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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-08 ドラフト!

いきなり実戦ダダンダン!①

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

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Episode‐file‐08


 突如として目の前に出現した、妖しくも青白く光る、巨大なチャック……!

 みたいな、それは空間の歪曲経路(ワームホール)の進入口なのだろうか?

 そこからまたいきなり目の前に開いた、真っ暗い穴をくぐり抜けたその先には、思ってもみない世界が拓けていた――。

「え、いきなり場所が変わった!? でも、ここって……!」

 わけがわからない流れに身を任せて、終始わけがわからないことになっていたが、ひとつだけわかることがあった……!
 ロボのコクピットの内部、視界のほぼ全てをカバーしている高解像度ディスプレイに囲まれた操縦席。そこでこれが克明に映し出す景色をぐるりと見回すでぶちんのパイロット、モブはごくりと息を飲んで事態を把握する。
 それは少なからずした驚きと共にだ……!

「おれ、知ってるよ。だってここって、アキバだよね? 言わずと知れた秋葉原! マジで良く見た景色だし、こんなおかしなことになる前にこのおれがいたところじゃん、良く考えたら……?」

 そう。元はと言えば、ここの行きつけのとある特殊なコンセプトカフェにいたところ、何故か縁もゆかりもないどこぞの自衛隊施設(?)に裸で拉致られていたのだ。ほんとにわけもわからないまま。
 今にしてはっきりと自覚しながら、まだちょっとどこか違和感があるのにこの肉の厚い首を傾げたりもするデブのオタクであった。首回りのガードが思い切り肉に食い込んでいる。苦しい。ここだけサイズをやり直してほしかった。

「んっ……!」

 背後で気配がするのに、後ろにも同乗者がいるのを思い出してチラリ、そちらに目を向ける。そこで相変わらずにふんぞり返るおじさん、自称・ぬしと互いの目を見合わせるのだ。
 当のおやじは何食わぬ顔で聞いてくれたか。
 これになおさら目を見張らせる新米くん。


「覚えがあるのか? つまりはここが今回の戦場なんだが――」

「え、戦場って、意味わかんないよ! だってアキバだよ? ただの街中の繁華街じゃん? 都内でもけっこう名の知れた? そんなトコで誰が何と戦うっていうの? オタクとオタク?? そりゃその昔はオタクの聖地とか言われてたらしいけど、いまはもうそんなことないんじゃないのかな……?」

 きょとんとした顔つきでそんなマジマジと見てしまうのに、一段高くから見下ろしてくるおじさんは、ニヤリとだけ笑ってこれがさも意味深な口ぶりである。

「じきにわかるさ……! 見てりゃいい。ちんちん、ちゃんと立たせておけよ? いつでもイケるようにな!」

「ちんちんて……! あんっ、もう、これもほんとに意味がわかんないよ! 相変わらずこっちのおじさんとおねーさんもおれのことジロジロ見てるし……!」

 正面の操作盤にふたつある小型ディスプレイの中で今も真顔の監視者たちの顔をちらりとだけ見て、目だけは合わすまいと苦い表情になる新人パイロットだ。この間も左手ではしっかりとじぶんのイチモツ握りしめているわけで……! かすかなため息ついていた。
 仕方もなしにこの視線を正面の大画面モニターに向ける。身の回りをぐるりと360度で映し出す全天投影型のディスプレイだ。つくづく金がかかっているのがわかる。無駄なくらいに。そしてそこには良く見慣れた行きつけの街の景色があった。普段と何ら変わらないありさまでだ。だがそれをよくよく見ているに付け、やがてちょっとした違和感の正体に思い当たるモブだった。

「ここっていわゆるあの大通りで、もうちょっと先に行けば、秋葉原の駅前の交差点だよね? あれ、でもまだこんな時間なのに、あたりにまるでひとがいないんだけど、どうなってるの? 平日の午後とは言え……?」

 見上げれば高精細ディスプレイ越しの空には抜けるような青空が一杯に広がる。時間でいったら昼過ぎなのだろうか? 周りの表示をきょろきょろと見回して、そこに時計らしき四桁のカウンターを見つけて注目する。

「んっと、PM15:22……! まだ三時半くらいなんだ? おれっていつ拉致られたんだっけ? あれ、今日はバイトが非番のお休みで、それで……」

 ヒマをもてあまして午前中にもう行きつけのお店をのぞいていたのだと思い出したところで、後ろから注意をされる。

「コラ、手元がおろそかになってるだろう! 何度も言わせるな? おまえが集中しなければ、こいつの挙動もおろそかになっちまうんだぞ? こんなデカいのがよたよた歩いて周りの公共物を破壊だなんてシャレならねえだろ、責任問題だ。挙げ句無関係の民間人やら個人所有の財産やらを巻き添えにしちまったとなったら……!」

 渋い声でおっかない注意喚起にビクんと反応して振り返るモブだ。口を尖らせた顔に不満たらたらなのがはっきりと出ていた。

「っ! そんなこと言われたって、責任もへったくれもありやしないよっ、おれだって本来は無関係のただの民間人なんだからね? 違うなんて言わせないっ、まだなんにも理解も納得もできてやしないんだからっっ!! ふうっ……!」

 改めて正面に向き直ってみずからの股間を優しくマッサージ。
ちょっと慣れてきて空いている利き手のやり場に困るくらいだが、何を言おうが説得力がないのははっきりと自覚していた。背後から指摘されてむっつりするオタクである。

「ふん、どんなツラで何を言おうがどっちらけだな? てめえのナニをシコシコとしごきながらじゃ! おかげで安定しているしここまでテレポートもできたから俺としては文句ないが、無事に任務をこなしたいならもっと前のめりになって周りの意見に耳を傾けろよ? やること自体は至極カンタン! 普段からやっていることと何ら変わりはありゃしないんだ」

「ぜっ、ぜんぜん違うっ! おんなじわけないじゃん、こんなのっ……!? あと、しれっとテレポートとか言ってるけど、これってどう見てもただ事じゃないよね? ここってほんとにあの秋葉原?」

 あたりを見回してまた太い首を傾げるでぶちん。
 すると背後でなおのことふんぞり返ったおやじはでかい背中でシートをギシギシ鳴らしながら解説してくれる。

「他にあるのか? まあ、こうして見たところでひとがいないってのは、とりもなおさずここが立ち入り禁止区域に指定されて民間人はおいそれとほっつき歩けないからだ。みんなどこぞに待避するなり建物に立てこもるなりして自衛しているんだろ。戦場だからな? 当然報道規制も敷かれているから、ここにいるのは実質、俺たちだけ、のはずだ。おそらくな?」

「戦場? 報道規制って……!」

 怪訝な丸顔が眉をひそめるのに、背後で見下ろす角刈りの四角い顔面が天を仰いで説明ゼリフを朗々と吟じてくれる。

「よく見ろ、街中だけじゃなし、でかい事故や事件がらみじゃかならず上空に出張って待機してる報道のヘリらしきがひとつもないだろう? 警察や自衛隊も含めて! それだけぎちぎちのがっちがちに制限がかけられているんだよ。本来なら機動隊なりなんなりを編成して現場の対処に当たるはずが、それじゃ対応できないって包囲網の形成に努めているんだ。現状、俺たちはそのど真ん中にいるから、誰からの目にもとまらないし、邪魔もされない。おかげさんでやりやすいだろう? ナニのやり放題だw」

「やり放題って! やりたくてやってるわけじゃないんだらかね? ふううっ、あんまりでかい声出させないでよ、へんなタイミングでイッちゃうかもしれないじゃん、ああ、ふう……! おれ、ほんとにナニやってるの??」

「ナニだろう? とにかく周囲への警戒を怠るな! 現状は落ち着いているように見えるが、いつナニがどう変わるかもわかりゃしない!」

「ナニってナニ?」


 もう振り返ることもなく聞き返すモブに、意外と聞き分けとカンがいいヤツだなとニヤリと笑うぬしのおじさんだ。下手に振り返って前方不注意になるようならそろそろ怒鳴ってやろうかと思っていた手前。文句を言いながら状況が深刻なのを肌で感じているのかと推察する。こいつは鍛え甲斐がありそうだと丸っこい背中を見つめていると、目の前でデブがぶるっと身震いした。確かにカンがいいようだ。

「おじさん、なんか後ろでヘンなこと考えてない? あっ、なんだ!」

 周囲の状況ではなくて、目の前のモニターにいきなり警告のウィンドウが開かれたのに反射的にのけぞる。あんまり見慣れない字面が並んでいるのに混乱していると、手前の小型モニターの左側のおじさん、監督官の村井が深刻な面持ちで口を開いた。

『突然で済まないが、もう戦いの準備はできているのだよね? オタクダくん。立った今、防衛省の特務外局、この特務広報課・第一広報室より第三種災害に関わる緊急特別臨時警報が発令された……! ジュゲムおよびこのパイロットは戦闘態勢にただちに突入、戦闘機動へ移行のこと、厳に了解されたし!!』

 開口一番、とんでもなく速いジャブだった。早すぎて何を言ってるのかひとつも聞き取れないくらいだ。おおよそ10インチくらいのディスプレイの中でひどく真剣な面持ちした、後ろにでんと居座ってるのよりかはまだちょっと若めの働き盛りのおじさんおにいさんが早口でまくし立てる。

『そう、これは単なる予備待機や自主避難勧告ないし予行演習などのたぐいではなく、現実に第一次災害対応態勢を正式に発令するものとなる。言わば初の第三種災害に対応対抗するべくしたわれら特務自衛隊の出動、現実の対応行動となるものだ……!』

 まじめな自衛官だった。言っていることだけは。
 対してやたらに堅苦しい文言の連続で正直、ちんぷんかんぷんのモブだったが、目を白黒させてうわずった声を上げてしまう。

「えっ、何を言ってるんだかさっぱりわかんない! 悪いけど第三種災害がそもそも意味不明だし、防衛省とか特務自衛隊とかさらっと言ってるけど、おれそんなの何も聞かされてないよ? ここでナニをしろとしか言われてないんだから! ムリだって!!」

 向こうから見たカメラの画角ではおそらくフレームアウトしているのだろうが、実質はみずからの股間をねちねちといじり回しながら悲鳴を発するデブのオタクである。すると監督官と代わって今度は右手の若い女性の監査官が口を開いた。
 またもやしての波状攻撃に泣きたくなるモブだ。
 どうせこの後に背後からも続くのだろう。
 やたらにきっついのが……!

『いえ、どうか落ち着いてください……! 現在、あなたが搭乗している特殊装備(ジュゲム)は当該戦域におき、単機で行動しているために残念ながら周囲からのサポートを受けられる状況にはありません。従って現状、頼れるのはあなたご自身のみです。ですので冷静に。わたしは応援しています。ここから……!』

「えっ、そんだけ……?」

 いざおもむろに口をきいたわりには歯切れが悪いメガネっ子のおねーさんだ。これと言って打開策らしきが何もなかった。ただのまんまのお気持ち表明だ。
 そんなのわかりきったことだろう?ときょとんとなるでぶちんに、背後からやはりトドメの一撃がブッ刺されてきた。やはり不意打ちでくらってしまうにわかパイロットだ。

「わっはっは! そうら、いい加減に諦めて覚悟を決めろ! 泣こうがわめこうが事態は待ってくれやしねえ、やるしかないんだ。おら、手元がまたおろそかになってるだろう? いいからサポートはこのぬしさまが後ろからしっかりとかましてやるから、おまえはおまえのやるべきことに専念しろ!」

 なんでもちから一杯にぶっちゃけてくれるおじさん。メガネが光るおねーさんも画面の中でこくりとうなずく。対して顔つきやたら気まずいモブだった。

「……いや、それってつまりは、ナニをしろってことなんだよね? こうやって他人に見られながら? ただのふざけた罰ゲームじゃんっ……!」

 もしくはイジメだろうとがっくりと肩を落とすが、左手のモーションはちゃんと生きていることを背後から認める教官どのは、これをさも鷹揚におおらかに諭してくれる。

「それでいい。ちゃんとやることやっていれば、こんな急場でもしっかりとしのげる。伊達におっ立たせているわけじゃないんだ、おまえのそのちんちんは!」

「ああん、言ってることなんにもわかんないっ! 誰かどうにかしてよっ、え? わ、なんだ、今度はなにっ……!?」

 正面のモニターにでかでかと映し出された、小難しい警告文がずらずら並んだ説明書(マニュアル)みたいな表示窓が消失して、目の前にあの見慣れた景色が復活する。だがその直後、そこに今度はいくつものアラート表示のポインタが浮かび上がり、おまけピーピーと高音の警告音までが鳴り響く! そのどれもがただごとではないことを示唆していた。

「なんだよなんだよっ、もうやめてよ! あんもうっ……!」

 ロボは高さがあるので足下の地面とはかなりの距離感があるのだが、見ればその大通りの歩道寄り、複数立ち並んだ路面店の建物かこの脇道あたりに警告表示が集中しているのがわかる。
 ただしそれ以外は何がなにやらさっぱりなのに、ちょっと左手の手つき(タッチ)があやふやになるパイロットだ。
 股間の操縦桿から意識を取られる新人にふたたび左の小型画面から声高な注意喚起がなされる!

『むっ? これは、ジュゲムのオタク・レーダーが何かしらの標的対象(ターゲット)を感知したようだ! パイロットは最大級の警戒を! オタクダくん、これはまさしく現実の実戦だっ!!』

「へっ? いやそんな、いきなり実戦とか言われても……!?」

 突如、甲高く言い放たれた、それは現実離れしたセリフに頭の中が真っ白になる。身体から力が抜けて背中から座席の背もたれにどっと倒れ込む肥満体ながら、そこにこの背後から落ち着いたおやじのだみ声がかぶさってきた。いいから落ち着けと言わんばかりに。

「いいからシコってろ! そいつが主務操縦士たるおまえの役目だ。そうすりゃコイツが応えてくれるさ。ただし、目の前の現実からも目を離すなよ? じきにはっきり見えてくるだろう、おまえが戦うべき真の相手ってヤツが……!」

『はい。どうか気をつけてください。オタクダ准尉! このジュゲムが反応したということは、すぐ近くに第三種災害の原因要素が存在するということに他なりません。これがおそらくは複数、そちらに近づいているものと見られます……!』
 
「じゅっ、じゅんい? じゅんいって言ったの? え、だからジュンイってなに? ……み、みんな、なに言ってるの?」

 もはやみずからの股間の感覚がどこかにすっ飛んでいるような心地で、慄然と操縦席にまたがるモブだ。逃げたくても片手じゃこのごついベルトを外せない。やばい。ともすればそのまま卒倒しかけるオタクの青年だが、背後の教官がとかく落ち着き払った調子でなだめてくれるのだった。

「落ち着けモブ! 気をしっかりと持て! だからつまりは第三種災害の火種、何かしらのヘンタイしたクリーチャのお出ましだろ! そうだひと呼んで変態新種生物!!!」

「へ、へんたい? くりい、ちゃ? な、なに、それ???」

 本当にわからない。何もかもがさっぱりだ。あんぐりと口を開けて後ろに聞き返しかけたところに、一段とやかましいビープ音が鳴り響く。音はこの足下のあたりから鳴っていた。これに足下からやや離れたところを映す右手のディスプレイ映像の中で、地面で実際に何かしらの変化があるのがわかった。じきにそちらがズームアップで正面モニターに拡大されるのに思わず身を乗り出してこれを凝視する肥満のメインパイロットだ。

「えっ、あっ、ひとがいる! 誰だろ、おじさんかな? 見たことあるような青い制服の……あれって、警察、お巡りさん??」

 目を皿のようにまん丸くして正面の拡大映像をひたすらに注視するモブだった。見たところでは中年の警察官とおぼしき人物が、背中をこちらに向けたまま、ゆっくりとしたモーションで後ずさりしている図と理解する。無論、動画のライブ映像でだ。
 それにつき音声がないのであまり判然としないが、何やら緊迫した雰囲気なのだけは伝わってきた。
 この落ち着いた背中の見た目とやや小太りな体型からして背後のおやじと同年代か? それがどこぞかへ向けて何かしらの言葉を発しているらしいが、あいにくと聞こえない。装甲が厚いこのロボの内側では集音器を経ずに外部の音を聞くのはほぼ無理なのだろう。
 かと言ってコクピットハッチを開けて顔を出すのは御法度だ。
 どこかに外部マイクのスイッチはないかとチラチラと周囲に視線を向けるが、はじめて乗る人型ロボのコクピットはさっぱりこの使い方がわからない。わかるのはこのレバーだけだった。
 全体の図から判断して、突然現れたと思えた警察官は右手の脇道あたりから出てきたらしい。
 おそらくは何かしらから待避、逃れるみたいな感じで?

「え、どうなってるの? 周りの音が拾えないからなんにもわからないよ! ねえ、おじさん? ぬしのおじさん??」

 ちらりと背後に視線を向けると、やけに険しい目つきでおなじく正面のディスプレイを睨み付ける後部座席の教官だ。何やら思案に暮れているらしくこの顔つきがだいぶ渋かった。
 ここらへんからも不穏な気配を感じ取るオタクのでぶちんだ。

「えっ、と、あっちのお店じゃなくて、その脇の裏道から出てきたんだよね? まだひとなんていたんだ? でも逃げ遅れってわけじゃなくて、見たとこ警察官だもんね? おじさーん、聞いてるー??」

 左手の基本動作だけは忘れないように気を付けて、前方の画面を注視したままで背後へと問いかける。これに舌打ち混じりでおやじの声が返るが、ちょっと緊迫した色合いがやはりあった。

「ッ、うるさいっ! ちゃんと前に集中しろ、目を逸らすなよ? もうじき出てくるから……! 来るぞっ!!」

「え、なに? 何か出てくるの? あの脇道から? なにがっ……!?」

 おやじの叱責に続いて、ひときわに甲高い警告音がコクピット内に鳴り響く! ディスプレイの至る所に警告を意味するのだろう英語やら何やらが何度も点滅したかと思えば、一瞬の静寂の後にそれが現れた。のっそりと。そう……!
 それは現れたのだが――。
 想像を絶していた。
 はじめそれに焦点が合わないモブである。
 手前で何かわめいている警官の背中が大きく上下する。
 両手をまっすぐ胸の前に伸ばして何かしらの構えを取っているのが、実は自身の装備である拳銃をかの標的へと向けて突き出しているのだとようやく理解した。この背中越しだから良く分からなかったが、およそ尋常ではない状況だ。

「けっ、拳銃! 誰に向けてっ? え、なに、なんか、出てきた……!」

 えっ?

 はじめ人間の人影のように見えたシルエットだ。はじめだけ。
 だが違った。つかの間、息を飲むモブは、すっかり左手の動作を忘れてしまう。天井のほうで低い警告音が鳴ったが、気になどしていられなかった。目をむきだして目の前のありさまに意識を奪われる二十歳過ぎだ。最近やっとお酒を飲めるようになった。

「え、なに、あれ…………ねぇ???」

 やっと言葉にして吐き出すものの、応えるものはいない。
 カタチとしてはひとっぽいが、決して人間のそれではない見てくれのなにかに言葉を失うパイロット。冷や汗がだらだらと額やら背中やらを伝うのを意識しながら、もう一度、言葉にした。

「だからねえっ、あれ、なに? なんなのあれ? なんなんだって聞いてるんだよっ、なんだよあれっ、あれっ……!!」

 がたがたと身体が震える新米パイロットに、背後の一段高い教官席からベテランのおやじが答える。ひどく落ち着いた口調がやけに重たく響いた。静寂の中ではこの耳が痛いくらいにだ。

「……見ての通りだ。見たまんまだろ。他に何がある? 今回はああいうタイプってだけのことだ。カタチなんてその都度変わるんだから、ガタガタ言っても仕方がねえ、アレをやるんだよ。おまえと、この俺とで……! 股間、ちゃんと立たせておけよ?」

 最後にしっかりと注意喚起して、それきり視線を逸らすおじさんだった。大口開けたままでこれを見上げるモブは顔面が真っ青だ。パイロットスーツを着込んだ肥満体を傍目にもわかるくらいに身震いさせながら、また正面へと向き直った。正直、股間もへったくれもなかった。

「な、な、なんだよ、アレ、なんかいる、いるけど、なんだかわからない、おまわりさんはへーきなの? あんなの、あんなの、あんなのっ…………」

 バケモンじゃんっっっ!!!!!!

 思い切り叫んだのとほぼ同時のタイミングだった。
 外部の音がこちらで拾えるようになったのは――。
 背後のぬし、あるいは前の自衛官たちのどちらかの操作だったのかはわからないが、うっすらとした風の音とひとの叫び声、その直後に短い発砲音のごときものがコクピットにこだます。
 それも複数回に渡って……!

「撃った! 撃ったよ! はじめて見たっ、お巡りさんが拳銃撃ってるの!! いいんだよね? あんなのひとじゃないんだから、撃っていいんだよねっ! ねえっ……あ、効いてない?」

 かなり距離が縮まった位置関係にあったので無難に当てているように見えたのだが、果たして命中していたのか?
 きっと手持ちの弾丸を撃ち尽くして、騒然となる警官の背中に怯えのような震えが走るのをはっきりと見た気がするモブだ。心臓がキュッとなるのを意識する。痛い。見てるのが辛かった。映画やドラマならまだしも、今、目の前に繰り広げられているのは現実なのだ。本気で泣きたかった。かくしてだ。警官が相手にしているよくわからないものは全身を震えさせて、ゴアッと良くわからない声を上げていた。人間の声帯から出せるとは思えない濁った音声はそこにただならぬ怒りが宿っていたか。
 拳銃を突き出したまま立ちすくむ警官は牽制の怒号を発しながら、身体を小刻みに震わせながら拳銃を腰のホルダーに納めると次は短い棒きれ、警棒らしきを取り出した。冷静なのが見ていて涙ぐましかったが、できたらもう逃げてほしいと思うモブだ。

「わあっ、わあっ、わあああっ! どうなっちゃうの? おじさんっ、あっちのおじさんがピンチだよっ!! あのおまわりさん、警棒であんなのと立ち向かおうとしてるよ? 逃げろっていわないと!!」

 涙目で振り返る丸顔に、えらが張った角刈りおやじは冷めた表情で言葉も冷たい。

「もう遅えだろ。良く見とけ。あと股間! ちゃんとシゴいておまえも次に備えろ……!」

「ふあっ、ふあ、なんなの、あれ? なんなの、あれぇ???」

 大パニックの新人パイロットは激しく感情が揺さぶられるが、正面の壮絶な絵面から目を逸らすことができずに過呼吸みたいにあえぎはじめる。背後から見ていて明らかに腰が引けているお巡りさんは絶体絶命、このままではどうなるかわからない。

 あっ……!

 のろのろと動いていたひとっぽいものが、キバをむいて中年の警官に襲いかかったのは不意のタイミングだった。挙動がおかしい。まだお互いの距離はあったはずなのに、気がついたらすぐこの目の前に迫っていたと当の警官にも見えていたはずだ。想像を絶する光景を目の当たりにして息もできなくなるでぶのオタクであった。

「わっ、わ、わっ! わああっ、おまわりさあああああーーーんっっっ!!!」

「いいからっ、さっさとシコってろ!!!」

 絶叫するモブ。
 叱責するぬし。
 事態はさらなる混迷を深めることとなるのだった……! 







随時に更新!待っててね♥



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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-07 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑦

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!  ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はもはやかなりテキトーになりますwww

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

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Episode‐file‐07


「…………んっ!」

 あたりは静寂に包まれていた。
 むしろこの耳が痛いくらいな静けさに……!
 そのひたすらに静まり返ったロボのコクピットで、今やふたりきり、無言で見つめ合うオタクとオヤジだ。
 しばしあって、下段の主力操縦席から上段の補助操縦席を見上げるデブのパイロットが、ゴクリと生唾を飲み込む――。

 え、このおれにしか見えない…………それって…………!?

