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ルマニア戦記/Lumania War Record #017

#017


 Part1


 若いクマ族の小隊長が見ているさなか、おじさんのベテラン・クマ族コンビと、対してこちらはまだ若手なのだろう、敵アーマー・パイロットたちによる、新型アーマー同士の空中戦は、いざ始まればすぐにもこの大勢が決しようとしていた。

 経験値の差もさることながら、それぞれのアーマー自体の性能差がもはや歴然、結果はやはり、はなから知れていたらしい。

 よってあと少しで勝敗がつくのではと思われたところでだ。

 だが不意に、それぞれのコクピット内に短い警告音、甲高いアラートが鳴り響く……!

 これに反射的に目にした手元のレーダーサイトには、目指す大陸の西海岸域方面から出現したとおぼしき、また新たなる複数の敵影が、こちらに向けてまっすぐ急接近するのがはっきりと見て取れる。

 これによりようやく今回の本命が登場、本番が始まったのだなと気を引き締めて正面のモニターに臨む、隊長のベアランドだ。

 当人としても、そろそろだろうと予期はしていた。

 迫り来る影は、いつぞやに見たものとまさしく同一であることを、それとしっかり視認もする……!

 強敵だった。


 ベアランド小隊(第一小隊) 隊長・ベアランド少尉(クマ族)、部下・ダッツ中尉(クマ族)、ザニー中尉(クマ族)と、その搭乗するアーマーのイメージ図。ベテランクマ族コンビのアーマーに、めでたく色が付きました!

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 接近する影は都合、三つ。

 そのどれもが以前に会敵したことがあるものと同じであることを、正面のメインモニターに一時的に浮かび上がる、戦況表示ディスプレイがそれと教えてくれる。

 アーマーの頭脳たる高度集積戦術コンピューターが相手機のデータを適宜に解析、覚えていたものと100%の確率で完全適合。

 それらの中でもこの先陣を切ってこちらに突撃してくる高速機動型のアーマーは、これがなかなかにあなどれない実力者であることを、もはやその身をもって経験している隊長さんだ。

 これはさしもの腕利きのベテランクマ族コンビでも、油断していたら一撃でのされかねないな……!!


 と、それまで背後に控えさせていたみずからの大型アーマーを、慎重にゆっくりと微速前進させる。

 どちらも戦いの最前線を渡り歩いてきた有力者たちなだけに、何かと我が強い、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。


 よってこれにさてなんと言ってこの場を説明したものかと内心で頭をひねるのだが、何か言うよりもあちらのほうから何やらして、いささか気の抜けような声が通信機越しに入ってきた。

「はえ、なんやようわからんけど、相手のひょろっこいアーマー、どちらも下がっていきよるでぇ? カトンボが気配を殺して姿をくらますみたいによう? 隊長ぉ、どないしましょ??」

「え、そうなのかい? あ、ほんとだ! あっさり引いていくね? まったく引き際がいいやら、やる気がないのやら??」

 これまでダッツとザニーの相手をしていたはず、モニターの正面に捉えられていた二機の飛行型アーマーは、そのどちらともが新手が入ってくるのと入れ替わりに、この機体を我先にとその場の戦闘空域から離脱して遠ざかっていく。

 すぐにもただの点と点になるのだった。

 事実、目の前のレーダーサイトからも、この機影がことごとくして消失……! 

 援軍の到着に、これ幸いとしっぽを巻いて逃げるかのごとくにだ。傍目にはあからさまな敵前逃亡かのようにも見えたが、新手の敵影ときれいに入れ替わるさまからすれば、必ずしもそういうわけではないらしい。

 はなからそうする算段だったのかと首を傾げるベアランドだ。

 そう、つまるところで主力がこの場に到着するまでのただの時間稼ぎ、言うなれば〝噛ませ犬〟だったのか?

 するとこのあたりにつき、もうひとりのベテランのクマ族のパイロットザニーがこともなげに言ってくれる。

「ほぇ、ほんだらばあないなザコちゃんアーマー、ほっといてええんちゃう? それよりもまた勢いのあるのがようさんよそから来ておるさかいに? 言うてまえばあちらさんが本命なんやろ」

 こちらの隊長にではなく、同僚のおじさんに向けて言ったものとおぼしきセリフには、思わず苦笑いして同意する。

「あ、するどいな! それじゃここからは、あの後からぞろぞろやって来たのにみんなで集中だね! ちなみにぼくは既にやり合ったことがあるんだけど、どれもなかなかの強敵ぞろいだよ?」

 その瞬間、通信機越しにやや張り詰めた空気が伝わるが、おびえよりも低いうなり声とやる気がみなぎる。

 ここら辺、やはりどちらもやり手のアーマーパイロットだ。

 先日のまだなりたての犬族の新人コンビたちとは明らかに戦場での身のこなしが違う。これにまずは安心しつつも、また脳裏にある種の不安もよぎるベアランドだ。

 そうこうしている間にも、迫り来る敵アーマーがこちらとの交戦空域に入ったことが、甲高いビープ音ともに知らされる。

 中でも特にスピードの速い高速機動型のアーマーが、やはり単身で突っ込んでくるかたちだった。

 前に会った時のままのそれはやる気の有り余るさまに、対して内心でひどくげんなりとなるクマ族だ。

 どうにも執念深いことで、もはや目の敵にされているのがありありと伝わってくる。

 これに即座に対応しようとするベテラン勢には、あ、いや、ちょっと待って!と、やや慌ててツバを飛ばす悩める隊長さんだ。

「あ、待った、それは無視してくれて構わないや! なんたって速くて強くて厄介だし、どうせこのぼくがお目当てなんだからさ? 中尉たちは後からおっかけてくるあっちの子分のアーマーたちをお願いするよ。あれはあれでまた厄介なんだけど……!」

「ほえ? 無視してええんですか? ぼくらはその後にやってくるやつらを相手にせいっちゅうことでぇ?」

「なんやようわからん! あないなただ速いだけのジェットフライヤー、おれらの敵やあらへんやけ? そないなもん、どないして避けなあかんの??」

 通信機越しに左右のスピーカーからはどちらもややいぶかしがった返事が返るのに、内心で動揺しながらもあくまでベテラン勢を刺激しないような言葉を選ぶ、ベアランドだ。

「ああ、いや、あちらさんはもともとこのぼくだけに用があるみたいだから、そっちのほうははなっから完全に無視してくれちゃうと思うんだよね? だからその、無理して中尉たちが横から絡まなくてもいいってわけで! あとあれってのはああは見えて、現実はそう、ただのフライヤーじゃあ、ないからっ……!!」

 これまでの戦いから、この歴戦の勇者たちの力をもってしても、ひょっとしたら危ういかもしれないと直感的に悟っていた。

 その動揺を悟られまいと平静を装った態度そぶりに努めるのだが、あいにくと相手のおじさんクマ族たちからは、何故だろう、わずかな沈黙が通信機のスピーカー越しに伝わってくる。

 その瞬間、果たして何を考えたものか?

 ふたりのベテランパイロットたちは、みずからの顔を映したモニター越しの視線のやり取りだけで、何やら互いにはっきりとした意思の疎通をしてくれたらしい。

 この時、イヤな予感が脳裏によぎりまくる隊長さんなのだが、果たして同時にその顔に不敵な笑みを浮かべる中尉どのたちだ。

 よってこちらの忠告もそっちのけで、向かってくる見てくれ戦闘機タイプの敵めがけてみずからのアーマーを急速発進させる。

 もうやる気が満々だった。

 この部隊リーダーの意図などは完全に無視だ。

 はじめげんなりしてそのさまを見るベアランドは、焦りと困惑で思わず声をうわずらせる。

「ああっ、だから、それは無視していいんだって! このぼくの担当なんだからさ!! 強いしとっても厄介なんだから!!」

「わはは、せやったらなおさらおもいろやんけ! 隊長の相手だけやのうて、こっちもしっかりサービスしてほしいもんや、バリバリ歓迎してやるさかいに!!」

「せやんな、ほな隊長さんはそこでよう見といてください。ぼくらでしっかりおもてなししてやりますよって。元よりあないなジェットフライヤーごときに遅れを取るよなこのぼくらやないですさかいに……!」

「いやいや、だから違うんだって!! ああ、もう、ろくにお互いの連携が取れないんじゃひどい混戦になっちゃうじゃないか? これってれっきとした上官に対しての命令無視だよ!?」

 しまいにはちょっと嘆いてしまうのに、ずっと年上で経験に勝るパイロットたちは、やはりいっかなに聞く耳を持たない。

 どちらのスピーカーからか、上官ちゅうかそっちのほうが階級下やんけ!みたいな本音が漏れていたが、それはあえて聞こえなかったことにする若手の部隊長だ。 

 そんなものだから慌てる隊長が見ているさなかにもさっさと敵の先鋒、その実をして一番の強敵と交戦状態に突入していた。

 挙げ句、左右のスピーカーからどわっと驚いた声が上がったのは、その直後のことだ……!

「んん、なんやそれ!? ちょちょ、ちょい待ちぃ!!」

「ほえ、なんや、いきなり変形しおったで? ただのジェットフライヤーちゃうんかったんけ?? ぬぐおおおおおっ!?」

「ああっ、もう、だから言ったじゃないか!!」

 およそ危惧していた通りの展開に、思わず天を仰いでがなってしまう。

 二機の僚機のすぐ手前まで猛然と突撃をかけてきた戦闘機型の敵機は、あわや衝突すると思わせてこの直前でピタリと急停止!

 もとい、そのカタチをまったくもって別のモノへと変えながらに、おまけ悠然と空中に立ち止まってくれる。

 ただし制止したのはコンマ1秒以下だ。

 そのいかにもアーマー然とした人型のプロポーションを見せつけた直後、直角の軌道を描いてさらに高い上空へと舞い上がる。

 それは見事な操縦テクニックだったが、それとあわせて実はただの戦闘機が瞬時に戦闘ロボットへと華麗なる変身を遂げたのには、あんぐりと口を開けたまま、目を白黒させるばかりのふたりの熟練パイロットたちだった。

 ただその瞬間、口では驚きの声を発しながらもアーマーの操作自体はぬかりなく対処していたのはさすがだが、見ているこちらは冷や冷やものだった。

 おまけそれで肝を冷やすほどの臆病者でもないクマ族のおやじたちに、タチが悪いやつらばかりだと内心で舌打ちしてしまう。

 上空でこちらを見下ろす敵のアーマー、おそらくはこれが隊長機とおぼしき機体は、やはり悠然としたさまでその場で対峙するかにこのアーマーをまたもや空中に制止させる。

 その視線の先にあるのはこちらの大型アーマーなのだろうが、相変わらず空気が読めない仲間のクマ族たちが、うなりを発して上空の相手を威嚇する。

 声は届かないが雰囲気としてはばっちり伝わったのだろう。

 かくして相手をしてやるとでも言うかにしてふたりを待ち受ける、それはこしゃくな敵方の隊長機だ。

「まったく、どいつもこいつも好き勝手にやってくれちゃって! どうする、無理矢理に割って入って乱戦に持っていくか? あっちの後続は……あらら、しっかりスキをうかがっているね! これじゃヘタなことなんてできやしないか……!」

 後からやってきた後続の敵のアーマーは、どちらも一定の距離を保ってこちらの様子をうかがっているのが、なおさらカンに障る。

 さては親分格の指示なのだろうが、だいぶ聞き分けのいいあたりがこちらとはまるで正反対だ。

 それがまたなおさらカンに障って仕方が無いクマ族の隊長は、実際に大きな舌打ちしてしまう。

 この先の展開に、一気に暗雲がかかってくるのを、もはやはっきりと意識していた。



※以下のイラストははじめの線画バージョンです(^^)
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Part2


 混乱するクマ族たちのアーマー部隊に対して、また一方――。

 その直前にあった先の知れた戦いに割って入った敵方のエースパイロットは、とかく冷めたまなざしで正面のメインモニターの中の情景を眺める。

 キツネ族の若い士官は見下ろす眼下の敵の機体、青と赤の色違いの同型アーマーをつまらないものを見るようにしばしねめつけたが、やがて仕方もなさげに吐き捨てた。

「ふん、こしゃくなやつばらどもめ……! だがそうやってこのわたしの前に立ちはだかると言うことは、それ相応の覚悟は出来ているのだろうな?」 

 あくまでみずからのターゲットをその奥の緑色の大型アーマーのみに絞っていたのを、ようやく手前の二機に意識を向ける。

 そこに後方からは、後続の同僚機からの通信が入った。

 こちらはトシのいったおやじのものらしきだみ声がキツネ族の男のピンと尖った耳に親しげにまとわりつく。 

「へっへ、ダンナ! 見た感じだいぶごちゃついてるみたいだが、俺たちはここで高見の見物してていいんですかい?」

「は、いいもなにも、そうするしかありゃしないだろ? ヘタに手出しなんぞしたら巻き添え食ってこっちが落とされちまう!」

 もうひとりの年配の男の声が入るのに、何食わぬさまのクールなキツネ族の隊長は冷然と言ってのけるのだった。

「フ、無論だ。こちらへの手出しは一切、無用……! 中尉たちはそこで立ち見しているがいい。このわたしとあれの戦いを邪魔立てするやつばらだけはそちらに任せる」

「了解っ! ……てことは、おこぼれはこっちでいただいちまっていいってわけですかい? そんじゃ、おい、あの青いのと赤いの、どっちをやる? どっちも面白そうで捨てがたいが……!」

「は、おれはどっちでも構わねえよ! ダンナに落とされちまわなかったらの話だが、せいぜい楽しませてくれるのかねぇ?」


 他愛のない世間話でもするかのように獲物を物色する部下たちに、何かと無愛想な部隊長は適当な相づちだけ打ってくれる。

「もとよりザコを相手にするつもりはない。危うくなればあやつが我が物顔をして出てくるのだ。その時は……」

「こっちでおいしく料理させてもらいますわ! 見たところそれなりに戦績上げてそうだから、でかい星が挙げられそうだぜ」

「はっ、調子に乗ってヘマすんなよ、ブンの字? この前みたいな情けないザマ、二度とゴメンだぜ?」

「ああ、誰に言ってやがんだ、五の字よ? もうアーマーも元通り、こっちに死角はありゃしないぜ! もとよりあんな見え見えの手はもう二度と食わない」


 タヌキ族とイタチ族のベテランのパイロットたちの掛け合いに、まるで聞く耳を持たないキツネ族の青年は冷めたさまで通信を終わらせた。

「頼みにはしている。どちらも全力を尽くすがいい。あのような見かけ倒しのアーマーによもや遅れを取ることはあるまいが、かく言うこのわたしも全身全霊をもってあれを迎え撃つ……!」

「了解!!」


 言うが速いか急降下で襲いかかるキツネ族のアーマーに、対するクマ族のベテランパイロットたちのアーマーが真っ向から応じる。

 おのおのが命を賭けたしのぎを削るアーマー・バトル、その第二回戦の火ぶたが切って落とされた。

 ベアランドたちの強敵として立ちはだかるライバルキャラ!
隊長にして凄腕パイロットのキツネ族、キュウビ・カタナとその部下のベテランパイロット、タヌキ族のチャガマ・ブンブ、イタチ族のスカシ・ゴッペとそれらが乗るギガ・アーマーのイメージ!


 Part3

 これまで幾多の戦場の最前線で腕を鳴らしてきた、百戦錬磨のベテラン・パイロットのダッツとザニーだ。
 
 だがこれを相手に果敢にも単機で挑む敵のアーマーは、やはりあなどれない強さをふたりの勇猛なクマ族に対しても見せつけるのだった。

 互いに肩を並べた横一列のフォーメーションでぬかりなくハンドカノンの銃口を向ける青と赤のアーマーの周囲を、それはすさまじいまでの速度の機動をかけて攪乱、半ば翻弄する白の飛行型可変アーマーである。

 変幻自在に戦闘機とアーマーにその姿形を変えては、目にも止まらぬ高速機動で熟練のパイロットたちをあざ笑うかにターゲットサイトからその姿をくらます。

 かくして強い舌打ちが左右のスピーカーから漏れるのに、みずからもかすかな舌打ちが出てしまう隊長のベアランドだ。

「ああ、もう完全に押されてるいるよな? にしてもよくもあんなにガチャガチャと変形しながらあちこち動き回れたもんだよ! もはや操作ミスったら一瞬で空中分解しちゃうんじゃないのかな? これはどうにも……!」

 苦い顔つきで何事かアクションを起こしかけたところで、左のスピーカーからさも苛立たしげなおやじの文句ががなられる。

「ちょちょちょっ! ほんまムカつくわ! やたらに動き回って気が付いたらいっつも背後の死角におるやんけ!? どないなっとるんや? あないにふざけた高速機動、反則やろ!!」

「落ち着きや……! 空中戦ならぼくらの十八番やろ? せやったら、そや、そないにちょこまか動き回れんようにさしたらええんちゃう?」

「どないして? あないに速うやられてもうたら、キャノンの照準もろくすっぽ合わせられへんで??」

「そやから落ち着きや。ぼくらはふたりおるんやから、こないに固まっておらんでもやりようがあるやろ? もとより昔から空中戦で鳴らしたこのクマさんコンビやさかい、あないな新参者に負けるわけがあらへんちゅうもんや……!!」

「せやったな! あないなワケわからんくされアーマー、ふたりでボッコボコにしたろ!!」

 左右のスピーカーからやかましく流れる、ふたりのおじさんの部下たちのやり取りに内心でヒヤヒヤしながら、さてこれはどうしたものかといよいよ考えあぐねる隊長さんだ。

 おまけにこちらの階級がひとつ下なのもあって、実質上官のあちらは聞く耳持たないような節が少なからずあったりするもまた事実だ。

「ああ、もう参ったな……!!」


 険しい表情で正面のメインモニターを睨みつけるベアランドだが、そうやって観ているさなかにも青と赤のアーマーは散開して大空を左右へと散らばる。

 さては単機である敵機を左右から挟み撃ちにする算段なのだろうが、相手がうまいこと乗ってくれるものかと固唾を飲んだ。


 かくして敵の白いアーマーを真ん中に挟んで、この同心円上で広く展開する、ダッツとザニーの両中尉どのたちだ。

 都合、二対一で優位に立っているように見えるが、内実はそうでもないことは手をこまねいてこれを見るばかりの隊長の少尉どのにも、またすぐさまはっきりと見て取れるようになる。

 そう。相手はまさしくもっての強敵なのだった……!


「よっしゃ、捉えたで! ざまあカンカンっ……!?」

「これで終いや……! んっ?」


 薄暗いアーマーのコクピットの中でみずからの射撃が必中することを確信するベテランのクマ族たちだが、引き金に人差し指が触れる寸前、この照準サイトがロックオンのオレンジから危険注意の激しい赤の点滅へと切り替わる。

 しっかりと相手を挟み撃ちにした状態で、プレッシャーを掛けながらもこの攻撃機動(アタック)はことごとく失敗に終わっていた。

 両者ともにだ。

 今や完全にロボットの人型形態に固定された相手機は、空中で微動だにしない直立状態でありながら、空中戦を得意とするクマ族たちが照準を絞った直後にはこの姿をターゲットスコープから忽然とくらましていた……!

 こちらの思惑を見透かしたかにした機体さばきでまるでふたりのクマ族の同士討ちを狙うかのごとくにだ。

 静観していた若いクマ族の頭に乗っかるふたつの耳に、ややもせぬ内にひどく苛立ったおじさんたちの文句が絡みついた。

「おおい、さっきからやたらに真っ赤なのがチョロチョロ見切れておって、ほんまうざいでじぶん? わざとやっておるんか?」

「こっちのセリフやろが? 引き金しぼろうとした途端にブサイクなツラを出してきおって、青い機体が青空にまんま溶けてもうて見づらいったらあらへんわ! ほんまに撃ったろうか?」

 互いに相手を牽制しながら毒づき合うおじさんコンビだ。

「稚拙な……! どうした、貴様は動かないのか?」

 他方、敵方の隊長であるキツネ族のエリートパイロットは、左右前後からのプレッシャーをものともせずに、いまだ戦いには参戦していない緑の大型アーマーを正面のディスプレイに捉えて睨みすえる。それからまたつまらないものを見るかに左右のディスプレイの色違いの敵アーマーを一瞥してくれるのだった。

「フッ、無駄に距離ばかりを取って、まるで覇気を感じぬ。つまらん。もしや貴様らはただのお遊戯会をしているのか……」

 言いざま、機体の両手に保持したハンドカノンを一斉射!

 それが的確に二機の機影を捉える。


 あわや撃墜かと隊長のクマ族が見ているさなか、どちらもギリギリでこの直撃を避けたものの、ダッツはただちに泡を食ったセリフをがなり散らす。

「んなっ! コイツ、むっちゃくちゃやんけ!! おおい、さっきからいいように遊ばれとるで、若い隊長さんの目の前でごっつ情けないわ!! どないしたろかっ」

「せやから落ち着けや。ええわ、照準が定まらへんのやったら、いっそ撃ってまえばええ。ただしお互いギリギリまで引きつけてからや。このぼくの言うてること、わかるやろ?」

「ん、せやけど……! ええんか? 万一逃げられてもうたら、こっちは火力がでかいぶんにじぶんにまで届いてまうで?」

「せやな。ただしその代わりにこっちは防御力っちゅうんが人一倍やさかい。いけるやろ?」

 互いのアーマーの性能の違いを考慮した思考を巡らせるのに、ザニーが相棒を促して決定づける。

「一発勝負や。あの隊長さんにしっかりと見せたろ、このぼくらの腕前が決してあなどれんっちゅうことを……!」

「よっしゃ、了解や!」

 相棒の応答をきっかけ、両者の機体が敵影へと向けてじりじりとこの距離を詰める。もはやただならぬやる気がうかがえた。

 手に汗握って外野からそのさまを見守るベアランドだ。

 相手の高速機動型アーマーはこれを悠然と直立静止したままで待ち構えるが、まるでビクともしないのがふてぶてしかった。

 おのおのが殺気をこめてアーマーの機銃の照準を中心に居座る敵アーマーに定める。

 撃てば必中の間合いだった。

 まずダッツの青い機体が正面に構えた大型のライフルを一斉射!

「おおら、いてまえ!!」

 一直線に敵を貫くと思われた赤い光弾は、だが結果として敵影をかすめもせずに虚しく宙を走る。

 そしてその先にあったものは……!


 それを尻目に見やる敵パイロット、キツネ族のキュウビ・カタナはさもつまらなさげにこの尖った鼻先から息を吐く。

「フン、同士討ちとは……無様だな……む?」

 一直線に流れる敵弾は、同じ敵の赤い機体へと吸い込まれるようにヒットしたのを確信もするが、同時にかすかな違和感をも感知して機体をそちらへと巡らせていた。

 その刹那、ただちに四肢に力をこめて回避機動へと転じる。

 味方からの流れ弾を真正面に受けるかたちになって、全身に冷や汗をかく普段からポーカーフェイスの赤毛のクマは、この時ばかりはいびつな口元からキバがのぞく。

「こなくそっ、やっぱりよけるんかい! だがこっちもやられへんで、シールドパワー全開でしのいで食らわしたるわ!!」

 機体の胴体前部に装備したシールド・ジェネレーターを真紅に輝かせて流れ弾をはじき返すや、みずからのハンドカノンの銃弾をただちに正面の白い機体へとお見舞いする!

