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SF小説 ファンタジーノベル ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-04 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ④

なろうで公開中のジュゲムの下書きですw なろうで公開済みの部分は太字になります。

Episode-file-04


 知らぬ間に拉致られ、気がつけばマッパで監禁されていた謎の個室から、その現場は歩いてほどもないところにあった――。

 窓もなく薄暗い通路を二度くらい曲がった先の突き当たりだ。

 そこには、見るからに頑丈そうな両開きの金属製の扉があり、そこまで先導する監督官が、この扉の脇にある操作盤らしきを手早く操作することで、音もなく重厚なドアが左右に開かれてゆく。この時、背後を女性自衛官の監査官に詰められていたから身動きもできないままのオタクだ。逃げ道はない。
 促されるままにおずおずとこの内部へと足を踏み入れる。
 ドア越しにもパッと見でかなり広い空間だとはわかったが、全体的に薄暗くてはっきりとは見通しが効かなかった。
 かろうじてこの真正面がぽつりぽつりとライトアップされていたので、そこだけがそれと認識できるだろうか。で――。

 モノはそこにあった……!

 とぼとぼと部屋に入ってこの顔を上げたらいきなりのことである。見て丸わかりの言われたままのブツの登場にしばし圧倒されるオタクくんだ。もはや見まがいようもない、あまりにも露骨なありさまであったか。 

「はあああぁぁぁぁ~~~……!」

 言葉よりもまず長いため息が漏れるモブだった。
 正直、途方に暮れていた。
 あまりにも浮き世離れした現実が、がそこにはあったから。
 泣きたい。
 はじめ惚けた顔でそれを見上げるパイロットスーツのオタクは、改めておのれが直面している事態の異常さに驚愕するのだ。

「うわあ、マジであるよ? 何コレ、ロボ? ガチじゃん! いくらかかってるの? ここまであからさまだと、なんか引いちゃうよな、こんな巨大ロボっ……!!」

 目の前にそびえ立つのは、おおよそひとのカタチをした、巨大な戦闘兵器、ロボットなのだろうか? 
 果たしてこの意味も理由もさっぱりわからなくした、どこにでもいるはず平凡なオタクはたじろぐばかりだ。
 いかにもメカっぽい全身がずんぐりむっくりしたロボットは、ただ静かにそこに直立している。それだけで半端じゃない存在感なのだが、何故かまだどこかしら夢うつつな気分のモブだった。
 ひょっとして悪夢を見ているのではないかと、じぶんのほっぺたをつねったりしてみるのだが、ジクリとした痛みだけが伝わって、他には何も変わらない。
 悲しいかな、まごうことなき現実だ。
 仕方もなしに周りに視線を向けるのだが、これと言って他に目にとまるものはなかった。薄暗くした巨大な灰色の屋内に、巨大な人型ロボが仁王立ちしている。
 ただその事実だけが突きつけられる空間。
 泣きたい。マジで。
 周りに物音やひとの気配がないのが多少の違和感だったか。
 オタクの身からすれば、こういうシーンでは決まってやかましい騒音とたくさんのスタッフや資材が、そこかしこを忙しく動き回っている活発で雑多としたイメージなのだが……。
 あいにくとじぶんたち以外にはそこには誰もいなかった。
 非常なまでの静けさに満たされた大型ロボの格納庫だ。

「あぁ……だからなんか現実感がないんだ? じゃあ、ほんとに動くのかな、コレ? ただのハリボテだったりして??」

 思わず思ったままを口にすると、そのつぶやきをこのすぐ背後から聞きつけた中年の自衛官、村井がまじめな言葉を返す。
 またそのすぐ後に続く女性の監査官の指摘にも耳が痛く感じるモブだ。余計な物音がしないから小声でも楽に会話ができる。
 大きな空間につぶやきが響いてなんかおっかないカンジだ。

「そんなわけがないだろう? 紛れもなく本物だよ、アレは……! いやはや、もっと当事者意識を持ってもらいたいな。税金いくら投入していると思っているんだ。もはやシャレでは済まされない額だよ」

「あなたが今、身にまとっているスーツもおなじようにただごとではないだけの公金が投入されています。開発から実用化にこぎ着けるまでの年月も含めて、考慮していただければ幸いです」

「ううっ、そんなこと言われても、おれ、ただのオタクだから……! オタクってなんだよ? てか、やけに静かだけど他にひとっていないんですか、ここ?」


 しまいにはどっちらけて白けたまなざしで背後を振り返るに、真顔の監督官はおごそかに応じる。わざわざ一拍空けてから。
 なんだか芝居じみているようだが、そのあたりは気にしないことにした。なんかもう慣れつつあった。

「それはつまり、重要な機密を守る上での厳正なる対処だよ。この戦闘兵器のパイロットについては厳重なプライベートの保護、ないし報道規制が敷かれている。当然だな。これに則り、一般の整備班やその他の運用スタッフときみが顔を合わせることは原則禁止だ。国家機密厳守の観点から。問題があるかね?」

「い、いやあっ、なんか大げさな気が? おれの正体ってそんなバレちゃダメなの? こんな馬鹿げたことをおおっぴらにしているのに?? 拉致監禁もされちゃったし。マッパにもされて、さすがにムリでしょ……」

 額に汗を浮かべて困惑するオタクに、冷静な監査官が応じる。

「いいえ、そちらのロボからあなた自身が顔を出さなければ、物理的に身バレすることはないものかと? ご自分から正体を明かすような真似をされるとこの身柄を保護することにならざるおえないので、くれぐれも機密の漏洩にだけはお気を付けください」

「保護? それって、また拉致られてこうやって監禁されるってこと? もうやってるじゃん! なんだよっ……」

 物腰の穏やかだがやけに他人行儀な言い回しに、なんだかげんなりしてがっくりと肩を落とすモブだ。その肩をぐっと掴んで、嫌気がさすほどに真顔のおじさんが言ってくれる。

「もっと胸を張りたまえ! きみこそは選ばれしオタク、国を救うべくした正義のパイロット、いうなればヒーローなのだから。戦場がきみを呼んでいる」

「呼ばれたくないです。あのですね、おれ、民間人ですよ? それがどうして……! あれってほとんになんなの??」

 再び正面に戻って目の前にある現実に向き合うが、どうにこうにもで立ちすくむデブのパイロットスーツだ。村井が言う。

「ジュゲムと呼んでくれたまえ。あれの正式な名称だ。ただし口外は無用。いわゆる我々関係者の中だけでのコードネームだな。世間一般では第三種災害対応兵器ぐらいなものか?」

「第三種……! あのぉ、それって……あれ?」


「オタクダくん。やはりきみは真のオタクだ。あれが呼んでいる……!」

 

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-03

アキバで拉致られババンバン♪ ③

Episode-file-03

 

 言うなればかなりの極限下で、かつ、かなりの悲壮な覚悟の下に血を吐く思いでぶちまけた、それはだ。

 知らぬ間に全裸スッポンポンのまま、無機質で頑丈な病院のストレッチャーよろしくした担架の上に担ぎ上げられていた、この自分からしてみれば。

 だがここは間違っても病院などではないのに……!

 かくしてその訴えは見事に叶えられたようだが、を相手の挙動から察して、顔つきに不安が広がる裸の大将、ならぬ、マッパのオタクだ。

 無表情に近い真顔でとだけうなずく村井むらいはいずこか背後へと頭を巡らせる。

 これに部屋の真ん中に置かれたストレッチャーの反対側に立つ女性、確かとか名乗ったはず、神楽かぐらが静かに了解して応じる。

 おそらくは先輩であろう相手に気をつかってのことなのだろうが、これに村井は構わないとみずからその場を離れるのだ。

でしたらば、わたしが用意しましょうか? そちらはあいにくとここには入りきらなかったので、この外に置いてありますから……」

「構わない。。この彼のでかい体躯たいくにあわせて作られているからなおさら……! ならば君はこのストレッチャーを邪魔にならないよう、この部屋の片側に寄せておいてくれ」

「わかりました」

「え、? じゃなくて? やだな、って何が出てくるの? あっ、おれ、もう降りたほうがいいですか??」

 病人よろしく担架の上に寝かされてはいたものの、別段どこにも異常はない。

 服を着ていないこと以外は五体満足でいつもどおりしているのだから、そう思わず聞いてしまうとかく根が素直な青年だ。

 それには無言で担架をみずからの背後の壁際へと移動させる女性監査官、神楽はてきぱきと配置換えを完了させる。

 ただそんな無愛想なさまでもちゃんとこの上にじぶんが乗っかっているのを考慮してか、慎重な手つきで移動担架ストレッチャーを動かすのを見つめる小宅田オタクダだ。

 それだから気まずげなさまでも、この股間のが反応しないようにと手のひらに圧を加えたりする。

 幸いしゃれっ気のないメガネでその素顔が隠されていたが、メガネを取ったらけっこうな美人なのかなと思わせる雰囲気があった。

 意識したらマズイのでただちに視線を逸らす童貞くんだ。

 一度殺風景な部屋から姿を消した男の自衛官とおぼしきは、またすぐにもとドアを開けて入ってくる。

 その時には両手に小型のストレッチャーみたいな台車をたずさえて、部屋の片隅かたすみに控えていた後輩の女性自衛官らしきをともないながら、このすぐ目の前までと音を立てて歩んでくるのだった。

 そのさまをただぽかんと見つめるのふとっちょくんである。

 怪訝けげんな眼差しを真顔のおっさんに向けてあぐらをかく。

 もはやきちんと正座だなんて馬鹿らしかった。

 そんな不作法者を気にするでもなくした当の中年、村井はみずからが持ち出したモノを指し示す。

、きみ用の専用装備はすべからくがこちらで用意してある。見ての通りだ。さあ、遠慮せずに着てくれたまえ」

「…………? え、なんスか、?? おれ、が欲しかっただけなんですけど? なんかやけにかさばるけど、これってみんななの? なんで??」

 見た目きれいに畳まれているが、きっと広げればなのだろう。

 おまけにこのじぶんみたいなの、たっぷりとしたボリューム感の。

 それにつき目元がだいぶ引きつり気味のいまだ全裸の青年に、男の背後から悪気もなくしたメガネ女子がさりげない説明をよこしてくれる。

 聞かされる側からしたみたいなヤツをだ。

。見ての通りで結構な税金が投じられていますが、気にせずにおしになっていただければ? この世であなただけの、まさにですから……!」

「あのぉ、ツッコミどころが多すぎてもはやまともに口を聞く気にもなれないんですけど、? このおれがここで寝ているあいだ? だからこんなマッパなの? この世にプライバシーなんて概念はもはやなくなったの?? ついでに人権とかも??」

 顔つきが苦み走るばかりのオタクに、すぐこの正面に立つ監督官がたちまち破顔はがんして応じる。

 ただしこちらも大概たいがい、ふざけていた。

「ハッハ、まさか、馬鹿なことを言わないでくれ! つい今のさっきで、こんな急に作れるわけがないだろう? モノは全く違うが、言うなれば空自のパイロットがジェット機に乗り込むような正規のフル装備のパイロットスーツだよ? 。そちら向きの! その際、のだから? よってあとは実働試験あるのみだ。さあ、まずはそのパイロットスーツの装着を。すぐにも実戦が控えているのだから!」

「この国はいつからこんなにぃ? 待って、これって着たらマジでヤバいやつなんじゃ? 着なくてもヤバいけど、おれはほんとにが欲しかったですぅ! で構わないからぁ!」

「いいえ、を投じてあるのだから、それはありえません。だからこそ監査官としてこのわたしも見定める必要があるので、、あなたもすみやかに装着を願います。これは言うなればです。そしてもう時間がありません……!」

 またしても男の背後からのメガネのおねーさんの、反論の余地がなくなるオタク、もとい小宅田オタクダは半泣きでうなだれる。

「はあぁっ、人生ってこんなにもあっさりと終わりを迎えるんだ。おれまだ若いのに! パイロットスーツって、おれはただのしがないデブのオタクですよ? てか、あんたらが言うって、そもそもなんなの???」

「いいから、まず着はてみたまえ。移動寝台ストレッチャーの上では危ないから、まずはここに降りて。着るのは簡単だから。最終的な目視のチェックをして、ただちにこの場を移動だ。現場は荒れているらしいからな!」

? 説明はなしっスか? てかこれ、ほんとにイカついな! マジでパイロットのスーツじゃん? いくらするの??」

 ただ真顔で見つめられて、しかたなく手にした装備品と向き合う青年だ。

 およそ、五分後――。 

「………………」

 このじぶん専用の装備品だという、やたらに重装備のパイロットスーツらしきものを、いやいやで着ることになるデブの青年オタク――。

 小宅田オタクダ 盛武モブは、あますところなくがっちりと固められたみずからのスーツ姿を見下ろして、言葉もなく立ち尽くしていた。

 正直、途方に暮れていた。 

 目の前のが言うとおり、着ること自体はそう難しくはないのだが、着た後が問題だ。確かにあらかじめだったとあって、着心地自体は悪くはない。むしろいいくらいだ。しっかりとなじんでいる。なんなら普段着?に欲しいくらいだ。いくらするんだろう? 

 もとい!

 気がつけばこんなわけのわからない格好をさせられてしまったおのれの境遇が謎すぎて、顔にひたすらに暗い影が走る青年だった。

 およそすべてが想定外過ぎる。

「…………? やたらにガッチリしてるんですけど? マジでガチのパイロットスーツじゃん! なんでおれが着てるの??」

 困惑の表情でおそるおそる目の前の背の高い中年男性を見上げるに、まるで感情が表に出ない自衛官? 村井は真顔で言うのだった。

、オタクくん、もとい、小宅田くん。加えてかくも協力的な姿勢を見せてくれて、まことに感謝する」

 

 内心で複雑な思いの小宅田は顔つきがなおのこと苦み走る。

 そんな本当に思っているのか怪しい限りの言葉に、と乾いた拍手が重なる。これも本気で思っているのかわからない、背後の若い女性自衛官のものだとわかるが、そちらには極力目をやらないようにして、正面の村井と向き合う囚われのオタクだ。  

「ま、まあっ、とりありえずを隠す必要がなくなったのはいいコトなんだよな? たぶんっ! でもなんかやたらにゴチャゴチャしてるけど、こんなのわざわざ着込む必要あるの? そもそもがなんなんだっけ……えっと……」

 おののいた眼差しを目の前に向けるに、平然とそこに仁王立ちする細マッチョの体格がいかにも自衛官してる村井は、ことさらに堂々と応じる。

 どこにも罪の意識はないらしい。おっかないこと。国家権力のなんたるかをまざまざと見せつけられる思いの小宅田こと、盛武モブだった。

「ふむ、どこにも支障はないようだね? アラート(警告)サインが出ないからこれにてだ。最後にいくつか質問はあったりするかね? 時間がないからそう長くはけないが、最低限度のQ&Aには答えよう。さあ?」

「えっ、ええ~~~? いや、わからないことだらけで、もはや何から聞けばさっぱりなんだけど、おれじゃないとダメなんですかね? この格好から見てわかると思うけど、おれ、さっぱり向いてないと思うんだけどなあ? ねぇ?」

 調

 そう言わんばかりにこのみずからのデブデブの身体をタプタプと揺らして見せる。だがこんな時だけ満面の笑みのおじさんときたら、文字通りオタクの言い分を即座に却下だ。

「問題ない。完璧だよ。オールグリーンだ。もはや君以外にありえない。税金もたっぷり使っている。わかるだろう? 逃げ場なんて、ない」

「はあっ、はああっ……! ほんとに泣いちゃうよ、おれ。あ、なんかって言ってしましたよね? それって……」

 半泣きで泣き言を言うデブ、もといモブに、忌々いまいましいことただちににもどる村井は、ひどく険しい眼差しだ。

「そのあたりについてはみだりに口にすることはできない。国家機密なのだから。むしろ実際に見てもらったほうがわかるのではないかな? の精神で君には何事にも邁進まいしんしてもらいたい。税金かけているんだから」

「うっさいな! おれはそんな金なんかひとつももらってないですからね! 実感ないし、だったらこのスーツ、こんなにガッチリ全身固めてるのに、なんですか? あとこの頭もさらしちゃってるし……!」

 目の前の台の上を探しても、頭にはめるメットや両手のグローブらしきはどこにも見当たらない。

 すると果たしてそこではじめて、かすかにたじろぐような困惑の表情をその顔に浮かべる監督官だ。

 そもそもでという響きも怪しくて仕方ないのだが、社会人で言ったらアブラの乗り切った働き盛りの中年オヤジは、さも口惜しげに何やらぬかす。

っ……! 申し訳ない。はじめに言っておくべきだったね? 残念ながら目下もっか、きみが頭にはめるヘッドギアはデザイン途上、もといでまだ少し時間を要するのだ。だが本来の運用にはさしたる支障はないだろう。今のところは……」

 聞こえだけはもっともらしげなのらりくらりした言いように、だが元からさしたる気がないモブは覚めた目つきでテキトーに聞き流す。どうでも良かった。なんなら逃げ道のほうがよっぽど聞きたい。

「へー……? じゃ、この手にはめるヤツもまだこれからなんスか? なんならそこらのホムセンあたりで売ってる、でいいような気がするんだけど?」

「いや、それでは傷つけてしまうだろう? きみの何より大事な、を……」

?」

 何の気なしに言ったセリフにことさらな真顔で返す村井だ。

 怪訝な顔で聞き返すモブの表情がさらに曇った。

 それまで黙ってことの成り行きを見守っていた若い女性自衛官、監査官の神楽が背後からこれをいさめるのがまるで理解不能だ。

。それ以上は、にも関わりますので……!」

っ??」

 あんたらなに言ってんの?

 はっきりとこの顔に不信感が表れているのを、まるで歯牙しがにもけない目の前の公務員は、おまけ涼しい顔で話を勝手に切り上げる。

。それではいざまいろうか。きみの戦場はこのすぐ側にある」

「いや、まだなんにも納得どころか理解もできてないんですけど? できたら呼んでもらえません? その権利あるでしょ、今のおれには? 間違いなく!」

「いいえ、なにぶんに多額の税金が絡んでいますから。国家権力の前には残念ながら……ごめんなさい。ですがこのわたくしたちも国民の血税がつゆと消えないよう、最大限のサポートをさせていただく所存です。国家を揺るがす災害への防衛は、わたしたち自衛隊が身命しんめいして立ち向かうべき最大の使命です」

「おれ自衛隊じゃないですぅ! まだ入隊してないしぃ! 何やるのかもまだ知らないしぃ! 車の免許すら持ってないしぃ!」

「大丈夫。すべてクリアしている。こうして。よってそのあたりの書類は後日送付するので、すべからく署名してこちらに返送、わたしに手渡しで構わないから持ってきてくれたまえ。で構わないから。しょせんは便宜上だ。それより戦場がきみを待っている。さあ……!」

「お、おれのって、ひょっとしてだったりするのかなぁ……!?」

 非情の監督官の言うとおり、彼の戦場はそこから歩いて、――。

            次回に続く……!

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-02

アキバで拉致られババンバン♪ ②

Episode-file-02

 目を覚ますなり思わずを上げてしまった――のは、そこがまったく身に覚えのない知らない場所だったからであり、それまでの経緯がさっぱり不明で、かつ、見知らぬベッド?の上に正体もなく横たわっていたこのみずからが、あろうことかだったからだ。

 それは寒いのもしごく当然!

 パンツすらいてないすっぽんぽんの自身のは、小さくすくみ上がっているのが見なくてもそれとわかる。

 もとい、体型が太っているので位置的に見えなかった。

? ?? っ、!?」

 知らない灰色の天井から、この視線を真下に落とすとこの視界の中にが見て取れる。

 強い視線が感じられた。

 無論、知らない人間だ。

 おそらくは仰向あおむけに横たわるおのれを間近から見下ろしている。

 あいだにじぶんをはさんで左右に分かれて立つ内の、すぐ左手に立つのが男で、ちょっとだけ距離を置いた右手にいるのが女性の影だとその細いシルエットから理解できた。

 そう広くもなさそうな薄暗い室内で、ぼんやりしたふたつの影が、こちらを……!

「だっ、だっだっだ、っ!? え、おれなんで! !? てか!!?」

 完全にパニックにおちいっている素っ裸すっぱだかの青年に、対する二人の謎の人物はしごく落ち着き払ったさまで応じてくれる。

 その冷静なありさまも含めてびっくり仰天の彼を見ながらに言うのだった。

「お、ようやく目を覚ましたな? ふむ、いささかのようだが、まずは鎮静剤ちんせいざいでも打ったほうがいいものかな? このオタクくんは……」

!? ナニ言ってんの? てか、そもそもでなんだって!? !!」

 のっけっからただならぬ気配と危機感に仰向あおむけのままで身体を硬直させる青年だが、それをもう一方から見つめる細い人影が静かにいさめる。

 ただし言っているのはじぶんにではなくて、むしろこの間近に立つ男にであるようなのに、ちょっとだけ心拍数が下がった。

「いえ、その必要性はないものと思われます。、あまり強行な手段はみだりに講じないように願います。職務とは言え、後々にだと疑われる行為は、見過ごすわけにはいきませんので……!」

「わかった。留意りゅういしよう」

! 待ってよ、ここどこっ、なんでおれはなの!? おじさんさっきから真顔で怪しすぎるって!!」

「あとちなみに、わたしはおじさんではない。その点は留意してもらたいな。こう見えてちゃんとしたがあるんだ。つまるところでそう、オタクの特任パイロットの、 〈オタクダ・モブ〉くん、きみと同じでな?」

「オタク?? え、おっ、お、? なんで?? まったく知らないおじさんなのに? あと、そっちは??」

 当たり前みたいな顔でズバリ、おのれの名前を言い当てられてしまい、ひたすらキョトンとするまだ若い男子は、こわごわとふたりの大人たちを見上げる。

 およそ三十代半ば過ぎの男と、もっと若いお姉さんぐらいかとだけ認識して、それ以上は思考が停止していた。

 この見た目の格好からだけではそれが何とは判別できない。

 しがないフリーターであるじぶんとはまるで別世界のお堅い仕事柄の格好であることだけは予想がついたが……。いかんせん、普段からスーツ姿の仕事人とは会うこと自体が希な職域で生きながらえているこのじぶんだ。

 相変わらず真顔のまじめな社会人らしき人間たちを目の前にして、ちょっと引いてしまう情けのないじぶんを、こんな時にも意識してなおのこと身体が硬直する。

 それに……?

 とみずからのありのままの姿を改めて見るにつけ、ギョッとして跳ね起きて仰向けからただちに正座へとこの姿勢をただす。今さらながら。

 それまですっかりけっぴろげにしていた、このみずからの股間を両手でしっかりとガードしながらだ。

 そう、特に右隣のお姉さんの視線から……!

「あっ、あっ、ああ! !! ひいっ、もうやだよっ、こんなカッコで!? おれどうしてなの? おれなんか悪いことしましたっけ!!? あとこのおじさん返す返すも誰ぇ??」

 半泣きでパニックしながら涙目で見上げてくる若者に、ちょっとだけ困り顔になる中年の男は、咳払いして鷹揚おうように応じてくれた。

 悪い人間ではないのだろうか?

 この状況ではなかなかに判断がしがたい。

「おほんっ! まあ、気持ちはわかるが、少し落ち着きたまえ……! 見ての通りで、わたしは怪しい者ではない。とは言え一口ひとくちには説明がしがたいので、この場ではあえてはぶかせてもらうが、とりあえずとだけ答えておこう」

 しれっとした語り口で何やらやけに都合のいい申し開きに、どこにも合意なんてものができない裸の青年はひどくいじけた物言いになる。

 できたらパンツが欲しかった。

「えっ……は、省いちゃうんですかぁ? でもおれからしたらぁ、一番知りたいことなんですけどぉ……! それになんでマッパなのかぁ、さっぱりわからないんですけどぉ、これも省かれちゃうんですかぁ? あとそっちの若いお姉さんの視線がぁ、すっごく気になるんですけどぉ……!!」

 みずから村井と名乗る男のことよりも、むしろ右手に立つ女子のことをよっぽど気にしているような青年の返事に、やや肩をすくめ加減の中年男性だ。

 仕方もなしにおのれの正面へと視線で何やら促すのだった。

 するとこれを了解した当の若い女子が、落ち着きはらったさまでみずからの口を開く。

「ごめんなさい。驚かせてしまったのならば、この通り謝ります……! ですがここはれっきとした国の正規の施設で、詳しいことは省かせてもらいますが、あなたの身柄は安全に確保、もとい、保護されています。ですからどうか安心して、そんなに緊張しないで……」

「やっぱり省かれちゃうんだ? この状況でそれは無理というものでは……なんかマジで泣きそう……!」

 がっくりとうなだれるのに、男がまたまじめな顔でもっともらしげなことを付け加える。

「そんな状態でなんなのだが、君の安全は保証する。我々に関しては機密事項が多いのでそう多くは語れないのだが、とりあえず、とだけは明かしておこう。どうかな、少しは納得ができたかね?」

「え、? それってまさか、あの、……みたいな?」

 めちゃくちゃどん引きしていた青年の青い顔が、ついには驚きにより真っ白へと変わる……!

 泡食ったさまで男へと向き直った。隠していた股間がおろそかになるほどの動揺ぶりで正座の姿勢が崩れてしまう。背後にどっと尻餅ついて、うわごとを発するようにわめくのだった。

「そっ、それっていわゆるでしょう!? 昨今のSNS界隈かいわいで話題が持ちきりの!! マジでヤバいじゃんっ、おれ、このまま行方不明でどうにかされちゃうの!? とか、とか!?」

 寒さだけではなしにガクガクと震えるのに、対してこれを見下ろす男は、いまだ落ち着いたさまでかすかにため息をつく。やれやれとでも言いたげにかぶりを振って、ぬけぬけと言い放った。

「……フフ、さすがはオタクくんだな? 情報がかなりかたよっている! きみ、それは世間一般に流布るふされるそれこそというもので、実態はまるで別のものだ。当然だろう? まあ端的たんてきに言ってしまえば、! どうだ、納得がいったかね?」

「なおさらヤベーじゃんっっ!!? あ、わわわっ!! 見ないで!!!」

 たまらずに大股おおまたおっぴろげてがなってしまうのに、もう一方の無言の女子の冷たい視線に慌てて太った身体を縮こまる。相手はメガネ越しでこのレンズの反射具合では視線の向きが定かでなかったが、今のはもろに見られていたはずだ。

 こんな真っ裸ではこのちんちんどころか尻の穴まで見られかねないと、うめくような泣き声が漏れ出た。

っ……! ひととしての尊厳が保たれないよっ、こんなんじゃっ!? まじめな話なんてできっこない、てか、これってまじめな話し合いなのっ!!? まずは服を返すところからはじめてよっ、あとおれのおサイフとかケータイとか、人権とか、んですけどっ!!?」

 悲壮な表情を男へと向けると無情な真顔の自称、監督官、ないし自衛官は覚めた調子で答えるばかりだ。

「無論、まじめな話だよ。きみの衣服や所持品についてはちゃんとしかるべき場所に保管されているはずだ。おそらくは。あいにく我々の領分ではないのでしかるべき人間に掛け合ってもらいたいのだが、。心配はいらない」

「…………って、こういうコトを言うんだ? おれもうんでますよね??」

 意気消沈して傍らのお姉さんに目を向けるに、相手は気の毒そうに無言で静かにこの顔を逸らした。本気で救いがない。そんなところに男がを畳がける。どうやら厄日みたいだ。

「話を本筋に戻そう。意味もなくこんなことになっているわけじゃないのだ。我々の目的は、そんなうさんくさい都市伝説やネットの風説とは無関係な、実社会に基づいたあるべき社会活動なのだから。ではそれにつき、、きみも聞き及んでいることだろう?」

「? なんのことですか? おれ、どっちかっていったらオールドメディアよりもネット派なんですけど?? まずこの状況をどうにかしようと思わないんスか? おれいつまでハダカなの?? じゃあもうこの隠さないスよ?」

「隠さなくていい」

「ダメだろっ! すっかりパニクって興奮しちゃって、アソコがひとさまに見せられないくらいに暴れちゃってるんだからっ!! おねーさんはできたら部屋から出てってくれません? せめて背中を向けるとか??」

 懇願こんがんする青年に、真顔で見下ろすあまり見かけない色合いのスーツ姿の女子は、にべもなくこれを完全拒否の構えだ。

「ごめんなさい。それはできないの。わたしにはとしての職務がありますので。申し遅れました。あまり多くを語れないのですが、わたくしは監査官の神楽かぐらとだけ名乗っておきます。今はそれだけで、徐々にこの壁を埋めていきましょう」

? があるんスか、まあそうか、こんなだもんね? おれ……」

「話を戻そう。ネットでも話題は尽きないはずだから、お互いの認識はそう違わないはずだ。君の今後にも大きく関わる……!」

「おれのはなしはマジで無視なんだ。もうどうでも良くなってきた。監査官てちんちん見るのが仕事なんですか? その真顔はマジでキツいです。見せたらプレイになっちゃうからおれの尊厳がどうにかなっちゃう! ただの変態じゃんっっ!!!」

 もだえるマッパを見下ろして監督官と名乗る男は真顔で言い放つ。

……! この言葉はすでに聞き及んでいるだろう?」

 まったく浮かない顔で応じる青年、このまわりからオタク呼ばわりされる小宅田はちょっと不機嫌に文句を垂れる。

「それこそじゃんっ! よくわかんないイタズラとか凶悪犯罪とか、いろいろと頻発ひんぱつしていて、警察が苦戦してるのは知ってるけど、犯人も動機も原因もまるでわからないんですよね? むしろあえて隠してるみたいな? で、そこにとうとう自衛隊までもが関与し出してって……それで今のこれなの?? うそでしょ」

「きみがオタクで良かった。じゃ、そういうことで、さっさと話を進めさせてもらおう。何だね?」

 奈落の底に突き落とされたみたいな絶望の表情で見上げてくるオタクにどこまでも無表情に相対あいたいする無慈悲の監督官、村井だ。

「ああっ、おれ、マジで詰んでる! 返す言葉が見つからないよ、ムリだって……おねえさんにも見られてるし。ああ、でもちょっとだけ落ち着いてきたから、せめて言えることだけ言っておこう……! あのっ……」 

 いっそ泣き崩れてやりたいくらいの心持ちをどうにか立て直して、自称・自衛官にすがるような眼差しで訴えるのだった。

 せめて一言――。

っ……!」

 風邪ひいちゃうと涙ながらの訴えに、果たして男は無言でうなずくのであった。

 めでたく合意がなされたでも言いたげなのに、とつもない不安が押し寄せるオタクの青年なのだった――。 

         次回に続く……!

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

デブのオタクがある日いきなり拉致られて、国を救うロボのパイロットにされちゃいましたw 誰か助けて! 動力がエロでアレを強要されてます!? オナニックバトルヒーロー爆誕!!!

 ひどいなwww  とにかくやっていきます。
 かなりきわどい下ネタ強めのおふざけお下劣ギャグノベルになりますので、そういったものが苦手な方はスルーでお願いします。ワードプレスないし、グーグル・アドセンスのコンプライアンスに引っかかるようになれば、おのずと自粛されるコンテンツとなります。たぶん、大丈夫だとは思われますがwww
 ちなみにこちらはいわゆるドラフト、下書きで、完成品は小説家になろうなどの投稿サイトで公開したものが完全版となりますwwwwww
 ちなみにファィル03まではなろうで組んだ本文をそのままこちらに移植したもので、うまいことルビと傍点が振られていますが、04以降はルビや傍点なしのベタの文章となります。従ってこの誤字脱字もそのままでありますが、ご容赦くださいm(_ _)m
 なろうのほうでは修正済みですwww

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉
    ジュゲム

    ↓小説家になろう↓

https://ncode.syosetu.com/n4204lf

Episode01
アキバで拉致られババンバン♪

 Episode-file-01

 暗かった。

 そこは、ただ、ひたすらに……!

 そんな暗い中に、どこからか、が、響いていたか……?

〝あれ、暗いな……? おれ、どうして……?〟

 うすらぼんやりとした意識の中で、ただぼんやりと考える。

 だがまるで考えがまとまらない。

 そんな中、どうしようもなくして、まわりのだけに耳を澄ました。

 どこか遠く、かすみがかった声が、何かしら言っているのだけはわかったから……! 

「…………くん、見たまえ……! これが……だ。どうだ……見るのは……かね?」

 どうやらの後に、今度はがするのがかろうじてわかった。

「…………はい。はじめて……ました。これが……実物の……なのですね……!」

「そうだ。これぞ……純度100%の……だ! そう……しかし……こう見るとやけに……」

「ええ……そうですね……! ちょっと、してきました……だって、……の……を、正直、……なので……!」

 ところどころにしか聞き取れないが、何を言っているのかさっぱりなのに、ぼんやりした中でもはたと首を傾げる。

〝え、なに……? なにを、言っている、の……??〟

 暗闇の中に、なぜか急に肌寒さみたいなものも感じはじめる。

 ちょっとずつ、この身体の感覚みたいなものも覚えはじめて、冷たくて硬いものが背中に当たるのも意識する。

 ベッドにしてはやけに無機質で真っ平らだったが……?

 何がなにやら、ほんとうにさっぱりだ。

 ぼんやりとした中でまわりの声がやけに鮮明に聞こえる。

「そう……見ての通りで、個体としてはまだ若いな。? さいわいにも。へんにトシを食っていると何かと気をつかうから、このくらいが丁度ちょうどいい!」

「……そうなのですか? なにぶんにはじめてなので、さっぱりわからないのですが……やっぱり若いほうががあったりするのでしょうか?」

「もちろん! そう、特にが……! まあして知るべしだ。ただなにぶんにみたいだがな、この個体のは? とりあえずであれば問題ないのだろうが」

「はい……、のですか、って? いいえ、なにぶんにはじめてなのでなのですが、でしたらそのように心得ておきます」

はこの程度で、はそうでもないのだろうかな? あまり期待はできないが、望ましくはそれなりのであってほしい。せめてな?」

「はい。でもいいんですか、こんなにと見てしまって? いくら意識がないからと言って、いささかプライバシーの侵害のような……」

「構うまい。じきに目を覚ますさ。それまでにしっかりと検分けんぶんしておけばいい、君はそれが職務たるなのだから?」

「はい。そうですね……」

 いまだぼんやりした頭の中に疑問符ハテナ渦巻うずまく……!

〝え、なに? 何を、言っているの? って……?〟

 やけに寒く感じるこの身体に、何故か間近から視線のプレッシャーのごときものを感じる。

 特にそう、この下半身、しかもそうだ、まさにのあたりに……?? 

 それから続く男女の会話に、いよいよ頭の中が混乱を極める。

「それで、その、が重要なとなるのですよね? でしたらこちらは、学術的には、どのように呼称すればいいのでしょうか?」

「……ん、とは?」

「その、ですから、この場合は、いわゆるその……と、その……と称するのが妥当なのでしょうか? はどちらになるのですか、両脇の球状のふたつと、都合この真ん中にある、いびつな形状のひとつのものと?」

「ん? 本体は、この当の本人、この個体、となるのじゃないのか? 呼び方は、もうフツーに、ないし、もしくはとかでいいんじゃないのか? こんなもの!」

「はあ……ち、……! ちん…………!!」

 何やらためらわれがちな女性が息を飲む気配に、なんだか非常に気恥ずかしい感覚を覚えて、自然とこの手が股間のあたりにゆく。

 まさしくそのものを手のひらに感じて、おぼろげだった意識が急激に覚めてゆくのを自覚――。

 すっかり小さくなっていた。

〝ちんちん? ちん……ぽこ? チンポコ!?〟

「なっ! は、わっ、わああああああっ!?」

 パッと意識を取り戻す彼は、だがその場の状況がわからずに目を見張ったきりにしばし硬直してしまう。

 絶句すること、およそ十五秒……!!

 たっぷりの間を置いて、またと絶叫を発する。

っ、っ!!?」 

 めでたく覚醒するのであった。

             次回に続く……!

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仕切り直しだ!

昨今、もろもろ都合が変わってきたので、創作のやり方をちょっと整理します(^o^)

現在、この自前のブログ、小説家になろう、ハーメルンでオリジナルノベルを公開しているのですが、考えないでやってるとおかしなことになりそうなのでw ちゃんとやり方考えようwww

〇自前のブログ
・オリジナルのSFノベル「ルマニア戦記」本編とスピンオフ
・オリジナルのファンタジーノベル「オフィシャル・ゾンビ」
・機動戦士ガンダムの二次創作「俺の推し!」


〇小説家になろう
・「ルマニア戦記」
・「オフィシャル・ゾンビ」
・オリジナルのSF お下劣ギャグノベル「ジュゲム」

〇ハーメルン
・機動戦士ガンダムの二次創作「俺の推し!」


………基本はこのブログで執筆したものを、各投稿サイトでさらに加筆修正して公開。ジュゲムだけは小説家になろう発進。

 なろうとハーメルンはルビや傍点を振れるからより読み物としてそれらしくなるけれど、編集機能がクセがあったり文字がちいさかったりとおじさんにはちょいちょい厳しい側面があるので、創作のメインはブログで、厳密には下書きはブログでやって、清書、完成版は各投稿サイトで最終調整……あ、おんなじかw
 なろう発進でやっているジュゲムも内容にかなり難があるけれど、ブログのコンプライアンスを超えない限りにおいては、こちらで創作したものをなろうに下ろす!

 プライオリティ、優先順位をつけよう!

〇メインのコンテンツは「ルマニア戦記」
 その次に「ジュゲム」、ルマニア戦記の外伝・「オフィシャル・ゾンビ」 ※なろうで一番需要があるものを優先。
 ハーメルンでやっている二次創作は、需要が出てきたら再開するくらいで、一次中断?

 創作ライブはニコニコ生放送からユーチューブライブに切り替え、各ノベルの主人公やメインキャラをナビゲーターにする!
 ブログとなろうの広告収入?で稼げるのが理想なのだけど、ライブやライブアプリのちからにも頼って、合わせ技で一本まで年内、ないし年度内に持って行くほうこうで……?

 

カテゴリー
DigitalIllustration SF小説 ガンダム ファンタジーノベル ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!③

ガンダム二次創作パロディ!ドレンが主役だ!!

noteでプロットだとかを公開中!!

https://note.com/embed/notes/n3a02f6b4cbd9

「機密宙域/難民コロニーの謀略」

謎の攻撃・軍事衛星の怪……!

 Scene1


 緊急事態発生!

 それはまったくの予期せぬ出来事であった。
 この知らせを受けた時、まだ自室でまどろんでいたこの俺だ。 

 シャア艦隊旗艦付き副司令、その名をドレン。

 そう!

 ひとから語られるほどの名はなくとも確かな働きをする右腕として、推しの少佐、シャア・アズナブルそのひとからは、確かな信頼を得ているものと自負するおじさんだ。

 まあ、たぶんだが……!

 ことの一報を受けてから、ものの五分でブリッジまで復帰したこの俺の視界に入ったのは、スリープモードからゆっくりと立ち上がるブリッジの景色と、まだまばらなクルーたちの人影だ。

 艦橋中央の高い位置に据えられたキャプテン・シートにはいまだ主の姿はなく、中央戦略オペレーターもこのひとりが席につくくらいか。

 フロアを強く蹴ってブリッジ奥の入り口から、おのれの定位置であるMS作戦指示ブースへとひとっ飛びで取り付く。
 MSの作戦行動における補助を担う特設の指揮所ブースは、この真横に付ける操舵士のそれとほぼ一体だ。
 そしてそこにはすでに若い大柄な若者が、仁王立ちしてこの年配の副艦長を最敬礼で迎えてくれる。

 いやはや、寝坊なんてしたことないんだろうな!

 勝手に感心しつつはじめ無言で敬礼を返す俺は、この若い操舵士が温厚でひとのいいのにつけ込んで頼み事をしてしまう。 

「早いな! だが今現在、エンジンは微速前進、ほぼ止まっているんだろ? 舵は俺が握ってやるから、悪いがひとつ頼まれてくれないか? もちろん、少佐の許可は得ている!」

「……!」

 この真顔でのお願いには、すぐさま太い首をこくりとうなずかせる下士官の操舵士だ。
 もとい、はじめちょっとだけ困惑の色を太い眉のあたりに浮かべたが、さてはこのおじさんに舵を譲るのが心配だったのか?
 バルダはみずからの舵取りを手早くオートに切り替えて、その場を駆け足するかのように俊敏に無重力をかき分けていく。
 途中ブリッジに入ってきた少佐に敬礼して、即座にその姿を消した。
 だがすぐに帰ってくるだろう。
 ちょっとしたオマケを引き連れて――。

 一方、真紅の衣装を華麗に着こなす仮面の貴公子は、どこにも無駄のない身のこなしでみずからの身をブリッジ中央の艦長席に沈めると、高くから周りを睥睨する。

 仮面に邪魔されてその視線の先までは追えないが、優雅でもきりりとスキのない眼差しでこの場のすべてを掌握しているのだろう。

 ただちに背筋をピンと正す俺は、ビシッと敬礼を返しつつ少佐からの指示を待つ。こちらに視線をくれているらしい我が推しは、かすかに細いアゴをうなずかせて無言で了解してくれる。
 あえて声に出さないのが彼らしくクールだった。

 くううっ、シビれる!! シビれます、少佐っ!!

 その若き将は一部のスキもないさまでブリッジ内の空気を凜と震わせる。張りのある低音はよどみもなくひたすら心地よくこの耳に響く。俺の気のせいじゃないだろう。

「状況は? 偵察のザク隊が被弾したとのことだが?」 

「は、はっ! 三番艦からの報告によりますと、三機編成の偵察部隊の内一機が何者かの攻撃により中程度の破損! 幸い撃墜にまでは至らず。現在は全機帰投、この収容を終えているとのことです。パイロットに目立ったケガはなし!!」

「そうか……! ザクとは言え大事な機体なのだが、これ以上の戦力ダウンは避けたいものだな? 対処は貴様に任せる。敵の詳細は?」

 半ばから背後に振り返って、そこで僚艦との通信にいそしむ戦術オペレーターに話の続きを振る少佐だ。

 良かった。さすがわかってらっしゃる!