 さまざまな思いや疑念が交錯する中、ようやくまとまりかけたものをどうにか言葉にして吐き出すモブだ。

「え、じゃあこのおじさん、ぬしって…………ゆ、ユーレイだったりするの? まさかの?? おれ、ひょっとして見えちゃいけないものが見えてたりする??」

 少なからずこの声色が震える。気のせいか背筋のあたりが冷たくなるのを感じていた。だが対して上からぞんざいな態度で見下ろしてくるおやじは、わざとらしげに自身の肩をすくませる。
 やれやれ!とばかりにだ。

「ハッ! ……おい、この俺が幽霊ならおまえにだって見えないんじゃないのか? 本来はそこに存在しないってことなんだろ? だがあいにくとここにピンピンしている。そっちのモニターのヤツらには見えちゃいないのだろうから、そいつらに言われるぶんにはまだわかるが……! もろもろの都合から、そういったことも配慮してのこの〝主〟さま呼ばわりなんだ。この俺の存在をうまく言い表せる言葉は、現状においてこれしかない。違うか?」

 なんなら触ってみるか?
 みずからの右手を無造作に差し出してくるおじさん。
 そのいかにも男らしくゴツゴツした拳とたくましい腕ぶりした右腕に、はじめ思わず伸ばしかけたこの指先だが、赤子のようなぷにぷにのでぶちんの手のひらを慌てて引っ込めるモブだ。
 いいや、掴めたら掴めたで何されるかわかんない!
 すっかり疑心暗鬼のデブである。

「う、確かに、そもそもでこのぬしって言い方もさっぱり意味がわからないし……! はじめの登場からして怪しかったけど、この身体が透けてるわけでもないし、バリバリ存在感あるものね? 無駄なくらいに! でもだからって納得もしずらいよ、とにかくまともじゃない、ぜったいに!」

「実在はする……! 実体はあるんだ。ただしおまえの前でのみか? 他のヤツらには知覚こそできないが、状況からしてこの認知、存在の認識はできる。厄介なことにもな? それこそこの俺が、ここのぬしたる所以だな! さあ、わかったらさっさとシコってこいつを起動させろ。あんまり長引くと補助動力のスタンバイが時間切れで無効になる!」

「なんにも納得できない! おれこんな状況でほんとにやんなきゃならないのっ? わっ、なんか上から降ってきた! わわ、これって……あれれっ!?」

 不意に天井からバサリと落ちてきた何かしらにびっくりするモブだが、それが身体にまとわりついて座席に縛り付けられるのになおさらあわわと面食らう。後ろからする楽しげなおやじの言葉になおのことびっくりだ。

「ほれ見たことか! あんまりグタグタやってるから向こうさんたちが痺れを切らしたんだろ。強制的な拘束具の着用、とどのつまりで、やること早くやれってな?」

「そ、そんなあ! こんな無理矢理? それにこのベルトおかしくない? てか、ベルトじゃないって、こんなのっ!」

 身動きができないほどではないが、編み目の粗い網状のそれは、言ったら頑丈なカーボンファイバー製くらいの捕縛網か?
 パイロット自身の身体全体におっかぶさって座席にこれをしっかりと束縛する。ただし傍目にもわけがわからない状態だった。
 ある種のプレイでもあるまいに邪魔なだけで。
 これでは落ち着いてこの操縦、ナニができるとも思えない、どころかむしろやりたくもない操縦者だ。
 困惑して前に向くに、モニターの中で真顔でこちらを見据える監督官のおじさんは目つきがやや険しい。そんな問答無用の気配にあって、またもやおまたのちんちんがすくむでぶのオタクだ。
 正直、苦手な雰囲気だった。マジでやりづらい。
 背後の助手が見かねて今度は救いの手を差し伸べてくれた。
 意外とやさしいおじさんだ。

「ふんっ、そんな状態じゃ落ち着いてぬけるものもぬけないか? そいつはパイロットに万が一があった時の緊急対処装置だから、厳密には安全具じゃない。場合によっちゃ高圧電流とか流れるからな? 俺が取っ払ってやるから、さっさと本来のベルトを締めろ。わかるだろ? あいつには俺からメールで文句を打ってやる! おい、勝手に余計なこと、すんなよっ……と!」

「メール? そういうやり取りはできるんだ? ああ、実体があるならできるか! あ、あみあみが天井に戻ってく? で、おれはベルトをするの? イヤだけど、しょうがないのか……!」

 半ば仕方もなにしたうんざり顔で、座席の脇にあった装置具からジャラジャラしたやたら太くていかついベルトを取り出しす。 
 やたらな重みがあっておまけにおかしな形状だった。
 それをおっかなびっくりに慣れない手つきでみずからの身体にガチャガチャとくくりつけるモブだ。
 いかんせん慣れないモノホン仕様なのだが、ちゃんとこの取り扱い方がモニター上で律儀に表示されて、すんなり装着できる。  
 めでたく固定完了。
 その間もモニターの中の監督官は真顔で手元のあたりをちらりと見つめ、おそらくは背後のオヤジとのメールの内容を確認したのだろう。のみならず何かあちらからも打ち返したみたいだ。
 それで半分くらい隠れていたベルトの装着チュートリアルが消えたらこくりとうなずいた。
 その真顔が見ていてなんかイラつくモブだ。

『……了解した。どうやらぬしとは無事に接触できたようだな。それではそちらをジュゲムの操縦教官として、早速実技に入ってもらおう。わたしたちもとくと見届ける。さあ、やりたまえ』

「さあって! ナニをやれって言ってるのか、ちゃんと分かってるんだよね、このおじさんも? アレだよ? アレ! ……なんかやりづらいっ! やっぱこんなのムリだって……」

 まさかギャラリーを前にしてやるようなことでは、さすがにこれは倫理的に問題があるだろうとほとほとげんなりする。そんな悩める新人パイロットながら、背後からこれをサポートするべくしたベテランの教官どのがさも楽しげにアドバイスをくれた。おそろしくテキトーな。なおさら顔つき暗くなるモブだ。

「いいから、前のやつらのことは気にするな! むしろプレイだと思えば、興奮するってもんじゃないのか? おまえさん、SMの趣味とかはなしか? 自衛隊というお堅い職業柄、さすがにAVを流しながらは無理があるから、そういう性癖を身につけるのもありっちゃあ、ありだろ? 羞恥プレイ♡ わはは! なんて顔で見やがるんだよ? ああ、わかったわかった……!」

「こう見えて、デブってのはわりかしガラスのハートなんだよっ、どうするの? えっ……」


 フッ……!と、いきなり目の前の大画面モニターで大写しだったはずふたりの自衛官たちの顔が消失したのに、はじめ目をぱちくりさせるモブだ。後ろで投げやりな返事するおじさん、ぬしが何かしら配慮をしてくれたのか? どこに行ったのかと辺りを見回して、それがもっと手前の、身の回りをぐるりと取り囲んだ操作盤の小型モニターにそれぞれ映し出されていることにちょっと落胆する。
 プライバシーはみじんも尊重されていなかった。
 自身もそんなに期待はしていなかったのだが。

「あん、なんだよっ、小さくなったところで、もっと距離が縮まってるじゃん! むしろ気まずい……! すぐ間近で意味ないよこんなの、まさか、モノが見えたりしないよね?」

「わがままばかり言うんじゃない! マジの羞恥プレイをしているわけじゃないんだ、おまえにその気がないならな? もったいつけずにさっさとやれ、何もモノまで見せてやることはないんだぞ?」

「そりゃあそうだけど……! あおりでこの股間だけバッチリと映すみたいなふざけたカメラ、足下に仕込んでたりしないよね? あ、ちょっと、そこで黙んないでよ! ああっ、近くに来ちゃった監督官さんたちが怪訝な顔してる。やだな、傍から見たら、今のおれってヘンな一人芝居してるみたいに見えてるの?」

 今やより近くでお互い見つめ合うような状態だ。いっそ生々しさみたいなものまで覚えてげんなりする。すると果たして真顔の監督官、村井がこの口を開いた。おまけズケズケと好き勝手な物言いに、なおのこと目つきがビミョーなものとなるモブだ。

『……ふむ、察するに、なにか話がおかしな方向にズレているのかね? 別に我々も好きでこんなことをしているわけではないのだが。これは職務だ。れっきとした。もちろんきみのそれも職務なのだから、胸を張って堂々とやればいい。ナニをだな?』 

 どういう感情で言っているのかほんとに聞いてみたかった。
 きっと何も考えていないのだろう。
 ほんとにふざけていると半眼の目つきのモブ。

『こうして税金まで投入しているのだから、国民の代表として、なんら恥じ入ることはない。愛と正義の名のもとにその股間をさらすことができる、きみは国内、いや、世界でもただひとりのパイロットなのだ……!』

「このひと、黙らせることできない? 見せる必要はないんだよね? ね? ああん、もうなんにも集中できないっ……!」

「わかった。メールを打ってやる! だまれ、っと!」

 後ろですかさずおじさんがキーボードを操る音がしたらそれきり真顔の監督官が沈黙する。効果あり。だがすると代わりにこの右手の小型画面にバストアップで映る若い女性の監査官が口を開いてきた。
 やはり真顔でだ。波状攻撃さながら。やめてほしかった。

『申し訳ありません。集中を阻害させるようなことは極力慎むつもりではありますが、この私たちもあなたをサポートする実働要員として、これは見ないわけにはいかないのです。ですから私たちのことは極力気になさらずに、小宅田さん、今はどうかあなたの全力でそのみずからの股間に集中してください……!』 

 若くて冴えないデブの男に若いバリキャリ女が真顔で言うようなことではおよそなかったが、本人は自覚があるのだろうか?
 あくまで事務的な口調で続いたセリフにデブのまん丸いなで肩がビクンと跳ね上がる。ほんとうにやめてほしかった。

『プライバシーに関わる部分は最新のモザイク処理なりをして、最低限度の配慮はされています。ですから安心して職務を全うしてください。そしてどうか税金を無駄にしないでください』

「二言目にはカネじゃんっ! このおねーさんもどうかしてるよっ!! ああんもう、ほんとうに泣きそうっ!」

 ふぎゃああっ!と嘆くオタクに、無情にも背後のおやじがきっちりとトドメを刺す。この波状攻撃は止めようがない。

「おい、泣くよりも他にやることがあるだろう、このロボのパイロットとして? やらなきゃ何もはじまらないし、何もおわらないんだぞ? おまえがやらなきゃせいぜいあと一分しか持たないぜ、コイツの予備動力? そうしたら……どうなるか教えてやろうか?」

 声音を一段落として迫るような渋いツラのおやじに、ちらっとだけ気弱な視線を流してすぐさま前に向き直るでぶちんパイロットだ。やはり敵前逃亡は許されない。

「聞きたくない! どうせろくでもないんでしょ? いまだってろくでもないのに、もういいよっ、おれなんか……!」

 もう破れかぶれでグッと下唇を噛むオタクだ。決死の表情でみずからの利き手、ではないほうの左手をみずからの股間へと差し向ける。ヒラヒラしたスカート状の目隠しの中にクリームパンみたいに肥えた手のひらをズボッと突っ込んだ。目指すは……!

「ああんっ、とうとう、握っちゃったよ……! こんな人前で、まさかこんなことになるなんて、やり方、フツーでいいんだよね? おれたぶんノーマルなヤツしか知らないよ? 道具とかは使わないでいつも通りにやるからね? なんでこんなこと聞かなけりゃならないんだよっ、ほんとうに泣きそう、あっ、ふう……!」

 完全に縮み上がっていたイチモツをタマごと掴んでようしよしと優しくなでつける。こんな時でもちゃんと感じるのが悲しかった。男として。男だからか。ほんとに泣きたい。手のひらのぬくもりで冷たかったみずからの分身があたたまっていくのを肌で感じながら、ふとこの背後を振り返るモブだ。

「た、起たせればいいんだよね? とりあえずはその、いわゆるボッキってやつを……! いやでもこんな状態で勃つかなんてわからないよ、おれ? そんなおかしな性癖なんて持ち合わせてないから! ああん、ぜったいにおねーさんの顔なんて見れない。見れないよ。今どんな顔してるの?」

「知らねーよ。じぶんで見ればいいだろう。結構な性癖だぞ?」

「性癖じゃないっ! 男としての尊厳が、いろんな意味で大事なものを喪失しそうな、そんな危機感を感じているんだからっ、あっ、あと、大事なことがまだあるんだけど?」

「……なんだ?」

「おれ、包茎だよ? かまわない?」

「知らねーよ!!!」

「大事なことでしょう? これって?? あ、でも心配しないで、仮性だから。手術とかまではしなくてもいいヤツ……!」

「そっちのねーちゃんが横向いちまったぞ?」

「ああん、ごめんなさいごめんなさい! とっととヤルから許してっ! とっとと……うふううっ、あ、あっ!?」


 焦って左手のモーションの勢いがまたいちだんと速くなったあたりで、奇しくも周囲のディスプレイに強いノイズが走った。座席の下のあたり、奥底から低い唸りがとどろくのを感じる。それはエンジンの稼働音とでもいうものか? 徐々に強く、このコクピット全体を震わせるまでになる……!

「おう、やっと勃たせやがったのか! 仮性でも立派なもんだ! 快調快調!! ようしっ、これなら楽に動かせるな? ちなみにまだイッてないんだよな?」

「いっ、イッてない……けど! イッちゃダメなの? ああん、もうやだよっ、これって立派なセクハラじゃない!?」

「いいから、だったら今のうちにきれいに皮をむいておけよ? よりダイレクトにビンビンに感じられるように! 何事も感度が大事だ! 男子が発情する上で、妄想を爆発させる上で、アソコの暴発を防ぐためにもな!! エロがまんまパワーになるコイツには快感こそが何よりのガソリン、原動力になるんだ。わかるだろ?」

 どうやら当人もノって来たらしい。おっかないこと。それはご機嫌なおじさんの自衛官とは思えないぶっちゃけ発言に、前のめりの姿勢でどうにか後ろを振り向くモブは涙目で声を震わせる。

「わかんないっ! てか、あんまりヘンなこと言わないでよっ、他にもギャラリーいるんだから! あとおれやるときは必ず皮はむいてるから、言われるもでもないし! そんなことまで他人からとやかく言われたくない!!」

「いいのか? 右の画面のおねーちゃん、どっかに行っちまったぞ?」

「ああんっ、ごめんなさいごめんなさい! あれ、いるじゃん? ああ、なんかごめんなさいっ……ほんとに泣きたい!」

『……構いません。どうかそのまま萎縮させないように、そのままを保ってください。わたしは、応援してます……』


「お、応援? なんなの、これ……??」

 頭の中でいろんな?と!がひたすらにガチャガチャと渦巻くが、左手の画面の真顔の監督官がまじめな口調で言ってくれた。
 ほんとにイカれた自衛官たちだ。後ろのも含めて。

『……んっ、ジュゲムの主動力源が解放されたのがたった今、確認された。現在、パイロットの行為と同期、同調、各部のエナジー・バランスゲージも上昇、ジュゲム、半覚醒から覚醒領域に突入! やれやれ、オタクに祝福あれだ……!』

 そこでかすかな苦笑いになったのか? 聞こえないくらいのため息をついたらしい村井がまた真顔になって小型画面から彼なりのエールを送ってくれる。エールなのだろう。たぶん。

『ならばそう、きみのこれからの働きに期待しているよ、税金たんまりつぎ込まれるから、どうかはっりきって励んでくれたまえ、その行為に!』

 眉をひそめるオタクは気持ちが乗るどころかこの手元がすべりかけて態勢まで崩す。しっかりとはめた太いベルトが座席からズリ落ちるのを防いでくれたが、この視線のやり場を完全に見失っていた。

「ううっ、なんかビミョー過ぎるんだよな、言ってることが? オナニーに補助金て出るものなの? こんなのSNSに上がったらメタメタ炎上しない? これが世の中のためになるの? なんで? あと、おれはこのロボでいったい何と戦うの???」

 手元の快感を忘れかけていると背後から指導警告が出される。
 背後からはこの頭が邪魔して見えないと思っていたのが、おそらくはこの背中の気配と身動きの微妙な変化で捉えてるのか?
 イヤな鬼教官どのだった。 

「こらっ、手元をおろそかにするな! はじめに言ったとおり、そいつがこのロボの操縦桿であり、引き金なんだ!! 萎えたら即、起動停止! 敵にスキを与えることになるぞ? 場合によっちゃたちまち致命傷だ! 戦場はおまえが思っているよりもずっとシビアなんだからな?」

「ひ、引き金ってのははじめて聞いたんだけど? そ、それっていわゆる射精……! ほんとにまんまをやらなきゃならないの? だって、ナニに対して???」

 とんでもない状況だ。まさしく想像を絶するほどの。心底困惑顔で聞いてやるに、つかの間の静寂の後、後部座席でしたり顔したおやじは口元にニヒルな笑みで意味深なことぬかしてくれる。

「じきにわかる。おれたちの戦場に着いたらな……!」

 完全に立ち上がったみずからのイチモツを自然と強く握り締めて、愕然と瞳を戦かせるモブだった。不安しかない。あとこうなるとこの腰回りのスカートが邪魔だなとちらりと前の小型画面のふたりに目を向ける、どうやらこの腰から下には目が行ってないものだと解するオタクだ。今はまさしくひと目を忍んでやる行為そのものだが、ためしに目隠しの前掛けぱらりとめくってみたら、それで気持ちがだいぶ楽になった。普段は感じられることがない、なんとも言えない開放感がある。クセになりそうだ。

「ああ、なんかもう、見られてもいいや……! 仕方ないもんね? おれのせいじゃない、すべてはこのおじさんたちが強要していることなんだから、言ったらこの国が悪いんだよ……!」

 開き直ってみずからの操縦桿をまんま突き出すでぶちんパイロットだ。傍から見たら相当な絵面なのだが、おかまいなしにイチモツをゆっくりと上下動させる。いつものまんまにだ。それでロボ自体も揺れが強くなるのが面白かった。ドドンっ!今にも動き出しそうなくらいだ。
 それでこの薄暗く閉ざされた格納庫からどうやって移動するのかと考え始めた頃に、背後からまた思いもよらない命令を発せられるモブだった。

「ようし、それじゃさっさと発進させるか! 機体の出力調整は逐一、現場でやればいい、コイツの操作方法も含めてだな? おいデブ、じゃなくてモブ! 覚悟は決まったな? いきなり実戦だがビビるなよ、まずはちんちんテレポートだ。ここから現場まで一気に発射もとい、出撃する! チャック解放、よーい!!」

「! チャック?? へ、なに言ってるの? チャックってあのチャック? ないじゃんそんなの? どこにも??」

 またしても手元がおろそかになりかけるのを周りからの視線に注意されて握り直すバカオタク。背後のおふざけ教官、ぬしは不敵な笑みでこれを見下ろす。

「ある! 見てビビるなよ? それじゃ、開口部の誘導と現出点の補正は今日のところは全部こっちでやってやるから、おまえは気合いを入れて目の前の現象、および自身の発情行為に全力で取り組め! ただし、イッたらおしまいだ! ちゃんと加減はしろ!」

「はあっ? ヤレって言いながらイッたらダメだとか、意味がわからないよっ、もはや何から何まで!? あっふ、やばっ!」

 みずからのちんちん掴んだままでひたすら狼狽する新人パイロットの痴態にも、おかまいなしに上段からまくしたてる鬼の教官さまだ。

「おい、イクのは最後だぞ? いいからヤることヤれ! いいか、チャックってのは空間を任意に切り開いて一気にコイツを別空間に解放、ぶちまけさせるある種の裏技、ショートカットだな? オタクにわかりやすく言うなら瞬間移動かワープ!」

「なに言ってるんだかさっぱりわかんないっ! チャックって、そこからアレをぽろんて出すためであって、こんなでっかいロボがそれで移動とかありえないじゃんっ、だいたいどこにそんなのが……あ、あった!!?」

 目の前の大画面モニターに映し出された薄暗がりの中に、突如として青白い光源が発生! いきなりだ。はじめ一本の縦の線状だったそれが、みるみる内に太くてギザギザな、デコボコした任意のカタチを形成していく。まさしくズボンのジッパー、あの股間のチャックみたいな形状にである。何もない虚空に、それだけがジャジャーン!と出現した。ウソみたいにだ。

「はっ、なにこれ!? ほんとにチャックみたいなのが出てきたよ? え、どういうこと? おれこのままヤッてていいの?」

 ぽかんとした表情でそれを見つめてしまう何も知らないオタクくんに、背後で何でも知ってるおじさんがさも得意げに言ってくれる。

「おまえがナニをしているから出てきたんだよ! やめちまったら即、パワーダウンしてはいさよならだ! 決して手を止めるなよ? ようし、ちんちん、手元の操縦桿がイキってることを常に意識しながら、目の前のチャックに強く念を込めろ……!」

「……へ???」

「フッ、そうすりゃ、導いてくれるさ、おまえとこのロボもろとも、あるべきところへとな! 一瞬にして! その場所こそがおまえが全身全霊でナニをするべき真の戦場だ!!」

 言ってることが何一つ理解できなかった。
 むしろ理解しちゃダメな気がするでぶちんだ。
 完全にそれのカタチで目の前に現れた怪現象に、完全にどん引きして身をすくませる。股間のナニだけはすくませないようにキャッチ・アンド・リリース繰り返しながら、途方に暮れていた。
 もう帰りたい。
 後ろのおじさんが背中を蹴飛ばすくらいの勢いで号令を発する。もはや従うほかない悲しきオタクのフリーターだ。
 もう泣いてた。

「どうらっ、そのギザギザしたチャックの奥に意識を集中しろっ、左手のイチモツ軽くだけシコリながら! そうそうっ、いい調子だ!! 慣れてるな? おまえ才能があるぞっ、はじめてでここまでコイツの調子を出させるオタクはそうはいない!!」

 ほんとにどうかしてるうしろの教官は実は呪縛霊かなにかなのかと疑ってしまうモブだが、そのオナニーおばけが声高に言い放つ。圧倒されるオタク、ついでにそのちんちんだ。あぶない。

「そうらっ、それじゃあ一緒にいくぞ!! せえーのっ……!!」

「えっ、え? イクって、ここでフィニッシュ!? イッちゃっていいの? ちがうっ?? わかんないって!!」

「だからイッちゃだめだと言ってるだろうが! このばかちんのでぶちんが!!! 行くのは戦場だ! 座標軸確定、ゆくぞっ、チャック解放! 広がった空間歪曲口にただちにロボ挿入!!」

「そっ、そうにゅう!? なんかヤらしい!! わっ、わっ、わああああああああああっっっっ!!?」

 上からジャラララララララ~~~っ!と開かれているチャックの向こうは真っ暗闇で、その中にまぶしい光をともなって頭から吸い込まれていく大型ロボだ。その中でこの様子をリアルタイムで見ていたオタクのパイロットは、瞬きひとつした後にはおのれがまったく別の場所に立ってたことを事実として知らされる。

「え? え、え?? ここって…………!!?」

 まさしく戦場であった――。

 



 

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-06 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑥

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!  ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はもはやかなりテキトーになりますwww

※太字の部分は、なろうとカクヨムで公開済みです。そちらが加筆と修正された完成版となります(^o^)

 

 ゴ、ゴゴゴゴゴッーーーンンンッ……!

 期せずして、固く閉ざされたコクピット・ハッチ――。
 金属製の分厚い装甲板は、人間の手では押し返せないだろう。
 それきりに静まり返った半球状型のメカニカルな室内に、みずからの息遣いだけがやけにはっきりと意識される。

「ぬっ、ぬしっ…………!?」

 ついさっきまでののほほんとした雰囲気が一転、異様な緊張感に包まれる戦闘ロボ?のコクピットだ。
 今や完全に外界と隔離隔絶されてしまった密閉空間……!
 そこで謎のおやじと対峙することになったオタクは、ひどい困惑顔で言葉に詰まるのだった。無理もない。
 何しろここはよく分からないロボの操縦室で、よくわからないままにパイロットスーツを着させられたじぶんが、よくわからないままにこの操縦席に座らされて、挙げ句になんだかさっぱりわからないおじさんと、何故だかこうして向かい合っている……。 

 は??? である。

 およそ筆舌に尽くしがたい状況だ。もはやどこをどう取っても、何人たりとも理解不能! 控えめに言っても詰みだろう。
 とにかくしんどい。
 とは言えここで降参しても事態は何ら変わらないのは明白。
 抱え込んだ背もたれにしっかりと上体預けて、見上げる眼前の強敵と向き合うデブだ。
 はじめひとりきりだったはずなのに、おじさんはどこからともなくいきなり出現した言わばちん入者だった。
 少なくとも呼んだ覚えはない。
 そう何しろ当の本人は、のっけから言動が粗野で横暴!
 バリバリにマッチョのあからさまな体育会系気質で、このモブが一番苦手とする部類の人種であるのだから……。
 強いて老害とまでは言わないまでも、こんなの間違っても味方じゃないだろうと猜疑心の塊みたいな目つきで、ずっと年上のおまけ高飛車なおっさんを見つめる。

 じいっと……!

