いきなり実戦ダダンダン!①
※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)
https://mypage.syosetu.com/2965007/ ←小説家になろう(ルマニア、ジュゲム)
https://kakuyomu.jp/users/kumanosukew ←カクヨム(ルマニア、ジュゲム)
https://syosetu.org/novel/381100/ ← ハーメルン(俺の推し!)
Episode‐file‐08
突如として目の前に出現した、妖しくも青白く光る、巨大なチャック……!
みたいな、それは空間の歪曲経路(ワームホール)の進入口なのだろうか?
そこからまたいきなり目の前に開いた、真っ暗い穴をくぐり抜けたその先には、思ってもみない世界が拓けていた――。
「え、いきなり場所が変わった!? でも、ここって……!」
わけがわからない流れに身を任せて、終始わけがわからないことになっていたが、ひとつだけわかることがあった……!
ロボのコクピットの内部、視界のほぼ全てをカバーしている高解像度ディスプレイに囲まれた操縦席。そこでこれが克明に映し出す景色をぐるりと見回すでぶちんのパイロット、モブはごくりと息を飲んで事態を把握する。
それは少なからずした驚きと共にだ……!
「おれ、知ってるよ。だってここって、アキバだよね? 言わずと知れた秋葉原! マジで良く見た景色だし、こんなおかしなことになる前にこのおれがいたところじゃん、良く考えたら……?」
そう。元はと言えば、ここの行きつけのとある特殊なコンセプトカフェにいたところ、何故か縁もゆかりもないどこぞの自衛隊施設(?)に裸で拉致られていたのだ。ほんとにわけもわからないまま。
今にしてはっきりと自覚しながら、まだちょっとどこか違和感があるのにこの肉の厚い首を傾げたりもするデブのオタクであった。首回りのガードが思い切り肉に食い込んでいる。苦しい。ここだけサイズをやり直してほしかった。
「んっ……!」
背後で気配がするのに、後ろにも同乗者がいるのを思い出してチラリ、そちらに目を向ける。そこで相変わらずにふんぞり返るおじさん、自称・ぬしと互いの目を見合わせるのだ。
当のおやじは何食わぬ顔で聞いてくれたか。
これになおさら目を見張らせる新米くん。
「覚えがあるのか? つまりはここが今回の戦場なんだが――」
「え、戦場って、意味わかんないよ! だってアキバだよ? ただの街中の繁華街じゃん? 都内でもけっこう名の知れた? そんなトコで誰が何と戦うっていうの? オタクとオタク?? そりゃその昔はオタクの聖地とか言われてたらしいけど、いまはもうそんなことないんじゃないのかな……?」
きょとんとした顔つきでそんなマジマジと見てしまうのに、一段高くから見下ろしてくるおじさんは、ニヤリとだけ笑ってこれがさも意味深な口ぶりである。
「じきにわかるさ……! 見てりゃいい。ちんちん、ちゃんと立たせておけよ? いつでもイケるようにな!」
「ちんちんて……! あんっ、もう、これもほんとに意味がわかんないよ! 相変わらずこっちのおじさんとおねーさんもおれのことジロジロ見てるし……!」
正面の操作盤にふたつある小型ディスプレイの中で今も真顔の監視者たちの顔をちらりとだけ見て、目だけは合わすまいと苦い表情になる新人パイロットだ。この間も左手ではしっかりとじぶんのイチモツ握りしめているわけで……! かすかなため息ついていた。
仕方もなしにこの視線を正面の大画面モニターに向ける。身の回りをぐるりと360度で映し出す全天投影型のディスプレイだ。つくづく金がかかっているのがわかる。無駄なくらいに。そしてそこには良く見慣れた行きつけの街の景色があった。普段と何ら変わらないありさまでだ。だがそれをよくよく見ているに付け、やがてちょっとした違和感の正体に思い当たるモブだった。

「ここっていわゆるあの大通りで、もうちょっと先に行けば、秋葉原の駅前の交差点だよね? あれ、でもまだこんな時間なのに、あたりにまるでひとがいないんだけど、どうなってるの? 平日の午後とは言え……?」
