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「オフィシャル・ゾンビ」⑥

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

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https://opensea.io/collection/officialzombie

オフィシャル・ゾンビ⑥(めんどくさいので今回からこのかたちにしました(^^)) 


 シンと静まり返った楽屋で、そこでは得体の知れない二体の何者かが物も言わずに相対していた。

 つい何時間か前にはそこにはそれなり名の知れたふたりのテレビタレントがいたはずなのだが、そんな面影はもはやどこにもありはしない。

 かたや毛深い毛むくじゃらの二本の足で仁王立ちして相手を見下ろすクマに、かたや四つん這いでうずくまる、こちらも毛むくじゃらでなんとも正体が知れない何かしらだ。

 力なくがっくりとうなだれているからこの顔つきがまだ定かではない。双方、見た目がケダモノで身体中毛だらけなのは同じだが、二体のバケモノたちはそれぞれが違ったカタチの衣装らしきをその身にまとっていた。

 それがまた異様さに拍車をかけているのだが、見ようによっては昔の武人が身にまとう鎧のようでもあり、頑丈な見てくれのアーマーと古めかしい装束の合わさったようなかなり独特なものだ。

 相変わらず黙りこくるクマが見ている前で、畳に突っ伏すケダモノが低いうめきを発する……!

「ううっ、う、ううう~~~っ……! な、なんだ、どうなったんだ、俺、どうして……ん、なんだ、これ??」

 あまりに突然のことに恐怖と混乱から反射的に身を固くしてその場にうずくまったそのケダモノ、もとい鬼沢だ。

 それだからようやくうっすらと目を開けて、まずそこに飛び込んで来たものにさも怪訝そうにこの顔つきをしかめる。

 ちょっと前までテレビでは人気のタレントだったはず芸人さんは目の前にあった見覚えのない毛むくじゃらの何かしら、おそらくは二本の腕らしきをしげしげと見つめるのだ。

 じいっと……!

 それが誰のものなのか認識がそれとできないままに、両手をグー、パー、グー、パーさせたりして、またしばし考え込んだ。

「……えっ! え、え、え、え???」

 ギョッとして、顔面に冷や汗じみたものを浮かべたのはこの直後のことだ。顔も全体くまなく毛むくじゃらなのに、イヤな汗をかいているのが傍から見てもはっきりとわかった。

 間近で見ているクマのバケモノ、元は日下部はうんうん、わかりますよ、ときっと内心では頷いてたのだろうか。

 よって裏返った悲鳴を発する、その元は鬼沢のバケモノだ。

「なっ、なんだこれ!? これ、まさか俺か?? いやいやいやっ、そんなわけないっ! んなわけないじゃん!!」

 ブルブルと震える両腕がそれがどちらも自分のものだとはっきりとこの身体の感覚として、そこに伝わる神経がまざまざと教えてくれるのだが、感情がそれを一切拒否、頭の認識がまるで追いつかない中堅どころの芸人だ。

 わなわなと全身を震わせながら、やがてハッとした表情で、次にはおそるおそるしてその毛むくじゃらの腕でみずからの顔を触ることとあいなる……。

「……っ!!?」

 生まれてこのかた、自分の身体からは一度たりとも感じたことがない毛むくじゃらの毛皮(?)の感触とまるで見覚えのない凹凸をなす顔の造形、いわゆる動物、ケダモノのそれにいよいよ絶句してしまうおじさんだ。

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 腰を抜かして背後の畳にぺたりと尻を付けてしまう。

 見上げる視線の先に謎のクマ、茶色いバケモノがいたが、今となってはそこに一切の驚きを感じられなかった。
 もはやどうでもいいくらいだ。

 言葉もないままにうつろな視線でどこをともなく見つめてしまうが、この視界の左の端に見切れるものに自然と焦点が合う。

 太い毛玉のような、神社の坊主が晴れの日に振り回すみたいなでかい毛筆のかなり特大のヤツがヒクヒクとひくついていた。

 それだけやけに異質だが、身体の感覚がやはりそれが自分の身体の一部であることをしっかりと教えてくれた。

 そう。人間には唯一なくて、ケダモノにはあるもの――。

 それが自分の尻のあたりから生えていることを、左手でグニュッとモノを掴んでその厳然たる事実をはっきりと自覚させられるのだ。

「う、これ、シッポ……か? ウソだろ、俺のケツから太いのが伸びてるぞ? 夢だろ?? そうに違いないよ、こんなの、ありえない……! おい、日下部、こんなの、冗談だよな??」