 じぶんと同じパイロットスーツを身につけているあたりから、おそらくは自衛隊の人間なのだろうか?

「自衛官? うそでしょ、こんなのが! おまけになんか、ぬしとか言ってるし……?」

 焦燥感と共にもやもやした感情がこの胸の内を占める。
 相手の出方を見ていてもこれと目立った動きがないので、仕方もなくこちらから言葉を発していた。

「…………おっ、おじさん、だれ? なんでそこにいるの??」

 ぶっちゃけわからないことだらけなのだが中でも一番の疑問点だ。警戒心をまるで隠しもしない険しい表情で聞いてやるに、偉そうに腕組みなんかして後部座席にでんと陣取ったその人物は、口元にニヒルな笑みを浮かべてこちらを見下ろしてくる。
 実際に高くから見下ろされてはいるのだが、あからさまな上から目線にちょっとイラッとくるモブだった。
 このじぶんと同じパイロットスーツを着込んでいるのがむしろ怪しい。でもどうやらビミョーに色違いみたいだな?と思ったあたりで、やっと角刈り頭のおっさんはこの口を開いた。

「なんでもナニも、はじめからここに居たと言ってるだろう? おまえが気づくのが遅かっただけだ。この寝ぼけ小僧が!」

「ね、ねぼけっ? いやいやいやいやいやっ! 寝ぼけてなんかないって!! ちゃんと見たもん、おれ!! はじめはいなかった! こんなふざけたおじさんどこにも!! 寝ぼけてたってわかるじゃんっ、こんな加齢臭がキツそうなこきたない中年!!」

「まず世の中年みんなに謝れよ? 今どきはアウトな発言だろう、やっぱり寝ぼけていやがるな! おっし、じゃあツラ出せ、そのパンパンに肥えた肉まんヅラ往復で優しくビンタしてやるから、それで目が覚めるだろ? それこそパンパンってな!」

「優しくってなに? うそつけ、そっちのほうがアウトじゃん!? タチが悪いよっ!! おれ言っておくけど暴力に対する耐性ゼロだから、そんなことされたら一生、使い物にならなくなるよっ? もう黒歴史化してるけど身内のコネで入った上場企業だってそれで一発退場してるし、この体格の人間が無力化したら誰にも手に負えなくなるんだからねっっ!!!」

「やかましいっ、その腐った根性叩きなおすならなおさら力ずくしかねえだろうが! おまえ、世の中をなんだと思ってやがる? おまえを中心に回る世界じゃねえだろ、ちっとは我慢なり努力なりを覚えろ。せめてまだ若くて足腰がちゃんと立つ内に!」

「こんな得たいの知れない不審者なんかに言われたくないっ! まずじぶんがなんなのかはっきりさせてよっ!! おれはおれなり頑張ってるし、何より今はこんなワケわかんないことになってるし!! おれこの被害者ポジションは死んでも死守するよ!!!」

 売り言葉に買い言葉だ。かなりしょうもない。
 オタクとオヤジがやかましいラリーをひとしきりやってから、顔を上気させて荒い鼻息をつくモブに、見下ろすおやじはこのいかつい両肩をすくめさせる。ため息もついたか?

「……ふうっ、まったく呆れたデブだな。死んだら死守もへったくれないだろうが? ま、ある意味、見上げたもんだが……おい、褒めちゃいないからな? ふん、それじゃ改めて教えてやるが、さっきも名乗ったとおりだぞ? ん、おれは見てのとおりで、ここの主だ。以上!」

 断言!!!

 それでただちにラリー再開かと思いきや、頭から湯気でも出しそうなでぶちんが何やらふと思いついたか?
 その特徴的な太い眉をひそめて怪訝な顔つきするのだ。
 これに正体不明の男ときたら、広い背中を背もたれに預けたままでアゴまで突き出す。完全な上から目線だ。おまけにまたもやしての、大きなため息……!

「ぜんっぜんわかんないじゃんっ!! そんなのなんにも名乗ってなんかないって! あ、じゃあじゃあ、ひょっとして、ぬしさんて名前なの? キラキラ名字? ならせめて大名とか将軍とか公家さんとか、ほかにいくらだって……」

「はあぁっ、たく! このデブ、ほんとうに寝ぼけてやがるのか? そんなわけがねーだろ。いいや、ならまずはてめえの名前から名乗ったらどうんなんだ? あいにくおれはまだ聞いてないぞ。初対面の相手に対する礼儀としてだ、減らず口のでぶちんくん?」

「礼儀っ? 不審者が言う?? おじさんみたいな社会不適合者の見本みたいなひとが言ったら一番ダメなヤツなんじゃない?」

「ぐだぐだうるせーぞ。そんなだから、そのでぶった身体に一発入れられちまうんだろう! この世の中、どこでだって役立たずの大口叩きはサンドバッグにされるのがせいぜいだ。他に使い道がねーからな? おまえもそう思うだろう、その顔にそう描いてある! いやっ、どうでもいいか……!」 

 四角い角刈り頭をボリボリかいて目線を外すおじさん。
 どうやら図星だったらしいオタクくんは、その顔にはっきりと焦燥の影が浮かぶのだが、負けじと反発してただちにやり返す。

「な、なんだよっ、減らず口はそっちじゃん! あとそう言うおじさんだって、そのでかい態度でしっかり大口叩いてるからね? なんでそんな偉そうな口をきけるのか理由が聞きたいよっ、体育会系の人間、ほんとにキライだっ!!」

「わかったわかった! あいにくとこの態度がでかいのは生まれつきだ。諦めろ。あとおまえの名前についてはもちろん知ってる、とっくの昔にな? ちゃんとこっちにも個人情報として上がってるし……そうだ」

 それきりどこか遠くを見るような目つきになって、おまけどこともしれない虚空をじっと見据える不審者だ。これにつられて思わずみずからの背後を振り返るモブなのだが、周囲にはどこにもこれと言った変化はなかった。
 何を見ているとも知れないおやじは、なおも虚空に焦点を合わせて何やら読み上げてくれる。

「ふん、そうだったな、オタクダ……小宅田、盛武だな? 名字はこの際、置いておいて、このモブってのはずいぶんとアレだな? 他人が見たらいじらないわけにいかねえだろ? ご立派な字面がまたなんとも、おい、親は嫌がらせで付けたのか?」

 ちょっとモラハラめいた皮肉っぽい感想には、真顔で答えるモブだった。親の顔は良く思い出せない。だから恨みもない。

「そんなわけないじゃん。でもオタクでモブだなんて、確かに皮肉だよね? でもおれ、嫌いじゃないし……! だっていかにもこのおれっぽいじゃん! これってヘンかな? 不審者のおじさんからしても? おれ、まだ納得してないからね??」

 落ち着いた口ぶりで言いながらじっと冷めた眼差しで見上げてくる肥満のオタクに、精悍な面構えのいい歳のおじさんがへの字口してまた目を向けてくる。

「わかった、わかった! つうか、ここの説明はまるきり外で聞いてないのか? あいつめ……! というか、おまえも良くそんな間抜け面でのこのことここに乗り込んできたな? そんなにガッチリと身を固めて! よくもまあ、ここまでデブのパイロットははじめて見たぞ。正直、まったく似合ってない! 金をドブに捨ててるも同然だろ、どのツラさげて身につけたんだ? そんなサイズよくあったな?」

 言い方がことごとくモラってるオヤジの文句をそれなり聞き流す耐性がついてきたらしい新人パイロットだ。
 渋いツラで視線をよそに背ける。苦々しく言った。

「勝手に身体を採寸されて、おまけにさんざん強要されて、やむなくこうなったんだよ! 好きでやってるわけじゃないから、勘違いしないでね。それじゃついでに聞かせてもらうけど、おれどうなっちゃうの? ぬしって確かに聞いた覚えがあるけど、それだけじゃさっぱりじゃん。おじさん、ほんとに怪しい人間じゃないんだよね??」

「これからわかるだろ。習うより慣れろだ! おれの教育方針、主としての矜持ってヤツだな。わからんか。だが慣れるしかない、なんせ、やることはシンプルでとってもカンタンだからな? アレだ。まさかそのくらいは聞かされているんだろう?」

「アレ…………???」

 キョトンとした顔で微妙な間が生じるのに、呆れたさまで口をさらにへの字にするおっさん、通称でぬしは両手を万歳させる。

「やれやれ! こいつは教育のしがいがありやがるな? 場合によっちゃ調教か? 何にしても若いんだからそう問題はなさそうだが、ちゃんと節度をもってきれいにやりきれよ? 万一に汚したら、じぶんできれいにすること。立つ鳥、後を濁さずだ! そこらへんをケアするグッズはもろもろちゃんと常備されているんだ。思ったのが無ければ申請すれば用意もしてくれる……税金でな!」

「え、なに、言ってるの? さっきから?? おじさん???」

 怪訝も怪訝の表情でひたすら見つめてくる丸顔に、四角い角刈りがニヒルに笑って促しくれる。
 それじゃはじめるぞとばかりに……!

「いいから、気持ちを切り替えろ。それじゃ、主電源入れるぞ。コクピットシステム、スタンバイ、待機モード解除、各種ディスプレイオン! おい、下手に計器に触れるなよ? 遮断されていた外部との通信も開放、信号、アナログからデジタルに切り替え、外部接続切り離し……ようし、オラ、とっとと前向け、前! 回れ、右っ! 左か?」

「え、なに、なにっ、なにっっ!? ちょっと……わっ!!」 

 後部座席にふんぞり返るおやじの一方的な号令によって、それまで電源が落とされていた周囲の操作盤やディスプレイに次々と明かりが点されてゆく。それまでただの白い壁だったはずの壁面がぼんやりとした暗い色を灯すが、このロボの周りの景色を映しているのだとすぐにわかる。周囲は薄暗い格納庫だ。

「え、すごっ、マジでロボのコクピットみたいだ、じゃなくて、マジなんだ! こんなのアニメの世界じゃんっ……!!」

 言えば360度ほぼ全ての視界をまんまリアルタイムで投影した全方位型モニターに圧倒されるオタクだ。前に向き直った姿勢でピキリと硬直してしまうが、そんなのお構いなしで背後のオヤジのがなりが耳朶を打つ。
 室内にこもる低い機動音と共に言い放たれたそれに、だがはじめ、えっ?とこの耳を疑うモブだった。

「第一操縦席操縦者(メインパイロット)、ただちにスロットルレバー用意! おい、ぼっとしてるな、おまえのことだぞ? おら、さっさと用意しろ、操縦桿(ちんちん)!!」

「へっ? ちんち……なに言ってるの? 操縦桿? そんなのどこにもないじゃない?」

 身の回りをキョロキョロと見回してから、思わずまた背後を振り返って目を丸くするでぶちんに、これを見下ろすおやじは真顔でしれっと言ってのける。

「あるだろう、おまえのが? その股のあいだに? ちゃんと立派なのがぶら下がってるんだろう、そこに? いやだから、その真ん中のヤツ、その竿だ。しっかりとしごいて立たせておけよ、でないとまともに機動しないだろう、コイツが!」

「は? は?? は??? はあああああああっっっ!!?」

 一瞬だけみずからの下半身に目をやって、そこから戦いた瞳を背後に向けるモブだった。相手はただただ真顔で見下ろして来る。何やら絶望に近いものがあったのは、気のせいじゃないだろう。
 おやじ、自称・ぬしは舌打ちまじりにぬかしてくれた。

「ちっ……こいつめ、ほんとに何も聞かされてないんだな? まったく、面倒にもほどがあるだろう。ここは幼稚園じゃねえんだぞ! いいから、主電源が入らなければコイツのコアが覚醒しないから、とっととやれ、ナニを、ここまで言われればわかるだろ? アレだよ、アレ! 男の子ならみんな大好きなアレだ、そら、できたら利き手でないほうでやれよ? 利き手がふさがるといろいろ細かい操作がしずらいだろ、まだはじめの内は……」

「ま、待って! ほんとにわけがわからないんだけど、アレって、え、まさかアレ、アレのこと言ってるの?? え、違うよね? アレっ???」

「それだよ。いまおまえがその頭の中で思い描いているヤツ、行為、そいつで間違いない。おまえぐらいの年齢なら毎日だってありえるだろ? それでいい。さっさと握ってちゃっちゃと気持ちよくスタンバイさせろ! 
そうとも、何を隠そう、それこそがコイツの操縦桿だっ!!」

「なっ、なな、な……あれ、ナニ、これ?」

 あらためてじぶんの下半身に目を落とすに、今さらになってそのパイロットスーツのおかしな部分に目がとまるパイロットだ。
 ガッチリした見た目のわり、この腰回りの部分だけがやけに自由で拘束感がないなと思ったら、そこだけ造りがおかしな見てくれになっている。言えばスカートみたいにぐるりと布が張り巡らされて、目隠しの前掛けみたいなのがヒラヒラと垂れ下がっているのだが、その下の感覚がやけに自由ですっきりとしている。
 それが逆に違和感だ。
 スカート?の裾の端っこ指先でつまんでみて、おそるおそるにめくったその下を覗きこむモブの身動きがピタリと止まった。
 ぎこちなく振り返るオタクは顔つきが困惑の極致だ。

「…………なに、コレ? スカートめくったら、モノがまんまあるんですけど? おれのナニが、タマもチンもことごとく丸見えなんですけど、え、なんで???」

「あん、何でもナニも、もとからそういう仕様だからだろ? 一刻一秒を争う状況下で、いざナニをしようって時にいちいちパンツなんてズリ下ろしてたら手間だから、搭乗者(パイロット)のイチモツは常に丸出しの状態なんだよ! だから外から見えないようにその前掛け(ガード)があるんだろうが、かろうじての目隠しで? スカートとか言うんじゃない」

 ごたくはいいからさっさと握れと真顔の目つきで催促してくれるぬしのおじさんに、新米パイロットのでぶちん、モブはぎょっとした顔つきで口をパクパクさせる。理解が追いつかなかった。

「一刻一秒を争う状況でナニ? ……えっ、あ、え、マジで、どういうことになってるの? いきなり握れって、ナニをしろとか、まったく意味がわからないんだけど?? おれって、ロボのパイロットなんだよね???」

「だからだろう! いいか、こいつはいわゆるエロを原動力として稼働制御するオタクシステム実装型ロボットなんだ。世に言う自家発電、エコシステムの極みだな! つまりはおまえの発情、ないし欲情と妄想によるエロパワーでのみ動かすことができるんだよ。だから最低限、勃起せんことにゃ一歩たりとも動きやしない。逆に言ったら、パイロットは常にじぶんのイチモツを握り締めておかなきゃならないんだ! 萎えたら即、パワーダウンだからな!! ただちに起動停止でおまえさんの勃起待ちになる」

 なに言ってんの?????

 絶句するモブに、高くから見下ろしてくるおじさんは容赦ない。早口でまくし立ててくれた。

「いいから、さっさと得意のポジションに入って自慢のブツを起ち上げろ。いつもやってんだろ! 人目を忍んでコソコソと?あ、シートベルトはしっかりと締めろよ。頑丈な四点式フルハーネスだ。ロボは意外と揺れるから、握りが安定しないとおちおちナニもできないだろ? そうでなくともパイロットはベルト必着! 結構手間がかかるから、握る前で良かったな?」

「ボッキとかナニとか、さっきからほんとになに言ってるの?? おれやらないよ、そんなこと? やるわけないじゃん! ひとまえでそんなこと!!」

 やっと事態が飲み込めたとおぼしきオタクは、同時に激しく反論もする。無理もない。目を覚ましてからこれまでまともな展開がひとつもないと憤慨しつつ、背後で教官よろしくふんぞり返るおやじに牙をむいた。

「だだだっ、だって、それって、それってば、お、オナ、ニー、でしょ? だだ、ダメに決まってんじゃん! そんなのっ!? ここってほんとに自衛隊!!?」

 声を裏返らせる若者に、酸い甘いもかみ分けてそうな渋いツラした年長者が少しの衒いもなしに応じる。ひどい話だ。

「おう。いわゆる自慰行為、またの名をマスターベーションとも言うな? 老いも若きも男子たる者みんな大好き、それすなわちオナニーだ! 別に恥じることないだろう、性欲なんて誰しもみんな持っているんだ。どこぞの医者に言わせりゃ、メンタルヘルスにも大きく関わる大事なひととしての営みだろ? ただの日常茶飯事だ。最近じゃセルフ・プレジャーなんてキラキラした言葉も出始めたとか? 言ってることは変わりゃしないのにな!」

「はっきり言った! このおじさんはっきり言った!! まともじゃ考えられないよっ!! ぜったいに自衛官なんかじゃない!!!」

 顔を真っ赤に赤らめてみずからの股間を自然と押さえてしまうモブだった。ひどい危機感にさいなまれる。なんかひととして大事なものを失うような、ひたすら絶望的な未来が待ち受けている、その入り口にみずからが立たされているような?

「俺のことはどうでもいいだろう? はっきりしていることは、この場でおまえが気持ちよくならにゃ話がはじまらんてことだ。イチミリもな? 別にひとがよがってるところ見て楽しむような性癖はないから、好きなだけ盛大にやってくれて構わない。見やしねえ。そういう場所だし、そういう仕事なんだしな! これのパイロットたる者の宿命だ。ほれ、手が止まってるだろ、いいから、行為再開! ただしぬくのはまだだぞ? まだイクな!! あとベルトも締めろ」

「最初からやってない!!! やるわけないって! 頭おかしいだろっ、エロで動くロボなんて聞いたことないって! そんなのありえないって!!」

 絶対やらないと固く誓うモブなのだが、あいにくとさらなる追い打ちが仕掛けられることになる。おまけに外部からだ。

「んっ……!」

 はじめに背後のおじさん、後部座席のぬしが何かしらに気づいたかの反応をした直後、コクピットの前面の大画面モニターに大きくふたつの顔が浮かび上がる。大きく二つに区切った四角い表示窓枠に、忘れもしない、あのふたりのおとなたちが映し出される……!

「あっ! か、監督官のおじさんと、監査官のおねーさん! ちょ、ちょっと、助けてよっ、偉いことになってる! おれ、すごいこと言われちゃってる!! このおじさんにっ!!!」

 またしてもあの無表情な真顔で登場したバストアップの中年自衛官とおぼしき監督官に必死に訴えるのに、相手はとかく澄ました表情で返してくる。

「……おじさん? はて、意味があまりよく分からないが。オタクダくん、そちらの状況はどうなっている? ロボ、ジュゲムのスタンバイまでは確認できたが、肝心のコアの起動が未確認だ。まだやってないのかね、その、済まない、面倒だからはっきりと言わせてくれ。きみの操縦桿の起ち上げ、つまるところでオナニーは?」

「わああああっ!? このおじさんまでなに言ってるの??? しかもこんな若いおねーさんの前で!!!」

 慌てふためくモブなのだが、股間を押さえる手にグッと力が入る。突然の異性の存在を意識したらちょっと反応しかけるのを慌てて押さえつけるだが、あいにくとモニターにドアップのメガネ女子はまるきりの無表情だ。相変わらずメガネが光っている。
 挙げ句に表情ひとつ変えない監督官の村井が悪びれることも無くぬかした。


「事態は急を要する。とっととやりたまえ。国の未来がかかっているんだ。それともまだナニか不足があるのかね?」

 ほんとに逃げ道がないとあんぐり口を開けて反応に窮するモブに、かわりに後ろのおじさんがほざいてよこした。

「ん、おまえ、ひょっとして座りよりも寝ながらじゃないとできないってタチか? ガキンチョが! なんならその座席取っ払えるから、床にまんまベタで寝るか? あいにく布団までは用意できないが?」

「うう、うっさいな! 余計な茶々入れないでよ!! 村井さんっ、おれこのおじさん嫌い!! どうにかしてよっ!!?」

 必死に助けを求めるのに、大きな画面でドアップの自称・監督官はやはり無表情だ。こちらを見つめる視線に怪訝なものがあるのに微妙な違和感を感じるモブであったか。

 あれ? なにこのヘンな間は??

 奇妙に思ってるそばから相手が不可解なことを言い出すのに、なおのこと怪訝に顔つきをひそめるパイロットである。

「済まない。こちらからはこの状況が確認できないのだが、そのロボの主には会えたのだね? 外部電源からの予備動力の稼働は確認できたから接触はしたものと推測はされるが……?」

「は? なに言ってるの? いるでしょう、そこに、後ろでこんなしっかりとふんぞり返ってるじゃん! おじさんが!!」

 ビッと後ろを指さしての訴えにもモニターの中の監督官は無表情だ。おじさんとおじさんの目線が合ってない。当のぬしはそしらぬ顔して耳の穴をほじくってる。監査官のおねーさんもまるで無反応でメガネを光らせたままだ。そのメガネどうなってんのと思いつつ、監督官に改めて向き直るモブ。

「えっ、どうしたの、話が通じてないみたいだけど?」

 股間のブツが萎縮するのを意識しながら聞き返すと、そこから返ってくるのは思いも寄らない言葉だった。唖然呆然と乗り出していた身がシートの背もたれにどっともたれる。
 監督官は多少困惑の色を浮かべながら冷静に言うのだ。

「あいにくとそれはきみにしか見えないのだ。ぬしはじぶんが認めたパイロットの前にしかその姿を現さない……!」

「は…………???」

 こんなにはっきり見えているのに何を言っているんだとただひたすらに相手の顔を見つめてしまう。ふざけているのかと。
 だがこれにその右手の表示窓で沈黙を守っていたメガネっ子の監査官、若いおねーさんがおもむろにこの口を開く。
 それにもまじまじと目を見開いてしまうモブだった。

「申し訳ありません。そちらの監督官の言葉にもあったとおり、わたしにもあなたがいうおじさん、もとい、ぬしの姿は確認することができません。後部座席は無人の状態としか認識が……」

 細い首をかすかに振って口ごもるのに、信じられない思いで額に汗を浮かべるデブチンのパイロットだ。

「え、なんで??」


 ものすごく重たい沈黙がその場を支配する。
 もはやナニどころではなくなった空気と状況に戦慄するモブはおそるおそるに背後を振り返る。やはりふんぞり返るおじさん。
 じぶんにはしっかりと見えている。
 それなのに――。

「そ、それじゃあこのおじさん、ぬしって…………!」

 どこかあさっての方向を向いていたのがこちらに視線を向けて、ニンマリと意味深な笑みを浮かべるオヤジだった。
 混迷を深めるロボのコクピット、オタクとオヤジの攻防戦はまだはじまったばかりだ……!

随時に更新されます(^o^)w

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変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-05 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ⑤

なろうとカクヨムで公開中のジュゲムの下書き版です!ノベルの更新に重きを置いて、挿し絵はかなりテキトーになりますwww

※なろうやカクヨムに公開した部分は太字になりますw

Episode-file-05


 薄暗がりに乾いた足音とかすかに金属がきしむ音が響いた。
 丸っこい影がやや前傾姿勢でとぼとぼと進む。
 のろくとも終着地点はあっという間だ。

「あ~ぁ、とうとう来ちゃったよ、言われるがままにわけわかんないところまで……! ううっ、あ、でもここって誰もいないんだっけ? じゃあどっかに脇道とか……!」

 問答無用で暗闇に伸びる搭乗口をひとりで渡らされ、いまだに逃げ道など探してキョロキョロと辺りを見渡す肥満のうっかりパイロットだ。
 この背後を振り返ってもふたりの自衛官たちの姿はうっすらとした影だけで、今はもうじぶんしか確かなものがない。
 ゲームオーバーだと心底げんなりして、仕方もなく前へと向き直った。もはやそこにしか道はない。目の前のシビアな現実と向き合う以外には……!

