかり常連さんになった強敵の白いギガ・アーマーの勇姿を前に、目を見張ってさも感心したような声を上げるベアランドだ。

 明るい声色がどこか楽しげですらあったか。

「わはは、いつにもまして速いな! おかげでターゲット・ナビゲーションの補正がちょっと追いつかないよ! さてはまたエンジンをチューンナップしてきたんだ? ただでさえバカでっかいエンジン積んでるくせに、毎度毎度ごくろうさま♡」

 一瞬でこの機首を切り返し、またあらぬ方角へと大空を切り裂くジェット・フライヤー、と見せかけて、実は人型のロボットにも変形する何かとクセ者の敵アーマーだ。

 乗っていたのは確かキザなもの言いの若いキツネ族だったかと思い返しながら、ぬかりなくみずらの大型アーマーを左に回頭させる。

 途端にディスプレイの端から端を一気に過ぎ去る白い影に、たまらずにヒュウっ!とおどけた歓声を発してしまった。

 これは並のアーマーとパイロットでは太刀打ちできないな!と心底感じ入る、こちらも並大抵ではないエースパイロットだ。

「まったく楽しいったらありゃしないな! あの手この手で絶対に飽きさせてくれないんだから。部下たちのヘンテコなアーマーもそうだけど? こっちも奮発して歓迎してあげないとね!」

 ペロリと舌なめずりして目の前の視界を縦横無尽に駆け巡る敵アーマーに、自機のハンドカノンの狙いを絞るベアランドだ。

 そのクマ族の隊長に、おなじくクマ族のベテランパイロットが通信を入れてきた。もとより回線は開きっぱなしだったので、あちらにもこちらの様子は筒抜けだったのだろう。

 赤毛のおじさんパイロット、ザニー中尉が音声だけでのんびりした言葉を右側のスピーカーから発してくる。

「ほぇ、なんややけに楽しそうですなあ、隊長? ぼくら遊んでるんとちゃうはずなのに。まあ、こっちも楽しませてはもらってはりますけどぉ」

「ほんまにしつこいわあ! いっつもおるやん、青やら赤やらようわからんアーマーが? オレら目の敵にされてるんちゃう??」

「かもね♡ そっちはそっちでふたりにお願いするよ。こっちはこっちでやっておくから。敵さんもそのつもりだろうし、新手が来たらこっちにも新人のおふたりさんがいるわけだらかね!」

 左右からのおじさんたちの声を聞き流しながら、したり顔してうなずく若いクマ族の隊長。手元のレーダーサイトの片隅でまた新たな反応がポツポツと出始めるのを目の端でそれと視認する。

 だがそれらにはさしたる興味もなさげに目の前にのみこの意識を集中していた。

 それにまたザニーがいつもののんびりしたもの言いでありながら、何やら渋めた声つきをくれる。

「噂をすれば影でまたチョロチョロと出てきはりましたなぁ? ようわからん機体が? これ新型ちゃいます? 敵のデータに照合きかんのがふたつ、でもふたつだけなんや。隊長ぉ、これ新人くんたちに任せてもうてええんですかぁ?」

「うん。まあ、こっちも新型なんだろうから、いいんじゃないのかな? あいにく新人くんの面倒を見てやるほどの余裕はないし、敵さんたちが許してくれないだろうしね? 何事も油断禁物! そろそろ無駄口たたかずにまじめにやろう♡」

「ほえ、どの口を言うてはるのやら? まあそれならぼくらもそうさせてもらいますわ。通信は閉じますよって、なんかあったら呼んでもろうて、それじゃあ……!」

 ちょっと言葉の端に何やら含ませるおじさんの声が途切れるが、やはり気にするでもなくモニターに集中する隊長さんだ。

「いい調子だな、まあ所詮は茶番なんだけど、それでもそれなりにやってやらなけりゃね? ぼくらが戦う意義は、もっと違うところにあるはずなんだから、その時まではね……!!」

 刹那、上方から一気に急降下する敵機からの激しい銃撃が降り注ぐのを、真顔で見上げて周囲のコンソールを手早く操作してこれを間一髪でやり過ごす。

 ただちに周りから距離を取るべく機体の高度を上昇させた。

 隊長同士、一対一の戦いに持っていくべくにだ……!

 他方、隊長機との通信を終えてそれぞれの任務に転じる赤い機体のアーマーの中で、普段からむっつりした顔が、今はどこか余計にむすりとしたおじさんのベテランパイロットに、この横合いから青いアーマーの灰色グマのおじさんが言った。

「きよるできよるでぇ、敵さん! ……ん、どしたん?」

 長年の仲だから何かしら感じるところがあるのか?

 それとなく聞いてやるに、通信機越しにはどんよりした気配が返る。

「……なんも。ちょいかんに障っただけや。まじめにやらなあかんのは、誰のことやっちゅうおはなしやろ、ほんまに……」

「?」

 音声だけではくみ取れずに相手の顔を画像で確認してやろうかとするダッツ中尉だが、ディスプレイが発する耳障りな警告音にすぐさま意識をそちらに持って行かれる。

 直後、青と赤同士のアーマーコンビによるタッグマッチがただちに広く際限のない青空の下で繰り広げられる。

 その戦い火花は、また一方で新型同士のアーマーたちへの戦いへとも伝播していった。

             ※次回に続く……!












ニッシー、サラ(高度説明、フィート?→方位は360にして、Ftにするたとえば方位335 高度5000ft?) → カノン、イワック → ベアランド、ザニー、ダッツ

プロット
 カノン、イワック登場。戦艦航空巡洋艦「ガーエル」
メカニック、ネコ族男イットス(相棒はイヌ族男、ハッター)、クマ族?男キョカス、ネコ族?男サーダイ

 臨戦態勢→出撃→海上で会敵(サラ、ニッシー)