 半ば呆然として目の前で立ち尽くすクマに問いかけるが、こちらはこちらでやはり相当にありえない見てくれをさらしてしまっている若手のお笑い芸人だ。

 あえなく真顔でそのいかつい肩をすくめるばかりである。

 その上で変になぐさめを言っても虚しいだけだろうと、おのれが言えることだけをありのままに伝えてやるのだった。

「まあ、見たままですね……! はじめはパニックするかも知れませんけど、すぐに慣れますから。日常生活においてはむしろこっちのほうが便利な場面も多々あるし、あはは。基本的に不便はないはずですよ? それにしても鬼沢さん……」

「…………」

 まったくもって理解も納得もしがたい。

 そんなただ呆然自失の体で開いた口がふさがらない先輩タレントに現状すっかりクマの見てくれした後輩が言い放つ。

「やっぱり、タヌキだったんですね? 状況からしてそうなるんじゃないかなと予想はしていたんですけど、なるほど納得です。まあでも可もなく不可もなくで、良かったんですかね。鬼沢さんの元からのキャラに置き換えてもそんなに違和感なさそうだし」

「は? 何言ってんの? タヌキって、何??」

 いまだ呆然としたさまの鬼沢だ。
 この頭の中が真っ白けなのを察して、ごそごそとみずからの懐の内に片手を突っ込むクマは、ほどなくそこから何かしらを取り出して畳に尻をつけたままのタヌキにはいと手渡してくれる。

 それを無言で無意識に受け取るタヌキは、それをそのまま目の前にかざしてぼんやりした視線を投じてしばしのフリーズ。

 渡されたのはシンプルなデザインながらにやや大きめサイズの手鏡で、でかい頭をしっかりと捉えて克明に写しだしてくれる。

 そこに写ったものが果たして何なのか、それが果たして誰なのかを理解するのにちょっとだけまた間を要して、直後、とどめを刺されるかのような衝撃に見舞われるテレビタレントだ。

 ↑鬼沢が変化した姿のイメージです。タヌキですね♡
 ちなみに鬼沢自体がお笑い芸人のハ○イチのツッコミのひとがモデルなのですが、もはや原型が無くなっています(^^;)
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「うわあっ、マジでタヌキじゃん!! タヌキそのものじゃんっ!! ここに写ってるの俺か!? ウソだって!! いいや、認めない、認めないぞっ、こんなのでたらめに決まってる! ……やっぱりタヌキだあああああああ!!?」

 一心不乱に頭を振り乱して、一度強く目をつむって再び直視した鏡には、やはりおなじケダモノの顔面が写されていたのについには絶叫するタレントさんだ。もとい、元タレントさんか?

 いっそ失禁しててもおかしくないようなうろたえぶりでおまけこの世の終わりみたいな絶望的な声音を発するのだった。

「ああ、終わっちゃったよ、俺のタレント生命……! こんなんじゃどこにも顔なんて出せやしない。まずBPOが黙ってないよ。BPOってなんだっけ? そうでなくともPTAとか、なんかしらの振興会とか、動物愛護団体とか、おい、タヌキに人権ってあるのか??」

 完全に頭の中がパニックして思考がごちゃ混ぜになっている鬼沢に、見た目のほほんとした面構えのどでかいクマが右手を差し出してくる。
 のほほんとしたさまであっけらかんと言うのだった。


「まあまあ、そんなに落胆しないでください。何事も慣れですから。ぶっちゃけ嘆いているヒマなんてありませんし。むしろそれありきのお笑い芸人だし、タレント活動だって割り切ってしまえばそれでいいんですよ。このおれをはじめとして仲間は他にもいますから」

「……仲間って、俺も家族もこんなの想定外過ぎるよ。親や学校になんて説明するんだ? あとそういうの噂では聞いたりするけど、おまえ以外にはゾンビを公言してるヤツ、見たことないし。お先真っ暗じゃないか……!」