「うわぁ、マジで引く……! ハリボテだったら良かったのに、ホンマモンじゃん、マジでいくらかかったの? そもそもでロボってこんな実用段階だったんだ? これでどうすんの??」

 正面に巨大な神像のごとくに立ちはだかる人型ロボ……!
 その中心で大きく開かれたコクピットのハッチ、この内側からぼんやりと光を放つ操縦席に入ればいいのはわかるのだが、そこに入るだけの理由が個人的には一切見当たらない。怖いくらいに皆無だ。
 やっぱり引き返そうかと踵を返しかけたところで、折しも低い地響きを立てて軽合金製の地面が地の底深くへと落ちていく。

「あっ? え、ちょ、ちょっと……そんなぁ!」

 それきりに足下にぽっかりと開けた谷底とその暗闇に、下をのぞき込んでもこの床らしきが見えない。ううっ、こりゃマジで危いぞ!と後ずさる小心者はひたすら絶句してしまう。
 まんまと帰り道までふさがれて、表情が見えない対岸の中年自衛官をマジマジとみやるオタクの青年、モブだった。
 どうせ真顔なのだろうが。

「鬼だ……! ひとをオタク呼ばわりして、こんな仕打ちまで。人権無視で訴えてやりたい。でももう、無理か……入るしかないんだよね、この中に? はああっ……」

 ため息ついて重たい身体を動かした。
 特注品で身体にピッタリのスーツは手足の動きをスムーズにトレースしてくれるから、この身動きにおいて苦労はしない。むしろ楽なくらいだった。
 おかげで思ったよりもちょっと高くにあるコクピットへの段差も楽によじ登れた。おそらくは他にもっと楽な登り口なりがあるのかも知れないが、暗いからよくわからない。まずは頭から中に潜り込んでその場に四つん這いになり、すると勢い、でかい尻だけが外に丸出しの状態となったか。気のせいか尻のあたりがヒヤッとするのを感じる。あんまりひとには見せられないやと即座に引っ込めようとした途端に、静けさの中におかしな破裂音が鳴った。
 ブッ……!
 あっと気まずい表情になってその場に突っ伏すモブだ。

「ああん、無理して変な態勢になったら、おなかに力が入っておならが出ちゃった……! サイアク、聞かれてないかな?」

 後ろを振り返ってもあいにくでかいケツ越しの狭い視界は闇の中だ。これと反応がないから聞かれてないことを願いながら、周りの状況にやっとこの意識を持っていく。察するに、分厚い金属の装甲部にじぶんはまだいて、操縦席はもっと奥にあった。内部は明るい。

「うわ、くっさいなっ、我ながら! 何食べたっけ? ほんとにサイアクだ。厄日だよ。早く中に入ろっ……」

 まさかじぶんの屁に追い立てられてられるとは……。
 ちょっとだけ顔を赤らめて気まずい表情のオタクのでぶちんはいそいそとロボのコクピットに搭乗。思ったよりもずっと奥行きと広がりがあるのに目を丸くするのだった。

「ええ、こんなに広いんだ? 思ってたのと全然ちがうっ、天井も高いし? これなら楽に立てるよね? よっと……!」

 慎重にこの中に降り立つと、まずはその場で立ち上がってみるモブだ。そう知識はなくとも男子たる者、メカ自体は嫌いではない。その彼なりコクピットとは概して狭いものであり、なおかつ息苦しいものとのイメージがあったのだが、しっかりとふたつの脚で直立姿勢を保つことができた。存外に広い。おかげでどこにも圧迫感がなく、楽に息もできることに目を見張るでぶちんだ。

「へー……! もはやちょっとした部屋じゃん? おれが住んでるぼろアパートの方が狭いくらいだよ、天井もこんな高いし!」

 この利き手を上げてみるに、指先が天井には届かなかった。
 マジで部屋だ。見た感じ、たぶんおおよそで半球状の天井と内壁なのだろうが、じぶんがいるのはこのへりっ側で、真ん中の中央に操縦席があり、そこはゴチャゴチャとした操作盤に囲まれたやたらにガッチリした造りのシートがある。
 オタクが引くほどガチのヤツだ。仮にコクピットの形状が球状だとしたら、丁度この中心に座席が来るイメージだろうか。そして操縦席にはもうひとつ、特筆すべき特徴があった。目をさらにまん丸くしてそれを臨むモブである。

「うわ、凄すぎ! マジで引くって……! ああでもこれって、いわゆる復座式、タンデムってやつだよね? 座席がふたつあるもん。てことは、二人乗りなんだ? あっ……」

 席が縦に二つならんだレイアウトのコクピットは、さながらジェット戦闘機のようだが、よくよく見てみればそれとはだいぶ様相が異なるようにも思える。復座式のこの後ろのシートは、より一段高くにあって、下段のそれを高くから見下ろす位置関係だ。そこで思い出される、監督官のセリフで、ちょっと身構えてその上段の席をうかがう人見知りだ。
 この中にはすでに誰かしらがいるようなことを、あの真顔の誘拐犯はほのめかしていたはずだ。足下の下段の席には誰もいない。

「先住者って、おかしなこと言ってたよな、あのおじさん? このロボの主みたいな? ぬしってなに?? あれ、でも……」

 後列のシートにもどこにも人影らしきは見当たらず、操縦席の背もたれがまんまはっきりと見て取れる。ぐるりと取り囲んだ操作盤や前後の隙間に隠れているのかと首を伸ばしておっかなびっくりのぞき込むが、どこにも人の気配は感じられなかった。やはり無人のコクピットだ。

「……誰もいない、よね? なあんだ、でもじゃあどうすればいいんだ? こうして乗ってみたまではいいものの……」



 室内は全体新品でどこもかしこもピッカピカだ。真新しい革製品のニオイが鼻に付く。余計な緊張が解けてそれなりリラックスしてきたオタクくんは、メカニカルな見てくれがまぶしい操縦席にちょっとだけハイになって自然とこの手をかけていた。

 ここらへんはやはり男の子か。しかもオタク。
 でぶった身体がおかしなところに引っかからないように気をつけながら、この身を潜り込ませた。まずはふたつある内の手近にある前列側のシートに、そっとこの尻をつける……!

「……おっ、おお! うっそ、すっげーいいカンジ!! マジでおれのケツにピッタリじゃんっ!! まさかこれも特注品!?」

 ひとに言わせれば無駄にでかいケツが、迷うことなくこの中心にピタリと据わった。おまけビクともしない。どっしりとしたいい座り心地だった。まさしく正真正銘のパイロットシートか。
 ひとには三桁には届かないと言い張る図体をここまでしっかりと受け止める堅牢な造りと、いまだかつて経験したことがない高級感のある感触にしばし悦に入る。
 あの監督官たちが言っていたとおり、確かにやたらなお金がかかっていた。ならば後ろの席の感触も確かめたい。高くから見下ろした感じとかも含めて……。 

「わはぁっ、アキバのショールームで高いゲームチェアに座った時よりよっぽど快適じゃん! あの時は店員にイヤな顔されたけど、これならぜんぜんっ、うわ、これだけうちに欲しい!!」

 ドスンドスン!とでかい尻を座面にいくら打ち付けてもまるで動じない。驚くほど頑丈な造りになおさらハイになって心から感激する、目的を完全に見失うオタクくんだ。
 だがするとそこに、不意に背後からぶっきらぼうな声がかけられてくる。中年男性の。いきなりだった。

「……おい、うるさいぞ、落ち着け! ここはガキの遊び場じゃねえんだ、この世間じゃおまえみたいな浮かれたデブは傍目には滑稽にしか見えないって、そういう自意識はねえのか?」

「あっ、ごめんなさい! そんなつもりじゃっ、確かにちょっと浮かれてたけど、でもおれひとりだったからぁ……て、え?」

 背後からの不機嫌なツッコミに、そのつっけんどんな言いようよりもまずその声を発した人間の存在に、ハッと驚愕するモブだ。この真後ろの後列座席から、それは発されていた。
 だがしかし、ここには自分以外には……?

「あれ、誰もいないはず、だよね……え、ええっと、は?」

 おそるおそるにゆっくりと振り返ったその先には、いた。
 おじさんが。
 あたりまえにそこにふんぞり返っていた。見間違いではなく。
 それはまごうことなき、立派なおじさんだ。
 だがそれを目の当たりにしても、ちょっと理解が追いつかないで頭の中が真っ白になるモブだ。一瞬、時間が止まった。
 想定外どころでない、それは天変地異にひとしかったか?
 額のあたりをつと汗が伝う感覚をやけに意識する。だがどう考えても理解ができない。いいや絶対にわかるだろう、見落とすはずがないこんなむさ苦しいおじさん!
 振り向いた先にいたのは、いかにも鍛えてそうなガッチリ体系でじぶんと同じようなスーツを着込んだ謎の親父だ。

 こんなのどこから沸いてきたんだ?

 本当に謎である。完全に固まって二の句がつげない。顔面に脂汗がびっしりと浮かぶ若いでぶちんに、一段高いところから上から目線で見下ろしてくる当のオヤジは皮肉っぽい笑みだ。

「は? じゃねえだろ? おまえナニしにきたんだ? ナニか? まあそうか、コイツのパイロットなんだもんな!」

 言っていることもさっぱりだ。偉そうな口ぶりして!
 完全パニックのモブは椅子から危うく転げかけるのを必死に背もたれにしがみつく。本来なら椅子ごと転がっていただろう。

「ななななななっ、なんで! え、だって、え、だって!! なんでいるの? いなかったじゃん! いなかったって!! うそだよっ、絶対にっ、いなかったじゃんっっ、こんな不審者っっっ!!!」

 ふたつの眼を限界まで見開いて、恐怖に恐れおののくオタクだ。必死の形相の叫びには、これを余裕のさまで見下ろしていたおじさんの額にあからさまな血管が浮かぶ。わかりやすいことちょっとだけ左目をひくつかせて忌々しげに言い放った。

「おじさっ……おうし、わかった! 一発殴らせろ! ツラだせ、歯も食いしばれ! 話はそれからだ」

「狂人じゃんっ! あ、良く見たら原始人? でも服、着てるよね? おれとおんなじヤツ? なんで?? いいやとにかくこんな部外者のおじさんがいるなんて聞いてないよっ、ここのセキュリティどうなってるの!? 監督官のおじさーん! ねえっ、村井さあーんっ!!」

 背もたれにしがみついたまんま、背後の開け放たれたままのコクピットの外へ声高に助けを求めるモブだ。だがこれに後ろで舌打ちがするのと同時に低い音が鳴り響く。悲鳴をかき消す騒音は視界の先の暗闇すらもかき消した。
 目の前がただちに真っ白い壁で閉ざされてしまうのだから……!
 詰まるところ、コクピットハッチが閉ざされる稼働音だったのだとわかる。結果、完全な密室状態のできあがりだ。
 信じがたい表情で向き直る新人パイロットは声を震わせる。

「えええっ、おじさん……おまけに誘拐魔だったりするの? うそでしょ、おれほんとに厄日なんだ。てか、ちょっと待って! やっぱりおかしいっ、おかしいじゃんっ、さっきは誰もいなかったはずなのに、なんでこんなことになってんの!!?」

 テンションの上がり下がりが激しい年少の青年に、落ち着いた年配のイケオジ?が渋い面構えにかすかな苦笑いを浮かべて返す。これまた意味がわからなかったが。

「いただろう。はなっから? おまえが今になって見えるようになったって、ただそれだけだ! 俺はいつだってここにいる。なんたってそう……!」

 たっぷりと間を置いて、言い切った言葉がまた極めつけだった。

「この俺さまはここの主だからな!」

「…………ぬし?????」

 どこかで聞き覚えがある言葉だったかなと思うモブは、じぶんがほんとうにどうにもならないところまで来てしまっていることを思い知らされていた。もう戻れないだろうことも。
 上から見下ろすおやじは不敵な笑みだ。
 果たして敵か味方か、まともな人間なのか?
 あんまり期待できないと半眼の目つきで見上げるモブだ。
 そしてここから先は、ひとには言えないような阿鼻叫喚か驚天動地のパニックがひたすらに繰り広げられる――。
 厄日が本気を出すのであった。



 

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SF小説 ファンタジーノベル ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-04 ドラフト!

アキバで拉致られババンバン♪ ④

なろうで公開中のジュゲムの下書きですw なろうで公開済みの部分は太字になります。

Episode-file-04


 知らぬ間に拉致られ、気がつけばマッパで監禁されていた謎の個室から、その現場は歩いてほどもないところにあった――。

 窓もなく薄暗い通路を二度くらい曲がった先の突き当たりだ。

 そこには、見るからに頑丈そうな両開きの金属製の扉があり、そこまで先導する監督官が、この扉の脇にある操作盤らしきを手早く操作することで、音もなく重厚なドアが左右に開かれてゆく。この時、背後を女性自衛官の監査官に詰められていたから身動きもできないままのオタクだ。逃げ道はない。
 促されるままにおずおずとこの内部へと足を踏み入れる。
 ドア越しにもパッと見でかなり広い空間だとはわかったが、全体的に薄暗くてはっきりとは見通しが効かなかった。
 かろうじてこの真正面がぽつりぽつりとライトアップされていたので、そこだけがそれと認識できるだろうか。で――。

 モノはそこにあった……!

 とぼとぼと部屋に入ってこの顔を上げたらいきなりのことである。見て丸わかりの言われたままのブツの登場にしばし圧倒されるオタクくんだ。もはや見まがいようもない、あまりにも露骨なありさまであったか。 

「はあああぁぁぁぁ~~~……!」

 言葉よりもまず長いため息が漏れるモブだった。
 正直、途方に暮れていた。
 あまりにも浮き世離れした現実が、がそこにはあったから。
 泣きたい。
 はじめ惚けた顔でそれを見上げるパイロットスーツのオタクは、改めておのれが直面している事態の異常さに驚愕するのだ。

「うわあ、マジであるよ? 何コレ、ロボ? ガチじゃん! いくらかかってるの? ここまであからさまだと、なんか引いちゃうよな、こんな巨大ロボっ……!!」

 目の前にそびえ立つのは、おおよそひとのカタチをした、巨大な戦闘兵器、ロボットなのだろうか? 
 果たしてこの意味も理由もさっぱりわからなくした、どこにでもいるはず平凡なオタクはたじろぐばかりだ。
 いかにもメカっぽい全身がずんぐりむっくりしたロボットは、ただ静かにそこに直立している。それだけで半端じゃない存在感なのだが、何故かまだどこかしら夢うつつな気分のモブだった。
 ひょっとして悪夢を見ているのではないかと、じぶんのほっぺたをつねったりしてみるのだが、ジクリとした痛みだけが伝わって、他には何も変わらない。
 悲しいかな、まごうことなき現実だ。
 仕方もなしに周りに視線を向けるのだが、これと言って他に目にとまるものはなかった。薄暗くした巨大な灰色の屋内に、巨大な人型ロボが仁王立ちしている。
 ただその事実だけが突きつけられる空間。
 泣きたい。マジで。
 周りに物音やひとの気配がないのが多少の違和感だったか。
 オタクの身からすれば、こういうシーンでは決まってやかましい騒音とたくさんのスタッフや資材が、そこかしこを忙しく動き回っている活発で雑多としたイメージなのだが……。
 あいにくとじぶんたち以外にはそこには誰もいなかった。
 非常なまでの静けさに満たされた大型ロボの格納庫だ。

「あぁ……だからなんか現実感がないんだ? じゃあ、ほんとに動くのかな、コレ? ただのハリボテだったりして??」

 思わず思ったままを口にすると、そのつぶやきをこのすぐ背後から聞きつけた中年の自衛官、村井がまじめな言葉を返す。
 またそのすぐ後に続く女性の監査官の指摘にも耳が痛く感じるモブだ。余計な物音がしないから小声でも楽に会話ができる。
 大きな空間につぶやきが響いてなんかおっかないカンジだ。

「そんなわけがないだろう? 紛れもなく本物だよ、アレは……! いやはや、もっと当事者意識を持ってもらいたいな。税金いくら投入していると思っているんだ。もはやシャレでは済まされない額だよ」

「あなたが今、身にまとっているスーツもおなじようにただごとではないだけの公金が投入されています。開発から実用化にこぎ着けるまでの年月も含めて、考慮していただければ幸いです」

「ううっ、そんなこと言われても、おれ、ただのオタクだから……! オタクってなんだよ? てか、やけに静かだけど他にひとっていないんですか、ここ?」


 しまいにはどっちらけて白けたまなざしで背後を振り返るに、真顔の監督官はおごそかに応じる。わざわざ一拍空けてから。
 なんだか芝居じみているようだが、そのあたりは気にしないことにした。なんかもう慣れつつあった。

「それはつまり、重要な機密を守る上での厳正なる対処だよ。この戦闘兵器のパイロットについては厳重なプライベートの保護、ないし報道規制が敷かれている。当然だな。これに則り、一般の整備班やその他の運用スタッフときみが顔を合わせることは原則禁止だ。国家機密厳守の観点から。問題があるかね?」

「い、いやあっ、なんか大げさな気が? おれの正体ってそんなバレちゃダメなの? こんな馬鹿げたことをおおっぴらにしているのに?? 拉致監禁もされちゃったし。マッパにもされて、さすがにムリでしょ……」

 額に汗を浮かべて困惑するオタクに、冷静な監査官が応じる。

「いいえ、そちらのロボからあなた自身が顔を出さなければ、物理的に身バレすることはないものかと? ご自分から正体を明かすような真似をされるとこの身柄を保護することにならざるおえないので、くれぐれも機密の漏洩にだけはお気を付けください」

「保護? それって、また拉致られてこうやって監禁されるってこと? もうやってるじゃん! なんだよっ……」

 物腰の穏やかだがやけに他人行儀なあくまで他人事みたいな言い回しに、なんだかげんなりしてがっくりと肩を落とすモブだ。その肩をぐっと掴んで、嫌気がさすほどに真顔のおじさんが力一杯に言ってくれる。トドメとばかりに。

「もっと胸を張りたまえ! きみこそは選ばれしオタク、国を救うべくした正義のパイロット、いうなればヒーローなのだから。戦場がきみを呼んでいる」

「呼ばれたくないです。いやあ、あのですね、おれ、民間人ですよ? それがどうして……! あれってほとんになんなの??」

 再び正面に戻って目の前にある現実に向き合うが、どうにもこうにもで立ちすくむデブのパイロットスーツだ。村井が言う。

「ジュゲムと呼んでくれたまえ。あれの正式な名称だ。ただし口外は無用。いわゆる我々関係者の中だけでのコードネームだな。世間一般では、第三種災害対応兵器、ぐらいなものか?」

「第三種……! あのぉ、それって……あれ?」

 ゴチャゴチャやってる間に薄暗闇の中にどこかで耳慣れない物音がする。ゴゴゴッ……と低い重低音が響く方に目を向けると、問題のロボがこの腹のあたりを鳴らしているのだとわかる。
 今しもボディの真ん中にあたる部分、おなかのパーツが外部へとせり出して、ぽっかりと大きな穴をあけるのだった。
 おそらくはこのコクピットへのハッチとなる開口式装甲が開いて内部に通ずる入り口が開いたのだとは、シロウトながらに理解ができた。だが他にひとがいないはずなのになんでとは思うオタクくんだ。怪訝に眉をひそめてしまう。身体もこわばった。
 そんなモブの心境も素知らぬさまで、監督官が意味深な物の言いで促すのだ。

「オタクダくん。やはりきみは真のオタクだ。あれが呼んでいる……!」

「い、いやあ、そんなこと言われても、アレに乗んなきゃいけないの? このおれが?? ろくな免許もないのに……」

 完全に顔が引きつっていたが、真顔の自衛官はまじめな口ぶりで言い切ってくれる。

「免許なら、きみは既に持っているさ。オタクとはそういうものなのだから……! きみでしか乗りこなせないものが、今こうしてきみの搭乗を待っている。搭乗口を開こう。きみでしかわたれない一本道だ」

「は、はいっ?」

 言いながら背後の監査官に目配せすると、こくりうなずく神楽が背後の壁にある操作盤らしきに手を伸ばす。
 直後、何もなかった空間にガガガーっと低い音を立ててせり出して来たのは、言葉の通りの金属製の渡り通路だ。
 かろうじてひとが一人通れるくらいの。
 謎のロボの周りに設営された足場なりに接合されて道を開く。
 いよいよ逃げ場がなくなったことを実感しながら、ちょっと目つきが遠くを見るようになるモブはすぐそこのはずなのに果てしない距離感を感じていた。行きたくはない。間違っても。
 背後に立つおじさんは許してはくれなかった。
 もう乗り込むことが前提で話を進める村井だ。
 止められないし、その背後に立つおねーさんのメガネも光っていた。泣きたい。

「ううっ、乗るんだ、ほんとうにっ……! でも乗って、どうしたらいいの、おれ??」

 絶望感にさいなまれるオタクに、その背中をぐっと押さえながら非常の監督官が最後の言葉を投げかける。
 それにムッと眉をひそめるモブだった。
 意味がわからない。

「内部には先住者がいるかもしれないが、いや、おそらくはいるのだろうが、それはあのロボの主だから、安心してくれていい。きっときみをよろしく指導してくれるはずだ。失礼のないように。それでは、グッドラック!!」

「…………はっ!??」

 前途多難なオタクの戦いが、今、幕を開けた。



 

 

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Novel オリジナルノベル SF小説 コント ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-03

アキバで拉致られババンバン♪ ③

Episode-file-03

 

 言うなればかなりの極限下で、かつ、かなりの悲壮な覚悟の下に血を吐く思いでぶちまけた、それはだ。

 知らぬ間に全裸スッポンポンのまま、無機質で頑丈な病院のストレッチャーよろしくした担架の上に担ぎ上げられていた、この自分からしてみれば。

 だがここは間違っても病院などではないのに……!

 かくしてその訴えは見事に叶えられたようだが、を相手の挙動から察して、顔つきに不安が広がる裸の大将、ならぬ、マッパのオタクだ。

 無表情に近い真顔でとだけうなずく村井むらいはいずこか背後へと頭を巡らせる。

 これに部屋の真ん中に置かれたストレッチャーの反対側に立つ女性、確かとか名乗ったはず、神楽かぐらが静かに了解して応じる。

 おそらくは先輩であろう相手に気をつかってのことなのだろうが、これに村井は構わないとみずからその場を離れるのだ。

でしたらば、わたしが用意しましょうか? そちらはあいにくとここには入りきらなかったので、この外に置いてありますから……」

「構わない。。この彼のでかい体躯たいくにあわせて作られているからなおさら……! ならば君はこのストレッチャーを邪魔にならないよう、この部屋の片側に寄せておいてくれ」

「わかりました」

「え、? じゃなくて? やだな、って何が出てくるの? あっ、おれ、もう降りたほうがいいですか??」

 病人よろしく担架の上に寝かされてはいたものの、別段どこにも異常はない。

 服を着ていないこと以外は五体満足でいつもどおりしているのだから、そう思わず聞いてしまうとかく根が素直な青年だ。

 それには無言で担架をみずからの背後の壁際へと移動させる女性監査官、神楽はてきぱきと配置換えを完了させる。

 ただそんな無愛想なさまでもちゃんとこの上にじぶんが乗っかっているのを考慮してか、慎重な手つきで移動担架ストレッチャーを動かすのを見つめる小宅田オタクダだ。

 それだから気まずげなさまでも、この股間のが反応しないようにと手のひらに圧を加えたりする。

 幸いしゃれっ気のないメガネでその素顔が隠されていたが、メガネを取ったらけっこうな美人なのかなと思わせる雰囲気があった。

 意識したらマズイのでただちに視線を逸らす童貞くんだ。

 一度殺風景な部屋から姿を消した男の自衛官とおぼしきは、またすぐにもとドアを開けて入ってくる。

 その時には両手に小型のストレッチャーみたいな台車をたずさえて、部屋の片隅かたすみに控えていた後輩の女性自衛官らしきをともないながら、このすぐ目の前までと音を立てて歩んでくるのだった。

 そのさまをただぽかんと見つめるのふとっちょくんである。

 怪訝けげんな眼差しを真顔のおっさんに向けてあぐらをかく。

 もはやきちんと正座だなんて馬鹿らしかった。

 そんな不作法者を気にするでもなくした当の中年、村井はみずからが持ち出したモノを指し示す。

、きみ用の専用装備はすべからくがこちらで用意してある。見ての通りだ。さあ、遠慮せずに着てくれたまえ」

「…………? え、なんスか、?? おれ、が欲しかっただけなんですけど? なんかやけにかさばるけど、これってみんななの? なんで??」

 見た目きれいに畳まれているが、きっと広げればなのだろう。

 おまけにこのじぶんみたいなの、たっぷりとしたボリューム感の。

 それにつき目元がだいぶ引きつり気味のいまだ全裸の青年に、男の背後から悪気もなくしたメガネ女子がさりげない説明をよこしてくれる。

 聞かされる側からしたみたいなヤツをだ。

。見ての通りで結構な税金が投じられていますが、気にせずにおしになっていただければ? この世であなただけの、まさにですから……!」

「あのぉ、ツッコミどころが多すぎてもはやまともに口を聞く気にもなれないんですけど、? このおれがここで寝ているあいだ? だからこんなマッパなの? この世にプライバシーなんて概念はもはやなくなったの?? ついでに人権とかも??」

 顔つきが苦み走るばかりのオタクに、すぐこの正面に立つ監督官がたちまち破顔はがんして応じる。

 ただしこちらも大概たいがい、ふざけていた。

「ハッハ、まさか、馬鹿なことを言わないでくれ! つい今のさっきで、こんな急に作れるわけがないだろう? モノは全く違うが、言うなれば空自のパイロットがジェット機に乗り込むような正規のフル装備のパイロットスーツだよ? 。そちら向きの! その際、のだから? よってあとは実働試験あるのみだ。さあ、まずはそのパイロットスーツの装着を。すぐにも実戦が控えているのだから!」

「この国はいつからこんなにぃ? 待って、これって着たらマジでヤバいやつなんじゃ? 着なくてもヤバいけど、おれはほんとにが欲しかったですぅ! で構わないからぁ!」

「いいえ、を投じてあるのだから、それはありえません。だからこそ監査官としてこのわたしも見定める必要があるので、、あなたもすみやかに装着を願います。これは言うなればです。そしてもう時間がありません……!」

 またしても男の背後からのメガネのおねーさんの、反論の余地がなくなるオタク、もとい小宅田オタクダは半泣きでうなだれる。

「はあぁっ、人生ってこんなにもあっさりと終わりを迎えるんだ。おれまだ若いのに! パイロットスーツって、おれはただのしがないデブのオタクですよ? てか、あんたらが言うって、そもそもなんなの???」

「いいから、まず着はてみたまえ。移動寝台ストレッチャーの上では危ないから、まずはここに降りて。着るのは簡単だから。最終的な目視のチェックをして、ただちにこの場を移動だ。現場は荒れているらしいからな!」

? 説明はなしっスか? てかこれ、ほんとにイカついな! マジでパイロットのスーツじゃん? いくらするの??」

 ただ真顔で見つめられて、しかたなく手にした装備品と向き合う青年だ。

 およそ、五分後――。 

「………………」

 このじぶん専用の装備品だという、やたらに重装備のパイロットスーツらしきものを、いやいやで着ることになるデブの青年オタク――。

 小宅田オタクダ 盛武モブは、あますところなくがっちりと固められたみずからのスーツ姿を見下ろして、言葉もなく立ち尽くしていた。

 正直、途方に暮れていた。 

 目の前のが言うとおり、着ること自体はそう難しくはないのだが、着た後が問題だ。確かにあらかじめだったとあって、着心地自体は悪くはない。むしろいいくらいだ。しっかりとなじんでいる。なんなら普段着?に欲しいくらいだ。いくらするんだろう? 