「おうし、やったれ! むうっ、あ、あわわわわわわっ!?」

 青い機体の相棒がここぞとかけ声を発するが、これがすぐさま慌てくさったおじさんの悲鳴へと変わる。

 これまで同士討ちを危惧してこの攻撃がままならなかったクマ族たちだ。それをあえて同士討ちに見せかけることで起死回生の反撃を狙ったのだが、そのトリッキーな攻撃ですらもあっさりと躱されて、それがまたダッツの機体へと襲いかかることになろうとは……!!

 すっかり勝ちを確信していた灰色熊は、狭いコクピットの中で機体の制御を失うくらいに操縦桿をバタつかせて味方からの流れ弾をぎりぎりで背後へとやり過ごす。

 だが敵からの攻撃を受ければ即墜落くらいにきりもみ状態で落下しかけた機体を大汗かいてコントロールする。

 敵からの追撃がなかったのは幸いだったが、もはや旗色が悪いのは誰の目にも明らかだった。

 悲鳴と怒号がかまびすしく交差する薄暗いコクピットの中で、若いクマ族の隊長は、険しい表情で操縦桿を強く握りこむ。

「あらら、もう任せてはいられないな! 中尉どのたちには悪いけど、こっちから割り込ませてもらうよ。でないと……ん!」

 敵の隊長格とおぼしき可変式飛行型アーマーに狙いを定めて大型の自機を進ませようとしたところに、奇しくもレーダーサイトに新たな動きと短いアラームが鳴り響く。

 こちら同様、距離を取って様子見していたはずの残りの敵影、二機がともに味方と敵に割り込む形で急速接近してくる。

 どうやら向こうはこちらと同じ思惑のようだが、味方の助けに入ると言うよりは、むしろ苦戦してばかりのダッツとザニーに止めを刺すくらいの勢いだった。

 そして案の定、敵の青と赤のアーマーが入るのと入れ替わりで、白の隊長機はまんまとその場を離脱、この姿を正面モニターからくらましていた。


 これを半ば呆れた顔で見ていたベアランドは、その後にこのみずからの機体の向きを背後へと巡らせる。

「やっぱりこっちが狙い、本命だったか……! ほんとにしつこい隊長さんだよね? ルマニアの大陸の僻地からこんな海の果てまで、呆れちゃうよ、このぼくってのはそんなに魅力的かい?」

 見れば上空からひらりと舞い降りる敵の隊長機のアーマーへと向けて、皮肉っぽく笑ってそう問うてやる。

 そう果たしてこれで何度目の対峙となるものか?

 背後でベテランのクマ族たちが新手を相手に声を荒げるのはもうそちらに任せしまって、本来のターゲットとなるアーマーと正面切ってやりあうべく、これと真っ向から対峙する。

 もう何度目かになる決戦の幕が切って落とされた……!

     
                  ※次回に続く……!







Part4


「ライトニング……!!」

「こういう使い方はリドルは嫌がるのかな……?」


 



 

 





 



 

 






#17プロット
 
 ライバルキャラ、キュウビ、ブンブ、ゴッペ再登場!
 キュウビ VS ダッツ & ザニー  空中戦!
 前哨戦の犬族キャラ、モーリィとリーンはしれっと退却。
 
 ベテランのクマ族コンビはエースパイロットのキツネ族には大苦戦、やむなく隊長のベアランドと交代…!
 ベアランド VS キュウビ

 ダッツ & ザニー VS ブンブ & ゴッペ

 持久戦の末に、キュウビ小隊退却…!
 とりあえずベアランド隊の勝利?

 補給機(リドル操縦)にダッツとザニーが補給(プロペラントタンク装備?)された上で、アストリオン北部海岸線から大陸に侵入、そのまま内陸の目的地へと向かう……
 

「アストリオン上陸作戦」プロット
  アストリオン情勢

アストリオン・中央大陸(ルマニア・東大陸/アゼルタ・西大陸)
アストリオン・種族構成・ブタ族、イノシシ族、イノブタ族などがおよそ半数を占める。アストリオン自体は宗教色の強い、宗教国家でもある。元首・イン ラジオスタール アストリアス(家)

アストリオン・大陸構成
東側 アストリオン 60%
中央砂漠 空白地帯 25%
西側 ピゲル大公家 15%
 西側は過去にあったルマニア(タキノンが領事だった?→タルマとの確執になる?)とアゼルタのゴタゴタで独立を宣言したピゲル公爵の独立領となり、後にアゼルタと同盟関係になる。

主人公、ベアランドたちが目指すのは、大陸の北岸地域から侵入して、大陸内陸部の中央砂漠にあるアーマー基地。今は西の大公家と結びついたアゼルタの支配下にあるのだが…?
 実は無人化している?? レジスタンス(ベリラ、イッキャ?)の暗躍…!

Part2 ベアランド小隊、
 敵キャラ、モーリーとリーンに遭遇
 
          ↑
#17→     キュウビ小隊、出現!!
    キュウビVSダッツ、ザニー…!


    移行、アストリオンに上陸……
  基地の占領完了と同時に、アストリオンからの守備部隊と合流?←ジーロ艦に合流したダイル?

   タルクス、シュルツ博士登場!

プロット
ベアランド小隊、出撃 ベアランド、ダッツ、ザニー
ウルフハウンド小隊、出撃 ウルフハウンド、コルク、ケンス

ブリッジ 艦長 ンクス、オペレーター ビグルス
     副艦長は何故か不在?

 友邦国のアストリオンの北岸域から侵入
 内陸の基地を奪還、そのまま寄港するべく

 海と空の戦い キュウビ小隊出現

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ルマニア戦記/Lumania War Record #015

#015

Part1


 一難去って、また一難……!

 戦場の嵐はどうにかこれをくぐり抜けたはずなのに、また新たな嵐に飲み込まれてしまう不運のアーマー部隊だった。

 一時的にお世話になるべく立ち寄った、新型の僚艦。

 その第一艦橋にみなで顔を出すなりこれに烈火のごとく怒り出すブリッジの主、ジーロ・ザットン大佐に恐れおののくふたりの部下たちの盾になりながら、どうにかこの怒りを納めようと悪戦苦闘するクマ族の隊長、ベアランドだ。

 内心ではそんなに怒ることもないだろうにと首を傾げながらも、後から艦に合流して上がって来た副隊長のウルフハウンドと共に、どうにかこうにか荒れ狂う艦長どのをなだめすかしてその場のお茶を濁すのだった。

 昔は教官と生徒であった間柄で知らない仲ではない。

 よって性格いささか難ありなこのおじさんの対処法はどちらもそれなりに心得ていた。

 かくして不機嫌ヅラでブリッジを後にする艦長の背中をいったんは静かに見送って、心身共に疲れ果てている部下たちを副隊長に任せたら、この後をひとりで追いかけるアーマー隊長である。

 いくつか聞きたいことがあったし、部下を抜きにしたもっと冷静な話し合いをあの切れ者の指揮官とは持ちたかった。

 相手は艦長室にこもるようなことを言っていたが、その性格柄で当てにならないと予想するかつての教え子は、何の気も無しにまったくの別方向へとこの足を向けていた。

 そこはこの艦の最上階のブリッジのさらに上、いわゆるてっぺんの天井、ロフト部分だ。

 すると思った通りに外部へのドアはロックが外されていて、外に出ると道なりにタラップをのぼってこの屋上部分へと顔を出す。

 見晴らしのいい真っ平らな鋼の屋根には、これまた思ったとおりの人物が、真ん中に仰向けで寝そべっていた。

 どうやらぼんやりと青空を眺めているようだ。

 やっぱりね……!

 これにはちょっとしたり顔してそちらに歩み寄る隊長さんだ。

 こちらから話しかけるよりも先にあちらのほうが反応した。

「どうしてわかった? 俺は艦長室に行くと言ったはずだが」

 すぐ間近から犬族の仏頂面を見下ろしながら、ぺろりと舌を出して応じるクマ族だ。

「どうしてって、教官どの、もといジーロ艦長が性格ねじくれた気分屋なのはみんな知ってるじゃない? ぼくなんかそれこそ昔からの旧知の仲なんだからね!」

「ふん、わるかったな……! 何の用だ? あいにく気ままなクマ族の相手なんかする気分じゃない」

 ますますしかめ面の上官どのにもお気楽なクマの隊長はいたずらっぽい笑みでウィンクくれてやる。

「そう言わずに! 久しぶりなんだからちょっとはお話しようよ、まじめな話ってヤツをさ?」

 短い舌打ちが聞こえたが聞こえなかったふりする隊長はしれっと言ってやる。

「さっきはずいぶんとお冠だったけど、あれじゃ若い芽がつぶされちゃうよ。上官とは言えパワハラだったんじゃないのかい?」

「…………」

 返事がないのにこれまたしれっと聞いてやる。

「まさかとは思うけど、コルクと何かあったのかい? あの性格気弱な毛むくじゃらの犬族くんと、過去にさ??」

「どうしてそう思う? 俺は初対面だと記憶している」

 むすりとした顔で青空見上げたままのジーロに、ベアランドは真顔で言葉を投げかける。

 ある意味、一番気に掛かった事柄だった。 

「そうか。でもあの子のことをはじめて目にしたって時に、なんだかちょっと驚いたような顔をしてたよね? 艦長?」

 また短い舌打ちが聞こえる。

「ッ……イヤなところをしっかりと見ていやがるんだな? この食わせ物のデカぐまめ! いいや、なんのことはない」

「?」

「そうさ、ただの他人のそら似ってヤツだ……! おまえにプライベートをあれこれ詮索されるいわれはないぞ? 気にするな。あいつとはあかの他人同士だよ」

 そんな幾分かトーンを落とした返答には、なるほどと納得して頷きながらもまたその首を傾げるクマ族だ。

「そうか、そりゃそうだよね。う~ん、それなのにひどいな、あの怒りようは?」

「八つ当たりをした覚えはない。ちゃんと必要なことを言ってやった。あんなビビリじゃそれなりに免疫つけなきゃこの先やっていけないだろう? おままごとをしているわけじゃないんだ」

「そりゃあね……!」

 浮かない顔の艦長は胸の内から取り出した何かしら眺めながら至って気のない返事なのに、ちょっとだけ引っかかりを覚えながらも話を変えるベアランドだった。

「ああ、そういや、ぼくらのボスとはなんの密談をしていたんだい? この先のことに関わるんだろうから、ちょっとはこっちにも教えてもらいたいんだけど」

「そんなものはそっちのボスに聞け! ンクス艦長、先生からはあっさりと断られたよ。悪い話じゃないと思うんだが、あちらにはあちらの思惑があるんだと」

「ふうん、あっさりと引き下がるんだ? らしくないなあ!」

「ほっとけ……ん!」

 それまでの穏やかな潮風が一転、身の回りがいきなり騒がしくなるのに両耳をピンと立てて回りの気配を探る艦長だ。

 これに身の回りをぐるりと見回してそれと認めるベアランドはちょっと意外そうに騒音の元となっている見慣れた同僚の機体を眺める。海を渡る機体と、空を飛ぶ二機のアーマーたちが見る間に小さくなっていくのを見送った。

「なんだ、もう帰っちゃうんだ、シーサーたち? せっかくこの艦の中をみんなで見て回る許可を得ていたのに!」

 これには足下から不機嫌そうなおじさんが言ってくれる。

「お前もさっさと帰れよ。あとなんであんな目立つところにあんなブサイクなアーマーを停めてやがるんだ。さっきから目障りでしかたがありゃしない」

「そんな青空を眺めながら文句を言わないでおくれよ。あそこにしか停められなかったんだから! 間違って塩水に漬けちゃったらうちのメカニックくんたちがきっと嘆くし♡」

 聞きたいことが空振りだらけだなと苦笑いしながら、また他に話を向けてやる隊長さんだ。

「そういや、この艦のアーマーらしきが見当たらないけど、ベテランのパイロットとその新型機ってのはデマだったのかい? 個人的にはちょっとだけ期待してたんだけど」

 するとこれには何故だかちょっと苦い顔つきしてひん曲がった口元で答えるジーロだった。

「あるさ。あるにはあるが、ただそれにつき若干の問題があって、出すに出せないってだけのことであって……!」

 そこで不意にむくりと起き上がって、でかいクマ族を見上げる犬族の艦長だ。そうして何かしら意味深な目つきと共に言ってくれるのだった

「そうか、だったらお前にいい土産話をくれてやる。せっかくだからな? 面白いものを見せてやるから、付いて来いよ」

「?」

 怪訝な顔で背中を見送るクマ族に、老獪な犬族はニヒルな笑みをその口元に浮かべて促した。

「だから、お前が見たいって言うヤツらに会わせやるって言っているんだ。おまけにこのアーマーにもな? 俺の気が変わらない内にさっさと来い」

 こうして言われるままにこの後を付いていくクマ族の隊長は、その先で思いも寄らない者たちと会うことになる。

 やがてひとりだけ母艦に帰投するアーマーの中で、この顔に苦笑いが張り付いて取れないベアランドであった。


Part2

 無事に戦いを終えてみずからの母艦に戻ったベアランド小隊であったが、その日の夜半にはまた再び出撃することとあいなるのだった。

 敵襲などではなく、友軍の僚艦にふたたび呼ばれてのことだ。

 例の偏屈な犬族の艦長にまたみんなでお説教を食らうのではあるまいな?とはじめ微妙な顔つきのクマ族の隊長さんだが、こちらの大ベテランの艦長から聞かされたのは、それは意外な先方からの提案であった。

 とは言えでさては何かしらの打算があるのではないかとこれまたビミョーな顔つきのベアランドなのだが、小隊の部下たちを引き連れてまた新型の巡洋艦へと向けて夜空に飛び立つのだった。

 ただし今回はベアランドの大型機だけで、ふたりの犬族たちの機体は航空空母に置き去りにしたままの、単機での発進だ。

 よってこの2名をみずからの機体のコクピットに同乗させての発艦だった。

 これに部下であるコルクとケンスは、さっぱりわけがわからないとひどい困惑顔をしながら、あちらに着いていざその場で命じられた命令には、なおさらギョッとして当惑することしきりだ。

 ついてほどなく、また母艦へととんぼ返りすることになる第一部隊は、今度は三機編成のアーマー小隊となってみずからの新型重巡洋艦の空母へとたどり着くことになる。

 ちなみにこの時、はじめ三名だったはずの隊員は、何故かこれが五名へと増えており……!

 詰まるところ以前に犬族の艦長どのが言っていた〝お土産〟が、早くももたらされた結果であった。

 大型のアーマーを専用の機体ハンガーに着艦収容させて、クマ族のパイロットは、ただちにこのコクピットからメカニックスタッフであふれかえるデッキフロアへと降り立つ。

 そこにはすでに新しく持ち帰った機体をこれ用のハンガーに収容させていた二名の犬族たちが、ピシッと敬礼して待ち構えていた。ここらへんはすこぶる礼儀正しい新人パイロットだ。

 軽くだけ敬礼して返す隊長のクマ族は、見上げてくる若い犬族たちにおおらかな口ぶりで声をかけた。

「ふたりともおつかれさん! で、どうだった? あの仏頂面の犬族のおやじさんからもらった新型機は? はじめてでおまけ夜間飛行じゃちょっとしんどかったかね、いくらきみらのアーマーと同型機とは言え……!」

 するとこれに敬礼を解いてから応じる長身の犬族、ケンスは戸惑い気味に答えた。

 その隣の同僚の犬族のコルクも何やら困惑気味の表情だ。

 どうやらこのふたりには、あまり相性が良くはない機体だったらしい。

 その様子だけでもはやなるほどと納得する隊長さんだ。

「機体の反応はとても良好でした。おれたちのと遜色ないです。ただ、操縦桿やスイッチのたぐいがとても重くて、やたらに固かったですね! あれじゃいざ戦闘になった時に大変だ……」

「お、オレも、とても苦労しました! あんなのオレたちの手には負えませんっ、ここまで飛ばしてくるのでやっとだったから……!」

「そうか。なるほどね! 知ってのとおりでクマ族のパイロットさんたちだから、そっち向けに操作盤回りがきつめにチューニングしてあるんだよ。ぼくらからしたら、犬族用のはむしろ設定がゆるゆるで、ちょっと肘が当たっただけで固定武装やら何やらが暴発しちゃうからね!」

 冗談めかした言いように、暗い顔つきのケンスが苦笑いして背後に立つ新しいアーマーを見上げた。

「そもそもが、コイツはおれたちのと同型機なんですか? まったく見てくれが違うように思えるんですけど……なあ?」

 横の相棒に問うのに、問われた毛むくじゃらの犬族はうんうんと激しく頷いて同意する。

 すると問われたクマ族の隊長も、ふたつ並んだ機体を見上げながらにやんわりとこの疑問に応じた。



「まあ、これっていわゆる試作機、プロトタイプってヤツでさ、きみらのビーグルⅥの元となった機体らしいよ? これを量産型に改良・改修したのがあっちの機体で、ある意味兄弟みたいなもんなんだよ♡ いたるところゴツゴツしてて、いかにもクマ族向けって感じだけども」

「犬族とクマ族で兄弟ってあんまりピンと来ないですけど……」

「あ、あの頭も、なんかクマっぽい……!」

「ああ、通称、ベア・ヘッドだって! この機体、ビーグルとは言いながら、ヘッドはぼくのとおんなじまあるいクマ型なんだよね。なんかブサイクな♡ でもぼくのランタンほどじゃありゃしないか!」

 茶化して笑う隊長に、やはり苦笑いの部下たちだった。

 この時、背後のほうで何やらごそごそと気配がし出すのに、そちらに気を向けようとしたベアランドだが、折しも横合いから声を掛けられてみんなでそちらに向かうこととなる。

 はじめに部下たちが同乗していた機体に、帰りはまた別のふたりの隊員たちを乗せていたのだが、それをすっかり失念していたのをようやく思い出すベアランドだ。

 それでもベテランの軍人たちなのだから、ほっておいても平気だろうとあえて気にかけずに、今はこちらに近寄ってくる同僚の副隊長に身体を向け直した。

 オオカミ族のウルフハウンドは気楽なさまで声を掛けてくる。

「おう、もう帰ったのかよ? 早かったな! ふうん、ずいぶんとブサイクな機体だが、それなりに使えるんだよな? おまえたちが乗って来たんだろ??」

「ハッ!」

 かしこまってまた敬礼する新人たちに、鷹揚な態度の第二部隊隊長はにんまり顔してこの喉を鳴らした。

「くっく、いい反応だな。多少は戦い慣れてきたってことか。学生さんがいっちょ前のパイロット面してやがる! それじゃ早速だが、こいつらは預からせてもうらうぜ?」

「ああ、そうか、明日付でふたりともシーサーの第二小隊に編入されるんだものね? ぼくのほうにふたり、ベテランが入ってきたから。なんか名残惜しいな♡ ぼくのこと忘れないでね?」

「忘れるも何もみんなおんなじ艦に所属の一個中隊じゃねえか? これからも毎日顔を合わせるんだからよ。明日から所属が別になるんだが、もう今からみっちりとミーティングだ! 戦い方も変わってくるから、そこらへんも覚悟して従ってもらうぜ?」

「ああ、なるほど。どっちも機体の仕様が飛行型から地上戦、ないし海上戦用に変わるんだっけ? 道理でふたつともこの区画に見当たらないわけだ。あの銀色のまっちろい機体?」

 表情をややこわばらせるふたりに明るい笑顔で言って、副隊長のオオカミ族には了解したと頷く隊長のベアランドだ。

「それじゃ、行っておいで。副隊長がキビシイからってへこたれちゃダメだよ? しっかりとそのシッポに食らいついて一人前のパイロットにならなくちゃ!」

 最後にびしっと敬礼してただちに灰色オオカミに連れられていく犬族たちを見送る隊長さんだった。

 それきり立ち尽くすが、しんみりとした気分に浸るには回りの喧噪がやかましすぎる。

 それで気持ちを切り替えると、ぐるりと頭を巡らせて、ふたたび自分のアーマーへと向き直るのだった。

 見ればそこには、新顔のふたりのパイロットたちが陽気なさまで立ち話をしている。

 何故だか楽しそうにピョンピョンとフロアで跳ねている、見てくれのそれはでっぷりとした大柄な年配のクマ族たちだ。

 これにはやたらな親近感が沸いてにんまりした笑顔が隠せない隊長さんである。

 こちらはこちらでまた忙しくなるのに違いなかった。

Part3


 巨大な軍用艦の食堂は、一度に大勢の乗組員が利用できるようにそれは大きな区画面積があり、一部には士官やパイロット用の専用フロアだなんてものまでが用意されていた。

 これに普段はさしたる意識もせずにそこらで食事を摂っているクマ族の隊長さんなのだが、あえて今だけはその人気のない専用スペースを陣取ることにする。

 つまりは今日付で編入されてきた新人の隊員たちをともなって、軽いミーティングの場を設けるためだった。

 先にデッキフロアから上がって、すでにミーティングを行っているはずの同僚のオオカミ族が率いる第二部隊はどこにも見当たらないので、おそらくはどこぞかのブリーフィング・ルームにでも詰めているのだろう。

 みなが大柄で大食漢ばかりのクマ族たちとは違って、その体つきがスマートな種族が大半のオオカミや犬族たちには、食べながらミーティングをするという発想や慣習がないのかも知れない。

 食堂の横長のテーブルのあちらとこちらに分かれて座るベアランドは、これと対面するふたりのベテランパイロットたちを実に頼もしげに見つめては、クックと喉の奥を震わせるのだった。



「ふたりともほんとに良く食べるな! 見ていてあっぱれだよ。小食なコルクたちに見習わせてやりたいくらいだ♡ よっぽどおなかが空いてたんだね? まあ、わからなくもないけど……」

 性格何かと難ありな犬族の艦長の巡洋艦に居た時の悲惨なありさまを思い返しながら、肩を揺らして笑ってしまう隊長さんだ。

「それじゃ、食べながらで構わないから、今からおおざっぱなブリーフィングをさせてもらうよ。改めて自己紹介をば♡ じぶんはこのアーマー部隊の隊長を務める、ベアランド少尉だ。ぼくらはとりあえず第一小隊、この戦艦の中では、いわゆる航空アーマー部隊ってヤツだよね、てことで以後よろしく!」

 これにテーブル上にどかんと置かれていた山盛り一杯の食事から、二人そろって顔を上げるクマ族たちは反射的に立ち上がろうとするのを、やんわりと制止するベアランドはまた続けた。

「あ、いいよ、敬礼はさっき済ませたばかりじゃない? そのまま食べ続けてていいから。どうせ面通しくらいのおざなりなものしかやらないんだし、いちいち細かいこという必要もないってものだしね? なんたってこんなにいかつい見てくれした大ベテランのパイロットさんたちじゃさ!」

 どちらもじぶんとおんなじ大柄なクマ族の上に、ふたりともこの艦内ではおよそ見かけないような一風変わった見てくれのスーツに身を包んでいるのを、いかにも頼もしげなニコニコ顔で眺める隊長さんだ。

 見ようによってはかなり異様な、いっそ囚人服だとかを思わせる横縞柄のパイロット・スーツは、これぞまさに知る人ぞ知るべくした王宮や内政府直属の守備部隊の専属衣装だった。

 すなわちよほどの熟練した手練れのみが身につけることを許された、アーマー曲技曲芸部隊、人呼んで『サーカス・ナイツ』の出身であることを、どのくらいのクルーが知っているのだろう。
 
 一説には暗殺だとかいった闇の仕事もこなすのだとか……?