 がっくりとうなだれるその乾いた鼻先に、毛むくじゃらでごつい右手を突き出して笑うクマ、日下部はいつまでも尻餅ついたままのタヌキの鬼沢に立ち上がるように促しながらに言う。

「大丈夫です。国がうまいことサポートしてくれます。でないと世の中が乱れちゃいますからね。それよりももっと良く今の鬼沢さんの姿を見せてくださいよ。全身がタヌキに化けて、身につけているものもすっかり変わっているじゃないですか? 己を知り相手をしらば百選危うからずっていう通り、まずは自分のことをわからないことにはこの先やっていけませんよ? ついでにおれのことも見てください。お互い見せ合いっこですね。その後にいよいよ実践てことで……」

「実践? おまえ、以前と比べてだいぶ落ち着いてきたよな? 昔はそんなんじゃなかったじゃん! いいよ、自分で立つから。ほらっ、と……わ、なんだこの慣れないカンジの景色、ひょっとして背が高くなってるのか? あれ、でもまだおまえのほうがちょっと高いの??」

「クマよりでかいタヌキなんて違和感しかないでしょう。確かにおれのほうが若干だけ高いみたいですね? 鬼沢さんは、ふうん、はじめてにしてはちゃんとそれなりのカッコしてますよね? その時の状況によっては多少の誤差が出るかもしれないですけど、たぶん平均的な鬼沢さんの変化態(モード)、いわゆるゾンビ化した状態がこれなわけで……」

「ゾンビ……! て、あれ、なんで俺こんな格好してるんだ? 俺のお気に入りの私服が影も形もなくなっちゃったじゃないか? こんなヘンチクリンな衣装、俺のスタイリストは絶対に用意しないよ! というかこれって、服なのか??」

 まったく見覚えがないみずからの出で立ちに改めて意識が向いて、目をパチクリするばかりのタヌキはひたすらに首を傾げる。
 すると間近で向かい合うクマがしたり顔して言うのだった。

「スタイリストさんなんていないじゃないですか。間違いなく鬼沢さんの服、装束ですよ、それって。特殊な見た目をしているけど、そもそもで今まで来ていた服はサイズ的に無理があるじゃないですか? さっきのアイテム、X-NFTと同様の原理で物質が変化したユニフォーム版の神具楽(カグラ)だと思ってもらえばいいんですよ。これがおれたちにとっての正式な仕事着みたいなもんですから」

「うう、さっぱりわからないよ。ごめん、俺さっきからおまえが言ってることの半分もわかってないと思う。俺がさっきまで着ていた私服が、俺がこんなタヌキに、これタヌキなんだよな? なんか納得いかないけど、タヌキってあたりに、とにかくタヌキになったのと一緒に服もドロンって化けたってことなのか? あれ、俺、いま何を言ってるんだ??」


 自分の口から出た台詞に自分で困惑、げんなりしたさまで左右の眉をひそめる鬼沢に、若干の苦笑いみたいなものをそのキバが見える口元に浮かべる日下部は、こくりとうなずく。

「ちゃんと理解できてますよ。鬼沢さん。ついでにその衣装の仕様だとかもじぶんであれこれ探ってきちんと理解しておいてくださいね。ひょっとしたら意外な機能や能力があるかも知れませんよ? 昔からひとを化かすっていうタヌキだから、なおさらじゃないんですかね? 腰の左右に付いてる大きなポーチみたいなの、それっていかにも意味ありげだし……!」

「ポーチ? あ、これのことか、これって袋なのか? モノが入れられるみたいな?? なんか邪魔なカンジだよな、どっちかひとつでいいのに! 番組で用意された衣装だったら良くできてるけど、なんかビミョーだ。でも子供受けとかはするのかな? 俺、これからはよりご家庭の主婦層の支持とか人気が欲しいから、これってかなり重要なんだよな。子供がケガするような無骨な突起とかはないほうがいい! あれ、そう言うおまえはおまえでやっぱりおかしなカッコしてるよな、んんっ……」

「鬼沢さん、今さら主婦層人気なんて狙っているんですか? 鬼沢さんのところのアゲオンのファンの母体って、たいていは若めの独身男性層ぐらいに思ってましたけど。あんまり女子受けはしない芸風に見えるし……なんですか?」