 もとい!

 気がつけばこんなわけのわからない格好をさせられてしまったおのれの境遇が謎すぎて、顔にひたすらに暗い影が走る青年だった。

 およそすべてが想定外過ぎる。

「…………? やたらにガッチリしてるんですけど? マジでガチのパイロットスーツじゃん! なんでおれが着てるの??」

 困惑の表情でおそるおそる目の前の背の高い中年男性を見上げるに、まるで感情が表に出ない自衛官? 村井は真顔で言うのだった。

、オタクくん、もとい、小宅田くん。加えてかくも協力的な姿勢を見せてくれて、まことに感謝する」

 

 内心で複雑な思いの小宅田は顔つきがなおのこと苦み走る。

 そんな本当に思っているのか怪しい限りの言葉に、と乾いた拍手が重なる。これも本気で思っているのかわからない、背後の若い女性自衛官のものだとわかるが、そちらには極力目をやらないようにして、正面の村井と向き合う囚われのオタクだ。  

「ま、まあっ、とりありえずを隠す必要がなくなったのはいいコトなんだよな? たぶんっ! でもなんかやたらにゴチャゴチャしてるけど、こんなのわざわざ着込む必要あるの? そもそもがなんなんだっけ……えっと……」

 おののいた眼差しを目の前に向けるに、平然とそこに仁王立ちする細マッチョの体格がいかにも自衛官してる村井は、ことさらに堂々と応じる。

 どこにも罪の意識はないらしい。おっかないこと。国家権力のなんたるかをまざまざと見せつけられる思いの小宅田こと、盛武モブだった。

「ふむ、どこにも支障はないようだね? アラート(警告)サインが出ないからこれにてだ。最後にいくつか質問はあったりするかね? 時間がないからそう長くはけないが、最低限度のQ&Aには答えよう。さあ?」

「えっ、ええ~~~? いや、わからないことだらけで、もはや何から聞けばさっぱりなんだけど、おれじゃないとダメなんですかね? この格好から見てわかると思うけど、おれ、さっぱり向いてないと思うんだけどなあ? ねぇ?」

 調

 そう言わんばかりにこのみずからのデブデブの身体をタプタプと揺らして見せる。だがこんな時だけ満面の笑みのおじさんときたら、文字通りオタクの言い分を即座に却下だ。

「問題ない。完璧だよ。オールグリーンだ。もはや君以外にありえない。税金もたっぷり使っている。わかるだろう? 逃げ場なんて、ない」

「はあっ、はああっ……! ほんとに泣いちゃうよ、おれ。あ、なんかって言ってしましたよね? それって……」

 半泣きで泣き言を言うデブ、もといモブに、忌々いまいましいことただちににもどる村井は、ひどく険しい眼差しだ。

「そのあたりについてはみだりに口にすることはできない。国家機密なのだから。むしろ実際に見てもらったほうがわかるのではないかな? の精神で君には何事にも邁進まいしんしてもらいたい。税金かけているんだから」

「うっさいな! おれはそんな金なんかひとつももらってないですからね! 実感ないし、だったらこのスーツ、こんなにガッチリ全身固めてるのに、なんですか? あとこの頭もさらしちゃってるし……!」

 目の前の台の上を探しても、頭にはめるメットや両手のグローブらしきはどこにも見当たらない。

 すると果たしてそこではじめて、かすかにたじろぐような困惑の表情をその顔に浮かべる監督官だ。

 そもそもでという響きも怪しくて仕方ないのだが、社会人で言ったらアブラの乗り切った働き盛りの中年オヤジは、さも口惜しげに何やらぬかす。

っ……! 申し訳ない。はじめに言っておくべきだったね? 残念ながら目下もっか、きみが頭にはめるヘッドギアはデザイン途上、もといでまだ少し時間を要するのだ。だが本来の運用にはさしたる支障はないだろう。今のところは……」

 聞こえだけはもっともらしげなのらりくらりした言いように、だが元からさしたる気がないモブは覚めた目つきでテキトーに聞き流す。どうでも良かった。なんなら逃げ道のほうがよっぽど聞きたい。

「へー……? じゃ、この手にはめるヤツもまだこれからなんスか? なんならそこらのホムセンあたりで売ってる、でいいような気がするんだけど?」

「いや、それでは傷つけてしまうだろう? きみの何より大事な、を……」

?」

 何の気なしに言ったセリフにことさらな真顔で返す村井だ。

 怪訝な顔で聞き返すモブの表情がさらに曇った。

 それまで黙ってことの成り行きを見守っていた若い女性自衛官、監査官の神楽が背後からこれをいさめるのがまるで理解不能だ。

。それ以上は、にも関わりますので……!」

っ??」

 あんたらなに言ってんの?

 はっきりとこの顔に不信感が表れているのを、まるで歯牙しがにもけない目の前の公務員は、おまけ涼しい顔で話を勝手に切り上げる。

。それではいざまいろうか。きみの戦場はこのすぐ側にある」

「いや、まだなんにも納得どころか理解もできてないんですけど? できたら呼んでもらえません? その権利あるでしょ、今のおれには? 間違いなく!」

「いいえ、なにぶんに多額の税金が絡んでいますから。国家権力の前には残念ながら……ごめんなさい。ですがこのわたくしたちも国民の血税がつゆと消えないよう、最大限のサポートをさせていただく所存です。国家を揺るがす災害への防衛は、わたしたち自衛隊が身命しんめいして立ち向かうべき最大の使命です」

「おれ自衛隊じゃないですぅ! まだ入隊してないしぃ! 何やるのかもまだ知らないしぃ! 車の免許すら持ってないしぃ!」

「大丈夫。すべてクリアしている。こうして。よってそのあたりの書類は後日送付するので、すべからく署名してこちらに返送、わたしに手渡しで構わないから持ってきてくれたまえ。で構わないから。しょせんは便宜上だ。それより戦場がきみを待っている。さあ……!」

「お、おれのって、ひょっとしてだったりするのかなぁ……!?」

 非情の監督官の言うとおり、彼の戦場はそこから歩いて、――。

            次回に続く……!

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Novel オリジナルノベル SF小説 コント ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉 ジュゲム file-02

アキバで拉致られババンバン♪ ②

Episode-file-02

 目を覚ますなり思わずを上げてしまった――のは、そこがまったく身に覚えのない知らない場所だったからであり、それまでの経緯がさっぱり不明で、かつ、見知らぬベッド?の上に正体もなく横たわっていたこのみずからが、あろうことかだったからだ。

 それは寒いのもしごく当然!

 パンツすらいてないすっぽんぽんの自身のは、小さくすくみ上がっているのが見なくてもそれとわかる。

 もとい、体型が太っているので位置的に見えなかった。

? ?? っ、!?」

 知らない灰色の天井から、この視線を真下に落とすとこの視界の中にが見て取れる。

 強い視線が感じられた。

 無論、知らない人間だ。

 おそらくは仰向あおむけに横たわるおのれを間近から見下ろしている。

 あいだにじぶんをはさんで左右に分かれて立つ内の、すぐ左手に立つのが男で、ちょっとだけ距離を置いた右手にいるのが女性の影だとその細いシルエットから理解できた。

 そう広くもなさそうな薄暗い室内で、ぼんやりしたふたつの影が、こちらを……!

「だっ、だっだっだ、っ!? え、おれなんで! !? てか!!?」

 完全にパニックにおちいっている素っ裸すっぱだかの青年に、対する二人の謎の人物はしごく落ち着き払ったさまで応じてくれる。

 その冷静なありさまも含めてびっくり仰天の彼を見ながらに言うのだった。

「お、ようやく目を覚ましたな? ふむ、いささかのようだが、まずは鎮静剤ちんせいざいでも打ったほうがいいものかな? このオタクくんは……」

!? ナニ言ってんの? てか、そもそもでなんだって!? !!」

 のっけっからただならぬ気配と危機感に仰向あおむけのままで身体を硬直させる青年だが、それをもう一方から見つめる細い人影が静かにいさめる。

 ただし言っているのはじぶんにではなくて、むしろこの間近に立つ男にであるようなのに、ちょっとだけ心拍数が下がった。

「いえ、その必要性はないものと思われます。、あまり強行な手段はみだりに講じないように願います。職務とは言え、後々にだと疑われる行為は、見過ごすわけにはいきませんので……!」

「わかった。留意りゅういしよう」

! 待ってよ、ここどこっ、なんでおれはなの!? おじさんさっきから真顔で怪しすぎるって!!」

「あとちなみに、わたしはおじさんではない。その点は留意してもらたいな。こう見えてちゃんとしたがあるんだ。つまるところでそう、オタクの特任パイロットの、 〈オタクダ・モブ〉くん、きみと同じでな?」

「オタク?? え、おっ、お、? なんで?? まったく知らないおじさんなのに? あと、そっちは??」

 当たり前みたいな顔でズバリ、おのれの名前を言い当てられてしまい、ひたすらキョトンとするまだ若い男子は、こわごわとふたりの大人たちを見上げる。

 およそ三十代半ば過ぎの男と、もっと若いお姉さんぐらいかとだけ認識して、それ以上は思考が停止していた。

 この見た目の格好からだけではそれが何とは判別できない。

 しがないフリーターであるじぶんとはまるで別世界のお堅い仕事柄の格好であることだけは予想がついたが……。いかんせん、普段からスーツ姿の仕事人とは会うこと自体が希な職域で生きながらえているこのじぶんだ。

 相変わらず真顔のまじめな社会人らしき人間たちを目の前にして、ちょっと引いてしまう情けのないじぶんを、こんな時にも意識してなおのこと身体が硬直する。

 それに……?

 とみずからのありのままの姿を改めて見るにつけ、ギョッとして跳ね起きて仰向けからただちに正座へとこの姿勢をただす。今さらながら。

 それまですっかりけっぴろげにしていた、このみずからの股間を両手でしっかりとガードしながらだ。

 そう、特に右隣のお姉さんの視線から……!

「あっ、あっ、ああ! !! ひいっ、もうやだよっ、こんなカッコで!? おれどうしてなの? おれなんか悪いことしましたっけ!!? あとこのおじさん返す返すも誰ぇ??」

 半泣きでパニックしながら涙目で見上げてくる若者に、ちょっとだけ困り顔になる中年の男は、咳払いして鷹揚おうように応じてくれた。

 悪い人間ではないのだろうか?

 この状況ではなかなかに判断がしがたい。

「おほんっ! まあ、気持ちはわかるが、少し落ち着きたまえ……! 見ての通りで、わたしは怪しい者ではない。とは言え一口ひとくちには説明がしがたいので、この場ではあえてはぶかせてもらうが、とりあえずとだけ答えておこう」

 しれっとした語り口で何やらやけに都合のいい申し開きに、どこにも合意なんてものができない裸の青年はひどくいじけた物言いになる。

 できたらパンツが欲しかった。

「えっ……は、省いちゃうんですかぁ? でもおれからしたらぁ、一番知りたいことなんですけどぉ……! それになんでマッパなのかぁ、さっぱりわからないんですけどぉ、これも省かれちゃうんですかぁ? あとそっちの若いお姉さんの視線がぁ、すっごく気になるんですけどぉ……!!」

 みずから村井と名乗る男のことよりも、むしろ右手に立つ女子のことをよっぽど気にしているような青年の返事に、やや肩をすくめ加減の中年男性だ。

 仕方もなしにおのれの正面へと視線で何やら促すのだった。

 するとこれを了解した当の若い女子が、落ち着きはらったさまでみずからの口を開く。

「ごめんなさい。驚かせてしまったのならば、この通り謝ります……! ですがここはれっきとした国の正規の施設で、詳しいことは省かせてもらいますが、あなたの身柄は安全に確保、もとい、保護されています。ですからどうか安心して、そんなに緊張しないで……」

「やっぱり省かれちゃうんだ? この状況でそれは無理というものでは……なんかマジで泣きそう……!」

 がっくりとうなだれるのに、男がまたまじめな顔でもっともらしげなことを付け加える。

「そんな状態でなんなのだが、君の安全は保証する。我々に関しては機密事項が多いのでそう多くは語れないのだが、とりあえず、とだけは明かしておこう。どうかな、少しは納得ができたかね?」

「え、? それってまさか、あの、……みたいな?」

 めちゃくちゃどん引きしていた青年の青い顔が、ついには驚きにより真っ白へと変わる……!

 泡食ったさまで男へと向き直った。隠していた股間がおろそかになるほどの動揺ぶりで正座の姿勢が崩れてしまう。背後にどっと尻餅ついて、うわごとを発するようにわめくのだった。

「そっ、それっていわゆるでしょう!? 昨今のSNS界隈かいわいで話題が持ちきりの!! マジでヤバいじゃんっ、おれ、このまま行方不明でどうにかされちゃうの!? とか、とか!?」

 寒さだけではなしにガクガクと震えるのに、対してこれを見下ろす男は、いまだ落ち着いたさまでかすかにため息をつく。やれやれとでも言いたげにかぶりを振って、ぬけぬけと言い放った。

「……フフ、さすがはオタクくんだな? 情報がかなりかたよっている! きみ、それは世間一般に流布るふされるそれこそというもので、実態はまるで別のものだ。当然だろう? まあ端的たんてきに言ってしまえば、! どうだ、納得がいったかね?」

「なおさらヤベーじゃんっっ!!? あ、わわわっ!! 見ないで!!!」

 たまらずに大股おおまたおっぴろげてがなってしまうのに、もう一方の無言の女子の冷たい視線に慌てて太った身体を縮こまる。相手はメガネ越しでこのレンズの反射具合では視線の向きが定かでなかったが、今のはもろに見られていたはずだ。

 こんな真っ裸ではこのちんちんどころか尻の穴まで見られかねないと、うめくような泣き声が漏れ出た。

っ……! ひととしての尊厳が保たれないよっ、こんなんじゃっ!? まじめな話なんてできっこない、てか、これってまじめな話し合いなのっ!!? まずは服を返すところからはじめてよっ、あとおれのおサイフとかケータイとか、人権とか、んですけどっ!!?」

 悲壮な表情を男へと向けると無情な真顔の自称、監督官、ないし自衛官は覚めた調子で答えるばかりだ。

「無論、まじめな話だよ。きみの衣服や所持品についてはちゃんとしかるべき場所に保管されているはずだ。おそらくは。あいにく我々の領分ではないのでしかるべき人間に掛け合ってもらいたいのだが、。心配はいらない」

「…………って、こういうコトを言うんだ? おれもうんでますよね??」

 意気消沈して傍らのお姉さんに目を向けるに、相手は気の毒そうに無言で静かにこの顔を逸らした。本気で救いがない。そんなところに男がを畳がける。どうやら厄日みたいだ。

「話を本筋に戻そう。意味もなくこんなことになっているわけじゃないのだ。我々の目的は、そんなうさんくさい都市伝説やネットの風説とは無関係な、実社会に基づいたあるべき社会活動なのだから。ではそれにつき、、きみも聞き及んでいることだろう?」

「? なんのことですか? おれ、どっちかっていったらオールドメディアよりもネット派なんですけど?? まずこの状況をどうにかしようと思わないんスか? おれいつまでハダカなの?? じゃあもうこの隠さないスよ?」

「隠さなくていい」

「ダメだろっ! すっかりパニクって興奮しちゃって、アソコがひとさまに見せられないくらいに暴れちゃってるんだからっ!! おねーさんはできたら部屋から出てってくれません? せめて背中を向けるとか??」

 懇願こんがんする青年に、真顔で見下ろすあまり見かけない色合いのスーツ姿の女子は、にべもなくこれを完全拒否の構えだ。

「ごめんなさい。それはできないの。わたしにはとしての職務がありますので。申し遅れました。あまり多くを語れないのですが、わたくしは監査官の神楽かぐらとだけ名乗っておきます。今はそれだけで、徐々にこの壁を埋めていきましょう」

? があるんスか、まあそうか、こんなだもんね? おれ……」

「話を戻そう。ネットでも話題は尽きないはずだから、お互いの認識はそう違わないはずだ。君の今後にも大きく関わる……!」

「おれのはなしはマジで無視なんだ。もうどうでも良くなってきた。監査官てちんちん見るのが仕事なんですか? その真顔はマジでキツいです。見せたらプレイになっちゃうからおれの尊厳がどうにかなっちゃう! ただの変態じゃんっっ!!!」

 もだえるマッパを見下ろして監督官と名乗る男は真顔で言い放つ。

……! この言葉はすでに聞き及んでいるだろう?」

 まったく浮かない顔で応じる青年、このまわりからオタク呼ばわりされる小宅田はちょっと不機嫌に文句を垂れる。

「それこそじゃんっ! よくわかんないイタズラとか凶悪犯罪とか、いろいろと頻発ひんぱつしていて、警察が苦戦してるのは知ってるけど、犯人も動機も原因もまるでわからないんですよね? むしろあえて隠してるみたいな? で、そこにとうとう自衛隊までもが関与し出してって……それで今のこれなの?? うそでしょ」

「きみがオタクで良かった。じゃ、そういうことで、さっさと話を進めさせてもらおう。何だね?」

 奈落の底に突き落とされたみたいな絶望の表情で見上げてくるオタクにどこまでも無表情に相対あいたいする無慈悲の監督官、村井だ。

「ああっ、おれ、マジで詰んでる! 返す言葉が見つからないよ、ムリだって……おねえさんにも見られてるし。ああ、でもちょっとだけ落ち着いてきたから、せめて言えることだけ言っておこう……! あのっ……」 

 いっそ泣き崩れてやりたいくらいの心持ちをどうにか立て直して、自称・自衛官にすがるような眼差しで訴えるのだった。

 せめて一言――。

っ……!」

 風邪ひいちゃうと涙ながらの訴えに、果たして男は無言でうなずくのであった。

 めでたく合意がなされたでも言いたげなのに、とつもない不安が押し寄せるオタクの青年なのだった――。 

         次回に続く……!

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DigitalIllustration Novel オリジナルノベル SF小説 お笑い ファンタジーノベル ワードプレス 変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉ジュゲム

デブのオタクがある日いきなり拉致られて、国を救うロボのパイロットにされちゃいましたw 誰か助けて! 動力がエロでアレを強要されてます!? オナニックバトルヒーロー爆誕!!!

 ひどいなwww  とにかくやっていきます。
 かなりきわどい下ネタ強めのおふざけお下劣ギャグノベルになりますので、そういったものが苦手な方はスルーでお願いします。ワードプレスないし、グーグル・アドセンスのコンプライアンスに引っかかるようになれば、おのずと自粛されるコンテンツとなります。たぶん、大丈夫だとは思われますがwww
 ちなみにこちらはいわゆるドラフト、下書きで、完成品は小説家になろうなどの投稿サイトで公開したものが完全版となりますwwwwww
 ちなみにファィル03まではなろうで組んだ本文をそのままこちらに移植したもので、うまいことルビと傍点が振られていますが、04以降はルビや傍点なしのベタの文章となります。従ってこの誤字脱字もそのままでありますが、ご容赦くださいm(_ _)m
 なろうのほうでは修正済みですwww

変態機甲兵〈オタク・ロボ〉
    ジュゲム

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Episode01
アキバで拉致られババンバン♪

 Episode-file-01

 暗かった。

 そこは、ただ、ひたすらに……!

 そんな暗い中に、どこからか、が、響いていたか……?

〝あれ、暗いな……? おれ、どうして……?〟

 うすらぼんやりとした意識の中で、ただぼんやりと考える。

 だがまるで考えがまとまらない。

 そんな中、どうしようもなくして、まわりのだけに耳を澄ました。

 どこか遠く、かすみがかった声が、何かしら言っているのだけはわかったから……! 

「…………くん、見たまえ……! これが……だ。どうだ……見るのは……かね?」

 どうやらの後に、今度はがするのがかろうじてわかった。

「…………はい。はじめて……ました。これが……実物の……なのですね……!」

「そうだ。これぞ……純度100%の……だ! そう……しかし……こう見るとやけに……」

「ええ……そうですね……! ちょっと、してきました……だって、……の……を、正直、……なので……!」

 ところどころにしか聞き取れないが、何を言っているのかさっぱりなのに、ぼんやりした中でもはたと首を傾げる。

〝え、なに……? なにを、言っている、の……??〟

 暗闇の中に、なぜか急に肌寒さみたいなものも感じはじめる。

 ちょっとずつ、この身体の感覚みたいなものも覚えはじめて、冷たくて硬いものが背中に当たるのも意識する。

 ベッドにしてはやけに無機質で真っ平らだったが……?

 何がなにやら、ほんとうにさっぱりだ。

 ぼんやりとした中でまわりの声がやけに鮮明に聞こえる。

「そう……見ての通りで、個体としてはまだ若いな。? さいわいにも。へんにトシを食っていると何かと気をつかうから、このくらいが丁度ちょうどいい!」

「……そうなのですか? なにぶんにはじめてなので、さっぱりわからないのですが……やっぱり若いほうががあったりするのでしょうか?」

「もちろん! そう、特にが……! まあして知るべしだ。ただなにぶんにみたいだがな、この個体のは? とりあえずであれば問題ないのだろうが」

「はい……、のですか、って? いいえ、なにぶんにはじめてなのでなのですが、でしたらそのように心得ておきます」

はこの程度で、はそうでもないのだろうかな? あまり期待はできないが、望ましくはそれなりのであってほしい。せめてな?」

「はい。でもいいんですか、こんなにと見てしまって? いくら意識がないからと言って、いささかプライバシーの侵害のような……」

「構うまい。じきに目を覚ますさ。それまでにしっかりと検分けんぶんしておけばいい、君はそれが職務たるなのだから?」

「はい。そうですね……」

 いまだぼんやりした頭の中に疑問符ハテナ渦巻うずまく……!

〝え、なに? 何を、言っているの? って……?〟

 やけに寒く感じるこの身体に、何故か間近から視線のプレッシャーのごときものを感じる。

 特にそう、この下半身、しかもそうだ、まさにのあたりに……?? 