 こうして目にすることもなかなかに無いはずのものなのだ。

 軍内部ではある種の「伝説」とまで化した戦闘集団だった。

 それだから見ていてわくわくが止まらない若いクマ族の隊長は、太い首を傾げながらにしみじみと言うのだ。

「う~ん、それがどうしてあのおじさん、もとい偏屈な犬の艦長さんのとこにいたのかねえ? あんまり詳しくは聞けなかったけど、なんかワケありっぽいのかな♡ おまけにこのNo.8とNo.9とはさ! 上位10位以内の上級ランカーだなんて、普通はなかなかお目にかかれないんもんだろうに?」

 見た目がかなり特殊なデザインしたスーツの胸ポケットのあたり、それぞれに固有のナンバーが描き込まれているのを読み上げては、ひとしきり感心するのだった。

 これにどちらも一度は立ち上がりかけながら、また口の中いっぱいに食べ物を詰め込んでモグモグやっていたふたりの中年のクマ族たちである。


 それがやがてごくんと口の中のものを飲み下したらば、やや苦笑い気味の照れたような笑顔を向けてくる。

「いやいや、そないに大したもんちゃいますわ! なりはこないですが、おれらしがないアーマー乗りってだけのことでして。なあ?」

「せやな。ぼくらアーマーをうまく扱うことだけが取り柄のただのおっさんですわ。お恥ずかしいはなしやけど……!」

「そんなこと♡ 『高空の大鷹と大鷲』とまで恐れられた、クマ族きっての熟練パイロットコンビ、よっぽどのもぐりじゃなければ知らないヤツなんていやしないよ!」

 まんざらお世辞でもなさそうな隊長からの発言に、また互いの顔を見合わせてこちらもまんざらでもなさそうな上機嫌で照れ笑いするおじさんたちだ。

「そないに言われると照れてまいますわ! ええ隊長さんに拾うてもらえてこっちは大助かりですさかいに。この軍艦、飯もめっちゃうまいし、ええことずくめやわ!!」

「ほんまや。今後ともどうぞよろしゅう。せやからぼくらも改めて自己紹介をさせてもらいますわ。噂ほどの腕があるかは知りませんが、ぼくはヒグマのザニー、ザニー・ムッツリーニ、階級は中尉であります……!」


「せやったら、じぶんはグリズリーのダッツ、ダッツ・ゴイスン中尉であります! よろしう願いますわ、ほんまに! マっジでがんばりますさかいに!!」


 息の合ったふたりからの歯切れのいい名乗りにあって、こちらもますます上機嫌で受け答えるベアランドだ。

「どうも♡ こちらこそ、頼りにしてるよ! だったらほら、遠慮しないでもっと食べてよ、じきにお代わりも来るだろうから。おなかペコペコなんでしょ?」


 鷹揚なクマ族の隊長からの催促に、いささか気後れすることもなくがっつりと頷くこちらも豪快なクマ族たちだ。

「はあ、それは、そんなら喜んでいただかせてもらいますわ!」

「ほんまにええ隊長さんや! でもなんで部隊を率いるっちゅうリーダーが、おれらよりも年下でおまけ格下の少尉さんなんや? このひと??」

 目の前のごちそうに再び取りかかりながらこちらをチラチラと目の端でうかがってくる灰色のクマ族に、向かって左隣の赤毛のクマ族はあいまいな顔つきでただこの頭を傾げさせる。

 おおらかな口ぶりの隊長はこれに気にするでも無く答えた。

「まあ、そのへんは今はどうか大目に見てよ♡ これから頑張って階級上げるように努めるから。ふたりとおんなじか、いっそ大尉さんくらいがいいのかな? 正直、個人的にはあんまりこだわりがないんだけど、そこらへん」

「ええです。気にしませんわ。ちゅうか、少尉どの、やのうて隊長さんが乗ってたあのアーマーを見たら、納得やわ。あないにバケモノじみたいかついギガ・アーマー、そこいらのパイロットには乗られへんのやさかい。実力は保証されとるっちゅうわけで」

「せやな! ビックリやわ!! あないなお化けじみたもんひとりで乗りこなすなんてありえへんで、ほんまに。ちゅうかマジでひとりでやってますのん? おっかないわあ……!!」

 おじさんのクマ族がふたりしてうんうんとうなずき合うのに、こちらも照れた笑いでうなずく若いクマ族だ。

「どういたしまて。とは言えで、そっちのアーマーもかなりのモノではあるんだけどね? 初期型のビーグルⅥとは言っても、現行の機体よりもよっぽど性能が良さそうだよなあ。実際に乗ってたコルクとケンスがとても扱いきれないって嘆いていたし?」

「フフッ、犬族のワンちゃんたちにはしゃあないですわ。なんちゅうてもベア・ヘッド! クマ族のぼくら専用にチューニングした機体なんやから。装甲からエンジン出力から桁違いですわ」

「あないなもん、ほんまにおれたちやから乗りこなせるっちゅうもんでの? せやから腹ごなしもして元気もりもり、クマ族コンビの実力っちゅうもんをいかんなく発揮してやりますわ!!」

 本当に息の合ったおじさんコンビに、心からの明るい笑顔になるベアランドだ。

「楽しみにしてるよ。ほんとに元気になってくれて良かった♡ 一時はどうなることかと思ってたからさ? ジーロ艦長のとこで独房にふたりそろってぶち込まれてたのを見た時には……!」

 いたずらっぽい笑みでウィンクしてやるに、途端に気まずげな顔を見合わせて、互いの肩をすくめさせるおじさんコンビだ。

「ああ、それはお恥ずかしいところを見られてしもうたわ……」

 ペロリと赤い舌を出して困惑顔する赤毛のクマ族に、対する焦げ茶色のクマ族は、はたと考えながらに聞いてくれる。

「うん。でもあれってのは、つまりはふたりともひどい船酔いで完全グロッキーだったんだよね? 今にして思えば??」

「せや! あの渋ちんの艦長さんが、空も飛ばんとずっと海面にへばりついておったから、航空巡洋艦やっちゅうてるのに!!」

 いまいましげに呻く灰色熊に、横のヒグマがおなじく険しい顔色で同意する。

「おお、燃費が悪うなるから空飛ぶんは必要に迫られてからゆうてたよな? ほんまにしんどいわ。ぼくらふたりとも海軍さんやのうて丘の陸軍出身やさかいに、あないにぐらんぐらん揺れる中ではしんぼうでけへんかった」

「地獄やったわ! それにくらべてこっちの空母はちゃんと空飛んでますやんか、マジで天国やわ! おかげでまるで揺れへんし、うるっさい波の音もちっとも聞こえへん!!」

「ああ、だからさっきはあんなピョンピョン跳ね飛んで地面を確かめてたのか。このクラスの重巡洋艦は空飛んでたほうがむしろ燃費がいいって言うからね? 試験飛行も兼ねてるから、次に降りる時はちゃんとした大地の上じゃないのかな。ふたりともこっちに来て正解だったんだ。ジーロ艦長には感謝しなくちゃね!」

「いいや、もう二度と関わりたくありませんわ」

「マジで!」 


 深いため息ついたかと思えば、それきりまたみずからの食事にいそしむベテランたちに、じぶんもお腹が減ってきたことを自覚する隊長さんだが、折しもそこに無人の移動カートに乗せられた山盛り一杯のごちそうがまた新たに到着した。

 これにヒュー!と歓迎の口笛を鳴らすおじさんたちだ。

 まだ食べる気まんまんなのらしい。

 そんなとても景気のいいクマ族たちに心底嬉しくなるこちらもクマ族のベアランドだったが、食べ物が満載のカートからがっちりと大盛りのプレートを持ち上げながら、その後ろにくっついてきた人影をそれと認めたりもする。

 四人目のチームメイトであるメカニック担当の青年クマ族なのだが、この後ろにまた大柄の中年のクマ族がいたりもするのにはやや不可思議な目線を向けるのだった。

 ちなみに士官用のフロアは目隠しの衝立(ついたて)がこの周囲にぐるりと張り巡らされているので、外からはこの中の様子がよくはわからない。

 よってつまるところふたりともこのやけに食べ物が豪快に盛られた自動カートの行く先に当たりを付けて、この後をくっついてここまで導かれたのらしかった。

 それを理解した上でふたりの凄腕のメカニックマンたちを迎えるベアランドだ。

「お、さすがにいいカンしてるね! 待ってたよ、リドル。あと第二小隊専属のチーフまでいるけど、一緒にお食事かい? ま、構わないけど、どう見てもグルメでグルマンのイージュンがいたらば、ごちそうの取り合いでケンカになっちゃいそうだな!」

 こんな冗談めかしたセリフにあって、だが当の本人は何やら浮かない顔つきで大きな肩をすくめさせるのみだ。

 クマ族の中でも飛び抜けて大柄な肥満体型である第二小隊チーフメカニックに、この前に立つとさながら子供のように映る細身の若いクマ族のこちらは第一小隊が専属のチーフメカニックマンは、ちょっとだけ苦笑いで答えた。

 あんまりにも勢いよく食事を平らげている右手のクマ族たちにどうやら引いているらしい。

「は、リドル・アーガイル、ただいま参りました。みなさんお食事中のところ失礼させていただきます。ぼくは食事はもう下のデッキで適当に済ませているのですが……」

「済ませているって、たかが小ぶりなハンバーガーをひとつだけつまんだくらいだろう? あんなものは食事とはいいやしない」


 後ろから巨漢のクマ族にいじられてなおさら苦笑いのリドルだ。これにベアランドが了解して右手の椅子を引いてみせた。

「いいからいいから! ならきみもちゃんと食事を摂らなきゃ♡ ふたりの新入隊員さんたちに紹介するついでにね! あと、そっちのイージュンもついでに紹介しておこうか。あいにくと第二部隊のメカニックだから、直接は用がないんだろうけど?」

「む、ついでにとは失敬だな? まあいいさ。オレはまだやることがあるからとっとと失礼させてもらう。用があったのはあんたらではなくて、あの生意気なオオカミ族と気弱なワンちゃんたちなんだ。アーマーのことでお願いしたいことがあってさ」

 浮かない調子で言って口をへの字に曲げるチーフメカニックに、これまた意外そうな目で見上げる第一小隊の隊長さんだ。

「ああ、そうなんだ? でも見ての通りで、あいにくとここには誰もいやしないよ。たぶんみんなよそのブリーフィング・ルームに詰めているんだろ。急ぎの用ならこっちで呼び出してあげようか?」

 みずからのスーツの腰にある士官専用の通信端末を示しながらの言葉に、冴えない顔した巨漢のクマ族は太い首を横に振った。

「いや、あの灰色オオカミは何かとめんどくさいから、あんたから言ってやってくれないか? それにどっちかと言ったら新人のワンちゃんコンビにお願いがあるんだ。そう、あの犬族たちのろくに塗装されていないアーマー、せっかくだからそれなりに色をつけてやりたいと思ってさ」

「あ、やっぱり未塗装だったのでありますか? 全身銀色でやけに目立つ機体色なのがおかしいとは思っていたのですが……!」

 うながされるままに椅子に座った若いクマ族が熟年のクマ族を見上げて問うのに、傍で聞いていてただちになるほどと納得するベアランドだ。

「やっぱりそうなんだ? はあん、でもあの機体、どちらも飛行型から地上戦、ないし海上戦仕様に機体の仕様を換えられちゃうんだよね? てことはもう終わったのかい??」

「いまやってる真っ最中だよ。両脚のホバーユニットの換装自体はわけないことだから、あとは背中の邪魔なフライトユニットも取り外してより地上戦仕様にふさわしく仕立ててやる。武装と装甲をより強化するかたちでね?」

「そいつはありがたいや! あの子たちも喜ぶんじゃないのかな? 頼れるメカニックがついてくれて一安心だよ。今後ともよろしくね! それじゃ、後でそっちに顔を出すようにふたりには伝えておくからさ♡」

「ああ、よろしく頼む。ただしオレの居住区のセル(個室)ではなくて、下のハンガーデッキに来るように伝えてくれ。来るのは明日以降で構わないから。それじゃ、オレはさっさとおいとまさせてもらうよ。あとはどうぞご自由に。こちとらやらなきゃならないことがまだまだ山積みなんだ」

「うん。ご苦労様♡ それじゃ、またね」

「ご苦労様であります! イージュン曹長どの!!」

 巨漢のクマ族がのっしのっしとこの視界からいなくなるのを見届けて、改めて残りのメンツを見回す隊長だ。

「よし、それじゃこちらも食べながら、いざ本題に入ろうか。せっかくこうしてみんなそろったんだから」

 するとぼんやりした顔で口をもぐもぐ動かしていた赤毛のクマ族が、ごくんと口の中の食べ物を飲み下して、今しも食堂から立ち去っていくでかいクマ族の背中を見ながらに言った。

「んん、いまのおひと、なんやえらい存在感がありましたが、イージュンってゆうてはりましたか?」

「せや、そやったらめっちゃ有名人やんな! 泣く子も黙る鬼のメカニック、イージュン・ビーガルっちゅうたら、知らんひとおらへんで、この界隈じゃ? さっすがにこんだけいかついフラッグ・シップともなるといたるところ猛者ばっかりや!」

 灰色のクマ族も興味津々でおっかなびっくりにその背中を追いかけるのに、もうとっくにこれを見慣れている隊長さんは、肩をすくめ加減にしてあいまいに応じるばかりだ。

「まあ、本来はよその軍艦に配属されてたのを今だけ特別に入ってもらったんだけどね? ここって基本人手不足だから。いつまでいてくれるんだか♡ それはさておき、こっちの紹介もさせてもらうよ。ぼくら第一小隊のチーフメカニックくんのことをさ」

 あらためて己の横に着く若いクマ族を示しながらの言葉に、ふたりのベテランが目をまん丸くして大口を開けた。

「へ、チーフメカニックさんでありますか? この見た感じいかにもお子ちゃまっぽい、クマ族の男の子が??」

「うそやん! まるでそんなふうには見えへんで? 隊長、冗談ゆうにもほどがありますて!!」

「ああ、いや、別にそう言うわけでは……!」

 ある意味まっとうな反応するベテランのパイロットたちに、苦笑いで右手の若いメカニックのクマ族を見つめるベアランドだった。するとこれにはリドル本人がすかさず席を立って、ピシリとした一人前の敬礼をしてくれる。

「ハッ、申し遅れました! じぶんはリドル・アーガイル、伍長であります! こちらでは第一小隊のチーフメカニックとしての任務に当たっております。見ての通りのまだ若輩者でありますが、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます!!」

 そうきっぱりと宣言してくれるのをきょとんと見上げるばかりのクマ族たちだが、その後にとどめとばかり隊長から言い放たれた一言、ある有名な犬族の伝説的メカニックの名前にひたすらびっくりして互いの目を見合わせることになる。

「そないな大したおひとの愛弟子なんでっか? それは……!」

「うそ~ん、マジでビックリや!!」

「いや、その、それほどでも……!」


「基本的にはこのぼくのアーマーを面倒見てくれているんだけど、だったらなおさら納得だろ? あのお化けアーマーのメインメカニックマンなんだからさ♡ このトシで!」

 かしこまるリドルの肩をぽんぽんと叩きながらしたり顔するベアランドに、神妙な顔で正面に向き直る赤毛のクマ、ザニーはやがて真顔でうなずいた。

 ダッツはやや困惑顔のままだが、相棒が納得するからにはさしたる異論はないらしい。

「それは、信頼してええっちゅうことなんですな? メカニックの腕はパイロットの生命に直接関わるもんやから。隊長のお墨付きなら文句は言いようがあらへんですわ」

「うん♡ 全幅の信頼を寄せてくれて構わないよ。ビーグルシリーズくらいなら、片手でちょちょいのちょいさ!」

「ほんまに? なんかおっかないわあ!」


「いいえ、見るからにはちゃんと見るので、それで一見したところ、おふたりのアーマーは背中のフライトユニット以外にもプロペラントタンクが増設してありますが、あれは通常任務においても必要なものなのですか? あくまで航続距離を伸ばすのが目的ならば、激しい空中戦ではむしろ邪魔になるものかと思われますが……!」

「ほんまもんやわ! せやんな、明日からの任務には必要ないものやさかい、取っ払ってもろうてかまへんよ」

「せやったらじぶんのも頼むわ! あないにでかいワンちゃんのシッポみたいなもん、カッコわるうてしゃあないて!!」

 すぐにも意気投合しはじめるパイロットとメカニックを嬉しげに見るベアランドは、そこでちょっと考えながらに口を挟んだ。

「ん、明日から、かい? はじめに見た感じだと、どっちもあと2、3日は休養を取らないとダメかと思っていたんだけど、そんなに急いでいいもんかね? しばらくはぼくひとりのワンマン部隊の覚悟をしていたのだけど」

「そうなのでありますか? じぶんにはおふたりともどこも不調はないように見受けられますが。もちろんアーマー自体はいつでも出撃可能です!」

「あはは、明日からが楽しみだね! それではダッツ中尉、ザニー中尉、今後ともよろしく頼むよ♡ 北の空で敵無しと謳われた空中戦のプロの活躍ぶり、ほんとに頼りにしてるからさ」

 隣の若いクマ族同様に席を立ち上がるクマ族の隊長は、そう言って右手をテーブル越しのベテランのクマ族たちに差し出した。


 これにすかさず立ち上がって交互に固い握手を交わしてくれる赤毛と灰色熊だ。

 ただし素手で食べ物を掴んでいた利き手はどちらもぐっしょりと濡れていたが。

 ちっとも気にしないで座り直すとみずからもナイフとフォークは無視してごちそうを掴み上げるベアランドだ。

 横のメカニックにも自由に食べるように言って、鼻歌交じりに口いっぱいにパンやら肉やらをほおばる。

 明日からが楽しみで仕方がない隊長さんなのであった。



           ※次回に続く……!

リドル、イージュン登場 お代わりのワゴンの後から
ケンス、コルク、←シーサー ミーティング
ダッツ、ザニー、ベアランド、
イージュン、ケンスとコルクに用がある。ビーグルⅥ塗装? 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #014

#014

 #014

Part1


 その時、実際の現場にはどれほどの〝間〟が流れたのか? 

 それぞれの体感としてはそれは長い沈黙の後、この海域のどこぞかに姿をくらましているものとおぼしき新型の巡洋艦の艦長、犬族のベテラン軍人の声が、再びコクピット内にこだました。

「……どうした? 返事が聞こえないぞ? 聞こえたんだろ? いいから、とにかく撃っちまえよ。お前の機体のメインアームで構わないから、目の前のでかいプラントに一撃見舞ってやれ!」

「ハッ……!?」

 果たして上官からのおよそ予想だにもしない命令に、部下である若い犬族のパイロットは、ろくな返事もできないままにひたすらに己の耳を疑っていた。

 よもや現実のことかとだ?

 これに傍で聞いていた相棒と、混乱した現場を取り仕切る若いクマ族の隊長さんも少なからず動揺して耳を澄ましてしまった。

 するとその沈黙に、ややもせずしてまた年配の大佐どのの、ちょっとイラッとした声色が響く。

「おい、でかグマ! おまえの部下どもは耳が聞こえないのか? 上官の命令にろくな返事ができてないだろう! このオレは至って単純な命令しか出してないぞ。目の前の敵に占拠されたプラントを攻撃しろって、ただそれだけだ。簡単だろ、あんなでかいの空からならおよそ外しようがない」

 ああ、やっぱり、そう言ってるんだ!

 本気なんだとようやく納得しながら、ずいぶんと乱暴なことをぬかしてくれるなと内心で呆れてもしまうベアランドだ。

 左右のスピーカーからは、ごくり、と息を飲んだり、ひどく狼狽したりした息づかいが、はっきりと伝わってくる。

 いよいよもって混乱してきた状況にひどい苦笑いの隊長ながら、とかく落ち着き払って右手のスピーカーに声をかけた。

「だってさ、コルク? 聞こえているよね、どうやら本気らしいから、ちゃんと返事しないと!」

 おそらくは狭いコクピットの中で息を殺して縮こまっているのだろう、毛むくじゃらのワンちゃんに向けて言ってやるのに、当の本人からは切羽詰まったようなうわずった返事が返ってきた。

「はっ、はいっ! 了解っ、あ、ですが、あの、そのっ、あの! し、しかしっ……!」

 まともにろれつが回っていなかった。

 もはや完全にパニックしたコルクの慌てぶりに天井を仰いでしまうベアランドだが、見上げた先のスピーカーからはやや憤慨したオヤジの声が降ってきたのには、なおさら天を仰いでしまう。

「しかしもカカシもあるか! おい、こいつはれっきとした上官命令だぞ? 貴様、命令を無視しようってのか! 何も遠慮することはない、こっちの本気を見せてやるためにやつらに一発かましてやればいいだけのことだっ、それで大きく潮目は変わる」

 決まり切ったことだろうと言わんばかりにきっぱりと断言してくれる艦長どのだ。およそ有無を言わさない迫力があった。

 これに若い犬族がなおさら萎縮してしまうのが、モニターの中の様子を見なくてもそれとわかる隊長さんが、仕方も無しに仲裁に入る。

「いや、しかしだね、艦長? そうは簡単に言ってくれるけど、民間の施設にぼくらみたいな軍が介入、しかも実弾を見舞うだなんてのはどうにも穏やかでない……てか、あれって実際に稼働してる大容量かつ大出力のエネルギープラントなんだよね??」

 そんなところに攻撃しようだなんておよそ正気の沙汰じゃないのは、まだ若い新人の隊員でなくともそれとわかりそうなものだが、相手の百戦錬磨のベテランはまるで意に介したふうでもなくあっさりとこのクマ族の意見をはたき落としてくれる。

「おい、誰がプラントそのものを攻撃しろだなんて言った? 撃つのはプラントの本体ではなくて、これをコントロールしている制御室、コントロール・ルームだ。当たり前だろう? あの海上ベースの真ん中におっ立っている高いタワーのてっぺんだよ! とにかくそいつを破壊しろ!!」

「そういうことは先に言いなよ! さっきっからさ、大事な部分がまるっきり事後説明になってるじゃないか? でも制御室を壊したりして、平気なのかい?」

 苦い顔でうなるクマ族に、相手の顔の見えない犬族はそ知らぬさまでこれまたぬけぬけとぬかしてくれる。

「平気だろ、プラントの内側にサブのコントロール・ルームがあって、そっちがむしろそのプラントの本丸だ。内密に海底資源をくみ上げるのもそっちでやってるんだからな。よってその表に見えてるのはお飾りみたいなもんなんだよ。ただし目立つぶんそこを叩いちまえば周りの敵にプレッシャーを掛けられるし、みんなとっとと逃げ出していくさ。文字通り、シッポを巻いてな?」

「はあ、そんなにうまいこと行くもんかね? コルク、コルク! 聞いてるかい?」

 押し黙ったままの犬族に話を振ってやるに、やはりテンパったままの当のコルクは、ひどく苦しげな返答を返してくる。

「で、ですが、あの、あのコントロール・ルームには、民間人のクルーがいるのではっ? なのにそこをじぶんが撃ったりしたら……!!」

 もっともな意見だったが、内心で首を傾げる隊長さんだ。

「ああ、いや、そんなに派手にど真ん中にぶち込む必要もないんじゃないかい? ちょっと天井とか、目標のやや下あたりにめがけてさ、あんまり被害が出ないくらいのを……!」

 そもそもがこんな状況だからとっくに退避している可能性もありそうなもので、性格的な心配性が過ぎるだけとも考えられた。

 だがこれに天井のスピーカーからは、いよいよいらだった犬族のオヤジ様のかんしゃくが降り注いでくる!