見上げれば高精細ディスプレイ越しの空には抜けるような青空が一杯に広がる。時間でいったら昼過ぎなのだろうか? 周りの表示をきょろきょろと見回して、そこに時計らしき四桁のカウンターを見つけて注目する。
「んっと、PM15:22……! まだ三時半くらいなんだ? おれっていつ拉致られたんだっけ? あれ、今日はバイトが非番のお休みで、それで……」
ヒマをもてあまして午前中にもう行きつけのお店をのぞいていたのだと思い出したところで、後ろから注意をされる。
「コラ、手元がおろそかになってるだろう! 何度も言わせるな? おまえが集中しなければ、こいつの挙動もおろそかになっちまうんだぞ? こんなデカいのがよたよた歩いて周りの公共物を破壊だなんてシャレならねえだろ、責任問題だ。挙げ句無関係の民間人やら個人所有の財産やらを巻き添えにしちまったとなったら……!」
渋い声でおっかない注意喚起にビクんと反応して振り返るモブだ。口を尖らせた顔に不満たらたらなのがはっきりと出ていた。
「っ! そんなこと言われたって、責任もへったくれもありやしないよっ、おれだって本来は無関係のただの民間人なんだからね? 違うなんて言わせないっ、まだなんにも理解も納得もできてやしないんだからっっ!! ふうっ……!」
改めて正面に向き直ってみずからの股間を優しくマッサージ。
ちょっと慣れてきて空いている利き手のやり場に困るくらいだが、何を言おうが説得力がないのははっきりと自覚していた。背後から指摘されてむっつりするオタクである。
「ふん、どんなツラで何を言おうがどっちらけだな? てめえのナニをシコシコとしごきながらじゃ! おかげで安定しているしここまでテレポートもできたから俺としては文句ないが、無事に任務をこなしたいならもっと前のめりになって周りの意見に耳を傾けろよ? やること自体は至極カンタン! 普段からやっていることと何ら変わりはありゃしないんだ」
「ぜっ、ぜんぜん違うっ! おんなじわけないじゃん、こんなのっ……!? あと、しれっとテレポートとか言ってるけど、これってどう見てもただ事じゃないよね? ここってほんとにあの秋葉原?」
あたりを見回してまた太い首を傾げるでぶちん。
すると背後でなおのことふんぞり返ったおやじはでかい背中でシートをギシギシ鳴らしながら解説してくれる。
「他にあるのか? まあ、こうして見たところでひとがいないってのは、とりもなおさずここが立ち入り禁止区域に指定されて民間人はおいそれとほっつき歩けないからだ。みんなどこぞに待避するなり建物に立てこもるなりして自衛しているんだろ。戦場だからな? 当然報道規制も敷かれているから、ここにいるのは実質、俺たちだけ、のはずだ。おそらくな?」
「戦場? 報道規制って……!」
怪訝な丸顔が眉をひそめるのに、背後で見下ろす角刈りの四角い顔面が天を仰いで説明ゼリフを朗々と吟じてくれる。
「よく見ろ、街中だけじゃなし、でかい事故や事件がらみじゃかならず上空に出張って待機してる報道のヘリらしきがひとつもないだろう? 警察や自衛隊も含めて! それだけぎちぎちのがっちがちに制限がかけられているんだよ。本来なら機動隊なりなんなりを編成して現場の対処に当たるはずが、それじゃ対応できないって包囲網の形成に努めているんだ。現状、俺たちはそのど真ん中にいるから、誰からの目にもとまらないし、邪魔もされない。おかげさんでやりやすいだろう? ナニのやり放題だw」
「やり放題って! やりたくてやってるわけじゃないんだらかね? ふううっ、あんまりでかい声出させないでよ、へんなタイミングでイッちゃうかもしれないじゃん、ああ、ふう……! おれ、ほんとにナニやってるの??」
「ナニだろう? とにかく周囲への警戒を怠るな! 現状は落ち着いているように見えるが、いつナニがどう変わるかもわかりゃしない!」
「ナニってナニ?」