 それから続く男女の会話に、いよいよ頭の中が混乱を極める。

「それで、その、が重要なとなるのですよね? でしたらこちらは、学術的には、どのように呼称すればいいのでしょうか?」

「……ん、とは?」

「その、ですから、この場合は、いわゆるその……と、その……と称するのが妥当なのでしょうか? はどちらになるのですか、両脇の球状のふたつと、都合この真ん中にある、いびつな形状のひとつのものと?」

「ん? 本体は、この当の本人、この個体、となるのじゃないのか? 呼び方は、もうフツーに、ないし、もしくはとかでいいんじゃないのか? こんなもの!」

「はあ……ち、……! ちん…………!!」

 何やらためらわれがちな女性が息を飲む気配に、なんだか非常に気恥ずかしい感覚を覚えて、自然とこの手が股間のあたりにゆく。

 まさしくそのものを手のひらに感じて、おぼろげだった意識が急激に覚めてゆくのを自覚――。

 すっかり小さくなっていた。

〝ちんちん? ちん……ぽこ? チンポコ!?〟

「なっ! は、わっ、わああああああっ!?」

 パッと意識を取り戻す彼は、だがその場の状況がわからずに目を見張ったきりにしばし硬直してしまう。

 絶句すること、およそ十五秒……!!

 たっぷりの間を置いて、またと絶叫を発する。

っ、っ!!?」 

 めでたく覚醒するのであった。

             次回に続く……!

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仕切り直しだ!

昨今、もろもろ都合が変わってきたので、創作のやり方をちょっと整理します(^o^)

現在、この自前のブログ、小説家になろう、ハーメルンでオリジナルノベルを公開しているのですが、考えないでやってるとおかしなことになりそうなのでw ちゃんとやり方考えようwww

〇自前のブログ
・オリジナルのSFノベル「ルマニア戦記」本編とスピンオフ
・オリジナルのファンタジーノベル「オフィシャル・ゾンビ」
・機動戦士ガンダムの二次創作「俺の推し!」


〇小説家になろう
・「ルマニア戦記」
・「オフィシャル・ゾンビ」
・オリジナルのSF お下劣ギャグノベル「ジュゲム」

〇ハーメルン
・機動戦士ガンダムの二次創作「俺の推し!」


………基本はこのブログで執筆したものを、各投稿サイトでさらに加筆修正して公開。ジュゲムだけは小説家になろう発進。

 なろうとハーメルンはルビや傍点を振れるからより読み物としてそれらしくなるけれど、編集機能がクセがあったり文字がちいさかったりとおじさんにはちょいちょい厳しい側面があるので、創作のメインはブログで、厳密には下書きはブログでやって、清書、完成版は各投稿サイトで最終調整……あ、おんなじかw
 なろう発進でやっているジュゲムも内容にかなり難があるけれど、ブログのコンプライアンスを超えない限りにおいては、こちらで創作したものをなろうに下ろす!

 プライオリティ、優先順位をつけよう!

〇メインのコンテンツは「ルマニア戦記」
 その次に「ジュゲム」、ルマニア戦記の外伝・「オフィシャル・ゾンビ」 ※なろうで一番需要があるものを優先。
 ハーメルンでやっている二次創作は、需要が出てきたら再開するくらいで、一次中断?

 創作ライブはニコニコ生放送からユーチューブライブに切り替え、各ノベルの主人公やメインキャラをナビゲーターにする!
 ブログとなろうの広告収入?で稼げるのが理想なのだけど、ライブやライブアプリのちからにも頼って、合わせ技で一本まで年内、ないし年度内に持って行くほうこうで……?

 

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DigitalIllustration SF小説 ガンダム ファンタジーノベル ワードプレス 俺の推し! 機動戦士ガンダム

俺の推し!③

ガンダム二次創作パロディ!ドレンが主役だ!!

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「機密宙域/難民コロニーの謀略」

謎の攻撃・軍事衛星の怪……!

 Scene1


 緊急事態発生!

 それはまったくの予期せぬ出来事であった。
 この知らせを受けた時、まだ自室でまどろんでいたこの俺だ。 

 シャア艦隊旗艦付き副司令、その名をドレン。

 そう!

 ひとから語られるほどの名はなくとも確かな働きをする右腕として、推しの少佐、シャア・アズナブルそのひとからは、確かな信頼を得ているものと自負するおじさんだ。

 まあ、たぶんだが……!

 ことの一報を受けてから、ものの五分でブリッジまで復帰したこの俺の視界に入ったのは、スリープモードからゆっくりと立ち上がるブリッジの景色と、まだまばらなクルーたちの人影だ。

 艦橋中央の高い位置に据えられたキャプテン・シートにはいまだ主の姿はなく、中央戦略オペレーターもこのひとりが席につくくらいか。

 フロアを強く蹴ってブリッジ奥の入り口から、おのれの定位置であるMS作戦指示ブースへとひとっ飛びで取り付く。
 MSの作戦行動における補助を担う特設の指揮所ブースは、この真横に付ける操舵士のそれとほぼ一体だ。
 そしてそこにはすでに若い大柄な若者が、仁王立ちしてこの年配の副艦長を最敬礼で迎えてくれる。

 いやはや、寝坊なんてしたことないんだろうな!

 勝手に感心しつつはじめ無言で敬礼を返す俺は、この若い操舵士が温厚でひとのいいのにつけ込んで頼み事をしてしまう。 

「早いな! だが今現在、エンジンは微速前進、ほぼ止まっているんだろ? 舵は俺が握ってやるから、悪いがひとつ頼まれてくれないか? もちろん、少佐の許可は得ている!」

「……!」

 この真顔でのお願いには、すぐさま太い首をこくりとうなずかせる下士官の操舵士だ。
 もとい、はじめちょっとだけ困惑の色を太い眉のあたりに浮かべたが、さてはこのおじさんに舵を譲るのが心配だったのか?
 バルダはみずからの舵取りを手早くオートに切り替えて、その場を駆け足するかのように俊敏に無重力をかき分けていく。
 途中ブリッジに入ってきた少佐に敬礼して、即座にその姿を消した。
 だがすぐに帰ってくるだろう。
 ちょっとしたオマケを引き連れて――。

 一方、真紅の衣装を華麗に着こなす仮面の貴公子は、どこにも無駄のない身のこなしでみずからの身をブリッジ中央の艦長席に沈めると、高くから周りを睥睨する。

 仮面に邪魔されてその視線の先までは追えないが、優雅でもきりりとスキのない眼差しでこの場のすべてを掌握しているのだろう。

 ただちに背筋をピンと正す俺は、ビシッと敬礼を返しつつ少佐からの指示を待つ。こちらに視線をくれているらしい我が推しは、かすかに細いアゴをうなずかせて無言で了解してくれる。
 あえて声に出さないのが彼らしくクールだった。

 くううっ、シビれる!! シビれます、少佐っ!!

 その若き将は一部のスキもないさまでブリッジ内の空気を凜と震わせる。張りのある低音はよどみもなくひたすら心地よくこの耳に響く。俺の気のせいじゃないだろう。

「状況は? 偵察のザク隊が被弾したとのことだが?」 

「は、はっ! 三番艦からの報告によりますと、三機編成の偵察部隊の内一機が何者かの攻撃により中程度の破損! 幸い撃墜にまでは至らず。現在は全機帰投、この収容を終えているとのことです。パイロットに目立ったケガはなし!!」

「そうか……! ザクとは言え大事な機体なのだが、これ以上の戦力ダウンは避けたいものだな? 対処は貴様に任せる。敵の詳細は?」

 半ばから背後に振り返って、そこで僚艦との通信にいそしむ戦術オペレーターに話の続きを振る少佐だ。

 良かった。さすがわかってらっしゃる!

 取り急ぎブリッジに上がったばかりでまだすべてを把握できているわけでないこの俺は、ふうっと胸をなで下ろして、ただちにみずからの任務に取りかかる。
 こちらはこちらでやることがあるのだ。
 よって、さっきより背後のブースからぶうぶうと文句を垂れている、真っ黒いヘルメット野郎に迷惑げな視線を向けた。

 うるっせえな! 空気読めよ!!

「わかってる! そっちはもう出せるのか?」

 やや不機嫌に聴いてしまうが、あちらも負けず劣らず不機嫌に返してくるヒゲづらのエースパイロットだ。

「とっくだよ。さっから言ってるだろう? さっさと発艦許可を出しやがれ……!」

 ひどいむくれっ面でぞんざいなモノの言いに内心で舌打ちする俺は、背後の少佐をちらと伺う。
 まだ声をかけずらいタイミングだなと察してまた前に向かった。リック・ドム小隊の隊長機、ガイアに確認!

「今回は単機での出撃だが、敵の詳細はいまだ不明! マッシュとオルテガ機は艦隊の守備の都合、出すわけにいかんのだが、待機だけはさせておくか?」

「かまわねえよ。寝かせておけ。そもそもが三番艦のザク隊どもの不始末だろう。ならこのオレだけで十分だ……!」

「了解。ただし油断はするなよ? 無理に交戦をする必要もない! 三番艦からはきっちりとフォローを入れさせる!」

「いらねえだろ。足手まといはいたところで余計な世話が焼けるだけだ。この09のスピードに付いてこれもしねえのろまどもに用はない……んっ」

「ゼロキュウ……ああっ」

 相手のセリフの一部に引っかかって、すぐさまこれを理解する俺は内心どころか現実に舌打ちしてしまう。イラッっとして。

 いやだから素直にドムって言えよ! このガノタが!!

 モニターの中のMS隊長に内心で毒づきながら、そのヒゲづらが何やら怪訝にこっちを見返しているのに気づく。

「どうした?」

「いや、隣にいるはずのあの目障りなのがいねえな? いっつもちょくちょく横から顔を出してきやがるのに」

「目障りってなんだ! いいや、それならもうじき帰ってくるだろう……ほら、来たぞ?」

「……ん、なんでそいつがそこにいるんだ??」

 ちょうどいいタイミングで戻ってきた操舵士と、それに連れらてブリッジに上がって来た見知った人間の顔に、なおさら怪訝にモニターの中で眉をひそめるリック・ドム隊隊長だ。
 確かにヤツが不可解に思うのも無理はない。
 本来ならブリッジにいるはずなどがない他部署のクルーだ。
 正規のブリッジクルー以外がこの艦橋に立ち入ることなど、およそ許されることではないのだからな……!
 だからこそ目を丸くしたガイアが問うてくる。

「なんでおまえがそこにいるんだ? ついさっきまですぐそこでこの機体の発艦準備してただろう??」

 ガイアたちリック・ドムの整備専門のエンジニアで、つまりは黒い三連星専属となる若いメカニックマン、デーミスの存在が不思議でならないらしい。
 俺はにんまりとほくそ笑んで応じる。

「今回だけ特別だ! おそらくは? もろもろの都合で、そこのバルダに連れて来てもらった。いわゆるオブザーバーというヤツだな! 専門的なメカニックの知識を持った人間がいたらどうなるか、なかなかに興味深いだろう?」

「なんだそりゃ? あまり期待はできねえが、好きにすればいいだろう。それよりも発艦許可! いつまで待たせるんだ?」

 ちょっと呆れた感じでありながらとりあえず納得した風なガイアを前に、借りてきた猫みたいに大柄な身体を縮こまらせるブサイクくんは所在なげにその声をか細く震わせる。

「じ、じぶんはここにいて良いのでありましょうか? す、すんごい浮いてる気がします……!」

「浮いているさ! だが気にするな! いいんだよ、我らが少佐も認めてくれているんだから!」

「しょ、少佐っ……!!」

 おっかなびっくりで周りの様子を見ているデーミスは、この背後に視線を向けてなおのこと挙動不審に陥る。
 しまいには横からバルダにどうどうと背中をなでられてた。
 こっちのほうがいくぶんかお兄ちゃんの先輩なんだな!

 横合いからMSの通信オペレーターが少佐に声を発する。
 さてはしびれを切らしたガイアが催促したな。

「少佐! ガイア大尉のリック・ドム壱番機が本艦からの発艦許可を求めています!」

 するとこれには背後の艦隊統御オペと会話をしていた少佐は、こちらに仮面のクールな面差しを向けて静かに言うのだ。

「ドレン、そちらは貴様に任せていたはずだ……!」

 あ! 俺は内心の焦りを顔には出さずに静かにメットをうなずかせる。メットのひさしで相手からの視界を遮るかたちにだな。

 おっと、そうだった! いかんいかん!!

 周りの若い部下たちにも悟られまいとやたらにはっきりと腹の底から声を絞りだして高く号令を発する!

「ガイア機、ただちに出撃せよ!!」

 手元のディスプレイでは何か言いたげなリック・ドムの隊長どのが真顔でこっちを見ていたが、目をあわせないようにまっすぐブリッジから臨める夜空をひたすら凝視する。

 何やら小さなため息みたいなのが聞こえたか?

 無視する俺に感情のない棒読みの返事が返る。

「了解」

 リック・ドム出撃!

 おおっ!と子供のように目を輝かせるデーミスの肩のあたりをがっちりと掴んで、おまえの推しの活躍をしっかりとその目と脳裏に刻み込んでおけよ!とひたすら強く念じる俺だった。

 暗闇に走るロケットブースターの長い軌跡を目で追いながら、ぽつりとつぶやきもする推し活おじさんである。

「ああ、こんな特等席で一番のファンが応援しているんだから、ちゃんとファンサしろよ? 黒い三連星のガイアよ……!」

 たった今、戦いの火ぶたは切って墜とされた……!

Scene2

 PartA


 ガイアのリック・ドムが旗艦から出撃して、当該の宙域地点にまで到達するのにはさほどの時間はかからなかった。

 ひたすら一直線の軌道の先――。


 そこは本来は何も目立ったものがないはずのいわば宇宙の公海上なのだが、一番機の各種レーダーにもこれと目立った反応らしきはなし……!
 それをこちらの戦術パネルの観測計器表示でも視認しつつ、息をひそめてことの成り行きを見守るふたりの若い兵卒と、遠くの現場のベテランMSパイロットへとも向けて静かに問いかける。

「ううむ、標準宙海図の座標軸上ではそこが我が方のザク隊が襲撃を受けた交戦ポイントとはなるのだが、それらしい標的はこれと見当たらないな? 敵対的な意思があるのはほぼ確定だから、それらしい形跡があっても良さそうなものなのだが……?」

 巡洋艦の索敵レーダー網にも、MSの各種レーダーにもやはりさしたる反応がないのに不可解に思うこの俺、ドレンだ。
 まさか二度も不意打ち食らうまいと目を皿にして計器類を凝視するに、スピーカー越しに小型モニターの中で冷めた顔したヒゲのおやっさんが憮然と返してくる。

「ま、見ての通りだ。動体センサー、熱源反応、各種レーダー波長これと変化なし。とどのつまりで、何もねえな?」

 みずからのヘルメットのバイザーをオープンにして素顔をさらしてくれるヒゲづらのエースパイロットは、浮かないさまでじっと視線をこちらのカメラに向けてくれる。

 その視線をカメラのモニター越しに受けて、思わず思ったことをまんま口にしてしまう俺だ。

「そうだな! ……ん、ところで、おまえの今のそれってのは、ファンサか?」

 絶賛警戒態勢中なのにわざわざメットのシールドを全開にして表情がわかりやすいようにしているのが、あえて見ている側を意識してのことなのか?

 いかんせん偏光バイザーで目隠しされたメットではパイロットの表情が分かりづらい。ここらへん、当人からしても息苦しいから極力下ろさないなんてヤツもいるらしいから、さしたる意識はないのかもしれないが……どうなんだ?

「は? 何を言ってやがる? まじめにやれ。ま、このオレの勘からしたら、少々きな臭くはあるがな? やけに静かなあたり。あとしいてひとつ言うのであれば……」

 違ったか。しごく納得しながら歴戦の凄腕パイロットの言葉に耳を傾ける。周りの操舵士とメカニックもごくりと息をのんだ。

「ここから見て11時やや上方の方角、アステロイドでもなんでもない、でかい宇宙ゴミがいくつもあるだろう? コロニーの残骸みたいな? だが植民地サイドでもなんでもないこの宙域にこんなものがあるのは、オレからしたら違和感でしかない。よそから流れ着いたにしても、ゴミの構成自体が不自然だ……!」

「そうなのか? ザク隊のドライブレコーダーのデータでは、どれもすでに存在していたオブジェクトだが。攻撃自体は真裏の反対側、背中から攻撃を受けている! それでも関係があると?」


 俺の問いかけに、周りの若いヤツらもまた神妙な顔つきでモニターの中のヘルメットに注目する。するとそんな視線を邪魔っけに思ったのか、ヘルメットのバイザーをしれっと下ろして意味深な口ぶりするリック・ドムの隊長さんだ。

「ああん、それじゃ、試しにやってみようか? 無駄ダマ撃つのは気が引けるが、こいつがきっかけになるかも知れない……! そっちもモニターを怠るなよ?」

 タタタタタッ、ダン!

 手早い操作でみずからのMSに攻撃シークエンスをたたき込むガイアだ。どうやら肩に担いだジャイアント・バズーカを任意のポイントに向けて射撃するらしい。

 さては話にもあった例のでかい残骸にか?

 幸いにも当該の宙域はミノフスキー粒子の濃度が低いために、通信にはさしたる障害がない。 
 リック・ドムからの解析データをまんまで受け取れていた。

「そおらよっ!!」

 ドオンッ!!

 真空の宇宙空間ではそもそも伝播する空気がないから音は伝わらない。発射時の派手な発砲音は当然マイクに拾われることはないのだが、この振動を受ける機体の揺れとコクピットの空気を伝ってかすかなそれらしきものが、画面越しにも見て取れたか?

 固唾を呑んで見守るこちらは無言になるが、バイザー越しのドムのパイロットはメットの中でニヤリと笑ったようだ。

「当たりだな……!」

 言うが早いか、自機のセンサーが警告を発するよりも早くに機体に回避機動を取らせる凄腕のパイロットだ。

 決断が早い!

 この俺あたりからすれば、神業みたいな手さばきでレバーとスイッチを指先の感覚だけでまさぐり機体の姿勢を制御しつつ、間髪入れずに足下のペダルを限界一杯まで踏み抜いた!
 股の下から掴み上げた操縦桿を胸元一杯まで引き上げる!
 背中のロケットブースターを全開にしてフルスピードで宇宙の虚空に大きな弧を描くリック・ドムだ。

 片や、突如としてレーダーサイト内に現出した熱源反応から立て続けに吐き出される一陣の烈風!!
 こちらからは荒いモザイクのかかった何かしらの塊の連なりとして映るが、それが音速の何倍もの速さで斉射された弾丸の軌跡だと理解するのは、一瞬のタイムラグの後のことだ。
 軍人ならかろうじて理解が追いつく。

 行く手を阻む大気(空気)の障壁がないから、威力もスピードも減速減退なしで迫る鋼鉄の銃弾である。
 だからこそこれを事前の回避行動もなしに避けるのはしごく困難、その上でかすりもさせずにまた元の位置に機体を静止させるのはさすがだな!

 無謀に突っ込むこともなく、ピタリと止まった機体のレーダーを前方の敵影に向ける余裕と胆力もまたさすがだ。
 それきりにただ黙ってこちらからの回答を待っているのが小憎らしいベテランに、モニターに表示される観測データを読み取る俺は頭をフル回転させながら声を絞り出す。
 ぶっちゃけ、ちょっと後悔していた。

 しまった! マッシュの二番機も付けておくべきだったか?

 敵機情報の収集解析が得意な偵察支援機タイプならば、もっと正確な一次データが取得できたのだが……!

「ガイア機、何者かと会敵、ただちに戦闘状態に突入!」

 状況を高らかに宣言することで、ブリッジ内の緊張感が高まる。すぐ隣でパチパチと目を見合わせる若輩者たちに焦るなよと目配せして、モニターの中で冷静にこちらを見返す黒いヘルメットに返す俺だ。

「MSではないな! 連邦の機体のマシンガンではどれも適合しない威力推定値と連射速度ならびに弾数だ。より大型の戦艦クラスの機銃カテゴリーに相当! おそらくは……!」
 
 正面の作戦図表ディスプレイの中で、今しもゆっくとりその形が特定されてゆく未確認オブジェクトを凝視。
 そのいびつな形状の敵影に言葉を失う俺だった。

 コイツは、どうして……??

 頭の中が疑問符で一杯になるが、答えは闇の中だ。
 不気味な沈黙の中に、短く舌打ちが響く。
 ふたたびヘルメットのバイザーを開けたエース級のパイロットはやはり厳しい表情でそれに見入る。

 察するに、この胸の内の思いは同じようだな?

「なんかめんどくせえのが出てきやがったな? 意味がわからん。こんなご丁寧に偽装して、目的不明もいいところだ……」

 もやもやした思いをはっきりと言葉にしてくれる。


 これに俺もただうなずいていた。


 ことここにおよび、前回の連邦部隊と同様、厄介な敵が立ちはだかるのをはっきりと理解する、おじさんたちなのだった。



Scene2

 PartB


 航海宇宙図(スペース・マップ)上では何もないはずの宙域で、突如としてこの行く手を阻む、敵対的な謎の存在……!

 これに単身で挑んだ黒い三連星のガイアのリック・ドムの前に現れたのは、所属不明の攻撃型軍事衛星であった。
 ドムからのリアルタイムの情報解析により、このおおよその形が雑なワイヤーフレームで描き出されたディスプレイの図面に、みんなでしげしげと見入ってしまうブリッジ組の俺たちだ。

 それはあまりにも意外なものだった。

 よって通信ディスプレイの中のヒゲづら、現場組のガイアも渋い顔つきでそれを見ながらに舌打ち混じりで言うのだ。

『なんかえらいやかましいヤツが出てきやがったな? いろいろと厄介なものを載っけてやがるだろ、どいつもMSの装備よりも格上のヤツだな……!』

 ガイア機の観測機器による解析が進むにつれ、こちらのモニターの中の乱雑なフレーム表示もそれらしい形を整えていく。
 見た感じがバリバリの軍事衛星のそれは、機体の各部に強力な装備らしきを備えているのがこれまた一目瞭然だ。
 ガイヤが言っていたとおりのMSのそれよりも、むしろ戦艦にこそ搭載されているべきものだな!

 まことに厄介なこときわまりない。

 この俺も表情を苦めて現場のパイロットに注意喚起する。

「威力が強力だということは、当然この射程においてもあちらが上ということだ! 注意されたし、ガイア大尉! おそらくは拠点防衛用の攻撃衛星なのだろうが、今の単機ではバリバリ戦闘態勢でいきった駆逐艦に挑むのとそう大差もないだろう? どうする??」

 この期に及んでいささか間抜けながらそんな問いかけをしてしまうに、あちらからはさも呆れた顔つきでこちらを見返してくるガイア大尉どのだ。

『この手のヤツは通称でハリネズミとか言うんだよな? 確かに厄介な装備がてんこ盛りだが、あるのはあれ一機のみだろう。なら怖がることはありやしない! おまえ、このオレを誰だと思っている?』

 百戦錬磨のドムのパイロットがくれるただの強がりでもない自信に満ちた返答に、即座に了解してうなずく俺だ。

「了解! できる限りのサポートはする。ただし危うい場合は即座の撤退も勧告するからそのつもりでな? ちなみにこの正体はおおよそでわかったが、その背景がさっぱりわからん!」

 またも難しい表情で年齢柄の肥満による太い首周りを傾げてしまう俺に、あちらのヒゲづらは嫌気がさした表情でメットのバイザーを下ろしてしまう。

 通信終了か?

 だがおちおち考えるまでもなく、場が動いた。
 横で息をひそめていた若い兵卒たちがなおさら緊張して、目の前のモニターに釘付けとなる。できたらもっと参考になる意見なりを言ってほしいのだが、ほぼ新人に近いのだからはなから期待しても無駄なのか。あきらめかけたところでだが奇しくも新人のメカニックマンがこの口を開いた。

「敵衛星、攻撃再開! たぶん、多連装ポッドからのミサイルであります!! 一番機に向けて複数発射! 大尉どの! ただちに回避されたしであります!!」

「おっ、おおっ……!」

 オペレーターもさながらでいきなりそれらしいことを言い出すのを、ちょっとどっちらけて見るこのおじさんだったが、向こうの現場のおじさんはしっかりとこれに反応してくれた。

『言われなくてもやっている! ブリッジクルーでもないヤツが出しゃばるな!! 手持ちのバズで打ち落とすのはちと困難だが、こいつの機動力なら無難にやり過ごしてやれる!!』

 この時点ですでに身体に相当なGを掛けているらしい重MSのパイロットだ。アクセルペダルをぶち抜く勢いで自慢の愛機のリック・ドムを急速旋回させていた。
 そう、いかに追尾機能があるミサイルでも急な加速で旋回機動されればこれにぴたりと追いつくのは困難だろう。
 加速度はそのままで突き進むのだから、ミサイル自体が追尾できる角度にもレーダーの探知範囲にも限度がある。
 推進剤も無限ではないのだからな。

 都合、三発撃たれたミサイルはどれも初速が遅く、すっかりこの目標を見失っているものと思われたのだが……!