 しげしげとみずからの格好を眺め回してから、次に目の前に仁王立ちする相手の出で立ちにまじまじと注目する、そのタヌキのおじさんの視線に若干気圧されながら太い首を傾げるクマだ。

 すると毛むくじゃらのタヌキは渡された手鏡を元の主に返しながら、何やらどっちらけるようなことを真顔でぬかしてくれる。

「日下部、おまえのそのカッコってさ、なんかダサくない?」

「は?」


「いや、ダサいだろう! 全体的に色味が暗いし、デザインももっさりとしてどこにも愛嬌が無いっていうか、デザイナーの意図するところがさっぱりわからないもん。俺のとは雲泥の差だ。絶対売れないだろ、そんなノーコンセプトな出で立ちの芸人!」

「はい? コンセプトは関係ないんじゃないですか? デザイナーなんていないし。失礼しちゃうな、もとより鬼沢さんのと大差ないと思いますよ。これって本人の気質、ゾンビの個体差に応じて実体化するものですから、まさしく状況に応じたベストなカタチなんですよ。変ないちゃもんつけないでください。芸人だったらむしろ悪目立ちして一発屋くらいは狙えますから」

「どうかな~? とにかく俺はないと思う。ダサいもん。子供が受け付けないって、なんか気色悪いもんな! 変質者が不気味な笑みを浮かべているように見えるぞ、おまえのその服の模様? あるいは悪質なピエロ??」

「ニコちゃんマークに見えるでしょう? 心理的に相手に不信感を抱かせないためのある種の擬態みたいなものだとおれは理解してますよ。誰にでも受け入れられる完璧なデザインです。ま、ふつうの人間には見えないんですけど、このカッコ自体は……」

「は? 見えないって何が? こんなにでかくて毛むくじゃらでむさ苦しいんだから、見えないわけがないだろう?? 俺もひとのことあんまり言えないけど、おまえは100メートル先からだって丸わかりだよ。みんなこぞって逃げていくだろ」

「そんなことないです。じゃあ試してみますか、実践で? 実際に外に出てみればわかりますよ。回りの反応ってヤツが……!」

「は? このカッコで?? できるわけないだろって、おい、何する気だ? ちょっと、そのポーズって、まさかさっきの……」

 利き手を腰だめに構えて意識をそこに集中するようなそぶりをする目の前のクマに、ちょっと危機感を感じてのけ反るタヌキ。

「はい。このおれの後に付いて来てください。これから実践に入りますので。まずは外に出てからですね、ということで、んん、伸びろ、如意棒……っ!!」


「あ、え、わあっ、ちょっと待って、まさか、壁をぶち破って無理矢理この外に放り出すつもりかっ!? そんなむちゃくちゃ、わああああああああああああああああっっっ!!!?」

「いいえ、壁ではなくて、窓です! 回りにひとはいないように配慮してありますから、問題ありませんよ。そうれっ!!!」

 派手なガラスの割れる音とおじさんの悲鳴を残して、がらんとした楽屋にはそれきりに人の気配が一切しなくなった。

 ぽつんと取り残された私物のバッグがそこにはあるだけだ。

 混迷を深める二匹の魔物、ゾンビたちの消息を知る手がかりはどこにもない。この瞬間を境にひとの感覚が及ばない未知の領域へとお笑い芸人たちの命運は転じるのだった。

                次回に続く……!

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「オフィシャル・ゾンビ」①

ノベルとイラストとNFTを絡めたオリジナルコンテンツ、いざ開幕、開幕~(^o^)

オフィシャル・ゾンビ
ーOfficial Zombieー

-さいしょのおはなしの、はじまり-


 コン、コン……!

 まったりとのどかな気配が漂う昼過ぎの楽屋に、短く控えめなノックの音が、ひっそりと響いた。

 すると間もなくこの出入り口のドアが開いて、声もないままにそこにひとりの男が入ってくる。

 見た感じはスタッフとも取れる地味な見てくれの青年だった。

 これと主義主張のない平凡な格好に、ろくに手入れもしていないのだろうもっさりとしたぼさ髪と、おまけこれと化粧っけのない素顔で、ひょっとしたら番組ADかと見間違えてしまうほどだ。

 もとい今時のテレビ局ならスタッフのほうがまだこぎれいか?