 取り急ぎブリッジに上がったばかりでまだすべてを把握できているわけでないこの俺は、ふうっと胸をなで下ろして、ただちにみずからの任務に取りかかる。
 こちらはこちらでやることがあるのだ。
 よって、さっきより背後のブースからぶうぶうと文句を垂れている、真っ黒いヘルメット野郎に迷惑げな視線を向けた。

 うるっせえな! 空気読めよ!!

「わかってる! そっちはもう出せるのか?」

 やや不機嫌に聴いてしまうが、あちらも負けず劣らず不機嫌に返してくるヒゲづらのエースパイロットだ。

「とっくだよ。さっから言ってるだろう? さっさと発艦許可を出しやがれ……!」

 ひどいむくれっ面でぞんざいなモノの言いに内心で舌打ちする俺は、背後の少佐をちらと伺う。
 まだ声をかけずらいタイミングだなと察してまた前に向かった。リック・ドム小隊の隊長機、ガイアに確認!

「今回は単機での出撃だが、敵の詳細はいまだ不明! マッシュとオルテガ機は艦隊の守備の都合、出すわけにいかんのだが、待機だけはさせておくか?」

「かまわねえよ。寝かせておけ。そもそもが三番艦のザク隊どもの不始末だろう。ならこのオレだけで十分だ……!」

「了解。ただし油断はするなよ? 無理に交戦をする必要もない! 三番艦からはきっちりとフォローを入れさせる!」

「いらねえだろ。足手まといはいたところで余計な世話が焼けるだけだ。この09のスピードに付いてこれもしねえのろまどもに用はない……んっ」

「ゼロキュウ……ああっ」

 相手のセリフの一部に引っかかって、すぐさまこれを理解する俺は内心どころか現実に舌打ちしてしまう。イラッっとして。

 いやだから素直にドムって言えよ! このガノタが!!

 モニターの中のMS隊長に内心で毒づきながら、そのヒゲづらが何やら怪訝にこっちを見返しているのに気づく。

「どうした?」

「いや、隣にいるはずのあの目障りなのがいねえな? いっつもちょくちょく横から顔を出してきやがるのに」

「目障りってなんだ! いいや、それならもうじき帰ってくるだろう……ほら、来たぞ?」

「……ん、なんでそいつがそこにいるんだ??」

 ちょうどいいタイミングで戻ってきた操舵士と、それに連れらてブリッジに上がって来た見知った人間の顔に、なおさら怪訝にモニターの中で眉をひそめるリック・ドム隊隊長だ。
 確かにヤツが不可解に思うのも無理はない。
 本来ならブリッジにいるはずなどがない他部署のクルーだ。
 正規のブリッジクルー以外がこの艦橋に立ち入ることなど、およそ許されることではないのだからな……!
 だからこそ目を丸くしたガイアが問うてくる。

「なんでおまえがそこにいるんだ? ついさっきまですぐそこでこの機体の発艦準備してただろう??」

 ガイアたちリック・ドムの整備専門のエンジニアで、つまりは黒い三連星専属となる若いメカニックマン、デーミスの存在が不思議でならないらしい。
 俺はにんまりとほくそ笑んで応じる。

「今回だけ特別だ! おそらくは? もろもろの都合で、そこのバルダに連れて来てもらった。いわゆるオブザーバーというヤツだな! 専門的なメカニックの知識を持った人間がいたらどうなるか、なかなかに興味深いだろう?」

「なんだそりゃ? あまり期待はできねえが、好きにすればいいだろう。それよりも発艦許可! いつまで待たせるんだ?」

 ちょっと呆れた感じでありながらとりあえず納得した風なガイアを前に、借りてきた猫みたいに大柄な身体を縮こまらせるブサイクくんは所在なげにその声をか細く震わせる。

「じ、じぶんはここにいて良いのでありましょうか? す、すんごい浮いてる気がします……!」

「浮いているさ! だが気にするな! いいんだよ、我らが少佐も認めてくれているんだから!」

「しょ、少佐っ……!!」

 おっかなびっくりで周りの様子を見ているデーミスは、この背後に視線を向けてなおのこと挙動不審に陥る。
 しまいには横からバルダにどうどうと背中をなでられてた。
 こっちのほうがいくぶんかお兄ちゃんの先輩なんだな!

 横合いからMSの通信オペレーターが少佐に声を発する。
 さてはしびれを切らしたガイアが催促したな。

「少佐! ガイア大尉のリック・ドム壱番機が本艦からの発艦許可を求めています!」

 するとこれには背後の艦隊統御オペと会話をしていた少佐は、こちらに仮面のクールな面差しを向けて静かに言うのだ。

「ドレン、そちらは貴様に任せていたはずだ……!」

 あ! 俺は内心の焦りを顔には出さずに静かにメットをうなずかせる。メットのひさしで相手からの視界を遮るかたちにだな。

 おっと、そうだった! いかんいかん!!

 周りの若い部下たちにも悟られまいとやたらにはっきりと腹の底から声を絞りだして高く号令を発する!

「ガイア機、ただちに出撃せよ!!」

 手元のディスプレイでは何か言いたげなリック・ドムの隊長どのが真顔でこっちを見ていたが、目をあわせないようにまっすぐブリッジから臨める夜空をひたすら凝視する。

 何やら小さなため息みたいなのが聞こえたか?

 無視する俺に感情のない棒読みの返事が返る。

「了解」

 リック・ドム出撃!

 おおっ!と子供のように目を輝かせるデーミスの肩のあたりをがっちりと掴んで、おまえの推しの活躍をしっかりとその目と脳裏に刻み込んでおけよ!とひたすら強く念じる俺だった。

 暗闇に走るロケットブースターの長い軌跡を目で追いながら、ぽつりとつぶやきもする推し活おじさんである。

「ああ、こんな特等席で一番のファンが応援しているんだから、ちゃんとファンサしろよ? 黒い三連星のガイアよ……!」

 たった今、戦いの火ぶたは切って墜とされた……!

Scene2

 PartA


 ガイアのリック・ドムが旗艦から出撃して、当該の宙域地点にまで到達するのにはさほどの時間はかからなかった。

 ひたすら一直線の軌道の先――。


 そこは本来は何も目立ったものがないはずのいわば宇宙の公海上なのだが、一番機の各種レーダーにもこれと目立った反応らしきはなし……!
 それをこちらの戦術パネルの観測計器表示でも視認しつつ、息をひそめてことの成り行きを見守るふたりの若い兵卒と、遠くの現場のベテランMSパイロットへとも向けて静かに問いかける。

「ううむ、標準宙海図の座標軸上ではそこが我が方のザク隊が襲撃を受けた交戦ポイントとはなるのだが、それらしい標的はこれと見当たらないな? 敵対的な意思があるのはほぼ確定だから、それらしい形跡があっても良さそうなものなのだが……?」

 巡洋艦の索敵レーダー網にも、MSの各種レーダーにもやはりさしたる反応がないのに不可解に思うこの俺、ドレンだ。
 まさか二度も不意打ち食らうまいと目を皿にして計器類を凝視するに、スピーカー越しに小型モニターの中で冷めた顔したヒゲのおやっさんが憮然と返してくる。

「ま、見ての通りだ。動体センサー、熱源反応、各種レーダー波長これと変化なし。とどのつまりで、何もねえな?」

 みずからのヘルメットのバイザーをオープンにして素顔をさらしてくれるヒゲづらのエースパイロットは、浮かないさまでじっと視線をこちらのカメラに向けてくれる。

 その視線をカメラのモニター越しに受けて、思わず思ったことをまんま口にしてしまう俺だ。

「そうだな! ……ん、ところで、おまえの今のそれってのは、ファンサか?」

 絶賛警戒態勢中なのにわざわざメットのシールドを全開にして表情がわかりやすいようにしているのが、あえて見ている側を意識してのことなのか?

 いかんせん偏光バイザーで目隠しされたメットではパイロットの表情が分かりづらい。ここらへん、当人からしても息苦しいから極力下ろさないなんてヤツもいるらしいから、さしたる意識はないのかもしれないが……どうなんだ?

「は? 何を言ってやがる? まじめにやれ。ま、このオレの勘からしたら、少々きな臭くはあるがな? やけに静かなあたり。あとしいてひとつ言うのであれば……」

 違ったか。しごく納得しながら歴戦の凄腕パイロットの言葉に耳を傾ける。周りの操舵士とメカニックもごくりと息をのんだ。

「ここから見て11時やや上方の方角、アステロイドでもなんでもない、でかい宇宙ゴミがいくつもあるだろう? コロニーの残骸みたいな? だが植民地サイドでもなんでもないこの宙域にこんなものがあるのは、オレからしたら違和感でしかない。よそから流れ着いたにしても、ゴミの構成自体が不自然だ……!」

「そうなのか? ザク隊のドライブレコーダーのデータでは、どれもすでに存在していたオブジェクトだが。攻撃自体は真裏の反対側、背中から攻撃を受けている! それでも関係があると?」


 俺の問いかけに、周りの若いヤツらもまた神妙な顔つきでモニターの中のヘルメットに注目する。するとそんな視線を邪魔っけに思ったのか、ヘルメットのバイザーをしれっと下ろして意味深な口ぶりするリック・ドムの隊長さんだ。

「ああん、それじゃ、試しにやってみようか? 無駄ダマ撃つのは気が引けるが、こいつがきっかけになるかも知れない……! そっちもモニターを怠るなよ?」

 タタタタタッ、ダン!

 手早い操作でみずからのMSに攻撃シークエンスをたたき込むガイアだ。どうやら肩に担いだジャイアント・バズーカを任意のポイントに向けて射撃するらしい。

 さては話にもあった例のでかい残骸にか?

 幸いにも当該の宙域はミノフスキー粒子の濃度が低いために、通信にはさしたる障害がない。 
 リック・ドムからの解析データをまんまで受け取れていた。

「そおらよっ!!」

 ドオンッ!!

 真空の宇宙空間ではそもそも伝播する空気がないから音は伝わらない。発射時の派手な発砲音は当然マイクに拾われることはないのだが、この振動を受ける機体の揺れとコクピットの空気を伝ってかすかなそれらしきものが、画面越しにも見て取れたか?

 固唾を呑んで見守るこちらは無言になるが、バイザー越しのドムのパイロットはメットの中でニヤリと笑ったようだ。

「当たりだな……!」

 言うが早いか、自機のセンサーが警告を発するよりも早くに機体に回避機動を取らせる凄腕のパイロットだ。

 決断が早い!

 この俺あたりからすれば、神業みたいな手さばきでレバーとスイッチを指先の感覚だけでまさぐり機体の姿勢を制御しつつ、間髪入れずに足下のペダルを限界一杯まで踏み抜いた!
 股の下から掴み上げた操縦桿を胸元一杯まで引き上げる!
 背中のロケットブースターを全開にしてフルスピードで宇宙の虚空に大きな弧を描くリック・ドムだ。

 片や、突如としてレーダーサイト内に現出した熱源反応から立て続けに吐き出される一陣の烈風!!
 こちらからは荒いモザイクのかかった何かしらの塊の連なりとして映るが、それが音速の何倍もの速さで斉射された弾丸の軌跡だと理解するのは、一瞬のタイムラグの後のことだ。
 軍人ならかろうじて理解が追いつく。

 行く手を阻む大気(空気)の障壁がないから、威力もスピードも減速減退なしで迫る鋼鉄の銃弾である。
 だからこそこれを事前の回避行動もなしに避けるのはしごく困難、その上でかすりもさせずにまた元の位置に機体を静止させるのはさすがだな!

 無謀に突っ込むこともなく、ピタリと止まった機体のレーダーを前方の敵影に向ける余裕と胆力もまたさすがだ。
 それきりにただ黙ってこちらからの回答を待っているのが小憎らしいベテランに、モニターに表示される観測データを読み取る俺は頭をフル回転させながら声を絞り出す。
 ぶっちゃけ、ちょっと後悔していた。

 しまった! マッシュの二番機も付けておくべきだったか?

 敵機情報の収集解析が得意な偵察支援機タイプならば、もっと正確な一次データが取得できたのだが……!

「ガイア機、何者かと会敵、ただちに戦闘状態に突入!」

 状況を高らかに宣言することで、ブリッジ内の緊張感が高まる。すぐ隣でパチパチと目を見合わせる若輩者たちに焦るなよと目配せして、モニターの中で冷静にこちらを見返す黒いヘルメットに返す俺だ。

「MSではないな! 連邦の機体のマシンガンではどれも適合しない威力推定値と連射速度ならびに弾数だ。より大型の戦艦クラスの機銃カテゴリーに相当! おそらくは……!」
 
 正面の作戦図表ディスプレイの中で、今しもゆっくとりその形が特定されてゆく未確認オブジェクトを凝視。
 そのいびつな形状の敵影に言葉を失う俺だった。

 コイツは、どうして……??

 頭の中が疑問符で一杯になるが、答えは闇の中だ。
 不気味な沈黙の中に、短く舌打ちが響く。
 ふたたびヘルメットのバイザーを開けたエース級のパイロットはやはり厳しい表情でそれに見入る。

 察するに、この胸の内の思いは同じようだな?

「なんかめんどくせえのが出てきやがったな? 意味がわからん。こんなご丁寧に偽装して、目的不明もいいところだ……」

 もやもやした思いをはっきりと言葉にしてくれる。


 これに俺もただうなずいていた。


 ことここにおよび、前回の連邦部隊と同様、厄介な敵が立ちはだかるのをはっきりと理解する、おじさんたちなのだった。



Scene2

 PartB


 航海宇宙図(スペース・マップ)上では何もないはずの宙域で、突如としてこの行く手を阻む、敵対的な謎の存在……!

 これに単身で挑んだ黒い三連星のガイアのリック・ドムの前に現れたのは、所属不明の攻撃型軍事衛星であった。
 ドムからのリアルタイムの情報解析により、このおおよその形が雑なワイヤーフレームで描き出されたディスプレイの図面に、みんなでしげしげと見入ってしまうブリッジ組の俺たちだ。

 それはあまりにも意外なものだった。

 よって通信ディスプレイの中のヒゲづら、現場組のガイアも渋い顔つきでそれを見ながらに舌打ち混じりで言うのだ。

『なんかえらいやかましいヤツが出てきやがったな? いろいろと厄介なものを載っけてやがるだろ、どいつもMSの装備よりも格上のヤツだな……!』

 ガイア機の観測機器による解析が進むにつれ、こちらのモニターの中の乱雑なフレーム表示もそれらしい形を整えていく。
 見た感じがバリバリの軍事衛星のそれは、機体の各部に強力な装備らしきを備えているのがこれまた一目瞭然だ。
 ガイヤが言っていたとおりのMSのそれよりも、むしろ戦艦にこそ搭載されているべきものだな!

 まことに厄介なこときわまりない。

 この俺も表情を苦めて現場のパイロットに注意喚起する。

「威力が強力だということは、当然この射程においてもあちらが上ということだ! 注意されたし、ガイア大尉! おそらくは拠点防衛用の攻撃衛星なのだろうが、今の単機ではバリバリ戦闘態勢でいきった駆逐艦に挑むのとそう大差もないだろう? どうする??」

 この期に及んでいささか間抜けながらそんな問いかけをしてしまうに、あちらからはさも呆れた顔つきでこちらを見返してくるガイア大尉どのだ。

『この手のヤツは通称でハリネズミとか言うんだよな? 確かに厄介な装備がてんこ盛りだが、あるのはあれ一機のみだろう。なら怖がることはありやしない! おまえ、このオレを誰だと思っている?』

 百戦錬磨のドムのパイロットがくれるただの強がりでもない自信に満ちた返答に、即座に了解してうなずく俺だ。

「了解! できる限りのサポートはする。ただし危うい場合は即座の撤退も勧告するからそのつもりでな? ちなみにこの正体はおおよそでわかったが、その背景がさっぱりわからん!」

 またも難しい表情で年齢柄の肥満による太い首周りを傾げてしまう俺に、あちらのヒゲづらは嫌気がさした表情でメットのバイザーを下ろしてしまう。

 通信終了か?

 だがおちおち考えるまでもなく、場が動いた。
 横で息をひそめていた若い兵卒たちがなおさら緊張して、目の前のモニターに釘付けとなる。できたらもっと参考になる意見なりを言ってほしいのだが、ほぼ新人に近いのだからはなから期待しても無駄なのか。あきらめかけたところでだが奇しくも新人のメカニックマンがこの口を開いた。

「敵衛星、攻撃再開! たぶん、多連装ポッドからのミサイルであります!! 一番機に向けて複数発射! 大尉どの! ただちに回避されたしであります!!」

「おっ、おおっ……!」

 オペレーターもさながらでいきなりそれらしいことを言い出すのを、ちょっとどっちらけて見るこのおじさんだったが、向こうの現場のおじさんはしっかりとこれに反応してくれた。

『言われなくてもやっている! ブリッジクルーでもないヤツが出しゃばるな!! 手持ちのバズで打ち落とすのはちと困難だが、こいつの機動力なら無難にやり過ごしてやれる!!』

 この時点ですでに身体に相当なGを掛けているらしい重MSのパイロットだ。アクセルペダルをぶち抜く勢いで自慢の愛機のリック・ドムを急速旋回させていた。
 そう、いかに追尾機能があるミサイルでも急な加速で旋回機動されればこれにぴたりと追いつくのは困難だろう。
 加速度はそのままで突き進むのだから、ミサイル自体が追尾できる角度にもレーダーの探知範囲にも限度がある。
 推進剤も無限ではないのだからな。

 都合、三発撃たれたミサイルはどれも初速が遅く、すっかりこの目標を見失っているものと思われたのだが……!

 突如、リック・ドムのコクピットに緊急を知らせるアラートが響いて敵ミサイルに変化があることが、こちらでもリアルタイムに知覚できる。三つあったはずの敵マークが激しく明滅を繰り返し、おまけにいくつにも分裂、その数を一気に増加!
 およそ倍どころじゃない勢いでだ。
 どうやら複数弾頭を備えた多弾頭ミサイルが、この内蔵した小型弾頭をガイア機めがけて盛大にぶちまけたらしい。
 数も知れない無数の矢印がガイアのリック・ドムへと殺到する。もはや完全に囲まれていた。


「くっ、こいつは……!」

 ほぞをかむ思いとはこのことか。
 よもやここまで厄介だったとは!

 本当に軍事拠点を防衛するかの勢いだが、何を守るんだ?
 
 その場の全員が目を見開いていただろう。
 急制動をかけてバックしたんじゃ間に合わないタイミングだ。
 その瞬間、鋭い舌打ちがしたのを聞き逃さない俺は、手に汗握ってモニターに声を上げていた。

「よけろっ、大尉!!」


『簡単に言うんじゃない! どうやって避けるんだよ? ええい、ふざけやがって! 多少の被弾は覚悟で突っ込むか??』

 息の荒い反発が鼓膜をしたたかに打つ。

 要するに破れかぶれでミサイルの嵐を突っ切って、本体の衛星に一発食らわしてやるってことだよな? この短絡オヤジめ!!

 かなりやばいことをどさまぎで抜かしてくれる隊長機に、この俺は愕然として返す言葉もなかったが、すぐ隣で顔を真っ赤に赤らめる黒い三連星推しのメカニックが再び声を張り上げた。


「……はっ! 大尉どのっ! 胸部の拡散粒子砲があるであります!! 収束率ゼロの最大解放、かつオートのフルバーストで三連射でありますっ!! 正面から突破できるでありますっっ!!」

「はっ、なんだ? 何を言っている!?」

 いきなりしゃべり始めたな!

 はじめちんぷんかんぷんで聞き返してしまうこの俺だが、正面のモニターをにらんだままのメカニック、デーミスはまるで気にもとめない。
 そんなあたふたするこちらをほっといて、だが当のドムのパイロットめは即座に理解したらしい。若いメカニックの若造の意見に四の五の言わずにただちに了解、即応する。


『! む、なるほど! その手があったな!! あんな字面だけ立派でそのクセに目くらまし程度にしかならないへなちょこ装備には頼る気がしないが、こいつら相手なら!!』

 MSドムの胴体(ボディ)の胸部あたりに一門装備された拡散型ビーム兵器――。

 その名も『拡散粒子砲』はその響きだけで言ったらかなりの決め技みたいに聞こえるが、実際はさほどの威力があるわけではなかった。
 言ってしまえばオマケみたいなもので、MS相手の決め手にはならず、実際は目くらましとして使用されることが大半だ。


 ただし今回のような小型のミサイル群が相手となるとてきめんにこの効果を発揮! メカニックが言うように短い間隔の三回連続の拡散ビームの斉射で、群がる矢印をまとめてはたき落としてガイア機の正面に突破口を切り開くのだった。

「で、でかしたっ、デーミス!! すごいじゃないか!!」

『やったのは俺だろう? ま、そいつの手柄でもあるが!』


 すぐ隣の新人くんに言ったのをまんざらでもなさげ、気分良さげに応じる隊長は、ミサイルの嵐を見事にかいくぐった先の空間を見据えながらにまた続ける。

『どうれ、しっかり捉えたぞ? また反撃される前に一発お見舞いしてやるが、かまわないよな? ……ちっ、外したか!』

 言いざま、自機の真正面に捉えた敵攻撃衛星めがけてドムのジャイアント・バズーカを斉射するガイアだが、すぐにも舌打ちして目つきを細める。いつに間にやらかまたメットのバイザーを上げていたから素顔が丸見えだ。

 はあん、どうやらしゃべる時は、バイザーを開けるクセがあるらしいな? このエースパイロットどのは!

「あいにくターゲットの衛星本体ではありませんが、この側面のミサイルポッドを撃破したものと思われます! 外された理由は、この衛星が自機の姿勢制御システムで機体を急旋回、本体への直接のダメージを辛くも避けたものと推測!!」

 ドムの搭載する観測機器類とメインカメラからの画像にかじりつく若いメカニックのデーミスが、即座に状況を解析!

 あれ、なんかコイツさっきからやけにしゃべるな?

 若干だけ気にかかりながらもおそらくはそのとおりなのだろうと了解しつつ、俺も俺なりにカメラの向こうのヒゲの隊長さんに言ってやる。

「長々と解説ご苦労! あともうひとつ言うならば、敵さんが体勢を変えてくれたからポッドの反対側に位置する近接戦闘用のバルカン砲の射線上からもまんまと外れてくれた! 畳がけるなら今だな!!」

 絶好のチャンスだと意気込むのだが、あいにくカメラの向こうの真顔のパイロットはあまり乗り気ではないらしい。

『まだ頭のビーム・キャノンがあるだろう? あれが一番厄介だ! 近づいて確実に一撃くれてやりたいところだが、この距離なら虎の子のバズでトドメもさしてやれるか……ん!!』

 さらにバズーカを見舞ってやるべく射撃体勢に入るガイアのドムの真正面、機体の姿勢の保持に苦労しているらしい衛星めが、この頭に装備したビームカノンらしきを身震いさせる。

 さては射撃の兆候か!?

 これに反射的に息を呑む俺たちの目の前で、思いも寄らない挙動を見せる敵攻撃衛星だ。てっきりビームで反撃と思わせて、これに反射的に身構えるガイアの表情が愕然となる。

『なんだっ、こついめっ、分離しやがったぞ! ビームの砲座だけが本体から外れて飛び出しやがった!! わけがわからんっ!!

 ちょっと泡を食ったさまの隊長にだがそれを冷静に見つめる俺である。果てはひどく納得してしきりとうなずくのだった。

「今どき分離式の砲座ぐらいなくもないだろう? むしろこれで納得がいった! はじめのザク隊が背後から攻撃を受けたのはこういうことだったんだな? 遠隔攻撃可能な軍事衛星か!」

『む? ああそうか、だったらこっちもそれなりに応戦させてもらう! もとよりクロスレンジで詰めてしまえばこちらのものだ、あとついでに……!!』

 言うなり間髪おかずで衛星本体に急接近するガイアのドムは、その右肩に装備したヒートブレードを空いた左手でスラリと抜くなりこれを真横に一閃させる!
 ただしそれは衛星本体を狙ったものではなく、その真上のもはや何もない空間であった。やや不可解に見るこの俺に、舌打ちまじりで言ってくれる当のドム隊隊長さまだ。

『ああん、手応えがねえな? 有線式の移動砲台ならエネルギーの供給と機体制御を兼ねた接続ラインを切っちまえばそれで終わりのはずだろう? 何もねえぞ!』

「ん、どういうことだ? まさか無線式? だがこの衛星自体はあくまで無人で放置された固定配置型のはずだろう?」

 ちょっと動揺してしまうおじさんたちに、この時、背後からは不意に凜とした涼やかな声が走る。それまで黙ってこの場を静観していた少佐が、ついにその口を開くのだった。

「ドレン! ……いや、無線式でないこともないだろう、可能性として? ならば分離した砲台自体は生きているものとして、標的が二つに分かれただけだ。とりあえず手近の衛星本体を停止、分かれた砲台は後からの対処でかまうまいさ……!」

 突如とした推しの背後からの的確な指示に慌てて迎合してしまうしがない一ファンであり下士官の俺に、あいにく反骨精神むき出しのヒゲづらパイロットがしかめ面で応じる。

「はっ、は! 了解であります、大尉っ!」

「ふん! 聞こえてら! だったらそうらよっ……どうだ?」

 一度は空しく空を斬ったしゃく熱のロングブレードを、再び一気に衛星の本体部めがけてざっくりと打ち下ろすガイアのリック・ドム! 片手でも楽々と衛星の装甲を貫いていた。
 デーミスから聞いた話じゃ、一番機は特に近接戦闘に特化した仕様でパワーがあるというが、まさしくだな。

 衛星の本体もその中心部に深々と突き刺さるのがこちらからもそのカメラ越しに見て取れた。これにより衛星自体の挙動もおおよそがピタリと停止するのが見て取れる。

 おそらくはこの中枢の制御システムをヒットしたのか?

 それでてっきり片が付いたかと思いきや、すぐ横のメカニックが甲高い声を発した。

 おいおい……!

「砲台、いまだ健在! 生きているであります!!」

 ただちに鳴り響く鋭い警告音と共に、ガイアのリック・ドムのほぼ背後からの反撃、白熱する強力なビームが斉射される。
 威力はほぼ駆逐艦のそれに相当するものと思われた。
 ただし本体から分離した単体での攻撃では射撃精度が劣るものなのか、どこかあさっての方角に射線が向いていたが、角度を補正、ただいまは次の二撃目へとチャージしているのだろう。


 絶妙な間がブリッジを覆う……!

 これにキャプテンシートに深くその身を落としていた我らが少佐、シャア・アズナブルがかすかに身じろぎして言うのだ。

「これは、におうな……! もはやこのわたしも出たほうがいいものか? ガイア大尉!」

 ともすれば今にもその腰を上げそうな言いようでだな?
 推しの出撃が目の当たりにできるのかと、俺は緊張してことの成り行きを見つめるばかりだが、あいにくでドムのやさぐれパイロットは真っ向から拒否の姿勢だ。

「余計なお世話だっ! それ、ざまあカンカン!!」


 わざと相手の攻撃を誘っていたのか?

 相手からの二撃目のビーム斉射と同時に機体を翻すガイアのリック・ドムは背後にした衛星本体にこのビームを直撃させる。
 言うなればまんまと相撃ちだが、これにより完全に衛星の機能を停止させるに至るのだった。
 中枢の制御システムが完全にダウンしたのが傍目にもそれとわかるほどの損傷度合い。復元は到底不可能だな。

 ああ、にも関わらず……!

「分離した砲台、いまだ健在であります!! しっかり動いているであります!! 位置を変えつつもさらに三度目の砲撃体勢、注意されたしでありますっ!!」

 デーミスの再三の注意喚起にカメラの向こうのヘルメットが口やかましく文句をがなり立てる。
 盛大にツバをまき散らして元気な中年だ。
 口の端が泡立ってやがる。
 どうやらバイザーにツバが飛ぶのがイヤでメットをオープンにしているようだな、このオヤジは?


『デーミス、おまえちょっと黙ってろ! ちいっ、あんな小さな的を射抜かなけりゃならんのか? そもそもなんで動いてやがる、あのビーム砲台は?? 本体はこうしてしっかりとつぶしてあるんだぞ!!』

「わからん! こっちが聞きたいくらいだ! どこかに操作している人間がいるのか、あるいはどこか遠方から遠隔操作されているのか……?」

 可能性としてはどちらも低いのだが、この時、またすぐ横合いの方から強い視線を感じてそちらに目を向ける俺だった。
 角度的にデーミスじゃないな? 今やすっかり前のめりで後頭部をさらしているメカニックくんだ。
 見るとそれまでずっと沈黙を守っていたはず操舵士のバルダのやつが、やたらな目ぢからでこの俺を見つめている。

 てか、にらんでるのか?

 何を言いたいのかさっぱりだが、図体でかいのに性格が無口でおとなしいこの若者ときたら、ひたすら無言で手元のディスプレイ類の一角を指し示す。
 はじめはてなと思う俺だが、無言のバルダは何ごとが必死に訴えているようだ。


 いや、おまえはもっとしゃべれよ! どんだけシャイなんだ?  

 内心でツッコミながら手元のディスプレイの表示を凝視する。 
 それでようやく理解ができた。

「……んっ、何かしら通信を傍受しているのか、ひょっとして? どこからか?? いや、バルダ、もっと早くに言えよ、あと言いたいことはちゃんと口に出せ!!」

「砲台停止、攻撃機動が解除された模様、熱源反応が低下してるであります! 加えて破壊された衛星から停戦信号らしきを感知したであります!!」


 とかく出しゃばりなメカニックからの早口の戦況報告にいよいよ愕然となる副艦長だ。

 てか、おまえのそれ、本来のオペレーターの役目を奪っているだろう? 連れてきたの失敗だったか??

 他のブリッジクルーからの突き上げみたいなのを予感しながら、苦い顔つきで考えを巡らせた挙げ句に路頭に迷う。

「衛星から? まだ生きているのか!? ん、おい、こいつは停戦というよりか、むしろ救難信号なんじゃないのか?? ええいわけがわからないぞっ!!」

『なら撃っていいか? めんどくせーから?』

「ちょっと待て! 今通信の内容をきちんと解析してもらうから! 少佐っ……!!」

 背後を振り返ると、すっくとシートから立ち上がったシャア少佐そのひとが、こくり、無言でただ深くうなずく。
 その単純な動作のたったひとつで、混乱しかけたこの俺とブリッジの空気が静かに落ち着きを取り戻す。
 これには内心で最敬礼で向き会うこのおじさんである。

 おおっ、さすがです! さすがすぎますっ、少佐!!

 結果、少佐の出撃を見送ることとなるこの俺、ドレンだった。



 シーン3
 


 その後、無口な航海士のバルダのさらなる指さしの指摘により、何もないはずのかの宙域の広範囲に
実はかなり高濃度のミノフスキー粒子が散布されていることが発覚……!

 現場のMSパイロットはとぼけていたが、どうやら勘づいていたみたいだな? あのヒゲづらガノタめ!

 それ故、本来は通信などできないはずのその先からのSOSの傍受に、騒然となるブリッジ・クルーたちであったのだが、その謎は聡明な我らがシャア少佐によりただちに解明されるに至る。

 少佐いわく――。

「大尉のリック・ドムにより破壊された例の守備衛星、この一部によくわからない見てくれのモジュールがあっただろう? わたしの推測するところによると、これはおそらくは強力な指向性を備えた光通信システムの中継機だな……!」

「光通信……? それはつまりは単純な光学パルスを通信に転用したものでありますか? いわゆるモールス信号のような?」

 少佐の言わんとするところを頭の中で懸命に整理整頓しながらの俺の返答に、我が敬愛する赤い君子はこくりとうなずく。

 良かった! 合ってたんだ!! 俺の勘!!

「うむ、原理としてはそれに近いな。さすがにもう少し高度に洗練された高速通信モジュールなのだろうが。無論デジタルだ。通常の条件下ならば、ミノフスキー粒子には可視光を阻害する性質はないものだからな? 強力なレーザー光の波長を応用した通信は、互いにこの光線を傍受できる範囲内であれば十分に可能なのだ。従ってあれと同じものが等間隔にミノフスキー粒子の散布されたこの宙域に無数に配置されているとすれば、いずこか任意の場所からこちらに通信を送ることは可能だろう」

「な、なるほど……!」

 額に冷や汗を浮かべて深くうなってしまう俺だ。
 少ない情報からこれほどまでに的確な予想を立てるその洞察力、感服するばかりの副艦長だが、そのすぐ横で若いヤツらがごちゃごちゃとやっているのにちょっとだけこの気をそがれる。

 どうやらデーミスがこの親分のドムの隊長と小声で掛け合いしているらしいが、バルダも目線で圧を掛けているようだ。
 こいつも額にじっとりと汗をかいている。

 あれ、なんかヤバいのか?

「あ、いやっ、大尉どのっ! ダメでありますっ、そんな勝手に? 通信システムのハッキングと同期はこちらの曹長どのができるとのことでありますがっ、ブリッジの許可なくは、え、バルダ曹長、もうやっているのでありますか??」

『だからデータをそっちに送っているだろう! おかげで通信感度がすこぶる良好だ。ノイズがなくなっただろう? モジュールと機体の距離が近ければこうやって通常回線でも介入できる! ある種の発明だな? それじゃさっさと先行するぞ!』

「あっ、え? だからダメでありますっ! 機体のチェックをさせてほしいでありますっ! 単機での戦闘行動はっ……!」

 何を勝手なことをやっているんだよ、おまえらは?

 白けたまなざしを向けるに、どうやらガイアのヤツが何がいるとも知れない厳戒宙域に突入しているらしい。
 勝手な自己の判断でだ。
 呆れて言葉も出ない俺だが、背後のキャプテンシートの少佐からの無言の視線が痛くて浮き足立ってしまう。

「ん、勝手に何をやっているんだ、おまえら? まずは状況の説明をしろ!!」

 チラチラと背後を見ながら言ってやるに、慌てふためいたメカニックのデーミスが青ざめた表情でこちらを振り返る。
 その横では操舵士のバルダがやけに険しい顔つきでコンソールのディスプレイを見つめていた。
 なんかイヤな気配を感じる俺だ。
 操舵士は本来の航路図表のディスプレイを凝視している。
 この俺の作戦指揮ブースの操作盤ではない、おのれの真正面にあるヤツだ。つまりは、このムサイの進路にも関わるような、何かしらがあるということなのか?

 この疑念を言葉にするよりも、やけにクリアな音声で遠くの戦闘宙域にいるはずのリック・ドムの一番機、ガイアからの音声が入ってきた。

『おいっ、聞いているか! ブリッジのやつら!! とんでもねえのが出てきやがったぞ? おい、デーミス、聞こえているか?』

「はっ、はい! 聞こえているでありますっ! 隣で中尉どのも聞き耳立てているであります!! それで大尉どのは、そちらは何がどうなされたのでありましょうかっ!?」

 即座に聞き返す若いメカニックに、ベテランのMSパイロットは呆れたようなさまで言葉をつなぐ。
 見れば当たり前のようにメットのバイザーをオープンにしていたから、その表情がまんまで見て取れた。
 よって両目を大きく見開かせるヒゲづらの中年パイロットだ。
 そいつがぶっきらぼうに言い放った。

 ちょっと信じがたいようなセリフをだ……!

 え??

 はじめ何のことだかさっぱりわからないできょとんとしてばかりの俺だった。

『見えるか? ちょっとでかすぎてこの09のカメラに収まりきらないが、この形状の一部だけでそいつが何だかわかるだろう? それこそが見たまんまだな! なあほら……!!』

 MS09、すなわちドムの隊長さんの言葉にうながされて子分のメカニックが目の前のディスプレイをのぞき込んで、すぐさまにその身をピキリと硬直させる。その横でおなじくこの状況を注視していた若い操舵士までもが、ごくりと生唾を飲むのが気配でわかった。
 真顔のデーミスが緊張に声を震わせながらに報告。

「こ、これはっ、大変であります! ドレン中尉どの、何もないと思われた宙域に、とんでもないものが出現してきたのでありますっ!!」

「とんでもないもの? なんだ一体? そもそもがこの宙域に、このムサイの進路に影響するようなものがあるはずが……!!」

 メカニックと一緒になってディスプレイをのぞき込む俺の全身が直後にはぴたりと硬直する。
 刹那、思考が真っ白になるおじさんだ。
 この時、遠くの宇宙ではおなじくおじさんの凄腕パイロットがどこかどっちらけたさまでうそぶいた。

『ありゃあ、どう見てもコロニー……だよな? ああ、そうだ、まんまガチガチのスペース・コロニーだ。植民地サイドでもなんでもないこんな野良の宇宙空間に……!』

 現場でまさにそのものを肉眼で見ている人間の言葉に、だがまだ信じられない思いの俺は、たぶん青ざめた表情で隣の航海士を見つめる。
 無口な若者は、おなじく緊張した面差しをこちらに向けて、ただ静かにこくりとうなずくのだった。

「……!」

 おいおい、冗談だろう??

 ドムのカメラが捉えている画像がこのムサイのブリッジのメインモニターにもでかでかと映されて、そこにはやはりあのおなじみの特大サイズのシルエットが、詰まるところで人類史上最大規模の人工建造物がこれまたでかでかと映し出される。

 でかすぎてその全容が見て取れないくらいのヤツがだな!

 こたびの戦争の戦禍にさらされて放棄された廃墟のコロニーなんかではなく、まんま現役のヤツだと遠目にも視認できた。

 まことにありえない光景だ……!

 ことここに至り、背後で静観を決め込んでいたはずの少佐がすっくと席から立ち上がる。
 その気配を背中にひしひしと感じ取る俺は、だがこの背後を振り返れないままに彼の言葉を聞くのだった。

「ドレン。わたしも出るぞ! このわたしが合流するまで大尉には現状維持を厳命しておけ。決して功を焦るなとな……?」

「は、はい?」

 どうやら赤い彗星の異名を持つ希代の英雄には、そこに他とは違う景色が見えているのかも知れない。
 ちょっと意外に聞いてしまうこの俺に、だが前のサブモニターからはオヤジの舌打ちが聞こえてくる。

『チッ……! キザ野郎が出てくるのか? だが悪いが現状維持はちと厳しいかもしれないぞ? なんたってここにはあのコロニー以外にも余計なものがありやがる』

「な、なんだ、何を言っている?」

 黒いメットの中で険しい顔つきをしたヒゲづらのぼやきに、それまでずっと沈黙を守っていた航海士のバルダがぼそりと言うのだった。

「います……!」

「?」

 おのずとゆっくりと視線を向ける俺に、ひどく真顔の航海士はギュッとみずからの操舵輪を握りしめる。

「感あり、おそらくは連邦の艦船……!」

 は、なんで!?

 ギョッとして聞かされる俺に、またしても現場のエース級がほざいてよこす。この声色がやけに冷たいあたり、余裕はあまりないことがいやが上にも聞き取れた。

『ふん、いつぞやとおなじ、マゼラン級とサラミス級だな……! コロニーがでかすぎてこの間にある豆粒みたいなの、すっかり見落としてただろう? あいにくで向こうさんのレーダーに引っかかってるみたいだ。索敵範囲はあちらが上だからな? ちなみにSOSってのは、どっちから発信されているんだ?』

「ば、バカ!! もっと早くに言えよ!? いや、あのコロニーと連邦とで小競り合いしているってことか? 状況からしてコロニー側から発信されたものなんだよな? どうして……少佐!!」

 内心混乱しながら背後を振り返ると、そこにはもぬけの殻となったキャプテンシートがある。
 彗星は身のこなしが素早い。
 そこからおよそ三分と経たずに出撃する少佐の06ザクⅡだ。
 かくて事態は風雲急を告げる急展開となる。


 再生計画 コロニーと難民 そして隠された真実と思惑

Scene1


 ブリッジ内に慌ただしくした警告音が響き渡る……!

 それはこの艦隊の総司令、シャア・アズナブル少佐の出撃時にだけ発される特別な警報だ。
 専用の赤いMSで出撃間際、少佐との会話は、何やら少し示唆に富むかのような、思わせぶりなものであった。
 俺は出撃シークエンスを一息にクリアして、今しも飛び立たんばかりのエースパイロットへ敬礼してこれを見送る。

「ご武運を! 新装したカタパルトシステムが早くも役に立ちましたな! ですがあちらはわからないことだらけですので……!」

 そのMS搭乗時であってもパイロットスーツを着込むことがない、日頃の赤い制服のままの青年将校は、その仮面に不敵な光をたたえつつ、おまけ口元には自信に満ちた微笑みまである。

 どこまでも華麗でおじさんの目にはまぶしいくらいだ。

『なに、おおよその考察はできるさ。ドレン、貴様も知っているとおり、コロニー公社が戦禍で破損したコロニーを再生するのに秘匿された宙域でこれを行っていることは、もはやもっぱらの噂だ……!』

「はあ、それは……! だとしたら、そこにこの我々がたまたま出くわしてしまったと? ですが連邦の戦艦は……」

 怪訝に首を傾げながらの返事にも、余裕の笑みを崩すことがない我らが赤い彗星だ……!