 突如、リック・ドムのコクピットに緊急を知らせるアラートが響いて敵ミサイルに変化があることが、こちらでもリアルタイムに知覚できる。三つあったはずの敵マークが激しく明滅を繰り返し、おまけにいくつにも分裂、その数を一気に増加!
 およそ倍どころじゃない勢いでだ。
 どうやら複数弾頭を備えた多弾頭ミサイルが、この内蔵した小型弾頭をガイア機めがけて盛大にぶちまけたらしい。
 数も知れない無数の矢印がガイアのリック・ドムへと殺到する。もはや完全に囲まれていた。


「くっ、こいつは……!」

 ほぞをかむ思いとはこのことか。
 よもやここまで厄介だったとは!

 本当に軍事拠点を防衛するかの勢いだが、何を守るんだ?
 
 その場の全員が目を見開いていただろう。
 急制動をかけてバックしたんじゃ間に合わないタイミングだ。
 その瞬間、鋭い舌打ちがしたのを聞き逃さない俺は、手に汗握ってモニターに声を上げていた。

「よけろっ、大尉!!」


『簡単に言うんじゃない! どうやって避けるんだよ? ええい、ふざけやがって! 多少の被弾は覚悟で突っ込むか??』

 息の荒い反発が鼓膜をしたたかに打つ。

 要するに破れかぶれでミサイルの嵐を突っ切って、本体の衛星に一発食らわしてやるってことだよな? この短絡オヤジめ!!

 かなりやばいことをどさまぎで抜かしてくれる隊長機に、この俺は愕然として返す言葉もなかったが、すぐ隣で顔を真っ赤に赤らめる黒い三連星推しのメカニックが再び声を張り上げた。


「……はっ! 大尉どのっ! 胸部の拡散粒子砲があるであります!! 収束率ゼロの最大解放、かつオートのフルバーストで三連射でありますっ!! 正面から突破できるでありますっっ!!」

「はっ、なんだ? 何を言っている!?」

 いきなりしゃべり始めたな!

 はじめちんぷんかんぷんで聞き返してしまうこの俺だが、正面のモニターをにらんだままのメカニック、デーミスはまるで気にもとめない。
 そんなあたふたするこちらをほっといて、だが当のドムのパイロットめは即座に理解したらしい。若いメカニックの若造の意見に四の五の言わずにただちに了解、即応する。


『! む、なるほど! その手があったな!! あんな字面だけ立派でそのクセに目くらまし程度にしかならないへなちょこ装備には頼る気がしないが、こいつら相手なら!!』

 MSドムの胴体(ボディ)の胸部あたりに一門装備された拡散型ビーム兵器――。

 その名も『拡散粒子砲』はその響きだけで言ったらかなりの決め技みたいに聞こえるが、実際はさほどの威力があるわけではなかった。
 言ってしまえばオマケみたいなもので、MS相手の決め手にはならず、実際は目くらましとして使用されることが大半だ。


 ただし今回のような小型のミサイル群が相手となるとてきめんにこの効果を発揮! メカニックが言うように短い間隔の三回連続の拡散ビームの斉射で、群がる矢印をまとめてはたき落としてガイア機の正面に突破口を切り開くのだった。

「で、でかしたっ、デーミス!! すごいじゃないか!!」

『やったのは俺だろう? ま、そいつの手柄でもあるが!』


 すぐ隣の新人くんに言ったのをまんざらでもなさげ、気分良さげに応じる隊長は、ミサイルの嵐を見事にかいくぐった先の空間を見据えながらにまた続ける。

『どうれ、しっかり捉えたぞ? また反撃される前に一発お見舞いしてやるが、かまわないよな? ……ちっ、外したか!』

 言いざま、自機の真正面に捉えた敵攻撃衛星めがけてドムのジャイアント・バズーカを斉射するガイアだが、すぐにも舌打ちして目つきを細める。いつに間にやらかまたメットのバイザーを上げていたから素顔が丸見えだ。

 はあん、どうやらしゃべる時は、バイザーを開けるクセがあるらしいな? このエースパイロットどのは!

「あいにくターゲットの衛星本体ではありませんが、この側面のミサイルポッドを撃破したものと思われます! 外された理由は、この衛星が自機の姿勢制御システムで機体を急旋回、本体への直接のダメージを辛くも避けたものと推測!!」

 ドムの搭載する観測機器類とメインカメラからの画像にかじりつく若いメカニックのデーミスが、即座に状況を解析!

 あれ、なんかコイツさっきからやけにしゃべるな?

 若干だけ気にかかりながらもおそらくはそのとおりなのだろうと了解しつつ、俺も俺なりにカメラの向こうのヒゲの隊長さんに言ってやる。

「長々と解説ご苦労! あともうひとつ言うならば、敵さんが体勢を変えてくれたからポッドの反対側に位置する近接戦闘用のバルカン砲の射線上からもまんまと外れてくれた! 畳がけるなら今だな!!」

 絶好のチャンスだと意気込むのだが、あいにくカメラの向こうの真顔のパイロットはあまり乗り気ではないらしい。

『まだ頭のビーム・キャノンがあるだろう? あれが一番厄介だ! 近づいて確実に一撃くれてやりたいところだが、この距離なら虎の子のバズでトドメもさしてやれるか……ん!!』

 さらにバズーカを見舞ってやるべく射撃体勢に入るガイアのドムの真正面、機体の姿勢の保持に苦労しているらしい衛星めが、この頭に装備したビームカノンらしきを身震いさせる。

 さては射撃の兆候か!?

 これに反射的に息を呑む俺たちの目の前で、思いも寄らない挙動を見せる敵攻撃衛星だ。てっきりビームで反撃と思わせて、これに反射的に身構えるガイアの表情が愕然となる。

『なんだっ、こついめっ、分離しやがったぞ! ビームの砲座だけが本体から外れて飛び出しやがった!! わけがわからんっ!!

 ちょっと泡を食ったさまの隊長にだがそれを冷静に見つめる俺である。果てはひどく納得してしきりとうなずくのだった。

「今どき分離式の砲座ぐらいなくもないだろう? むしろこれで納得がいった! はじめのザク隊が背後から攻撃を受けたのはこういうことだったんだな? 遠隔攻撃可能な軍事衛星か!」

『む? ああそうか、だったらこっちもそれなりに応戦させてもらう! もとよりクロスレンジで詰めてしまえばこちらのものだ、あとついでに……!!』

 言うなり間髪おかずで衛星本体に急接近するガイアのドムは、その右肩に装備したヒートブレードを空いた左手でスラリと抜くなりこれを真横に一閃させる!
 ただしそれは衛星本体を狙ったものではなく、その真上のもはや何もない空間であった。やや不可解に見るこの俺に、舌打ちまじりで言ってくれる当のドム隊隊長さまだ。

『ああん、手応えがねえな? 有線式の移動砲台ならエネルギーの供給と機体制御を兼ねた接続ラインを切っちまえばそれで終わりのはずだろう? 何もねえぞ!』

「ん、どういうことだ? まさか無線式? だがこの衛星自体はあくまで無人で放置された固定配置型のはずだろう?」

 ちょっと動揺してしまうおじさんたちに、この時、背後からは不意に凜とした涼やかな声が走る。それまで黙ってこの場を静観していた少佐が、ついにその口を開くのだった。

「ドレン! ……いや、無線式でないこともないだろう、可能性として? ならば分離した砲台自体は生きているものとして、標的が二つに分かれただけだ。とりあえず手近の衛星本体を停止、分かれた砲台は後からの対処でかまうまいさ……!」

 突如とした推しの背後からの的確な指示に慌てて迎合してしまうしがない一ファンであり下士官の俺に、あいにく反骨精神むき出しのヒゲづらパイロットがしかめ面で応じる。

「はっ、は! 了解であります、大尉っ!」

「ふん! 聞こえてら! だったらそうらよっ……どうだ?」

 一度は空しく空を斬ったしゃく熱のロングブレードを、再び一気に衛星の本体部めがけてざっくりと打ち下ろすガイアのリック・ドム! 片手でも楽々と衛星の装甲を貫いていた。
 デーミスから聞いた話じゃ、一番機は特に近接戦闘に特化した仕様でパワーがあるというが、まさしくだな。

 衛星の本体もその中心部に深々と突き刺さるのがこちらからもそのカメラ越しに見て取れた。これにより衛星自体の挙動もおおよそがピタリと停止するのが見て取れる。

 おそらくはこの中枢の制御システムをヒットしたのか?

 それでてっきり片が付いたかと思いきや、すぐ横のメカニックが甲高い声を発した。

 おいおい……!

「砲台、いまだ健在! 生きているであります!!」

 ただちに鳴り響く鋭い警告音と共に、ガイアのリック・ドムのほぼ背後からの反撃、白熱する強力なビームが斉射される。
 威力はほぼ駆逐艦のそれに相当するものと思われた。
 ただし本体から分離した単体での攻撃では射撃精度が劣るものなのか、どこかあさっての方角に射線が向いていたが、角度を補正、ただいまは次の二撃目へとチャージしているのだろう。


 絶妙な間がブリッジを覆う……!

 これにキャプテンシートに深くその身を落としていた我らが少佐、シャア・アズナブルがかすかに身じろぎして言うのだ。

「これは、におうな……! もはやこのわたしも出たほうがいいものか? ガイア大尉!」

 ともすれば今にもその腰を上げそうな言いようでだな?
 推しの出撃が目の当たりにできるのかと、俺は緊張してことの成り行きを見つめるばかりだが、あいにくでドムのやさぐれパイロットは真っ向から拒否の姿勢だ。

「余計なお世話だっ! それ、ざまあカンカン!!」


 わざと相手の攻撃を誘っていたのか?

 相手からの二撃目のビーム斉射と同時に機体を翻すガイアのリック・ドムは背後にした衛星本体にこのビームを直撃させる。
 言うなればまんまと相撃ちだが、これにより完全に衛星の機能を停止させるに至るのだった。
 中枢の制御システムが完全にダウンしたのが傍目にもそれとわかるほどの損傷度合い。復元は到底不可能だな。

 ああ、にも関わらず……!

「分離した砲台、いまだ健在であります!! しっかり動いているであります!! 位置を変えつつもさらに三度目の砲撃体勢、注意されたしでありますっ!!」

 デーミスの再三の注意喚起にカメラの向こうのヘルメットが口やかましく文句をがなり立てる。
 盛大にツバをまき散らして元気な中年だ。
 口の端が泡立ってやがる。
 どうやらバイザーにツバが飛ぶのがイヤでメットをオープンにしているようだな、このオヤジは?


『デーミス、おまえちょっと黙ってろ! ちいっ、あんな小さな的を射抜かなけりゃならんのか? そもそもなんで動いてやがる、あのビーム砲台は?? 本体はこうしてしっかりとつぶしてあるんだぞ!!』

「わからん! こっちが聞きたいくらいだ! どこかに操作している人間がいるのか、あるいはどこか遠方から遠隔操作されているのか……?」

 可能性としてはどちらも低いのだが、この時、またすぐ横合いの方から強い視線を感じてそちらに目を向ける俺だった。
 角度的にデーミスじゃないな? 今やすっかり前のめりで後頭部をさらしているメカニックくんだ。
 見るとそれまでずっと沈黙を守っていたはず操舵士のバルダのやつが、やたらな目ぢからでこの俺を見つめている。

 てか、にらんでるのか?

 何を言いたいのかさっぱりだが、図体でかいのに性格が無口でおとなしいこの若者ときたら、ひたすら無言で手元のディスプレイ類の一角を指し示す。
 はじめはてなと思う俺だが、無言のバルダは何ごとが必死に訴えているようだ。


 いや、おまえはもっとしゃべれよ! どんだけシャイなんだ?  

 内心でツッコミながら手元のディスプレイの表示を凝視する。 
 それでようやく理解ができた。

「……んっ、何かしら通信を傍受しているのか、ひょっとして? どこからか?? いや、バルダ、もっと早くに言えよ、あと言いたいことはちゃんと口に出せ!!」

「砲台停止、攻撃機動が解除された模様、熱源反応が低下してるであります! 加えて破壊された衛星から停戦信号らしきを感知したであります!!」


 とかく出しゃばりなメカニックからの早口の戦況報告にいよいよ愕然となる副艦長だ。

 てか、おまえのそれ、本来のオペレーターの役目を奪っているだろう? 連れてきたの失敗だったか??

 他のブリッジクルーからの突き上げみたいなのを予感しながら、苦い顔つきで考えを巡らせた挙げ句に路頭に迷う。

「衛星から? まだ生きているのか!? ん、おい、こいつは停戦というよりか、むしろ救難信号なんじゃないのか?? ええいわけがわからないぞっ!!」

『なら撃っていいか? めんどくせーから?』

「ちょっと待て! 今通信の内容をきちんと解析してもらうから! 少佐っ……!!」

 背後を振り返ると、すっくとシートから立ち上がったシャア少佐そのひとが、こくり、無言でただ深くうなずく。
 その単純な動作のたったひとつで、混乱しかけたこの俺とブリッジの空気が静かに落ち着きを取り戻す。
 これには内心で最敬礼で向き会うこのおじさんである。

 おおっ、さすがです! さすがすぎますっ、少佐!!

 結果、少佐の出撃を見送ることとなるこの俺、ドレンだった。



 シーン3
 


 その後、無口な航海士のバルダのさらなる指さしの指摘により、何もないはずのかの宙域の広範囲に
実はかなり高濃度のミノフスキー粒子が散布されていることが発覚……!

 現場のMSパイロットはとぼけていたが、どうやら勘づいていたみたいだな? あのヒゲづらガノタめ!

 それ故、本来は通信などできないはずのその先からのSOSの傍受に、騒然となるブリッジ・クルーたちであったのだが、その謎は聡明な我らがシャア少佐によりただちに解明されるに至る。

 少佐いわく――。

「大尉のリック・ドムにより破壊された例の守備衛星、この一部によくわからない見てくれのモジュールがあっただろう? わたしの推測するところによると、これはおそらくは強力な指向性を備えた光通信システムの中継機だな……!」

「光通信……? それはつまりは単純な光学パルスを通信に転用したものでありますか? いわゆるモールス信号のような?」

 少佐の言わんとするところを頭の中で懸命に整理整頓しながらの俺の返答に、我が敬愛する赤い君子はこくりとうなずく。

 良かった! 合ってたんだ!! 俺の勘!!

「うむ、原理としてはそれに近いな。さすがにもう少し高度に洗練された高速通信モジュールなのだろうが。無論デジタルだ。通常の条件下ならば、ミノフスキー粒子には可視光を阻害する性質はないものだからな? 強力なレーザー光の波長を応用した通信は、互いにこの光線を傍受できる範囲内であれば十分に可能なのだ。従ってあれと同じものが等間隔にミノフスキー粒子の散布されたこの宙域に無数に配置されているとすれば、いずこか任意の場所からこちらに通信を送ることは可能だろう」

「な、なるほど……!」

 額に冷や汗を浮かべて深くうなってしまう俺だ。
 少ない情報からこれほどまでに的確な予想を立てるその洞察力、感服するばかりの副艦長だが、そのすぐ横で若いヤツらがごちゃごちゃとやっているのにちょっとだけこの気をそがれる。

 どうやらデーミスがこの親分のドムの隊長と小声で掛け合いしているらしいが、バルダも目線で圧を掛けているようだ。
 こいつも額にじっとりと汗をかいている。

 あれ、なんかヤバいのか?

「あ、いやっ、大尉どのっ! ダメでありますっ、そんな勝手に? 通信システムのハッキングと同期はこちらの曹長どのができるとのことでありますがっ、ブリッジの許可なくは、え、バルダ曹長、もうやっているのでありますか??」

『だからデータをそっちに送っているだろう! おかげで通信感度がすこぶる良好だ。ノイズがなくなっただろう? モジュールと機体の距離が近ければこうやって通常回線でも介入できる! ある種の発明だな? それじゃさっさと先行するぞ!』

「あっ、え? だからダメでありますっ! 機体のチェックをさせてほしいでありますっ! 単機での戦闘行動はっ……!」

 何を勝手なことをやっているんだよ、おまえらは?

 白けたまなざしを向けるに、どうやらガイアのヤツが何がいるとも知れない厳戒宙域に突入しているらしい。
 勝手な自己の判断でだ。
 呆れて言葉も出ない俺だが、背後のキャプテンシートの少佐からの無言の視線が痛くて浮き足立ってしまう。

「ん、勝手に何をやっているんだ、おまえら? まずは状況の説明をしろ!!」

 チラチラと背後を見ながら言ってやるに、慌てふためいたメカニックのデーミスが青ざめた表情でこちらを振り返る。
 その横では操舵士のバルダがやけに険しい顔つきでコンソールのディスプレイを見つめていた。
 なんかイヤな気配を感じる俺だ。
 操舵士は本来の航路図表のディスプレイを凝視している。
 この俺の作戦指揮ブースの操作盤ではない、おのれの真正面にあるヤツだ。つまりは、このムサイの進路にも関わるような、何かしらがあるということなのか?

 この疑念を言葉にするよりも、やけにクリアな音声で遠くの戦闘宙域にいるはずのリック・ドムの一番機、ガイアからの音声が入ってきた。

『おいっ、聞いているか! ブリッジのやつら!! とんでもねえのが出てきやがったぞ? おい、デーミス、聞こえているか?』

「はっ、はい! 聞こえているでありますっ! 隣で中尉どのも聞き耳立てているであります!! それで大尉どのは、そちらは何がどうなされたのでありましょうかっ!?」

 即座に聞き返す若いメカニックに、ベテランのMSパイロットは呆れたようなさまで言葉をつなぐ。
 見れば当たり前のようにメットのバイザーをオープンにしていたから、その表情がまんまで見て取れた。
 よって両目を大きく見開かせるヒゲづらの中年パイロットだ。
 そいつがぶっきらぼうに言い放った。

 ちょっと信じがたいようなセリフをだ……!

 え??

 はじめ何のことだかさっぱりわからないできょとんとしてばかりの俺だった。

『見えるか? ちょっとでかすぎてこの09のカメラに収まりきらないが、この形状の一部だけでそいつが何だかわかるだろう? それこそが見たまんまだな! なあほら……!!』

 MS09、すなわちドムの隊長さんの言葉にうながされて子分のメカニックが目の前のディスプレイをのぞき込んで、すぐさまにその身をピキリと硬直させる。その横でおなじくこの状況を注視していた若い操舵士までもが、ごくりと生唾を飲むのが気配でわかった。
 真顔のデーミスが緊張に声を震わせながらに報告。

「こ、これはっ、大変であります! ドレン中尉どの、何もないと思われた宙域に、とんでもないものが出現してきたのでありますっ!!」

「とんでもないもの? なんだ一体? そもそもがこの宙域に、このムサイの進路に影響するようなものがあるはずが……!!」

 メカニックと一緒になってディスプレイをのぞき込む俺の全身が直後にはぴたりと硬直する。
 刹那、思考が真っ白になるおじさんだ。
 この時、遠くの宇宙ではおなじくおじさんの凄腕パイロットがどこかどっちらけたさまでうそぶいた。

『ありゃあ、どう見てもコロニー……だよな? ああ、そうだ、まんまガチガチのスペース・コロニーだ。植民地サイドでもなんでもないこんな野良の宇宙空間に……!』

 現場でまさにそのものを肉眼で見ている人間の言葉に、だがまだ信じられない思いの俺は、たぶん青ざめた表情で隣の航海士を見つめる。
 無口な若者は、おなじく緊張した面差しをこちらに向けて、ただ静かにこくりとうなずくのだった。

「……!」

 おいおい、冗談だろう??

 ドムのカメラが捉えている画像がこのムサイのブリッジのメインモニターにもでかでかと映されて、そこにはやはりあのおなじみの特大サイズのシルエットが、詰まるところで人類史上最大規模の人工建造物がこれまたでかでかと映し出される。

 でかすぎてその全容が見て取れないくらいのヤツがだな!

 こたびの戦争の戦禍にさらされて放棄された廃墟のコロニーなんかではなく、まんま現役のヤツだと遠目にも視認できた。

 まことにありえない光景だ……!

 ことここに至り、背後で静観を決め込んでいたはずの少佐がすっくと席から立ち上がる。
 その気配を背中にひしひしと感じ取る俺は、だがこの背後を振り返れないままに彼の言葉を聞くのだった。

「ドレン。わたしも出るぞ! このわたしが合流するまで大尉には現状維持を厳命しておけ。決して功を焦るなとな……?」

「は、はい?」

 どうやら赤い彗星の異名を持つ希代の英雄には、そこに他とは違う景色が見えているのかも知れない。
 ちょっと意外に聞いてしまうこの俺に、だが前のサブモニターからはオヤジの舌打ちが聞こえてくる。

『チッ……! キザ野郎が出てくるのか? だが悪いが現状維持はちと厳しいかもしれないぞ? なんたってここにはあのコロニー以外にも余計なものがありやがる』

「な、なんだ、何を言っている?」

 黒いメットの中で険しい顔つきをしたヒゲづらのぼやきに、それまでずっと沈黙を守っていた航海士のバルダがぼそりと言うのだった。

「います……!」

「?」

 おのずとゆっくりと視線を向ける俺に、ひどく真顔の航海士はギュッとみずからの操舵輪を握りしめる。

「感あり、おそらくは連邦の艦船……!」

 は、なんで!?

 ギョッとして聞かされる俺に、またしても現場のエース級がほざいてよこす。この声色がやけに冷たいあたり、余裕はあまりないことがいやが上にも聞き取れた。

『ふん、いつぞやとおなじ、マゼラン級とサラミス級だな……! コロニーがでかすぎてこの間にある豆粒みたいなの、すっかり見落としてただろう? あいにくで向こうさんのレーダーに引っかかってるみたいだ。索敵範囲はあちらが上だからな? ちなみにSOSってのは、どっちから発信されているんだ?』

「ば、バカ!! もっと早くに言えよ!? いや、あのコロニーと連邦とで小競り合いしているってことか? 状況からしてコロニー側から発信されたものなんだよな? どうして……少佐!!」

 内心混乱しながら背後を振り返ると、そこにはもぬけの殻となったキャプテンシートがある。
 彗星は身のこなしが素早い。
 そこからおよそ三分と経たずに出撃する少佐の06ザクⅡだ。
 かくて事態は風雲急を告げる急展開となる。


 再生計画 コロニーと難民 そして隠された真実と思惑

Scene1


 ブリッジ内に慌ただしくした警告音が響き渡る……!

 それはこの艦隊の総司令、シャア・アズナブル少佐の出撃時にだけ発される特別な警報だ。
 専用の赤いMSで出撃間際、少佐との会話は、何やら少し示唆に富むかのような、思わせぶりなものであった。
 俺は出撃シークエンスを一息にクリアして、今しも飛び立たんばかりのエースパイロットへ敬礼してこれを見送る。

「ご武運を! 新装したカタパルトシステムが早くも役に立ちましたな! ですがあちらはわからないことだらけですので……!」

 そのMS搭乗時であってもパイロットスーツを着込むことがない、日頃の赤い制服のままの青年将校は、その仮面に不敵な光をたたえつつ、おまけ口元には自信に満ちた微笑みまである。

 どこまでも華麗でおじさんの目にはまぶしいくらいだ。

『なに、おおよその考察はできるさ。ドレン、貴様も知っているとおり、コロニー公社が戦禍で破損したコロニーを再生するのに秘匿された宙域でこれを行っていることは、もはやもっぱらの噂だ……!』

「はあ、それは……! だとしたら、そこにこの我々がたまたま出くわしてしまったと? ですが連邦の戦艦は……」

 怪訝に首を傾げながらの返事にも、余裕の笑みを崩すことがない我らが赤い彗星だ……!