 その、さながらスタッフ然とした男が、冴えない顔つきしてぼさぼさ頭をぺこりと下げて、ぼそっと一言。

「あ、おはようございまぁーす……!」

 この業界ではほぼお決まりの挨拶文句だ。


 それをいかにも緩い口調で発すると、また頭を上げた先にいる部屋の主のさまをじっとうかがう。

 こぢんまりした畳の和室は六畳ほどで、そこに年の頃で言ったらおそらく三十代も半ばくらいの壮年の男が、ひとりだけ。

 真ん中に木製の座卓があって、傍らの座布団に腰掛けてそこに前屈みで寄りかかる。

 こころなしかやけにかったるそうなさまだ。

 どこか見覚えがある風体で、それは昨今のテレビではよく見かけるそれなり有名なタレントさんだった。

「…………」


 対してそのテレビタレントは、およそろくな返事もないままに視線だけで来訪者の青年をじろりと眺めてくる。

 ひどく怪訝なさまで普段のテレビで見せるような明るさがまるでない、それはそれはひどい素の真顔だった。 

 歓迎されている気配がみじもんない。

 だがこちらもそんなことは端から承知の上で、あはは、とその顔に見え透いた愛想笑いみたいなものを浮かべる青年だ。

 そこからまた控えめな口調でいながら見た目的に完全ノーウェルカムの男性タレントさんとの距離を、しれっと詰めてくれる。

 くたびれた革靴を脱いだらそそくさと畳に上がり込んでた。

「失礼します。あの、今、お時間ありますか? その、できたらちょっとだけ、お話させていただきたいんですけど……」

 相手までソーシャルディスタンスギリギリのところで足を止めて、突っ立ったままで先輩のタレントの丸い坊主頭を見下ろす。

 言えばお笑いタレントとして知られる著名人に、臆面もなく平然と相対していた。

 また言えばじぶんもそのたぐいではあったこともあり。

 やや太めの体つきでさっぱりとしたこぎれいな丸刈り坊主の男は、うざったげな顔つきでこれを見返してきた。

 今やその声つきにもちょっと不機嫌なものがあっただろう。

「……とか言いながら、しっかりと上がり込んでるじゃないか? この俺にはまるで拒否権なんてないみたいにさ。スタッフさんとの打ち合わせはついさっき済ましたから時間なくはないけど、俺、これから収録だよ?」

「ああ、はい。すぐに終わりますから。というか、俺が来た理由、もうわかってたりするんじゃないですか、鬼沢さん?」

 ↑う~ん、まだキャラが固まってない? はじめはこんなもんか…(^_^;)
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 ちょっと苦めた笑みで問うてやるのに、当の鬼沢――オニザワと呼ばれた相手は仏頂面でこの視線をそらす。

 内心じゃ苛立たしげなのがもうはっきりと声にも出ていた。

「知らないよ! ていうかお前って何様? お前とこうして話しているところ、ひとに見られたら変な誤解を受けそうだから、出ていってくれないかな? そうだ、もとはただのお笑いタレントが、国の認定だかなんだか知らないけど、怪しいにもほどがあるだろうっ! 俺には関係ない」

「あは、コロナから始まって、ほんとおかしな世の中になっちゃいましたよね、今って? それにしてもひどいなあ、そんなに毛嫌いすることないのに! いくらおれでもちょっと傷ついちゃいますよ、まあ、慣れっこなんだけど……」

 苦笑いではぐらかした物言いしながら、ちょっとだけ寂しげな目つきで相手の横顔を見つめる青年だ。

 これに顔を逸らしたままで恨めしげな視線だけをつとよこす先輩の中堅タレントは、苦渋のさまでまた言葉を発した。

「仕方ないだろ? 俺、ぶっちゃけ怖いよ、お前のこと。だって良くわかんないじゃん。わからないことだらけじゃん。お前ってば……! なあ、日下部、お前って本当に、何なの??」