『再生されたコロニーはこの大戦による難民の受け皿も兼ねているらしい。確かに一石二鳥なのだろうが、それ以外の思惑もそこにはあったりするわけだ。往々にしてな……!』

「?」

『そう、まさしく実験場には打ってつけというわけだな? このわたしのにらんだとおりならば! 連邦に先を越されるわけにはいくまい。ドレン、大尉にはすぐに合流すると伝えておけ!』

「は、は!!」


 赤いMSが一筋の紅い航跡を残して艦から飛び立つ。
 大型のバックパックブースターをフルバーストで進軍するザクはわずか四分弱で目的の宙域へと到達していた。

 片や、当の混乱した宙域では、単機で孤立したガイアのリック・ドムが今しも連邦の艦船との戦闘を開始しようとしていた。

「た、たぶん大丈夫だと思われるであります!」

 目の前のコンソールをジロジロと必死になめ回しながらの若いメカニックのうめくようなOKに、俺はちょっといぶかしく聞き返してしまう。となりで同じく若い操舵士が緊迫した面持ちで後輩のメカニックくんの手元を見つめるが、あいにく畑違いの舵取りにはさっぱりわけがわからないだろう。

 そう。何を隠そう、この俺もさっぱりなのだから!

「本当か? とりあえず被弾はしていないはずだから不慮のマシントラブルさえなければ問題ないはずだが、弾薬とかは余裕あるのか?? スピード優先でメインのバズーカだけなんだろう」

 顔中汗だらけで振り返る思春期まっただ中の青年は、よく見たらこの顔がいたるところニキビだらけだな。
 ならこれ以上はニキビが増えないようにヘタなストレスは与えたくないのだが、スピーカー越しに当のドムのパイロットめがわんさとわめいてくれる。

『問題ない。コイツを整備したのは誰なんだ? デーミス、おまえだろう。もっとじぶんの腕に自信を持て。このオレはとっくに信用している。残弾なら予備弾倉がある。加えてヒートブレードの扱いならこのオレの右に出る者はいないんだぞ?』

 気持ちばかり若くしたかっこつけおじさんが、いけしゃあしゃあと抜かしてくれるのに若いヤツらは感銘を受けているらしい。
 が、あいにく年寄りのこちらはどこか冷めた眼差しでうさんくさく聞いてしまう。

 老害ってこういうことを言うのか?

「マッシュとオルテガの助けはいらないんだな? 今さらなんだが、弾倉の交換のタイミングを間違えたら蜂の巣だぞ! ならもう今のうちに交換しちまえよ、テキトーにぶっぱなして!!」

 背後の戦術オペレーターあたりが聞いたら露骨に眉をしかめそうなことをぶっちゃけてやるに、むしろ当のガイアが顔つきをしかめやがる。

『は? 悪いが無駄弾は撃たない主義なんだよ、このオレは。ふん、バズは戦艦を仕留めるのに温存しておきたいから、MSはあらかたブレードでぶった切ることになるな? このバズのどでかい銃口でこれ見よがしに牽制しながら! いわゆる心理戦てヤツだ。でかい獲物はこういう使い道もあるから便利だよな?』

 手元のレーダーじゃ今しも敵MS小隊が近づいているのを捉えてるくせに、内心の焦りをおくびにも出さない歴戦の猛者はでかい口を叩きたい放題だ。むしろすぐとなりの新人メカニックのデーミスが冷や汗びっしょりで見上げてくる。コンソールにひっしとしがみついてるから図体でかいくせに目線が上目遣いだ。

 落ち着け! それ以上汗かくとなおさらお肌が荒れるぞ?

 だいぶ切羽詰まった調子のセリフに重々しくうなずく俺だった。状況として芳しくはないが、絶望するほどではない。

「敵、MS六機! 量産機タイプの二個小隊であります……!」

「厳しいか? おまえの敬愛する黒い三連星のちからをもってしても?? ま、今はただの一連星、ヒトツボシなのか?」

『やかましい。貧弱なジムの二個小隊くらいこのオレひとりで釣りがくる! デーミス、おまえいつからオペレーターになったんだ? 小僧は黙って見ていろ。すぐに終わらせる……!』

 完全に囲まれておいてよくそんなでかい口がたたけるな?

 無駄ダマだなんて言わないで素直に一機でも叩き落としておけば良かったものを、単機で仁王立ちしてのんきに敵勢を待ち構える重MSの使い手に呆れまじりに言ってやった。

「おい、そうやって好き勝手にやらせてやれば、敵艦からの余計な援護射撃を食らわないでいいだろうって算段なのか? だがあいにくで敵さんはおまえよりも目の前のコロニーに気があるらしいから、そっちにはケツを向けたまんまだろ。いいから敵MSに集中しろよ! 少し時間を稼げば我らが少佐が駆けつけてくれるから、その時点で形成逆転だ!!」

『けっ、そんな都合良く星をゆずってやるものか! キザなボンボンに現場のたたき上げの底力を見せてやる。今さらロートルの06ごときに出番を譲ってやるほどお人好しじゃないんだよ』

「敵MS発砲! これは、なぶり殺しにするかのごとく距離を置いての間接攻撃でありますっ……!!」

「さすがにわかっているな? パワーと体格差があるドム相手の戦い方ってヤツを! 大尉、冗談は抜きにして時間稼ぎに専念すればいい、少佐はじきに到着するはずだっ……おいっ!?」

 にわかに緊迫するブリッジの空気をあざ笑うかにしたドム小隊隊長機の挙動だ。不意の急速旋回の後に一気に背後のロケットブースターを一斉点火! はじめに発砲してきた敵のジムめがけて頭から突撃!!

 そんな無茶苦茶な!?

 1対6ってのは連邦の白い悪魔とかいうバケモノのみがこなせるようなもので、現実には相当にシビアな戦力差だ。

 この周りをぐるりと囲まれてしまえば、常に誰かしらに背中をさらすことになるのだから?
 だがそれすらも計算ずくだったものらしい『星』の異名持ちは、およそ迷うこともなく操縦桿を片手に握ったままアクセルペダルをべた踏みだ。メットのバイザーを下ろした中ではどんな目で獲物を睨み付けているのやら?


『ほう、連邦のヤツらもいっちょまえにバズなんぞ持っているんだな? だが使い方がなってねえ、そういうデカブツは無駄に距離を置きすぎるとよけられやすいし、今みたいな乱戦や接近戦になっちまえばとたんに使い勝手が悪くなるんだよ!!』

 はじめから狙ってたんだな!

 数の有利にかまけて威嚇がてらに撃ってきたヤツにカウンターで反撃、慌てた相手は二撃目を放つもこの狙いがまるで定まらない。おかげで難なく敵の懐に潜り込むガイアの格闘戦特化型リック・ドムだ!


『馬鹿野郎が! さっさと邪魔なバズを放って肩のサーベルを構えやがれ!! 軽くて華奢なそいつじゃでかいお荷物抱えたまんまではまともに剣なんざ振れないだろうがっ、でないと……』

 既に肩から抜き出していた長いヒートブレードが、ギュルンと唸りを上げて横凪に一閃される!!
 それであっさりと敵のジムはこの上半身と下半身がおさらばしていた。チーズケーキをカットするくらいにすんなりとだ。
 直後に派手に爆散!
 その時にはとっくに回避機動に移っているガイアのドムは、次の獲物を求めて頭のモノアイをギラリと光らせる。

 一機撃墜!!

 もはや鬼神のごとき手さばきと烈火のごとき勢いだ。

『こうなっちまうんだぜ? 高い授業料だな! じゃあ次はどいつが教えてほしい? そこのバズ持ち! おまえの番だな!!』

 わざわざバイザーを上げて言いざま、今度はみずから狙いを付けて敵MSにケンカをふっかける暴れん坊だ。

 完全に一人舞台になりつつあったが、敵もそれなりに態勢を取り直してはいる。自機から見て一番遠くにいるバズーカ装備のジムに突進するリック・ドムを、ただ黙って見過ごしてはくれなかった。それぞれが黒いほうき星めがけてみずからの獲物の狙いを定め、やがてはトリガーを引き絞らんとする。
 傍で息を呑んで見守るデーミスが何事が言いかけたのと同時に、先手を打ってこれを黙らせる凄腕の隊長だ。

『わかってる! こうしろって言うんだろう? ほらよっ!!』

「このままじゃ蜂の巣にされるぞっ! 何をしているんだ? あれ、一発も当たらない??」


 まっすぐの直線軌道のさなかにこの身体をひねって横回転のスピンを加えるリック・ドムが、その胸部に備える拡散粒子砲を周囲に盛大にぶちまけたのを後になって思い当たる俺である。
 してやったりと言いたげなガイアのセリフがそれを裏付けた。

『……ククッ、まんまとだな? おかげでエネルギーゲージがゼロだが、こんなものこうでしか使わねえ、ありがとさんよ!』

 そうか、白熱するビームの拡散粒子でいわゆる目くらましを食らわせたのか! 攻撃力はなくとも敵の射線を逸らすのには十分だ。もうしばらく撃てないらしいが。

 二機目のジムは殊勝にも右肩のバズを放り出して左手にシールドと右手にサーベルを構えるが、頭部のバルカンで相手からの突進を牽制するくらいの冷静さは欲しかったか。
 シールドを機体の前面に構えて鉄壁のガードを装うが、ガイアの近接戦闘特化型のMSの威力をなめていたのが命とりだ。
 結果、サーベルを交えるまでもなくヒートソードのひと突きであっさりと盾ごとその胴体を貫かれていた。
 ドムの身の丈ほどもある長尺のソードは射程がサーベルの比ではないくらいに長いのだ。
 果たして一瞬のうちに味方を二機も失った敵部隊は、それでもろくも算を乱して混乱に陥る。

 およそろくな連携が取れていないな。

 運悪く隊長機でもやられちまったのか?

「よ、よしっ! うまいことこっちのペースだが……」

 だからってあまり距離を置かれるとむしろ敵艦のビーム砲を食らいそうだな? いや、もはやその心配もないものか??

 ここまで多勢に無勢を押し返されるとは夢にも思っていないのだろう駆逐艦を伴った巡洋艦は、むしろこの艦砲をあろうことかコロニーに向けて放つのだった。


 え、あいつら何をしているんだ!?

 仮にも正規の軍用艦が民間相手にあまりの乱暴狼藉ぶりに言葉もなくなる俺であったが、そんなものつゆほども気にしない根っからの乱暴者ががなる。バイザーが全開のメットの中でむき出しの表情が赤らんだ鬼みたいなヒゲおやじがツバを飛ばした。

『おおらっ、逃げてばかりいないでかかってきやがれっ! 連邦のへっぽこMSどもがっ、数があればいいってものじゃないんだよっ!! フォーメーションもまともに組めないのかっ!?』


 ノーマル兵装で片手のビームガンを連射するジムに、右肩に担いだジャイアント・バズーカの銃口だけで圧倒するガイアのドムは難なくソードの射程にまで肉薄する。
 そうして左手を大振りの一撃で敵勢を半減させるかと思いきや、突如と反射的に身を翻すリック・ドムだ。


『……ん! なんだっ? こいつは、まさか……もう来やがったのか!!』

 薄暗いコクピット内で周囲のディスプレイをじろりと眺め回すガイアの視線が、ある一点で険しく細められる。
 乾いた舌打ちが漏れ出た。
 聞き間違いじゃないな。
 ゴクリと生唾を飲み込むこの俺だ。
 気がつけばもう流れがガラリと変わっていた。
 その瞬間、激しいザクマシンガンの一斉射を背中から浴びて、ただちに爆発四散する敵MSだ。その直前のドムの不可解な動きは、つまりでこれを回避するためだったんだな?

 マシンガン! そう!! 

 紅い彗星、シャア・アズナブル参上の瞬間であった。

「少佐!!」

 これぞまさしく真打ち登場!!


 この寸前まで奮戦してたドム隊の隊長どのには悪いが、思わず目の前でガッツポーズを取るテンションハイな参謀のおじさん。 
 カメラ越しのヒゲづらはやけに心外そうだが、ことここに至り、勝利をはっきりと確信するこの副官、ドレンだ。

 そしてはじまる怒濤の快進撃!


 すべてが混沌とした宙域の戦いは、あっけないほどにあっさりとした決着を迎えるのだった……!!


 Scene2


「少佐!!」

 戦場に着くや否や電光石火の早業で早くも一機撃墜!

 その主役然とした華麗なる登場に、思わず声を上げてしまうこの俺、ドレンだ。

 赤い彗星とは良くも言ったもので、全身を赤くカラーリングされたザクⅡがスラリとした立ち姿を夜空に浮かべる。
 それはさながら一枚の絵画のごとき壮麗さで、見る者の心を打ち振るわせた。きっとこのおじさんだけじゃないだろう?

 うおお、めちゃくちゃカッコイイぞ、ザクなのに!!

 感動のあまり言葉も出なくなる俺だが、戦場でこれを間近に見るヒゲのおやじのパイロットは迷惑げに文句を垂れるのだった。

『余計なマネを! オレの獲物を横取りしやがったぞ? 旧式の06の分際で! 恥ずかしくねえのか、あの赤いザクってのは?』

「その旧式にまんまと星を横取りされるおまえのほうが間抜けなんだろう! 何はともあれ喜べよ? 星持ちの異名のパイロットがふたり、もはや鬼に金棒でこちらの勝ちは決まったようなもんだろうさ?」

 リック・ドムのコクピットで毒づくガイアにご機嫌なテンションでブリッジから突っ込む俺だが、この横で黒い三連星びいきのメカニックが口をとがらせた。

「えー、今のは十分に大尉どのが撃墜できたものと思われます! このじぶんにも横取りのように見えたのでありますがっ……」

 ブリッジの空気になじんできたのか、ブサイクづらで一人前に文句を言う新人くんだ。これにはちと苦笑いで返すこの副官だったが、遠くの大尉も気乗りしないさまでこれをいなす。

「そう言うな! こういうのは所詮は早い者勝ちだろうさ?」

『デーミス、余計なことを言うんじゃない。こっちがみじめになるだろう? というかおまえ、いい加減にデッキに戻れ……!』

 ほぼ自分付きの専属メカニックを黙らせてから改めてモニターを見上げる熟練パイロットだ。モニターの中で悠然とした一枚絵みたいな立ち姿を見せつける、赤いMSに改めて顔をしかめる。

『来なくてもいいものを……! このオレの取り分が減るだけだろう、残りは三機、あと戦艦が都合ふたつか……』

「あまりひとりで無理をしようとするなよ? せっかく少佐が駆けつけてくれたのだから、これとしっかりと連携して……!」

『御免こうむる! あんなすかしたキザ野郎とじゃまともなフォーメーションなんて組めやしねえだろう。何より旧型の06じゃ、この09に付いてはこれないだろうよ?』

 もういい加減にドムって言えよ、マジで面倒くさいから!

 好き勝手な言いようが独善的に過ぎる不良パイロットに、はじめ呆れて言葉に詰まるのだが、当の少佐みずからがこの通信に介入してくる。
 思わず敬礼してこれを聞いてしまう俺だった。
 果たしてこの口元の不敵な笑みを絶やさないカリスマは、余裕の有り余る口ぶりで歴戦の勇者に応じる。

 赤い彗星と黒い三連星の隊長格がいるってのは、これと対戦する相手側からしたらどんなものなんだろうな? かなり混乱しているらしい残りのジムのパイロットたちの心境をおもんばかってみるが、余計なお世話か。だが赤いザクが登場してからの敵の慌てふためきようはかなりあからさまだった。

 出だしの勢いのまま畳がけるでもない不動の専用ザクの内部で、思わせぶりなセリフをマイクに放つ戦場の赤いバラ。
 その挙動に視線が釘付けの俺には他にたとえようがなかった。

『フッ……! 大尉、このわたしと無理に歩調を合わせる必要はない。それほどの局面でもないのだからな? だがこのザクⅡを見くびっているのならば、そこには異論を唱えたいところではあるが……!』

 これには今や完全な引き立て役でしかない地味で貧相なヒゲおやじが憮然としてモニターを見上げる。見下ろす少佐は涼やかな眼差しを仮面の奥に隠したままにさらりと続けた。

『さて、ジオンはこの機体で幾多の戦局を勝ち抜いたことをあの連邦の後発MSたちに知らしめてくれようか、大尉も良く見ておくがいい。君たちの持つ異名もこの機体で勝ち得た名声だったはずなのだからな……!』

 かすかな沈黙……!

 次には怒濤の攻撃がはじまるのがたやすく予想されたが、かすかな舌打ちしてヒゲづら、もといリック・ドムのパイロットめがほざく。

『ケッ、キザなボンボン風情がいかにも知った風なことを! この09に付いてこれるならやってみろって話だ、むしろどれだけ凄いのやらとくと見させてもらおうか? うわさの赤い彗星の腕前とやらを、この黒い三連星のガイアを前にしてな!!』

 憎々しげに言いながらしっかりと少佐の専用ザクⅡをカメラの中央に据えるガイアだ。
 頭のツノからつま先までぴたりと収まる画角で固定……!
 見ている側としてはまことにありがたいが、それだとじぶんのMSの機動に問題があったりはしないか?と頭の片隅で疑問がよぎったりする。

 あれ、これってメインカメラの画像だよな? よそ見をしながら戦闘行動に入るのか? いくら少佐が気になるからって??

「大尉、まだ敵のMSは三機残っているんだよな? よそ見が過ぎやしないか、ちゃんと目の前に集中しろよ! そっちの少佐の絵面はもういいから!!」

『……もういいのか?』

 手元の小型モニターの中でバイザーを全開にしたオヤジがとぼけた調子で聞いてきやがるのに、なんか強烈な嫌味みたいなものを察して思わずがなる副艦長だ。

「いいに決まってるだろ! アイドルのコンサートじゃあるまいに? 少佐のひとり舞台なんか仕立ててどうするんだっ、おまえも仕事しろよ!! 素敵なカメラワークはもういいからっ!?」

『かぶりつきだな? どうせあそこらへんのはここからじゃ手が届かないから譲ってやってもいい。競争をしてるわけじゃなし、このオレもきっちりと仕事はするさ……ほら、はじまったぞ?』

 開き直った物言いがなんかどっちらけだな?

 おまけ何やらたぶんに含むところがある言いようでメインカメラの画像を少しだけ揺らすのに、思わず身を乗り出してブリッジのメインモニターに食い入る推し活おじさんだった。

 公私混同、他のブリッジクルーに会わす顔がないな……!

「どれどれっ? うおっ、画面がでかいから余計に迫力がありやがるなっ、少佐!! わおっ、さすがに早いっっ!!」

 ザクマシンガンを正面に構えたままのザクⅡが、余計な予備動作や機体の挙動にブレなど一切見せないままに急速発進!!
 疾風のごとき身のこなしで残る連邦の残党どもに襲いかかった。まずは手持ちのマシンガンの連射で敵MSの動きを封じつつぎりぎりまで接近、背後へ抜き去り際に左手に構えたヒートホークを素早く振り抜く!


 ブゥーーーン! ドッギャアァーーン!!

 がら空きの背中をばっさりと断つしゃく熱の刃だ。
 背中のメイン動力を破壊されたジムはただちに爆発炎上、だがこの時には少佐の赤いザクは既に次の獲物へと肉薄していた。

 速い!! どの瞬間もマックスの最高速で突き抜ける赤いザク!!

 動きにまるで無駄がないし、コース取りもブレることなく完璧だ。今となっては旧型の量産機が見違えるような目にもとまらぬキレッキレの直線鋭角的攻撃機動をブリッジの画面一杯に見せつけてくれた。
 編集なしでこの見応えはもはや異常だ!


 少佐、一生ついていきますっ!!

 さすがに他のクルーに聞かせるにははばかられるセリフは心の中だけで叫んで、この画像を間近で抑えているカメラクルー、ならぬMSのパイロットにうわずった声をあげる。

「すっ、凄いぞっ! じゃなくて、ガイア! おまえは何をしているんだ? とっとと……うお、もう二機目をターゲットに、今度は真正面から!?」

 言葉とは裏腹に大画面のモニターから目が離せない俺だ。

 同じ凄腕のパイロットだからこその強みなのか、完璧なカメラワークで赤いザクを中心にぴたりと据えたリック・ドムのメインカメラは少佐の描く芸術的高速機動の軌跡をありのまま克明に宇宙のキャンバスに描写する。
 戦場カメラマンなら引く手あまただな。
 退役後の身の振り方が見えた気がしたのは気のせいか。
 ともあれ必死に後退するジムめがけて問答無用のヒートホークの引導を叩きつけるザクは、確実に正確にこのコクピットを破壊していた。うおおっ……!

 早くも三機撃墜!!

 まさしく鬼神のごとき強さだ。
 ひたすら目を見張る俺に現場でこのさまを見つめる熟練の大尉は、ひゅう!と口笛ならしてあざけった賞賛を送る。
 ただちにメインカメラの画像を切り替えてどことも知れない宇宙の暗闇を捉えるリック・ドムのメイン画像だ。

 だいぶ遠くにほうほうの体で戦場を逃げ出していく敵MSがあったが、敵前逃亡は極刑ものだろうと怪しく見るこの俺にスピーカー越しにやさぐれたガイアの野郎が言ってくる。


『はん、コイツであいこだな? それ、ドン! このオレの狙いははなからもっとでかい星だ、悪いがいただかせてもらうぜ?』

 敵MSの背中を瞬時にロックオンした手持ちのバズーカの砲弾をリリースしたガイアは、これをもって撃墜を宣言。
 言いつつカメラの画像が急速に流れていくのに、怪訝に思う俺は思わずわめき返す。あまりにも性急なことの運びに内心で赤い警告ランプが点っていた。すぐこの側で流れを追っているデーミスや操舵士のバルダも同じ危惧を感じてはいたはずだ。

「お、おいっ、そんなろくにトドメを刺したかを確かめもせずに!? いくらバズーカの狙いが確かでも、これを撃破できるか絶対の確証なんてないんだぞ!!」

 通常なら相手機が大破したことをこれと視認した上でないと次の行動には移れないはずだ。この場合は!
 半ば非難めいた口ぶりとなるこちらに、いっかな悪びれるでもないベテランはぺろりと舌を出しやがった。
 メットの素顔をさらしたまんまだから丸わかりだ。

『心配ない! 万一に外したとしても、ここには一騎当千の赤い彗星さまがいるんだろう? だったら……!』

「それって……!」

 後始末は少佐に任せて、じぶんだけさっさとでかい獲物、つまりは連邦の戦艦を仕留めに走るってことか? なんてヤツ!!

 スタンドプレーが著しいわがままな部下にも落ち着き払ったさまの少佐は、しごく納得のいったさまで肩をすくめさせる。

『これは……してやられたな? まあそちらは大尉に任せてもいい。わたしもわたしなり、この場においては大きな釣果を狙ってはいるものだからな……!』

『はあん、そいつはどうも、ありがとうよ! もったいつけた言いようがいちいちかんに障るが、言わせてやるさ? その代わりに戦艦キラーの誉れはこの黒い三連星がいただかせてもらう! マゼランもサラミスもコイツの餌食にしてな!!』

「欲張り過ぎだろう!! 相手はとんでもない勢いで弾幕張りまくってるぞ!? 単機では無理だ! なんだっ、バルダ?」


 少なからぬ危機感と共に声を荒げる俺に、横からちょんちょんと操舵士の若いのがこの肩口をつついてくる。その表情から察するに、どうやら様子が変だと言いたいものらしい。

「あ、あのっ……!!」

 そう、普段から船の舵取りをしているバルダからすると、連邦の艦がガイアの猛追撃を受けていながらこの進路をいまだ転進しないこと、劣勢に立たされた自軍のMS部隊がSOSを発信(していたと思われる)するのを最期まで無視し続けたこと。
 そして今やただ闇雲に弾薬を何もない虚空にばらまいていることがとても不審に映るのらしい。


 ヤツらは果たして誰を相手にしているのか……?

 いやはや、この目を見ただけでここまで読み解けるこの俺は、部下に対しての理解力が半端ないな!

「まさか、あのコロニー以外にも、ここには何かがあるってことなのか? 一体、何が……!?」

 混乱しながら必至に考えを巡らせる俺の耳元に、不意に回線越しの乾いた息が吹きかかる。ヒゲのオヤジの口から発せられたそれは、何やらひどい驚愕の色を帯びてこの耳朶に絡みついた。

『んっ、なんだ、コイツはっ……!?』

 でかい獲物を眼前にしたガイアの目論見はもろくも崩れ去る。
 ただならぬ緊張感が走る中、自身の愛機のコクピットで少佐がかすかに身じろぎする。

 その冷たき仮面の視線の先に映るものは何か?

 勝利を目前、思いも寄らない事態に直面する、この俺たちなのであった……!!

 







 

 

カテゴリー
DigitalIllustration SF小説 ガンダム コント ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!②

機動戦士ガンダム・二次創作ドレンが主役だ!!

二次創作サイトのハーメルンでも公開中! アンケートでお話の方向性を募集してます! 感想も募集中!!応援してね♡ https://syosetu.org/novel/381100

   ↓第一話からはこちら↓

 ↓オリジナルのノベルもやってるよ☆↓

宇宙(そら)のフロントライン リック・ドムの黒い三連星 ①

 黒い三連星のドムのヘッドのイメージ…
 なんかドムより可変MSのアッシマーっぽい?描き方??
 ちなみに後ろにも目、サブのカメラがありますw
黒い三連星のドム
一番機(ガイア機) ノーマルポジション
二番機(マッシュ) 索敵能力強化、射撃性能強化型
三番機(オルテガ) 近接戦闘・格闘特化型?

Scene2

 PartB


 四方八方、見渡す限りが宇宙ゴミだらけの暗礁宙域は、もうじき終わりを迎えつつあるようだった。

 あえて敵艦のレーダーによる補足を避けるために難しいコース取りを選んだのだが、迫り来る大小無数の残骸デブリもこれをものともせず。まっすぐの道のりをひたすらに突き進む、リック・ドム部隊だ。

 隊の頭を張る一番機の隊長、ガイアは、ここまでワンミスもなしに部隊を先導してのけたことに内心でにんまりとほくそ笑む。
 それだから背後の僚機たちへと意気揚々と通信を開いた。
 隠密機動でもここまで近づけば、敵方のレーダーに捕捉もされるだろう。視界の悪いこのゴミの海を抜けたらすぐさまドンパチなのだからもう遠慮することはないと、あえてでかいボリュームでがなってやる。

「ようし、もうじき始まるな? コクピット内の空気がヒリついてやがる……! だったら野郎ども、用意はいいか? デブリを抜けたら一気にしかけるぞ!!」

 景気良く号令を発する隊長に、僚機の部下たちからもおなじく威勢の良い返事が返ってくる。
 二番機のマッシュ中尉から了解とともに補足がなされた。

「了解! こっちのレーダーでもきっちりと三つ、反応を抑えているぜ? おそらくは話しの通りの駆逐艦、みんなおなじみのサラミス級ってところか!」
 
 元は同じタイプのMS(ドム)でも、索敵能力がより強化された機体を操る都合、隊長のガイア機よりも状況の解析はお手の物だ。
 MS部隊を最低でも一個小隊は擁しているだろう駆逐艦が三隻というのはちょっと骨なのだが、いくつもの死線をくぐり抜けてきたベテランパイロットたちは少しも臆したところがない。

 部隊の最後尾でしんがりを勤めるオルテガ機からもバカに明るい男のだみ声が入ってきた。

「あっは、それじゃガイアの兄い! ひとりあたま一隻でいいんだよなあ? 軽い軽い!! がっはっは!」

 頼もしい兄弟たちの返答に口元またにんまりとほくそ笑みながら、正面のメインモニターの先にあるだろう敵影をにらみつけ、その場においてのひらめきを口にする隊長さんだ。

 はじめにサラミス級が3とは聞かされていたが、状況としてこれをまんま鵜呑みにしているわけではなかった。

「おい野郎ども良く聞け、対空砲火がやかましい駆逐艦が三つも固まってられたら少々厄介だが、実際はそんなことはねえとこの俺は踏んでいるぜ? おそらくは2で、残りのはせいぜいちゃちな補給艦ぐらいなもんだろう。場合によっては護衛艦が1で、残りのふたつが補給艦とかもあるかもな!!」

「ああ、なるほど、確かにヤツらも補給はしないわけにいかないからな? 最寄りのコロニーから都合良く物資の援助、最悪強奪がかなうとも限らない。艦自体は地球から上がって来たのか?」

「どうでもいいことだろう。スクラップにしちまうことには変わるまいだ。もとよりアースノイドに遠慮はいらねえ……!」

 百戦錬磨のMSパイロットとしての経験と勘も踏まえての憶測に、なるほどと納得顔の二番機だ。加えて背後のしんがりからまた明るいだみ声が返ってくる。

「がっはは、いいや、補給艦が2なんてことあるのかな、ガイ兄? そんなもん支援物資たんまり抱え込んでちゃ、ただのどんガメの足手まといでしかありゃしないぜぇ??」

 それじゃ楽勝過ぎる!とことさら馬鹿笑いする巨漢の弟分に、長兄のガイアはニヤリとしながら意味深に返してやった。

「どっちも補給物資ばかりとは限らないだろう? ああ、ひょっとしたらMS(モビルスーツ)ってこともあるかもしれないぜ? 新型のよ?? ふふん、2ならそのラインがより濃厚だ……!」

 冗談交じりに口にしたセリフに、回線の向こうでは驚いた感じの静寂があるが、真ん中の機体の次男坊こと自称・隻眼のクールガイ、マッシュがしれっと口を挟む。

「おっと! 悪いな隊長、水を差すようでなんだが、それぞれの反応からすると、戦艦が2で補給艦が1だ! 熱反応が高いのが真ん中とこの右、左のはのっぺりしたブルー一色だ。やけにでかいな? まあ、それだけ物資が満載ってことか!」

「いいなあ! どうせならまとめて横取りしちまおうか? おれ達だけでこっそりと、げひっ!」

 口からよだれでも垂らしてそうな欲望まみれの物言いに、だがあんまり気乗りしない風な隊長はあっさりと受け流す。

「やめとけ。取りに戻るのが面倒だ! 補給艦はほっといて、問題は護衛のサラミスだ。当然MS隊が張り付いてるはずなんだが、まだ出てこないのか? もたもたしてたらブリッジにこのバズをドン!ではいさよならだぞ? 連邦め、よっぽどシロートの寄せ集めなのか、ふん、このドムがなめられたもんだな!!」

 互いの物理的心理的障害となる暗礁宙域を抜けたら一直線に視界が開ける。もうじき二番機ほどにレーダーの範囲が広くない通常仕様の自機でも相手を捕捉できるくらいになるだろう。
 ならば敵陣営にも動きがあって当然なのに首を傾げるガイアの耳元で、この背後に付けるマッシュがすこしいぶかしげに応じてくれた。

「ああ、そっちの反応は皆無だな? 戦艦の観測能力からしたら確かにおかしいっちゃあおかしいが、いいや、奴さんにオレ達がうまく近づきすぎてるのかもしれないぜ? まあいずれ蜂の巣をつついたみたいな大騒ぎになるんだろうがっ……ん、いや、待てよ? コイツはっ!!」

「ん、どうした? マッシュ?? ん、なっ……ぬあ!?」

 直後、それまでの静寂を突き破り、突如として激しく鳴り響く大小無数の警告音!

 反射的に見たモニターの中、この中央でかすかな光が明滅して、やがてはげしい光の洪水が目の前を満たした……!!

 まだ暗礁宙域を抜けきっていないのにも関わらず、いきなりの先制攻撃に目を見開くガイアだ。駆逐艦の攻撃レンジにはまだおよばない目測だったのだが、ビーム砲の一斉射が見舞われたのにこれを理解するよりも先に身体が反応していた。
 敵の射線上と己の間に障害のデブリを挟む回避機動を取るが、すぐさま背中のバーニア最大噴射で現空域を離脱!

 強力なビームの一撃は宇宙ゴミなどものともせずにこの射線上のものを蒸発させていた。ドムの装甲でも直撃は危うい。

「くっ、駆逐艦のビームじゃねえだろうがっ、この威力は!!」

 これまでの算段が多いに狂ったことが予期されたが、おなじく大きく回避機動を取ってフォーメーションを崩す二番機からの入電で嫌な予感が確定となる。 

「チッ……こいつはっ、巡洋艦だ! マゼラン級!! やばいぞすっかり射程に入っちまってるっ、護衛のサラミス(駆逐艦)は前進、MS部隊はこっちに張り付いてやがるな!!」

「ええいっ、話がまるで違うじゃねえか!! 補給艦の護衛に巡洋艦なんざ聞いたことがねえっ、何を積んでやがる? ……いいや、野郎ども、立て直しだ!! デブリを盾にしながら巡洋艦の攻撃を回避、近づいてくるMSと駆逐艦は各個に撃破だ!! まずは丸裸にしてから残った巡洋艦を蜂の巣にしてやるぜっ!! 補給艦なんざどうでもいいっ、それよりもっ!!」

 怒りにまかせた怒鳴り声を発して、目の前のサブディスプレに向けて渾身の中指を立てる隊長、ガイアだった。

「このくされあほんだらぁっ!! どう始末を付けてくれやがる? このオレ様のおろしたてのMSに傷なんざつこうものなら、その寝ぼけたツラ思い切りどつき倒してやるからな!! 覚悟しろっ!」

 モニターの向こうで思わずのけぞる肥満したおやじに啖呵を切ってにらみつけてくれる。あわてふためく相手はあわあわと何事か言ってくるが、あいにくノイズ混じりでよく聞こえなかった。

「この埋め合わせはきっちりとやってらもうぞ! マッシュ、オルテガ! フォーメーションは一時解除だっ、あの駆逐艦が不用意に間を詰めてきたら一気に畳みがける!! タイミングとちるなよ? MS相手でも暗礁の中ならこっちの地の利がでかいから、無理せず落ち着いてやれ! モグラ叩きだ!!」

「了解!!」

 気づけばドタバタの内に戦いの幕が切って落とされた。
 素人目には多勢に無勢の戦いだが、歴戦の猛者たちは怯むことなく敢然とこれに立ち向かう。
 緊迫した空気の中、離れた場所から通信してくる戦闘補助要員のおじさんの声がむなしく響いた。

『おい、どうした! 何があったんだ? だから状況を説明してくれよっ、おいって!!』

「うるさい黙ってろ! 誰のせいなんだよっ? このケツデカ!!」

 忌々しいことこちらの射程外からの連続のビーム砲撃を回避しつつ、迫り来る敵駆逐艦とのドッグファイト!! おまけにMSとの命がけの追いかけっこだ。果たしてどちらが鬼なのやら?

 何にせよ罰ゲームもはなはだしい。


 モニターの中で見知ったおやじが動転してるのが見ていて楽しいあたり、まだまだ余裕があると我ながら口元のあたりにんまりとするガイアだった。無駄玉は撃たない主義だが、あえて駆逐艦めがけてMSの利き手に持たせた大口径のバズーカをうならせてやる。あいにくとハズレだったが、そのせいでそこにへばりついていた子分どもをまんまと引きはがせたようだった。

 わらわらと浮き出たMSらしき影が方々に散っていく……!

 その内のひとつがたちまち赤いバッテンマークが点ってディスプレイから消失する……!! 部下のおそらくはマッシュが自前のバズーカで手堅く仕留めたのだと察するガイアだ。MSの索敵能力が高いぶん、射撃性能もその腕もピカイチの狙撃手であった。

「はあん、あちらさんも火の車みたいだな? 今の丸っこいの、ありゃMSじゃねえだろう? くく、追いかけっこにもならねえかもしれねえな! 野郎ども、駆逐艦は引き受けてやるからまずはおまえらで雑魚を仕留めろ!!」

 予備弾倉には手を付けないと決めていざ敵の駆逐艦に狙いを定めてバーニアをふかす隊長機だ。まずは直線軌道で浅めのヒットアンドアウェイ! いっそのこと全体に揺さぶりをかけてやる腹づもりで轟然と迫る。

『だからぁ、何がどうしたって、言うんだよぉおおお!?』

 耳の奥にこだまするおやじの遠吠えには食い気味にがなる。

「いっぺん死ね!!!」


 何故かこの時、勝利を確信していたガイアであった。

Scene3

 PartA

 暗礁宙域を抜けた先はもはや敵陣で、敵は大型の巡洋艦に護衛の駆逐艦、それにおまけで補給艦らしきがくっついていた。

 非力な駆逐艦の寄せ集めというはじめの予想を大きく覆すものだが、そもそもでこの最初の予測がどこらへんから来たのかも怪しい今現在だ。これにより初手だけややしくじりはしたものの、無難に不利な戦況を挽回していく隊長機のガイア以下、黒い三連星のリック・ドム部隊であった。

 巡洋艦を背後に控えて単艦で突撃してきた駆逐艦のサラミスはいわゆる陽動部隊の囮とでも言ったところか?
 だがそんなものお茶の子さいさいで右へ左へと軽々と翻弄する隊長機のリック・ドムだ。
 機銃やビームによる対空砲火の弾幕をいともたやすく突破して敵艦のブリッジへと肉薄する!
 ほぼ同時、MSの右肩に担いだバズーカの照準を艦橋に合わせかけたところで激しい警告のブザーがヘルメットをつんざく。
 舌打ちして回避機動に転じていた。

「チッ、狙ってやがったのか? こすいマネをしやがる!」

 重力のない宇宙空間では上も下もないものだが、機体の機動力をいかんなく発揮して縦横無尽に飛び回るガイア機だ。
 後方でいやらしいビーム砲撃をかましてくる巡洋艦との間に駆逐艦を挟んでいるのがみそだった。相打ちを避ける都合、思ったようには砲火を集中させずにビームの弾幕をいなしている。
 さっきのはこちらがブリッジにアタックをかけるのを見越した上での待ち伏せ、狙い撃ちだったのだろうと合点。

 するとこの状況を今は暗礁宙域の向こう側でのんきに見ているだろう艦長代理の副官には、胸の内を図星で言い当てられてまた舌打ちした。


『おい、完全に狙われているんじゃないのか? そもそも連邦の戦艦は艦橋が複数あるんだから、ブリッジ潰しは必ずしも有効打とは言えないだろう。若干のあいだ機能を麻痺させるくらいで? だったらいっそのこと……!』

「チッ、メインのエンジン潰しちまったほうが早いってか? さっすが、シロートさまは考えることが単純明快でいらっしゃる。いいや、エンジン潰すのなら不意打ちでかつ安全な距離を取ってからだ! 至近じゃ即座に爆発炎上する艦の爆風と破片にこっちまで巻き込まれて誘爆するのが見え見えだからな? そこいらのMSやファイターと違ってただ墜とせばいいってものじゃないんだよ、図体でかい戦艦ってのは!」

『ほおぉ! ……そうなのでありますか、少佐?』

 ちょっと怯んだ顔でおまけ背後の艦隊長どのにお伺いを立てるのには、呆れてまたこの中指立ててしまうガイアだ。

「バーカ、そんなのは時と場合とそいつの考え方によりけりだ、絶対なんてねえ!」

 内心でぺろりと舌を出しながら周囲のディスプレイを見渡して今現在の状況を冷静に把握する。
 正面下側のサブディスプレイで目を白黒させているおやじと無意識に視線が合うが、そのせいかまたもやあわ食ったさまで画面の中の代理艦長、副官のドレンが声を荒げる。

『おい、少佐が首を傾げているぞ? いい加減なヤツめ! まあいい、とにかくそちらの状況、巡洋艦が1に駆逐艦、サラミスがおなじく1なんだな? あとは補給艦? 了解した! 援軍は今から送って間に合いそうか?』

 相手からしたらおおまじめでも、こちらからしたらよっぽどにとぼけた言いように再三で舌打ち返す隊長どのだ。

「けっ、今さら何を言ってやがる? とろいザクであの暗礁宙域を突破してこられるとでも?? もとより状況見て言えよ。これがそんなピンチに見えるってのか、てめえの節穴じゃあ???」

『み、ミスったのはそちらがうかつだったのもあるだろうが? 俺だけの責任じゃないはずだ!! ここから挽回する!!』

「ぬかしやがれ! てめえにゃはなから期待なんざしてねえよ」

 あっさりと言い捨てて相手の言い分はすっかり無視する。
 言い合いしててもらちがあかないし、優先すべきは他にいくらでもあった。現時点での戦況は、こちらが押せ押せで断然有利だ。結局MSどころか中途半端なボール型の改修型突撃砲台が五機だけで、マッシュとオルテガの両機によってあっさりと撃破。

 残すは目の前の駆逐艦だけ。

 これをきれいに片してから大ボスの巡洋艦なのだが、何かまだ忘れているのではないかと首を傾げたところで背後のマッシュ機から通信が入った。

「隊長! 奥の巡洋艦、まるで動かねえと思ったらどうやら陽動だったみたいだぞ? あいつ自体がこっちの気を引くための!」

「どういうことだ??」

 怪訝に聞き返すに、マッシュではなくサブモニターのおやじが声高に返してくれる。

『おや、補給艦はどこに行った? いたはずだよな!? まさか仲間の護衛を置いてさっさとそれだけ戦線を離脱したのか!!』

 モニターで確認したら、そこに確かに大きな巡洋艦の隣で地味に映ってたはずのそれらしき艦影がすっかり消え失せている。
 はじめ目を疑うガイアだ。

「なんだあ? 自衛もろくにできやしない補給艦だけでおめおめと逃げ出すなんざ、おいおい、積み荷はそんなに大事なものなのかよ?? 何を乗っけてやがる!? どうする?」

 思わずサブモニターの見知ったおやじに聞いてしまうに、小さな画面の中でしばしだけ逡巡したかのベテラン士官である。
 すぐにまじめな顔つきして返してくれた。

『無視していい! 今はそれどころじゃないだろう? 二手に分かれて追撃したところで燃料が保つまいだ。無駄な危険は犯さないに限る! おまえらが還って来れなければ意味がないんだ』

 その発言から優先順位が明らかに自分たちであることに自尊心が良い感じにくすぐられて自然と声のトーンが落ちるガイアだ。

「……ふうん、なら後で文句言うなよ? ま、このオレも言うほどにゃ興味はない。新型のMSって可能性、ゼロじゃないんだがよ?」

『そいつの中身が何であれ、連邦の木馬への到達自体は阻止したのだから目的は達成している。そこから転進して先行している敵艦に追いつくのは、今さらどのコース取りをしても不可能だろう? ならその新型は、どうぞよそでお披露目してもらおう!』

「あいよ。おかげでどこぞの誰かが結構な貧乏くじを引くことになるかもしれねえが、そんなのはそいつらの運だよな? オレたちが知ったこっちゃねえや……じゃ、オレは目の前のサラミスに専念させてもらうってことで!」


 大きな戦艦の残骸に一時だけ身を潜ませていたいかつい機体を素早く各部のバーニア噴かせて冷たい虚空に踊り出る。
 直後、駆逐艦の真上から攻めるかたちで、このメインブリッジを根元まで損壊させてやるべくバズーカ構えて急降下した。
 上も下もないのだが感覚的にはそういう感じになる。

 正面や側面から攻めるよりも真上は艦砲の守りが薄く、まばらな弾幕をすり抜けてあっさりとこの上面の屋根近くに降り立つドムである。それきり眉ひとつ動かさずに凄腕のMSパイロットはバズーカの引き金を引き絞るが、その半ばで不意に耳朶を打つ仲間の声に動揺が走る。舌打ちしてそこから機体を緊急離脱させていたのは死線を幾度もくぐり抜けてきた戦士の勘と反射神経だ。

「やばいぞっ、隊長! 回避だっ!! その駆逐艦ごとっ……!!」

「なっ、なんだとっ!!?」

「あっ、兄いぃっ!!」

 二番機から制止がかかる寸前、目の端でまばゆい光の閃光が幾筋も走るのは認めていた。てっきりじぶんめがけて放たれたビーム砲撃かと思ったが、それが思いも寄らぬところに集中してたちまち爆発炎上するのを両目をひんむいて凝視してしまう隊長だ。
 およそ言葉が出てこない。

「さ、サラミスを……!?」

 目の前で艦橋から胴体から激しく誘爆しながらすべてが炎に包まれ轟沈する敵艦。これにその場の全員が凍り付く。
 ヘルメットの中であわ食ったおやじの声が場違いに響いた。

『なんだっ、今のは、巡洋艦からのビーム砲? 同士討ちしたのか?? まさか、敵味方もろともに誘爆させて撃破しようってのか!?』

 それきり声が途絶えるのに、ゆっくり息を吐き出して応じるガイアだ。

「見ての通りだ……! ふざけやがって、ああ、だがおかげでちょっとだけ興味が出てきちまったな? そうとも、あの逃がしちまった船の中身ってヤツによ??」

 今となってはもはや手遅れなのだが、戦域からまんまと離脱していった敵の補給船の消えた行方を見つめてしまう。
 だが息つく間もなくさらなる状況の変化が警告音とともに巻き起こる。本番はこれからだった。

 二番機のマッシュが再度緊迫したセリフを発する。

「ガイア、MSが来るぞ! 反応三つ、ヤツら温存してやがったのか? しかも、待てよ……?」

「ああ、こっちでも感知してるぜ。おそらくはジムってヤツか? 今頃出してくるってあたり、さっきのサラミスはほんとに捨て駒だったんだな? 笑わせやがるぜ、万が一のチャンスを捨ててるあたり? ちゃちな雑魚の一個小隊ごときで、どうしてこのオレたち黒い三連星に抗えるって言うんだか……!」

「兄いの言う通りだぜ! でも兄い、のろっちいジムにしては、ちょっと早いみたいだぜ、この機動値演算からするには?」

『油断するなよ?』

「誰に言ってやがる? おい、マッシュ……!」

 顔つきむすりとして険しい隊長は戦況解析を随時にこなす二番機に目を向ける。すぐさま的確な返事が返ってきて納得しながら、今度は画面下のくたびれた二重あごに向けて聞いた。

「ああ、ジムには違わないが、こいつはこれまでのデータにない改良型だな! きっちりモニターしないと後々厄介なヤツだ」

「めんどくせえな? 他のヤツらにやらせろよ、じゃあどうする、ケツデカ、じゃなくて、ドレンの副官どの?」

『好きにしろよ? そちらの判断に任せる。なんだって現場優先だ! もちろん勝てるんだろ?』

「当たり前だろう? ちょっと機体をいじくったくらいのマイナーチェンジ機が、このオレ達専用にバージョンアップしたカスタム機にかなうはずがない。黙って見ていろ。それじゃあ野郎ども、今から最後の仕上げにかかるぞ!!」

「了解!!」

 大きな獲物を狩るべくした、三匹のどう猛なる番犬が暗い宇宙(そら)を縦横無尽にひた走る。

 小隊単独での敵戦艦二隻撃沈、MS多数撃破!
 