「いいから、オレは撃てって言っているんだよ! 構うことはない、躊躇してると敵さんが勢いづいてくるぞ? 早くやれよっ、おいっ、この能なしのボンクラどもがっ!!」

「ひっ、ひいっ……! おれっ、おれ! ひいいっ……」

「コルク! いいから落ち着けよ!!」

 同僚のケンスの声も響くが、あいにくと毛むくじゃらの犬族くんはまるで周りが見えていないようだ。

 合わせて困った隊長と怒った艦長の声も交差する。

「コルク! よく聞けっ、狙うんならちゃんとタワーのてっぺんだよ? そこ以外は致命打になるから! いろんな意味で!!」

「早くやれよ! おい貴様、命令違反をするつもりか!? ならそいつはこのオレをジーロ・ザットンと知ってのことだろうな!!」

「ひいっ、じ、ジーロ・ザットン……! と、父さんっ、おれ、おれ、どうしたらっ……!!」

「……?」

 出会ったばかりではまだ少年にも見えた青年が、ついには情けのないかすれた悲鳴を漏らす。

 ちょっと怪訝に聞くベアランドだったが、天井からそれをかき消すような怒号がするのには、うげっ!とうめいてもしまう。

「マズイな……! あの艦長さんてば、すっかり頭に血がのぼっちゃってるよ!」

 勝つためには手段を選ばない冷血漢とも噂される人物は、いざとなったら相当に手荒なこともやってのけるに違いない。

 この場が荒れるのはもはや必然だ。

 で、結果、ろくでもないことをでかい声でまくしたてる大佐どのなのであった。いわく――。

「ああ、だったらもういい! こっちでやるさ、ここまで来たらもうこそこそ隠れている必要はないからなっ、全艦戦闘態勢! 緊急浮上だ! おい、話は聞いているな、砲手長? 艦首が海面から出たらオレが言ったポイントをただちにぶち抜いてやれ!」 

 ブリッジのクルーから立て続け、おそらくは艦の砲手のセクションへ向けて声高に言い放たれた怒声にぎょっと目を見開くベアランドだ。強硬手段の強権行使はとどまるところを知らない。

「ああ、そうだよっ……は? 主砲じゃない、副砲、おまけのサブキャノンでだよ!! きれいにうわっぺりだけ吹き飛ばしてやれ!! あ、間違ってもエネルギーの貯蔵庫は撃つなよ? 目の前のクマ助どころかこっちまで巻き込まれちまうぞ!!」

「うわ、すごいこと言ってるな! コルク、ケンス、たぶん背後の海面にでかい巡洋艦が顔を出してくるから、その射線上から機体を退避させるんだ! やっこさん、かまわずぶっぱなしてくるぞ? あと、一歩間違ったら大爆発が巻き起こるから、その時は全力で緊急回避だ! ぼくは、ええいっ、めんどくさいな!!」

 こちらの命令通りに二機の僚機が左右に分かれていくのをモニター越しに確認しながら、本来ならじぶんもさらに上空へと退避すべきところを、あえてモニターをぐるりと半回転させて、この真後ろへと機体の頭を巡らせる。

 巨大なエネルギープラントを背後にして臨んだ海面からは、今しもそこに大型の戦艦の甲板が急浮上するのが見て取れた。

 思った通りに遠くの東の海域から流れ着いてきた巨大な人工の漂流物、廃墟と化したはずギガフロートを真ん中からまっぷたつに割る形で、新型の巡洋艦がその姿を現すのだった。

 おまけにこの鋼の船体を現すなりにブリッジの下に据え付けられた砲塔が盛大に海水はき出しながら、この仰角をこちらに上げてくるのに思わず舌打ちしてしまう。

「ちっ、やる気まんまんだね! でもそんなのでプラントを狙い撃ちしたら、示威行動以前に自殺行為になっちまうだろうさ? かくなる上は、仕方ない! こっちも腹をくくるしかないや、行けるよね、ランタン!!」

 左右から困惑した部下の犬族たちの声が響くが、今はそれらを一切無視して機体の制御に専念するクマ族の隊長だ。

 機体をゆっくりと上昇させて、前方に出現した戦艦の目標となっているプラントの制御タワーのてっぺんへとみずからの機体の高度を上げていく。

 さらには丁度相手の射線上にこの機体の胴体の中心が重なるポイントで、ぴたりと姿勢を固定させた。

 ふうっと息継ぎをして、前のめりに正面のモニターをにらみつける。

「いいね、エネルギー全開でバリアを展開だ! あのおじさんの砲撃をまともに真正面で受け止めるよ!! お前なら戦艦の艦砲射撃でも十分に耐えうるところを証明しておくれよ!! ついでにお前のちからをみんなに見せつけてやれ!!」

 やや苦し紛れな言葉をがなってみずからを鼓舞する。

 機体のエンジンをふかすことなく無理をしてここまで出て来たからパワーは満タン! おそらくは大丈夫なのだろうが、後で聞いた若手のメカニックがなんて嘆くのか見物だった。

「さあて、面白くなってきちゃったね……!」

 自然と口元に笑みがこぼれるが、天井のスピーカーからは例の冷めたオヤジの声がする。

「おい、何のマネだ、でかグマ? それじゃあお前ごとタワーを撃ち抜くことになるが、それでいいってのか??」

「いいや、ご心配なく! しっかりと受け止めてやるからさ!! そうでもしないとこの場は収まらないだろう? まったくこれも織り込み済みだったりするんじゃないだろうね?」

「ふんっ……!」

 威力が知れているアーマーの固定武装ならいざ知らず、でかい戦艦の艦砲射撃だなんてものをまともに食らったら軍事要塞でもない民間仕様のプラントごときはひとたまりもない。

 てっぺんをぶち抜くついでに崩落したタワーの一部がこの真下の貯蔵施設を直撃、結果として見事に誘爆、すべてが粉みじんに爆発炎上だなんてのは考えたくもないが、この確率としてはやはり無視できないものがあっただろう。

 結果的に部下の不始末の尻ぬぐいをやらされているのかと内心でげんなりするベアランドだが、こちらも負けん気は強いもので皮肉っぽく言ってやるのだった。

「要は相手に脅し、示威行動ってヤツをやってやりたいんだろう? 遠慮無くやればいいさ、これなら安心して撃てるんだろ! まさか外したりはしないよね?」

 結果はどうあれ、軍艦の艦砲射撃が民間のプラントめがけて放たれたとなれば、このインパクトはばっちりだ。

 部下たちも含めて周りはみんなどん引きするに違いない。

 頭上のスピーカーからは、いよいよもって腹立たしげな罵声がクマ族の左右の耳を打つ。

「ああ、いいから撃っちまえ! 仰角そのまま、パワーは落とすなよ? いっそ主砲をくれてやりたいところだが、今日のところはサブで勘弁してやるよ、でかグマ! じゃ、しっかりと歯を食いしばって気合い入れろよ? ほらよっ……てぇーーー!!」

 半ばやけっぱちじみた発射の号令と共に、こちらのコクピット内にはけたたましいアラームの警報が鳴り響く!

 まさしくロックオンされた艦砲射撃が撃ち放たれるのが、あたかもスローモーションで正面の大型モニターにリアルタイムで映し出された。

 対してこれを目をつむることもなくじっと凝視して、ひたすらこの身体を力ませるベアランドだ。

 まぶしい閃光が眼下の海面の中心で光ったと思ったら、直後には目の前が真っ白に染まっていた。

 機体がかすかに揺れるが、メインのキャノンでなかったぶんにさほどの変化、ダメージらしきは感じられない。

 また直後、すぐに目の前には元通りの光景が広がっていた。

 機体の各種センサーを即座にチェックするが、どこにもこれと目立った変化らしきはない。あっさりとやり過ごしたらしい。

 背後のカメラに映るプラントにも、これと変化はなし……!

 するとこれには大した物だとほっと一息、一安心してシートにでかい尻を落ち着け直す隊長さんだ。

「ふうっ、さすがに最新兵器は違うよね! ランタン、よくやったぞ。目の前のおじさんの顔を見てみたいもんだよ……!」

 そんな軽口叩いてやると、今しも目の前のモニターの中心が四角く切り取られて、そこにくだんの犬族の艦長どのが、ただちに顔面度アップで現れる……!!

 ひどく冷めた目つき顔つきをして、不機嫌なのが丸わかりな口調で言葉を発してくれた。

「ひとつも変化なし……まったく、とんだバケモノだな! どこにもかすり傷すらにありゃしないとは……! やっぱり主砲をくれてやれば良かった。ちょうどいい実験になっただろう?」

「それはまた今度にしてよ♡ でないとリドルに泣かれちゃうから。うちの優秀なメカニックくんにさ。で、少しは気が済んだかい? ほんとに呆れた艦長さんだな。そんなんでこの場の始末は任せていいんだよね?」

 上官相手に臆するでもなく茶化した言いようのアーマー部隊の隊長に、なおさら気分悪げな犬族はひん曲がった口元で応じた。

「ふん、こうして出て来ちまった以上、そのつもりだよ。始末も何も、戦況はもう明らかだろ? 回りを見てみろ」

 ぶっきらぼうにアゴを揺すってみせる上官どのに、回りのモニターの変化を自分でもそれと見て取るベアランドは納得顔でうなずいた。

「ん! ……ああ、なるほど? みんな蜘蛛の子を散らすみたいにこの場を離脱していってるよ! 見事な引き際だ、てか、いいのかね、大事なプラントほっぽりだして?」

「元からその算段だったんだろ? そこからは見えない海上基地の背後に停留していた空母だかなんだかが、まんまとこの戦域を離脱したから、みんなでそっちに合流するんだ。こっちの艦砲射撃を撤退命令代わりにしてな」

「なるほど、きっといいタイミングだったっんだね♡ で、南のアストリオンに逃げ帰るってのかい?」

「無理だろ。そっちにはおまえらを乗せてきた最新鋭の航空巡洋艦がにらみを利かせてる。トライ、なんて言ったか? そいつを見越してわざわざ南に回り込んでからこちらに入ってきてくれと先生にはお願いしてあるんだ。まったく新兵器さまさまだな!」

 投げやりな言いようで皮肉めいたことをぬかす艦長だ。

 すっかりとへそを曲げたさまのおじさんに、ベアランドはひどい苦笑いで肩を揺らす。 

「いやはや、ほんとに回りを利用するのがお上手だよね? でもぼくらのトライ・アゲインとは合流はしないんだろ、ジーロ艦長は、あくまでどちらも単艦での戦闘行動を希望してるって聞いてるから?」

「ああ、あいにくと一匹狼な性分なんでな。元から少ない戦力を無理に集中しても方々で破綻するのが落ちだろ。だが、そちらに補給してやるくらいの度量はあるさ。寄って行けよ、おまえはどうあれ、使えない新人の部下たちは燃料の補給なりをしないと帰れないんだろう。あっちがここまで迎えに来てくれない都合」

「まあ、そうだね……!」

 仕方もなさげにしてくれたみたいなウェルカムにちょっと内心で考え込む隊長さんは、おかけで返事が歯切れ悪かった。そこにまた追加のお誘いもあって、ますます考え込んでしまう。

「あと、ついでにこのブリッジに上がってこいよ。いろいろと言いたいことがある。もちろん、ふたりのお間抜けな部下たちも連れてだな?」

「ああ、そう? まあ、いいんだけど……いや、どうかな……」

「いいや、その前にまず面を拝ませてもらおうか、その間抜け面をだな? 使えなくてもそのくらいはできるだろう??」

 かなり言い方に毒があるおじさんの要望に、いよいよどうしたものかと考えあぐねる隊長さんだが、これと断る理由もないものかと左右のスピーカーに言ってやる。

「まいったな、あんまりプレッシャーをかけないでおくれよ? ケンス、コルク! こちらの艦長さまが対面を希望しているよ。これから実際に会うんだけど、その前にどんな顔をしてるのか確かめてごらん!」

「は、はい!」

「あ、あのっ、了解……!」

 慌てた感じの返事がしてひどく緊張した空気が伝わるのに、完全に新人たちが名うての艦長さんに飲まれているがわかる性格のんびりしたクマ族だ。もはや苦笑いするしかない。

 ややもせずひどく白けたセリフが耳朶を打った。

「ふうん、なるほどね、そんなふざけた間抜け面をしてやがったのか、どいつもこいつも……ん?」

「?」

 憎々しげに言いながら、正面モニターの犬族が視線を左から右に流すにつれて、このベテランの艦長さんの表情がやや曇るのを、ちょっと不可思議に見るクマ族の隊長さんだ。

 一瞬だけ変な間が流れて、憮然とした犬族のキャプテンはなぜだかみずからの胸元にこの右手をやるのだった。

 何かをぎゅっと握りしめるみたいな動作だが、それが何かはここからではわからない。

 すると折しもモニターの向こうのブリッジでクルーの声が響いた。

 当該戦域に敵影はもはやないことの確認、これによる戦闘態勢の解除、最後にベアランドたち援軍との合流とこの受け入れを全艦に通達して、艦長との通信は終わった。

 後には死んだかのような沈黙が左右のスピーカーから伝わるが、まるで気にしたふうもなくこの部下たちにてきぱきと僚艦への合流待機を指示するベアランドだ。

 波乱はまだ続くものと覚悟はして、かつての悪漢ぶりが変わらない艦長との再会を楽しみにするクマ族だった。

 部下である若手の犬族たちがベテランの犬族にいびられるのをどうやって阻止してやろうかと考えを巡らせる。

 後からウルフハウンドたちの第二部隊も駆けつけるらしいから、数ではこっちが優勢だろうとあっけからんと構えるのだった。

 左右のスピーカーは依然として冷たい沈黙を守ったままだったが……!

Part2

 
 一時は混乱を極めたドタバタの戦闘劇がおざなりの内にも幕を閉じて、そのまま母艦に帰投するのかと思いきや、僚艦の艦長のはからいでそちらに一時的にお世話になることになる、ベアランドたち、第一アーマー小隊だった。

 実際にはお説教を受けに行くというのが本当のところなのだが、これに部下たちの僚機が補給してもらえるのはありがたい。

 無事に敵軍から奪還した、謎の海上エネルギープラント施設については、そのまま本来の所有となるはずの南の大国、「アストリオン」の正規軍に引き渡すとのことで、そちらとの合流もかねてのこの現状らしかった。

 この場の指揮権を一手に握る大佐どの、ジーロの独断であるが、それにつきコメントなどは差し控えるクマ族の隊長だ。

 面倒ごとに首を突っ込むのはまっぴらだった。

 そうでなくとも、ただ今のこの状況が面倒なのだから……!

 部下たちの飛行型アーマーが無事に巡洋艦のアーマードックに収容されるのを見届けてから、みずからはこの艦首のなるたけ拓けたスペースに向けて大型のアーマーを垂直着陸、着艦させる。

 通常のアーマーよりもかなり大型な機体は、これ専用のアーマーハンガーがなくてはまともに収容することがかなわなかった。

 洋上に浮かんでいる戦艦のバランスを崩さないように注意しながら、この機体のバランスも水平に保ちつつ、その場にピタリと固定……!

 待機モードに出力を落として、みずからはこのコクピットハッチから、艦の甲板へと速やかに降り立つ。

 タラップもないのを器用にアーマーの手足にホップステップ、最後のジャンプでダン!と鋼の甲板に着地。

 そこに待ち受けていたスタッフたちには、特にやってもらうようなことはないと気軽に言づてすると、さっさとその場から艦の中央にあるアーマードックに向かうベアランドだ。

「まあ、そもそもがリドルくらいじゃないとまともにメンテなんて出来やしないんだよな、このぼくのランタンは♡ あっと、いたいた、新人のパイロットくんたち! あらら、ガチガチだな……!」

 そちらに入る出入り口には、すでにみずからのアーマーから降り立っていたふたりの部下たちが、こちらに向けて律儀に敬礼!

 ピシッとした直立不動の姿勢で待ち構えていた。

 苦笑いの隊長は、肩をすくめて軽くだけ敬礼を返してやる。

「そんなにかしこまってくれることもありやしないだろ? まあ、気持ちとしては穏やかでないのは理解できるけど。だとしても、悪いのは自分たちなんだからさ!」

 仕方がないさと茶化したウィンクくれてやるに、ふたりのまだ若い犬族たちはげんなりとしたさまでうなだれるばかりだ。

 意気消沈とはまさしくこのことだろう。

 余計に苦笑いになって肩をすくめるベアランドだが、そのままふたりを伴って艦のアーマードックへと入っていく。

 するとさっきまでの心地の良い潮風が、よどんだ油臭い空気に取って代わって、おまけそこかしこでやかましい音が鳴り響くのは、どこもおんなじ風景だった。

 じぶんたちが世話になっている航空母艦と比べたら、天井の照明がだいぶ抑え気味なのに、薄暗い足下を気にしながらあたりを見回すベアランドだ。

 大型の巡洋艦にしてはアーマーがさして目に付かず、部下たちの新型アーマーばかりがやたらに目立っていた。

 これには、はてなと小首を傾げる隊長さんである。

「あれ、この艦の艦載機(アーマー)が見当たらないな? 確かきみらとおんなじ、ジェット・ドライブ・タイプの〝ビーグルⅥ〟の使い手がいるって聞いていたんだけど? おまけにこのぼくとおんなじクマ族だって聞いていたから、ちょっと会えるのを楽しみにしてたんだけど……!」

 そんな隊長のセリフには、きょとんとした顔を見合わせるばかりの新人たちだが、やがてすっきりとした見た目で長身の犬族のケンスが言った。

「はあ、そうなんですか? 見た限りはおれたちの以外はないですよね。こんなにでかいアーマードックなのに! でも、スタッフさんたちは珍しそうにあれこれ見てましたよ? こっちの機体と仕様がまるで違うみたいなことも言ってたし……」

「お、オレも、いろいろと聞かれた、聞かれました! プロペラントがどうだとか、航続距離がどうだとか、ぜんぜんうまく答えられなかったけど……!」

「まあ、設計者じゃないんだからね? でもアーマーの補給をしてもらう都合、できる限りのことは答えてあげないと……てか、補給作業とはあんまり関係ないような質問なのかな、それって? もうおおよそのところ終わってるっぽいし」

 メカニックのスタッフらしき犬族たちが何人も集まって、この二機のアーマーの足下で談義しているのを遠目に認めて、ちょっとこの声をひそめる隊長さんだ。

 あんなのに捕まったりしたら厄介だぞ、と遠巻きにやり過ごすべく気配を押し殺す。

 暗いからあんまり見通しのよくない現場の突き当たりの壁のあたり、この艦の中心となるメインブロックのブリッジタワーなのだろう区画を見つめて、目的地へのルートを見当した。

 おまけさっきからまったく顔色の良くない犬族たちに、この艦の強面の艦長を茶化したようなことを言ってやる。

「あはは、ほんとにケチ臭いったらありゃしないよね? こんなでっかい航空巡洋艦が空も飛ばずに、艦内の明かりもこんなに落としてさ! こんなんじゃ転んでケガしちゃうよ♡ まあ、あの渋ちんの艦長さんらしいっちゃあ、らしいんだけどさ! 表情も暗かったもんね?」

「……!」

 そんな軽口に、ふたりの部下たちは暗い表情を見合わせるばかりだが、これに意外な方向からツッコミが入れられた。

「ふん、しぶちんで悪かったな? 余計なことは言わんでいいから、さっさとこっちに上がって来いよ……!」

 聞き覚えのある声がエコーを伴った拡声音で頭上から降ってくるのには、思わず部下たちとお互いの目を見合わせるクマ族だ。

「……おっ! 聞かれちゃってたみたいだね? しっかりとマイクでこの声を拾われてたんだ。ほんとに陰険だな! ヘタな軽口も叩けやしないんだから♡」

 ペロリと舌を出して左右の肩を揺らすのには、やはり部下よりもこの艦の最上階でふんぞり返っているのだろう、ベテランの犬族の艦長どのが答えてくれる。

「余計なことは言わなくていい。さっさとこちらに上がってこい。第一艦橋(メインブリッジ)だ。そこからまっすぐ進んだ先にエレベーターが二基あるから、専用のものはお前たちのために解放してある。3分以内だ。以上!」

 言うだけ言ったら、ブツリと途切れる無愛想な館内放送に、大きく肩をすくめさせるベアランドだ。

「だってさ! さては画像もモニターされてたんだね? それじゃ、さっさとイヤなことは済まして、この新鋭艦の内部を楽しくお散歩でもさせてもらおうか。ふたりとも付いておいで」

 こうなれば仕方も無い。

 ふたりの部下たちを伴って、言われたとおりのまっすぐ突き当たりのタラップから上階の回廊、この左手の突き当たりに見えたエレベーターホールまで早足でたどり着く。

 アナウンスの通り、エレベーターは二基あって、右が通常のクルー用で、残りの一基は、途中の階層をパスしたブリッジまでの直行便だった。

 ブリッジ・クルー専用のそれがあるのは、じぶんたちの母艦のそれと同様だ。

 そのためか明らかに大きさが異なるものの、許容量がだいぶ小さめな見てくれをしたものの扉が開け放たれるているのを、その身をかがめてしげしげとのぞき込む大柄なクマ族だった。

 左の頬のあたりを人差し指でポリポリとかきながら、ちょっと考え込んでしまう。



「ああ、なんか、ずいぶんとちっちゃいエレベーターだよね? ブリッジ・クルー専用とは言ってもこんなに狭くすることもないだろうに。ぼくみたいないかついクマ族なんかよりも、すっかり犬族主体に考えちゃってるよ。確かにこんな軍用艦の乗組員は、おおかたでスリムな犬族たちがメインにしてもさ……!」

 みんなで乗れるかなと背後の部下たちを見下ろすのに、かしこまったきりのふたりの犬族たちときたらば、さも困惑したさまでお互いの顔を見合わせるばかりだ。

 そうしてやがて、おずおずと言うのだった。

 まずはこざっぱりしとた見てくれの犬族のケンスが、遠慮がちにものを申す。

「でしたら、どうぞ隊長どのがお先に行ってください……! おれたちは、なあ?」

 となりの相棒に向き合うのに、顔色の真っ青な毛むくじゃらの犬族は力なくこれに同意するのだった。先の戦闘でどやされてしまったここの犬族の艦長に会うのがよほど気が引けるのらしい。
  
「は、はいっ、おれたちは後からブリッジにうかがいます……

 もはや死にかけみたいな部下のありさまをどうしたものかと見つめてしまう隊長さんだ。

「はあ、とか言いながら、ふたりしてバックレたりするんじゃないだろうね? いいかい、敵前逃亡は銃殺刑だよ? まあ、この艦の中じゃ逃げようもないんだけど、発進許可がなければアーマーも出せやしないんだし。まあそうか……」

 ちょっと呆れ顔でふたりを見ながら、また狭いエレベーターに向き直るベアランドだ。これに背中から身を預けるかたちで乗り込むと、部下の犬族と相対した。

「ふうん、どうにか乗れなくもないのかな? まさか重量オーバーだなんて言わないよね? それじゃ、さっさとみんなで怒られに行こうか! それっ!!」

 ふたりの部下たちが気を抜いているところを無理矢理に太い腕を伸ばして捕まえて、この身にがっちりと押さえ込んでやる。

「わあ!」

「ひゃああっ!?」

 びっくりする犬族どもにしてやったりといたずらっぽい笑みで言ってやる。

「イヤなことはとっとと済ませちゃおうよ! 3分以内に来いって言われていることだし、もたもたしてられないから。確かに陰険でおっかない艦長さんではあるけれど、取って食われたりはしないんだからさ♡ あっと、これも聞かれてたりするのかな?」


 腕の中でもがくふたりをぎゅっときつくホールドしながら、さっさとエレベーターを起動させるクマ族だ。

 ブリッジまでの直行便はものの十秒足らずで艦の最上階までパイロットたちを送り届けてくれる。

 その先のブリッジでくだんの艦長と対面するベアランドたちだが、思ったよりも機嫌の悪い大佐どのに内心で肩をすくめる隊長さんだった。背後でいっそうに身をすくめる犬族たちとこってりとしぼられることになるのがもはや明白だ。

 部下でなくとも逃げ出してやりたい気分になりつつ、旧知の仲のベテラン軍人に立ち向かうエースパイロットだった。

                 
              ※次回に続く……!