もう振り返ることもなく聞き返すモブに、意外と聞き分けとカンがいいヤツだなとニヤリと笑うぬしのおじさんだ。下手に振り返って前方不注意になるようならそろそろ怒鳴ってやろうかと思っていた手前。文句を言いながら状況が深刻なのを肌で感じているのかと推察する。こいつは鍛え甲斐がありそうだと丸っこい背中を見つめていると、目の前でデブがぶるっと身震いした。確かにカンがいいようだ。
「おじさん、なんか後ろでヘンなこと考えてない? あっ、なんだ!」
周囲の状況ではなくて、目の前のモニターにいきなり警告のウィンドウが開かれたのに反射的にのけぞる。あんまり見慣れない字面が並んでいるのに混乱していると、手前の小型モニターの左側のおじさん、監督官の村井が深刻な面持ちで口を開いた。
『突然で済まないが、もう戦いの準備はできているのだよね? オタクダくん。立った今、防衛省の特務外局、この特務広報課・第一広報室より第三種災害に関わる緊急特別臨時警報が発令された……! ジュゲムおよびこのパイロットは戦闘態勢にただちに突入、戦闘機動へ移行のこと、厳に了解されたし!!』
開口一番、とんでもなく速いジャブだった。早すぎて何を言ってるのかひとつも聞き取れないくらいだ。おおよそ10インチくらいのディスプレイの中でひどく真剣な面持ちした、後ろにでんと居座ってるのよりかはまだちょっと若めの働き盛りのおじさんおにいさんが早口でまくし立てる。
『そう、これは単なる予備待機や自主避難勧告ないし予行演習などのたぐいではなく、現実に第一次災害対応態勢を正式に発令するものとなる。言わば初の第三種災害に対応対抗するべくしたわれら特務自衛隊の出動、現実の対応行動となるものだ……!』
まじめな自衛官だった。言っていることだけは。
対してやたらに堅苦しい文言の連続で正直、ちんぷんかんぷんのモブだったが、目を白黒させてうわずった声を上げてしまう。
「えっ、何を言ってるんだかさっぱりわかんない! 悪いけど第三種災害がそもそも意味不明だし、防衛省とか特務自衛隊とかさらっと言ってるけど、おれそんなの何も聞かされてないよ? ここでナニをしろとしか言われてないんだから! ムリだって!!」
向こうから見たカメラの画角ではおそらくフレームアウトしているのだろうが、実質はみずからの股間をねちねちといじり回しながら悲鳴を発するデブのオタクである。すると監督官と代わって今度は右手の若い女性の監査官が口を開いた。
またもやしての波状攻撃に泣きたくなるモブだ。
どうせこの後に背後からも続くのだろう。
やたらにきっついのが……!
『いえ、どうか落ち着いてください……! 現在、あなたが搭乗している特殊装備(ジュゲム)は当該戦域におき、単機で行動しているために残念ながら周囲からのサポートを受けられる状況にはありません。従って現状、頼れるのはあなたご自身のみです。ですので冷静に。わたしは応援しています。ここから……!』
「えっ、そんだけ……?」
いざおもむろに口をきいたわりには歯切れが悪いメガネっ子のおねーさんだ。これと言って打開策らしきが何もなかった。ただのまんまのお気持ち表明だ。
そんなのわかりきったことだろう?ときょとんとなるでぶちんに、背後からやはりトドメの一撃がブッ刺されてきた。やはり不意打ちでくらってしまうにわかパイロットだ。
「わっはっは! そうら、いい加減に諦めて覚悟を決めろ! 泣こうがわめこうが事態は待ってくれやしねえ、やるしかないんだ。おら、手元がまたおろそかになってるだろう? いいからサポートはこのぬしさまが後ろからしっかりとかましてやるから、おまえはおまえのやるべきことに専念しろ!」
なんでもちから一杯にぶっちゃけてくれるおじさん。メガネが光るおねーさんも画面の中でこくりとうなずく。対して顔つきやたら気まずいモブだった。
「……いや、それってつまりは、ナニをしろってことなんだよね? こうやって他人に見られながら? ただのふざけた罰ゲームじゃんっ……!」
もしくはイジメだろうとがっくりと肩を落とすが、左手のモーションはちゃんと生きていることを背後から認める教官どのは、これをさも鷹揚におおらかに諭してくれる。
「それでいい。ちゃんとやることやっていれば、こんな急場でもしっかりとしのげる。伊達におっ立たせているわけじゃないんだ、おまえのそのちんちんは!」