 黒い三連星の異名に花を添える暗礁宙域突貫の電撃作戦だ。
 期せずして連邦軍の逆襲計画のひとつを阻んだこともあり、以降、これが長きにわたり連邦軍の心胆寒からしめる伝説のひとつとなる
……!


 Part B

 本来は地上侵攻作戦が主たる目的で開発された機体のドムを、宇宙戦仕様に発展改良させたものがリック・ドムである。

 そしてそれをさらに大規模改修いっそのこと魔改造して機体各部の姿勢制御系バーニアや推力エンジンを極端に増設、かつ出力を大幅に上げた超高速高機動型のカスタムモデルが黒い三連星のガイアたちの専用機となる。

  通称、三つ星・エディションと呼ばれる、ごく限られたエース級向けのハイスペックモデル・シリーズだ。

 メインのエンジン出力や各部バーニアの配置数が上がれば上がるほど機体制御やパイロットに掛かる負荷が激しく困難なものになるのだが、乗り手の要求するままに人間の限界一杯まで機能を詰め込んだ機体は、もはや通常機よりも一回りも大型で異様に肥大化した見てくれとなっていた。

 そしてそのためか以後、彼等と同じ機体を使用したパイロットはおよそ皆無であったというほどに――。

 およそ常人では扱いがたい強化型MSを乗りこなすガイアにとり、連邦の量産型MS・ジムは可もなく不可もないまるで面白味のない凡庸な機体となる。ただし今回のものは宇宙戦特化型の改良機であるらしく、これまでの動きののたくらしたザクに毛が生えた程度のそれよりかは、ずっと機敏に稼働しているようだ。

 記憶にある通常仕様機と比べればだいぶ身体つきがゴツゴツとしたバーニアましましの高機動型は、自軍の新型と比較してもそれなりの評価ができた。バカみたいな加速と減速を繰り返してはそのクセ糸の切れた操り人形みたいな不自然な挙動が、ちょっと薄気味悪いなと見やりながらに小さく舌打ちが出る。

「……っ、ずいぶんとイカれた運動性能してやがるな? オレの09も大概だが、あいつらのもあれでわけがわからない機動力を無駄なくらいに発揮してるぞ? ちょっと狂気じみてるだろ、宇宙でダンスを踊ってるわけでもあるまいに全部のバーニアをフルで噴かしてやがる! およそMS運用のセオリー無視だ。パイロットは正気を保っているのかね? 自殺行為だろ!!」


 バズーカの狙いを付けるのがほとほと困難な乱雑不規則な機動に、接近戦を仕掛けると一定の距離を保ってこれを全力で回避。
 まさしく追いかけっこ状態だが、あちらからはこれと仕掛けてくるようなそぶりがなかった。
 ひたすら謎のにらみ合いだ。
 これまでのMS戦では経験がないイレギュラーな相手機の挙動と無機質な反応に、ついにはこれとまともに付き合うべきか迷いが出る隊長か。
 どうしたものかと考えあぐねるのに、よそから何の気もなしにしたようなおじさんがしれっと応じてくれる。
 対岸の火事さながらで、これまた思いも寄らないすっとぼけた返事にムッと眉をひそめるガイアだった。

『なあ、ならいっそ無人機だったりするんじゃないのか? 案外と? 敵艦から遠隔操作されるなり、コンピュータ制御で相手機を牽制するような挙動を機械的にするだけだとか! 事実、あちらからはいっかなに攻撃らしい攻撃をしてこないじゃないか?』

「はあっ? 何をバカな……! 何の意味があるんだ??」

 不審げに迷惑顔して聞き返すに、小型の画面の中の副官、ドレンは神妙な顔つきとなって返す。

『わからん! だが少し引っかかることがある。残る巡洋艦のやけに散漫な砲撃といい、新型と言っていいのかわからんそのジムの不可解な行動といい……!』

 ちょっと思案顔で一度は言いよどむ中年太りの士官は、やがてまっすぐな瞳で戦場のパイロットたちへと語りかける。

『だったら、三人とも聞いてくれ! これはあくまで推測だが、この俺が思うに……』

 戦闘はしばしの膠着状態に陥った。

 まるで攻め気のない消極的な敵MS部隊に、今となってはこれと戦う意義すら見いだしにくい敵巡洋艦と……!
 いっそのこと撤退命令を下してもいいくらいに思えるドレンだが、さすがにそれは百戦錬磨の猛者達が許すまいと言葉を呑む。

 暗礁宙域のこちら側、ムサイ級のブリッジで憮然と考え込む副官どのだ。特設の戦況解析ブースで各種ディスプレイに映されたリアルタイムの現況を見ながらひたすら思案に暮れる。
 すぐ隣で船の舵を取る青年の下士官が恐縮しながら伺ってくるのに冴えない表情で答える。


「あの、どうしましたか、中尉どの……?」

「いや、やっぱりつじつまが合わないと思ってな? おそらくは大尉たちがうまくやってくれるはずだが、俺たちは俺たちで飛んだ貧乏くじを引いちまったのかもしれない。はじめのサラミスのあたりで引っかかりはしたんだが……!」

 浮かないさまの口ぶりに、きょとんとした操舵士の内心の困惑ぶりを汲んでわかりやすく説明してやる上官だ。

「まず今ガイアたちが対しているMSはどれも無人機に違いがない。つかず離れずでへばりついてばかりで、三機ともがきっちり同じ挙動をしているんだからな? 有人ならそんな無意味なことにはならないさ。あと人が乗っていると仮定したら、ありえない加速機動と回避能力だ。人間なら対Gスーツが保たないだろう。黒い三連星が攻めあぐねるなんてあたりが特に!」

「は、はあっ……あ!」

 興味津々で上官の話を聞きながら、舵を取る手をそこそこにちょっと身を乗り出してディスプレイをのぞき見る若者だ。
 それで偶然に自軍のMSパイロットどのと目が合ってしまったらしく慌ててこの頭を引っ込めた。
 いかにも若いそぶりに苦笑いでもおおらかにドレンは応じる。モニターの中の不機嫌ヅラには目でまあまあと制しながら。

「そもそものところで言ってしまえば、はじめの駆逐艦もおそらくはただの無人艦だな! おまけでくっついていたボール型の戦闘艇もこれまた同じで。いくら何でもはばかられるだろう、乗員何百人もいる艦をたかがMSを撃破するために巻き添えだなんて? はじめからそのつもりの無人艦ならいざ知らずだ! いやはや俺、個人としてはそうであってほしい」

「はあっ……」

 上背のある若いもんが、無重力の艦内でポジションがあやふや、足が床についていなかった。はたと首を傾げて猫背気味に肩の落ちているその右の肩口、パンと叩いてドレンは笑う。

「もっと柔軟に考えろ! いざって時の臨機応変さがなければ艦の舵なんて取れないだろ? ちゃんと足を踏ん張って、あとちょくちょくこっちの戦略コンソールを気にしてるみたいだが、あんまりよそ見してるとどやされるぞ? 俺は何も言わないけど!」

 すっかり懇意にしている間柄の認識がある若者に屈託のない笑みを向ける気さくなおじさんだ。もうじき終わるから転進の準備をしておけとも言ってやる。

「ん、ほうら、おいでなすったぞ? 我らが黒い三連星の大立ち回りだ! 燃料タンクの容量はまだ余裕があるはずだから、転進したら最大戦速で飛ばしていい。どうせ追いついてくるだろ」

「りょ、了解……あ!」

 ちょっと困惑顔でいながらまたもや、目の前であっけらかんと破顔するおじさんの手元のディスプレイをのぞいてしまう。 
 すっかりのぞき見がクセになっている操舵士だが、まさしくその動きが出る瞬間であった。
 ダメだと言っているだろう?とドレンに尻をつねられて太い首をすくめさせる下士官くんだ。

「も、申し訳ありませんっ! あは、は……」

「気になるのは仕方ないよな? でもまあ気をつけてくれよ。バルダ曹長、おまえのことは信頼しているんだから……な!」

 傍から見ればただのじゃれ合いか?

 つかの間、お互いに苦い笑みで見合ってしまう。

 この時、画面の中でむすりとしたひげヅラのオヤジがヘルメットのバイザー越しに見ているのを、ふたりは気づけていたか?

 PartC

 戦闘はまさしく膠着状態。

 むなしく時間ばかりが過ぎていく……!

 ひどくイライラして暗く狭苦しいコクピットの中で荒い息つく隊長機のガイアだが、果たして理由はそれだけだったか?

「くそったれが、いい歳こいたくされデブが人前でイチャイチャなんかするんじゃねえよ!」

 思わず憎々しげな苦言を漏らして、それを不覚にも周りの同僚たちにも聞かれてしまう。

 二番機のマッシュからただちに入電!

「ん、どうした隊長? なんかさっきからイライラしてないか?? まあ気持ちはわからんでもないんだが……」

「兄い! おれもイライラするぜえっ、こいつらうぜえぇっ!!」

 すかさず左右の耳から入ってくるそれは気心知れた仲間たちのだが完全に的外れな返答には、ちょっと拍子抜けして怒っていた肩のあたりの力が抜けるガイアだ。
 言えば一蓮托生の戦友であると同時、わざわざシェアハウスしてまで寝食を共にするまさしく家族も同然の間柄なのだが、一個人としてのパーソナリティが深く関わるところについてはまるで共有ができていなかったりする。

 それで良かったのだろうが。


 人間的に欠けているところだらけのポンコツの寄り合い所帯なのだから、ぬるいなれ合いなんて望むべくもない。
 およそデリカシーだなんてものを持ち合わせていない性格粗野な弟分たちが、今となってはかわいくて仕方なかった。
 ありがたいと思いながらも、ちょっとだけひがみっぽく口元のヒゲがゆがむ。

「ふん、おまえらにはわかるまいが? 今のこのオレの複雑にしてデリケートな胸の内は? だがストレス感じてるのは確かだからさっさと解消しちまおう、ようし、一気に仕掛けるぞ! まずは敵MSを各個に撃破! 間髪置かずに敵巡洋艦にアタックをかける! いいか、一撃で沈めるぞ!!」

「了解!!」

 かけ声ひとつで一気に戦闘モードに突入する凄腕たちだ!
 だがあいにくとこの空気感が伝わらない遠くの母艦のブリッジで、おやじの副艦長どのがのほほんと茶々を入れてくれる。

『なるほど了解だ! だが各自、この俺が言ったことをちゃんと考慮しておいてくれよ? 油断は禁物、相手は捨て身だからな!  いざとなったらバックれちまって構いやしない!!』

「ぐぬ、ぬかしやがれ! ひとりだけ安全圏でぬくぬくイチャついてるヤツに言われたくはねえ!! さっさと片を付けたらきっちりとこの落とし前は付けてもらうぞっ!!?」

『お、おうっ? て、なんで怒っているんだ? あ、ひょっとして更年期ってヤツか、男の??』

「イチャつくってなんだ? あ、ガイア! タイミングちと早くありゃしないか??」

「えぇ? あのブリッジにそんなにイカしたおねーちゃんなんていたっけかい、ガイアの兄い?? おーい……!」

「かああっ、どうしてこのオレの周りはこんなにもデリカシーのないヤツらばっかりなんだっっ!!!」

 魂の叫び!

 すさまじい気迫だ。
 おかげで一気にブースターの出力を上げて高機動型ジムに詰め寄るガイアのリック・ドム!!
 ろくに反撃に転じるでもない相手機は無理な急加速の回避機動に機体を激しく震わせるが、何度もやられてとっくに動きを見切っていた隊長は歯をむき出して、さらなる急加速のGをおのが身に叩きつける!! 
 もはや逃がすまいとだ。

 機体制御がバカ丸出しの相手に飛び道具の照準を合わせるのは不可能だとわかっていたから、奥歯をかみしめて左手のマニピュレーション・レバーを力一杯に押し倒す!!
 虚空に突き上げられたMSの太い左腕が右肩に装備した長物の柄をガシリと掴んで、ただちに暗い夜空を一閃、ひと思いに力の限りなぎ払う!! 
 狙いはまさしく相手の胴体、こしゃくなジムのコクピットを一刀両断の勢いで機体の加速度もろともに叩きつけるガイアだ。

「逃がしゃしねえよ! どんなに逃げ足早かろうがこいつの長い射程から逃げられるヤツなんかいやしねえっ! ましてやこのタイミングではっ……!?」

 背中から抜き出してコンマ一秒後には全体が灼熱の赤熱色に染まるヒートブレードは、ドム自体の全高にも匹敵する長大な刃渡りで射程が長いのが一番の強みだ。
 ビームサーベル相手でもある程度ならチャンバラ可能だし、エネルギー効率を考えたらこれに勝るものはないとドム使いなら決して譲らない。

 狙い通りに敵モビルスーツの胴体を捉えた灼熱の熱棒はそのまま機体を紙切れみたいに寸断する、まさにその瞬間、ガイアのヘルメットの中で今や誰よりも聞き慣れたおやじの声が弾けた!

『ダメだっ! 離れろ!! ガイアっ、緊急回避っっ!!!』

 コクピットに鳴り響く警告音、明滅するモニター群、仲間達の叫び声、機体がきしむ摩擦音、敵MSの影がコクピットを飲み込む瞬間の息を呑むような静寂、直後のつんざくような警告音!!

 目をひんむいて左右に握ったレバーを殴り倒し、足下のブーストペダルを親の仇くらいに思い切りに蹴り上げた!!
 頭に来るおやじの怒鳴り声から瞬く間の出来事だ。
 緊急離脱によるGで身体から血の気が失せるが、意識を飛ばすことなく浮いた身体をコクピットシートに尻から叩きつける。

「なあっ……くそったれめ!!」

 横なぎの胴切りでそのコクピットごと真っ二つになる寸前、いきなりドムのボディにしがみついてきた敵のジムだ。
 背後の巡洋艦から光りが瞬くのを見るよりも早くに全身を貫く稲妻のごとき危機感から、反射的にブレードの振りかぶりを相手の胴からこの腕を断つモーションに切り替え切断! 
 同時に太い足で相手のボディを蹴り上げ、その反動ごと機体を急速旋回させて敵艦の射線上から離脱、考える間もなく真上に向けて急上昇していた。

「……!」

 足下で豆粒ほどになったジムが巡洋艦のビームの餌食となって爆発炎上するのをマジマジと見つめるガイアだ。

 無性に腹が立つ。

 何がって、憎いあんちきしょうが言ったまんまのありさまにまんまと翻弄されてる自分がだ。
 するとちょっと冷めた調子でその当人が補足するかに語ってくれるのを、苦い表情で聞いていた。
 ちょっと歯ぎしりしてしまう。

 ぬううっ……!!

『ほうら、言ったとおりだろ? やっぱり自爆覚悟の無人型MSだって……! ちょっと危うかったんじゃないのか、大尉? ともあれでネタが割れたらやることはひとつだよな! 親玉のマゼラン(巡洋艦)は自爆もありうるから気をつけてくれよ?』

「ふん、偉そうに……! マッシュ、オルテガ、残りは適当に相手をしてやれ! トドメはオレが刺してくれる。おおらっ!!」 

 一気に背中のブースターを噴かして敵巡洋艦のブリッジの真上にまでつけるガイアのリック・ドムだ。
 こんなに至近距離に詰めているのにまるで反応がない。
 これに目の前の巨大な鉄の棺桶が無人の空っぽであることを実感する。ふざけた話だと苦虫噛みつぶしたような表情でギリッと奥歯を噛む隊長である。

「けっ、無駄弾は撃ちたくねえな? このまま勝手に自爆するって言うんなら? いや、撃たないと撃沈にはならねえのか? さっきのジム、あれって撃墜扱いでいいんだよな? おいっ……」

 不機嫌にヘルメットの中でうそぶくのに、遠いブリッジからはどこか呆れたようなおやじの声が返る。

『まあ、そういうことでいいんじゃないのか? こっちでもモニターできてるし、他にいないんだし、実際にくたばっているんだし? 無人機でもな。サラミスもしかりで? あと、自爆モードはそいつの場合は他のヤツらも近づかないとおそらく発動しないぞ? ジムが全機大破して、さあいよいよってことにでもならない限りには??』

「ちっ! てめえで言っておいて、おまえが思う限りでだろ? ほんとにふざけた話だな! こいつめ、ひょっとしたらただの囮で、本隊は他にいたりするんじゃないのか? よもやあの補給艦も無人だなんて言いやすまいな……!」

 苦々しげなセリフに、あちらからはしごく落ち着いた説明台詞がなされる。

『いや、むしろあっちこそが本命だろ! まんまとしてやられた。よくて引き分けか? あれ自身はおそらくは補給艦に偽装した高速輸送艇あたりだ。積み荷はあえて言うまい! 今さらだものな?』

「ふんっ……! 予備弾倉には手を付けないつもりだったんだが、あえてくれてやるよ。メインのブリッジつぶせば無人機も止まるんだろう、自爆するのか? おめえら気をつけとけよ」

 今も無人機とやり合っている部下たちが元気な返事をくれるのを聞き流しながら、どうにもつまらない心持ちで右肩のバズの弾倉を交換して目の前に狙いを定める。
 あるのは敵艦のメインブリッジの言うなれば平たい屋根だが、もう考えもなしにただ引き金を引いていた。

 ドゴォンッ!!

 至近距離で艦橋が大破、距離をさらに置いて、二発目、三発目をお見舞いする。
 かくして全弾ぶっぱなす前に炎と煙に飲まれてゆく大型戦艦の最期を看取ってやるのだ。

 結果を見れば、ガイアたち黒い三連星の圧勝。

 だが――。

 静まり返るコクピットで、なぜだか異様にむなしかった。

 もとい理由はなんとなく思い当たるのだが、MS撃破と勝利に沸く仲間達の歓声を遠くに聴きながらひとりだけ深いため息なんかつく隊長だ。

「なんか、納得がいかねえ……なんだこれ?」

 白けたまなざしを目の前に向けるにつけ、そこのディスプレイの一角に映り込んだ母艦のブリッジのさまにしごく納得がいく。

「仲良さそうだな? やけによ、へぇ、そいつはまた……」

 言われた相手はカメラの画角から外れた誰かと目を見合わせて、こちらにきょとんとした顔を向けてくる。

『は? 何を言っているんだ?? まあとりあえず無事、ミッションクリアだ! 各機速やかに帰投してくれ。気をつけてな?』

「……そうだな。わかった。帰ってから話しをつけよう」

『は? さっきから何を言っているんだ??』

 気がつけばすっかりと意気消沈。
 傍から見れば謎のローテンションだった。
 もはやろくな言葉もない隊長機は、二番機、三番機を残してさっさと戦域を離脱する。
 来た時同様、暗礁宙域のど真ん中をぶち抜く直線コースだ。
 はじめ怪訝にそのさまを見つめるドレンだが、何かイヤな予感めいたものを感じて横の操舵士に即座の転進と、最大戦速での現宙域からの離脱を命じていた。

 背後から追ってくるドムの小隊に、なぜだか異様な寒気を感じていたのだから――。


 
 

ドレンとガイア ④


Scene1


 敵・連邦部隊との戦闘を終えたガイア率いるリック・ドム小隊は、通常なら航行困難な暗礁宙域を再び渡って母艦であるこのムサイ級巡洋艦の元へと、全機が問題もなく無事に還ってきた。

 いやはやさすがだな! まことにめでたい!!

 ただしこの着艦に当たって、隊長機がちょっとゴネついたらしいのだが? その理由を聞くにあたり、あいつらしいっちゃあ、いかにもあいつらしいものだったから、ブリッジからこの様子を見に来たこの俺、艦隊副長のドレンである。
 
 ま、もともと発艦していった宙域でこれを待つこともなく、さっさと艦隊進ませちまったからな! おまけに最大戦速で!!

 ベテランの凄腕パイロットばかりなのだからそうそう問題はないはずだが、怒るヤツは怒るし、あいつは当然、怒る。

「……というか、元から怒ってたよな?」

 内心で首を傾げながら艦の一番上に位置するメインブリッジから、艦底のMSデッキまで直通の艦内中央通路(通称・トンネル)を降りた先で、気圧差緩衝ブロック手前の扉の前に付ける。

 ここから先のMSデッキはいわゆる空気のない真空状態で、艦外の宇宙空間と直結していることも多いことから、デッキの内部が酸素を含んだ清浄な空気と正常な気圧に満たされるまでの安全が確保されないと進入ができない。

 ちなみ、そういった危険性を考慮して、この長い一本通路のトンネルを渡る時はノーマルスーツの着用が推奨されるのだが、あいにくとそういった面倒ごとが根っからイヤなおじさんである。
 はっは、この俺が熱烈に推してる少佐なんかは、このMS搭乗時にだってパイロットスーツなんか着てやしないんだから!

 ま、自己責任だな。

 ともあれこの内側の状況をリアルタイムで示す表示ディスプレイを見るには……? そこが安全圏にあることを示す、緑色が点ったパネルの状態表示をじっと見つめてその内容を読み取る。

「お、メインデッキは正常値クリアしてるんだな? 二番機と三番機はもう着艦済みと! そういやさっきそれっぽいパイロットスーツとすれ違ったような? あいつら、無視しやがって……! ガイアの一番機は今、入ってきたところか? ふうむ、あいつめ、あんな横暴そうな顔と態度で、こういうところはやけに部下想いなんだよな……」

 さっさとMSの収容を終わらせて仲間たちを休ませてやりたいという親心ならぬ隊長心なのかもしれないが、これにあたりちょっと頭の隅に引っかかるところがあるこの副艦長さまではある。

「あん、あいつら、やけに早くに自室に引き上げていったが、帰投後のメディカルチェック受けてないんじゃないのか? それで前もめてたよな??」

 手近に艦内放送のブースがあれば大声でがなってやるところだが、あいにくとそんなものはないし、目の前のゴツい気密扉が開いてしまう。そうだ、この先でちょっと減圧するんだったか? 
 めんどくさいからとっとと済ませてデッキに入ることにする。

 緩衝ブロックを抜けてMSデッキに出ると、そこはやたらとやかましい騒音と機械油のニオイに満たされていた。

 そうか、今は空気があるからちゃんと音が伝わるんだな!

 でないとこの俺も窒息死してしまうのだが、左右のハンガーに二番と三番のドムが収容されて、ちょうど真正面の真ん中のハンガーに隊長であるガイアの一番機が機体収容を完了したところらしい。仰向けの状態で機体各部をがっちりと固定されている。
 これからメカニックスタッフたちによる点検整備だ。
 おそらくは前準備なのか、ノーマルスーツ姿のメカニックマンたちがちょっと遠巻きに機体を眺めているな。
 各種の機体情報と戦闘データの収集もしているのだろう。

 ようし、良いタイミングだ。

 そう思っていたら、これまたいいタイミングでMSのコクピットのハッチが開かれる。分厚い装甲隔壁の内部からひょっこりと黒い専用のパイロットスーツに身を固めた主が顔を出すのだ


 お、ガイアだな……!

 ヘルメットを被っているから素顔が見えないが、三人の中ではやや小柄な小太りの野郎体型がそれだとわかる。

 ここからじゃまだ声が届かないなと左右を気にしながら、このまま向こうまで行ってしまっていいものかと考えあぐねる。

 部外者が出すぎたマネは危ないし迷惑だものな?

 が、この時、この俺よりも一足先にそのリック・ドムに向けて無重力のドック内を浮遊しながら泳いで渡る人影があった。
 デッキクルー用の簡易型ノーマルスーツを着たMSのメカニックマンだとひと目で見分けが付く。薄い緑色の生地に蛍光色の補強ラインが走る、独特な見てくれだからな。

「ん……! あんなヤツ、いたっけか?」

 そいつは空気があるからメットもなしでその素顔をまんまさらしていて、見た感じ、大柄なデブの若い兄ちゃんみたいだ。

 そう、おそらくは新人だな?

 遠目にもかなり個性的な顔立ちをしているが、もとよりイケメンである必要もない。顔つきのいかめしいひげヅラのおやじには打ってつけだ。ここからでは何を言っているのかわからないが、どうやら満面の笑みでみずからが担当するMSのパイロットであるガイアにねぎらいの言葉をかけているようだ。しきりと。
 まだそんなにさまになってない敬礼をひたすらに送っている。

 あれ、なんか、なつかれてたりするのか? 若いヤツに意外にも?? 人望あんのか、あんなんで!!

 傍から目を白黒させてそのさまを見てしまう俺だった。

 周囲のクルーの動きを見ながら、こちらも慎重に無重力のデッキ内を浮遊して泳いで渡る。

 そうれっ……と!

 だがおじさんの宇宙遊泳は傍目にはかなり滑稽なんだよな?
 仕方ない。
 それでいざ近づくと思ったよりもこの周囲が熱い熱気で満たされているのに、慌ててコース取りを変更した。

 あっち! まずい、ロケットエンジンやバーニアが集中している足下側じゃなくて、さっきの若いのが近づいて行ったみたいなメインカメラの頭上やコクピットと同一線上の脇腹あたりから攻めないとダメなのか! たく、あいつらバーニア無駄に噴かしすぎてやすまいな?

 パイロットとメンテナンスを真上から見る状態でしばしデッキに浮遊してしまう副艦長だ。みんな声を掛けずらいみたいだな。

「ようし、今度こそ……」

 整備用に張り巡らされたラインやら何やらを取っかかりにすっかり肥満気味の身体を真下に向けて固定、どのくらいの力加減で飛び立てば無難に目的地までたどりつけるか算段する。
 お山の大将と整備士くんの会話が気になるので耳をそばだてながら、タイミングを見計らった。
 さっきよりは近づいたからそれなり聞こえるのだが、やはりまだ若い新人のメカニックみたいだな?
 たどたどしい会話にちょっと好感が持てるおじさんだ。

「あっ、あのっ、あのあの、聞こえるでありましょうか? 大尉どのっ! たっ、大尉どのっ、あの~~~、あのであります、ガッ、ガイアっ、あの、おつかれさまでありますっ!! 無事のご帰還何よりでありますっ、聞こえてないのでありましょうかっ? だっ、だったら、大好きでありますっ、昔から大ファンでありますっ! 黒い三連星、めちゃくちゃカッコイイでありますっ!!!」

 ちょっと耳を疑う俺だった。

 コイツ、なに言ってるんだ?? 

 たぶん相手が聞こえてないのだろうから最後のあたりはぶっちゃけているのだろうが、あいにく背後で聞いてるヤツがいる。
 まあこのぶんなら周りにも触れ回ってみんな周知のことなんだろうが。でもそのクセ本人には伝えてないのか?
 ということは……。

「あいつも隠れて推し活してるのか! めちゃくちゃ不器用だな! というか、メカニックにそんなヤツがいるの、めちゃくちゃパイロット冥利につきるんじゃないのか? 打ってつけすぎる!!」

 感心を通り越してもはや感動すらおぼえる同じ推し活の同士のおじさんが見ている前で、健気な新人メンテナンスの若者は推しの凄腕パイロットの間近にまで迫った。

 胸の内バクバクなんだろうな? いやいや、顔が真っ赤だろう! なんでそんな老害みたない中年パイロットに?

 見ているこっちまでハラハラするが、果たして周りの気配にやっと気がついたらしい当の推し、もといリック・ドムの使い手のパイロットスーツは、おもむろにこのメットのバイザーを上げてその素顔をさらす。じぶんを真上から見下ろしている熱烈なファンに、じろりと冷めた視線を向けた。でぶちんくんの身体がびくっと硬直するのが後ろで見ていてわかったが、すぐにも脱力するのがこれもまたはっきりとわかった。かわいそうに。

「んっ、なんだ、またおまえか? いちいち出迎えになんて来なくていいと言っただろう! 仕事をしろ、おまえの仕事はコイツの面倒を見ることなんだから。違うか?」

「もっ、もちろんそのつもりでありますっ! でで、ですが、大尉どのの調子とご意見を伺うのも大事な仕事でありますっ! お心遣いありがとうございます!! とにかくご無事でなによりでありますっ、じぶんは、その、とても光栄でありましてっ、泣きそうでありますっ!!」

「は、何がだ? おまえ変なヤツだよな? まだ若いくせに腕はいいから文句はないが、もうちょっと肩の力抜いたらどうだ? 緊張しすぎなんだよ、見ていてこっちが疲れる! あとおまえ、名前なんつったっけ? デイビッド? 覚えてやるから」

 名前もまだろくに覚えてもらえてないのか。
 がっくりと落ちる肩に、もっとがんばれと念を送りながらこの推し活おじさんもただちに援護射撃に撃って出た。
 余計なお世話にならないように気をつけながら。

「ガイア大尉! おつとめご苦労!! また戦果を上げたな? 三人そろって老後は安泰だ。うらやましい限りだよ! よう、おまえもありがとうな! はは、俺にも名前、聞かせてくれないか?」

「なんだ、横からいきなり? ブリッジの人間がこんなところに我が物顔で出しゃばって来るんじゃねえよ、あとよくも置いて行きやがったな! おまえにはいろいろと話があるんだっ……」

「わかった! 後で聞く。それよりも今は取り込んでいるんだろう? な?」

 はいはいと肩をすくめさせながらニヤけた視線を緊張した面持ちで固まる若手のメカニックに向けると、なおさら緊張した不細工くんは無理に直立した姿勢を取って律儀な敬礼を返してきた。
 けっこうけっこう! これは俄然応援してやれるぞ。

 やることなすこと初初しいメカニックスーツの青年は、ちょっとうわずった調子で声を張り上げる。よっ、青春!

「はっ、は! お気遣いありがとございますっ!! じ、じぶんはっ、でい、デーミスと、いいますっ、MS09およびMS15系限定のメンテナンス技術兵としてこちらに配属されました! まだ若輩者ながら、どうかご指導よろしくお願いします!!」

「ほお、そうか。デーミスだな。やけに若いと思ったら、ドムとゲルググあたりに限定って、そりゃ仕方ないよな! こんな最前線のとっちらかった現場に放り込まれちまうのも? まあ本人的には、願ったり叶ったりなんだろうが……おほん!」

「デーミスか、とりあえず覚えてはやるよ。ザクは見れねえのか? 使い勝手が悪いヤツだな! 一番汎用性が高い機体なのに、現場なら基本中の基本だろうさ」

「は、はあっ、じぶんはその、大尉どのの大ファン、あ! じゃなくて、ドムのような独特かつ重厚な機体が好みでして、おまけにこのガタイですので、おまえはあっちのいかついのやれっ! てよく周りからも言われてしまいまして……!」

「おまえ、バカなのか?」

「おほん! 昨今は人員から何から逼迫(ひっぱく)していて、現場に早急に人手を送り出すためにはもはや仕方がないんだよ。新型機が出回っても現場がそれに付いていけなくちゃどうにもだろう? このデーミスみたいな即戦力は必要不可欠なんだ、おまえもちゃんとファンサ……じゃなくて、世話してやれよ。こんな有能な味方、そうはいないぞ?」

「何を言っているんだよ? おい新人、そういやおまえが言っていたこと、それなりには役に立ったぞ? 上から下までフル装備じゃなくて獲物をしぼって機体をスリムにしたほうが、障害物だらけの暗礁宙域を突破するには適当だろうっての、いざやったらみんな納得だ。ありがとうよ」

「そ、そんな、もったいないお言葉! はっ、めちゃくちゃ感動であります!!」

「俺だってそのくらい言うぞ? ちゃんとデーミスって呼んでやれ。バカは誰なんだか……! まあいい、話の前にやることやっておこう。忙しいところ悪いが、おまえも手伝ってくれないか? まずはこの大尉どのを医務室に連れて行く! 任務終了後のメディカルチェックはパイロットの義務なんだからな? ようし、暴れられたらあぶないからおまえもそっちから抑えてくれ、この素行不良のエースさまを!」

「なんでそうなる? 必要ない、オレはピンピンしてる。時間の無駄だろう、おいっ、なんだ!」

 ファンサービスがからきしできやしない有名パイロットを脇から抑えて、もう一方の脇を押さえろとデーミスにうながす。
 はじめ目を白黒させてたじろぐオタクの青年は、なおさらその顔を真っ赤にさせて、大きな深呼吸して覚悟を決めたのか?
 みずからの緑のノーマルスーツを黒いパイロットスーツへとぐぐっと強く押しつけた。しっかりと推しを確保だ。

 よしよし、しっかり感触を覚えておくんだぞ、なんなら頬ずりしたっていい! セクハラなんて言わせやしないさ。
 当人、わざわざヘルメットを脱いで来たってことは、それだけ身近にこのおっさん兵士の息づかいを感じたかったんだろう。
 健気で献身的なガチのファンだ。いくらだってやりがい搾取できるぞ? いや、させやしないが。本人も無自覚だからな!

「し、失礼いたします、ガイア大尉どの! わあ、思ったより小柄だけど筋肉質であります! さすがであります!! ジーク・ジオンでありますっ! めちゃくちゃ感動でありますっ!!」

 感情が爆発しているらしい。
 今や全身身震いさせて黒い猛獣にしがみつく怖い物知らずの若造に、ただごとでない親近感がわくおじさんだった。

「おまえ、ほんとうにバカなんだな! いや、いいことだ。上官としてとてもありがたい! 負ける気がしないからな! その調子でこれからも黒い三連星のバックアップは任せるぞ、もっとしっかり掴まないと逃げられる! 羽交い締めにしてやれ!!」

「りょ、了解! し、幸せでありますっ!!」

「な、何をしやがるっ、こら、離せっ! おい若造、調子に乗るなよ、このオレは黒い三連星のガイアだぞ!?」

「だからだよ! いいファンがついて鬼に金棒だろう? 連邦の白いヤツとの再戦も間近かもしれないが、少佐以外にも勝ちが見えてきたのかもしれないな! けっこうけっこう!!」

 作戦終わったばかりなのに元気に暴れる隊長を二人がかりで医務室まで送り届けて、無事に今回の強襲作戦を終わらせた艦隊副長の俺であった。かくして推しは違えどおなじ推し活の友を得て、殺伐とした戦場にある種の潤いを感じられたよい一日だ。

 ああ、まことにめでたい! まさしく推し活万歳だな!!

 最後にブリッジに戻ったら、艦内の戦闘態勢を解除していなかったことを推しの少佐にやんわり指摘されて、あえなくこの顔が真っ赤になるおじさんである。うわ……!
 ほんとにバカばっかりだ。
 合掌――


 Scene2

  Part A

 
 俺の名は、ドレン。

 赤い彗星こと、シャア・アズナブル少佐が率いるムサイ艦隊の副艦長を務めている。階級は中尉。忙しい軍務を日々こなしながら、影ながら推しである少佐の『推し活』に励んでいる男だ。

「ふううっ、なんだか今日は、一日ずっと散々だった気がするな? 気のせいか??」

 最初から最後までドタバタ続きだった連邦の別働部隊への強襲作戦がどうにか無事に終わり、今は艦内の自室にこもって明日への鋭気を養う中年太りのおじさんである。
 そう。戦局は厳しく、連邦のように物資や人員に恵まれてもいない我らジオン公国の巡洋艦では、交代制もへったくれもない。
 休めるときにしっかりと休んでおかないとな!
 戦士にも休息は必要だ。

 立場的には、ムサイ級が三隻からなる艦隊の中でも上から数えて二番目となるあたり、艦内での居室はそれなりの広さのものが与えられていた。ありがたいことに。
 
 ごく一般の兵卒ならば、それこそ個室ではなく棺桶みたいなかろうじて身動きが取れるくらいの、ごくごく狭小なプライベートスペースしか確保ができない。
 パイロットなど一部の士官クラスでもなければ、個室など望むべくもないのだ。現にブリッジ・クルーの中でも専用の個室付きは、この俺と艦隊総司令の少佐ぐらいなものだろうか。

 ちなみにパイロットなら、確か隊長のガイアが個室で、マッシュとオルテガはふたりで一つだったはずだ。仕方ない。

 巡洋艦の胴体主部の左舷と右舷のふたつに分かれた居住ブロックには、いざという時に艦の運営に支障を来さないよう、各人員とそれぞれの居室がバランス良く分けられていた。
 この俺、副艦長のドレンが左舷の個室ならば、反対の右舷のブロックには、総司令である少佐の艦長室が配置される。
 パイロットもまた同様で、ガイアが左舷にいれば、その手下、もとい部下達のマッシュとオルテガの居室が右舷みたいな感じでだな? その他のクルーたちもやはり偏りがないようにそれぞれがばらけて乗艦していた。

「…………」

 部屋の照明を落とした中で、何をするでもなくぼうっと天井を見つめていた俺だ。
 まんじりともせぬまま、今回の戦闘におけるガイアのリック・ドム小隊の主にMS戦に対する戦術レポートを枕元の小型ディスプレイに映して、それをぼんやり眺めたりもする。

 機体の戦闘記録レコーダから情報収集したものを戦術AIが独自に解析したものだな。だがすぐにディスプレイを消して無重力にこの身を投げ出した。重力がないから形ばかりのベッドなど意味をなさない。太い固定ベルトでこの肥満体をがっちり押さえ込まないと安定して安眠できないのだが、いざという時にすぐさま飛び起きれなくなるから、個人的にはあまり使いたくはなかった。

 結果として狭小なカプセル型の寝室をそれぞれに与えられる一般兵たちと同様に、対衝撃吸収軟性樹脂でボコボコと固められたこの部屋の角っこで、なおかつこの体勢を固定できるネット型の寝袋を利用するのが大半だった。

「ふあっ……! そろそろ寝るか……ん?」

 他にやることが思い浮かばないのでさっさと寝ようかと思ったその矢先に、部屋に来客があることを示す、チャイムが鳴った。

 誰だ? 今ごろ?