 

 


プロット
ベアランド小隊、ジーロ艦に着艦。
ランタン 船首部に ビーグルⅥ アーマーハンガーに
アーマーハンガーのコルクとケンスと合流、ジーロの艦内放送でブリッジに招かれる。
ブリッジタワー、エレベーターが二基、その内の一気はブリッジまでの直行便、ただし狭い。
三人でブリッジへ。不機嫌なジーロとのやり取り。
なんやかんやでお茶をにごしていながら結局は命令を遵守できなかった部下、特にコルクへと話が移り……!
以下、#015へ? ※お説教中にウルフハウンドも合流。
部下ふたりは副隊長に任せて、ベアランドはジーロとの話し合いに。船酔い状態で完全グロッキーなダッツとザニーのクマキャラコンビがちょっとだけ登場? 

TO DO
アストリオンのマップ作成、ダッツとザニーのアーマー、ビーグルⅥプロトタイプの作画、ケンスとコルクのビーグルⅥ量産型の作画。ジーロの巡洋艦、????の作画。
  

 

 

本文とイラストは随時に更新されます!


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ーOfficial Zombieー

オフィシャル・ゾンビ 10

 これまでのおおざっぱないきさつ――
 ある日いきなり人外の亜人種である〝ゾンビ〟の宣告をされてしまったお笑い芸人、鬼沢。おなじくゾンビにして、その公式アンバサダーを名乗る後輩芸人の日下部によってバケモノの正体を暴かれ、あまつさえ真昼の街中に連れ出されてしまう。
 そしてその果てに遭遇した、おなじくゾンビだというベテランの先輩お笑い芸人、ジュウドーコバヤカワには突如として実地訓練がてらの実戦バトルを強要され、初日からまさかの〝ゾンビ・バトル〟へと引きずり込まれてしまうのだった…!

 苦戦の末に一時は優位に立ったと思われた鬼沢だが、直後に思いも寄らない反撃に遭い、およそ予想だにしない能力と真の姿をあらわにしたコバヤカワの脅威にさらされることになる…!!

  やたらに威勢の良いオヤジのがなりと共に、コバヤカワの周囲にもくもくとした白い煙幕みたいな〝もや〟が立ちこめる。

 間近で見ていてよもやこれもあの異様な悪臭を放つのか? と今はタヌキの姿の全身が思わず総毛立つ鬼沢だったが、幸いにもイヤなニオイらしきはないのにホッと胸をなで下ろす。

 先の生々しい経験がすっかりトラウマと化していた。

 ただし見ているさなかにも目の前の中年オヤジの身体は、まったく別の何かへとそのカタチを変えていくのだ……!!

 結果、なんとも形容のしがたい複雑怪奇な出で立ちをさらけ出すベテラン芸人に、自身もそれなり中堅どころの芸人である鬼沢は、このタヌキの顔面が驚きで目がまん丸になる。

 かなり特殊な見てくれをしているのでひょっとしたらアレなのかなとある程度の予測がついたりするのだが、その反面、認めたくない思いがそれをはっきりと言葉に出すのをためらわせた。

 もしそうだとしたらあんまりにもヤバイし、その旨、ベテランの先輩芸人さん相手に突っ込むのもかなり気が引けた。

「う、さっきのあの強烈なニオイって、ま、まさか、そんなことはないよね? コバヤさん、俺の勘違いならいいんだけど、ひょっとしてそれって……うそでしょ??」

 嘘だと言ってほしいと思う後輩の願いもむなしく、真正面で仁王立ちする先輩はきっぱりと大きくうなずいて断言してくれた。

「おうよ、見ての通りじゃ!! この全身を渋い黒色系とアクセントの白でまとめたおもくそかっちょいい豪快な毛並みに、背後で雄々しくそり立つ巨大なシッポ! もはやこれ以上のセックスアピールはあらへんちゅうくらいにの! おまけに代名詞のくっさい屁はおのれもその身をもって経験済みやろう? これぞまごうことなきスカンクのゾンビさまよ! 正真正銘!! どうやっ、恐れ入ったか!? だがオニザワ、おのれがビビるのはむしろこれからやぞ!! その鼻もいだるから覚悟せいや!!!」

 少しも照れるでもなくぶちまけられた完全アウトなぶっちゃけ発言に、内心どころか全身でどん引きする鬼沢は、ひん曲がった口元からひいっと裏返った悲鳴が漏れる。

「う、うそでしょう!? スカンクだなんて!! そんなのもアリなの!? それじゃさっきのって俺、ほんとにおならで攻撃されてたんだ! 冗談なんかじゃなくって!! なんだよコバヤさんっ、いくら先輩でもこんなのタチが悪すぎるよ!!」

 所属する事務所は違えどそれなり見知ったはずの後輩芸人の心からの抗議と嘆きに、対して険しい表情のスカンク、この芸名が〝ジュウドーコバヤカワ〟だなんて冗談そのもののオヤジがまたやかましくも真顔でがなり返してくれる。

「じゃかあしいっ!! 男と男の真剣勝負に冗談もシャレもありやせんっ、それがゾンビ同士となったらなおさらじゃ!! そもそものんきに平和ぼけしたリスやら野良ネコやらじゃ戦うもへったくれもありやせんやろうが? ネコ科やったらより強い虎やヒョウ、弱っこいリスよりか断然そこは攻撃力のあるスカンク!! はなっからこの一択じゃ!!」

「はあっ、そもそもなんで戦わなくちゃならないんだよっ!? コバヤさんこれ完全にいじめだからね! 俺まだゾンビになりたてで右も左もわからないのに、こんなのあんまりだよ!! あのおならは本当にシャレにならないし、コバヤさんの格好もヤバ過ぎてマジで近づきたくない!! 二度としないでよ、あんな地獄の閻魔さまがするみいたなバカでっかい屁!!!」

「あん、すかしっ屁ならいいんか? すかしたところでニオイは少しも変わらへんぞ? むしろ不意をつかれるだけより強烈に感じるっちゅうもんでの!!」

「おなら自体をしないでくれって言ってるんだよ!! というか、する気まんまんだよね? 見るからにドSの格好だもん!! なんだよ、俺、絶対に近寄らないよ!?」

 拒絶反応を激しく逆立てた太いシッポにまで出してイィッとキバをむきだすタヌキに、背後のおのれの背丈よりもさらに大きなギザギザ模様のシッポをぶん回すスカンクは、いかめしい真顔を一変、さもおおらかに破顔して後輩芸人を手招きする。

「おう、済まんかったな! そう邪険にすな、何もおのれが憎くてやっとるわけではのうて、むしろオニザワ、おまえにゾンビのなんたるかを教えたるためにやさかい! 何事も経験やろ、今のうちに痛い思いをしておいたら、この先につまづくことはそうそうあらへんのや。お互いのことをよう知るためにも、ここはこの先輩、コバヤカワの胸にぶつかってこい! 優しく受け止めたるから、ほら、こっちへ来いや。早うせい! ここやここっ!!」

「あ、あん、なんだよ、だから近づきたくないって言ってるじゃないか、俺イヤなんだよ、本吉(もとよし)の芸人さんたちの強引なノリとかボケとか小芝居とか! 一発当てたら終わりって言うんなら、さっさと当てて終わらせちゃうよ!! そんな無防備の棒立ちでいたらあっさり届いちゃうんじゃないの?」

 おなじ業界における先輩と後輩の悲しい性か、言われるがままに反射的に足を前に踏み出してしまう鬼沢だ。

 お互いに手を伸ばせばすぐ届く距離までみずから詰めてしまう。

「ええ。そやったらまずはここに一発当ててみい、このわかりやすい土手っ腹に軽くでいいから一発の! 簡単やろ? ほれっ」

 みずからの腹を突き出してくる見た目ヤンキーみたいな出で立ちのスカンクに、すっかり腰の引けたタヌキが困惑して返す。

「えっ、いいの? 終わっちゃうよ?? 軽くでいいんだよね、それなら、ほら! これで当たりだよね?」

 利き手の拳を突き出してそれを相手のまん丸い腹の中心に軽く押し当ててやる鬼沢だが、そこにすかさずに返されてきたコバヤカワの文句に、えっと目を丸くする。

 その瞬間、ぴきりと場が凍り付いた……!

 おまけ返ってきたのは言葉だけではなかったのになおも呆然と立ち尽くすタヌキであった。

「あほう! いつ誰が一発当てたらそれでええなんて言うた? そんな生ぬるいものやあらへんのや、ゾンビの、男の戦なんちゅうもんは!! おのれのような甘ちゃんの腰抜けにはとびきりくっさい屁をお見舞いしたる! 思い知れ!!」

 ぶにっとした柔らかい感触を手の甲に感じたのとほぼ同時、その突き出た腹の周囲からシュババっと噴出した煙が鬼沢の顔面、タヌキ面の突き出た鼻先をもろに直撃する!!

 はじめ何が起こったのか皆目見当がつかなかった。

「えっ、なに、今の?? あ、待って、まさか、あ、あ、あああっ、あ、くさっ、くさいっ!! くさいくさいっくさいぞ!! 鼻がっ、俺の鼻がっ、パニックしてるよっ、くさい、あれ、これ、くさいのか? あ、やっぱりくさい! くせっ、なんだよ、どこからおならしてるんだよっ、ふざけんなよっ、ひどいぞ、こんなのだまし討ちじゃないか!! 涙が出てきたっ、ああ、神様、俺がいったい何したの!?」

 不覚にも鼻で呼吸してしまったらば全身身もだえするようなこの世の終わりみたいな臭気に脳神経が混乱を来した。地獄だ。

「気を抜いとるからや! このわいはスカンクなんやから、その手の攻撃は簡単に予想がつくやろ? 事実、この装束は相手からの打撃にカウンターで屁、人呼んでブラストガスがぶちかませるギミックがたんまり仕込んである! わざわざケツなぞ向けんでも的確に相手の弱点、鼻っ面を撃ち抜いてやれるのよ。触れたら大けがするんや、この漢、コバヤカワっちゅうもんはの!!」

「何言ってんだよっ、ただの変態屁っこきおやじじゃないか! あああっ、くさいくさいくさい!! 鼻のスペアが欲しいっ、日下部のと交換してくれないかな? あいつどこ行ったんだ! うう、俺もうぜったいに近寄らないからね? コバヤさんに!!」

 たまらずバックステップで再び距離を空ける後輩に、先輩の芸人は不敵な笑みを口元に浮かべてまだなお余裕の口ぶりだ。

「かまへん。届く範囲に限りのある拳の打撃とちごうてスカンクのおなら、気体のガスっちゅうんは風にのせて飛ばすことも地雷のようにとどまらせておくことも自在や。あいにく目では見えへんからの! ならおのれは逃げ場を無くして結局この前にまたその姿をさらすしかあらへんのや!! そうやろ、オニザワ?」

「うるさいな! 屁理屈ばかり言って本当にキライになりそうだよ!! スカンクの屁理屈ってなんだよ? さっきのは軽く当てただけだから、本気でやったらどうなるかわからないじゃないか!! 無傷でいられる保証なんてないはずだし、俺、本当に腹が立ってきたぞ、ぜったいに見返してやるからね! いくら臭くても要は鼻で息をしなければいいんだからさ!!」 

 さも鼻をふさいで口呼吸で一気に勝負を決めてしまえばいいと言いたげなタヌキに、眼光のやたらにするどいスカンクが笑う。

「ははん、笑止やの! スカンクの屁がそないなもんで済ませられるほどしょぼいわけがあるか! ゾンビなめるなよ、鼻からでなくとも口やら皮膚やら身体に摂取してしまえばそれまで、脳の神経細胞に直接作用して精神に大打撃をおよぼすんや。決して逃げられへん。肉体ではなくメンタルをねじ伏せる最強の一発や、戦わずして勝つとはまさにこのことやの!!」

「ほんとにうっさいな!! 聞きたくないよ、変人の狂言なんて!! そんなの誰も笑えやしないんだからね!? おかげで完全に息を止めて本気でボコらなけりゃいけなくなっちゃったじゃん! 他事務所の先輩さんを!? でも俺は悪くない!!」

「やれるもんならやってみい! あと、そうだひとついいものを見せてやるぞ、オニザワ、こいつをよう見てみろ、ほれ、受け取れ!! おのれのちゃちな小道具のマントやのうて、ガチもんやぞ! モノホンの〝神具羅〟っちゅうもんを教えたる!!」

 いいざまみずからの装束の股間のあたりについていた何かしらの球状の物体を片手に取り出して、それを無造作に放り投げるスカンクだ。左右にふたつあったものを、右の球を利き手でパスしてくれるさまを目をまん丸くして見ながら思わず両手で受け止めてしまうタヌキである。

「え、なにそれ、取れるの、そのおまたにぶら下がってるふたつの金玉(キンタマ)みたいなの? コワイっ、わ、なにこれ、どうすればいいの? 見た感じは堅い金属の球だよね、野球のボールみたいなサイズの、おまけに全体にボツボツのある、あ、これって、まさか……!?」

「タマキンがそないに器用に取れるはずないやろ! 着脱式の睾丸なんてどこぞの世界の生き物や? せやからそいつはれっきとしたX-NFT、このわい専用の神具羅や! 使い方は、推して知るべしっちゅうもんで……のう?」

「ぐぐっ、ぎゃあ!! またあっ!? キンタマと見せかけて、おならの詰まった爆弾じゃないか!! いきなり爆発したぞ!? うわあっ、くさいくさいくさいくさいくさいっ!!! げほっ、げほほっ、うわああああああああああっ!!」

 いきなり両手の中でブシュウウウウウッ!と白い煙を吐き出すのに慌ててよそに放り投げるが、目の前が真っ白に染まるタヌキは鼻を押さえて身もだえるばかりだ。

 凄まじいばかりの悪臭が鼻から脳へと突き抜ける!

 精神が崩壊するのではないかと思うほどの精神的苦痛と恐怖が頭の中に稲妻のように駆け巡った。

 いっそのことギブアップしてしまいたいところだが、そこはあいにくルール無用のゾンビバトル。

 どこにも逃げ場などない。

「なんだよっ、こんなの反則過ぎるよ! 近くても離れてもこっちの手出しのしようがないじゃないか!? 俺、このままじゃ頭がおかしくなっちゃう! もう逃げるしかないよ、さもなきゃ、コバヤさんを思いあまって殺しちゃうかも??」

「言うたやろ、気を抜いとるからや。おんどれ、日頃芸人としても受け身ばかりでじぶんからそないに攻めることがおよそあらへんよな? ひとの言いなりやからそないなことになりよる。あと脳みそにダメージを食らわすわいの屁ぇは冗談抜きで自我が崩壊するぞ? 一発かませば街のタフなゴロツキどもが一瞬で正気をなくして挙げ句、何でも言いなりのかわいい下僕へと成り下がるからの! 警官やろうが坊さんやろうがみな一緒や!!」

「調教しちゃってるじゃん!! もはや変態だよただの!! コバヤさんの下僕だなんてそんなのまっぴらだ! マジで逃げなきゃっ、ちょっとタンマ! ちょっと体勢を整えるからそこで待ってて! ちゃんと考えて出直してくるから! でもぜったいに一泡吹かせてやるからね? あ、声を荒げたらまた吸っちゃった、くっさいおなら! もうやだあっ!!」

「好きにせい! そやったらせいぜいそのない頭を振り絞ってマシな反撃を見せてみいよ? 特別に今から10分やるからそれが過ぎたら楽しい鬼ごっこや」

 文字通りシッポを巻いて逃げ出していくタヌキを悠然と見送ってその場に仁王立ちするおじさんスカンクだった。

 このまま追い回してやるのも面白いかもしれないが、それではただのいじめに他なるまい。

 少し猶予を与えてやって、改めて逆襲に来たところに自慢のカウンターを食らわせてやるのがいいとほくそ笑む。

 そうしてタヌキの気配が遠のいたところでこれと入れ替わるように他の気配が、間近からピリリと乾いた電子音が鳴った。

 これにみずからのふところに手を突っ込むスカンクが濃い胸元の体毛から取り出したのは、それはよくある普通サイズのスマートホンだ。
 バケモノのごつい手では扱いかねるが、今日日は音声で操作が効くからそう問題はない。

 呼び出し音がなったきりに沈黙するスマホにこちらから声をかけてやる。渋いオヤジのバリトンに、するとスマホからはやけに落ち着いた青年のテノールが響いた。

「おう、見とったか、クサカベ! おのれ今どこにおるんや? このわいが本性さらしてからさっさととんずらこきおって、おかげでオニザワが泣きわめいて逃げ出しおったぞ? まあ、ヘタに巻き添え食わんでおるためには身を隠すのは正解なんやが……」

『はい。コバヤさんのおならは空気よりもずっとその比重が重いから、まずは高い場所に避難するのが一番ですよね? 鬼沢さんは気づいているかわかりませんけど』

「ふん、おのれひとりで上階に退避したんか? 抜け目のないやっちゃ! だがあいにくオニザワはそういうわけにはいかへん。ここのエレベーターはどれも電源が落ちとるさかい、上へはフロア中央の大階段を使うしかあらへんが、そっちにはトラップを仕掛けて屁の包囲網を敷いとるからの! ん、ちゅうことはおのれもまだこのフロアにおるんか、クサカベ? はん、相棒が無茶せんように見張るつもりなら余計な手出しだけはするんやないぞ? あいつのためにならへん。以上や!」

『はい。でもおれは信じてますよ。鬼沢さんのこと。もちろん、コバヤさんのこともです。おいしいご飯をごちそうしてくれるんですもんね?』

「ふん、あいつ次第や。そやの、10分経っても出てけえへんかったら、おのれがわいの相手をしいや? それでチャラにしたるさかい。いやもとい、わいも信じてみよるかの? オニザワのことを。あのタヌキはあれでなかなかにやりよるのかもしれん。それだけのポテンシャルはおのれも見込んでおるんやろう?」

『はい。だからお願いします。引き出してください。鬼沢さんのポテンシャル、コバヤさんの男気ってヤツで……!』

「知らんわ」

 捨て台詞を吐いてスマホを懐にしまうコバヤカワだ。

 素っ気ない言いようでいながら、口元にはやけにおかしげにしたニヒルな笑みがある。

 スマホの声の主はさすがに戦い慣れしていてまるで気配がわからないが、もう一方のゾンビになりたての後輩の中堅お笑い芸人はちょっと遠くのほうからあからさまな気配が伝わってきた。
 
 時計で言ったらおおよそ二時の方角、このまままっすぐ歩いて行ったら間抜け面とぶち当たるのだろう。

「かっか、ほんまにかわいいやっちゃの! あほのタヌキが何をしとるのか知らんが、とにかく10分だけは待っといてやるわ。ちゅうてもこの姿ではあいにくタバコは吸われへんからなるべくはよう出てこいよ……!」

 がに股の仁王立ちでその場で待ち構える見た目がスカンクのバケモノは、遠くの柱の向こうあたりで何やらわさわさした気配がひっきりなしにあらい息づかいをともなってうんうんとうなっているのを楽しげな目つきで眺める。

 完全にバレバレなのだが、当の本人はそんなことまるで知らないで必死にあれやこれやと算段しているらしい。けなげなこと。

 かくして案外と面白いものを見せてもらえるのではないかとおかしな期待にちょっと楽しくなる先輩芸人だった。

「そうや、おのれも芸人のはしくれなら、せいぜい気張っておもろいもんを見せてみいよ、オニザワ! ん、あれ、なんや、もう終わったんか? 気配がもろバレやんけ……!」

 急に静まり返ったかと思ったら、どたどたした足音が視界の右奥のほうから聞こえて、あるところでこれがぴたりと止まった。

 不自然な静けさに直感的に上だと悟るコバヤカワだ。

 元は企業のオフィスビルはエントランスの部分が四階までぶち抜く吹き抜けで、この高い天井に一匹のひとがたのタヌキが舞うのを確認、腰を据えてただちに迎撃態勢に移る。

 中途半端な攻撃にはこちらのガスブラストのカウンターを当ててやると狙いを定める。後輩は勘違いしている節があるが、何も打撃を当てられなければカウンターが発動しないわけではない。

「そもそもが相手の攻撃をギリでよけながらこちらの攻撃を倍にしてぶち返したるのがカウンターの基本やろうが! おまえのぐだくだパンチじゃはなからろくな打撃にはならへんっ、ん、なんや、例のびらびらのマントが両手に、二刀流か?」

 あのタヌキの得意技の自由自在にカタチを変える白いマントが左右の手からたなびく状態でこちらめがけて落下してくるのをはじめいぶかしく見つめるスカンクだが、さして気にするでもなくどっしりとその場で体を正面に構えた。

「ほんま器用なのは認めたるが、しょせんはバカの一つ覚えやろ! ぐだぐだの風船パンチが二つになったところでなんも変わらへんわっ、おまけになんやっ、この根性無しが!!」

 落下の勢いをまんま利用して強襲かけてくるのかと思ったら、あっさりと目の前に着地したのに肩すかしを食らうコバヤカワだ。

 対するタヌキの鬼沢はむすっとした表情でがなり返す。

「見てから言ってよね! 俺なりちゃんと考えて最善のやり方を組み立てたんだから!! こっからだよっ、そら、行くよ!!」

 右手で翻した白マントを上手投げでたたきつけるようにぶちかます。白マントはただちに巨大なグーのパンチと化してスカンクの身体を狙い撃つが、あいにくそれが届くよりもスカンクの反撃のほうが早かった。

「あたらへんでもガスはお見舞いできるで! この太鼓っ腹におのれでリズムを刻めばそれが合図よ!! おおらっ……!!」

 大きく息を吸い込んでから利き手の拳をみずからの丸い太鼓腹に打ち付けると、それをきっかけにその身に付けた装束に複数ある通気口のような凹みや穴ぼこから真っ白い煙が噴射される!

 まさしく必中のタイミングだった。

 もはやよけようがないのがわかって一度は勝ちを確信するコバヤカワの表情が、だがそこで一変する。

 その場で泣きわめいて無様にはいつくばるはずのタヌキは、そのタイミングでここぞとばかりに今度は左手に掴んでいたもう一方の白マントをバサリと目の前に翻す!