「ああん、言ってることなんにもわかんないっ! 誰かどうにかしてよっ、え? わ、なんだ、今度はなにっ……!?」
正面のモニターにでかでかと映し出された、小難しい警告文がずらずら並んだ説明書(マニュアル)みたいな表示窓が消失して、目の前にあの見慣れた景色が復活する。だがその直後、そこに今度はいくつものアラート表示のポインタが浮かび上がり、おまけピーピーと高音の警告音までが鳴り響く! そのどれもがただごとではないことを示唆していた。
「なんだよなんだよっ、もうやめてよ! あんもうっ……!」
ロボは高さがあるので足下の地面とはかなりの距離感があるのだが、見ればその大通りの歩道寄り、複数立ち並んだ路面店の建物かこの脇道あたりに警告表示が集中しているのがわかる。
ただしそれ以外は何がなにやらさっぱりなのに、ちょっと左手の手つき(タッチ)があやふやになるパイロットだ。
股間の操縦桿から意識を取られる新人にふたたび左の小型画面から声高な注意喚起がなされる!
『むっ? これは、ジュゲムのオタク・レーダーが何かしらの標的対象(ターゲット)を感知したようだ! パイロットは最大級の警戒を! オタクダくん、これはまさしく現実の実戦だっ!!』
「へっ? いやそんな、いきなり実戦とか言われても……!?」
突如、甲高く言い放たれた、それは現実離れしたセリフに頭の中が真っ白になる。身体から力が抜けて背中から座席の背もたれにどっと倒れ込む肥満体ながら、そこにこの背後から落ち着いたおやじのだみ声がかぶさってきた。いいから落ち着けと言わんばかりに。
「いいからシコってろ! そいつが主務操縦士たるおまえの役目だ。そうすりゃコイツが応えてくれるさ。ただし、目の前の現実からも目を離すなよ? じきにはっきり見えてくるだろう、おまえが戦うべき真の相手ってヤツが……!」
『はい。どうか気をつけてください。オタクダ准尉! このジュゲムが反応したということは、すぐ近くに第三種災害の原因要素が存在するということに他なりません。これがおそらくは複数、そちらに近づいているものと見られます……!』
「じゅっ、じゅんい? じゅんいって言ったの? え、だからジュンイってなに? ……み、みんな、なに言ってるの?」
もはやみずからの股間の感覚がどこかにすっ飛んでいるような心地で、慄然と操縦席にまたがるモブだ。逃げたくても片手じゃこのごついベルトを外せない。やばい。ともすればそのまま卒倒しかけるオタクの青年だが、背後の教官がとかく落ち着き払った調子でなだめてくれるのだった。
「落ち着けモブ! 気をしっかりと持て! だからつまりは第三種災害の火種、何かしらのヘンタイしたクリーチャのお出ましだろ! そうだひと呼んで変態新種生物!!!」
「へ、へんたい? くりい、ちゃ? な、なに、それ???」
本当にわからない。何もかもがさっぱりだ。あんぐりと口を開けて後ろに聞き返しかけたところに、一段とやかましいビープ音が鳴り響く。音はこの足下のあたりから鳴っていた。これに足下からやや離れたところを映す右手のディスプレイ映像の中で、地面で実際に何かしらの変化があるのがわかった。じきにそちらがズームアップで正面モニターに拡大されるのに思わず身を乗り出してこれを凝視する肥満のメインパイロットだ。
「えっ、あっ、ひとがいる! 誰だろ、おじさんかな? 見たことあるような青い制服の……あれって、警察、お巡りさん??」
目を皿のようにまん丸くして正面の拡大映像をひたすらに注視するモブだった。見たところでは中年の警察官とおぼしき人物が、背中をこちらに向けたまま、ゆっくりとしたモーションで後ずさりしている図と理解する。無論、動画のライブ映像でだ。
それにつき音声がないのであまり判然としないが、何やら緊迫した雰囲気なのだけは伝わってきた。
この落ち着いた背中の見た目とやや小太りな体型からして背後のおやじと同年代か? それがどこぞかへ向けて何かしらの言葉を発しているらしいが、あいにくと聞こえない。装甲が厚いこのロボの内側では集音器を経ずに外部の音を聞くのはほぼ無理なのだろう。