 頭の中では特定の人物の顔が思い浮かんでいた俺だが、ドア横の小型ディスプレイに映るその顔にやはりと納得する。

 ある程度の予測はしていたからな?

 それだからドア越しろくなやりとりもなしに無言で部屋のドアを開ける俺である。無重力の艦内ではこのすぐ目の前に頭が来る、やや小太りで小柄で、おまけむすりとした無愛想な中年男と無言でしばし見つめ合って、その首から下を見てはちょっとだけ意外そうに目を丸くする。

「珍しいな? パイロットスーツ以外の姿だなんて? おまえもそんな制服、持っていたのか……!」

 いつもは見慣れたMS用のカッチリとした専用の黒いパイロットスーツか、いっそのことプライベートの私服ぐらいしか見たことがないので、通常のジオン軍兵士の制服を着た黒い三連星の図はかなりのレアものだろう。

 だがすると浮かない顔で今にも唾棄でもしそうな不機嫌なさま(何でだよ??)の当人、ガイアはうそぶく。

「ふん、どうでもいいだろう? おかげさまでメディカルチェックの時に(パイロット)スーツはクリーニングに取り上げられた。わざわざ私服なんざ持ち込まないから、あいにくこれしかない」

「それはいいんだが、おまえも上級の士官なんだから、胸飾りくらいは付けたらどうなんだよ。それじゃ平の一兵卒じゃないか? めちゃくちゃ違和感があるぞ……ん、というか、なんだ、おまえ?」

 改めてそのひげヅラの顔を見やるにつけ、そこにまたこれまでとは違ったある種の違和感を感じて、しげしげとこの不機嫌ヅラに見入る俺だ。めんどくさそうにこの視線を外すガイアは、なおのこと不機嫌に口元をゆがめる。

「別に、なんでもありやしない……!」

 ……こいつ、今ごろ思春期か? 

 まるで素直でない不良のパイロットにいささか嫌気がさして、これに対する副艦長は声にもはっきりとそれが出ていた。

「その顔だよ! ケガしてるだろう、まさかケンカしたのか? おいおい、こんな御時勢にMSパイロットの顔面に一発当てるだなんてとんだイカれた野郎だな? 問題だろう、まさか仲間割れだなんていいやすまいな?」

 あいにく気遣うよりも咎めるみたいな物言いに、やれやれと肩をすくめるヒゲおやじは開き直って茶化してくれる。
 ほんとに素直じゃないな。

「心配するな、ちゃんと倍にして返してやった。この俺の圧勝で一人勝ちだ……!」

「そういう問題じゃないんだよ! 艦を預かるこの身としては、乗員の士気が乱れるような騒ぎや勝手は放っておけないっ、いくらじぶんが凄腕のパイロットだからって……」

 ドアの手前に立ちふさがって通せんぼしたまま、思わずきつく睨み付ける。するとこの俺の視線にむっつりしたへの字口のおやじはどこかそっぽを向いて、やがてめんどくさそうに言った。

「ああそうか、だがあいにく問題を起こしたのはオレじゃねえ。そう、たまたま運悪く見かけちまったからな……!」

「??」

 こいつにしては何やら意味深なもったいつけた口ぶりだ。
 不可思議に見る俺に、口元のあたりに明らかに打撲の痕跡があるけんかっ早いドムのパイロットめは続ける。

「デーミスの野郎がな……」

「デーミス? あの新人のメカニックくんか? いやいや、そんな問題を起こすようにはちっとも見えなかったぞ?」

 やはりいぶかしく聞き返すのに、気分が悪そうにして誰かしらに殴られたのだろう青黒く変色した右の口端をみずからの手の甲でぬぐうガイアは、ついには反吐を吐くかの口ぶりだ。

「けっ……なあ、覚えているか、あいつはあの時、スーツのメットを被っていなかっただろう? なんでだと思う??」

「なんでって……? そりゃ、デッキにはもう空気(酸素)が満たされていたし、ならこの俺と一緒だろう? メットとか被ってるとどうしても視界が狭くなるからな!」

 そのくらいしか理由が思い浮かばない俺は、なおのこときょとんとして目の前の凄腕パイロットを見返してしまう。
 いざって時には生命をつなぐ命綱だからそれは大事なものだが、戦闘態勢全解除の通常運航状態ならなくとも問題はない。
 なくしただなんて間抜けでもないことには。
 だがそれ以外にも別の可能性があることを次の言葉で知らされて、ただちにぎょっとなる俺だ。

 それはおよそ最悪のヤツにだな!

「あいつの首から下は、アザだらけだ……! 知っていたか?」

「なっ! そんな、それっておまえ、まさか……!!」

 いざという時に生命維持する上で必要不可欠なメットを持たない、その理由がよもや世の中において軍隊ならずともどこにでもはびこる人間の悪癖や性が原因なのだと理解して、身体中がカッと熱くなる。いやいや……!
 およそ許しがたい暴挙だ。
 あんな無垢な推し活青年に、陰湿かつ悪辣な暴力や嫌がらせだなんて、パイロットならずとも殺意を抱いてしまうだろう。

 あれ、殺してないよな??

 果たしてその現場をたまたま目撃してしまい、ほぼ反射的にみずからの拳を振り上げた熱血漢のMSパイロットだった。
 これにつき責めるような二の句が継げないこの俺は、周りの目を気にして部屋の中に入るようにこのMS隊長を促した。
 やむにやまれず内緒話だ。
 こうやって内々に処理しようとするのが愚かな悪習を絶てない理由なのかもしれないが、ことを荒立てるのも決してクレバーではない。
 あのまだ若く未来のあるメンテナンスの性格や立場を考えたら、なおさらだな……!

 正直、やったヤツらのことは許せないが、それよりも顔つきが ブサイクだがつぶらな瞳にきれいな輝きを宿した好青年のことが気にかかって仕方がないブサメンおじさんだった。
 まだ殺気がこの顔つきに色濃く残るガイアが言う。
 だいぶ本気で殴ったのだろう。
 おそらくは複数を?
 
「あいつはとりあえずオレの部屋に閉じ込めてかくまっている。メンタルやられちまってるようだが、まあ大丈夫だろう。メディカルチェックは受けさせるが、軍医のおやじには口止めしておいたほうが良さそうだな……」

「それは任せてくれていい。あいつは無事なんだな? だったら……」

 どうしたものかと暗澹たる思いに駆られる俺だが、折しもそこでまた新たな来客を知らせるチャイムが鳴るのだ。

 ほんとに誰だよ、こんな時間に?

 怪訝に思ってまたドアのインターホンのカメラを覗く俺は、ガイアへと視線を向ける。

「お客さんだ。ただしおまえさんへのだな? ほら!」

 ドアを開けると、そこには二人のドムのパイロットたちがいた。つまりはこの隊長の部下の、マッシュとオルテガだな!
 なんでここにいるがわかったのやら。

 加えてどちらも非番のくせにがっちがちのパイロットスーツに身を固めてるってあたりがやる気満々なのを教えてくれるが、ケンカ上等はもはや隊長譲りなのか?
 艦を降りたらルームシェアまでしてる一蓮托生の同士のアザありの顔面を見るなり、ますます殺気だって意気込む野郎どもだ。

「おい隊長、話は聞いたぜ? まったくこの黒い三連星に戦いを挑むだなんてどんな世間知らずの馬鹿野郎どもなんだ! こいつはきっちりとカタを付けてやらなくちゃな!!」

「ガイアの兄い、水くせえぜ! やるなら声をかけてくれよっ、今からだってこのおれがぶちのめしてやるからよぉ!!」

 力の加減がわかってるのなら構わないが、そうでないなら遠慮願いたい。見るからに堅気でない素顔をさらしたヤクザ崩れのパイロットたちは今にも殴り込みに行きかねない語気の荒さだが、冷めた口調のリーダー格に軽くいなされた。それでいい。

「悪いがもう終わった。ケリは付いている。わざわざ向こうのブロックから来やがったのか? 寝てりゃいいものを……」

 内心は嬉しいくせにそんなものをおくびにも出さないシャイなヒゲおやじは、ちょっと考えたそぶりをしてまた言い直した。

「悪いな、兄弟たち、でもだったらこのオレの部屋に行って、あいつを見てやってくれないか? デーミスのことを……若いが頼りになるメカニックだ。09のことを良く熟知してくれてやがる。わかるだろう?」

 お、ちゃんと名前を覚えているんだな?

 やっぱり面倒見のいい隊長さんは、言うなれば四番目の隊員とでも位置づけているのだろう若手の整備士を二番手と三番手の仲間たちに託す。
 いい判断だな。あいつのことを自室に隔離したことといい。

 これに対して、すぐさま熱い眼差しでこくりとうなずくや了解するバカどもだ。ヤクザ脳はどこまで行っても堅気になれない。

「……わかった! つまりはそのメカニックの若いのになめたマネをしくさった首謀者どもの名前を吐かせて、そいつらをきっちり締め上げればいいんだな? このおれとオルテガとで!!」

「ガッテン!! 死なない程度にまとめてぶちのめしてやるぜぇっ、二度とこのおれたちに刃向かえないようによぉ!! そのかわいそうなメカニックの前で裸にひんむいて泣かせてやらあ!!」

 やめてくれ。ああ、こいつらも中に引き入れてドアをきっちりと閉めておくべきだったな。でかい声で話しが全部筒抜けなのにほとほと嫌気がさす俺だ。
 顔が上気してる仲間たちの荒ぶったさまをむしろ冷めた目線で眺める隊長のガイアは、やはり冷めた口調で返す。

「……まあそれでも構わないが、にらみを利かせるくらいにしておいてやれ。それよりもあいつの身体を見てやってくれよ。そのへんの手当はお手の物だろう? 医務室の世話にはなりたくない。あと、あいつの名前は、デーミスだ。よく覚えとけ……!」

 覚えてる! ちゃんと覚えてる!! えらいぞ、それもれっきとしたファンサだからな!?

 そうとも、それだけであいつはとっても勇気づけられるし、周りの態度もおのずと変わってくるだろう。
 この俺もちゃんと名前で呼んでやろうと心に決めた。
 さしあたって、新しいヘルメットを用意してやらないとな?

 黒いパイロットスーツの二人組を目で追い払ってドアを閉めると、難しいツラのおやじと改めて真顔で向かい合う部屋の主だ。

「良くやってくれた。大事になる前に食い止められたからな? あと、あいつのことは俺が面倒を見るから、ダメならこちらで引き取る。パイロットが余計なことに気を割いてられないだろう」

 俺からの申し出に、何食わぬ顔のガイアは相変わらずの冷めた目つきで返す。とことん素直じゃないな。

「いいのか? まさかそれでおしまいってわけでもあるまいが? あいつは事実、傷ついているからな」

「人員の配置転換は容易だ。他に僚艦が二隻もいるんだからどうにでもなる。名前がわかればな?」

 この立場上でいくらでも対応してやれると太鼓判を押してやるに、はじめてへの字に曲げた口元をにんまりさせる心底、根性悪のエースパイロットさまだ。ぬけぬけと言った。

「任せろ。どいつも顔面をしたたかにどつき回してやったから、顔を見れば一目瞭然だ。前歯へし折ったヤツもいたよな? わざわざ名前なんか聞き出す必要はありやしねえ……!」

「わかった。すぐに対処する。よもや殺してないんだよな?」

 ほんとにドタバタ続きで嫌気がさすが、これが軍隊であり、戦場ってものなのだろう。何かまだ言いたいことがありそうなリック・ドム小隊の隊長のヒゲおやじを見つめながら、なぜかなじみのブリッジクルーの操舵士の顔を思い浮かべていた俺だ。

 あいつの名前、なんていったかな?

 ちゃんと覚えておかないと。あいつはそんな厄介ごとには無縁な感じだが、もし関わっていたとしたら俺はどうするのだろう?

 考えさせられてしまうが、おかげでその顔を見るのがちょっと怖くもなった。それでガイアにおそるおそるに尋ねたりするのだが、それでまた機嫌を悪くする隊長さんには顔つききょとんとなるばかりの俺である。

 まっこと、世の中ってのは一筋縄には行かないものらしく。 

  Part B


 やっと落ち着いたかと思ったら、またちょっと険悪な雰囲気が流れて、自室なのに居心地が悪く思う艦隊副司令のこの俺だ。

 相変わらず不機嫌にむっつりしたさまのドムのパイロットは、何故だか真顔でこっちをにらんでいる。

 気のせいじゃないよな?

 だがあの若手のメカニックのこと以外でまだ怒ることがあるのかと首を傾げる俺だったが、内心の思いを悟られないように適当に話題をはぐらかした。でないとめんどくさそうだ。

「まったく、こっちはそろそろ寝ようかと思っていたのに、飛んだ邪魔が入ったものだな……! とりあえず水でも飲むか? あるいは……やることなんてないよな??」

 とうとう相手に聞いてしまうが、ひとの話にあまり乗り気でもないヒゲづらは冷めた目つきでアゴを振った。

「……いらん。余計な気を遣うな。オレも邪魔しちまっているんだからな?」

 じゃあとっとと出て行けよ! なんてことも言えないままに、それきり言葉に詰まるこの俺だ。

 どうしたもんだか……?

 こうやって軍で顔を合わせている時以外は、どんな顔して会話していたのかとんと思い出せないで困惑することしきりだ。
 そんな困っている部屋の主を気の毒にでも思ったのか、仕方もなさそうな感じで招かれざる客のMS小隊隊長が口を開く。

「悪いな。やっぱり水をもらおうか。ちょっとした運動をしたから、喉が渇いてきた……! 酒はないのか?」

 やれやれ、勝手にひとんちに上がり込んで好き勝手言いやがるのはどこでも同じだな!

 ちょっと呆れて見返す俺だ。
 すると向こうはツイと目を逸らしやがる。
 思春期のガキじゃあるまいにだな。
 酒はないときっぱり断って、備え付けの冷蔵庫の中から二人分のボトルを取り出す。ひとつをゆっくりと来客の胸元へと放った。水が入った透明のボトルが音もなく無重力を渡ってその先の相手の手のひらにおさまる。無言でボトルを開けて、ふたりほぼ同時のタイミングで冷たい水を喉へと流し込んだ。

 あんまり味がしないな。

 会話に詰まったきりで、しまいには仕方もなし皮肉っぽい文句がだだ漏れるおじさんだ。

「ふう、ちょっとした運動って、若いの相手に大立ち回りしたんだろ? 顔にキズまで作って……! 一応手当するか? 救急箱ってどこにあったかなぁ?? そういや、今ごろあの若いメカニックもあいつらに手当してもらってるのか? 三者三様のブサイクどもが、あんまり絵面として思い浮かばないが……!」

 普段から片づいていない部屋の物置と化したベッド周りに視線を巡らせる。あいにくとそれらしいものが見当たらなかったが、当の怪我人は迷惑そうなツラで舌打ちくれる。

「デーミスと呼べ。顔が悪いのは罪なのか? いいや、余計なお世話だ。それにこんなものは放っておけばじきに治る。ヤツのことはあいつらに任せておけばいい。それよりもいいのか? あいつをおまえに……」

 お、意外と気に入っているんだな、あいつのこと?

 なにやら浮かない顔だが、さては行き場をなくしたあの若いメカニックをこちらで引き取ると言ったことを気にしているのか。

 別にそう大したことじゃない。

 せいぜいほとぼりが冷めるまで、あいつの気が紛れるまでだ。
 あと他にもこちらとしては目論見があるのだが、それを入り口のドア付近に背中を預ける凄腕のMSパイロットがズバリで言い当ててくれた。普段は性格がさつなくせに、こういうところは良く勘が働く。

「ふん。親切な人助けと見せかけておいて、実はあいつのメカニックとしての手腕に興味があるんだろう? 09と新型のゲルググのメンテに長けているって話だものな? つまりはそうだ、おまえの推しが乗るっていう噂の、アレだよ」

「さあて、どうだかな……?」

 しらばっくれはするものの、ちょっと白々しい猿芝居か。 
 噂でなくて事実なのだが、まだ機体の納入時期自体は未定だ。
 ぶっちゃけ本当に来るのか怪しいくらいだが、それと一緒に配属されるはずの専属のメンテナンス要員はほぼ絶望的らしい。
 
 我が軍はまことに人手が足りない。

 いざ来れば本艦の同じMSドックに収まるのだから、これの整備点検が専門職であるデーミスの手はいやが上にも借りることになるはずだ。もういっそのことそっちの主任にでもしてやりたいところだが、それはガイアたちが許さないだろう。
 そんな内心の思いをまた見抜いたのか、やけに冷めた顔で枯れたセリフをぬかしてくれるリック・ドムのパイロットだ。

「図星だな? 言っておくが、あいつはおまえの推しのあのキザな少佐には渡さんぜ? あくまでオレたちの主任メカニックだ。オレが決めた。あいつもそれを望んでいるのだろうしな」

「ぐうの音も出ないな……! その通りだ。だが少しくらいは手を貸してくれてもいいだろう? ああ、なんならこの部屋自由に使わせてやってもいいし! 俺もあいつのことは嫌いじゃない。変な意味じゃなくてだな?」

「あたりまえだ。変な意味? おまえ……ん、じゃあとりあえずあいつのことは任せる。いや、そうか、だったらオレの部屋をこのままあいつにやっちまって、オレがここに居座るってのもありじゃないのか? 変わらんだろう」

 乾いたヒゲづらが何食わぬさまでしれっと言ってのけたセリフには、すかさず食い気味に反応する俺だ。

「全然違う! 馬鹿なことを言っているヒマがあるなら、とっとと帰れよ、俺もさっさと寝させてもらうから! なあ?」

「ちっ、けちなヤツめ! 悪いがしばらくかまってくれ。知っての通りで不可抗力だ。ものがあるならうまいつまみでも作ってやろうか? ここなら簡易式のキッチンくらいあるんだろう。オレのところにはないんだが……」

「本来は必要ないだろう。しょせんこんなやりにくい無重力の中じゃ、俺も使ったことがない。トイレだってあっても掃除が面倒だからここのは使わないくらいだからな!」

 もうどうでもよくなって、なるようになれとばかり部屋の真ん中で大の字に身体を広げる副艦長だ。

 まったくお手上げだな!

 こっちまで不機嫌ヅラになっちまう。
 すると背後のドアを軽く蹴り上げて部屋の真ん中に身体を流してくるガイアが、器用に身体をねじってその顔をこの前へと近づけてくる。パイロットは体幹がいい。
 よく見ると髪も乱れているが、触ればどこかにたんこぶくらいありそうだな? やっぱりメディカルチェック受けたほうがいいんじゃないかと思い始めるのを、見透かしたかに目を細めて文句をたれる闖入者だ。

「何を考えてやがる? いらん心配をするな。このオレはあんなガキじゃない。ん、おまえそれ、見慣れない服を着ているな?」

 変にひとのことをジロジロ見ていると思ったら、そんなこと気にしてたのか? 飾りのないガイアの軍服と一緒で、のっぺりとした上下とも灰色のトレーナーの俺は答える。

「いいだろう。軍服で寝るのはしんどいから、最低限度のマナーだ。パンツ一丁じゃいざって時にはばかられる。これなら上から制服着られるし、ノーマルスーツも楽に着込めるしな?」

「貧相なダメおやじだな。役付の士官が部屋から出られまい? ヘタすりゃ幻滅されちまうぞ……」

「は、誰にだよ? いいトシしてみっともないのはわかっているが、部屋着なんてこんなもんだろう。少佐の前では間違ってもしないから大事はない! ボロは着てても心は錦って、どこかの国の格言だよな? この俺自体の中身は変わらないさ」

「規律がうんぬん言ってる人間がとんだ二枚舌だ。オレも嫌いじゃないが、若いヤツらの格好だろう。デーミスみたいな? あるいはおまえのお気に入りのあの若い操舵士とか? 最近ちらちら顔を出してくるよな……」

 意外な人間が出てきて目をぱちくりさせる参謀のおじさんだ。
 ちょっと含むところがある言いように怪訝に眉をひそめる。

「お気に入り? なんのことだよ、確かに気が利くヤツで頼りにはしてるが、バルダはただの操舵士で、たまたま近くにいるから顔が見切れているだけだぞ? 悪意なんてありゃしないんだ」

 とっさに出てきた当人の名前に安堵する俺に、あちらは不服げにヒゲだらけの口元をひん曲げる。

「どうだか? オレにはけっこうなアピールをかましているように見えるぞ。実際、仲良さそうだものな? ふうん……」

「何を言っているんだ? お互いに良好な関係を保っているならいいことじゃないか。こんなおじさんとあんな若いのが?」

「程度による。おい、おまえはデリカシーがないばかりか、感受性にも乏しいのか? あんなに間近にいやがるのに、やれやれ、とんでもない損をしているぞ……オレから言わせたらな?」

「さっぱりわからないな? いいや世の中、損得ばかりじゃないだろう」

 目の前のひげヅラの言わんとしていることがさっぱりでほとほと困り果てる中年太りのおじさんだ。
 ただがそれにいかめしい面構えをプイと横にそむけるヒゲのおやじは、おまけに何やらもったいつけた物言いで引導を渡してくれる。いやはや、意味がわからないぞ?
 
「損はしている。せっかくいいものやろうと思ったのに、その気が失せた。よってまた次回におあずけだ……バカめ!」

「はぁ、子供じゃあるまいに? いいものって何だよ??」

「いいものだ。泣いて喜ぶぞ? このオレの切り札だからな! 最前線でMSを駆る……! だからこそただでは惜しいだろう。欲しかったら相応のものと交換だ。別に物品でとは言わない」

「?」

 頭の中がハテナだらけで首を傾げるばかりの俺だ。
 片目をつむってこちらに視線を投じるドムの使い手は、獲物をロックオンしたかの顔つきで言葉の砲火を浴びせてくる。
 見事命中とまではいかないが、けっこうな至近弾だな?

「今どきじゃ下手な金品よりも情報のほうが価値があったりするだろう? だったら教えろよ、このオレにも、この戦いにおける真実、本当のこととかをな!」

「……??」

 この顔に暗い影が走るのが自分でもわかった。

 そう、まんまと痛いところを突かれてるよな?

 不覚にも表情が固まるこの副官さまだ。
 エースパイロットは追撃の手を緩めない。

「このまだるっこしい追撃戦の先にあるものだとかな。これまで連邦の木馬につかず離れずで追いかけっこを演じちゃいるが、追撃とか討伐とかもっともらしいこと言いつつも、その実のところで本当は何を狙っている? 本部のヤツらは? もしくは……」

 意識的に間を置くのに、まんまと生唾ごくりと飲み込む根がとっても正直者なおじさんである。
 感触ありの表情で、凄腕のMSハンターが核心に迫る。

「そうさな、あの素性の知れねえキザな仮面野郎の、その真の目的とは、なんだ??」

 この俺もまだすべては測りかねていることだ。
 ただしある程度の予測はしている。
 だがついて行くのみだな。

 赤い彗星、この俺の推しに……!!


 


服装

デーミス

ドム ゲルググ

バルダ

追撃戦 本当の目的? 



プロット
Scene1
ムサイ級 MSドック ← ドレン
黒い三連星のリック・ドム帰還 ガイア
MSデッキ 戦闘態勢解除につき、 空気あり
メディカルチェック メカニック(デーミス?)
メカニックはガイアの大ファン?ガイアは無関心

Scene2
ドレンの個室 ← ガイア(制服?)
少佐の戦闘データ(動画)入手
ガイアは操舵士とドレンの仲を疑っている?




ストーリーとイラストは随時に更新されます(^o^)たぶん

カテゴリー
SF小説 ガンダム ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

機動戦士ガン○ムの二次創作パロディをやっているよ!

まさかのあのおじさんキャラが主役でーす(^o^)

 タイトル

『俺の推し!』

 まさかのドレン、赤い彗星、シャア・アズナブルの副官のおじさんジオン兵(少尉?中尉?最終的には大尉だっけ??)が主役のおはなしですw 本来の主役のはずアムロとシャアそっちのけでジオン軍のおじさんが元気に推し活してまーすwww

まずは冒頭のナレーションから…

宇宙世紀0079…
 中略
人類は自らの行いに恐怖した…

「ドレン、艦は任せる…!」

「は! お任せください、シャア少佐!!」

 彼の名は、シャア・アズナブル――。

 またの名を「赤い彗星のシャア」――。

 その素顔を怪しき仮面に隠した謎多き人物であるが、しかるにその驚くべき実態は…!

 これは、仇敵であるザビ家への復讐を誓い、一年戦争を舞台に波乱の人生を駆け抜ける悲運のヒーローを、すぐ間近から陰ながら推しているおじさんの物語である。


「よし! 今日もかっこいいです! シャア少佐!!」


『俺の推し!』

 ガン○ムのいろんなキャラクター、主に脇役をメインにしていろんなお話をやらかしていきますw
   メインキャスト(予定)
ドレン(シャアの参謀?)
ガイア(黒い三連星のリーダー格?)
とりあえずシャアとアムロ
ランバ・ラル マ・クベ
ドズル・ザビ コンスコン ハマーン・カーン アナベル・ガトー クリスチーナ・マッケンジー カイ・シデン ハヤト・コバヤシ リュウ・ホセイ マッシュ オルテガ ララァ・スン エグザベ・オリベ セイラ・マス ブライト・ノア ミライ・ヤシマ

 まずはダイジェストでお話をやってみて、需要があればさらに堀り込むストロングスタイルでやっていきまーす(^o^)
    ↓オリジナルの創作ノベルはこちら(^^)↓

ストーリー NO.1

 サイド3(たぶん)にて…

『ドレンとガイア』


  Scene1


 俺の名は、ドレン。
 
 ジオン宇宙攻撃軍の士官だ。
 これでもムサイ級戦艦の指揮を執るくらいの立場にはある。
 そこそこ、偉い……はずだ。
 
 おほん! 
 
 だがそんな軍人にだって日常、プライベートはもちろんある。
 軍艦を下りたら、そこにいるのはただのおじさんだ。
 冴えない中年の見てくれした。
 それだからこの町中、みずからが乗り組む軍艦の駐留しているコロニーのどこぞにでもフツーにいたりはする。

 で、俺は今、行きつけのホビーショップのレジ前にいた。
 かねてから手に入れようと思っていた、プラモデルのでかい箱入りキットを大事にこの手にして。
 意気揚々とした気分でお宝を購入するべくレジの店長のおやじに箱を差し出したのだが、するとまったく同じタイミングでこの横からもプラモの箱を突き出す影、何者かがいた。
 この俺の真横、すぐ右隣に気配もなくつけてきたのか。

 ん……ひょっとして軍人か?

 あまりにも気配の殺しかたがうまいのに勘ぐってしまうが、それ以上に差し出されたブツにただならぬ違和感を感じてしまう。

「んっ……!」

 意識せずとも視界の隅に入るその妙ちくりんな見てくれをした、ド派手なカラーのMSだかMAだかが、この真ん中にでかでかと描かれた紙製の化粧箱にしばし見入ってしまう俺だった。

「(あ、今さらこんなの買うやついるのか?)……ザクレロ??」

 思わず言葉にしてしまって気まずい雰囲気になりかける。
 だが相手の中年の男らしきも、こちらの手の中にあるプラモをじっと凝視していたらしい。
 そうだ。その特徴的なゴツいシルエットでありながら高速機動が売りの重MSの図に、なにやら思うところがあるのか?
 やがてこの目線が上へと向けられてくる。
 こちらも自然と右手の男の顔へと視線を向けてしまって、だがそこでピキリとふたりして凍り付いてしまった。

 うわ、よもや知ってるヤツとこんなところで遭遇してしまうだなんて……! しかもコイツ、けっこうな有名人だろ?? いわゆるモビルスーツのパイロット界隈じゃ……!

「えっ? は、えぇっ? はあっ!?」

 互いに顔を認めるなり再び手元の箱を凝視、またしても互いの顔をマジマジとガン見してしまう。内心で思うところはあるものの、気まずい雰囲気で黙り込んだ。それ以上は言葉もないまま、ただ黙々と精算を済ませるおじさんたちなのだった。


Scene2


 まいどあり~~~!

 なじみの店のハゲおやじの店長に見送られて、ふたりでそろって店先に出て、それきり気まずい雰囲気のままに立ち尽くすふたりのおじさんたちだった。
 俺としてはとっととその場からずらかりたかったのだが、この右手に立つ歴戦のパイロットめがなにやらおかしな殺気めいたものを放っているのをひしひしと感じてしまう。
 うかつには背中をさらせない。ひたいにいやな汗がにじむのをいやでも実感していた。軍服着てないのがモロ致命的だ。

 めんどくせえなあ……!

 決して口には出したりしないが、言うなれば階級が上でしかも有名人の上官どのに出くわして、どうしたものかと考えあぐねる俺だった。あちらからしても、同じ宇宙軍所属の士官であるこの俺のことはわかっているはずだ。

 だからこんな気まずいんだし。

 今さらながらテキトーに敬礼かましてさっさととんずらしようかとハラを決めかけたタイミングで、問題の上官どのがなにやらぼそっと口にする。あらら、残念! 先を越されてしまった。 

 ちまたじゃ『黒い三連星』とかしゃれた異名を持つ三人組のリーダー格の男が、低く抑えた声音で上目遣いで言ってくれる。
 悪いが背丈はこちらのほうが上だ。あいにくフルネームまでは知らないが、この大尉どのは見るからに背が低くてらっしゃる。
 果たしてガイアと呼ばれるひげ面のおやじは鋭いまなざしで切り出した。俺はちょっと耳を疑ってしまう。

「……おまえさ、09、好きなの?」

 ……はい?

 意外な問いかけにはじめ目が点になる俺だ。
 その後に小さく舌打ちして、空返事をしてしまう。

「(チッ……うるせえな? ドムって言えよ、フツーに、このガノタが!)……ああ、いや別に、単にデザインが気に入ってるだけで。セールでゲルググより安かったし……」

 ちょっと目のやりどころに困りながらテキトーに返事をしてやるに、相手のエース級パイロットさまも何食わぬさまでうなずいたみたいだ。驚いたこと、ちょっとまんざらでもなさげな調子で了解してくれる。そりゃてめえが愛機としているMSだからな!
 そざかし愛着ってものがあるんだろうが、こっちとしてはさしたるこだわりはない。

 ぶっちゃけ、安けりゃゲルググかエルメス買ってた。

 言うまいだが。
 歴戦の勇士、どっかの戦線では敵軍の将を生け捕りにして一躍有名パイロットの仲間入りを果たした重モビルスーツ・ドムの乗り手、ガイアはしれっと言ってくれる。

「そうか……だがいいセンスしてるぜ? おまえさん、だったら……」

 だったら??

 話の向きが思わぬ方向に行きそうな、それはただならぬ予感に内心で構えてしまう俺なのだが、ほんとに思いもよらぬ相手からの誘いにまたしてもこの耳を疑ってしまう。

「見せあいっこするか? このオレと、おまえのヤツとで??」

 はじめ何のことだか、何を見せ合うのかちんぷんかんぷんで固まってしまう。が、状況から目の前の上官の言わんとすることを察知して、死ぬほどたまげてしまう俺だった。

「(おまえのそのザクレロと!? なんで?? てか、おまえこそドム買えよ! 三個買え!!)……ああっ、いや、俺はただ単にキットを組み上げるってだけだから。そんなにオタクじゃないし」

 仮にも上官だ。ちょっと相手を怒らせてしまう言いようだったかとひやりとするが、当のドムのパイロットどのはまったく気にしたふうがない。それどころかこの俺のおざなりな返答になおのこと食いついてくる始末だ。


「ふうん? そうなのか。だがいいもんだぜ? 見栄えもするし、愛着もわく。なんならそいつの塗り方、教えてやろうか?」

「えっ、なんで……??」

 思わず相手と見つめ合ってしまって、それきりその場に固まってしまう中年おじさんだ。しばし反応に窮していてると、それをどうやら遠慮だか何かと勘違いしたエースパイロットは無言でくるりと踵を返す。
 ひとの尻を気安くパンと叩いておいて、またプラモ屋の中へと姿を消すのだった。

「そういやコイツの塗料を買い忘れてた。ついてこいでかいケツ! ついでにおまえのぶんも見繕ってやるよ……!」

「なんで??? あっ、いや、あのっ……!!」

 これが俺とあいつとの出会いだった。
 まさかこれをきっかけ、この腐れ縁がこの先ずっと続くとはつゆほども知らぬままに――。 

プロット
プラモ屋の店先 ガイアとドレンがなんでたっている。
ドレン中尉(大尉より)(ガイア大尉よりも階級が下)はなるべく関わりたくないので、無視して立ち去ろうとするが、ガイアに呼び止められる。結果、また店に戻ることに…!
 ※ドムの型式は、MS-09

 オリジナルの一次創作もやっているよ!!


ストーリーNO.2

 ムサイ級のMSドックにて……

『ドレンとガイア』②

まずはシャア専用?ムサイの設定を考えてみよう!
ブリッジは通常のものと形状が異なる?
MSは何機搭載している?
シャア専用ザク ドム三機?

Scene1

 
 我らが少佐率いるムサイ艦隊に、損耗したMS部隊の補強として、また新たに一個小隊が回されたてきた。
 過酷な最前線にふさわしい、かなりの手練れたちだ。
 そう。
 人呼んで、黒い三連星!
 戦場のMS乗りでこの異名を知らぬものはいまい。
 おまけ乗り込むのは元は陸戦用の重モビルスーツ、ドムを宇宙戦用に改装改良した新型の機体だ。まことによろこばしいことではあるのだが、俺の内心はかなりビミョーなものだった。
 理由は……!

「くそ、新参者がいきなり旗艦に乗り込んでくるだなんて、どれだけ自信過剰な自己中どもなんだ! いくら名の知れたエース級だからと言って……特にあの真ん中のガノタおやじ!」

 そんな文句が自然と口からだだ漏れる。
 新たな戦闘要員たちを迎えるべくブリッジからMSデッキへと降りた副艦長の俺は、浮かない顔つきでエアロックの解放サインを見上げていた。赤の点滅から緑の点灯に切り替わると、やがて分厚い気密ロックが解放される。大気のない真空状態の宇宙空間から酸素のある通常環境に移るには必須の手順だ。

 で、内側には思ったよりも少ないぽつんとした人影におやっと思うが、頑丈なパイロットスーツに身を包んだすんぐりむっくりした、見た目やや小柄な男が見るなりまっすぐこちらに向かってきた。

 無重力だから軽くフロアを一蹴りしてひとっとびで頭から突っ込んできやがる。遠慮がないさまにげんなりして腰まで引けてしまう俺だった。めんどくさいのがこの顔に丸わかりだったろう。
 それでもあちらはいけしゃあしゃあとぬかしてくれる。

「よう! 出迎えご苦労! 今日から世話になるぜ。部屋は当然こっちにあるんだよな? あと悪いが指揮官どのへのご挨拶はテキトーにそっちで済ませちまってくれ。そうだ、おまえさんの推しのあの若い少佐どのにはだな!」

「勝手なことを! 部屋の用意はできるが、本来なら……」

 この旗艦ではなくて、二番艦に着艦する予定だったはずなのを無理矢理ゴリ押ししてきた横暴なヤクザまがいどもだ。
 そんなものだからこっちは内心むかっ腹で非難のまなざしを向けるが、ヘルメットのゴーグルをあげて素顔をさらす強面のベテランパイロットめは澄ましたにやけヅラでせせら笑う。

「堅いことを言うな。オレとおまえの仲だろう? な?」

「くっ、勝手なことを……! それにどうしてひとりだけなんだ? ほかの二人は……」

 その異名のとおり、元来は三人組の荒くれた凄腕パイロットたちのはずなのに、今はこのリーダー格しか見当たらないのに不可思議に聞き返す。
 すると何食わぬさまではぐらかしたふうなものいいする小隊長どのだ。階級で言ったら上官なのだがほとほと性格難ありな大尉どのは、いっそうにやけた笑いでぬけぬけと言ってくれやがる。

「さあな? 来て早々、デッキのクルーどもと何やらもめていたみたいだが、興味がないからほうってきた。ガキじゃないからどうとでもなるだろ。おそらくはオルテガのヤツがまた着艦をとちったんだろうぜ。誘導員をスカートで引っかけたとか? 図体でかくて度胸はあるが何かとおおざっぱなのが玉に瑕だ……!」

「おいおい、そろいもそろって問題児だからって勘弁願う! そういうのを無難に収めるのが隊長であるおまえの役目じゃないのか? 着任早々、看過できない! こっちの立場も考えてくれ、ノーマルスーツを着込んで出ていくにも時間がかかるんだ!!」

 嘆かわしげに声を荒げるこの俺、ドレンにベテランのあほんだら、もといエースパイロットのガイアは失笑気味に肩をすくめる。ちっとも悪びれたそぶりがないのが本当に腹立たしかった。

「ほっとけ。乱闘なんかにゃなりゃしない。向こうにはマッシュもいるんだ。ま、あいつはあんな悪人面して対人交渉はお手の物だからな? うまいことやり過ごすさ。いつものことだ」

「ああ、あの無愛想な隻眼男か……ほんとに大丈夫なのか?」

「くどい。それよりも上官に対しての敬意がなくはないか? オレのほうが上のはずだが? 階級が上がったって聞いたが、それでもまだ中尉どのだろう、おまえさんは??」

 近頃は軍務以外で顔を合わせることが多いものだから自然とそのくせが出ていたのは確かだが、こちらも艦を任される立場にはある。他の乗員たちの手前、そうそう弱腰には出られない。

 いまいましいこと相手はやたらなネームバリューがあるからやや分が悪いのは承知の上で、あえて強気に出てやるのにあちらはからかいまじりで返してきやがる。

「噂には聞いていたが、あまりにも素行が悪いだろう? 規律が乱れるからやむをえない。艦の指揮を執る人間からしたらな?」

「はん。指揮を執ってるのはあの若くて素性の知れない若造だろう? 中間管理職はツライな! 赤い彗星てか? あんな派手なカラーリングで戦場に繰り出すなんてな気が知れないが、おまえさんがそうまで熱を上げるならそれなり見所があるんだろうよ。ただし、いざ戦果を上げさえすればこのオレたちも推すんだよな、なあ? このやたらにでかいケツの将校どのは!」

「悪いがそこまで偉くはない! あとケツがでかいのは生まれつきで、おまえのためじゃない! 気安く触るな!!」 

 にまりと笑って手を伸ばしてくれるのをとっさにこの身体をひねって直撃を避ける俺だ。こいつ油断してると当たり前みたいに無造作にひとのケツをもんできやがる。

 よほど女に飢えてるのか、よもやそっちの気があるのか?

 ぞっとしない俺は苦々しい顔つきで、その全身真っ黒なパイロットスーツに正面で向き合う。間近にこの顔を寄せようとしたら、ベテランの中年MS乗りはひとの身体にていっと蹴りをくれたその反動で無重力の室内を入り口までまんまとたどり着く。

 あっく、こいつめ……!

 艦内を移動するのに吸盤式のモバイルシューター(拳銃型の牽引装置)があるのだからそれで動けばいいものを、わざわざひとを足蹴にして! で、おまけに今さらそれを腰から抜き出して、あろうことかそいつをこっちに向けてくる大尉どのはにやけヅラが完全に極悪人のそれだ。

 ……ドビュン! 

 迷わず引き金を引いて弾丸代わりの吸盤をこのひとの腰回り、太いベルト部分に命中させる。頭のメットだったら迷わず本物の弾丸を撃ち返していたが、当てるなりにそいつでひとを身体ごと引き寄せる狼藉者に開いた口がふさがらない艦長代理だ。

 味方の人間相手にこんな無礼な使い方するか? いくら殺傷力がないからってガンタイプの獲物だぞ?? 親の顔が見たい。

「おまえっ、よくも!? くっ……!」

 強力な吸盤は銃身に巻き上げられない限りは解除ができない。
 いやが上にも至近距離で顔をつきあわせて、いかついメットの中でにやけヅラのやさぐれはタバコ臭い息でぬかした。

「とっとと案内しろよ。その無駄にでかいケツで誘導しろ。そうすりゃ迷うことないだろう。あとついでにおまえの部屋もな? はっは、せっかくこうしてご近所さんになったんだ!」

「ええい、好き勝手なことを! 荷物はまだないぞ? どうして俺の部屋を! だから、でかいからってひとのケツを気安くもむんじゃない! 俺は男だぞ?」

「かまいやしない。ケツはケツだ。おまけ減るもんじゃなし、そっちもかまわないだろう? 兵士の士気を上げるのにこのくらいのサービスはお安いもんだ。女をあてがってくれっていうわけでもなし。何よりこのオレとおまえの仲だろう」

「どんな仲だ! ええい、いまいましい! いいからついて来い。案内はしてやる。だからケツにさわるな!!」

 人目もはばからず声がでかくなるばかりの俺だ。
 根性悪いエースパイロットめはのどの奥をクックと鳴らしながら悦に入ったさまでしたり顔してくれる。

「またでかくなったな? けっこうけっこう! それでこそのケツでかのドレンさまだ。中年太り大いにけっこう、楽しいったらありゃしないな? なんならこのオレのケツももんでみるか?」

「けっこうだ! セクハラだろう!! おい、あとのふたりはおまえがちゃんと面倒を見るんだぞ? このいかれたケツフェチのガノタめ!! もむなら仲間の臭いケツでももんでろっ!」

「オレの名前はガイアだぞ? ふん、パイロットスーツで固めた野郎のケツなんざこのオレの趣味じゃない。臭いのはお互いさまだ。もとよりおまえのケツはそんなにきれいなのか? くっく、フェチってヤツはむしろそのあたりに惹かれるんだろ?」

 だったら屁でもこいてやろうか? 