 するとこちらはパンチではなくて真っ白い壁のような一枚のスクリーンが生み出され、スカンクから放射された白い煙幕をまとめてはじき返す。

 それは見事な盾の役割を果たしていた。
 
 とは言えニオイそのものを殺したわけではないが、次の攻撃に移るだけの時間は楽に稼げていた。

 白一色に染まった視界の向こうで、決死の覚悟のタヌキが息を荒げる。これが最後とばかりに渾身の力を込めて放つのだった。

「いくぞおっ! そおら、まとめてぶった切れぇええっ!!」

 それが一度は引っ込めた右手のグーパンチであることを推測するコバヤカワは、だったら真っ向から受け止めてねじ伏せてくれると恐い形相でこちらも高くうなりを上げる。

「ほんまにバカの一つ覚えやな!! いい加減に学習せいよっ、そないな貧弱パンチはこけおどしにもならへんちゅうことをっ……んんっ!?」

 壁をぶちのけてくると思われた巨大な握り拳はいっかなに姿を見せず、その代わり、不意に壁からこの上半身をさらしたタヌキが起死回生の思いを込めて繰り出したのは、上段からまっすぐに振り下ろされた力一杯のマントの一閃だ。

 その鋭さに目を疑うスカンクだった。

 目隠しにしていたマントごと空を引き裂く一太刀は、それまさしく日本刀の切れ味でコバヤカワの眼前を一直線にかけ抜ける。

 グーパンチの平たい横の面ではなくて、これを縦の線で一振りのカタナのような形状にして繰り出した攻撃、この意味と威力は思いの外の驚きをもってスカンクの亜人を沈黙させた。

 ……ゴトンッ!

 顔の前にかざしていたみずからの左手がスッパリと肘の付け根のあたりから見事に切り落とされ、手首ごと地面に落ちるのをおよそ他人事みたいに見つめてしまう。

 思わず漏らした呼吸に感嘆の色がにじんだ。

「フッ……やりおったわ……!!」

 少なからぬ驚きと興奮で顔が硬直していたが、この後の予定が決まったことをしっかりと頭では理解していたベテラン芸人だ。

 焼き肉パーティか、あるいはカウンターの寿司ざんまい……!

 今ならうまいタバコが吸えそうやわと口もとに笑みがこぼれかけるのに、だがあいにくで目の前のタヌキが顔面蒼白、ただちに仰天して魂消た悲鳴を上げる。

「ぎゃあああああああっ!? えっ、えっ、え、え、えええ!! コバヤさんの腕がっ、腕が、丸ごと落ちちゃった? うそでしょ、俺なにもそこまでやるつもりはっ、そんなつもりじゃっ、いいやあああああああああああああっっっ!!!」

 ごめんなさいごめんなさい!とその場に土下座する勢いで膝から崩れ落ちるのに、覚めた表情のスカンクはなにほどでもないとどこか浮かない返事だ。

「……ああ、かまへん。ゾンビやから、そないに騒がんでもすぐに応急処置しとけばきっちりと元に収まるやろ。ほんまきれいにスパッと切り取ってくれたからの。血も出てへんやろ? 今は頭の中にアドレナリンが出とるからそんなに痛いこともあらへんし、ほれ、そんならその腕拾うて、ここに貼り付けい!」

「ううっ、そんなで元通りになるの、ちゃんと? わわ、触るのちょっと気持ち悪いんだけど、わっわ……あの、怒ってない? 怒ってくさいおならとか、しない??」

「せえへん! とっととほれ、ここにひっつけいよ」

「わ、わわっ、なんかコワイな! うわあ、これでほんとにくっつけられるの?? うう、はいっ……!」

 平気な顔でちょん切られた片腕の赤黒い断面見せつけてくるスカンクに、完全に腰が引けてるタヌキがあわわと困惑しながら両手にした相手の腕を差し出す。

 ちょっとブレブレだったが、どうにかぴたっと断面と断面を合わせたところに背後からクマの気配が駆けつける。

 そうして皮肉屋のクマにしては珍しく興奮したさまでかけられる言葉には、ギョッとして声をうわずらせるタヌキだ。

「コバヤさん! 大丈夫ですか? 鬼沢さん、まさかほんとに一泡吹かせるだなんて、ビックリです! おれ、ちょっと感動しちゃいましたよ。気配を消して後ろからずっと見てましたけど!」

「は? ストーカーじゃん! おまえ、まさかずっとそばにいたの? ストーカーだよ!! 公式アンバサダーとは名ばかりの、ただの犯罪者じゃんっ、俺、そんなのとこの先やっていける自信がないっ……」

「ええから、腕、ちゃんと固定せんとうまいこと神経がつながらへんやろう? おまえのそのびらびらの神具羅で包帯みたいに巻かれへんのか、首から三角巾みたいに腕を吊る感じでよ??」

「ああ、鬼沢さんの能力はいろいろと用途が広いみたいですね? およそ布状のやわらかいものならなんでも自在に変形変化させることができるみたいな? てことは紙でもいいんですかね? あ、鬼沢さん、コバヤさんの身体には極力触れないように、腕だけを処置してくださいね。でないとまたアレが大量に出ちゃうから……!」

「アレとはなんや? 出物腫れ物所嫌わずとはいうても時と場合はちゃんとわきまえるぞ、紳士としてな! おお、おおきに、これでええわ、ほんまに器用やな、オニザワ、そんなに心配せんでもすぐに直るわ」

「ほ、ほんとに? ちゃんとした外科手術もしないでただくっつけただけなのに……! あ、指先、ちゃんと動いてる?」

 ひたらすきょとんとした鬼沢に、日下部が冷静な口調でぶっちゃけた発言する。さらに目がまん丸になるタヌキだった。

「見ての通りで、おれたちゾンビは人間よりもはるかに身体が頑丈で回復力が高いんですよ。多少の個体差はあれ、おれも鬼沢さんも首をはねられたくらいではきっと即死はしませんよ?」

「は? それは死ぬだろ、さすがに! てかどこでも拾ってくっつければ今みたいに元通りにおさまるの? もはやゾンビどころの騒ぎじゃないよな、それ……」

「まあええやろ。おまえは見事に壁を乗り越えたんや。それだけは確かやからの! 先輩の芸人としてもゾンビとしても、ほんまに鼻が高いわ。オニザワ、ようやった、マジでほめたるで!!」

「あっ、コバヤさん、て、あれっ?? ……あっ!」

「あ、コバヤさん、そんなことしたら、うわっ……くさ!!」

 反射的にバックステップでその場から退避する日下部が思わず鼻を押さえて嗚咽を漏らす。

 言えばがっちりと男と男の固いハグを交わしたコバヤカワと鬼沢だが、それによってスカンクの身体中から真っ白い噴煙が盛大にあたりに噴き上がるのだ。

 つまりはお互いに突き出た中年の太鼓腹同士が衝突しあって、まんまとスカンクのおならを誘発したのだった。

 タヌキからしてみればいい迷惑の大災害である。

「あっ、あ、くさ、くさいっ、ああ、だめだっ、臭すぎて目が回るっ、世界がぐにゃぐにゃしちゃってるっ、ああ、もうひと思いに、殺してっ、はあああああっ、くさいい~~~っ!!」

「おお、すまん! オニザワ、起きろ! まだこれからめでたい祝勝会が、あかん、コイツ、くたばってもうたぞ?」

 みずからの腕の中でくたくたと力なく崩れ落ちていくタヌキのゾンビに、なすすべもなくしたスカンクが地面にくたばる後輩をただ呆然と見つめる。

 悪気はないのらしい。

 これにちょっとげんなりした顔つきのクマがしかたもなさげに口を開く。疲れた感じで、ため息が混じった。

「コバヤさんのおならが臭すぎるんですよ! はあ、もういいです。ならここはもう解散として、鬼沢さんはこのおれが連れていきますから、コバヤさんはその身体をちゃんと癒やしてください。とりあえずアイテムを置いていきますよ。腕を一刀両断にされたのはダメージとしてはやっばりでかいですから、ちゃんとそれなりの療養をしてください」

「ふん、例のこのわいの地元の関西で噂になっとった〝グリーンストーン〟ちゅうやつか? あるいはクリスタルやったか? 気のせいかぶさいくヅラの芸人コンビがこぞって東京に進出してから、こっちでもやけに出回るようになってきたのう?」

「知りません。守秘義務がありますので。でもその話しぶりだとおおかたの見当が付いてるみたいだから、ご自分で確かめてみたらいいんじゃないですか? 同じ事務所の後輩お笑いコンビさんだったらなおさらです」

「しっかり言うとるやんけ? なんやあいつら、ちゃっかりとオフィシャルを公言してからこっちよ来よったんやったな? 世間的にはバレてはせえへんものの、ほんまに難儀なこっちゃで! ええわ、それじゃオニザワは任せたで、クサカベ、将来性のある相棒ができて内心でさぞかしニンマリしとるんやろが、そうそう簡単にはいかへん。せやからやるなら最後までしっかりと面倒見てやれよ……」

 ずいぶんと含むところがあるよな口ぶりで意味ありげな目つきを差し向けるスカンクのベテラン芸人に、まだ若手の芸人はクマの真顔でしっかりと頷いた。

「……はい。そのつもりです。コバヤさんこそ、おひとりであまり無理はしないでくださいね? いつだっておれたちはあなたのこと……」

「知らんわ」

 戦いが終わって自然とあたりの照明が消えていく。

 その暗い闇の中にきびすを返すコバヤカワだ。

 それきり何も言わずに廃墟の中へと消えていく。

 ぷっつりとその気配が途切れたのを見届けて、いまだ地面にくたばるタヌキへと注意を向けるクマ、ならぬ日下部だ。

「さてと、今日はもうここまでですよね。鬼沢さん、とにかく家の前までは送りますから、後はじぶんでうまいことやってくださいよ? 間違ってもシッポとか家族の前で見せたりしないように。たぶん、見えないとは思うんですけど……よいしょっ」

 気を失って自然と身体のサイズがもとの人間のそれへと戻っていく鬼沢に、おなじく人間の姿に立ち返る日下部。

 先輩の芸人を背負って廃屋の出口へと歩き出す。

 夕方の夕日をバックにだったらさぞかし絵になるのだろうが、あいにく今はまだ明るいお昼過ぎだ。

 日差しがまぶしかった。

 おかげでこのおかしな状態が人目につくことを嫌気した後輩芸人は、大股でたったの三歩進んだところで懐から自身のスマホを取り出すこととあいなる。

 帰りは無難にタクシーで送ることに決めた。

 かくしてお笑い芸人の、およそお笑い芸人らしかずしたそれはドタバタした日々が始まるのだった。

 前途は多難だ。

 タクシーの運転士から異様なニオイがしていないかと乗車拒否されかけるのを懸命になだめながら、大きなため息が出るオフィシャル・ゾンビの公式アンバサダー、日下部であった。


                 ※次回に続く……!

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「オフィシャル・ゾンビ」④

  オフィシャル・ゾンビ
  ーOfficial Zombieー

-さいしょのおはなしの、つづきの3-


 シーン……!

 あたりは静けさに包まれていた。

 おおよそ二時間後、相変わらずそこだけ人気のない某テレビ局のフロアに一仕事終えて戻ってくる坊主頭のタレントさんだ。

 マネージャーくらいは待ち構えてるものかと思っていたのが、肩すかしを食らってため息交じりに楽屋の扉に手をかける。

「はあっ……えっと、この後ってなんか入ってるんだっけ? いや、これで今日はもうおしまいだったような気が……あ」

 この後のスケジュールを頭の中でうんうんと思い返しながら、ガチャリと何の気も無しに開けたはず扉の向こう、その何の気も無しに見た楽屋の景色にそこが異常事態だったことを思いだす。

 まざまざとだ。

 はじめそれが何かまったく理解できないままにその場に釘付けで、しばしそのさまを見つめてしまった。

 結果、およそ10秒くらはそのままの姿勢で固まって、ただちに喉の奥から乾いた悲鳴みたいなものを発する芸人さんだ。

「ひっ、あ、あああああっ、なんかいる!? な、なんだアレ? ちょっと待てよ、さっきまでここにいたの、日下部だよな? おれとおんなじお笑い芸人の? あいつどこ行ったんだ?? そして何よりアレはなにっ!?」

 完全にのけぞって入りかけた出入り口から大きくこの上体を反らしてしまうが、足がすくんでそれ以上は動けなかった。

 本来ならばそれこそが大声を上げてその場から逃げ出してしまうところなのだが……!

 それまでの複雑ないきさつがあって、それもままならないと泣きそうな顔でおそるおそるにまた部屋の中をのぞき込む。

 やっぱりいた。何かが……!!

「なにアレ、なんだよアレ? ひとの楽屋で何やってんの!? 不審者どころの騒ぎじゃないじゃん! バケモンじゃん!!」

 何か得体の知れないものが部屋の奥に陣取っているのをまじまじと凝視する鬼沢は、それが何なのかまったく理解できないままにひたすらに考えを巡らせた。


「に、逃げたほうがいいよな? スタッフなんて呼んでも誰も来てくれないだろうし、来たってあんなのどうにもならないし! ほんとになんなのっ!? お、俺、知らないぞっ、なんか寝てるみたいだし、のんきにひとの楽屋で! 日下部もきっと逃げたんだよな? それじゃ俺もとっとと……」

 ゆっくりと扉を閉ざして何も見なかったことにしようとする中堅の芸人は、閉める寸前でまたひきつった顔で中をのぞき込む。

 その顔面全体に絶望の暗い陰が落ちた。

「……ダメだ。大事な荷物、部屋の中に置いたままだった。てか、あのバケモンがしっかり抱えてるじゃん! 俺のトートバッグ!! なんでだよ!? あの中にお財布とかスマホとか貴重なもの全部入ってるから、なくしたりしたらかみさんに怒られちゃう。へそくり用の内緒の通帳とハンコとかも入れてたっけ??」

 頭を抱えてこの世の終わりみたいな巨大な絶望感にさいなまれる三十代半ばのおじさんだ。

 人影のない廊下を見回して、仕方も無しに単身で立ち向かうべく正体不明の存在が居座る楽屋にそろりと足を踏み入れる。

 幸い相手は寝ているみたいだからどうにかバッグだけ奪取してこの場を逃げ去ろうと土足のままで畳に上がり込む。

 なんだかよくわからないでかくておまけ人型の何者かは、耳を澄ませばかすかな寝息みたいなものを立てているようだ。

 ひとの楽屋でふざけた話だが、なぜだかすっかり就寝中なのをいいことにこのバカでかい頭からつま先までをしげしげとガン見してやる鬼沢は、困惑も極致のさまで声を震わせる。

「ひっ、なんだこれ? クマ? 犬? ネコ……じゃないよな? いやいやっ、でかさで言ったらたぶんクマだけど、こんなの見たことない! ありえないよ、ほんとにバケモノとしか言いようがないじゃないかこんなの、寝ている、んだよな? くそっ、返せよ、ひとのトートバッグ! く、もうちょいっ……!」

 不自然な前屈みの姿勢で、目の前のいかつくて毛むくじゃらでおまけ丸太のように太い二本の腕でしっかりとホールドされたバッグの取っ手までどうにか指先を伸ばしてこれを掴むものの、ちょっと力を込めたくらいではビクともしなかった。

 完全に一体化している。

 もはやバッグは諦めて、この中身を救出するのが賢明かと取っ手てから内側に手を入れかけて、だがそこで何かしらの視線みたいなものを感じてふと目の前へと顔を上げる鬼沢だ。

「……あっ」


 正体不明のクマだかなんだかと思い切りにこの目線が合って、それきりフリーズしてしまう芸歴10年オーバーの芸人さん。

 リアクションが取れないことを責めるのはやはり酷だろう。

 完全に思考が停止していたが、謎のクマ(?)が不意にその大きな口をがばりと開いたのには飛び上がって悲鳴を上げる。

 コンマ1秒とズレのないさすがのリアクションだった。

「ひゃあああああっ! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさあいっっ!! おいしくないからどうか食べないでえええええっ!!! ……あれ?」

 足がもつれてその場に尻をついてしまうのだが、一度大口を開けた相手がそれきりきょとんとしたさまでこちらを見ているのには、こちらも不可思議に見返してしまう。


 どうやらさっきのはただの大きなあくびだったらしいことに今になって気づく鬼沢だ。

 そのさなかにもでっかいクマのバケモノはのっそりとした動作で仰向けで寝ていた身体をよっこらと起こして立ち上がった。

 やっぱり、でかい……!!

 見上げる鬼沢はひたすらぽかんとしたさまで開いた口がふさがらない。
 そのさまをやはり覚めたまなざしで見下ろすバケモノは、野太いうなり、もとい声で何事かのたまうのだった。

 そう。

 びっくりしたこと、ひと、人間の言葉をだ。

 目が点になる中堅芸人は頭の中が余計に真っ白になった。

↑日下部の亜人(ゾンビ)化した状態の姿のイメージです。とりあえずこんなカンジのカラーリングを考えています。ちなみにOpenSeaではこの他のカラーパターンもお安くNFT化して公開、販売中です(^^) 画像にリンクあり♥

「……ああ、もう終わったんですか、収録? お疲れ様でした。なんだかひどく慌ててるみたいでしたが、何かあったんですか? 収録で滑り倒したとか??」

「は? え、ええ?? なんで喋れるの、ひとの言葉? て、ま、まさか……おまえ、日下部か???」

 鳩が実際に豆鉄砲くらったらきっとこんな顔をするんだろうみたいな絶妙な表情でおそるおそる聞く鬼沢に、どうやら日下部らしきクマのバケモノは大きな頭をただちにはいとうなずかせた。

 当たり前みたいな調子でまたひとの言葉を吐いてくれる。

 見た目、完全なクマのバケモノが。

「はい。いやだって、他に誰がいるって言うんですか? ここで待っていると言ってたじゃないですか、おれ。何をそんなに驚くことがあるんですか?」

 いかにも不思議そうに太い首を傾げるのに、だが全身が総毛立つ鬼沢はおよそまともなリアクションの取りようがない。

 傍から見ていてもパニック必死の光景だった。

「な、なっ、ななな、なんだよそれ、ふざけてるだろ? なんかのドッキリだったりするのか、でないと納得のしようがない!」

 完全に腰が抜けてその場に脱力したきり、途方に暮れるお笑い芸人だ。こんな困惑することしきりの先輩に、後輩のお笑いタレントはにべない調子で言ってくれる。

「ドッキリじゃないですよ。だってこんなの放送コードに引っかかるでしょう? コンプライアンス的にも、完全アウトじゃないんですかね、いくらこのおれがオフィシャルなゾンビのアンバサダーでも?? 本来は人目に触れさせちゃいけない姿ですから」


「本来はって、ほんとに日下部なのか? どうして?? どう見たってそんなの……お化けじゃん」

「ま、ものは言いようですよね? 話を円滑に進める以上やむなくこうしてこの姿をさらしているわけですけど、アンバサダーの性格上、この姿で活動することもままあるんですよ? もちろん、それは鬼沢さんも同様です……!」

 目を白黒させるばかりのお笑い芸人に、こちらもお笑い芸人にしてクマのバケモノはみずからの太い手を差し出してくる。

「そのままじゃあれですから、どうぞ立ち上がってください。対等な立場でお話しましょう。なんならお茶でも飲んで?」

「あ、え、いや、何も喉を通らないよ。あ、ありがとうっ、おまえ、すごいな、ほんとに日下部なのか? はあ、ゾンビ、だったっけ?? いやはや、こんなことになっちゃうんだ……」

「あいにくちゃんと生きていますけどね。ピンピンしてます。それでは早速、お返事聞かせてもえらますか? 鬼沢さん、このおれと一緒に、オフィシャル・ゾンビのアンバサダーになってもらえますよね? 見ての通りでおれはここまでさらしています。だから鬼沢さんも……」

 まじまじと相手の姿を見つめて暗い顔つきになる鬼沢は、苦い目つきをよそへと投じる。それから嫌々でまた目の前のバケモノ、もとい日下部に向き直って、言えることだけを言った。

「なんだよ、もう……いや、それよりまずは俺のトートバッグ、返してよ。さっきからずっと握りしめてるけど、お前に預けたような覚えはありゃしないぞ? だから、れっきとしたブランド物なんだからな! おいっ、返せよ?」

 利き手の逆でしっかりと保持したままの私物の所有権を主張してやるに、相手は聞く耳持たないとばかりに黙り込む。

 さながら人質にしているみたいにだ。

 眉間に深い縦ジワが寄る先輩芸人はいっそ力ずくで取り返してやりたい気分だが、やるだけ無駄なのを察してため息と舌打ちまじりに言った。ほんとに嫌々でだ。

「はあっ、ち、わかったよ! なるよ、なればいいんだろう、アンバサダー! なんのことかさっぱりだけど、あと今のおまえもわけがわかんないけど、なればいろいろと保証してもらえるんだろ。ちゃんと責任取れよな! あと返せ、俺のバッグ!!」

 憮然とした顔で右手を差し出すのに、するとこれにはすんなりと私物のバッグが突き返されてくる。見上げるクマは満面の笑みであるのがわかるがそれがまたおっかなかった。

「あは、良かったです! もうちょっと強硬な手段を取らないとダメかと思っていたんですけど、さすがは鬼沢さん、世間一般のイメージと一緒でとっても物わかりがいいひとです」

「おい、さんざん脅して人質まで取っていただろう? 中身、元のまんまだよな? 一応確認するから、あっち向いてろよ」

「見られちゃまずいものでも入っているんですか? 興味ないから見やしませんよ。どうせこの場におきっぱで、後から来るマネージャーさんに回収してもらうんですから、意味ないです」

「は? なに言ってんの?? て言うか、おまえが言うアンバサダーってそもそも何?? 何すればいいの?? 俺、こう見えてわりかし売れっ子のタレントだから、そんなにヒマなんてありゃしないよ?」

「わあ、うらやましいですね、そういうのしれっと言ってのけられちゃうの! さすがは鬼沢さん。でも心配ないです。時間はちゃんと都合を付けてもらえますから。アンバサダーがらみの案件が入った場合は、ギャラはむしろアップしますよ。仕事も代わりのひとが担ってくれますし。昨今のコロナの都合でその手の対応はみんなお手の物でしょう」

「は~ん、事務所も局もきっちりと現場対応してくれるんだ? まさかダマでは無理だもんな、こんなわけがわからないこと! て言うかさ、おまえ、ほんとに何がどうなってそんなことになってるんだよ?」

「ああ、まあ、それはこれからわかることです。イヤでも。ええっと、そうだ、まずはアンバサダー就任の特典の付与からいきましょうか? では、はい!」

「は? なにこれ?? これっておまえのあの例の輪っかだろ? もらえんの??」

「違います。特典を交付するのにこれが必要なだけです。つまりは、こういうことですね……!」

「は??」

 いまだ他に人気のないフロアと楽屋で、おじさんとバケモノのドタバタはさらなる混迷を深めることとなる。

 哀れ中堅お笑い芸人の明日はいかなるものが待ち受けるのか?

        ※次回に続く……!

  ※第一話はこちら↓


 

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ルマニア戦記/Lumania War Record #012

#012

↑一番はじめのお話へのリンクです(^^) ノベル自体はもろもろの都合であちこち虫食いだらけなのですが、できるところからやっていくストロングスタイルでやってます(^^;)

NFTアートはじめました!!