 日下部――クサカベと呼ばれたその訪問者は穏やかな顔つきのままではじめただ静かにうなずく。

 そうして落とした声音で、何かしらの説得でもするかのようにまた続けた。

 そうたとえ目の前の相手が聞く耳を持たなくともにだ。

「そうですね。でもそれはほら、今の鬼沢さんにだって当てはまることなんじゃないですか? ほんとはわかっているんでしょう、心当たり、きっとあるはずだから……ね」

「ないよ! うるさいなっ、もう出ていってくれっ」

※お笑いコンビ・アゲオンのツッコミ担当、鬼沢のとりあえずのイメージです。実在するお笑い芸人さんをモデルにしたキャラなのですが、うっすらとビミョーですね。てか、似てません(^^;)


 完全にそっぽを向いて吐き捨てる坊主頭はかたくなな態度だ。

 それきりすっかり心を閉ざすのに、顔色の穏やかな、それでいてどこか冷めたまなざしの青年は、ただ一言だけ。

 ぽつりとある言葉を口にする。

「ゾンビ……!」

 ぽつりとだ。

 そして何故だろう、およそそれまでの話の流れにはそぐわない、それは不可思議な響きのワードだった。 

 それきりしばしの間があって、座卓に前のめりで屈む先輩芸人、無言の鬼沢はしかしながらこの身体を小刻みに震わせているのが手元の湯飲みのなす、それはかすかな身震いでわかった。

 良く見ればその横の急須もカタカタと音を立てている。

 もはや内心の動揺は隠せなかった。


 やがて憎悪にも似た歪んだ表情を見せる坊主はきついまなざしで後輩の芸人をきっと見返す。

 あげくは攻撃的な口調でまくし立てるのだった。

 もう我慢がならないとばかりにだ。

「……は? なんだよ、ゾンビって? 誰のことだよっ!? おいっ、誰のことだよっ!! おいっ、ふざけんなよ、どこにいるんだよっ! こいつ、黙って言わせておけば、よくもっ、このおれのどこがゾンビなんだよっ、生きてるんだぞっ、ちゃんと生活してるんだっ、家族だっているんだぞ! だったらおまえこそがっ、おまえだろうよ!! なんだよっ、ゾンビって、ゾンビってなんなんだよっ、ふざけやがって……こんちくしょう!!!」

 激高する相手を相変わらず静かに見つめる青年だった。

 少し不自然なくらいのうっすらとした笑みを口元に浮かべて、どこまでも落ち着き払った物の言いをしてくれる。

 相手の目をただ静かに見返しながら。

「外に声、聞こえちゃいますよ? そんなふうにじぶんから騒いじゃったら。俺もイヤなんで……」

 いきり立つ先輩タレントがぎっと唇をかみしめてみずからの荒げた息を殺すの見届けてから、こちらもみずから前屈みになる訪問者は、さらに声をひそめてぼそりと問いかける。

「……はい。そうですね。俺は、周知の通りです。でも、あなたも、あなただって、そうです。鬼沢さん、あなたももう一度は、死んでいますよね……?」

「……っ、…………!」

 言葉もなく見開いたふたつの眼、その瞳孔が大きく見開くのを黙って見つめる青年、日下部だった。

 そして喜怒哀楽のどれにも当てはまらない穏やかな表情、さながらデスマスクみたいな真顔で言い放たれた言葉、それは果たして真実であったのか。

 物静かでいながら確かな断言、はっきりと断定するかの冷たい響きが余韻にこだました。


「死んで、生き返ったんですよ、あなたも、この俺も……! それにつきゾンビって言葉が正しいかどうかわかりませんが、それでも、事実です。鬼沢さん、わかっているんでしょう。だから俺がここにいるんです。もう、逃げられませんから……」

「ひっ……知らない。知らないよ、やめてよ……」

 顔から完全に血の気の引いたタレントがうなされるみたいな言葉を発する。

 そのさま、まるで動じない青年はただ静かに眺めるばかりだ。
 
 それきりお通夜みたいな静けさが満ちた。

 あたりに人の気配はない。


 そこにひとなどいなかったのか。

 かくしてここにまたひとつの悪夢が目を覚ますのだった。

 悪夢の名は、オフィシャル・ゾンビ――。

 人の世ならざるものが人の世に降り立つ。

 今や悪夢は昼夜を問わずに訪れた……!
 

                次回に続く――

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※ノベルとイラストは随時に更新されます!