 言葉よりも実力行使のほうが良さそうだと顔つきよっぽど苦々しくなるばかりの俺だが、折しも腹のあたりがぐるぐるしだして内心でしめしめとほくそ笑む。だったらそうら……!

 ブッ!!

 それだから完全に油断していたのだろう歴戦の勇者の鼻っ面に臭いのを一発、お見舞いしてやるのだった。若干の沈黙のタイムラグの後、背後で慌てた気配が巻き起こる。

「ん? うあっ、くせっ!! ぐあ、おまえまさか、上官のこのオレに向かって? こんなの許されるってのか??」

「うるさい。お望み通りのことをしてやったまでだ。臭いのが好きなんだろ? むしろ感謝しろ。ケツ好きな変態ガノタに公私ともつきあってやってるこの俺の底なしの度量と辛抱強さにな!!」

「くっ、よくも言いやがる。オタクはオタクとしかわかり合えないんだよ。それこそが宇宙世紀以前から決まってるとおりにな。ならおまえも立派なオタクだ! この借りは必ず返すぜ?」

 どうやってだよ??

 呆れた顔でヘルメットの中のヤクザづらを見返してから、さっさと職務に立ち返る俺だ。こんなの相手してたらキリがない。

「いいさ、このケツにロックオンしてるんだろ? なら見失わずにしっかりついてこい! ただし間違っても触るなよ? でないとこの艦の風紀が乱れる!!」

「ハッハ、違いねえ、軍人なんてバカばっかりだからな? 何よりそいつはこのオレさまだけのお楽しみなんだから、ひとに譲ってやる気もねえし」

「ああ、本当にバカばっかりだ! 少佐、助けてください!!」

 スキがあったらもう一発食らわしてやる! 

 そう心に決めてMSドックから居住ブロックへと向かう俺である。こんなバカどもとこれから戦場を渡り歩くのか……!

 やっぱりまとめて二番艦に押しつけてやれないかと考えを巡らせるが、そちらの艦長は嬉々としたさまで客人の来ないのを憂いていたのを思い出す。ちくしょう、どいつもこいつも……!!

 問題だらけの最前線、敵の新造艦を追尾する追撃戦が幕を開けた。


プロット ドレンの乗艦(シャアの旗艦ムサイ名前は?)に黒い三連星(ドム三機)が着艦―― ドレンとガイアのごちゃごちゃ


 ストーリーNO.3

戦士たちの日常 WBにて…①

今回は本来の主人公サイド、ホワイトベースのある日常風景を切り取ってみます。もちろんテキトーな妄想シーンだけどもw
 前編/後編でお届けの予定!

Scene1

 戦場ではしごく簡単にしてひとが死ぬ。
 そうたとえ運が良くとも、その人生や未来を戦禍の渦にさらわれて、思いもよらぬ宿命(さだめ)へと流されてしまうのだ……!

 地球連邦軍の新型強襲揚陸艦「ホワイト・ベース」

 本来の戦術を大きく逸脱したはず型破りな単艦での長期間運用は、もはや戦場におき彼等があからさまな囮として位置づけられること、その確たる証左に他ならないのだろう。

 赤い彗星率いるジオン軍の精鋭部隊に追われながら、最終目標であるジオン軍の宇宙拠点へと向けて航行する艦内では、およそ軍人らしからぬ面々が、穏やかな日常にひたるのであった。

 かりそめの平穏、戦士にも休息は必要だとばかりに――。

 居住ブロック・左舷・第二図書室にて。

 艦内戦闘態勢全域解除。
 今は平時における通常運用中の艦内だ。
 乗員がいる区域は無難に電力の供給がなされている。

 それだから食堂で食事を終えたら、かならず人気の少ないこのブロックで身を落ち着けるのが毎日の日課となっていた。
 一度この艦ごと地球に降下した先で非戦闘員の民間人たちを下ろしてからは、特に静かになって集中して物事に打ち込めるのだから。

 自分もかつてはその民間人の内のひとりだったハヤト・コバヤシは、手元の端末ディスプレイをひたすら凝視しながら頭の中で任意の操作手順を何度も反芻する。実機を用いたシミュレーションは何度やってもうまくいかないので、半ば意気消沈しながらの涙ぐましい自主練習であった。

「くそ、さっぱり意味がわからないや……! このおれのガンタンク、これって本当に運用できるのかな? こんな重力がない宇宙空間で?? いくら足回りの仕様を変えてるからって……」

 シビアな戦場ではそのすべてがやり直しがきかないそれこそが命がけのミッションとなる。
 だからこそ中途半端な状態のままで後悔するのは嫌だった。
 するとそんな真剣な面持ちで手元のパッドを食い入るように見ている彼に、不意にこの横合いから声をかける者が現れる。

 はじめその存在にまるで気がつかなかったが、いつの間にやらそばに立つ細い影はただそれだけでそれが誰だか判別できたし、予想に違わぬ軽い調子のセリフが背丈の低い新米パイロットの頭をかすめていった。
 これにちょっとめんどくさそうなカンジで視線をあげるハヤトである。 

「よう! 相変わらず精が出るねえ? 感心感心! でもあんまり顔つきよろしくないけど、ひょっとしてつまづいてたりする? だからって根を詰めすぎるとろくなことにならないんじゃないの、ハヤトくん?」

「ああ、カイさん……! いたんですか? さっぱり気がつかなかった。確かに詰まってはいるけど、仕方がないじゃないですか。コレ、やっぱり難しいですよ。カイさんが乗ってるガンキャノンとはまるで勝手が違うんですから!」

 浮かないさまで言ってくれる己よりもまだいくつか年下の青少年、実際ちょっと前まで民間人の学生さんだったなりゆき任せの学徒兵くんに、自身もなりゆきでMSの操縦席に座ることになった兄貴分は何食わぬさまで肩をすくめる。

「そう言いなさんな! まあね、確かに無理があるって傍から見てても思うけどもね? 本来は陸戦仕様のはずガンタンクが、あんなに形を変えて無理矢理に宇宙戦用機に仕立て上げました! って、本気で言ってるのかって? ま、シャレじゃどうにもならないんだけど」

「シャレじゃないですよ! 急ごしらえすぎてこの名前だってろくに決まってないのに、乗せられる人間は完全にモルモットじゃないですか? 責任なんて持てませんよ。アムロは期待しているなんて言ってるけど、腹の底じゃどう思ってるんだか……」

 苦い表情でやりきれない心情を吐露する。そんな若者に、どこかみずからの未来にあきらめたふうな投げやりさを漂わせるちょっとだけ先輩格の兄さんは、やれやれとばかりの軽薄な笑みだ。

「フッ、いやはや、あの天才くんははなっから誰からの助けも必要としちゃいないんでしょうよ? むしろこっちがおんぶにだっこの状態で! それより名前がないのはやりづらいよな、お互いに? ならいまつけちゃえば? そのくらいの権利はあるでしょ、どうする、リック・キャノンくらいにしとく??」

「へ、なんですそれは? リック……??」

 突飛な提案に思わず惚けた面で同僚の顔を見上げる東洋人の男子に、おなじく東洋系らしき細身でシャープな面立ちの若者は、やはりしての冷やかすような物言いだ。
 半分がた冗談まじりなのが見ていてわかった。

「だからほら、リック・ドムって言うじゃない? ジオンの奴らのあのやたらいかついMS! あれって確か元は陸戦用の機体だったドムをこっち向けに仕立て直した、まさしくおまえさんのそれとおんなじヤツなんだろ? リックってなんなんだろうな??」

「知りませんよ! こっちはまじめな話をしてるんですから、やめてください! スレッガーさんはスペース・ガンタンクとか言ってるし、あの三人のちびっ子たちは真に受けちゃって勝手に広まっちゃってるんですよ? フラウとか、セイラさんにまで!」

「じゃあそれでいいんでしょうよ? 悪くないじゃない、嫌ならブライトさんに決めてもらえば? わかりやすいの付けてくれるでしょ、ガンタンク・ウルトラブースターみたいな! 見たまんまのやつね」

「ひどいな、他人事だからって! もういいですよっ、何とでも呼んでくださいっ……! おれたぶん返事しませんからね?」

「はは、そんなふてくされなさんな! かわいいねえ、青春まっただ中のティーンくんは? おっと、ガチの軍人さんが来なすった。あんまりしょげてばかりいるとガツンと気合いを入れられちゃうよ、ハヤトくん?」

 普段、限られた人間しか顔を出さないこの室内にまた新たな人影を認めて、そのずんぐりむっくりした筋肉質な身体のラインから誰かを察知するカイ・シデンはにやけ笑いで顔を背ける。
 するとその肩越しにその人物を認めるハヤトは背筋を正してこれと向き合うのだった。

「あっ、リュウさん! て、またいつものトレーニングルームにいたんですか? なんだかすごい汗かいてるけど」

 無重力の艦内、もっぱらパイロットたちのたまり場となっているレクリエーションルームにふらりと顔を出したのは、ふたりよりもだいぶいかつい体つきの大柄な青年で、東洋系よりもずっと浅黒い肌色の真顔で答えた。
 こちらも見るからに若いが民間人上がりの彼等よりはやや年上らしく、落ち着いたそぶりがずっと軍人らしくあっただろう。
 その彼は、意味深な目つきをして低い声音に少なからぬ圧がこもる。

「……ああ、まあな? おまえたちこそこんなところでコソコソと何をやってるんだ? ふたりともモビルスーツのパイロットなんだからトレーニングを怠るのは良くないぞ。戦場じゃ最後は体力と精神力がものを言うんだからな! さっきもサボり癖があるアムロをひっ捕まえて押し込めたんだが、おまえたちの面倒も見なくちゃいけないのか、この俺は?」

「うひゃひゃ、そいつは勘弁! いやあ、身体を鍛えるのはけっこうだけど、シャワーくらい浴びたらどうなんです? 汗くさいったらありゃしないや。いくらむさ苦しい軍人ばかりの軍艦だからって、レディたちもここにはそれなりいるんだから」

 自分が普段から軽薄なぶん、とかくまじめで見た目が重苦しいこの下士官どのが苦手なのか?
 どこかあさっての方角向いたまま軽口たたくカイに、当のリュウ・ホセイはやや冷めた目つきで応じた。
 ハヤトあたりからしたらこの二人はどうやらあまりそりが合わないように見えたものだろうか。
 ちょっと警戒した目つきだ。

「ふん、おまえに言われたくはないな? そんなににおうか? 確かにアムロのやつが嫌そうな顔してたが、人間なんだから当たり前だろう? シャワーは後で浴びるさ」

「はは、おれは嫌いじゃないですよ? 身体動かすのだって嫌いじゃないし、後でちゃんと筋トレします。そうさ、負けてられないよ、ただでさえみんなの足を引っ張ってるのに、役立たずはごめんだ……!」

「おやおや、完全にすねちゃって……! 悪かったって、へそをまげるのは戦争が終わってからにしてよ。わかるでしょ?」

「知りません」

「何の話だ? ん、ハヤト、おまえが見てるそれって、あの駆動系を大幅に改装したタンクのマニュアルだよな? だったらこの俺にも見せてくれよ」

 はじめ目をぱちくりさせながらふたりのパイロット仲間たちのやりとりを見て、やがて若い学徒兵が手にした端末の中の画像に見入る職業軍人だ。何やら興味津々なさまでのぞいてくる大柄なマッチョマンに、小柄なのがコンプレックスな若者はこれをちょっと意外そうに見上げる。

「え、かまいませんけど、見てどうするんですか? リュウさんはキャノンがあるんだからこんなの見たってどうにもならないでしょう……??」

 パッドにはMSの各種の操作系の複雑なコマンドモードでびっしりと埋め尽くされるが、これを解除して初期の出撃段階にまで設定を戻すとかろうじてこれがキャタピラ走行の重砲タイプの操縦システムだとわかった。皮肉屋の青年から言わせればぶっちゃけ肥満体型となる同じキャノンの正規パイロットは、なぜだかマジマジとこれを見つめながら答える。


「……いや、場合によってはこっちに乗り換えることにもなるかもしれないだろう? 戦場じゃイレギュラーが付きものだ。逆におまえがキャノンに乗ることだって十分にあるんだから」

「おれがキャノンに? でもそれって……?」

 あまりいい理屈が思い浮かばないハヤトに、横合いから皮肉屋が茶々を入れる。

「それってオレやリュウさんが死んじゃった場合ってことよね! でもセイラさんやスレッガー大尉がいるんだから、ハヤトに乗れなんて言うヤツいるのかな? オレはどっちでもいいけど!」

「わからないだろう」

「やめてください!」

 ケタケタと笑うやせぎすの軽薄男に、小柄と大柄のぽっちゃり体型が真顔で苦言を呈する。ちょっと雰囲気が悪くなりかけたところに、またそこで新たなる気配、高い声色の声が上がった。

「あのっ……!」

 中肉中背のこれもまたいまだ若くした青年だ。
 ハヤトと同じ年齢の、パッと見なら少年の部類か。
 これにその場に居合わせた誰しもがはっと意識的に息を潜めるのだが、これを敏感に感じ取る彼自身はちょっと困惑したさまで仲間のパイロットたちを見返す。

 このときにはもうニュータイプとして広く世間に認識される若きエースパイロットだ。だが現実は、およそこの風貌からはそうとはわからないほどに弱々しくした年頃の男の子であった。

 若干15歳にして数々の戦功をあげた天才パイロット。

 アムロ・レイ

 戦争の行く末すらも左右しかねない宇宙世紀における新たなる人類の先駆け、だがその彼は、皮肉なことに出身は地球、アース・ノイドであったという。

                後編に続く――

『ドレンとガイア』③

 

ストーリー NO.4

 サイド3(たぶん)にて…

Scene1


 俺の名は、ドレン。
 
 ジオン宇宙攻撃軍の士官だ。
 これでもムサイ級戦艦の指揮を執るくらいの立場にはある。
 そこそこ、偉い……はずだ。
 あ、おかげさまで最近、昇進もした。
 
 おほん!

 シビアな戦場を生きる軍人も、いざ軍艦を下りたらプライベートでは自前の居住地にいるわけだが、あいにくとそんなに豪勢な生活をしているわけではない。
 ま、現実なんてそんなものだ。
 とは言えで軍からの補助もあり、一人住まいにしてはそれなり広い場所に居を構えてはいたりする。幸いにも。
 ただしそう、こんないい年こいたおじさんの一人暮らしは、やはりしんみりとしたわびしいものがあり……。

 ん、誰か来たみたいだな?

 普段は鳴るはずのないチャイムが鳴って、リビングから不審に思いながら玄関へと向かう俺だ。ここに客人なんて来ることは希だから、てっきりくだらないセールスかと浮かない顔を出すと、そこには誰もいなかった。
 あ、いや、視線が合わなかっただけだな?
 気配は感じてこの胸元へと視線を落とす俺だ。
 ああ、やはりいた。いやがった。

「……!」

 客はセールスのたぐいではなかったが、あいにくと歓迎されないことには変わりがなかった。あまり背が高いとは言えない来訪者は、むっつりした顔で間近からひとを見上げてくる。

 う~む、目つきがおよそかたぎの人間のそれじゃないな?

 いいトシのオヤジが。おまけぶすりとしたとにかく愛想がないさまでぶっきらぼうに挨拶を発してくれるのだった。

「よう。来てやったぜ? どうせヒマしてるんだろ。なら遠慮なく邪魔させてもらうぜっ……よっと! 入り口でわざわざ靴を脱がなきゃいけないってのは、なんかめんどくせえよな?」

「また来たのか? 勝手に決めつけるな。誰が上がっていいと言った? おい??」

 小柄でも職業柄に普段から鍛えてるマッチョは突貫力がある。 
 そんなものだからひとの身体を真正面からこじ開けて当たり前みたいに廊下を闊歩しだした。一直線に。スリッパも出してないのに何食わぬ顔してリビングにまっしぐらだ! よもやジェット・ストリーム・アタック!だなんて言いやしないよな?

 ふざけやがって……!

 内心で舌打ちしながら廊下からリビングへと戻る家主に、招かれざる客はまるでそこが定位置みたいなさまでこの一角にペタリと尻をつける。靴を脱ぐ脱がないで胸ぐらつかみ合ってた頃よりかはだいぶマシだが、完全にルーティーン化されてしまったこの現状を果たして納得のいかぬままに立ちすくむ俺だった。

 なんでこんなことになったんだ??

 まったくちまたじゃ黒い三連星だなんて褒めそやされている凄腕のMSパイロットさまが、あろうことか無断で家宅侵入してきやがる。

 こんな白昼堂々、おまえこそがヒマなんだろうに?

 言えば近頃じゃいつものことなのだが、なんの前触れもなくズカズカ上がり込まれるのにはいささか迷惑して顔つきがこわばるこちとら年季の入った戦艦乗りだ。

 う~ん……!

 低いうなりを発しながら渋々とこの隣に腰を落とす俺は、つけっぱなしだったテレビモニターの音声を邪魔にならないくらいに落としてどうしたものかと思案する。
 本来なら通報案件だろう?
 するとひとの気も知らないで勝手に横であぐらをかいてくつろいでるMS乗りのオヤジが、それまで小脇に抱えていた包みをこの鼻先に不意に差し出してくる。
 相変わらずのコミュ障ぶりで、抑揚の低い不機嫌な声で言うことが振るっていた。あれ、ツンデレとかじゃないんだよな?

「……ん、出すのが遅れた。差し入れだ。上等な酒と、うまい缶詰。良いつまみになるぞ。どっちも保存が利くしな……」

「ああ、そいつはどうも! って、勝手に上がり込んで酒盛りしようってのか? まったく……あ、ほんとに高級品だな! ブランデーに、コニャック、いや、ウィスキーか? しかも地球産ときた! こんな御時世じゃ軍の上級将校くらいしか手に入らないものだろう! まさか……」

「勘ぐるな。その上級将校さまからじきじきにもらったもらいものだ。誰かはあえて言わないが……! ま、あるところにはあるってことだな。ならせいぜいありがたく思え」

 いかつい真顔で意味深な目つきを差し向けてくるのに、さらにいかつい軍服姿のご尊顔がこの頭に思い浮かんで納得だけする俺は、それでもまだ意外そうに聞き返してしまった。

「なるほど! あ、いや、でもだったらおまえらでやればいいんじゃないのか? こんな贅沢品、わざわざこんなとこに持ち込まんでも? 三人で盛り上がるのにちょうどいい量じゃないか。さすがあちらもわかってらっしゃる! ここらへんが現場のヤツらに好かれる理由なんだろうな、あのバカでかモンスター、ん、もとい、ボスザルどのの? いっそ人間ビグ・ザムが妥当か?」

「おまえ、それみんな悪口だろ? いくら言い直したところで? まあかまわないが、懐の深い小山の大将さまも、およそすべてを把握するまでには至らないってとこだな。そう、このオレはいいとして、あいにくオルテガのヤツはまったくの下戸だ」

「ウソだろ!?」

 ちょっと目をむいて不機嫌な白人系のオヤジの顔を見返してしまうこちらヒスパニック系のおじさんだ。

 だってそうだ! 黒い三連星と称される三人組の猛者たち、こいつらが戦場どころかこの日常でも生活を共にしている、いわゆるシェアハウスで共同生活を送っているのは聞いてて知っていたが、よくよく聞いたらおかしなことだらけなのだ。
 性格荒くれたヤクザものが一つ屋根の下に三人もそろっているのがまずアレなのだが、世間一般がイメージするところのシェアハウスとはおよそすべてがかけ離れているらしい。
 あんなのハウスじゃない。

 図体が一番でかいくだんの大男は大酒飲みの大食漢と誰がどう見ても認知されるべきところ、飲めないとは、詐欺にひとしい。
 おまけにまだ続いたが、お次はなんとなくわかるものではあった。いや、普段の澄ましたイメージとはまるで違うか?

「一滴も飲めねえんだよ。あのツラで! もう一方のマッシュは酒癖が異常に悪い。こっちはむしろ一滴も飲ませられないくらいにな? 飲むとどうなると思う?」

「あんまり想像がつかないが、想像しないとダメか?」

「地獄絵図だ」

 お手上げだな。ただの一言発してそれきり暗い目つきでどこともつかない天井を見上げるMS小隊隊長に、とりあえず納得してありがたく土産の入った包みを受け取る俺だった。

 あっと、グラスはどこだったかな? 缶詰はまんまでいいとして?

 散らかってるキッチンのあたりを見ながらこんなおっさんふたりが昼真っから酒盛りやっていいものか本気で思案しかけるが、いいやそれがまだ早いことを知らされる。そりゃそうか。
 凄腕パイロットめがここに来た理由がただ酒をひっかけたいだけじゃないこと、はっきりと思い出させてくれるのだ。
 そういやこのテーブルの上をかたづけるのが大変だったな。
 おまけにまたさらに散らかってしまうわけで。
 果たしてひげ面のオタクが言った。

「おい、このオレの作りかけのガンプラはどこにある?」

 
Scene2


 ある日、ひょんなことから地元のコロニーの町中で偶然に知り合った、重MSのベテラン・パイロット。

 その名は、ガイア。

 まるきりの有名人だな!
 黒い三連星の異名は敵味方を問わずに戦場に知れ渡る。
 それはお互いいいトシこいてガンプラが共通の趣味だとかいうおやじ同士の腐れ縁のはじまりだ。

 言えばひどく馬鹿げていたが、このジオン公国の軍人である俺にとり、これまで推しへの推し活しか生きがいのなかった戦場という日常に、ほんのささやかながらもある種の変化をもたらしつつあった。それは温かな……何かしらだ。

 平日の午後。

 殺伐と散らかったリビングで、地味な見た目をした中年のおっさんが何故かして、ふたりきり……!

 本来は招かれざる客、ガイアはむっつりした真顔でこちらを見つめてくるが、これに真顔で俺も応じるのだった。
 かつてヤツが勝手にひとの家に持ち込んだ私物のありかを聞いてきやがるのに、そんなものはなから聞くまでもないのだから。

「ああ、テーブルの下、すぐ足下にまとめて置いてあるだろう? まったく勝手に物置にしやがって、邪魔なことこの上ない!」

 目でガラストップのテーブルの下を示しながら文句を言うに、ああとうなずきながら何食わぬさまでみずからの足下をごそごそとやりだす小太りなオヤジだ。まったく透明なんだからそんなの見りゃわかるはずなのに、まだ不機嫌なツラで言い返す。

「うん? なんだ、へんな布きれが被せてあったから見落とした。どれ、ふうむ、前回のままでいじってないんだよな?」

「いじっていいのか? 前にも言ったがこの俺はオタクでもなければおまえみたいなガノタでもない。従ってヘタなことにはそうそう首を突っ込まない主義なんだ。あっと、塗料で部屋を汚さないようにちゃんとそっちの新聞紙を敷いてくれよ?」

「了解。つうか、これっていつの新聞だ? 相変わらず不景気なことばっかり見出しになってるが……まあいい、そういや腹が減ったな? まずは腹ごしらえをするか」

「あ、酒盛りが先か? 良い酒飲んじまったら気分が良くなってそれで終わっちまいそうだが、それに肝心の手元があやふやになって細かい作業どころじゃなくなるだろう?」

 作りかけのプラモの箱に入っていたこまごましたパーツをその手に取りだしかけて、ふとそれを元に戻すドムのパイロットは、そこでおもむろに立ち上がったりする。不審に見上げる俺を見下ろしながら、何食わぬさまで言うのだった。当たり前みたく。

「誰が飲むなんて言った? ただの腹ごしらえだ。悪いが台所、使わせてもらうぞ。はっ、このひとりもんのろくでなしが、冷蔵庫、またゴミためみたいになってないだろうな?」

 ブチブチと文句をたれながら、勝手にひとさまの台所に入り込んで、冷蔵庫をガチャリと開けたりするまことに独りよがりなパイロットさまだ。来てからまったく悪びれることがない。
 それだから呆れた顔で見つめる俺を振り返って、あちらもまた呆れたさまで言ってきやがった。

「ろくなものが入っていないな? 野菜と肉は切らすなと言っておいただろう? 安い冷凍ものでいいんだから、それなら保存も利くだろう。この卵はいつのやつだ?」

「いちいち覚えているもんか、腐ってなければいいだろう! 冷凍ものは下のほうにまとめて置いてある。あと常温で保存が利くドライフードが横のラックにあるし、なんなら軍の支給品のレーションだってあるだろう? 不足はないはずだ」

「お、ほんとだ。よしよし、これならそれなりに作れそうだな……!」

 食へのこだわりなんてほぼ皆無の一人暮らしのおっさんに言っても仕方がないようなことをブチブチとぶうたれる、雰囲気こじゃれたイタリア系おやじだ。イケメン気取りが時々鼻につく。
 来るたびに物の配置を変えやがるし。

 挙げ句にこっちはいやいやで応じてやっているのに、まるでじぶんの家よろしく他人のキッチンでガチャガチャと仕事をやりはじめるのだ。遠目にも慣れた手つきで食材をさばいていく。

 はあ、もっともらしげな顔つきといい、普段の見慣れたパイロットスーツじゃないからパッと見じゃただの料理人みたいだな?
 そんな性格何かと難ありの歴戦の勇者さまに、こちらは手持ち無沙汰でどうしたものかと考えあぐねる副官の艦長代理だった。

 トントントン、ガッガッガ、ジャアアアアアッッッ!!!

 中華か? いやイタリアンだよな?? まあおっさんのそれであれ、うまい手料理が食べられるのはありがたい。ありがたいのはありがたいのだが、これってなんなんだ?

 その人となりががさつで乱暴なイメージに似合わず、人並みかそれ以上に家事全般に長けているという中年の軍人パイロットの背中をはたと見つめてしまう俺だった。
 なんか謎の時間だよな!
 おまけ何の気なしに思ったことをまんま口にしてしまった。

「そういや、三人で同じ屋根の下に寝泊まりしているんだよな? ひょっとして、食事は全部おまえが作っていたりするのか?」

「あん、他に誰がやるんだ? 食事だけじゃない、掃除洗濯、あそこでの日常における家事その他諸々はこのオレが主に取り仕切っている! ふん、でなけりゃあんな社会不適合者どもとまともな生活が成り立つものか……」

「確かに、だが意外だよな? あの泣く子も黙る黒い三連星のガイアさまが、まさか家事が得意だなんて! そりゃ手先が器用なのは知ってはいたが……!」

 精巧なガンプラ作るのが趣味だなんてそれだけでも驚きなのに、いろいろと多彩な特技を持ち合わせているエースパイロットを目の前に、果たしてこれと得意なものが見当たらないひなびた軍人のおじさんは遠い目つきとなってどこともしれぬ天井を見上げてしまう。推し活は特技だなんて言えないもんな?

「どうせならおまえにも教えてやろうか? 少なくともあいつらよりはスジが良さそうだ。そのガンプラと同じでな! なんならうちに来てみればいい。みんなで歓迎するぜ?」

 こちらからは見えない手元で手早く一品料理を仕上げながら皮肉っぽいにやけヅラの横顔を見せる客人に、リビングで尻をつけたままの亭主関白な主は口元をひん曲げて言葉を濁すばかりだ。

 ちくしょうめ、もういいニオイがしてきやがった……! 

「ん、コワイから遠慮しておく。もとより血に飢えたオオカミどもの巣にひとなんか招き入れるな! 訴えられるだろう?」

「はん。確かに驚かれはするな? そう時々来るバカなセールスの営業どもをまずはこのオレが真顔で出迎えて牽制して、次に片目のヤクザヅラしたマッシュがビビらせてこの足下をすくい、最後のだめ押しで図体でかくておまけ化け物ヅラのオルテガの野郎にとどめをブッ刺さされて、みんな這々の体で逃げ出していく……わはは!」

「堅気(かたぎ)の人間にジェット・ストリーム・アタックなんかかけるんじゃない!! トラウマになるだろう? 戦場でもあるまいに、そんなんで軍にクレームが来たらどうするんだ! めんどくさい、最終的に文句を言われるのは現状、この俺だったりするんだろうが?」

「悪いな、その時には世話になる。その代わりと言っちゃなんだが、今はこうしてこっちが世話してやってるんだから、まあギブ・アンド・テイクってヤツだろう? ほら、できたぞ……!」

 両手に持ったプレートにうまそうに湯気が立つ料理をこんもりと盛り付けて差し出してくるもはやがっつりプロの料理人だ。
 はあん、これってこうやって料理するんだ? なんて内心で感心しながらもはやろくな文句も言えなくなる俺は、目の前に広げた新聞紙の上のプラモを奥に追いやって銀色の皿のブツを迎え入れる。自然とツバが出てきた。腹も鳴る。

 さっぱり名前がわからないがうまいことには間違いないのは、見てくれとニオイが保証してくれている。太鼓判だな。

 袖無しのジャケットの胸ポケットから取り出したナイフとフォークを一人前この目の前において、みずからも席に着く凄腕パイロットは、ちょっと自慢げにこちらを見やって言った。

「味はもちろん、見た目も悪くねえだろう? 叔父貴が料理人だったから、若い頃はしごかれたりした。あいにく途中で脱走しちまったが、ひなびた店を継がせたかったのかもしれないな? 今となってはもうあるのかないのかもわからないが……」

 ふうん。戦争で家族を亡くしているとは聞いていたが、そのおじさん自体はどうなんだかわからないな。初めて聞いた話だ。
 万一にもどこぞのサイドのコロニー群だったなんてことになったら最悪だから、話は広げずにテキトーな相づち打つ俺だ。

「ほう、今からだって遅くはないんじゃないか? 黒い三連星のドムドムレストラン! だとか、いくらでも客がつくだろう。命知らずな物好きが! 軍人は金の使い道が限られるんだ」

「あいつらのツラを見て言っているのか?」

「すまん。冗談だ。前言撤回!」

 口さえ聞かなければイタリア料理の頑固店主で通りそうなこの男はさておき、後の連れたちはどこをどう見てもアウトローなヤクザ者どもだ。客商売なんかできるわけもなく。

 よってはなからそんな気もないだろうトリオのリーダーもみずからの手料理のパスタを一口ほおばって、しきりと納得しながらうそぶくのだった。

「我ながら上出来だ。食えよ。ふん、しょせん堅気には縁のないヤクザもんだ、オレたちってのは。だからせいぜい今のうちに金を稼いで、後は悠々自適でコロニーやら地球やらを見て回るってのがいいだろう。どうせ世の中、争いは尽きないんだ……!」

「ああ、前にも言っていたな、フリーランスのMSパイロットで余生を過ごすのか? これも前に言ったが、できるかそんなこと?? よしんばまんまと自機のドムをかっさらっても、そんなもの弾薬の補給やら機体の維持やらに金がかかって仕方がないだろう! およそ現実的じゃない。まだ流しの料理人のほうが現実味が……いや、あのふたりを連れていたらどこでも修羅場になるな。今のうちに蓄えをしこたま積みましておくのが最善策だ。それ以外は推奨できない……おまえ、けっこうな負債を抱え込んでいるんだな? やつら戦場では頼りになるが、シャバでは……」

「いいからさっさと食え。冷めちまうだろう」

 冷めた目線で一瞥くれてそれきり黙々と食事に集中する凄腕料理人、もとい歴戦のパイロットだ。俺も言われたとおりに目の前のプレートに意識を向ける。おんなじ食材を使ってこうも変わるのかと内心で驚嘆しながら一口ほおばった。

「うまい……!」

 代わり映えしないただの日常が無愛想なおやじによってちょっとだけ色づく。目の前で推しを推している時の興奮とはまた違った穏やかな居心地の良さを感じつつある俺だった。
 おまけにうまい酒まであると来ている。
 退役したらこんな生活もいいもんだなとぼんやり思ったりしかけて、したり顔する隣のベテランパイロットと目が合って微妙に気恥ずかしさに視線をそらしてしまう。

「こうやってあいつらの胃袋もつかんだのか? そりゃなつきもするだろうな。ずるいヤツめ!」

「戦略家と呼べ。腹が減らないヤツはいないからな。おまえもこのオレのジェットストリームアタックの餌食だってことだ。たらふくお見舞いしてやるぞ、覚悟しろ!」

「だからあの手土産か? 本当の戦略家じゃないか! やばいぞ、酒の力も加わったら無条件で降伏勧告を受け入れちまいそうだ! 反則過ぎるだろう、こんな波状攻撃?」

「ふふん、いい夢見させてやる!」

「何を言っているんだ? ……あ、悪い!」

 うまい料理にテンションが高くなっていたのか、不覚にも尻のあたりから低い破裂音が鳴って、飲んでもいないのに顔が赤くなる俺だった。おじさんの悪いクセだな。出物腫れ物所嫌わず!

 苦い笑いで受けるオヤジはひげ面の口元をかすかに緩める。
 なんか嬉しそうだな?

「それしか取り柄がないのか? まったく大した肥満おやじだな! だがお互い様だから文句はない。うちじゃ誰も遠慮しないからな! 礼儀だなんてどこ吹く風だ」

「そう言われると何だか楽しそうだよな? ちょっと行ってみたくなった……いやいや、だまされちゃダメだ! わるいオヤジの言いなりにはなるまい、くわばらくわばら!」

「言っておけ。おまえはもうオレの術中だ。完食するんだろ? これまで残したことないし。お代わりだってまだあるしな」

「わかった。降参する。もう好きにしてくれ。悔しいがうちのキッチンはおまえさんの占領下だ。……ん、今、屁こいたか? ならもっと音を立てればいいだろう、そんなすかさないで??」

 思ったままを言ってやるに、あちらもちょっと顔を赤らめてひげヅラをそむけたりする。ほんとにお互い様だな。文句はない。

「おまえ、デリカシーがないよな? 良く聞いてやがる」

「俺みたいなおやじを相手に照れるのがどうかしてる。ひとのケツは平気でもみやがるのに! だが食事中は控えたほうが無難か。わかった善処しよう。あとひとつ付け加えるならば……」

「?」

 真顔で向き直る俺に、あちらも怪訝な顔を向けてくる。
 まだ顔が赤いな? おじさんがどうして照れるんだ。

「礼を言う。うまいものを作ってくれてありがとう。言ったことなかったよな? そういや彼女でもあるまいにだ?」

「……! おまえはやっぱりデリカシーがない……」

 微妙な顔つきのジェットストリームアタッカーにきょとんとなるベテランの臨時艦長職だ。よくわからないままにまた余計なことを聞いてしまう。

「あれ、またこいたか? トイレならあっちだぞ??」

「ぐ、おまえはほんとうにデリカシーがない!」

「???」

 代わり映えしない日常はにわかに色づき始める。
 ちょっとした連帯感を感じ始めるおじさんたちなのだった。
 ただしこの前途はまことに多難なものながら……!



 プロット
ドレンの自宅(ぼろいアパート? 1LDK?)
ガイア出現 酒を差し入れ ガンプラを製作
喫煙者 酒飲み オルテガは下戸 マッシュは酒癖が悪い
ガイアは家事全般が並以上にできる。黒い三連星はシェアハウスで共同生活。厳密にはMS運搬用のビッグトレーラーでコロニー間を移住している?軍を退役したら、愛機のドムを退職金代わりにいただいて三人でMS乗りとして生活していく約束をしている。ドレンにはできるわけないと言われる。
ジェットストリームアタック

戦士たちの日常 WBにて…     ① Scene2

ようやく登場! 本来の主役のアムロ・レイくんですw ただし本作二次創作世界においては出番はだいぶ控えめの予定www


Scene2

 見た目まだ若い少年の登場に、その場にいたおなじく若いクルーたちの空気がかすかに変わった。
 はっきりと意識はしないまでも、それぞれがMSのパイロットであったからこその微妙な機微みたいなものがだ。
 それは尊敬や畏怖、嫉妬のごときものであったか?

 そんな場の空気を敏感に感じ取ったものらしい、見た目がいかにもナイーブで華奢な少年はちょっと戸惑いがちに言うのだ。

「みんな、どうしたんだ? なんだかやけに暗い感じがするけど……?」

 誰も楽しく談笑なんかしてやしない。
 それまでピリついていたのは確かだ。
 しかしだからと言ってそれをはっきりと言葉にするのは誰しもはばかられたし、無理にごまかしても目の前の勘の鋭くある青少年はそれすらも見抜くのだろう。

 もとよりひとから言わせればエスパーだなんて言われてしまう特異体質(?)の持ち主だった。時としてこの対応に苦慮するのはこの艦の若い士官の艦長を見ていても明らかであり。

 よってはじめみなだんまりするのだが、身体つきのゴツい先輩パイロットごしにこれを見るハヤトがぶっきらぼうに答える。

「別に、どうもしないさ! ただまじめな話、困っているんだ。わかるだろ。そっちこそ顔色良くないんじゃないのか、アムロ? いいや、おまえってばいっつもそうだよな……」

「え……?」

 元はクラスメートで民間人出身の若いパイロット仲間だ。
 戦争に巻き込まれてどちらもやむなく今に至るという。
 それがどこか険のある言いようをはっきりと感じて、思わず困惑するエース級パイロットは二の句を継げなくなる。

 するとようやくその場でとりあえず最年長の若い職業軍人が、気まずげに場をとりなすように口を開いた。

「いいんだ、気にするな! それよりもアムロ、もうトレーニングルームから出てきちまったのか? ちゃんと体力つけないといざという時に後悔することになるぞ、いくらMSの操縦センスがあるからって! いつも言ってるが、戦場で最後にものを言うのは揺るがぬ精神力とそれを支えるみずからの肉体だろう? だったら……!」

 ちょっとお説教じみているリュウの文句には、どうにも浮かないさまであいまいな返事をするアムロだ。

「そりゃ、わかってますけど、あんまり得意じゃないんです。それにリュウさん、おれを置いてさっさと出ていっちゃうし? 周りのみんなの目が気になって、集中できなくなるし……!」

 十代の多感な年頃の言い訳に、するとおなじく多感な青少年が食ってかかる。これにも不可思議そうに目を丸くするアムロだ。

「気にしすぎなんだよ! 確かにすごいのはわかるけど、だからってみんな頑張っているんだから、おまえがそんなんじゃあさ、余計にこっちがみじめになる!!」

「え、ハヤト、何を言ってるんだ?」

「だからほら、そういうところなんだって!!」

「ハヤト、おまえもだろう? 他人のことを気にしすぎているのはっ……ふぅ」

 普段からみんなの兄貴分として回りを良く見ているにつけ、その心の内や根に持っているものはそれなりに理解ができる。
 ただでさえこどもは、はっきりとそれを表情に出すのだから。
 軍人として訓練を受けていた彼からしたらどちらも幼かった。 
 それだからちょっと困り顔で背後に視線を向けるリュウに、いまだ不服そうな顔のハヤトは舌打ちして視線を背ける。
 やはりこどもだ。
 気持ちとしてはかわいい弟分たちなのだが、やむなくまた前に向き直るリュウの兄ちゃんは、次にアムロに向けて言ってやる。
 なかば仕方もなしにした仲裁だ。

「多少は周りのやつらのことも分かってやれよ? できるだろ、おまえなら。ならおまえさんももう一度トレーニングに戻れ。食も細いし、からだつきも華奢なままじゃこの先は乗り越えられないだろう。敵の本拠地に近づくほど、戦いは激しくなるんだ」

「え、でも、向いてないんですよ……! 戦争なんて、それにモビルスーツだって、好きで動かしているわけじゃないんだし。みんなが乗れって言うから、でも特殊なのはこのおれじゃなくて、おれが乗っているガンダムなんだから……!」

「だがそのガンダムをうまく動かせるのはおまえだけなんだろ? ブライトもそう言ってる。セイラさんやミライさんだって……」

「まあまあ! みんなそうピリピリしなさんなって! 気が滅入っちゃうでしょう? 明るく明るく! 何であれみんなおまえさんに期待してるんだから、そんなむずがることないじゃない、アムロくん?」

「カイさんは調子が良すぎるんですよ!」

 軽薄な笑みでその場を取りなすもうひとりの兄貴分、カイのわざとらしいほど陽気なセリフに、いい加減嫌気がさしたみたいなしかめ面のハヤトが噛みつく。おやおやと肩をすくめるのに、気持ちが収まらない小学生みたいな小柄な見てくれの青年はみずからの端末とひたすらにらめっこする。
 ついには吐き捨てるように言うのだった。

「もういいですよ! みんなほうっておいてください。お互いに余計なことに気を回してる余裕なんてないんだから!」

「ハヤト……? ああ、そうか……」

 同い年のパイロット仲間の様子をはじめ怪訝にばかり見ていたエースパイロットの少年は、やがて何かしら合点してじぶんよりもさらに年下に見られがちな幼なじみに向き合った。

「ハヤト、それ、新しいタンクの操作マニュアルアプリケーションだろ? 実戦の動作シークエンスを組んでいるんだ? でもあまりうまく行ってないんだな? だったら……」

「そうだけど、なんだよ?」

 顔を近づけてこちらのタブレットをのぞき込んでくる天才シミュレーターにちょっと気圧されて身を引く小太りくんだ。これに細身の中背がなおのこと身をかがめて利き手を潜り込ませる。
 相手の是非も聞かずに手早くピピピッと操作コマンドを入力。
 まったく抜く手も見せないあざやかな手さばきでだ。

「アムロ、どうしたんだ??」

 傍で意外そうに見ていたリュウがカイやハヤトと目を見合わせて彼の手元のパッドに見入る。

「あっ、何を勝手なこと! 何をするんだよっ、ひどいぞっ、なんだよ、これ……??」

 横から奪われた操作端末にぎょっとしながら、慌ててこれを手元に取り戻して様変わりした画面の液晶表示に目を白黒させるハヤトだ。太い眉を逆立てて幼なじみを見上げるに、だがいささか悪びれるでもなく真顔のアムロは淡々と言い放つ。その意外なセリフに絶句するハヤトはリュウやカイに視線で助けを求める。
 しかしそれが無駄なことをすぐにも悟った。

「だから、ほら? 後付けのブースターで機動力がいくぶんか上がったからって、ハヤトのはあくまでのろまなタンクがベースじゃないか? ましてコアブースターやガンキャノンほどにも機動性があるわけじゃないんだから、速さじゃなくて本来の攻撃力と防御力を主軸にしてコマンドを組み立てたほうが性能を引き出せるのさ! 無理に前線なんかに出てこなくても?」

「そんなっ、それじゃわざわざ改装した意味がないじゃないか? おれだって装備がまともならみんなの役に立てるはずなのにっ」

「いやいや、後方支援だって立派な戦力なんじゃない? 敵味方が入り乱れる乱戦状態じゃ、あのタンクのでかすぎる火力って考え物だしね! それにハヤトは性格が落ち着いててスナイパーとしてはかなり見所があるじゃない? 慌ただしい接近戦なんかよりは格段に! そういう性分なんでしょ」

「ああ、いや、確かに、そのほうがこちらもやりやすいのかもしれないな? みんながみんなガチガチのストライカーなんてのよりか、防御と攻撃のポジションを使い分けられるボランチ、いわゆる伏兵ってヤツか……!」

「ええ。おれはそのほうがやりやすいです。だからハヤト、無理にあのかさばる機体で動きながらよりも、おれたちとホワイトベースの間で中継と援護射撃のほうがタンクの性能を活かせるよ。機動性は二の次でいい」

「そんな、勝手に決めつけるなよ! え、でも、そうなのか?」

 うろたえてマジマジと手の中の端末に注視する若いパイロットの目つきが、しかしながらじきにしっかりと定まってくる。
 傍から見ているリュウもそれを認めていた。すっかり迷っていた方向性が彼の助言により定まりつつあることを予感させる。

「いわゆるニュータイプのカンってヤツか……! 合っているのかもしれないな? ハヤト、俺からもブライトに言っておくよ。作戦を組み立てる上で重要な柱になるかもしれない、今後のな」

「ははん、良かったじゃない、いざとなったらけっこうな見せ場、フラウやセイラさんに見せられるかもしれないぜ? 誰も文句のつけようがないってくらいの!」

「?」

 軽薄も軽薄、おまけ意味深な目つきのカイの軽口に、きょとんとするアムロだが、ハヤトは苦い顔で反発する。

「やめてくださいよっ! そんなんじゃありませんっ、タンクは航続距離があるんだから、そればかりだとは限らないでしょう? そうだよ、でもアムロ、おまえからの忠告は素直に聞いておくよ。おかげで少しは考えがまとまったかもしれない!」

 じっと手元を見つめてから、ちょっとだけすまし顔でともだちを見上げる少年だ。それからまた素直に付け足しもした。

「ありがとう……!」

「ああ、うん。お互いがんばろうな……!」

 ピリついていたふたりのあいだの空気が穏やかなものへと変わっていく。やっぱり幼なじみの同級生だ。
 するとこれを傍からめでたげに見ていたでかい影の大男も、したり顔して大きくうなずくのだった。

「良かったな、ハヤト。おまえの迷いが晴れてこの俺も嬉しいよ。あとアムロ、ちゃんとパイロットとして体力トレーニングはやろうな? 俺もつきあうから」

 穏やかな笑みでやさしくうながすリュウの言葉には、えっと大きく目を見開くアムロだった。傍で聞いてたカイに茶化される。

「え、まだやるんですか? リュウさんも??」

「はっは、えらいひとに捕まっちゃったな? アムロは持久力が唯一の弱点ってヤツだから! ちゃんと克服しないとね?」

「おまえも来るんだよ」

「当然ですよね?」

「あらら……!」

 冷たい目つきで巨漢と小僧に見つめられて、軽薄な痩せ男が天を仰ぐ。新たな戦いがすぐそこにまで迫っていた――。

宇宙(そら)のフロントライン リック・ドムの黒い三連星 ①

黒い三連星仕様の宇宙戦型リック・ドムのイメージ…!
リアルタイムに書き換えていきます(^o^)
黒い三連星(ガイア・マッシュ・オルテガ)専用
「リック・ドム・三つ星カスタム」

 ついにMS戦がはじまりました!
 大丈夫なのか??
 ガンダムのカスタムデザインまだできてないのに!?