OpenSeaで昨今はやりのNFTのコレクションを公開、こちらのノベルの挿絵などをメインにアートコレクションとして売り出していきます! NFTアートと併せてノベルの認知向上を目指していきます(^^) 世界に発信、まだ見ぬ需要を掘り起こせ!!

https://www.lumania01.com/?page_id=4152

#012

 

 公海上の上空を最大戦速で駆け抜けた大型の巡洋艦は、やがてその速度を落として目標のXゾーン、戦況が混乱した戦闘海域もこの最深部へと突入する。

 試験運用も兼ねた主力エンジンの回転出力を落とすと、それまで艦内にやかましく響き渡っていたうなりと振動も一段落する。

 これにより無機質な電子音が鳴り響くブリッジにオペレーターの声が響くのが、頭上のスピーカー越しにもそれと聞き取れる。

 みずからのアーマーのコクピットのパイロットシートに腰を据える大柄なクマ族のパイロットは、目を閉じたままでじっと耳を澄ました。


「報告! 本艦、ただいまより当該の戦闘空域に突入! 全方位索敵、高度500、エンジン出力50に低下、機関安定状態を維持、周囲の状況にこれと目立った変化は見当たりません!」

「……うむ。高度そのまま、全艦、第一次戦闘待機から完全臨戦状態に移行。取り舵20、微速前進、周囲の警戒を怠るな!」

「了解! 全艦に通達、本艦はただいまより戦闘状態に突入、各自の持ち場にて任務の遂行をされたし。繰り返す、本艦はこれより全艦戦闘モードに突入、各自、周囲の警戒を厳にせよ!!」

「全艦、フル・モード! 艦長、メインデッキ、アーマー部隊、第一、第二、いずれも発進準備OKです!」

 すっかりと聞きなじんだ声の中に、会話の最後のあたりではじめて耳にするようなものが混じったが、それが先日、新しく艦に乗艦した副官の犬族のものだと察するクマ族の隊長さんだ。

※LumniaWarRecord #012 illustration No.1 ※ OpenSeaのコレクション「LumniaWarReccord」にてNFT化。ちなみにポリゴンのブロックチェーンです(^^) イラストは随時に更新されます。

「はは、こんな声してたんだ。なんかまだ堅い感じだけど、さては緊張してるのかな? 見た目まだ若い士官さんだったもんね! それじゃこっちもまだ若い新人のパイロットくんたちは、やっぱり緊張してたりするのかな?」

 そう目を閉じたままに、離れた別のメインデッキでみずからのアーマーで待機している、新人の部下たちに聞いてみる隊長だ。

 するといきなりのフリに、これとはっきりした返事はなかったが、ごくり、と息を飲むような気配が伝わってそれと了解する。

 余計な軽口はプレッシャーになるだけだろう。
 
 実戦を前に皆、自分のことでおよそ手一杯なのだから。

 それでいいやと納得していると、頭上のスピーカーから重々しげな声が響いてくる。

「皆、聞いているな? こちらは艦長のンクスだ。第一小隊、ベアランド少尉、用意はいいか? 先行する君たちの部隊に今回の戦闘はすべて任せることになる。本艦はアーマーがまだ手薄な都合、第二小隊は艦の護衛に残しておかねばなるまいからな」

 ベテラン軍人の不景気な声色に、だがこちらはしたり顔して明るくうなずくクマ族だ。

 おまけ肩を揺らしてハッハと笑った。

「あはは! 了解。ぼくらやってることはイタチごっこかモグラたたきみたいなもんだもんね? 終わりが見えない持久戦じゃ、戦力しぼっていくしかありゃしないよ。第二小隊のシーサーが我慢できたらの話だけど♡ そっか、あっちも隊員が新しく補充されたんだっけ? まだ見てないんだけどなあ……」


 ちょっと太い首を傾げて考え込むのに、また頭上からは別の声が早口にまくし立ててくる。

 これには閉じていた両目を開けてはっきりと返す隊長だ。

「ああ、少尉どの! 第三デッキの発射口、もとい、発進ゲートをオープンにします。外から丸見えになっちまうからいざって時のために注意しておいてくださいよ! あとそちらの発進シークエンスは特殊過ぎるので、後はデッキの若い班長どのにすべてを引き継ぎます! よろしいですか?」

「ん、了解! ドンと来いだよ♡ それじゃ、アイ ハブ コントロール! 新型機のお二人さんも行けるよね?」

 また左右のメインデッキ、第一と第二のカタパルトでそれぞれアーマーを発進待機させている犬族たちに問いかけた。

 すると今度はどちらもしっかりとした返事が返ってくる。

「りょ、りょーかいっ!!」

「いつでも行けます! 少尉どのが先にぶっ飛んだらこの後に着いて行けばいいんですよね? でもオレたちこんなしっかりとしたカタパルトははじめてだから、ドキドキしてますよ!!」

「ハハ! じゃあ発進のタイミングはこっちに合わせておくれよ、あとこっちのドライバーは不発もあり得るから、いざとなったら冷静に各自で判断すること! もたもたしてたら敵が来ちゃうから、先行して制空権を確保することは大事だよ?」

「了解!」

Lumania War Record #012 novel’s illustration No.2
OpenSeaのコレクション「LumaniaWarRecord」でNFT化。
こちらは通常のイーサリアム・ブロックチェーンです。
ノベルの挿絵と同時に更新していきます
。 


 新人でもこのあたりはしっかりと心得ているらしい。

 そんな歯切れのいい返答に満足してうなずくと、耳元のあたりでまた別の若い青年の声がする。

 発進作業をブリッジから引き継いだクマ族のメカニックマンのものだった。

「ベアランド少尉、発進引き継ぎました! リドルですっ」

 ただちに正面のモニターに四角いワイプが浮き出て、そこに見慣れた若い細身のクマ族の顔が映し出される。

 見慣れた光景から、デッキの管制塔の映像だとわかった。

 本来はブリッジの仕事をメカニックが兼任しているのだが、そこにちょっとしたひとだかりができているのが見てとれた。

 すぐ背後から物珍しげにでかいふとっちょのクマ族のベテランメカニックマンまでのぞいているのに苦笑いが出る。

「ふふっ、そんな見世物じゃないんだからさ……!」


 するとこちらは真顔で物々しげな物言いのメカニックの青年が、畳がけるようにまくし立てた。

「アーマーとのマッチング完了、マスドライブ・システム、目標と照準を設定、コースクリア! オールグリーン、いつでも行けます!! そちらも体勢はそのままでフロート・フライト・システムをプラマイゼロに、発射時のショックに備えてください! タイミングはそちらに任せますが、本格的な運用は今回がはじめてなので、出力はこちらで調整、まずは最大時の半分の50でいきます!!」

「ああ、了解っ、てか、電磁メガ・バースト式のマスドライバーでアーマーをかっ飛ばすなんて、このぼくらがはじめてなのかね? 砲弾やミサイルだったら聞いたことあるけど! でもどうせだったら100でやってごらんよ、遠慮はいらないから?」

 軽口みたいなことを半ば本気で言ってやるのに、如実にワイプの中のひとだかりにざわめきが走った。

 おまけ若い班長の顔が見る間に青ざめていく……!

Lumania War Record #012 novel’s illustration No.3
OpenSeaのコレクション「LumaniaWarRecord」でNFT化。
ノベルの挿絵と同時に更新していきます
。 


「そ、そんな! 無茶言わないでください!!」

「自殺行為だろう……!」

 悲鳴を上げるリドルのそれに、画面に映らないところからベテランの艦長の声がまじる。

 これに座席の右側のスピーカーからも、おそるおそるにした声が聞こえてきた。

「……てか、そんなやっかいなやり方で出撃する必要あるんですかね? 無理せず自力で飛び立ったほうがいいような?? マスドライバーって、響きからして危ない気がするんですけど」

「お、おれ、絶対に無理っ! 衝撃で機体ごとぺちゃんこになっちゃうもんっ……!!」

 左右からするおののいた声に苦笑いがますますもって濃くなるいかついクマ族の隊長さんだ。


「大丈夫だよ! そんなに華奢にはできてないさ、このぼくもこのランタンも! でもあいにくとでかくて頑丈なぶんにのろくさいから、こうやってスタート・ダッシュを決めないと戦略的に優位に立てないんだ。その場にのんびり突っ立って拠点防衛してるわけじゃないんだからさ?」

「いいえ、だからって無茶はしないでくださいっ、もう十分に無理はしているんですから! 出力は50で固定ですっ」

 好き勝手にはやし立てる周りのスタッフの声を押しのけてリドルが声高に宣言する。

 それにもめげずにまだ食い下がるベアランドだ。

「90! いや、だったら80に負けてあげるよ♡ 機体はそっちが整備してきっちり仕上げているんだから、できなくはないだろう? でなきゃ泣く子も黙るブルースのおやっさんの愛弟子の名がすたるってもんだし!!」

「お言葉ですが、師匠だったらこんな無茶、絶対に反対してますよ! アーマーはおもちゃじゃないんだから!! やってること大陸間弾道ミサイルの打ち上げと一緒ですからね? およそ人間技じゃありゃしないっ!!」

「了解、だったら75で手を打つよ、今日のところはね♡」

「っ!! わかりました、60で行きます! これ以上は引き下がりませんからね!!」

「毎度あり♡」


 やかましい駆け引きの末にワイプの人だかりが消えて、正面モニターの明かりが一段落とされる。

 ただちに秒読みが始まった。


「第一小隊、発進を許可する。さっさと出撃したまえっ!」

 せかすような艦長のンクスの声を合図に、スロットルレバーを全開に押し開けるベアランドだ。

「了解! それじゃベアランド、ランタンっ、こよれり当該戦域に向けていざ発進!!」

 轟音と共に緑色の大きな機体が巨大な巡洋艦の発進口から射出される! 風切り音を伴って空の彼方へと飛んでいくのだった。

 それから若干のタイムラグを置いて、二機の機体がそれぞれに艦を飛び立っていく。

 すべてがぶっつけ本番。

 新人の隊長と新人の隊員による、新型機のみで構成された異色の編成チーム、この本格的な部隊運用がはじまった。

               ※次回に続く……!

ノベルは随時に更新されます。



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ルマニア戦記/Lumania War Record #011

#011

「寄せキャラ」登場!!

※「寄せキャラ」…実在の人物、多くはお笑い芸人さんなどのタレントさんをモデルにした、なのにまったく似ていないキャラクター群の総称。主役のメインキャラがオリジナルデザインなのに対しての、こちらはモデルありきのキャラクターたちです。
 似てない部分をどうにかキャラでごまかすべく、もとい、ノリで乗り切るべくみんなでがんばっています(^o^)

  新メカ登場!!

Part1


「あ~ぁ、まいったなあ! あのクマのおじさんったら、やたらに話が長いんだから、余計なお説教くらっちゃったよ…!」

 ブリッジから直接また元のデッキに戻るはずが、艦橋を出た途端に出くわしたクマ族の軍医どのにがっちりと行く道を阻まれて、そこから思いの外に時間を取られてしまった。
 いざ艦の船底に位置するアーマーの格納されたハンガーデッキに出ると、そこはもうすでに一仕事終わったかのような落ち着きがあるありさまなのに、ぺろりと赤い舌を出してしまう。

「うへぇ、新しい航空タイプのアーマーが空から着艦するところをこの目で見てみたかったんだけど、間に合わなかったか…! ちゃんと無事に着いたんだよね、どっちも?」

 目ではそれと確認ができないが、この足下では何やらやたらにガタガタした物音や複数の気配があるのに、着艦したアーマーが既に専用のハンガーに格納されていることを察するクマの隊長さんだ。
 ならばこれとセットであるはず新人の隊員たちの姿を探すが、この視界にまずとまったのは新顔の犬族ではなく、日頃から良く見知ったオオカミ族の同僚のウルフハウンドであった。
 血気盛んな副隊長はみずからの一仕事を終えて今はしごくまったりとくつろいださまだ。
 そこに迷わず大股で歩み寄るベアランドはただちに明るく語りかける。

「あ、シーサー! もう戻ってたんだ? 無事で何より! それでどうだい、足回りを一新したきみの海洋戦仕様のおニューの機体は?」


 するとデッキの手すりにもたれ掛かってどこかよそを眺めていたオオカミ族は、金属の床を大きく踏みならして近づいてくるずぼらで大柄なクマ族に済まし顔して答えた。

「…ん、ああ、悪くないぜ? あの態度のでかくていけ好かないデカブツのメカニックめ、言うだけのことはあっていい腕をしてやがる。ただ元のノーマルとの換装に丸一日かかるとか言うのがいささか難ありなんだが…」

「ああ、そのくらいはいいじゃない♡ こっちも仕上がりは上々だったよ、偶然出会った敵の新型も軽くひねってやれたしね!」

「ほう? そいつは興味深いな、つまりはそっちのとおんなじ飛行型だろ? てか、どこも新型だらけだな、この艦の増援も新型機だろう? 俺が戻るのとほぼ一緒に入ってきたヤツら!」

「ああ、そうなんだ。でもそれ、あいにくとぼくはまだ拝めてないんだけど、それにつき新人のパイロットくんたちを知らないかい? どっちも若い犬族くんだって言う?? あ、そういやさっきここでは初めて見る顔の士官さんとすれちがったっけ? やっぱり犬族の???」

 のほほんとした隊長の問いに、それにはさして興味がなさげな副隊長の灰色オオカミはやや首を傾げて応える。

「ん、ああ、そういやいたな? マリウスとかっていう、この艦の副官さんなんだとよ。さっき合流したばっかの新型に便乗して今さらのご登場だ。つうかこれまで何してたんだか…」

「へえ、そうなんだ? 確かぼくらより一個上の階級の中尉さんだったよね? えらく深刻な顔してたけど、さては上司がスカンク族の艦長の部下じゃ犬族としてはそりゃ気が重いのかな。ブリッジじゃガスマスク首から下げてるオペレーターもいるし!」

「ふざけた話だな? だがあっちのはそういうわけじゃないんだろ。およそシャレが通じねえって顔してたからな。あと中尉じゃなくて、大尉だったはずだぜ、やっこさん? つうか階級章の見分けくらいひと目でつくようにしとけよ、大将!!」

「あはは! そうだったっけ? ちっちゃいのにやたらゴチャゴチャしてるからわかりづらいんだよ、あれってば。それはさておき、新顔のアーマーのパイロットくんたち見てないかい? ぼくの部隊に編入だから、さっさと顔合わせしとかないとさ♡」

「ああ…まあ、それっぽいの見たには見たが、なんだかな…」

「?」


 かくして何やらやけに白けたさまで視線をよそへと流す相棒に妙な違和感を感じながら、ふたりのパイロットたちが向かった先を言われたとおりにたどる隊長だ。
 相棒の証言のとおり、ちょっと意外な場所にいた2人組の犬族たちへとゆっくりと近づいていく。

 そこでほけっと立ち尽くす2人の新人パイロットたちは、見ればこの隊長であるじぶんの大型アーマーを格納した特大サイズのハンガーデッキを見上げてひたすらに驚いているようだ。
 ふたりとも目がまん丸で口が半開きだった。
 体型やや太めでやたらにふさふさした長毛の犬族に、もうひとりはすらりとした長身でこざっぱりした短毛の犬族である。

 何事か小声でぼそぼそと言い合っているのに、苦笑いで頭のまあるい耳を澄ます隊長だ。
 するとぼさ髪の犬族がおっかなびっくりに軍の秘密兵器たるギガ・アーマーを見ながら言う。

「す、すごいな、こんなの見たことない…! すっごく大きくて、なんかとってもおっかない…!! おれ、おれこんなの動かす自信ない。まるでそんなイメージが湧かないっ…!」

「ああ、確かにな? つうか、なんでこんなにでかくてグロテスクなんだ? こんなんで空なんか飛べるのか? 俺たち飛行編隊に編入されるんだろ。いったいどんな隊長なんだろうな…??」

「あっ、お、おっかないクマ族なのかな、やだなっ…!!」

 ひどくビクついたさまで身を縮こめる毛むくじゃらに、ちょっと冷めた調子で肩をすくめる相棒だ。
 赴任したてで場慣れしていないのが傍目にもそれとわかる。
 見るからにそわそわしたさまの新人たちは、しまいにはこれって何人乗りなんだろうな?なんて頭をひねり始めるのだった。  

 おやおや…!

 およそ軍人らしからぬ世間知らずな学生さんみたいなありさまにはじめ苦笑いがやまない隊長だ。

 言葉の通りで異様な見てくれをしたまさしく怪物アーマーをおっかなびっくりに見上げたまま、こちらにはまるで気付かないのがおかしくもありどこか心配でもあり…。
 それだからせいぜい当人たちを驚かさないよう穏やかな口調で語りかけてやった。

「ふふん、ひとりだよ♡ 通常サイズの汎用型アーマーと一緒で、きみらのとおんなじだよね! と言うか、ふたりともこんなところで何をしているんだい?」

 不意の登場だ。

 これにふたりの犬族たちはハッとこちらを振り返るなりにすぐさま敬礼!

「え、あ、うわっ、じょ、上官どのに、けっ、敬礼!」

「わわわわわっ!!」

 およそこれが軍属とは思えない大した慌てっぷりに、本当に吹き出してしまうベアランドだ。
 じぶんは軽くだけ敬礼を返して楽にしなよと態度でうながす。

「ふははっ! いやいや、そんなに偉くはありゃしないよ♡ ぼくだって言ったらまだ新人さんなんだから! にしてもきみら、ほんとに若いよな?」

 学生にしか見えないよと冗談まじりで言ってやったら、当人たちは思いの外に神妙な顔で黙り込んでしまう。
 あれ、ひょっとして図星を突いてしまったのか…?とやや複雑な心境になる隊長は、あえてそれ以上は触れないで話を戻した。

「…ん、まあ、みんないろいろあるよね! ところで、このぼくのランタン、もとい、ギガ・アーマーがそんなに珍しいのかい? 見てたらさっきからずっと眺めてるけど??」

「あっ、は、はい! て、た、たたっ、隊長どのでありますか!? うわっ…」

「あ、え、わわわわわっ、ごごご、ごめんなさいっ!!」

 それはそれはひどい慌てっぷりにいっそこっちが恐縮してしまうクマの隊長だ。

「あらら、まいったな。何をそんなにあやまることがあるんだい? ま、確かにこんな見てくれではあるけれど、それでもそっちのアーマーほどじゃありゃしないだろう? ブサイクででかくて強面で! さすがは軍部肝入りの新兵器ってカンジだよね♡」

 いまだおっかなびっくりの新人たちだが、それでも長身の方はまだ性格がしっかりしているらしい。ただちに気を取り直してじぶんよりもずっと背の高い大柄なクマ族に向き合う。
 となりのボサボサはごくりと生唾飲み込んだきりだ。

「失礼しました! えっと、その、ひとりで、でありますか? こんなデカブツ、じゃなくて、大型のアーマー! この機体制御ならびに火器管制その他もろもろを、たったのひとりで…!?」

「ぜっ、絶対に、ムリ…!!」

 騒然となる新人たちにでっかいクマの隊長さんはいやいや!とへっちゃらな顔でのほほんと応える。

「もちろん! ま、確かにこのクラスならメインとサブの副座式、いわゆるタンデム型のコクピットシステムってやつが言わばお決まりのイメージなんだろうけど、それはそれでコンビの熟練度ってものが問われるだろ? あとこのぼくに合わせろってのもなかなかにしんどいみたいだしね、あはは♡」

「はあ…!」

「ひ、ひとりでなんてムリだよ! でもこんなおっかないクマ族の隊長さんと2人乗りなんて、おれ、できる気がしない…」

 絶句したり震え上がったりと見ていて飽きない新人たちだ。  
 おかげで強面のクマさんが思わず破顔してしまう。

「おっかなくなんかないよ、いやだな!」

 こう見えて人懐っこい性格なんだから!とウィンクしてやるに、言われたワンちゃんたちはびっくりしたさまで互いの目を見合わせる。
 どうやらこの見てくれも性格もこれまでには会ったことがないタイプの上官であるらしい。おそらくは群を抜いて。
 よって種族や階級の違いなどおよそお構いなしのクマの少尉どのは、鷹揚なさまでまた続けるのだった。

「ま、ぶっちゃけまだ開発途上の機体だから、これってば。それでもうまいことひとりでやれるようにはなっているんだよ? オートパイロットシステムって擬人化AIやら何やら…ま、きみたちにはわかんないよね!」

 屈託の無い笑みでさも頼れる兄貴然とした隊長に、固かった表情が次第にほぐれてくる新人たちだ。
 ベアランドはよしよしとしたり顔してうなずいてやる。

「まあ、要は慣れだよね! こんなブサイクでいかつい見てくれしてるけど、実に頼れる相棒なんだよ。どのくらい頼れるかは、実際に見てのお楽しみとして♡ それじゃ、次はきみたちのも見せてほしいな、期待の次期主力量産機ってヤツをさ?」

 意味深な目付きをくれてやるに、当のふたりはまた神妙な顔つきして互いの目を見合わせる。
 それきり無言だ。
 その微妙な雰囲気をそれと理解する隊長だった。


「ああ、ま、とにかくよろしくね! ぼくらこれからひとつのチームになるんだから。ん、てことで、隊長のベアランドだよ。きみらのことはすでに戦績表(スコア)をもらってるからある程度は把握してるんだけど…えっと」

 ふたりの犬族たちの顔を見比べるクマ族の隊長は大きくうなずいてしごく納得したさまで続ける。

「そうだな、そっちのモジャモジャくんがコルクで、そっちのノッポくんがケンスだろ! 階級はとりあえず准尉で、実はまだアーマーのパイロットになってから一年も経たないんだっけ? なのに新型機のパイロットだなんてふたりともすごいよなあ!!」

 あっけらかんと言い放ったセリフにしかしながら言われた当人たちはただちに恐縮してすくみ上がる。

「い、いえっ、飛んでもありません! 俺たちそんなに大したもんじゃあ、前の隊長からはお互いに貧乏くじを引かされたって笑われてましたから。こんなアーマーをひとりで任されている少尉どのとは比べるべくもありませんっ…!」

「よ、よろしくお願いします! あの、その、ベア……ド、隊長っ…おれ、一生懸命がんばりますっ、まだ知らないことばかりですけど、ケンスと、一緒にっ…」

 よほどのあがり症なのかぎこちない挨拶をする毛むくじゃらの犬族に、こざっぱりした短毛種の犬族があいづち打ってあらためて自己紹介してくれる。

「今日付でこちらに赴任してまいりしまた、ケンス・ミーヤン准尉であります! あとこっちが…」

「あ、こ、ここ、コルク・ナギであります! あ、あと、じゅっ、准尉でありますっ!!」

「うん、知ってるよ。よろしくね♡ さてと、新型兵器の見学会はもう終わりでいいかい? 今度はそっちの新型くんの紹介をしてほしいんだけど、あいにく長旅で疲れてるだろうから休ませてやれってここの艦長からは言われているんだ。てことで、ここは一時解散かな?」

「は、はいっ…!」


 まだ力が抜けていないふたりを楽しく見てしまうベアランドだが、脳裏にふとある人物の顔がよぎってまた口を開く。

「そうだ、あとでこの艦の中をざっと見て回ろうよ、探検がてら! ぼくもここに来て日が浅かったりするんもだからさ…あ、そっか!」


 何かしら思い出したふうな隊長に、目をぱちくりと見合わせる隊員たちだ。
 新隊長のベアランドはペロリと舌を出して見上げてくる犬族たちにいたずらっぽい笑みで言う。

「そうだった、まずは軍医のおじさん先生に、メディカル・ルームに連れてくるように言われていたんだった! そうさぼくらメンタルやフィジカルのケアも大事な任務の一環だろ? ちょっと口うるさくて力加減のわからないおじちゃんなんだけど、性格は温厚で優しいクマ族の大ベテランだから♡」

「は、はあ…」

「また、クマ族…!」

 さては大柄で屈強な輩が多いクマ族に苦手意識でもあるのか、ボサ髪の犬族が青い顔色でうつむく。
 まるでお構いなしのベアランドは笑ってさっさとこのきびすを返した。

「へーきへーき! 見たカンジはとってもチャーミングなドクターだから♡ 案内してあげるよ。ひょっとしたら二番隊の隊長のシーサーもいるかもしれないし! そこで解散だね」

 それきりさっさと大股で歩き出すマイペースな隊長に緊張でシッポが下がり気味の犬族たちがとぼとぼとくっついていく…!