かと言ってコクピットハッチを開けて顔を出すのは御法度だ。
どこかに外部マイクのスイッチはないかとチラチラと周囲に視線を向けるが、はじめて乗る人型ロボのコクピットはさっぱりこの使い方がわからない。わかるのはこのレバーだけだった。
全体の図から判断して、突然現れたと思えた警察官は右手の脇道あたりから出てきたらしい。
おそらくは何かしらから待避、逃れるみたいな感じで?
「え、どうなってるの? 周りの音が拾えないからなんにもわからないよ! ねえ、おじさん? ぬしのおじさん??」
ちらりと背後に視線を向けると、やけに険しい目つきでおなじく正面のディスプレイを睨み付ける後部座席の教官だ。何やら思案に暮れているらしくこの顔つきがだいぶ渋かった。
ここらへんからも不穏な気配を感じ取るオタクのでぶちんだ。
「えっ、と、あっちのお店じゃなくて、その脇の裏道から出てきたんだよね? まだひとなんていたんだ? でも逃げ遅れってわけじゃなくて、見たとこ警察官だもんね? おじさーん、聞いてるー??」
左手の基本動作だけは忘れないように気を付けて、前方の画面を注視したままで背後へと問いかける。これに舌打ち混じりでおやじの声が返るが、ちょっと緊迫した色合いがやはりあった。
「ッ、うるさいっ! ちゃんと前に集中しろ、目を逸らすなよ? もうじき出てくるから……! 来るぞっ!!」
「え、なに? 何か出てくるの? あの脇道から? なにがっ……!?」
おやじの叱責に続いて、ひときわに甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く! ディスプレイの至る所に警告を意味するのだろう英語やら何やらが何度も点滅したかと思えば、一瞬の静寂の後にそれが現れた。のっそりと。そう……!
それは現れたのだが――。
想像を絶していた。
はじめそれに焦点が合わないモブである。
手前で何かわめいている警官の背中が大きく上下する。
両手をまっすぐ胸の前に伸ばして何かしらの構えを取っているのが、実は自身の装備である拳銃をかの標的へと向けて突き出しているのだとようやく理解した。この背中越しだから良く分からなかったが、およそ尋常ではない状況だ。

「けっ、拳銃! 誰に向けてっ? え、なに、なんか、出てきた……!」
えっ?
はじめ人間の人影のように見えたシルエットだ。はじめだけ。
だが違った。つかの間、息を飲むモブは、すっかり左手の動作を忘れてしまう。天井のほうで低い警告音が鳴ったが、気になどしていられなかった。目をむきだして目の前のありさまに意識を奪われる二十歳過ぎだ。最近やっとお酒を飲めるようになった。
「え、なに、あれ…………ねぇ???」
やっと言葉にして吐き出すものの、応えるものはいない。
カタチとしてはひとっぽいが、決して人間のそれではない見てくれのなにかに言葉を失うパイロット。冷や汗がだらだらと額やら背中やらを伝うのを意識しながら、もう一度、言葉にした。
「だからねえっ、あれ、なに? なんなのあれ? なんなんだって聞いてるんだよっ、なんだよあれっ、あれっ……!!」
がたがたと身体が震える新米パイロットに、背後の一段高い教官席からベテランのおやじが答える。ひどく落ち着いた口調がやけに重たく響いた。静寂の中ではこの耳が痛いくらいにだ。
「……見ての通りだ。見たまんまだろ。他に何がある? 今回はああいうタイプってだけのことだ。カタチなんてその都度変わるんだから、ガタガタ言っても仕方がねえ、アレをやるんだよ。おまえと、この俺とで……! 股間、ちゃんと立たせておけよ?」
最後にしっかりと注意喚起して、それきり視線を逸らすおじさんだった。大口開けたままでこれを見上げるモブは顔面が真っ青だ。パイロットスーツを着込んだ肥満体を傍目にもわかるくらいに身震いさせながら、また正面へと向き直った。正直、股間もへったくれもなかった。
「な、な、なんだよ、アレ、なんかいる、いるけど、なんだかわからない、おまわりさんはへーきなの? あんなの、あんなの、あんなのっ…………」
バケモンじゃんっっっ!!!!!!