Scene1


 進路転進、マイナス60、MS隊出撃準備……!

 ムサイ級の艦内。
 薄暗く照明の落とされたブリッジ内に、第一次戦闘態勢突入を知らせる警報がやかましく響き渡る。
 メットをしていてもガンガンと頭に響くうるささで、MSデッキとの通信も阻害されるのには毎度ながら嫌気がさした。

 まったくどうにかならんのか?

 顔つきが自然と苦くなる。出撃待機中のMSが出るまではこのままなのはわかっていたが、できたら止めてほしかった。

「ふんっ……MS隊、ガイア隊、各機、準備はできているんだな!?」

 内心で舌打ちしながら艦底のデッキで待機しているパイロットたちへと檄を飛ばすこの艦長代理ことこの俺、ドレンだ。
 本来の艦長である少佐は背後のキャプテンシートで場を静観している。ならばこのお手をわずらわせまいだな!

 専用の赤いMSで颯爽と出撃する推しをこのブリッジで見送って、その戦場での尊い勇姿を全力で見守るいつもの推し活とはだいぶ勝手が違ったが、これはこれで乙なものだとちょっととほくそ笑むおじさんである。そうとも、みずからの推しの存在を身近に感じられるあたりかなり胸熱なのだ。ふふっ……!

 はい、おっさんが気色が悪いとかいう意見は却下!

 とにもかくにも艦内警報がやかましくて仕方ないからさっさと出撃させちまおうと号令を発しかけたタイミングで、奇しくもそのデッキのほうから応答があった。半ばカウンター気味に。

 なんだよ、めんどくさいヤツだな?

 よそからの入電を知らせる短い電子音に眉をひそめてしまうが、警報がうるさいのを気にしてるらしいあちらもあちらでわざわざ画像つきで言ってきやがる。
 おまけにブリッジの上面のメインモニターにでかでかと顔面のどアップで現れる自己主張の激しさには、ちょっと腰が引ける俺だった。対してヘルメットのバイザーを上げてご丁寧に素顔をさらしてくれる汚いひげヅラだ。

「了解。いつでもいいぜ? てか、サラミス級が都合3隻、こいつをまとめてやっちまえばいいんだよな?」

「くっ、出たがりめ! 不細工なツラをでかでかと出してくるんじゃない、(シャア)少佐もいるんだぞ? 言いたいことがあるならこっちで聞く! 回線をよこせ!!」

 背後で見ている少佐の気をわずらわせまいとメインモニターの通信画面を一方的に遮断、横手にいる通信士からインカムを受け取ってそっちで受け答える。たく、もうあらかじめ用意しておいたほうが良さそうだな。軍内でも不良しぐさで有名な三人組の、このリーダー格で一番機のベテランパイロットは渋々な感じで切り替えてきた。ほんとにめんどくさい。

「ほらよっ、なんだ、やけに気が荒いな、ケツデカの艦長代行さま? さては推しが背後にいて緊張してやがるのか? いいおやじが任務に集中しろよ」

「なあっ、勝手なことを言うな! ケツデカってなんだ? 確かにでかいのかもしれないが、任務に差し支えはないだろう、そっちこそまじめにやれ!! あと他のヤツらも黙って出撃に備えろ、もういいからとっと行け!! おまえらが出ていかないとこの警報も止まらないんだからなっ!?」

 サラウンドでもあるまいにぎゃはは!と下卑た野郎どもの笑い声が二重にも三重にもインカムから響いて、これを叩きつけてやりたい衝動に駆られる。どうにか気持ちを抑えて冷静に応じた。

「ああっ……確かに、目下、我々が追撃している連邦の木馬に合流する目的とみられる敵の艦影が認められた。まんまと合流されては面倒だからこれを阻止するのが今回の作戦だが、こんなもの本来はこちらの仕事じゃない……!」

「追撃だもんな? だがこの宙域にはオレたち以外にゃいないから仕方なくってヤツだ、だがあの白いのがいないなら雑魚ばっかりだろ! ちょろい仕事だ。このオレたちからしたら?」

 自信たっぷりな良いように、よそからまた歓声があがる。
 ん、おい誰だ、口笛吹いてるのは? たく、ほんとに下品なおやじどもだな! 苦虫かみつぶした表情で舌打ちして返す俺だ。

「っ! あくまで敵艦の殲滅撃沈が目的なら他にも援護を出す! もちろん少佐以外のMS隊をだ!! だがのろいザクでは足手まといだとかぬかすんだろ? 迎撃に出てくるであろう敵のMS隊を潰してやれば、あっさりトンズラしてくれるさ! ならさっさとやることやって還って来い!!」

「ふん? ヤツらの木馬への補給が目的だったらそうそう簡単に済まないんじゃないのか? 四の五の言わずに墜としちまえばいい。なんなら練度が低い若手どもに手ほどきしてやってもいいんだが……ぼろいザクごときじゃ気が進まねえな? おい、前線担ってるんだからもっと新型の機体を調達したらどうなんだ?」

 見なくてもわかるにやけヅラのひげオヤジの戯言に、内心でイラっとしながら声高に答える。言いたい放題だな!

「弾丸も燃料も無限にあるわけじゃない! 貴様らは余計なことは気にかけずにやるべきことをやれっ!! 新型は少佐の専用機がじきに届く予定だ。まったく、あいにく練度が低い若手に貴重な新型機を回せるほどには我が軍には余裕がないんだよ、言いたくはないがっ……!」

 やはり苦虫かみつぶした表情だろうこちらの苦言に、あちらは果たして若干の間を置いてしれっと返して来やがった。

「ほう、察するに、それってなあのゲルググってヤツか? はあん、まあモノはそれなりいいんだろうがスピード重視で肝心の小回りがイマイチなんだろ? 気に入らねえな、むしろオレたちの09(ドム)だったら面白いのによ、派手な赤いヤツ?」

「悪いがそれはない! よりにもよっておまえ達なんかとおそろいなんてこっちが願い下げだ!! 俺の推しだぞっ、て、あ、聞かれちまってる! いいからさっさと行けよ!!」

「了解。さっさと済ましてくる。なあ、サラミス墜としたらなんかご褒美くれよ。酒でも缶詰でもかまわない、もしくは……」

 なんかほんとに好き勝手なことを言ってくれやがるふざけたエース級に、ちょっと皮肉をこめてこちらもにやけヅラだ。
 おまけこの語尾に若干の含むところがあるようなのはすっかり無視した。わからん。

「ん、もらいもので良ければな? いいからとっとと行け!!」

「了解! あとひとつ、燃料がどうたら言うのなら、この艦のカタパルトをザクでなしにこのオレ達の09用に改装しろよ?」

「うるさい、ドムって言え! ガノタが!! 健闘を祈る! 以上!!」

 インカムの通信をぶち切って通信士に突き返す。
 バカタレどもを追い出すのも一苦労だ。
 直後、三機のMS-09、もといドムの小隊が漆黒の冷たき海原をまっすぐに切り裂いて走る。
 いわゆるカタパルトの助走がないから自力での航行だが、かねてからの戦争の残骸だらけの暗礁宙域を苦もなく駆け抜ける凄腕の黒い三連星だった。

「……!」

 ようやくブリッジに静寂が戻る。

 俺はメインのモニターに大写しで映されるその三機のMSの後ろ姿に無言で敬礼を送って、そっとこの背後を振り返った。

 キャプテンシートにおもむろにその身を預ける若き英雄、シャア・アズナブル少佐は、これもまた無言のままにみずからの利き手をその額にまで寄せて、彫像かのようなクールな敬礼を決めている。周りのクルーたちもこれにつられるように敬礼を返していた。俺の時はやらないくせに。

 くうっ、しびれます! 少佐!! マジでカッコイイ!!

 かくしてごろつきどもの命を賭けた戦いと同時、この俺のおっさんのプライドを賭けた推し活の戦いもはじまった。

 激戦の予感……!



プロット
ムサイ級(シャア艦隊旗艦) ブリッジ 指揮ドレン 艦長シャア
シャアは艦長席にいる(今回は出撃なし MSはシャアザク? →新型機の納入待ち? ドム? ゲルググ? その他??)

出撃 黒い三連星(ガイア・マッシュ・オルテガ) 
サラミス級 3隻? MS 宇宙戦用ジム複数

Scene1でガイア機以下が出撃 ドレンとごちゃごちゃ
Scene2以降でMS戦

Scene2

 ホワイト・ベースの補給、援護用に出てきたサラミス級のMS隊のジムのイメージ、かなり雑ですけど最低限度このくらいわかればいいかな? くらいのヤツですw
 メインはあくまでガイアたち黒い三連星のドムカスタムなので、こっちがクローズアップされることはないはずなので!
 挿し絵でMSを描くのは苦労しそうですね(^_^;)

Scene2

 ◇PartA

 ムサイ級の巡洋艦が3隻からなる我らがシャア艦隊。

 その本来の目的は連邦の新型艦、通称・木馬の追撃討伐なのだが、強力な白い新型MSを擁する敵は手強く、かの若き英雄、シャア・アズナブル少佐の手腕をもってしてもこれを陥落せしむるには相当な困難をしいられた。
 そう、実際に現場にいるこの身からしても、それはただごとではないプレッシャーと危機感にさいなまれる日々だ。

 ただ今はやむなくしてこれとは別の敵艦を迎え討つにあたり、なぜだか心の内が軽くなるような、妙な気楽さや安心感みたいなのを感じているこの俺、ドレンであった。あいつら異常だ。

 黒い三連星だなんて異名を持つ凄腕のヤクザくずれ、もといMSパイロットが出撃してしばしの静寂に包まれる艦内。

 船の進路を変えてしまってこれに追いつくのがまた難しくなるんだろうな、なんてことをぼうっと考えていると、それが空気として回りに伝わったものか……?
 横からんんっと誰かが咳払いするのがわかる。
 それでハッと現実に立ち戻る俺だ。

 いかんいかん!

 チラリと背後をうかがうと、少佐はブリッジ中央も高くに据えられた艦長席に完璧なたたずまいでその腰を下ろしている。

 ならばわかっている。気配の主は、このすぐ左隣の男だ。
 若い下士官で操舵士のバルダに目線で了解の旨を送る。
 見た感じはいかにも軍人然とした屈強な体つきのおまけ無愛想なヤツなのだが、以外と気が利いたりする。時折この俺とパイロットたち、主にガイアとのごちゃついた通信を傍で聞いてクスクスと笑ってたりして。意外と愛嬌あるんだな? で、そんな褐色の肌をした精悍な顔つきの角刈りが真顔で聞いてくる。

「ドレン中尉。じきに大尉たちが標的の敵方MS隊と会敵するものと思われます。使いますか?」

「あ、そうか。済まない。本当に気がきくな! なら遠慮なく使わせてもらおう」

 何気ないさまで差し出してくれる操舵士兼、臨時の通信士だ。
 ま、都合でそういうことになってしまっているんだよな。
 渡されたインカムを装着しながら手元の作戦指揮コンソールに視線を落として状況を手早く確認。

 うむ。確かにもうじきおっぱじまりそうだな!

 背後で戦況解析に当たる情報士と艦長たる少佐が交える会話、通信士とMSパイロットとのあわただしいやりとりが交錯する。 

 「はじまるな……!」

 戦域の状況解析はひととおり終わらせてある。
 ある程度なら目をつむっていても把握できるし、その場におき的確な指示を下せる自信はあった。もとより言うことを素直に聞かない奴らではあるが、それなりに手助けはできるだろう。

 本来は操舵士のスペースに間借りして作った特設ブース?で無重力でも仁王立ちしてその時に備えるおじさんだ。
 すぐ隣でごくりと緊張した気配が伝わる。
 本来なら落ち着けとでも言ってやるべきところ、真剣なまなざしで正面を見据える若い士官に向けて頭を下げた。
 今更ながらちょっと気まずく思いながら。

「済まないな、バルダ? 正確にはバーダなんだっけか? 本来は曹長の場所なのに、こんな無理矢理に居座っちまって……!」

 気が優しくて力持ちって言葉がまさしくでぴったり合う青年は、かすかに笑ってこの太い首を左右に振る。

「いいえ、自分はかまいません。いざMS戦になってしまえば自分にできることは何もありませんから。少しでも中尉どのの助けになれば、それだけで! 必要とあらばなんなりとお申し付けくださいっ」

「悪い。じゃあ艦が揺れたりしたらこのおじさんが飛ばされないようにしっかり踏ん張っててくれ! 戦闘中は操舵士が一番体幹しっかりしてそうだから、遠慮なくしがみつかせてもらう!!」

「了解!」

 はっは、頼もしいったらありゃしないな! なんかおごってやりたいくらいだ。アホのガイアなんかじゃなくて? 

 近頃は言わなくても水も差しだしてくれたりする相棒の存在に今更ながらにありがたく思いながら、改めてブリッジから臨める暗い宇宙空間に目を細める。

 う~ん……。

 あいにくでここからでは遠すぎてその姿を確認はできなかったが、三機のドムは確実に敵陣深くへと迫りつつあった。
 ミノフスキー粒子はさしたる濃度がないので通信は生きている。やけに静かだが。今となっては良く見知った男の息づかいと、ぴりぴりとひりついた殺気みたいなものが目の前のモニター越しにもそれと感じられる俺だ。

「……んっ!?」

 事実、この直後に通信が乱れて呪いの言葉みたいなのがはき出されるのには目を丸くして戦慄してしまう艦長代理であった。
 予定では先制攻撃食らわせるはずだったのだが……。

 あれ、なんかしくじったか?

 思わず隣の操舵士と目を見合わせて、解析モニターにがばりと食らいつく。怖くて後ろは見れないおじさんだった。

 遠くの暗礁空域では混乱したオヤジどもの罵声が入り交じる。
 ガイアの顔が小型モニターの一角に映り込むが、鬼みたいな顔でこっちをにらみつけているのに思わずこの腰が引ける。

 うわ……! やべえな、完全に殺人鬼のそれだ。

 見ると隣の下士官ものけぞってた。あちゃあ、付き合わせて悪いな! マジでなんかおごってやるから勘弁だ。
 そのすっかり固まってる肩をがっちりと掴みながら、お互いにせいぜい気を落ち着けて状況に対処するよう努める。

 いまだ鬼みたいな形相のやさぐれパイロットが、おもっいきりモニターの中で中指立てているのに苦い表情でうめいた。くっ。

「悪かったな! 俺が悪いのか? いいから状況を教えろ!!」

 周りは撃沈した艦艇やら大破したMSやらの残骸のゴミだらけで光学センサーでは識別が不能だ。混迷を極める戦況に通信電波越しには口汚い罵詈雑言ばかりでらちがあかない。

 正面の巨大なガラスの窓越しに反射して見える少佐が艦長席からかすかに腰を浮かしかけているのを認めてほぞをかむ思いだ。
 なおさら操舵士の肩を掴む手に力が入るが、するとその真顔の好男子がすっと差し出してくる水入りのボトルを反射的に受け取った。いやそんな余裕ないんだが、流れでしかたなくだな。

 ボトルから突き出たストローをおもむろ口に含んで、冷たい水を一息に飲み下したら気分が落ち着いた。マジでありがたい。

 目が据わっているのが自分でもわかったが、その憮然とした表情のままでモニターの中でいきり立つエースパイロットにこちらも敢然と中指立ててやる。少佐から見えなければ構うまいだ。

「落ち着け! これでやられたらおまえらの責任だ。俺は悪くない。たぶん。死力を尽くして困難を乗り切れ! だから何があったんだ??」

 結果を言ってしまえばどうにかなったのだが、予想よりかだいぶ手こずったのが正直なところだろう。
 そうとも。おかげでめっぽうぶんむくれる小隊長どのの機嫌を取るのに苦心惨憺させられる、この中間管理職なのだから……!


  ↓次回はこちら↓

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ルマニア戦記/Lumania W○× Record #026

主役のクマキャラのパイロットスーツをリテイク!今回から新しい見た目に変わります(^o^)

フロント

所属する軍のナショナルカラーのグリーンをベースにしているのですが、ダークグレーとか黒とかでもいいような?あんまり色が暗いと悪役みたいになっちゃうのかな(^_^;)

バック

後ろから見るとかなりアレなカンジになるのですが、慣れですかね??おしりの上にちょこんと出ているシッポがキュートですw

 たぶん被らないけど、パイロットスーツに合わせたヘルメット(クマメット?)もデザインしました(^o^)

   新キャラ登場!

#026

 Part1


 当初の駐屯先であった大陸中央部の砂漠の陸軍基地から、もろもろの都合でこの大陸北岸の、さらに西の外れへ――

 やや辺鄙な港湾都市にその巨大な船体を休めることとなった、ベアランドたちの大型巡洋艦だ。

 そのいきさつまでにもひともんちゃくあったのは伝え聞くが、数日が経ち、船外に出る下船許可が下りるまでには状況は落ち着いていた。とは言え、いつスクランブルが掛かるかはわからないので、あまり遠出はするなとのお触れは出ていたが……。

 前回の航空部隊同士の戦いがやや消化不良気味だったので、この決着をつけるべくしてかの敵がふたたび襲来するのは、現場の隊員ならたやすく予期しえただろう。
 
 無機質な軍艦の中でまんじりとしないより、心身ともリラックスするためにひさしぶりに街に繰り出せるのはきっといいことであった。

 同じ部隊のクマ族のベテランコンビもやたら上機嫌なさまで、どこそこに行こうと算段しているようだ。
 どうやら近場にクマ族向けの有名な観光地があるらしい。

 だがあんまりそういったことに興味がないこの隊長自身は、船外ではなく見知った船内の見慣れた場所へと足を運んでいたが。
 それでもこの内心はうきうきとした鼻歌交じりにだ。

 そうこうしている内に何やら前方に見知ったようなクマ族の背中を見かけて、気楽に声をかけるベアランドだ。
 あちらもご機嫌な鼻歌交じりで、その足取りが軽かった。

「あ、やあ! そこのきみってニッシーだろ? おはよう! ずいぶんとご機嫌だけど、さては街にお散歩に行くのかい、パイロットスーツ以外の姿をはじめて見たけど、えらくラフだな? でもそれなら違和感なく溶け込めるよね! 似合ってるよ♡」

 いつものぎちぎちに全身を固めた地味な見た目の上下のつなぎではない、むしろやたらにラフな半袖半ズボンの若いクマ族くんの格好に、見え透いたおべっかを言ってやる部隊長さんだ。

 これにふとこちらを振り返った当のクマ族は、はじめぎょっとしたさまで目を見張らせたりした。

「あん? ああ、どうもっ……て、でかいな! アーマーじゃん!! いや、つうかなんすかその格好、隊長さんこれまでそんな大仰なスーツなんて着てなかったじゃないすか? うわ、上から下までガチガチじゃん、なんか引くわあ……!」

 言いながらひとのことを上から下までねめ回す新人パイロットの呆れたような言葉には、思わず苦笑いになるベアランドだ。
 おろしたての新型スーツは、控えめに言ってもこの見てくれが頑丈で大げさで、おまけかさばるし重たくもあった。

 個人的にはがっちりした着心地がとてもしっくりしてかなりのお気に入りなのだが、傍から見るにはしんどいらしい。
 その前にあったふたりのおじさんたちも口々にそんな反応(クレーム)をくれていた。

「ひどいな! みんなおんなじことを言ってくれるよ。もしかしたらこれが正規のパイロットスーツになるかもしれないのに? でも犬族たちはこんな重たいの着たりしないのかなw ま、ぼくらいかついクマ族にはまさしくうってつけってことで!」

「はあ、おれはかんべん願いたいかな……? それよりなんでそんな格好なんすか、まさかそれで街まで降りるとか?」

 そんなやや怪訝なさまで見てくる傭兵パイロットにまたも曖昧に笑っていかつい肩を左右ともすくめさせる。

「いやさ、ほら、せっかくだからこの格好でコクピットシート周りとのマッチングをしようかと思って? いざぶっつけ本番じゃ何かと不安だし、リドルも付き合ってくれるって言うからさ!」

「マジすか? せっかくの休日なのに、しんどいわあ! ちゃんと休んでくださいよ。隊長がそんなんじゃ他が気を抜けないし」

「いや、そんなことないんじゃないのかな?」

 部下のおじさんたちは思い思いの格好に身を包み、新しく入った新人のブタ族を伴ってとっくにこの船を下りている。

 対して若いクマ族のチーフメカニックくんは、外に出るよりメカをいじってるほうが楽しいと言い切っているから、無理に連れ出すこともできなかったわけで。ちなみにもうひとりのベテランのクマ族のチーフメカニックも同様の理由で居残りのはずだ。

 第二小隊のオオカミ族の隊長たちはよくわからないがきっと好きに方々を巡っているのだろう。気配はとっくになかった。

 そういえばこのクマ族の相棒である、若い犬族の女社長はどうしたのだろうかと内心で思っていると、それとおぼしき気配を背後に感じるクマ族の隊長さんだ。軽やかな足取りの足音がタッタと近づいてくる。おまけ甲高い声音がこれに続いた。

「あれ、ふたりでこんなところで立ち話? あんたその隊長さんと話すことなんて何もないでしょうよ? それにやだ、襟付きの服くらい着たらどうなの? 学生さんでもあるまいに!」

 顔を出すなり言いたい放題言って澄まし顔でふたりのクマ族たちを見上げてくる、それは勝ち気な女パイロットだ。
 対してラフな格好を揶揄されてちょっと鼻白むクマ族の平社員だった。それってモラハラじゃねえのかとでも言いたげなさまでせいぜい不満げな口ぶりする。

「学生じゃねえ、ゲーマーだぜ! 普段の服装にまで口出しされたくねえや、いかに雇い主の社長さまでも? そっちこそどうなんだよ、遊ぶ気満々じゃん! おれ、連れ回されんの??」

「当たり前でしょう? あんたはあたしのボディガード兼パイロットなんだから。雇用形態の契約書類に目を通さなかったの? だとしたらあんたの落ち度だから、黙って従いなさい。ほら、さっさと行くよ!」

 そんないつものつんけんした口ぶりで部下の愚痴をはたき落とすサラに、笑って相づち打つベアランドだ。

「仲がいいね! ま、せったくだから楽しんでくればいいよ。ぼくも余裕があったら街に繰り出してみようかな? 居残り組みのリドルやイージュンと一緒に♡ 街で出くわしたらよろしくね!」

「はあ、でかくてとろくさいクマ族さんは御免被るんですけど? あたしの足に付いてこれるなら構わないけど、うちにもとろくさいのがいるから、そっちのすばしっこそうなチーフメカニックくんとならトレードしても構わないかしら!」

「おれが御免被るぜ! なんで非番の時まであんなクソでかいクマのおやじと……マジ死ぬって……」

↑失敗して、結果、↓下の挿し絵に差し替えられましたw



 げんなりして肩を落とすニッシーだ。
 なおのこと苦笑いの隊長さんはしたり顔して言ってくれる。

「あははw じゃ、とにかく楽しんでおいでよ。たぶんそっちに行くことはないだろうから、ふたりとも気兼ねなくさ!」

「もちろんそうさせてもらいます。ふふ、とってもものわかりのいい隊長さま! あとでお土産のひとつでも差し入れしてやれるかもしれないから、どうぞ期待せずに待っててくださいね?」

「何だよ、じぶんだってめちゃめちゃ観光気分じゃん……!」

 気楽にピースサインを肩越しに見せてくれる女ボスに、がっくりとうなだれながらすごすごと歩いていく肥満気味のクマ族だ。

「うん。期待はしないよ。なんかコワイから! あはは♡」

 ふたりの傭兵コンビをお気楽に見送ってみずからも目的の場所へと向かうベアランドだ。入ればいつもと変わらぬ喧噪と活気にあふれたアーマーデッキには、すでにふたりのチーフメカニックたちがこの隊長の登場を真顔で待ち構えていた。

 Part2


 クマ族のエースパイロットの新型機をはじめ、各隊のアーマーを収容する広大なデッキフロアは、巨大な戦艦の中でもこの船底に位置した。

 その中でもみずからのアーマーが格納された大型機専用の中央デッキに向かう。するとそこには専属の若いチーフメカニックの他にも、オオカミ族たちの小隊のチーフメカを担当するはず、ベテランのクマ族のおやじまでが何食わぬ顔して立っていた。

 ちょっと意外そうな顔でこれを見るベアランドだ。

「あれ、イージュン? どうしたんだい、そんな気むずかしい顔して?? 第二小隊のチーフメカニックはこんなところに用なんてないはずだろうさ!」


 こちらとしてもそんなおやじに用はないと口にはしないまでも、この口ぶりと態度で言ってしまっていたものか?

 ちょっとむすりとしたさまのベテランのクマ族メカニックマンは、口をへの字にしていかにも不服げなさまだ。

「……なにって、お前さんのところのお邪魔虫どもの大型機のメンテもしているだろう? これおれは。用がないなんてことはないんだよ、失敬な! あとちなみに、当のお邪魔虫、あののろまなクマ助くんはどこにいる?」

 となりに立つリドルが苦笑いで見ているが、こちらも同様に肩をすくめさせるクマ族の隊長さんは、ついさっき別れたばかりの若い新人パイロットのクマ族のことを思い浮かべながら答えた。

「ああ、ニッシーならついさっき、ボスのサラに連れられてこの船を降りていったよ? なんでも彼女のボディガードなんだってさ! パイロットやらエスコートやら、新人の平社員くんは何かと大変だねw」

「どうでもいいけどな! あのバカ、完全にあの女社長の犬族の尻にしかれてやがるだろう? 情けないはなしだ。こちらとしてはちょっと聞きたいことがあったんだが、ついでにおまえさんの意見も聞いてみたいところだよな。後でちょっといいか?」

「ん、まあ、構わないけど? ぼくに聞いたところで何もわからないんじゃないのかな?? それにこっちはこっちでやることあるから、どのくらい後かわからないよ」

 仲間達が続々と船を降りて羽を伸ばしに行っているのに、じぶんだけがここに来た理由をそれと大きな身体をガチャガチャと揺らして示してみせる。するとだが相手のクマ族のおやじはそれでかまわないさと真顔でうなずく。おまけこれまでよりもずっとごちゃごちゃとした見てくれのいかついパイロットスーツを微妙な顔つきで見ながら言ってくれた。

「思ったよりもずっと大げさなスーツだよな? まだテストケースなのか、もとよりそんな邪魔くさいもの犬族たちが着たがりやしないだろう? 特にあのやかましいオオカミ族の隊長とか!」

「まあ、そもそもであれのかさばるプロテクターを外して軽量化させたスーツで戦場に出るなんてのも珍しくないらしいからね? あくまでぼくらいかついクマ族向けの仕様なんじゃないのかな。でもニッシーやダッツやザニー中尉たちも、これを見たらばみんな口々に嫌がっていたけども!!」

 わはは!と破顔して楽しげにぶっちゃけるのに、対するオヤジのクマ族もイヤそうな顔してでかい頭を左右に振ってくれた。

「悪いが、おれも御免被る! ま、おれは着ることなんてありやしないが、生存確率を上げるためには致し方ないことなのかもしれないな? 昨今、アーマーの性能が格段に向上している都合、中身のパイロットもそれなりに身なりを整えないと、釣り合いが取れ無いんだろう。特に、その、な?」

 意味深な目つきをこちらは隣の若いクマ族に送っての言葉に、それを受けるチーフメンテナンスは素直にはいと受け答える。

「は! とてもお似合いであります、少尉どの! 最新鋭のアーマーに乗るのであれば、そのくらいに頑丈なスーツを着ていただかないとさすがに心配でしたので……!! そちらは対Gスーツとしてもとても有効な性能があると聞いております」

「ま、毎度毎度出撃するたびにあんな無茶苦茶なことをしているんだから、このくらいの保険は掛けてもらわないとな? まったく割に合わない! てか、おまえさん、ほんとに似合っていやがるよな? 冗談みたいな見てくれしてるのに!!」

「はは、そうかい? ま、冗談みたいなぼくの相棒のアーマーとこれでちょうど釣り合いが取れるのかな? イージュンが言ってるみたいに! 前のヤツもあれはあれで愛着があったんだけど」

 いかつい肩をことさらに大きく揺らして笑う隊長さんだ。

 これを白けたさまで見ながらまた意味深な目つきでベテランのメカニックが言ってくるのには、ちょっと苦笑いでこの視線を逸らしたりする。

「聞きたいことはまだ他にもある。まあその、聞いた話じゃ、また新しいアーマーが入ってくるんだろう? しかもふたつも! 懲りないよな。さてはあの熟練コンビのクマ族ども向けなんだろうが、おまけにコイツが出所が一切不明のとってもいかがわしい機体と来てやがる……そうなんだよな?」

「ああ、よく知ってるね? ひょっとしてリドルから聞き出したのかい? とは言え、まだ本決まりじゃないから中尉どのたちには言っちゃだめだよ? ぬか喜びさせちゃ気の毒だし。出所が不明なのは、そんなのもうみんな慣れっこだろう?? まずこのぼくの相棒のランタンがアレっちゃアレだし♡」

 むしろ出所がはっきりしている機体の方が少ないじゃないか! 

 しまいにはそんなことまでぶっちゃける隊長さんの発言には、小隊付きのメカニックの青年が苦笑いでうなずく。これにはそのとなりのオヤジもあきれ顔でうなずいて、また苦言だかクレームだかをぶちまけれてくれるのだ。

「まさしくだな! あのボンクラの新人くんの大型機はおろか、その連れの犬族の高機動型のももはや正体不明のアンノウン、見たことも聞いたこともありやしない! もっと言ったらおれが担当している第二小隊のやせオオカミのやつも、それに近いぞ? マニュアルもメンテナンス向けの仕様説明書もへったくれもないんだからな! ブラックボックスだらけだ!! ヘタにいじれないだろう?」

「とか言いながら、そういうのがとっても好きなんじゃないのかい? でっかいクマのおじさんが寝る間も惜しんでこれまたどでかいアーマーと取っ組み合いしてるって、もっぱらの噂だよ。みんなありがたく思わないとね!」

「どうでもいい。好きでやってることだからな? だがせめて協力はしてもらいたい。やるからにはだな!」

 プロのメカニックとしての矜恃みたいなものをでかい鼻づらに浮かべるオヤジは、鼻先でふんと息をついて、そこでまたちょっと口をとがらせたりする。不満げなさまに大きくうなずくベアランドだ。


「まあ、中にはそんなものつっぱのける恩知らずなヤツらもいるわけだが……! 近づくと露骨にイヤな顔をしやがるからな? だがあいつらの機体も、やっぱりわけがわからないよな、それが後部デッキを占領しちまってるときたもんだ! よくこうもポンポンと受け入れやがるよな、本来ならそこのおまえさんのデカブツで手一杯のはずなのによ!!」

「あのゴリラくんとネコちゃんのアーマーか! 確かに型式も国製も不明でそのくせびっくりするくらいに高性能なんだけどw でも大丈夫、そこらへんはうちのリドルが興味あるみたいで、探りを入れてるようだから、ね?」

 おとなしくふたりの話を聞いていた物腰の穏やかな青年メカニックは、明るい表情ながらあいまいにうなずく。

「ああ、はいっ、まあ……! ヒマを見てお邪魔してはじめは遠くから見学させてもらって、少尉どのに調達してもらった高級バナナを差し入れしていたら、ゴリラ族のベリラさんは近頃は普通に話しかけてくれるようになりました。相棒のネコ族のイッキャさんの目を盗んで触らせてくれたりもしますし?」

「バナナ? おまえ、それって餌付けじゃね? あのゴツいゴリラ相手によくもまあ、そそのかしてるそっちの隊長さんも隊長さんだが、ならネコちゃんは何をくれてやったら仲良くなれんのかね?」

「お金じゃないのかい? はは、別にモノなんてあげなくてもリドルの腕があればなんとでもできるよ。アーマーにメカニックはつきものじゃないか? しょせんパイロットだけじゃ運用なんてできないんだから! 黙ってたっていずれ必要とされたさ♡」

「そんなもんかね? いや、これからまたふたつも増えるかもしれないってのに、そんな余計なもんにかまけていたら身体がいくつあっても足りないんじゃないのか? まあいいや、実際にきたなら、そのうちのひとつくらいは受け持ってやるよ。ただし、あの落ち着きがなくて反応がやかましそうなグレーのじゃなくて、むっつりした赤毛のおやじのほうをだな?」

 何食わぬ顔でそのくせにしれっと言ってのけるのを、若干吹き出し加減に了解する隊長さんだ。

「そういう認識なんだ? イージュンこそほんとに好き者だよね! 実はそれが言いたかったてあたり? 博士もある程度は協力してくれるだろうけど、リドルとノウハウの共有ができたならそれに超したことはないから、大歓迎だよ! 感謝感激!!」

 満面笑顔で舌なめずりまでするエースパイロットのクマ族に、ベテランのクマ族メカニックマンは何食わぬさまでとぼける。

「ふん。来たらの話だ。それにまだ他にも聞きたいことはある。若造の大型機はあらかた攻略したんだが、ひとつだけ良くわからんことがあって、そのあたりをだな? 当人に聞いてもわからないとかぬかしやがるから、ガチのパイロット目線の意見を聞きたいんだよ。あいつをとっちめて無理矢理に突き止めるのも手なんだが、あのボンクラくんときたら必要な時以外はこっちに顔を出しやがらない! なめてやがる」

「メカニックのおじさんがそんなおっかないからじゃないのかい? まあいいや、それじゃ早速、このスーツとコクピットとのマッチングをしちゃおうか。リドル、イージュンと一緒にコントロールでシミュレートをしておくれよ。シビアなのでかまわないから、機体の射出出撃から敵の編隊との会敵、交戦までひととおりに……! 半日くらいかけてくれてもかまわないから」

「はっ、了解であります! 少尉どの!」

「はあ、おまえも好きだよな? 半日は長いだろう。途中で抜けさせてもらうかもしれないが、終わったら声をかけてくれ」

「はっ、了解であります! イージュン曹長!」

「おまえは真面目すぎる。だったらおれはもう一度あっちの大型機の最終チェックに入るから、そっちはふたりでよろしくやっててくれ。じゃあな!」

 ドスドスと大きな足音を響かせて、じぶんたちとは反対側で向かい合わせに収容固定されている大型の機体へと歩み去るでかくてまあるい背中をにんまりとした笑顔で見送るベアランドだ。

「どの口が言うんだか、ひとのこと言えやしないじゃないかw」  

 そうしてみずからはくるりと頭を巡らせて、己の愛機の固定されたハンガーへと大股で進んでいく。ここからではそのコクピットブロックは見上げるほど高くにあるのだが……。

「あ、少尉どの! ちゃんと昇降機を使って上がってくださいね! 自分は管制室からモニターしておりますので、およそ30分後にスタートとさせていただきまして?」

 いつものノリでジャンプしてタラップをまとめて飛び越えようとしたのをまんまと呼び止められて、舌を出して振り返る。

「……おっと、そうだった! あ、でもだったら緊急発進モードで10分以内にスタートってことにしようよ? 本気で半日もかけてやるつもりもないからさ♡ どうにか集中して二時間くらいでやっつけちゃおう!」

「了解であります!」

 そんな軽口混じりにしたお気軽な演習のつもりだったのだが、それが10分後には現実のそれになることを、この時はまだ誰も知る由はなかった。


 Part3


 今回、試験的に導入された新しいパイロットスーツは、従来の軽量軽装を主眼としたものとはまるでコンセプトが異なる全身重装備型で、言わばクマ族向けのものであった。

 これによるコクピット周りのマッチングテストは、だがこれが思いも寄らぬ形で現実の出撃シークエンスを実行するこことあいなるのだった。
 
 ただの演習ではない、ベアランドの隊長機のみによる単機での緊急出動(スクランブル)だ。


 港に着岸したままの母艦から今回は自力で飛び立ったクマ族の隊長機は、上空およそ500メートルの高度でその大型の機体をぐるりと左に旋回しながら眼下に広がる乾いた大陸の景色と向き合う。

 そこでレーダーの索敵範囲を有効射程のはるか彼方にまで広げながら、母艦のブリッジへと通信を開くベアランドだ。


「ふうむ、とりあえずこうして出撃してはみたものの、肝心の目標らしきがどこにも見当たらないな? 艦長、未確認の反応ってのは、つまりは所属不明のアーマーのことでいいんだよね?」

 どこを見るでもなく漠然と目の前のディスプレイを眺めながらの問いかけに、ほどなく正面の青空の一角に見知ったスカンク族のベテラン艦長の顔が、大写しで映し出される。


「……うむ。こちらでもこの反応のみを確認したのだが、おそらくは二機の所属不明機、どちらもアーマーであるものと推測はされる。ただしこちらに対しての敵対的行動や意思があるのかは不明。むしろ両者が交戦している可能性が高いとの観測がされるのだが……!」

「なるほど! それをぼくに偵察してこいってことなんだよね? あいにく出撃できるのはこのランタンだけだったし……!」

「うむ。だが少尉、くれぐれも無理な戦闘行動は取らなくていい。せいぜい牽制をかけるくらいのものでだな?」

 真顔でこちらを見下ろしながらの返答には、了解と目でうなずいて、あたらめて正面のディスプレイと向き合うクマ族の隊長さんだ。まさかこうしていきなり実戦になりかけるとはね?と内心で苦笑いしながら、母艦のデッキのコントロール・ルームで待機しているだろう若いメカニックのクマ族に向けて言った。

「リドル! こっちのモニターついでに戦況のモニターもしておくれよ。できるだろ? どうせイージュンもいるんだろうし!」

 半ばテキトーに言い放ったセリフには、即座に若いクマ族の青年の声と、ベテランのクマ族のそれが応じてくれる。

「は! 了解であります! 少尉どの! 幸いブリッジからリアルタイムのデータもいただいているので、問題なくこちらからサポートできるものと思われます!!」

「どうせってなんだよ? 居て悪かったな! いきなり出撃していきやがって、なんかめんどくせーことになってるみたいだが、おもしろそうだからオレも付き合ってやるよ。そっちで取ったデータを解析してやるからさっさと目標捕捉して、とりあえずこの画像をよこせよ。ついでに音声も当然な? アーマーのエンジン音からも推測できることはたくさんある。アーマー壊すなよ?」

「もちろん! あいにくと今はひとりっきりで、ベテランの中尉どのたちのサポートも望めないから無理はしないさ。あちらさんが必ずしも敵対的とは限らないしね? どっちも正体不明ってあたりがなんか引っかかるんだけど……!」

 ベテランのスカンク族の艦長から切り替わったこれまたベテランのクマ族のおやじのむすりとした表情を見上げながら了解してくれるのに、おやじの横からひょいとこの顔を出す若いクマ族が落ち着いたさまで補足をしてくれる。

「ちなみに少尉どの、ブリッジからのデータによると正体不明機はこのどちらかがかなりの大型機クラスであると見込まれるとのことです! 場合によっては少尉どのの機体と同規模くらいな? ですので予想される会敵ポイントにはすでにかなり近くまで接近しているので、モニターの視界からでもそれらを確認できるのではないでしょうか?」

 これにも了解してうなずくベアランドだ。

 そう。見ていると確かにそれっぽいのが正面のモニターのど真ん中にあるのだが、あいにくはっきりこれと見分けがつくようなさまではなかった。なんか怪しいのがあるくらいなカンジだ。

 それを怪しげに見ながらカメラの焦点にズームをかける。


「まあ、あそこらへん、確かにへんなケムリか煙幕みたいなものがあるのかな? でもあいにくでレーダーにはっきりとした反応が出てこないや! マイクでエンジン音が拾えるかい? あれ、消えちゃった……!」

 それはほんの一瞬だけ……!