 かくしてこれが何かと問題ありな第一次・ベアランド小隊、人知れずした結成の瞬間であった。

Part2


 翌日、早朝――。

 まだ人気のまばらな艦の船底のハンガーデッキに、全身が濃緑色のパイロットスーツ姿の大柄なクマ族が、ひとり。

 無言で目の前のハンガーに格納される戦闘用の人型アーマーをただじっと見つめていた。
 その全高が10メートルを軽く超えるアーマーは横並びに二体あり、どちらも同じ見てくれと仕様の同型機に見える。
 かねてよりウワサの新型機だ。

 難しい表情で空中機動戦闘特化型の量産汎用機を見上げていたベアランドは、フッと軽いため息みたいなものをついてはどこか冴えない感じの感想を漏らす。

「あ~ん、何だかなあ…! 見たカンジは悪くはないんだけど、どうにも判断てものがしかねるよねぇ? この新型くん♡ 乗ってる子たちに聞いてもあんまりパッとした反応がなかったし…」

 これの専属パイロットである新人の隊員たちは、経験が浅いのも手伝ってまだ新型機の性能を全ては引き出せていないし、満足に把握も出来ていないらしい。

 おのれのと同様に、試験的な運用から実証まですべて現場任せなのかと呆れてしまう隊長に、申し訳なさそうに身を縮こめるばかりの犬族たちだ。

「ふうむ、やっぱり動いてるところを見るのが一番なのかね? 現行の量産型に乗っていた時はふたりともそれなりにいいスコア(戦績)を出してるから、パイロットにはこれと問題がないとして…おっ!」

 ウワサをすれば影で、口に出していた犬族がふたりしてそろってこの顔を出してくる。タイミングばっちりだ。

 どちらも同郷の言えば幼なじみらしいのだが、それが戦闘のコンビネーションを確実なものとする大きな要因であるならば、なんとも皮肉なことだと内心で思う隊長だった。

 背後で気配を感じたままこれと迎えることもなくのんびりと突っ立っていると、ふたりとも今はすっかり落ち着いたさまでこの両脇にそっと寄り添ってくる。
 視線を上に向けたまま、かわいいもんだなとかすかに口の端で苦笑するベアランドだ。

 ほんとに学生さんじゃないか…!

 あえて詳しくは聞かないが、履歴書にある公称の年齢と実際の年齢に少なからぬ誤差があることをあらためて確信していた。

 チラとそちらに視線を向けてやる。

 すると見てくれの暑苦しい毛むくじゃらの犬族は相変わらず冴えない顔つきで、まだどこか眠たそうだ。
 こんなぼんやりしたカンジで個人のスコアで星(ホシ)を少なからず付けているのがにわかに信じがたい思いの隊長だが、それはこれから確かめてやれると密かな楽しみにもしていた。

 他方、相棒とは打って変わってこの性格しっかりとして見てくれもシュッとしたノッポの犬族くんも、短いパイロット歴ながら撃墜マークのホシはしっかりと獲得していた。
 どちらも実際の年齢を考慮したら驚くべきことだと喉の奥でうなるベアランドだ。この現実の言い知れぬ皮肉さ。

 まだ子供なのにね…!

 そんな隊長の複雑な胸の内も知らないノッポくん、しっかり者のケンスがそこで一息つくとハキハキとした言葉を発した。

「おはようございます! 隊長!! ずいぶんとお早いんですね。出撃までまだだいぶ時間がありますが…?」

「お、おはようございますっ、ベア…あ…隊長っ」

 この相棒に続けてどさくさ紛れで声を発したのはいいものの、歯切れが悪くておまけもごもごと尻切れトンボで終わってしまうボサ髪のコルクだ。
 まだ寝ぼけているのか、隣でケンスがあちゃあ!みたいな顔しているのが見なくてもそれと分かった。

 ははん、書類上の経歴でウソはつけても実際は隠しきれないもんなんだよな♡

 内心でまた苦笑いして目線をそちらにくれるベアランドだ。

「ベアランドだよ♡ そっちこそ、早いじゃないか? 実際の出撃命令が出るのはまだ2時間くらい先だろ。とりあえずこの30分くらい前に集合って、そう言っておいたはずなのにさ」

「あ、その、緊張のせいか、目が冴えちゃって、おれたち…! 今さら寝付けないから、いっそスタッフさんたちの邪魔にならない時間にスタンバっておこうかなって…」

 まず臆病者の毛むくじゃらに言ってやるとこれがすぐさま目を逸らされるのを気にしないでもう片方の相棒に向く。
 ケンスはちょっとバツが悪そうな苦笑いで困ったさまだ。
 まさか隊長さんと鉢合わせするとは思っていなかったらしい。

「そっか、ふたりとも相部屋なんだよな。居心地はどうだい?」

 あえてまた右手の太めの毛むくじゃらに向かって言ってやると、言われた当人はビクっと反応しながらしきりとうなずいてつたない返答を吐き出す。

「は、はいっ、と、とっても快適、ですっ、あんなにきちんとした個室は、生まれてはじめてかもっ、べ、ベアランド、隊長…」

 すかさずこの横から個室じゃなくて相部屋だろ!と訂正されるコルクに苦笑いでうなずく隊長のクマ族だ。
 上官の名前がちゃんと言えてるんだから問題はない。

「うん。そっか、そいつは良かった♡ ふたりとも朝食はこれからだろ? 後でみんなでブリーフィングがてらにどうだい。直前じゃゲップが出ちゃうし、みんなで食べたほうがおいしいよ」

「は、はいっ!」

 見てくれのおっかないクマ族の隊長を前にするとどうしても肩から力が抜けない新人くんたちだが、これから実際の出撃を待っているのだから仕方ないと了解する。
 いざひとたびこの船を飛び立てば、そこはまさしく命がけの戦場だ。

「まあ、それはさておき、いい機体、なんだよね…? この面構えはぼくのランタンなんかよりずっと男前だし! まあ、いろいろとビミョーなうわさが飛び交ってる実験機ではあるけれど…次期主力機候補ってのがかなり眉唾(まゆつば)、みたいなさ?」

「…!」

 若くして軍に入隊して(させられて?)まだ右も左もわからないだろう新兵が、それでもうわさばなしくらいはその耳にすることはあるのだろう。
 昨日の少ない会話の中では、ちょっと前まで指揮を執っていた中尉どのはとても部下思いのいいおやじさんだったらしい。
 だったらなおさらだとここはちゅうちょ無くものを言ってやる新隊長だ。

「ちなみに知ってるかい? これって本来はもっとずっと別のところで使うために開発された機体の言わば雛形(ひながた)みたいなもんで、あくまでテストケースに位置づけられるものなんだって? まあ、ホントかどうかはさておいて…」

 振り返って見たふたりの新隊員の内、向かって左のぽっちゃりがうつむくのに対して反対側のほっそりが反射的に何もないはずの天井を見上げたのをそれと確認して、なるほどとうなずく。

 前任者はほんとにいい隊長さんだったんだね♡

「このビーグルⅥ(シックス)は戦場では希な機体でとどまるんだろうけど、だからって見下げたもんじゃありゃしないさ。なんたって軍の技術の粋を集めた機体なんだから! そうだろ?」

「はい…!」

 これにはふたりともしっかりとうなずくのに心配しなくていいよとこちらも力強くうなずく。

「これの本チャンがいわゆるビーグルⅦ(セブン)で、もしそっちに乗る機会があったらむしろラッキーじゃないか。ここでの経験をまんまフィードバックできるし、より負荷がかかる重力大気圏内での運用経験はそれはとんでもないアドバンテージだよ♡ どこでだってきっと互角以上に戦えるから…!」

 言っていること果たして理解できているのかできていないのか、冴えない表情を見合わせる新人たちにともあれで明るく笑うベアランドだ。

「ま、じきにわかるさ! それよりも本来の主力機を手に入れるのが先かな? ちょっと前にそれに近いのと偶然に会敵したんだけど、なかなかいいカンジだったよ。これにはだいぶ手こずったみたいだけど、その分に楽に扱えるよ、きみたちなら…」

 いよいよ顔つきが困り果てるばかりの部下たちに上官のクマ族も思わずこの苦笑いを強める。

「はは、いきなりあれやこれや言われても処理しきれないか! ま、今はとにかく目の前のことに集中すればいいよ。…ん、あっと、またお客さんだね♡」

「…!」

 頭のまん丸い耳を左右ともピクピクさせるベアランドが目でそれと示す先に、犬族たちもそこに新たな気配と足音がするのを察知する。
 また別の方向から軽やかなステップで走り寄ってくる細身のスタッフらしきを怪訝に見つめるのだった。

 その格好からしたら若いメカニックマンらしきは、三人の目の前でぴたりと立ち止まると即座に敬礼する。
 それからハキハキした口調で挨拶を発するのにはビビリの毛むくじゃら、コルクがシッポを立たせて後ずさりした。

「おはようございます! みなさんもうおそろいでしたか、こんなに朝早いのに!」

「ああ、まあね! いざこの船が戦闘空域に突入したらみんなでバタバタするから、落ち着いてやるにはこのくらいからでないとさ。いう言うリドルも早いじゃないか、てか、この新型は受け持ちじゃないよね?」

 事実上、じぶんのアーマーの専属メカニックとしてこの艦に乗り込んでいる若いクマ族に聞くと、それにはまっすぐにまじめな応えを返す根っからの機械小僧だ。

「はい! ですがじぶんもやはり興味がありましたので。スタッフさんが取り付く前にこっそりのぞいてみようと…! あはは、でもまさかこのパイロットの方達に会えるとは思いませんでした! スーツが違うからひと目でわかりますね?」

「ああ、確かにね! ふたりともここじゃ他にいないタイプの新型のパイロットスーツだ。色も全然違うし? でもそれもいろいろと難ありなんだよね?」

 しげしげと頭から足下を見回す隊長に、ふたりのクマ族に見つめられる部下たちはちょっと困惑したさまでうなずく。
 毛むくじゃらはなおのこと深くうつむいてしまった。

「はあ、まあ、おれたちみたいな犬族にはほんとにありがた迷惑な機能ですよね。スーツにトイレの機能を搭載しちまうなんて。みんな嫌がっておれたちみたいな新人に回されてきたようなもんだから、正直、使う気になれないですよ…!」

 げんなりしたケンスの言葉に、おなじくげんなり顔のコルクがひたすらうんうんとうなずく。
 苦笑いでしか答えてやれないベアランドは吹き出し加減だ。

「ふふっ、ニオイの問題は当然クリアしてるんだろ? アーマーにだって簡易式のそれはあるんだから、いらないっちゃあいらないんだけど、さては用を足すヒマも惜しんで戦えってことなのかね? ひどいはなしだよ!」

 冗談ごととじゃないですよとうんざり顔の犬族たちにそのうちに新しいスーツが支給されるよと気休めを言って、ベアランドはリドルを目で示して紹介する。

「丁度よかった、ふたりともこの子、ぼくの専属のメカニックははじめてだろ? リドルだよ。ぼとくおんなじでクマ族の男の子! あと、見ての通りで若いんだけど、たぶんきみらとおんなじくらいじゃないのかな? よろしくしてやってよ♡」

「はいっ、リドル・アーガイル伍長であります! ベアランド隊のチーフメカニックを主たる任務としておりますが、特に新型の少尉どの専用のアーマーを任されております。以後、よろしくお願いします!!」


 言いざままたもやびしっときれいな敬礼するのに、ふたりの若い犬族たちもこれに慌てて敬礼を返す。

「ケンス・ミーヤンであります! どうぞよろしく!」

「ああっ、こ、コルク、ナギであります! じゅ、准尉ですっ」

「あはは、なんだかとっても人柄の良さそうな隊員さんたちですね? 実はもっとおっかないひとたちを想像していたんですけど、良かったです!」

 朗らかな笑みで胸をなでおろすリドルに、ベアランドは肩を揺らして合点する。


「ははは! でもこう見えてもふたりともとっても優秀なんだよ? ちゃんと星も持ってるし、こうして新型機を任されるくらいなんだから! ま、リドルもアーマーの操縦はできるし、ホシだって持ってるんだからどっこいどっこいなんだけど!!」

 豪快に笑ってぬかした隊長のセリフに、だがこれを聞かされる周りの犬族たちがただちに色めき立った。
 ギョッとした顔で目の前に立つ若いメカニックマンをひたすら凝視してしまう。

「は、はいっ? このメカニックマンどの、撃墜マークを獲得しているのでありますか?? おれたちと同じ戦場で!??」

「え、え、ええっ、なんで?? メカニックなのに…???」

 ひどい困惑とともにジロジロと見つめられて、当の細身のクマ族の青年はこちらもひどい当惑顔でこの身をすくませる。

「あ、いえ、その…! ベアランドさん、そのはなしは無しでお願いします。このぼくも欲しくて獲ったものではないので…」

「?????」

 なおさらギョッとなる犬族たちに苦い笑いを向けて曖昧に肩をすくめる隊長だ。あらためて三人に向けて言ってやった。

「はは、まあ、いろいろあるんだよね、人生! それはさておき、朝食にしようか。みんなそろったんだから丁度いいや。リドルはこの機体がお目当てなんだろうけど、パイロットの生の意見や感想を聞くのもきっとためにはなるだろう?」

「あ、はい! それはぜひとも。よろしいでしょうか?」

 いかにもひとのよさげであどけない表情のクマ族のメカニックマンの言葉に、こちらもまだあどけなさが残る犬族の新人パイロットたちが目を見合わせる。頭の中は大パニックだ。
 もはやうなずくより他になかった。

「ようし、それじゃあみんなでレッツ・ゴー!! まだ出撃までには時間があるからたらふく食べようよ、あといろいろと楽しいミーティングもね? 聞きたいこといろいろあるんだ♡」

 これよりおよそ二時間後、ベアランド小隊は初出撃することとなる…! 




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お笑い コント スピンオフ 寄せキャラ

「寄せキャラ」であそぼ♡ 漫才師「ダイ〇ン」がモデルのクマキャラ・ダッツ&ザニーでコント! お題「ゾンビ」「ブサイク」

いざデザインしたまではいいものの、まったく出番が回ってこないキャラクターに光を当てるべく、ノベルとはまったく関係のないインチキコントを作っていきます(^^)/

ちなみに、「寄せキャラ」は以下のものがイメージです♡

で、実際に今回登場する、漫才師のお笑いコンビ、「ダ〇アン」の寄せキャラが、こんなカンジ…!

↑「ダイ〇ン」のボケ担当?のひとをモデルにしています笑

↑「ダイ〇ン」のツッコミ担当?のひとをモデルにしています笑

では実際に、このインチキ・クマキャラのコンビでコントを作ってみよう(^^)/

はじめ 立ち位置、マイクを中心に、正面から見て、ザニーが左手、ダッツが右手

ダッツ「ども、ダッツで~す!」

ザニー「ザニーですぅ」

ダッツ「ふたりあわせて、「ダイ〇ン」で~す! まったく似てないで~す! あしからずぅ。てか、似てへんどころかまったくのベツモンやん! こんなんただのクマのバケモンやん!!」

ザニー「しゃあないやろ。そういうインチキノベルのキャラクターなんやから、わしら。あと作者が「似顔絵」描くのヘタクソやから、はなからどうにもならへん」

ダッツ「しょうもな! 少しは頑張れよ。前にアニメのキャラ演じたことあったけど、あれと比べてもワケわからへんやん! なんでこないなブッサイクなクマキャラにされなあかんねん!!」

ザニー「ええやろ。しょせんはインチキなんやから。他にもいろいろとおったけど、どれもみんな無茶苦茶やったからな? まず似てるヤツがひとりもおらへんかった」

ダッツ「そうやった! 誰がおったっけ? 名前はけっこう売れてるのに、まるで見た目が合致しないお笑いコンビのブサイクキャラ、えっと……」

ザニー「ピンもおったやろ? まずはラジオの有名パーソナリティがモデルのブサイクなでかいクマさんと、昔はコンビやったけど今はピンで活躍してる、ベテランのコメンテーターとか?」

ダッツ「あ、ここの頭で出てきた白いクマキャラのおじさんかいな! ビミョーやよな? あと若手もおったやろ。わしらみたいな中堅どころよりもフレッシュな、第七世代っちゅうやつら!」

ザニー「ああ、おったな? イヌキャラの「宮下〇薙」と、「見取〇図」とか? どっちも似てへんどころかまるきりベツモノのやつらが。あと「ハラ〇チ」とかも、ブッサイクなネコとゴリラにされておったような? あんなもん訴えられるやろ」

ダッツ「あれな! マジでシャレにならへんやん。なんであないにブッサイクにされてんねん。仮にもネコやろ? おまけに気色の悪いガンマンスタイルで、あんなんはじめて見たわ!!」

ザニー「ええやろ。ノベルではわしらとは絡まんみたいやし。ちなみにわしら、戦闘ロボのパイロットで、空中戦が得意なちゃきちゃきのベテランコンビらしいで?」

ダッツ「なんで? 「ダ〇アン」も「漫才師」もなんも関係あらへんやん! しょうもな!!」

ザニー「ああ、おまけにふたりともひどい船酔いしてもうて、はじめはまったく使い物にならへんらしい」

ダッツ「なんで!? うそやろっ、わしらのこと馬鹿にしすぎやて!! 東京やのうて関西のわしらを見て!!」

ザニー「ええやろ。しょせんはインチキなんやし。ここで言うてもしゃあない。ほな、ぼちぼちはじめようか」

ダッツ「やんの? わしらでコント?? できんのかいな??」

ザニー「やるしかあらへんやろ。そういう記事になってもうてるんやから。確かお題は、「ゾンビ」と「ブサイク」やったよな」

ダッツ「おおいっ、こんなブッサイクなクマキャラにしといて、完全にイジッとるやん! ほんまにしょうもな!!」

 本文中のキャラクターに興味がありしまたら、上記のリンクからご覧になってください(^^)

コント 「ゾンビ」~ブサイクは世界を救う?~

ザニー「まずはやる前に立ち位置、そっちと変わってええか?」

ダッツ「なんで? アホちゃう? このままでええやん。ネタ書いてるあほんだらのおやじ、マジでわしらのこと知らなさすぎ! 立ち位置まで変わってもうたら、ほんまに誰が何やっとるんだかわからへんようになってまうやん!!」

ザニー「はじめからわからへんやろ? こないなもん。そっちのほうが構図としてやりやすいし、わかりやすいっちゅうはなしやったんだが、まあええわ。ほな入るで、よろしゅう…!!」

 一拍あけて、マイクからザニーが少し後退、ダッツはそのままの立ち位置で、焦ったさまであたりを見回し始める。
 (コントに突入!)  マイクは回収?

ダッツ「はあっ、はあ! えらい世界になってもうた! どこもかしこもゾンビだらけやんっ、わし、こないな世界で生き残っていけるんかいな? しかもたったのひとりきりで!!」

 ひどく狼狽、焦ったさまであたりを見回すが、やがてこの左手、ザニーがいる方を見て異変を感知。ごくりと息を飲む…!

ダッツ「ああっ、誰かおる! まだここにも生き残りがおったんかいな! どないしよ、ああ、あかん! そこまでゾンビが来ておるやん!! あかんっ、囲まれてもうた!! あれじゃ逃げ切れへんで、ああっ、あ……!」

 ひどくくたびれたさまで中腰のザニーが、ギョッとしたさまで辺りを見回すと必死のさまであがきもがく。ガクガクと震えながらやがて絶叫!!

ザニー「うあああああああっっっ!!!」

ダッツ「あかん! 襲われてもうた!! すまんっ、救われへんかたった! わしが非力やさかい、またひとり犠牲になってもうた、この街もうゾンビだらけや!! すんまへんっ……あれ?」

 地面に倒れ伏すザニーを見ながら、微妙な違和感に気付く。
 すると倒れた状態からいきなりすっくと立ち上がるザニーに、ビクっとひるむ、ダッツ。

ザニー「なんやっ、くそおっ!! またおんなじかいなっ、どいつもこいつも無駄に群がりおって、まるで意味あらへんやん!」

ダッツ「あぁれぇ、襲われてたんちゃうん? しっかり何カ所も噛まれておって、なのになんであないにピンピンしてはるの?? ふしぎ~!」

 ちょっとおっかなびっくりに近づく。するとその直後にザニーが放った一言にビックリ仰天!!

ザニー「噛まれただけ! ただ痛い思いをしただけ!! 腐った死体どもにもみくちゃにされて、散々にもてあそばれたのに、ぜんっぜんゾンビになられへんやん、このわし!! 最悪や!!!」

ダッツ「ええ~!! どういうこと!? 噛まれてもゾンビにならへんヤツなんておんの?? 体質?? ウィルス効かへんの?? いやいやっ、だったらすごいやん!!」

 ダッツのぶったまげたセリフに、そこで初めてその存在に気付いたらしいザニー。冷め切った表情でジロリと振り返ると、しごく冷め切った調子で返す。

ザニー「……は、何が凄いん? 噛まれてもゾンビになられへんのやぞ。地獄やろ! 周りはどこもかしこも何万と動く死体がおるっちゅうのに、こっちはただのひとりっきりで噛まれ放題や!! こないにむごい地獄がどこにある??」

ダッツ「うっ! でも、でもゾンビにならへんのやろ? すっごいやん!! ひょっとしたら世界を救うことができるかも知れへんやん、その、特殊な体質があれば。噛まれて感染しても、しっかりと抗体があるっちゅうことや! それさえあれば……」

ザニー「新種のウィルスかも知れへんやろ? 何にしても今さらや。こないになってもうた世界をひとりでどないできるっちゅうんや。噛まれても効かないだけで、攻撃はできへんのやさかい」

ダッツ「確かに、それはしんどいな! ん、でも、でもやで、ゾンビにならへん抗体、ワクチンっちゅうやつをおのれの身体からみんなに分けることができたら、わしら生き残り、人類が滅ぶっちゅうようなことは最悪防げるかも知れへんやん? 希望はある!」

ザニー「わからへんやろ? じゃあおんどれを噛んでみてためしたろか? それでじぶんがゾンビになられへんかったら、めでたくこっちの仲間入りや! 心強いわあ、やってることゾンビとなんら変わらへんけど」

ダッツ、「うっ、あえてこの身をさらして襲われならへんの? しんどいわぁ、あとその前におっさんに噛まれるのも気持ち悪いし。ゾンビにならへんでも噛まれ所が悪ければ失血死してまうこともありえるやん! めちゃめちゃ肉をえぐられて? 痛いどころですまへんやん」

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