思い切り叫んだのとほぼ同時のタイミングだった。
外部の音がこちらで拾えるようになったのは――。
背後のぬし、あるいは前の自衛官たちのどちらかの操作だったのかはわからないが、うっすらとした風の音とひとの叫び声、その直後に短い発砲音のごときものがコクピットにこだます。
それも複数回に渡って……!
「撃った! 撃ったよ! はじめて見たっ、お巡りさんが拳銃撃ってるの!! いいんだよね? あんなのひとじゃないんだから、撃っていいんだよねっ! ねえっ……あ、効いてない?」
かなり距離が縮まった位置関係にあったので無難に当てているように見えたのだが、果たして命中していたのか?
きっと手持ちの弾丸を撃ち尽くして、騒然となる警官の背中に怯えのような震えが走るのをはっきりと見た気がするモブだ。心臓がキュッとなるのを意識する。痛い。見てるのが辛かった。映画やドラマならまだしも、今、目の前に繰り広げられているのは現実なのだ。本気で泣きたかった。かくしてだ。警官が相手にしているよくわからないものは全身を震えさせて、ゴアッと良くわからない声を上げていた。人間の声帯から出せるとは思えない濁った音声はそこにただならぬ怒りが宿っていたか。
拳銃を突き出したまま立ちすくむ警官は牽制の怒号を発しながら、身体を小刻みに震わせながら拳銃を腰のホルダーに納めると次は短い棒きれ、警棒らしきを取り出した。冷静なのが見ていて涙ぐましかったが、できたらもう逃げてほしいと思うモブだ。
「わあっ、わあっ、わあああっ! どうなっちゃうの? おじさんっ、あっちのおじさんがピンチだよっ!! あのおまわりさん、警棒であんなのと立ち向かおうとしてるよ? 逃げろっていわないと!!」
涙目で振り返る丸顔に、えらが張った角刈りおやじは冷めた表情で言葉も冷たい。
「もう遅えだろ。良く見とけ。あと股間! ちゃんとシゴいておまえも次に備えろ……!」
「ふあっ、ふあ、なんなの、あれ? なんなの、あれぇ???」
大パニックの新人パイロットは激しく感情が揺さぶられるが、正面の壮絶な絵面から目を逸らすことができずに過呼吸みたいにあえぎはじめる。背後から見ていて明らかに腰が引けているお巡りさんは絶体絶命、このままではどうなるかわからない。
あっ……!
のろのろと動いていたひとっぽいものが、キバをむいて中年の警官に襲いかかったのは不意のタイミングだった。挙動がおかしい。まだお互いの距離はあったはずなのに、気がついたらすぐこの目の前に迫っていたと当の警官にも見えていたはずだ。想像を絶する光景を目の当たりにして息もできなくなるでぶのオタクであった。
「わっ、わ、わっ! わああっ、おまわりさあああああーーーんっっっ!!!」
「いいからっ、さっさとシコってろ!!!」
絶叫するモブ。
叱責するぬし。
事態はさらなる混迷を深めることとなるのだった……!
