 コクピットに短い警告音が鳴ったきり、ピタリと静かになる。

 ケムリの中から何かしらが飛び出したのはわかったが、それが何かを確かめる前にモニターから消失してしまうのだ。

 別々の方向に別れて散っていったのではないかと思われたが、あまりに突然のことでどちらも補足するまでに至らなかった。

「ちゃんとモニターしろよ! 完全に見失っちまってるだろう? こっちじゃさっぱり追跡ができない、ステルス性がヤバイくらいに高いんじゃないのか? ヘタに深追いできないだろうっ……」

「うん……まあ、そうなんだけど、しっかり相手には補足されちゃったんじゃないのかな? でも大型っぽいのはちょっとだけこの姿らしきが見えたから、そっちを追いかけるとしようか。もう一機はこの際もうほっといて!」

「あっ、いえ、ですが、少尉どの! ここは一度帰還されたほうがよろしいのではないでしょうか?」

 顔つきからしてちょっと心配そうなチーフメカニックくんの言葉には、ただあいまいにだけうなずいて周囲の気配とモニターに目を懲らす隊長だ。

「ん……いや、でもね、それじゃわざわざ出向いて来た意味がなくなっちゃうじゃないか? 探りを入れてほしいって艦長からの直々の命令ではあるし、そんなヘタは打たないさ。なんか補足できたみたいだし!」

「え、いたのか? どれどれ! 見して見して!! 早く!!」

「うわっ、イージュン曹長、そんな興奮しないでください! ブリッジの方にも回線をつなげているんですから、筒抜けですよ」

「じゃあ音声オフっちまえよ? かまわねえだろ」

「え、でも現場の正確な状況とそれに即した解析データと、パイロットやメカニックのガチの意見を参考にしたいんじゃないのかい? それじゃ今から見せてあげるから、落ち着きなよ! ほら、あそこにある白い煙幕みたいなヤツ……ね、わかるかい?」

 ことがアーマー絡みとなるとなんでも前のめりで興味津々のベテランのメカニックに急かされながら、正面モニターの左の端のほうに捉えたそれはうっすらとした雲かもやみたいなものにメインカメラの焦点を合わせる。みずからの機体の向きもそちらに正対させながら、注意深く違和感の正体を探るベアランドだ。

「ああやってアレだけぽつんと不自然にあるのは、つまりは人工的に発生にしたものなんだよな? ちょっと背後のほうがムズムズするんだけど、なるべくそっちに頭のレーダー集中させるから、ふたりとも解析よろしく!」


 見ればある特定の地点からもくもくと吹き出る白い湯煙の中から、やがて黒い影がうっすらと浮き出るさまを怪しげに見るのだが、それがはっきりと姿を現した時には静けさの中にそれは少なからぬ緊張が走った。予想していたよりだいぶやっかいな有様にだ。通信機越しに呆れたようなおやじのだみ声が漏れてくる。


「……は? おい、なんだよありゃ! マジで見たことねえぞ! バカみてえな形状のヤツが、しれっと空を飛んでやがるっ、しかも超大型!! エンジンいくつ積んでやがるんだよ!?」

「想像がつきません! でもあれは、人馬タイプ……でいいのでありましょうか? 見たことがないです! あ、脚が4本で、腕は一対、胴体に頭があって、大型の機体を浮かせるのに大型のロータードライブが都合三基! 少尉どの、各部に高出力の射撃兵装らしきがうかがえるので、これ以上の接近は危険かと思われます! 機動力もかなりのものが予想されますので、機体の防御フィールドを最大限に展開しつつ……!」

 言ってしまえば臆病で心配性な青年が最後に飲み込んだ言葉が何かを理解しつつ、目の前のモニターに映し出される奇々怪々な見てくれのアーマーにまじまじと見入る隊長さんだ。

 やがて困ったさまで苦笑い気味のため息を漏らす。

「参ったな……! よもやこんなのに出くわしちゃうとは? 見るからに冗談みたいな見てくれしてるけど、造りがやたらにしっかりしているよな? おまけに空飛んでるってあたり、かなりのお化けアーマーだ。このランタンにひけをとらないよね!」

 この額にうっすらとイヤな汗をかいているのを意識しながら、各種レーダーの出力を最大限に上げてモニターの解析データを凝視する。外野にのんきに実況中継をお願いしている場合ではないと意識を切り替えた。艦長には悪いがブリッジとの通信は閉ざして、目の前の現実とだけ向き合うよう努めることにする。

 おまけにまだ一機、背後に控えているのをちらちら意識しながら、そちらはいっそブリッジのクルーたちに任せてしまうべく短くテキストの打電を送る。同じものを受け取ったデッキのメカニックたちもただちに了解して返してくれた。

「いいんじゃね? そのくらいやってもらわないとな! ブリッジからの観測データはこっちでも見ててやるから、おまえはそっちのデカブツくんに集中しろよ、でかいヤツ同士で!」

「少尉どの! くれぐれも無理はなさらぬように、防御主体であればおそらく無難にやり過ごせるものかと思われますが……」

 この性格柄か、何かにつけて無難で消極的なチーフメカニックの進言に、もうちょっと士気の上がる声がけはしてもらえないものかなと思いつつ、苦笑いのエースパイロットは臨戦態勢で正面のメインモニターに向き合う。

「ははっ、まずは相手の意図を確かめたいところだよね? いかに攻撃は最大の防御とは言え、出会っていきなり先制パンチってのも、あまり建設的ではないってもので……ん!」


 あわよくば互いの意思の疎通が図れないかと見ているさなか、奇しくも正体不明のアーマーが何かしらの信号らしきを発してきたのに真顔で注目する。

 この全身が真っ黒で、いかめしい不細工ヅラした頭部のメインカメラをビカリとひときわに輝かせる正体不明の大型アーマーだ。リドルが言っていたようにひとの上半身と馬の胴体を掛け合わせたような見るも怪奇なありさまのそれなのだが、しかしながらこの反応としてはしごく普通のものを返してくれていた。

「……あれって、さては交信のサイン、とりあえず通信回線を開いてたりしてくれてるのかな? どこだろう、軍用の暗号回線とかじゃなくて、通常のラジオ帯域とか、まさかね? だとしたらベタな商用の無線通信だったり……あ、やっぱり!」

 一般の商業回線のチューニングであっさりとヒット!

 帯域を固定してこちらからも通信チャンネルを開放する。
 だがそれでいざ向こうからの音声入力に耳を澄ますよりも、突如として鼓膜を圧するような馬鹿みたいな声量の声高な挨拶に見舞われて、思わず面食らうクマ族だ。
 
 もはやカウンター気味の不意打ちであった。

「ルネッサ~~~ンスっっっ!!!」

 やけに声を張り上げた力一杯の第一声だ。

「つっ!? ……は???」

 左右の耳がキンとして思わずのけぞる。
 とっさに身体が反応するが思考がすっかり停止していた。
 いかんせん意味がわからなすぎて。
 スピーカーの向こうのメカニックたちも静まり返っている。

 あれ、本当にやっかいなのと当たってしまったのではないか?

 内心で途方に暮れかける隊長さんに、通常回線越しの相手はまた元気一杯に張ったバリトンボイスでカンカラと大笑い!
 おまけにまたも意味不明な応答をかましてくれるのだった。

「ぶあっはっはっは!! おや、これは失敬! ん、反応が薄いな? そうか、この高貴なる我が輩の絵面がないからまるで理解ができていないものか? 貴様らげせんなる庶民には? ならばどれどれ……!」

 これにつきさっぱり目つきがきょとんとなるベアランドだ。

 直後、ピピッ!とさらなる通信チャンネルの接続音がして音声ばかりかご丁寧に画像での通話回線が開かれる。果たしてそこで目にしたものにいよいよ目がまん丸くなる隊長さんだった。

「あれ……本当に意味がわからないじゃないか? いったいどこの所属なのやら、これってこのアストリオンでも西大陸のやつでもありゃしないよね! しかもおまけに……!」

「はあっはっはっは!! ご機嫌うるわしゅう、しもじものパイロットどもよ! おや、返事がないな? フフン、なるほど、察するに、このわたしの愛機のあまりの偉容に恐れおののいているのではないかな? よいよい、無理もない! はあっはっははははは!!」

 ひたすら困惑するこちらに対してあちらは何ら臆するでもなく破顔一笑! おまけにまたもや好き勝手な言いようを大声で畳みかけてくる。鼓膜が痛くなるくらいのヤツをだ。

 ついさっきまで艦長のスカンク族が映っていたあたりに大写しで出てきたバストアップの男の画像に、絶句するベアランドだ。 

 おなじく左右のスピーカーの向こうでちょっとしたどよめきみたいなものが伝わって、ベテランのクマ族のおやじがあきれたような言葉を発してきた。あいにくでこの顔が映らないが、声つきからその表情がどんなものだかありありと伝わってくる。


「……は、なんだよコイツ? さっぱり意味がわからないじゃないか?? 何様なんだよ、偉っそうに! おい、一発ぶちかまして黙らしてやれよ! なんかめんどくせえから?」

 こちらのモニターで見ているものは、同様にあちらのコントロールルームでもリアルタイムで確認ができる。結果、そのふざけているとしか言いようがない見た目からこの物言いまでがクマ族のおやじにはかんに障って仕方がないらしい。ひどくイラッとした投げやりな意見には、だが難しい顔つきでまじまじとモニターに見入るこちらもクマ族の若いエースパイロットだ。

「あちゃ~、まさかのイノシシ族か! 厄介だな? よりにもよって……え、あ、いやいや、そんなわけにもいかないんじゃないのかい? あいての並ならぬ気性や性質も考えたら、ここはなるたけ穏便に済ませたほうが無難な気がするんだけどね?? あれってもはや伊達や酔狂じゃない見た目と迫力があるし、パイロットがこれじゃどうにもこうにもだよw おまけにまさかの貴族キャラ!!」

「少尉どの! あの、なんか怖いです……あまり深追いはしないほうがよろしいのではないでしょうか?」

 やはりクマ族で若いチーフメカニックくんのとっても困惑した台詞もやんわりと受け流して、あらためてモニターの中でふんぞり返るやけに鼻がしらの突き出た謎の紳士パイロット?らしきと相対する隊長さんだった。

「う~ん、何というか、すべてが想定外なんだよなあ? さっぱり意味がわからないけど、それだけに敵対する必要性もないんじゃないのかな? この場合、さしあたっては??」

 みずからの太い首をかしげてモニターの中のイノシシ族らしき相手に見入るのに、その当の黒いパイロットスーツ姿が口から突き出た牙を揺らしてのど仏を振るわせる。ほんとにやかましいったらありゃしない、自己主張が激しい貴族さまだ。

「ふふん、そうか。それほどまでに興味があると言うのならば、あえて名乗ってやろうではないか? ありがたく聞くがいい、庶民よ、一度しか言わぬので心してな!」

「え、別にいいけど? まあ教えてくれるのなら聴きはするけど、こっちも名乗らないといけないのかい? いろいろと機密事項が関わるからあんまりおおっぴらにはいいずらいんだよなあ。あとこの一般回線で秘密がダダ漏れなのもちょっと……」

「無視すりゃいいだろ、あと聞いてねーぞ、向こうのイノシシさまはちっとも!」

 横合いからメカニックのおやじのツッコミが入るがそれすらもまるで意に介さぬ演説が真正面のモニターからぶち上げられる。意思の疎通は限りなく無理な気がしてならないベアランドだ。スピーカーの音量を下げるべきか思案しているさなかにも天井で割れんばかりの大声が響き渡る。一瞬通信を切りかけて、どうにか思いとどまる隊長だ。ブリッジの艦長たちはどんな面持ちでこれを聞かされているのか?

「ぶおっほん! この我が輩は、この中央大陸に新たに興したる新生国家、コスプレイン公国が公王、ダン・シャルクである! 由緒正しき公爵家の正当なる血筋、いずれはこのアストリオンのすべてを制する強く気高き獣王よ!!」

「え、なに言ってんの? 途中からすっかり見失っちゃったんだけど、コスプレイン? 聞いたことないや、あと悪いけどぼくら地元の住民じゃないから……!」

 対応に苦慮しながら聞いているにあちらはまるでかまわずに続けてくる。のんびりしたイメージがついて回るブタ族とは打って変わって気性が荒く性格が直情的で知られるイノシシ族は話す言葉までフルスロットルで一方的だ。まるで聞く耳もってくれない。

「よいよい、かまわぬ、光栄に思えばいい。この優雅にして叡智に満ち足りたご尊顔を目にした幸運を。そしてありがたく思うがいい! このわたしの公爵家専用アーマー、その偉容に触れたたぐいまれるなるこの奇跡を! そこまで知りたくば教えてやろう、このアーマーの名、これぞ王の乗るにふさわしき重装型グランドアーマー、サミウスである!!」

「いや、別にそこまで聞いてないんだけど? サミウス?? グランドアーマーってことは、やっぱりこのぼくのランタンとおんなじヘビィカテゴリーになるのかな? いよいよ厄介だな!」

「いいから、一発食らわしちまえよ? あんな無防備なんだから、貴族だかなんだか知らねえが!」

「あまり挑発しないほうがいいのではないでしょうか? 見かけ倒しとも思われませんし、出力もスピードも未知数です!」

「どっちかに意見を統一してくれないかい? これで艦長から撤退信号なんか出されたらハチャメチャだよ。いや、その場合はンクス艦長の指示に従えばいいのか? ん、あれ、イノシシの貴族さんがやけに静かだな?」あまり一般的な名称ではないのだが、いわゆるギガ・アーマーのより大型で強力なパワーを秘めたものを指すグランドカテゴリーの機体にふんぞり返るお偉い公爵さまは、今はむっつりした顔つきでこちらをじっと凝視してるのに目をぱちくりさせるクマ族のパイロットだ。ただならぬ気配と形相をしたイノシシは突如火がついたように怒りの怒声をまくし立てる。はじめぽかんとするベアランドたちだった。

「ぬぐぐっ、これは、なんたる侮辱! 貴様、このわたしにわざわざ名乗らせておいて、そちらからは名乗りもしないのか? あと貴様のそのアーマーもなかなかに勇壮な見てくれをしているではないか! よいお友達になれると思ったこの私の期待をかくも無残に踏みにじって、武人としての礼節も誇りもないのか、クマ族め!恥を知れ!!」

「お友達ってなんだい!? え、そんな流れ、一瞬だってありはしなかっただろう! なんでそこまで怒れるんだ、被害妄想も甚だしいよ、厄介すぎるから! 待ちなよ!!」


プロット
ベアランド単機での出撃?
所属不明機?
ダン シャルク公爵? ボヤージュ?
パズル クロウ

カテゴリー
DigitalIllustration Lumania War Record Novel オリジナルノベル SF小説 ファンタジーノベル ルマニア戦記 ワードプレス

ルマニア戦記/Lumania W○× Record #025

※近頃はYouTubeliveで創作活動を垂れ流ししていますw
興味がある方は見て見てね♥ キャラとも絡めるし、一次創作の作者さんで設定があるひとはイラリクもOK!ただし描けるものだけwww 以下は説明の動画と、実際のliveの様子です。まだやりはじめたばっかりなので、誰にも見てもらえない過疎っぷりが痛々しいですね(T_T)


#025

 Part1


 ブッヴ、ヴヴヴーン……!

 常時薄暗く、周りをディスプレイや計器類でびっしりと埋め尽くされたコクピットの中は、狭苦しさに息が詰まるようだ。

 ただ低くくぐもったエンジン音がこの背後から伝わる

 搭乗者であるクマ族用に大きめにあつらえれられたパイロットシート越しに、かすかな振動も伝わってきた。

 するとこれだけで今現在のこの機体の調子がどんなものだか、それと察するパイロットだ。

 口元にはかすかに余裕の笑みがある。

 まだ開発途上の域をでない新型の大型アーマーだった。

 だがこれがすこぶるつきに快調で、ひとつも機体警戒アラートを発することなく、沖合の洋上から目指す大陸の北岸へと進路を進める。

 おかげでこの母艦である中型級空母から出撃して、しばらくはすんなりと視界のすっきりと開けた高空を進むことができた。

 かくして沖合から中央大陸の海岸線を広く眺める景色を見下ろすみずからのアーマーのコクピットで、ちょっと緊張した面持ちでディスプレイを見つめるクマ族の新人パイロットだ。

 一言も発さずに目の前のモニターや計器類を見つめていると、不意に短いアラーム音が弾けて右手のモニターに意識を向ける。

 するとほぼ同じタイミングで、左手側のモニターには相棒の見慣れた赤い機影が、その特徴的なシェイプをした機体の一部を映り込ましてくるのが視界の端に見て取れる。

 まずは先行して出撃したじぶんに、後続のアーマーパイロットがややもせずに追いついて通信回線を開くのだった。

「カノンさん、注意して! ここはもう戦闘空域だよ。そんな大きな機体でボケッとしてると流れ弾を食らっちゃうから!!」

「おうっ、言われなくともわかっておるんじゃ! なにせここからもう目視ができるじゃろう? あっちの高空で激しいアーマー同士の空中戦が、今まさに大空一杯に繰り広げられておるんじゃっ……!!」

 みずからの機体の映すレーダーサイトには、敵味方複数のアーマーを示す、赤やら青色の点やらがそれぞれに複雑な軌跡を描いて交錯している。

 正面からやや右の空域、じぶんから見ておよそ一時から二時の方角にかけて、目にもとまらぬ高速の回避軌道が青一色のキャンバスに幾筋も描き込まれていた。

 加えてビームや弾丸の閃光も無数に重なる。

 ごくりと生唾を飲むクマ族の少尉、カノンである。

 ちょっとビビったさまでぼんやりとした感想を述べていた。

「あ、あの中に今からこのおれたちも混じるんじゃのう? まだ新型のこの慣れない機体で、ちゃんと付いていけるんじゃろうか??」

 ブルルッ……!

 そう武者震いしたのはマイク越しにも伝わったか?

 そのクセいささか緊張感にとぼしい本音に、すかさず右手のスピーカーからは相方の甲高い声音が入る。

「カノンさん、わたしたちはあの中には混じらんよ。そういう通達が入っているの、まさか知らないの? そうやん、精鋭ぞろいのキュウビ部隊には、いついかなる場合においてもこの手出しはいっさい無用!……って、そういう話やったでしょうに。わたしらの艦長からもそう言われてたし……!」

「そ、そうじゃった! この相手もやたらに手強いからヘタに近寄ると無駄にケガをするんじゃったか? 確かにあの敵のやたらに目立つ大型の機体、なにやら普通じゃない迫力があるんじゃ。こうして改めて画面越しに見てみるに……」

 ぽっちゃり体型のクマ族のメガネ男子は、困惑顔で目の前の大型ディスプレイが映し出すリアルタイムの映像に見入る。

 そうした中でも拡大表示したある特定の大型のアーマーには、ほとほと困惑したさまでなおのことこれをまじまじと凝視。

「〝グリーン・デビル〟……じゃったか? おれのこのガマよりもでかいんじゃろうか? とんでもない出力がありそうじゃ!」

「だからそっちはどうでもいいんよ! わたしたちはわたしたちのやるべきことをやらないと。新手が来た! ほぼ真正面!!」

 若いネコ族の女子パイロットの甲高い注意喚起に、手元のレーダーサイトの発する鋭い警告音が重なった。

 これにつと視線を落とすなり、ほぼ真正面、この十二時の方角に新たな敵の反応が〝二つ〟現出したのを、ただちに見てとるクマ族のカノンだ。

 ちょっと慌てた反応返しながら、グッと奥歯をかみしめて気を落ち着かせるように努める。

「わっ、いきなりビックリじゃ! 二機じゃの? ううん、なんじゃ、これは? 敵軍の機体認識のアーカイブ・データに適合するものがひとつもないんじゃが……これはっ……」

 困惑した顔で正面のディスプレイに映した敵影を拡大表示しては、なおさらに目を白黒させる後衛パイロットだ。

 これに前衛を務めるネコ族がいつにました金切り声で応える。

「新型機だよ! 見ればわかるやんっ、あんなのどっちも見たことないもの。そうだよ、このわたしたちとおんなじ、未知の機体……!!」

 戦場にお目見えしてまだそう間もないことでは条件が一緒なのだからビビることはない!とみずからに言い聞かせるイワックだ。相棒ののんびりしたクマ族にも言わんとしていることが伝わっているかと内心で心配にもなる。

 戦況解析とモニタリングを司る機体制御補助コンピューターを操ると、手前のディスプレイに即座に出された解析データを目にして内心で舌打ちしていた。

「奥のやたらでかいヤツはようわからんし、でかい同士でカノンさんがやり合うんやろうけど、手前のヤツは……! 敵のデータではビーグルⅥっちゅうんが一番近いらしいけど、こんなの実機のモニター解析データが少なすぎて参考にならんて! 友軍のアーマーのデータで見ると……えっ?」

 即座にモニターに表示される結果に反射的小さな悲鳴を発してしまって、うわ、聞かれてしまったか?と思わず相棒の顔を映したサブモニターをチラ見してしまう。

 幸いにもまったく無関心なさまでうんうんとうなっているクマ族だ。さてはこちらにはまったく興味感心がないものらしく。

 それはそれでちっと小さく舌打ちして厳しい視線をまた正面に戻す。

「一番近いと推測される機体が、〝ゼロシキ〟!? いいや、それってあのキュウビ部隊のキツネ族のエースパイロットさまが乗ってるっちゅう機体じゃろ? シャレにならんて……!!」

 折しも話に上がったばかりの精鋭部隊、中でも凄腕パイロットが操る高速機動型アーマーの逸話は、アーマーパイロットならば誰しもが聞き及ぶところだ。

 同じ戦域に実物がいて、常軌を逸した曲芸まがいの戦闘行動を繰り返している……が、あえてそちらは見ないようにしていた。

 緊張していた四肢にグッと力を入れ直して、キッと強いまなざしで正面モニターを睨みつける。

 強くおのれに言い聞かせるイワックだ。

「相手がなんであれやるしかないんよ! 高速機動ならこの機体も負けるはずないて、何よりこのわたしが負けるはずないて! カノンさん、行くよ! 援護よろしく!!」

「おう、こっちもよろしくじゃ! やつらにわしらアゼルタの新型機の威力を見せつけてやるんじゃあ!!」

 いざ意気をあげて戦場に立ち向かう男女コンビのアーマーパイロットたちだった。

 そしてこれに相対するのもまた、ふたりの若い男女のアーマーパイロットコンビなのであった。



 Part2


「はああっ、いくよ! エンジン全開っ、フルスロットル!!」

 イヌ族の若い女パイロット、サラは生まれついての勝ち気な性格を全面に押し出してキバをむきながらに吠える!

 ついでに後ろの相棒が乗る機体に向けてしれっと言い放った。

「で、当然、ここからはあたしが先行して先制攻撃ぶちかますから、平社員のあんたはしっかりサポートすんのよ? 敵もちょうど二機で、後ろのでかいのは後方支援型だろうから、そいつを牽制しながら適宜にこちらへの援護射撃! わかってるわよね?」

「わかってるって! 平社員だけ余計だぜっ、戦場でヒラも社長もありしゃしねえだろう? しっかし、ほんとにオレたちとおんなじ機体編成なんだな。サイズから何からドンピシャじゃん!」

 そんなクマ族の相棒の返事を軽く受け流す女社長の前衛パイロットは、ペロリと舌なめずりして捨て台詞よろしく発した気合いの声もろともにアクセル全開に機体を発進させる。

「あんたのカンて当てになるの? ま、わかってるんならちゃんとやることやってよね! あたしもあたしのやること全力で振り切るからっ、それじゃよろしく!!」

「ケガすんなよ! こっちもうまくやるからボーナスの査定よろしく!!」 

 味方のでかい機体をその場に残して単機で先行したこちらに対して、あちらも大型の支援機を後方に待機させたまま、小型の高速機動型らしきが前進してきた。

 まっすぐこちらめがけて!

 これには真顔で睨んだその口元に、ニッと不敵な笑みが浮かぶ勝ち気なイヌ族の女社長だ。

「へえ、気が合うじゃん? 相手してくれるんだ! あんたのその派手な機体って、いわゆる高速機動型の突撃強襲機(アサルト・アーマー)ってヤツでしょ? あたしのと一緒でさ!!」

 全身が派手な赤色で塗りたくられた相手の機体めがけて、こちらはこの全身が派手なピンクで塗りたくられたファッショナブルな機体が、まっすぐに空を切り裂いてゆく。

 周囲からやかましく警告音が鳴り響くが、それをかき消す金切り声で叫ぶサラだ。

「じゃあこのドンピンと勝負しようよ! 見た目の派手さじゃ負けないし、性能やテクでも負けやしないから!! そらあああああっ!!」

 殺意をみなぎらせてターゲットサイトを睨む勇猛果敢な若き女パイロットだ。

 有効射程もぎりぎりですかさず引き金を引きしぼって、戦いの火ぶたをみずから切って落とすのだった。


 Part3


 空中戦仕様における近接戦闘特化型の高速機動型機と、これを後方から援護するための火力強化型の大型支援用機――

 その用途をまったく同一にした機体構成によるアーマーユニットの一騎打ちは、まずは前衛の格闘戦を担う機体同士の激しい空中戦、目にも止まらぬドッグ・ファイトからはじまった。
 
 エンジン全開!!

 アーマーがなす高速旋回機動によって、激しいGの抵抗をその小柄な身に受けながら、ギリギリと奥歯を食いしばって眼前のターゲットサイトを凝視するネコ族の女子パイロット、イワックだ。

 迎え撃つ派手なピンクの機影を必死に正面ディスプレイの真ん中に据えるべく、みずからの機体を操る。

 が、相手の派手な色合いの高速機動型アーマーときたら、その出だしから一方的に無鉄砲な突撃機動を畳がけてくれるあまり、こちらにはおよそ冷静な射撃操作をさせてくれない。

 ものすごいプレッシャーだ。

 思わず舌打ちして金切り声を発しかけたところに、ディスプレイの端っこに何かしらのサインと短い発信音を聞き付ける。

 それが背後の僚機からの合図だと即座に察するネコ族だ。

 苦い表情で正面をにらみ付けながら低い唸りを上げた。

「くっ、無駄ダマなんて撃ちたくはないけど、撃たないと何もはじまらないんよ! それじゃあ、カノンさん、ゆくよ!!」


 言いざまみずからのアーマーが構えたハンドカノンを一斉射!

 まだ狙いが甘い三つの赤い弾光は、虚しくも敵の残像のみを捉えて大空の彼方へと飛散する。

 だがそれとほぼ同時に、短い警告音がまたもや鳴って、左右のサブ・ディスプレイが黄色く発光するのを確認!

 味方の後方支援機からの援護射撃がなされたサインであり、ただちに右手の空を旋回してこちらに機体を向ける敵機へとめがけて鋭い閃光が走るのを、正面のモニター画像の中でも認める。

 惜しくもギリギリでかわされるが、この機を逃すまいと正面に向けた意識をまた別方向からの警告音に邪魔されるイワックだ。

 友軍機からのものではなかった。

 ならば相手側の支援機からの長距離射撃であると反射的に悟って、とっさに機体に急旋回をかけてこの射線から逃れるネコ族の真紅の機体だ。

 また鋭い舌打ちが漏れ出た……!

「チィッ……! 考えることはみんな同じなんよね? でもあたしとカノンさんのほうが息が合ってる! そやったらこのまま押し切るよ、カノンさん!!」

 背後に控える味方のクマ族の乗る大型機へと気合いを発して、みずからもまた正面を睨み据えるネコ族の女子パイロット、イワック・ラー准尉である。

 果たしてこの相手方となるこちらはイヌ族の女子パイロット、サラはけんか腰のセリフをやかましく浴びせ倒していた。

「へえ、それって見かけ倒しじゃないんだ? よく動くじゃん! でもその機体、小回りは利くけど直線のスピードはそんなでもないよね? あんた腰が引けてるんだって、せこせこしないで勝負しなよ! あと後方、もっとちゃんと援護しな! それでボーナスなんざ、ちゃんちゃらおかしくておはなしにならないよ!!」


 相手までか味方にまでも罵声が飛ぶのがいかにも血の気の多いやり手の女社長だ。するとそれには通信機越しに若い男のクマ族の不本意そうな声音がゴチャゴチャ聞こえるが、一切無視してみずからの正面にひたすら集中!

 激しい上下運動をして味方からの援護射撃の射線をかわす赤い機体に狙いをつけた。ギリギリまで距離を詰めての撃破に意識を切り替える。もとよりそのつもりの彼女だった。

 そしてこの後方、若い灰色のクマ族のパイロット、ニッシーはにやけたツラで文句を垂れながらも、その両手はいそがしく周りのコンソールのスイッチを軽快な手つきでなで回す。

 目つきはぬかりもなく鋭くして周囲のモニターをくまなくにらみ付けていた。元ゲーマーのカンが今が大事な局面、言うなればボス戦であると告げている。初見であろうと遅れを取るつもりはなかった。

「ちぇっ、好き勝手に言ってくれるなっての! こっちはまだ慣れないおニューの機体なんだぜ? おまけにオレは新米パイロットで、じゅうぶんやってるっつうの!! にしても良く動き回るよな? こんなにあっちこっちに動き回られたら狙いもろくにつけられやしないぜっ、ほらだったらもっと圧をかけて動きを止めてくれよ、社長!! んっ……!?」

 調子よくガヤを飛ばしている最中にも、不意に正面ディスプレイ上には、このど真ん中に注意喚起のサインと強めの警告音を聞き付ける。

 画面ずっと奥に控える敵の大型機が、こちらに狙いを定めているのだとひと目で判断できた。こちらも大型機だからそんなに急激な回避行動は取れない。まだ十分な間があったからさして気にもとめていなかったのだが、算段が狂ったと低い舌打ちする若い灰色熊だ。

「おいおい、気が早いな? まだ有効射程の範囲外だから意味ねえだろ? それともそこからでも届くってのか?? はん、いいぜ、だったらやってやるよ! カモン!! 撃ち合いなら誰にも負けねえっ、やれるもんならやってみやがれ!!!」

 ターゲットのロックサインがまだ射程外表示のイエローの十字マークに手早く起動操作をかけて、相手のブサイクな見てくれの茶色い大型ーアーマーに意識を集中!

 味方が演じている空中チャンバラは画面の右端に追いやって、みずからのでかい獲物を大写しにしてこの正面に据える。

 大型の高出力キャノンは発射から再チャージまで時間がかかるため、無駄撃ちは禁物だ。絶好の機会を狙いながらターゲットに意識を集中。黙り込む室内に無機質な電子音と低いエンジン音がこもる。

 ごくりと息を飲みながらこの利き手のトリガーを引き絞るタイミングは、奇しくも相手の大型機とまったくの同時であった。

 時を同じく、こちらもまたおのれの真正面のディスプレイに意識を集中する、全身が焦げ茶の毛色のクマ族――

 カノンはこれまで地味な灰色だった敵のマーカーが、今やオレンジの点滅をしてこちらにレーダーを集中させていることに、なぜだかちょっとだけ安堵のため息をついていた。

 危うく相方のネコ族に怒られるところじゃった……!と、軽く額の汗をぬぐったりもする。


 相手方の支援機を牽制するべくこれに狙いを定めたのはいいものの、これがまったくの射程外で全ての操作を機体制御コンピュータから無効化扱いされて慌てふためいていた、ついさっきだ。

 言えば完全にしくじっていたが、思いも寄らないことこれにまんまとあちらが応じてくれて、結果、めでたく大型同士のガチンコ勝負の様相になだれこんでいる。

 そうでなければ今頃、相棒のアーマーが完全に2対1の構図でピンチに陥っていたやもしれなかった……!

 とりあえずでこっちの牽制は成功していたんじゃな!と、内心でほっと胸をなで下ろす若いクマ族だ。改めて正面に据えたターゲットシグナルに意識を注ぐ。

 アーマーが自立機動できる限界ギリギリの大気圏高度から落ちてきた相手機と比べて、沖合海面の空母から出撃したこちらは、位置的にやや低いところから敵機を見上げるかたちだ。

 長距離の撃ち合いではやや不利な立ち位置をどうやって挽回するべきかと考えながら、無意識にアクセルをふかして距離を詰めてしまい、かろうじて相手をこの射程圏内に納めてしまう。

 小さく、あちゃあ!とか言ってしまう根っからのうっかり者だ。そんなものだから相棒には悪いがこちらに専念させてもらうことにする、まだ新米の少尉どのである。

「ん~ぬぬっ、位置が悪いが今からメインのエンジンふかてしまったんじゃ撃ち合いに支障が出るんじゃ! 全てのちからを背中のハイパーキャノンに集めて相手を撃破するんじゃ!! おれはこのおれのガマ・ガーエルを信じておるんじゃあ!!」

 気合いを発して、必殺の一撃見舞うタイミングを推し量る。

 攻撃は最大の防御!

 一撃で決められれば文句なしだが、万一にこれをかわされたら逆にこちらがピンチになる。かわすにも方法はさまざまあり、その場に即した最良の一手を放ち続けたものが戦場では生き残る。

 安易なラッキーパンチばかりを望んでいては、最悪ははじめの一手で詰んでしまうのだ。

 機体に展開する防御シールドとキャノンのエネルギー調整を意識しながら、命中率がゼロから10%、20%、30%と跳ね上がっていくスコープの中の敵影がくっきりと浮かび上がったところで、思い切って大きな賭けに出る若い新人パイロットだ。

「信じてるんじゃあ! ガマ!! フルパワーであいつを撃破するんじゃあああああっ!!!」

 ありったけのパワーを注ぎ込んで、大きな機体がこの右肩に背負う大出力のビームカノンを最大出力で一斉射!!

 たっぷり3秒トリガーを引きしぼって、大慌てで回避行動に取りかかった。

 手元のメインエンジンの出力ゲージはまだ50%を切ってはいなかったので、比較的スムーズに推進エンジンをふかすことができた。

 この時、無理に防御シールドを張ってしまおうものならなおさら機体の高度が下がってしまうと、覚悟を決めて高度を上げる回避機動を取る。相手めがけたビームはまだお互いの距離もあり、あえなく手前でシールドにはじかれてしまったことと、高くから撃ち下ろされた相手側のビームは思いの外に出力不足で、こちらにはその3割も届かなかった結果がはじき出される。

 これらの結果を考え合わせてさらに出力された互いの射撃性能値を前に、メガネの奥の目つきが厳しくなるカノンだ。

「むむ、命中率はトントンなのにキャノンの威力があちらのほうが上と出ているんじゃあ! ろくに届いておらんのに! こんなの納得いかんのじゃあ! じゃったらもっと近寄ってミドル寄りのロングから見舞ってやらなければならないんじゃの!? ううん、負けないんじゃあ!!」

 見かけの機体構造からはこの推進システムがよくわからない正体不明機に特攻をかけるくらのい意気込みで、シートに踏ん張ったみずからの四肢に力を入れ直す若いクマ族の少尉だった。

 メガネの奥でまばたきすることもないつぶらな瞳で一心に相手の大型機に見入る。もはや味方のネコ族の女の子のことなどそっちのけで熱くなるばかりだ。

 これに上空から臨む、相手のクマ族も激しく息巻いて野次を飛ばしていた。

「おいおい、せっかく相手してやってるのにえらい肩すかししてくれるじゃねえか? そんなもんなの? だったらおれのこのジンの敵じゃありゃしねえっ! 次で決めてやるぜっ!!」

 みずからの機体の堅さ頑丈さ、この防御力が想像以上であることにいささか気が大きくなっているニッシーだ。

 ただでさえでかいのにおまけ電磁シールドがガチガチに固くて展開もスムーズにできたのには、ある種のゲームのチートキャラにも似た感覚と快感を覚えていた。

 これならヤれる!!

 鼻息荒く目の前の敵アーマーを凝視する平社員だ。

 社長さんのことはすっかり失念して目の前の敵とのビームの乱打戦にのめりこんでいた。ゲーマーの悪い癖なのかも知れない。

 根は小心者でついさっきまではビビってバリアをガンガンに張りまくっていたものだから、肝心のキャノンの出力調整がおろそかになっていたが、今回は違うと前のめりに眼前の大型ディスプレイに張り付く。

 まさしくゲーマーの戦闘態勢だ。

「カモンカモン! さあ撃ってこいよっ、今度はばっちりかましてやるから!! そらっ!!」

 機体が内蔵した大出力のエンジンの作り出すエネルギーを各部に配置して微調整しながら戦闘機動をやりくりするのだが、おおよそは機体の制御コンピュータ任せでもここぞという時はパイロットのカンとその決断が大きく結果に左右する。

 そのここぞの場面がまさに今であり、必殺の気迫を込めて相手機の挙動にかじりつくクマ族ゲーマー、ならぬ、パイロットだ。  

 じりじりと距離を詰めてくる相手の大型機めは、この決め手の高出力キャノンで勝負をかけてくるのはもはや見え見えだった。
 
 こちらもでかい図体同士でぶつかりあった挙げ句、被害が甚大になるのが決まり切っている格闘戦だなんてものはまっぴらごめんである。大出力エンジンと火薬を満載した大型機をいざ間近で撃破した時の反動と衝撃を考えたら、自機の誘爆を回避するのにもギリギリロングで仕留めるに限る!

 この一撃で仕留める!!

 そうターゲットスコープに意識を集中している最中、不意に味方機からの通信が入るのに怪訝な視線を向けるクマ族だ。

 音声ではなくてテキストで入ってきたその内容は、ちょっと目を疑うような簡潔な一文だった。

「え、撤退? このタイミングで?? なんでだよっ……!」

 軽くパニックしかけたところに、相棒の犬族の女子からも通信が入る。

「どうなってる? いきなり撤退とか言ってるんだけど、あんたんとこにも入ってる? あとこれ、どっから出された命令??」

「は? どこからって……???」

 てっきりおなじクマ族のあのいかつい隊長さんからのものだと思っていたニッシーだが、その隊長さんはまだよその敵さんと激しいデッドヒートを繰り広げている。

 うかうかしていたらこっちもやられるんじゃないかと視線を正面に戻すと、敵の機体もまるで動くそぶりを見せずにぴたりと硬直しているようだ。コクピットに短い警告音が鳴って、ディスプレイの一角に派手な花火が上がるのに、なおさら怪訝な顔で目をしばたたかせる若いクマ族のパイロットだった。

 混乱するのは相手の若い猫族とクマ族のコンビも同様だ。派手なピンクの機体相手に派手な空中戦のドッグファイトを演じていた猫族は、後方の母艦からの命令に驚きながらみずからの背後を振り返る。ただの見間違いかと思った命令は、確かに派手に明滅する撤退信号でそれが現実であると知らしめてくれた。よそで撃ち合いに興じているとおぼしきクマ族の相棒に金切り声を発していた。

「どうしてっ、こんな状況で撤退やて! カノンさん!!」

 通信機のスピーカー越しに困惑した相棒の声が返ってくる。

「わかっておる、だがええんじゃろうか? こんな状態でっ……!」

 どうしたものかと意識が混乱する中で戦況は膠着状態となって両者にらみ合いだ。緊張の糸が途切れた状態で、ただ時が流れてゆく。

 そのまた一方、クマ族の隊長、ベアランドは何食わぬさまで混乱と動揺が走る戦場をぐるりと一瞥する。どこともしれぬ空を見ながら出所が不明の命令を了解する。

「艦長……? あっちの艦長さんもものわかりがいいね! だったら遠慮なく、そうさせてもらうけど、あちらさんは……」

 絶え間ない猛攻を仕掛けてきた敵の高速機動型のアーマーは一時だけその手を緩めたかと思えば、部下の機体を引き連れて思いの外あっけなく戦域から離脱していく。

「なんだ! みんなものわかりがいいヤツばかりじゃないか? なんだかんだ言って心の内ではわかってるのかねw」内心で笑いながら味方に帰投を促す隊長さんだ。

「今回は軽い顔合わせってところなのかな、新人の若手くんたちには。あっちの若手っぽかったし?」

 味方が全機とも戦線を離脱したところでみずからの大型の機体を反転させる隊長だった。

          次回に続く……!