『再生されたコロニーはこの大戦による難民の受け皿も兼ねているらしい。確かに一石二鳥なのだろうが、それ以外の思惑もそこにはあったりするわけだ。往々にしてな……!』

「?」

『そう、まさしく実験場には打ってつけというわけだな? このわたしのにらんだとおりならば! 連邦に先を越されるわけにはいくまい。ドレン、大尉にはすぐに合流すると伝えておけ!』

「は、は!!」


 赤いMSが一筋の紅い航跡を残して艦から飛び立つ。
 大型のバックパックブースターをフルバーストで進軍するザクはわずか四分弱で目的の宙域へと到達していた。

 片や、当の混乱した宙域では、単機で孤立したガイアのリック・ドムが今しも連邦の艦船との戦闘を開始しようとしていた。

「た、たぶん大丈夫だと思われるであります!」

 目の前のコンソールをジロジロと必死になめ回しながらの若いメカニックのうめくようなOKに、俺はちょっといぶかしく聞き返してしまう。となりで同じく若い操舵士が緊迫した面持ちで後輩のメカニックくんの手元を見つめるが、あいにく畑違いの舵取りにはさっぱりわけがわからないだろう。

 そう。何を隠そう、この俺もさっぱりなのだから!

「本当か? とりあえず被弾はしていないはずだから不慮のマシントラブルさえなければ問題ないはずだが、弾薬とかは余裕あるのか?? スピード優先でメインのバズーカだけなんだろう」

 顔中汗だらけで振り返る思春期まっただ中の青年は、よく見たらこの顔がいたるところニキビだらけだな。
 ならこれ以上はニキビが増えないようにヘタなストレスは与えたくないのだが、スピーカー越しに当のドムのパイロットめがわんさとわめいてくれる。

『問題ない。コイツを整備したのは誰なんだ? デーミス、おまえだろう。もっとじぶんの腕に自信を持て。このオレはとっくに信用している。残弾なら予備弾倉がある。加えてヒートブレードの扱いならこのオレの右に出る者はいないんだぞ?』

 気持ちばかり若くしたかっこつけおじさんが、いけしゃあしゃあと抜かしてくれるのに若いヤツらは感銘を受けているらしい。
 が、あいにく年寄りのこちらはどこか冷めた眼差しでうさんくさく聞いてしまう。

 老害ってこういうことを言うのか?

「マッシュとオルテガの助けはいらないんだな? 今さらなんだが、弾倉の交換のタイミングを間違えたら蜂の巣だぞ! ならもう今のうちに交換しちまえよ、テキトーにぶっぱなして!!」

 背後の戦術オペレーターあたりが聞いたら露骨に眉をしかめそうなことをぶっちゃけてやるに、むしろ当のガイアが顔つきをしかめやがる。

『は? 悪いが無駄弾は撃たない主義なんだよ、このオレは。ふん、バズは戦艦を仕留めるのに温存しておきたいから、MSはあらかたブレードでぶった切ることになるな? このバズのどでかい銃口でこれ見よがしに牽制しながら! いわゆる心理戦てヤツだ。でかい獲物はこういう使い道もあるから便利だよな?』

 手元のレーダーじゃ今しも敵MS小隊が近づいているのを捉えてるくせに、内心の焦りをおくびにも出さない歴戦の猛者はでかい口を叩きたい放題だ。むしろすぐとなりの新人メカニックのデーミスが冷や汗びっしょりで見上げてくる。コンソールにひっしとしがみついてるから図体でかいくせに目線が上目遣いだ。

 落ち着け! それ以上汗かくとなおさらお肌が荒れるぞ?

 だいぶ切羽詰まった調子のセリフに重々しくうなずく俺だった。状況として芳しくはないが、絶望するほどではない。

「敵、MS六機! 量産機タイプの二個小隊であります……!」

「厳しいか? おまえの敬愛する黒い三連星のちからをもってしても?? ま、今はただの一連星、ヒトツボシなのか?」

『やかましい。貧弱なジムの二個小隊くらいこのオレひとりで釣りがくる! デーミス、おまえいつからオペレーターになったんだ? 小僧は黙って見ていろ。すぐに終わらせる……!』

 完全に囲まれておいてよくそんなでかい口がたたけるな?

 無駄ダマだなんて言わないで素直に一機でも叩き落としておけば良かったものを、単機で仁王立ちしてのんきに敵勢を待ち構える重MSの使い手に呆れまじりに言ってやった。

「おい、そうやって好き勝手にやらせてやれば、敵艦からの余計な援護射撃を食らわないでいいだろうって算段なのか? だがあいにくで敵さんはおまえよりも目の前のコロニーに気があるらしいから、そっちにはケツを向けたまんまだろ。いいから敵MSに集中しろよ! 少し時間を稼げば我らが少佐が駆けつけてくれるから、その時点で形成逆転だ!!」

『けっ、そんな都合良く星をゆずってやるものか! キザなボンボンに現場のたたき上げの底力を見せてやる。今さらロートルの06ごときに出番を譲ってやるほどお人好しじゃないんだよ』

「敵MS発砲! これは、なぶり殺しにするかのごとく距離を置いての間接攻撃でありますっ……!!」

「さすがにわかっているな? パワーと体格差があるドム相手の戦い方ってヤツを! 大尉、冗談は抜きにして時間稼ぎに専念すればいい、少佐はじきに到着するはずだっ……おいっ!?」

 にわかに緊迫するブリッジの空気をあざ笑うかにしたドム小隊隊長機の挙動だ。不意の急速旋回の後に一気に背後のロケットブースターを一斉点火! はじめに発砲してきた敵のジムめがけて頭から突撃!!

 そんな無茶苦茶な!?

 1対6ってのは連邦の白い悪魔とかいうバケモノのみがこなせるようなもので、現実には相当にシビアな戦力差だ。

 この周りをぐるりと囲まれてしまえば、常に誰かしらに背中をさらすことになるのだから?
 だがそれすらも計算ずくだったものらしい『星』の異名持ちは、およそ迷うこともなく操縦桿を片手に握ったままアクセルペダルをべた踏みだ。メットのバイザーを下ろした中ではどんな目で獲物を睨み付けているのやら?


『ほう、連邦のヤツらもいっちょまえにバズなんぞ持っているんだな? だが使い方がなってねえ、そういうデカブツは無駄に距離を置きすぎるとよけられやすいし、今みたいな乱戦や接近戦になっちまえばとたんに使い勝手が悪くなるんだよ!!』

 はじめから狙ってたんだな!

 数の有利にかまけて威嚇がてらに撃ってきたヤツにカウンターで反撃、慌てた相手は二撃目を放つもこの狙いがまるで定まらない。おかげで難なく敵の懐に潜り込むガイアの格闘戦特化型リック・ドムだ!


『馬鹿野郎が! さっさと邪魔なバズを放って肩のサーベルを構えやがれ!! 軽くて華奢なそいつじゃでかいお荷物抱えたまんまではまともに剣なんざ振れないだろうがっ、でないと……』

 既に肩から抜き出していた長いヒートブレードが、ギュルンと唸りを上げて横凪に一閃される!!
 それであっさりと敵のジムはこの上半身と下半身がおさらばしていた。チーズケーキをカットするくらいにすんなりとだ。
 直後に派手に爆散!
 その時にはとっくに回避機動に移っているガイアのドムは、次の獲物を求めて頭のモノアイをギラリと光らせる。

 一機撃墜!!

 もはや鬼神のごとき手さばきと烈火のごとき勢いだ。

『こうなっちまうんだぜ? 高い授業料だな! じゃあ次はどいつが教えてほしい? そこのバズ持ち! おまえの番だな!!』

 わざわざバイザーを上げて言いざま、今度はみずから狙いを付けて敵MSにケンカをふっかける暴れん坊だ。

 完全に一人舞台になりつつあったが、敵もそれなりに態勢を取り直してはいる。自機から見て一番遠くにいるバズーカ装備のジムに突進するリック・ドムを、ただ黙って見過ごしてはくれなかった。それぞれが黒いほうき星めがけてみずからの獲物の狙いを定め、やがてはトリガーを引き絞らんとする。
 傍で息を呑んで見守るデーミスが何事が言いかけたのと同時に、先手を打ってこれを黙らせる凄腕の隊長だ。

『わかってる! こうしろって言うんだろう? ほらよっ!!』

「このままじゃ蜂の巣にされるぞっ! 何をしているんだ? あれ、一発も当たらない??」


 まっすぐの直線軌道のさなかにこの身体をひねって横回転のスピンを加えるリック・ドムが、その胸部に備える拡散粒子砲を周囲に盛大にぶちまけたのを後になって思い当たる俺である。
 してやったりと言いたげなガイアのセリフがそれを裏付けた。

『……ククッ、まんまとだな? おかげでエネルギーゲージがゼロだが、こんなものこうでしか使わねえ、ありがとさんよ!』

 そうか、白熱するビームの拡散粒子でいわゆる目くらましを食らわせたのか! 攻撃力はなくとも敵の射線を逸らすのには十分だ。もうしばらく撃てないらしいが。

 二機目のジムは殊勝にも右肩のバズを放り出して左手にシールドと右手にサーベルを構えるが、頭部のバルカンで相手からの突進を牽制するくらいの冷静さは欲しかったか。
 シールドを機体の前面に構えて鉄壁のガードを装うが、ガイアの近接戦闘特化型のMSの威力をなめていたのが命とりだ。
 結果、サーベルを交えるまでもなくヒートソードのひと突きであっさりと盾ごとその胴体を貫かれていた。
 ドムの身の丈ほどもある長尺のソードは射程がサーベルの比ではないくらいに長いのだ。
 果たして一瞬のうちに味方を二機も失った敵部隊は、それでもろくも算を乱して混乱に陥る。

 およそろくな連携が取れていないな。

 運悪く隊長機でもやられちまったのか?

「よ、よしっ! うまいことこっちのペースだが……」

 だからってあまり距離を置かれるとむしろ敵艦のビーム砲を食らいそうだな? いや、もはやその心配もないものか??

 ここまで多勢に無勢を押し返されるとは夢にも思っていないのだろう駆逐艦を伴った巡洋艦は、むしろこの艦砲をあろうことかコロニーに向けて放つのだった。


 え、あいつら何をしているんだ!?

 仮にも正規の軍用艦が民間相手にあまりの乱暴狼藉ぶりに言葉もなくなる俺であったが、そんなものつゆほども気にしない根っからの乱暴者ががなる。バイザーが全開のメットの中でむき出しの表情が赤らんだ鬼みたいなヒゲおやじがツバを飛ばした。

『おおらっ、逃げてばかりいないでかかってきやがれっ! 連邦のへっぽこMSどもがっ、数があればいいってものじゃないんだよっ!! フォーメーションもまともに組めないのかっ!?』


 ノーマル兵装で片手のビームガンを連射するジムに、右肩に担いだジャイアント・バズーカの銃口だけで圧倒するガイアのドムは難なくソードの射程にまで肉薄する。
 そうして左手を大振りの一撃で敵勢を半減させるかと思いきや、突如と反射的に身を翻すリック・ドムだ。


『……ん! なんだっ? こいつは、まさか……もう来やがったのか!!』

 薄暗いコクピット内で周囲のディスプレイをじろりと眺め回すガイアの視線が、ある一点で険しく細められる。
 乾いた舌打ちが漏れ出た。
 聞き間違いじゃないな。
 ゴクリと生唾を飲み込むこの俺だ。
 気がつけばもう流れがガラリと変わっていた。
 その瞬間、激しいザクマシンガンの一斉射を背中から浴びて、ただちに爆発四散する敵MSだ。その直前のドムの不可解な動きは、つまりでこれを回避するためだったんだな?

 マシンガン! そう!! 

 紅い彗星、シャア・アズナブル参上の瞬間であった。

「少佐!!」

 これぞまさしく真打ち登場!!


 この寸前まで奮戦してたドム隊の隊長どのには悪いが、思わず目の前でガッツポーズを取るテンションハイな参謀のおじさん。 
 カメラ越しのヒゲづらはやけに心外そうだが、ことここに至り、勝利をはっきりと確信するこの副官、ドレンだ。

 そしてはじまる怒濤の快進撃!


 すべてが混沌とした宙域の戦いは、あっけないほどにあっさりとした決着を迎えるのだった……!!


 Scene2


「少佐!!」

 戦場に着くや否や電光石火の早業で早くも一機撃墜!

 その主役然とした華麗なる登場に、思わず声を上げてしまうこの俺、ドレンだ。

 赤い彗星とは良くも言ったもので、全身を赤くカラーリングされたザクⅡがスラリとした立ち姿を夜空に浮かべる。
 それはさながら一枚の絵画のごとき壮麗さで、見る者の心を打ち振るわせた。きっとこのおじさんだけじゃないだろう?

 うおお、めちゃくちゃカッコイイぞ、ザクなのに!!

 感動のあまり言葉も出なくなる俺だが、戦場でこれを間近に見るヒゲのおやじのパイロットは迷惑げに文句を垂れるのだった。

『余計なマネを! オレの獲物を横取りしやがったぞ? 旧式の06の分際で! 恥ずかしくねえのか、あの赤いザクってのは?』

「その旧式にまんまと星を横取りされるおまえのほうが間抜けなんだろう! 何はともあれ喜べよ? 星持ちの異名のパイロットがふたり、もはや鬼に金棒でこちらの勝ちは決まったようなもんだろうさ?」

 リック・ドムのコクピットで毒づくガイアにご機嫌なテンションでブリッジから突っ込む俺だが、この横で黒い三連星びいきのメカニックが口をとがらせた。

「えー、今のは十分に大尉どのが撃墜できたものと思われます! このじぶんにも横取りのように見えたのでありますがっ……」

 ブリッジの空気になじんできたのか、ブサイクづらで一人前に文句を言う新人くんだ。これにはちと苦笑いで返すこの副官だったが、遠くの大尉も気乗りしないさまでこれをいなす。

「そう言うな! こういうのは所詮は早い者勝ちだろうさ?」

『デーミス、余計なことを言うんじゃない。こっちがみじめになるだろう? というかおまえ、いい加減にデッキに戻れ……!』

 ほぼ自分付きの専属メカニックを黙らせてから改めてモニターを見上げる熟練パイロットだ。モニターの中で悠然とした一枚絵みたいな立ち姿を見せつける、赤いMSに改めて顔をしかめる。

『来なくてもいいものを……! このオレの取り分が減るだけだろう、残りは三機、あと戦艦が都合ふたつか……』

「あまりひとりで無理をしようとするなよ? せっかく少佐が駆けつけてくれたのだから、これとしっかりと連携して……!」

『御免こうむる! あんなすかしたキザ野郎とじゃまともなフォーメーションなんて組めやしねえだろう。何より旧型の06じゃ、この09に付いてはこれないだろうよ?』

 もういい加減にドムって言えよ、マジで面倒くさいから!

 好き勝手な言いようが独善的に過ぎる不良パイロットに、はじめ呆れて言葉に詰まるのだが、当の少佐みずからがこの通信に介入してくる。
 思わず敬礼してこれを聞いてしまう俺だった。
 果たしてこの口元の不敵な笑みを絶やさないカリスマは、余裕の有り余る口ぶりで歴戦の勇者に応じる。

 赤い彗星と黒い三連星の隊長格がいるってのは、これと対戦する相手側からしたらどんなものなんだろうな? かなり混乱しているらしい残りのジムのパイロットたちの心境をおもんばかってみるが、余計なお世話か。だが赤いザクが登場してからの敵の慌てふためきようはかなりあからさまだった。

 出だしの勢いのまま畳がけるでもない不動の専用ザクの内部で、思わせぶりなセリフをマイクに放つ戦場の赤いバラ。
 その挙動に視線が釘付けの俺には他にたとえようがなかった。

『フッ……! 大尉、このわたしと無理に歩調を合わせる必要はない。それほどの局面でもないのだからな? だがこのザクⅡを見くびっているのならば、そこには異論を唱えたいところではあるが……!』

 これには今や完全な引き立て役でしかない地味で貧相なヒゲおやじが憮然としてモニターを見上げる。見下ろす少佐は涼やかな眼差しを仮面の奥に隠したままにさらりと続けた。

『さて、ジオンはこの機体で幾多の戦局を勝ち抜いたことをあの連邦の後発MSたちに知らしめてくれようか、大尉も良く見ておくがいい。君たちの持つ異名もこの機体で勝ち得た名声だったはずなのだからな……!』

 かすかな沈黙……!

 次には怒濤の攻撃がはじまるのがたやすく予想されたが、かすかな舌打ちしてヒゲづら、もといリック・ドムのパイロットめがほざく。

『ケッ、キザなボンボン風情がいかにも知った風なことを! この09に付いてこれるならやってみろって話だ、むしろどれだけ凄いのやらとくと見させてもらおうか? うわさの赤い彗星の腕前とやらを、この黒い三連星のガイアを前にしてな!!』

 憎々しげに言いながらしっかりと少佐の専用ザクⅡをカメラの中央に据えるガイアだ。
 頭のツノからつま先までぴたりと収まる画角で固定……!
 見ている側としてはまことにありがたいが、それだとじぶんのMSの機動に問題があったりはしないか?と頭の片隅で疑問がよぎったりする。

 あれ、これってメインカメラの画像だよな? よそ見をしながら戦闘行動に入るのか? いくら少佐が気になるからって??

「大尉、まだ敵のMSは三機残っているんだよな? よそ見が過ぎやしないか、ちゃんと目の前に集中しろよ! そっちの少佐の絵面はもういいから!!」

『……もういいのか?』

 手元の小型モニターの中でバイザーを全開にしたオヤジがとぼけた調子で聞いてきやがるのに、なんか強烈な嫌味みたいなものを察して思わずがなる副艦長だ。

「いいに決まってるだろ! アイドルのコンサートじゃあるまいに? 少佐のひとり舞台なんか仕立ててどうするんだっ、おまえも仕事しろよ!! 素敵なカメラワークはもういいからっ!?」

『かぶりつきだな? どうせあそこらへんのはここからじゃ手が届かないから譲ってやってもいい。競争をしてるわけじゃなし、このオレもきっちりと仕事はするさ……ほら、はじまったぞ?』

 開き直った物言いがなんかどっちらけだな?

 おまけ何やらたぶんに含むところがある言いようでメインカメラの画像を少しだけ揺らすのに、思わず身を乗り出してブリッジのメインモニターに食い入る推し活おじさんだった。

 公私混同、他のブリッジクルーに会わす顔がないな……!

「どれどれっ? うおっ、画面がでかいから余計に迫力がありやがるなっ、少佐!! わおっ、さすがに早いっっ!!」

 ザクマシンガンを正面に構えたままのザクⅡが、余計な予備動作や機体の挙動にブレなど一切見せないままに急速発進!!
 疾風のごとき身のこなしで残る連邦の残党どもに襲いかかった。まずは手持ちのマシンガンの連射で敵MSの動きを封じつつぎりぎりまで接近、背後へ抜き去り際に左手に構えたヒートホークを素早く振り抜く!


 ブゥーーーン! ドッギャアァーーン!!

 がら空きの背中をばっさりと断つしゃく熱の刃だ。
 背中のメイン動力を破壊されたジムはただちに爆発炎上、だがこの時には少佐の赤いザクは既に次の獲物へと肉薄していた。

 速い!! どの瞬間もマックスの最高速で突き抜ける赤いザク!!

 動きにまるで無駄がないし、コース取りもブレることなく完璧だ。今となっては旧型の量産機が見違えるような目にもとまらぬキレッキレの直線鋭角的攻撃機動をブリッジの画面一杯に見せつけてくれた。
 編集なしでこの見応えはもはや異常だ!


 少佐、一生ついていきますっ!!

 さすがに他のクルーに聞かせるにははばかられるセリフは心の中だけで叫んで、この画像を間近で抑えているカメラクルー、ならぬMSのパイロットにうわずった声をあげる。

「すっ、凄いぞっ! じゃなくて、ガイア! おまえは何をしているんだ? とっとと……うお、もう二機目をターゲットに、今度は真正面から!?」

 言葉とは裏腹に大画面のモニターから目が離せない俺だ。

 同じ凄腕のパイロットだからこその強みなのか、完璧なカメラワークで赤いザクを中心にぴたりと据えたリック・ドムのメインカメラは少佐の描く芸術的高速機動の軌跡をありのまま克明に宇宙のキャンバスに描写する。
 戦場カメラマンなら引く手あまただな。
 退役後の身の振り方が見えた気がしたのは気のせいか。
 ともあれ必死に後退するジムめがけて問答無用のヒートホークの引導を叩きつけるザクは、確実に正確にこのコクピットを破壊していた。うおおっ……!

 早くも三機撃墜!!

 まさしく鬼神のごとき強さだ。
 ひたすら目を見張る俺に現場でこのさまを見つめる熟練の大尉は、ひゅう!と口笛ならしてあざけった賞賛を送る。
 ただちにメインカメラの画像を切り替えてどことも知れない宇宙の暗闇を捉えるリック・ドムのメイン画像だ。

 だいぶ遠くにほうほうの体で戦場を逃げ出していく敵MSがあったが、敵前逃亡は極刑ものだろうと怪しく見るこの俺にスピーカー越しにやさぐれたガイアの野郎が言ってくる。


『はん、コイツであいこだな? それ、ドン! このオレの狙いははなからもっとでかい星だ、悪いがいただかせてもらうぜ?』

 敵MSの背中を瞬時にロックオンした手持ちのバズーカの砲弾をリリースしたガイアは、これをもって撃墜を宣言。
 言いつつカメラの画像が急速に流れていくのに、怪訝に思う俺は思わずわめき返す。あまりにも性急なことの運びに内心で赤い警告ランプが点っていた。すぐこの側で流れを追っているデーミスや操舵士のバルダも同じ危惧を感じてはいたはずだ。

「お、おいっ、そんなろくにトドメを刺したかを確かめもせずに!? いくらバズーカの狙いが確かでも、これを撃破できるか絶対の確証なんてないんだぞ!!」

 通常なら相手機が大破したことをこれと視認した上でないと次の行動には移れないはずだ。この場合は!
 半ば非難めいた口ぶりとなるこちらに、いっかな悪びれるでもないベテランはぺろりと舌を出しやがった。
 メットの素顔をさらしたまんまだから丸わかりだ。

『心配ない! 万一に外したとしても、ここには一騎当千の赤い彗星さまがいるんだろう? だったら……!』

「それって……!」

 後始末は少佐に任せて、じぶんだけさっさとでかい獲物、つまりは連邦の戦艦を仕留めに走るってことか? なんてヤツ!!

 スタンドプレーが著しいわがままな部下にも落ち着き払ったさまの少佐は、しごく納得のいったさまで肩をすくめさせる。

『これは……してやられたな? まあそちらは大尉に任せてもいい。わたしもわたしなり、この場においては大きな釣果を狙ってはいるものだからな……!』

『はあん、そいつはどうも、ありがとうよ! もったいつけた言いようがいちいちかんに障るが、言わせてやるさ? その代わりに戦艦キラーの誉れはこの黒い三連星がいただかせてもらう! マゼランもサラミスもコイツの餌食にしてな!!』

「欲張り過ぎだろう!! 相手はとんでもない勢いで弾幕張りまくってるぞ!? 単機では無理だ! なんだっ、バルダ?」


 少なからぬ危機感と共に声を荒げる俺に、横からちょんちょんと操舵士の若いのがこの肩口をつついてくる。その表情から察するに、どうやら様子が変だと言いたいものらしい。

「あ、あのっ……!!」

 そう、普段から船の舵取りをしているバルダからすると、連邦の艦がガイアの猛追撃を受けていながらこの進路をいまだ転進しないこと、劣勢に立たされた自軍のMS部隊がSOSを発信(していたと思われる)するのを最期まで無視し続けたこと。
 そして今やただ闇雲に弾薬を何もない虚空にばらまいていることがとても不審に映るのらしい。


 ヤツらは果たして誰を相手にしているのか……?

 いやはや、この目を見ただけでここまで読み解けるこの俺は、部下に対しての理解力が半端ないな!

「まさか、あのコロニー以外にも、ここには何かがあるってことなのか? 一体、何が……!?」

 混乱しながら必至に考えを巡らせる俺の耳元に、不意に回線越しの乾いた息が吹きかかる。ヒゲのオヤジの口から発せられたそれは、何やらひどい驚愕の色を帯びてこの耳朶に絡みついた。

『んっ、なんだ、コイツはっ……!?』

 でかい獲物を眼前にしたガイアの目論見はもろくも崩れ去る。
 ただならぬ緊張感が走る中、自身の愛機のコクピットで少佐がかすかに身じろぎする。

 その冷たき仮面の視線の先に映るものは何か?

 勝利を目前、思いも寄らない事態に直面する、この俺たちなのであった……!!